ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ックス

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匿名ユーザー

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頭が痛い。
ルイズは鈍い頭痛を感じて目を覚ました。
体も痛い。節々が痛む。腕が痛い、足が痛い、背中が痛い。何でこんなに痛むのよ!
やんなっちゃうわ、全く…それにしてもここどこかしら?
よっこらせと体を起こし、痛む肩を解しつつ周りを見る。どうやらここは礼拝堂の様だ。天井は高く、窓には大きなステンドグラスがはまっている。
そして自分は木製の長イスに座っている。後ろに十列、前に二十列ぐらいイスが続いている、丁度礼拝堂の出入り口に近いイスに寝ていたのだ。
なるほど、固い長イスに寝てればあっちこっち痛むわね。でもなんでこんな所に寝てたのかしら?
イスに座ったまま首を捻る。
……思い出せないわ。うーん…。それに何だか喉が痛い。
ヒリヒリするわ。この感じはまるで…飲みすぎた時の…
…そうあの召喚の次の日の朝の様に……。

人生であれほど惨めな日は無かったわ。あの日のために何度も何度もサモン・サーヴァントについて予習をした。
今までトリステイン魔法学院で呼び出された使い魔を全て覚えた。国内で召喚された平均的な使い魔の飼育法を50種類暗記した。
だけど何も呼び出せなかったわ…。
何度も何度も爆発が起きて、そのたびに土埃を、周りの同級生からの罵倒を、全身に浴びて、それでも…それでも努力したものは必ず報われると信じて頑張ったわ。
でも駄目だった…。途中から爆発さえ起こらなくなって、でも何ども呪文を唱えなおしたし、色々変えて試したりもした。でも駄目だったわ…。
皆を先に教室に行かせて、コルベール先生は態々私と歩いて一緒に教室まで戻ってくれたけど、何の慰めにもならなかった。
次の日私がどうなるかは判りきっていた。凄く惨めだった。家族にどんな顔で会えばいいんだろう?いつも私に難癖つけるツェルプストーでさえ、もはや眼中に無いという態度で私を無視した。
耐えられなかった。だから飲んだ。ひたすら飲んだ。コック長を脅して強い酒をありったけださせたわ。次の日の朝は酷い頭痛と喉の痛みを感じたわ。
そして私の退学を告げに来る教師がいつ部屋来るかとビクビクしていた。
だけど違った。コルベール先生が私の味方をしてくれたの。
曰く「サモンの呪文が出来なくなったのは、既に小さな使い魔を召喚していたからだ」と。
確かに、私の爆発のせいであたりに土埃が立ち込めていた。カエルやトカゲやムシの類を呼び出したのだとしたら、見えなかった可能性がある。
だけど殆どの教師は単なる召喚失敗だと決めつけた。サモンを連続でやった為魔力がなくなったのだろうと。
もし既に使い魔を召喚しているのなら、今日もう一度サモン・サーヴァントをやってみろ、と言われた。召喚の日に小動物を召喚しているのなら、今召喚の呪文を唱えても爆発しない、という訳だ。
コルベール先生はこれにも反対した。曰く召喚の儀式は神聖な物なので、やり直しは出来ないという。私を助けてくれようとしたのだが、話はこじれにこじれた。
最終的には進級派と退学派で教師陣が真っ二つに割れてしまった。だがコルベール先生と、何故か味方してくれたギトー先生の強い要望もあり、私の処遇は保留となった。
最初はその事を喜んだが、同級生たちが使い魔を連れて歩く中、たった一人で歩く私の気持ちは更に悲惨な物になった。

