ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

双月! こんなにもあたたかい色をしていたなんて

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匿名ユーザー

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双月! こんなにもあたたかい色をしていたなんて

着飾った生徒や教師達が、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。
舞踏会に興味無い承太郎ではあったが、たまには豪勢な料理でもと思い、バルコニーにテーブルと椅子と料理とワインを持ち込んでいた。
さすがに貴族の連中に囲まれて食事をするのは鬱陶しい。
舞踏会の音楽や喧騒を聞きながら、のんびりとくつろいで夜風を楽しむ。
と、そこに普段以上に着飾ったギーシュがやって来た。
「やあジョータロー。君は踊らないのかい?」
「……てめーこそ、舞踏会ともなりゃ女に声をかけまくるイメージがあるんだがな」
「ハハハ……誘ったけど、断られたよ」
「ほーう、誰を誘ったんだ?」
「モンモランシーとケティ」
「…………やれやれだぜ」
ゴーレムからルイズをかばった一件で、承太郎はギーシュも一皮向けたと見直していた。
だがやはりギーシュはギーシュ、そう簡単に人は変わらないらしい。
「仕方ないから今回は他の女の子を誘う事にするよ」
「てめーには見境ってもんがねーのかッ」
「薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね。
 決闘には敗れたが、この信念は変わらないよ」
「明らかに薔薇の棘で女を傷つけてるようにしか見えねーな」
「まあそんな訳でジョータロー。今回は主役になりそこねた君だが、存分にこの舞踏会を楽しみたまえ。
 君の活躍でフーケを捕まえたという噂はもう広がっているからね。
 ひょっとしたら意外な女の子からダンスの誘いを受けるかもよ?」
実はすでにキュルケから誘いを受けていた承太郎だったが、とっくに断って、キュルケはキュルケで自分に群がる男達の相手にいそしんでる。
黒いパーティードレスを着たタバサは舞踏会の料理に夢中なようだ。
そしてこのパーティー最後の主役、ルイズがホールに姿を現した。

「ヴァルエーリ公爵が息女、
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~!」
門に控えた呼び出しの衛士が仰々しく告げる。
ルイズは長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、
ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。
肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さを美しく演出し、
胸元の開いたドレスが造りの小さい顔を宝石のように輝かせている。
主役が全員揃った事を確認した楽士達が、小さく流れるような音楽を奏で始めた。
ルイズの周りにはその姿と美貌に驚いた男達が群がり、盛んにダンスを申し込む。
今までノーマークだったゼロのルイズの美貌にようやく気づいた、といったところか。
ホールでは貴族たちが優雅にダンスを踊り始めた。
しかしルイズは誰からのダンスの誘いも受けず、テーブルの横でグビグビとワインを飲み干している男に声をかけた。
「飲みすぎなんじゃないの? ギーシュ」
「やあルイズ。君の活躍に乾杯」
すでに酔っているらしく、顔が赤くなり口調もわずかにだがたどたどしくなっていた。
「あの……ところでギーシュ、もう怪我は大丈夫なの?」
「ご覧の通り」
優雅にお辞儀をして見せるギーシュだが、ふらついていた。怪我のせいじゃなく酒のせいで。
ちょっと呆れつつも、ルイズはそっぽを向いて、緊張した声色で言う。
「えっと……ギーシュ。あなたは私に、最低最悪の侮辱をしたわ。
 でもね、命を懸けて守ってくれた事は、感謝してる。
 だから……あ、あ~……あり、がと」
その言葉を聞いて、ギーシュは本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「……なぁに、当然の事をしたまでさ。薔薇は乙女のために咲くのだからね。
 君のようにひた向きで気高く努力家の貴族を友人に持てて誇りに思うよ」
「褒めたって何も出ないわよ」



