ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔波紋疾走-3

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匿名ユーザー

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「じゃあ、このハルキゲニア…」
「違う!ハルケギニア!もう、何度言ったら覚えるのよ!」
ルイズの苛立つ姿を見たジョナサンの脳裏に、ラテン語の格変化で父親に散々しごかれた子供時代の思い出がよぎる。
窓からは月の光が淡く差し込み、卓上の魔法灯の明かりと共に部屋の中をほの明るく照らしている。
この時間になるまでルイズとジョナサンは互いの情報交換に忙しかった。
ルイズは端っからジョナサンがどこかの辺境から来た平民、つまり魔法を使えない人間だと信じ込んでおり、
そもそも彼女の知らない別世界から召喚されたという事実なぞ思うよしも無かった。
一方ジョナサンは二つの月が昇るのに面食らい、カーター某なる男が死後に火星の二つの月の下で大冒険を
繰り広げる話を思い出して、ここは火星のどのあたりかと聞いてみたが、返答は「どこそれ、あんたの国?」と
ごく簡単なものだった。
双方の誤解を解くための説明や無駄な遠回り、はたまた時には口論の末、ようやく二人は
1:ジョナサンが今いるのはハルケギニアという魔法が存在する世界である
2:ジョナサンが来たのは19世紀のイギリス、但しアメリカへの連絡船の中で死んだはずである
3:ジョナサンはどういう訳かルイズの使い魔として召喚された
という共通した認識を持つに至った。

「…ハルケギニアに召喚された僕は、使い魔として何をすればいいのかな?」
先程までの激昂ぶりが嘘のように、ジョナサンは落ち着きを取り戻して椅子に座っている。
結局先程のキスは子馬や何かの鼻面にしてやるような、いわば動物とのスキンシップが儀式の一環として
組み込まれているだけの話で、要するに人間が召喚された場合を想定してなかったがために
ややこしい事態になっただけだと分かると、納得はいかないまでも淫らがましい行為ではないと思えるようになった。
「まず一つ目に、使い魔は主人の目と耳になるの。使い魔の見聞きした事は主人も見聞きできるはず…」
ベッドの上に座るルイズが精神集中するように目を閉じる。
「…なんだけど無理みたい」
ルイズも最初のうちこそジョナサンの剣幕とその後の変貌ぶりに驚いていたが、自分がファーストキスを交わした相手が
自分と同じような後ろめたさを感じていること、また冷静な状態なら(いささか田舎臭いものの)それなりに
礼儀作法をわきまえていると知り、これまた納得はいかないが安心はできた。
「二つ目は秘薬の材料を探してくれる…んだけど、あんたじゃ無理そうね」
「残念だけれどその通りだな」
「最後にご主人様を守る。ある意味これが一番大事よね」
ルイズはジョナサンに歩み寄り、周囲を回りながらじろじろと観察する。
「…結構いい体つきしてるわね」
「ラグビーをやっていたからね。革で出来た紡錘形のボールを蹴ったり持って走ったりしてゴールに入れる競技だよ」
「ふうん…ま、小間使いぐらいは勤まるかしらね」
あふ、とルイズが欠伸を噛み殺す。
「さすがに遅くなってしまったな。もう休むべきだ」
気付いてジョナサンは立ち上がり、
「それで、僕のベッドはどこだい?」
ルイズが指差した物を見て我が目を疑った。
毛布が一枚椅子の背に掛かっているだけ。つまりこれをかぶって適当な所で寝ろ、ということらしい。
「…また僕を侮辱するつもりか?」
「ち、違うわよ!そもそも部屋の中で寝られるだけ有難いと思いなさい!普通だったら大型の使い魔は外で寝てるのよ!
 それに急だったからベッドの予備なんて無いわよ!第一使い魔なのにベッドで寝るなんてありえない!」
言ってからしまった、とルイズは顔をしかめる。
いい加減眠くなってきたのにまた口喧嘩を始めてしまい、これでまた時間を取られるのはごめんだ。
「うん…それもそうだ。ベッドが用意できるまでは仕方ないな。レディのベッドを取る訳にも行かないし」
ジョナサンは意外にあっさり折れ、椅子に戻ると毛布を羽織る。
ルイズは内心胸を撫で下ろし、いつものように制服を脱ぎ始め、
「…僕が君の立場なら、もう少し恥じらいというものを持っているはずだけれどね」
ジョナサンの非難めいた声に慌ててクローゼットの戸を大きく広げ、
「わ、分かってるわよ!つい今までの癖が出ちゃっただけよ!さっさと寝なさいよ!」
それを衝立代わりに着替えを済ませる。
下着に手を掛け、
(洗って貰おうと思ったけど明日の朝言えばいいわね。もう面倒は沢山)
普段通り足元の洗濯物かごに放り込んで、ベッドに潜り込んで魔法灯を消す。
(でもあいつ、ベッドで寝るなんて言ったわよね…まだ誰がご主人様か分かってないんじゃないの?)

ジョナサンは目を閉じ、背を向けたまま、ルイズがベッドに入ってすぐ寝息を立てるのを聞いていた。
(世間知らずで我がままってだけじゃない、無防備だ…警戒心が無いのか?それとも貴族としての自負の表れか?)
波紋の呼吸に意識を集中、心の雑念を振り払う。
(…何としてでもエリナに僕が生きていると伝えたい…出来ればエリナの許に帰りたい…)
肺の空気を残らず吐き出し、血液のビートを全身で感じる。
(ここは魔法学園だと言っていたな。教員ならば元の世界に戻る方法を知っているだろうか?)
ゆっくりと空気を吸い込み、全身の細胞から血流に乗って運ばれる波紋エネルギーを背骨に沿って束ねる。
(どちらにしても明日からだ)
残らず吐き出す。
ゆっくりと吸い込む。
吐き出す。
吸い込む。
(…そういえばあの娘、さっき小間使いがどうとか言ってなかったか?)

主人と使い魔の間にある理解の壁は、まだ高く厚かった。


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