そんな中、土くれのフーケが学院の宝物庫を襲撃して破壊の杖を盗み出した。
これはチャンスだ!天が私に与えたチャンスなのよ!そう思った。
今こそ名誉挽回の時だ!とフーケ討伐を志願した。だがコルベール先生とギトー先生に強く反対され、その願いは適わなかった。
使い魔すら持てない私に討伐の任が与えられる訳が無かったのだ。
その後フーケはギトー先生の偏在が捕まえたらしい。正体はオールドオスマンが不用意に雇った秘書だそうだが、私には関係ない。
結局私は使い魔すら持てないゼロ以下のままだったのだ。
自殺を考えた事もあった。自分の顔に錬金を掛けてやろうかと思ったり、備品室の毒薬を眺めていたり、首をつったら苦しいのかな?と考えたりしていた。
しかし出来なかった。良いのか悪いのか、常に私に重圧として圧し掛かっていた家名が、自殺と言う貴族として恥ずべき行為を思いとどまらせた。
自殺する事より、今生きている方が恥なのではないか?と思い始めたある日、私の幼馴染であり、時期トリステイン国王になるであろうアンリエッタ王女が学院にやって来た。
最初私はアンの顔を直接見ることさえ出来なかった。あまりにも自分が卑しいものだと思えて仕方が無かった。
それにきっと私の事なんか忘れているだろう。そう考えていた。
その考えは間違っていた!夜になり、何と姫殿下がお忍びで私の寮の部屋に御出下さったのだ。
そこで私は、可哀相な幼馴染がゲルマニアの王と婚姻を結ぶと言う悲劇と、それを邪魔する手紙の存在を聞かされた。
さらに姫はその手紙を私に取り戻して来て欲しいと仰せになられた!
学院に来てから、いえ、生まれてからこれほど嬉しいと思った事はないわ!ゼロと呼ばれた私が、アンリエッタ殿下から直々に命を受けるなんて!!
その日の夜はあまりの興奮で睡眠薬が必要だと思えるほどだった。翌々考えると、アンは私の家名を必要としたのだと思う。
翌日、私が出立しようとしていた時グリフォン隊の隊長で、私の婚約者でもあるワルド様が来て下さった。アンリエッタ殿下から私を守るように命じられたと言う。
やはり、私の存在はアルビオン王家に対して礼を失さぬための飾りなのだろう。何の実績もない私が重要な任務に就く理由はそれしかないのだから。
それでもやはり私は嬉しかった。何かの、誰かの、そして国の役に立てる!それだけで私の心は弾んでいた。
…ラ・ロシェールに着くまでは。
町に着くとそこにはあの忌々しいツェルプストーとその腰巾着が居た。
あら~、偶然ね~とか言っていたが、おおかたワルド様を見て我が物にしようとつけて来たに違いない!でも残念でした!ワルド様は私の婚約者でした!!
それにその夜に正式なプロポーズを…。

あッ!…思い出したわ!…ここがどこだか。
あの忌々しいツェルプストーとは次の日の夜、賊の集団に襲われた時に別れて、そして船に乗って、海賊が襲ってきて、それがウェールズ殿下でそしてワルド様が式を挙げようと…
そうだわ!それで私どうすればいいのか判らなくて…昨日はワインを沢山飲んじゃって…
なるほど、道理で頭がガンガンして喉が痛い筈だわ。
だけど、何で礼拝堂に誰も居ないのかしら?確かここで式を挙げる事になって……あら?

ルイズが前に目を向けると、最前列のイスに誰かが座っている。ヴァージンロードの直ぐ横の場所だ。何でさっきは気づかなかったんだろう?
最初長髪なので女性かと思ったが、それにしては体格がいい。翌々目を凝らして見ると…。
「ワルド様!?」
思わず立ち上がって叫ぶように言った。
それは帽子を脱いだワルドだった。
結婚式の当日、新郎が礼拝堂に居るのは不思議ではない。だがその後ろ姿が、ガックリと肩を落としうつむいている姿が、ルイズを不安にさせた。
まさか…私との結婚を考え直していらっしゃる…?
「ワルド様…?どうなさったんですか?」
恐る恐る声を掛ける。ワルドの返事は無い。
ルイズはワルドの方へヴァージンロードを歩いていく。
「あの…ワルド様?」
やはり返事は無い。自分の膝を見つめるようにうつむいたままだ。
何かを読んでるのかしら?ルイズの方からは膝に何が乗っているのか、イスの背もたれが邪魔で見えなかったが、ワルドの座っている場所が、礼拝堂の中で一番明るいステンドグラスの前の部分なのでそう思ったのだ。
もしかすると、結婚についての書物を読んでらっしゃるのかも…その後の生活についての事も…。
その後の事を考えて途端に気恥ずかしくなるルイズ。やっぱりまだ早いと言うか、その…お母様に聞いて置きたいことも色々あるし…。
そうよ!婚約者同士なんだし今ここで急いで結婚する必要は無いわ!やっぱり帰ってからにしましょう。ウェールズ殿下もわかった下さるわ!
「ワルド様、やっぱりその…………!!」
ルイズはワルドに、今は結婚を望まぬことを言おうとした。
そのためワルドの背後に近づいていた。
そして見えた。
ワルドが膝の上の『何を』見つめていたのか、が。
「何よ…これは!?
何なのよこれは!!
本なんかじゃあ無く…これは!!
ワルド様が見つめていた物は…!!ちくしょう!!これはッ!!!!」

ワルドは抱えるように持っている。少女の体を。
ワルドは静かに見つめていた。その顔を。
ルイズにとって馴染み深い、その顔を。
ただ一点、その少女の胸には、まるで赤い薔薇をつけているかの様な、真っ赤な穴が開いていた。
「そうよ!これは…!!喉が痛かったんじゃあ無いわ!!…そうよ私の胸には!!クソ!!胸には…!肺には!!穴が開いていたのよ!!」
ルイズは叫ぶ。その口から、胸からガボガボと血が噴出して床に落ちる。それにも構わず叫び続ける。
「私は既に言っていた!!式の取り止めを!!!そして…!!そして私の体は!!!このクソ野郎に!!!」

