ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

几帳面な使い魔-6

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形兆は一人で教室の片付けをしていた。それも全力で。
一人なのはルイズに押し付けられたからではない、彼なりの準備だ。
こうすることである程度の『時間』を手に入れる。
その時間で食料と情報、二つの問題を解決する。
それが形兆の脱走準備だった。

そのためにはまずルイズに怪しまれてはならないのだが、
これは簡単だった。
「ご主人様の手を煩わせることも無いでしょう。私一人でやります」
そう言うだけであっさり形兆一人に任せた。
今まで反抗的な態度をとらずにいたことがここで役に立つ。

そして手を抜いて後で叱られるのもいけない。
これに関しては何も言われないことが望ましいからだ。

なるべく早く綺麗にする。そうすれば時間は多く取れる。
故に形兆は全力で掃除をしていた。

「ふう、これくらいで良いか」
形兆がそういった時には教室は元の状態に、いや元以上に綺麗になっていた。
机はミリ単位で正確に並べられ、窓ガラスもそこにあるのか分からないほど綺麗になっていた。
なんというか『キラキラ~』というようなエフェクトがかけられている様にも見える。
形兆が満足そうに笑い、振り向いた瞬間。

驚いているシエスタを見つけた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは。それはそうといつからいたんだ?」
シエスタは驚きの表情をしたまま
「たった今です」
と答えた。そしてそのまま教室を見回し、
「これ、形兆さんがやったんですか?」
と聞いてきた。
「そうだが?」
「す、凄いですね」

その瞬間、形兆の腹が鳴った。
自分が空腹であることを思い出し、
「そういえば、どこか食事が出来るところを知らないか?」
と尋ねた。


そして厨房に案内される。
シエスタが賄い食で良ければ厨房の支配者に交渉してみる、と言ってくれたからだ。
交渉の結果、形兆は厨房のマルトー親父に気に入られ、これから先、食事の心配は無くなった。

形兆が半分ほど食べ終えたところでシエスタが席を立つ、デザートを運びにいくらしい。
「ありがとう。何か手伝えそうなことがあったら言ってくれ」
形兆は最後に礼を言う。
「いえいえ、お気になさらず」
そういってシエスタは去っていった。

形兆は食べ終え、厨房の人たちに礼を言ってから厨房を出る。
これからは情報を集めるつもりだったがその必要は無くなった。
厨房の人たちと知り合いになれたため、彼らから聞けることと、ルイズに聞けることをあわせれば良い。
そう考えたためだ。
もともと午後は調べ物をして、ルイズには道に迷ったと言い訳するつもりだったのだ。
しかしこれをするとルイズは怒るだろう。
問題は片付いたのだし、必要以上に怒らせるのは得策とはいえない。
さっさとルイズに合流して機嫌を損ねないようにしよう。
そう思いルイズがいるであろう食堂へ向かった。

だがルイズはいなかった。
もう一度ルイズを探して辺りを見回そうとした時、
「なあ、ギーシュ!お前、今は誰とつきあっているんだよ!」
「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」
金色の巻き髪にフリルのついたシャツ、薔薇をシャツのポケットに挿している男、ギーシュと言うらしい、
が周りの連中に質問されているのを見つけた。
形兆は別にルイズとすぐに合流したいわけではない(むしろ遅いほうが良い)ので、時間つぶしに眺めることにした。

ギーシュはその質問に
「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
そんな風に答えた。
その時、シエスタがギーシュに近づき、何かを渡す。
「あの、落し物ですよ」

ギーシュはそれに答えない。答えたのは周りの友人たちだった。
「その香水はモンモランシーの香水じゃないか?」
「そうだ!その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のために調合している香水だぞ!」
「つまり…お前は今『モンモランシーとつきあっている』……違うか?」
「違うよ。全然違うよ」
ギーシュがそう言いったとき、茶色いマントの少女がギーシュの近くにやってきた。
「ギーシュさま……やはり……」
「全然違うよ。モンモランシーとは全く関係ないよ」
その少女は、ギーシュの頬に平手打ちを叩き込んだ。
「さようなら!」
そういって食堂を出て行った。

すると、別の女の子がやってきた。巻き髪で黒いマントを着ている。
「全く違うよ。ちょっと仲は良かったと思うよ。でもこれは二股じゃないよ」
そしてワインのビンを掴み、そのままギーシュを殴りつけた。
「うそつき!」
そういって食堂を出て行った。

ギーシュは芝居がかった動作で頭から流れてきた血を拭きながら言った。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

そしてシエスタに向かって言う。
「君が軽率に香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
シエスタは何も言えず、怯えている。
「いいかい?君が香水のビンを置いたとき、知らないふりをしたじゃないか。
話を合わせるぐらいの機転があってもいいだろう?」
「え……でも」
シエスタは目に涙を浮かべながら何か言おうとする。
「口答えするのかい?」

―――どこかで同じような光景を見た。
どうあっても抗えないくらい力の差がある相手に一方的に殴られる子供。
昔から自分はそいつを庇っていた。


そして、気がついた時には右手を前に突き出していた。
椅子から落ちて倒れているギーシュ。
目を見開いて自分を見ているシエスタ。
何が起こったのか理解できてない周りの連中。

自分がギーシュを殴ったことに気づく。
ヤバイことをした。だが後悔は無い。
こんなゲス野郎を殴るくらいならいいだろう。そう考えながら右手を下ろした。

ギーシュが立ち上がり、こちらをにらみつける。べつに防御力は下がらない。
「君……いい度胸だね」
「……」
「貴族に手を上げるということは、即処刑されても文句は言えないのだが…」
「……」
「君はミス・ヴァリエールの使い魔だ。特別に決闘で決着を付けるということにしてあげよう」
「分かった……だが一ついいか?」
「なんだい?言ってみたまえ」
「それでこのメイドにはもう何もしないこと、それを約束して欲しい」
「分かった。いいだろう」

形兆の言っていることは『お前は八つ当たりがしたいだけだろう』ということだったが
ギーシュはそれに気づくことなく
「ヴェストリの広場で待っている」
そういって去っていった。


「あの…形兆さ」
「おい」
「はい!?」
形兆に何か言う前に先に話しかけられ、シエスタは畏縮した。
「エプロンの後ろの紐、ほどけてるぞ」
そういって後ろに回りこみ、紐を結ぶ。
「え?あ、ありがとうございます」
「それじゃあな」
そういって歩き出す形兆。

去っていく背中を見ながらシエスタは
(自分に兄がいたらあんな感じなのかな……)
場違いであることを知りながらも、そんなことを考えていた。


To Be Continued ↓↓

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