ワルドは静かに見つめていた。自分の小さな婚約者を。血の気が失せて尚愛らしく美しいその顔を。自分が何を思って見つめているのか判らない。
自分の崇高な目的の前には邪魔になるだけの、取るに足らぬ娘だったのだ。だが…他の者に、小さなこの体が蹂躙される前に、どこかに自分の手で埋葬しよう。
そう思っていた。
その前に、この水のルビーは回収させてもらう。ルイズの小さな手から指輪を抜こうと動いた瞬間。
「はッ!」
風の微妙な動きで背後に気配を感じた。
しまった!ルイズを抱えている今の状態ではッ!と顔を庇うように腕を上げ、後ろを振り返る。
「…誰も居ない…?」
次の瞬間、目の前の自分の右腕からブシューッと血が噴出し、メリメリと音を立て引きちぎられていく。
「うわあああああああああああああッ!!!」
悲鳴をあげ、礼拝堂の真ん中へ転がるように逃げるワルド。
「なッ!何なんだああああああッ!!」
傷口を押さえ、痛みに耐えるその視線の先で、千切られた右手が何者かに咀嚼されて消えてく。
「ま…まさかッ!……ルイズなのか!?」
血に濡れて浮かび上がったその顔は、見間違えるはずも無い、先ほどまで眺めていた婚約者の顔だった。
「こ…これが!これが虚無の力だというのかッ!!こんなッ!!死せる者を蘇らせるだけでなくッ!!!死んだ自分自身までも!!!」
だが!と、
残った左手で杖を抜く。
「ボクはここで死ぬわけにはいかない…!!」
ルイズまでの距離は約5メイル。戦って勝てるかどうかは判らない。ならば退くのだ!
閃光の二つ名をもつこの私なら、ルイズが一歩近づくまでにフライを詠唱を完成させ………!!
突然、ワルドの胸から盛大に血が噴出した。

「なんだってぇぇぇ!!」
何が起きたんだ?!馬鹿な!ルイズはまだ4メイル先にいるというのに…!
自分の胸から噴出していく血を浴びて、目の前に浮かび上がってくる姿があった。
「き、貴様は……ウェールズッ!」
ウェールズのエア・ニードルが、ワルドの胸を貫いたのだった。

「ねえルイズ…ボクの可愛いルイズ…?まだ怒ってるのかい?」
ニューカッスル城の庭をルイズは歩いている。さっきからご機嫌を取ろうと必死についてくるワルド。
「何度も謝ってるじゃあないか、本当に悪かったと思ってるよ」
黙って大またに歩くルイズの後ろで、大きく身振り手振りを付けて話している。
「だからビックリしたんだって…君が突然襲い掛かってくるから、だから…うっかり君の遺体を床に落としてしまったんだよ……。本当は落とすつもりはなかったんだ…。本当さ!」
「ワルド子爵…。いい加減諦めたらいいんじゃないかな?」とウェールズ。「謝る内容も違うしね」
「…やっぱり殺してしまった事を怒っているのかい?ルイズ」
「……もういいわよ」と立ち止まって機嫌悪そうに呟くルイズ。「むしろ…死んだら何だかスッキリしたわ。自分が召喚の儀式の日に呼び出した能力も、判ったし」
「喜んでもらえたのかい?!」
「空気を読むとか以前の問題だよ、子爵。ついでに先の無い右腕を振り回すのは不気味でしょうがない。それで…ミス・ヴァリエール。今後どうするつもりかな?」
黙って庭園を…いや、庭園であった場所を見渡すルイズ。死屍累々と膨大な数の兵士達が倒れている。その大半は体の一部を何かに食いちぎられていた。
「そうね…」腰に手を当てながら言う。「死んだら家柄とか貴族とかどうでも良くなったけど……」
「けど?」とウェールズ。
「先ずは胸の穴を何とかしましょう。三人ともポッカリ穴が開いてるのは、マヌケ過ぎるわ」
「そうかな?」自分の胸を見ながら呟くワルド。「お揃いでボクは嬉しいけど」
それを無視して、「私の体は?」とウェールズに聞くルイズ。
「父が固定化して安全な場所に保管している筈だよ」
「じゃあ、先ずはあっちの体の傷をふさいで、こっちの傷が埋まるか試して見ましょう」
「賛成!」と先の無い右腕を上げるワルド。
「それから後は?」
「まあ、死んでしまった訳だし、折角だから…」ニヤリと笑うルイズ。
周りに散らばる死体から、見えない兵士が立ち上がって行く。
「この大陸一つ、私の墓標にしてみましょうか」

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