しばし、二人で笑い合う。
ちょっと前まで『ただのクラスメイト』と『ゼロのルイズ』という、
互いに眼中に無い存在だった。
少し前まで『決闘の邪魔をするという最低最悪の侮辱』をした相手とされた相手だった。
それが今ではこんな風に笑い合える、友達同士のように。何とも不思議な気分だった。
そして、ギーシュはテーブルに飾られていた花瓶から一本の赤い薔薇を抜いた。
「ルイズ・フランソワーズ。僕と一曲踊っていただけるかな?」
自分に差し出された薔薇を見て、ルイズは顔をしかめた。
「モンモランシーはどうしたのよ?」
「さっき誘ったんだが……断られてしまってね」
「そう」
「ケティも誘ったんだがやはり断られてしまったね」
「へ、へえ……」
「仕方なく十人程声をかけてみたんだが、何だかうまくいかなくてね……」
「……あんた、薔薇の在り方についてもう少し考えた方がいいんじゃない?」
「それはそれとして、どうだい、僕と踊らないか?」
もう一度ギーシュは誘いの言葉をかけたが、ルイズは迷う事なく答えた。
「悪いけど、ちょっと誘いたい相手がいるから」
「へえ、そうなのかい?」
ギーシュもその答えを予測していたらしく、何もかもお見通しというように微笑む。
「だって私が誘ってやらないと、あいつ、誰とも踊りそうにないでしょう?」
「確かに。彼ならバルコニーにいたよ、行っておいで」
「そう、ありがと」
「あっ、ちょっと待ちたまえ」
さっそくバルコニーに向かおうとしたルイズを呼び止めたギーシュは、さっき抜き取った薔薇をルイズの髪に差した。
「薔薇は女の子のために咲くものだからね」
「……ありがとう、ギーシュ。でもこんな事してるとまた勘違いされるわよ?」
「あはは、気をつけるよ。彼とごゆっくり」


ギーシュは笑顔でルイズを見送り、再びワインをグイッとあおった。
グラスが空になったので、新しいビンを開けようとすると、横から出てきた手が親切にもワインのビンを開けてくれた。
「ああ、どうも――」
お礼を言おうと相手の顔を見ると、そこには顔を真っ赤にしたモンモランシー。
ギーシュはこの世に運命というものがあるのなら、自分はこうなる運命なんじゃないかとさえ思った。
「あなたってホント見境無しの犬ね」
「も、モンモランシー! 誤解だよ! お願いだから話を聞いて、ねえ!
 だいたい君は僕の誘いを断ったじゃな――ぎにゃあぁぁぁッ!!」
こうしてギーシュの舞踏会はある意味終わりを告げるのだった。

「楽しんでるみたいね」
宴の席からはずれ、一人で酒を飲んでいる姿を見て皮肉気味にルイズは言った。
「まあな」
承太郎はどうでもよさげに応えてワインを飲む。
どれくらい飲んでいるかは解らないが、頬は赤くなってない。
酒には強い方なのだろうか? ギーシュとは大違いだ。
「……お前は踊らないのか?」
「……相手がいないのよ」
「……そうか」
何人もの男性から誘われる姿を見ていた承太郎だが、特にどうこう言うつもりは無かった。
相手がいないと言うならいないのだろう。
ちょっと着飾っただけで近寄ってくる男など、ろくな連中とは思えない。
などと考えていると、ルイズは意外な行為に出た。
スッと、手を差し伸べたのだ。
「…………」
「踊って上げても、よくってよ」
目をそらし、ルイズはちょっと照れたように言った。
相変わらず無言の承太郎だが、ほんの少しだけ表情に驚きの色が浮かぶ。


「悪いが……ダンスなんざ興味ねーんでな。踊りたいなら別の奴を誘え」
承太郎は断り、グラスの中のワインを飲み干しテーブルに置いた。
そんな彼を見て溜め息をついたルイズは、唇を尖らせて言う。
「今日だけ……特別なんだから」
ルイズはドレスのすそをうやうやしく両手で持ち上げると、膝を曲げて承太郎に一礼した。
「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」
そう言って顔を赤らめるルイズは可愛く、綺麗で、清楚であった。
だがそんな見かけの美しさよりも、いつも自分を使い魔扱いしようとする彼女が、こんな風に礼儀正しくダンスを申し込んでくる姿に承太郎は驚いていた。
「やれやれ……いいだろう。今日だけ、特別だ」
承太郎の大きな手が、ルイズの小さな手に重ねられた。

ホールに戻ったルイズは「私に合わせて」と言って、承太郎にダンスのリードをした。
物覚えがいいのか、承太郎はぎこちないものの、つまづいたり動きを止めたりせず、器用にルイズのダンスについていく。
「……ねえ、ジョータロー。信じて上げるわ」
「……何の事だ?」
「……その、あんたが別の世界から来たって事」
ルイズは軽やかに、優雅にステップを踏みながら、そう呟いた。
「てめー、信じてなかったのか」
「今まで、半信半疑だったけど……。でも、あの『スタープラチナ』……。あんな魔法……とは違う不思議な力、見た事も聞いた事もないんだもの。
 ……信じるしかないじゃない」
それからルイズは少しうつむいた。
「ねえ、帰りたい?」
「ああ。だが……どうしたら帰れるのか見当もつかねえ。しばらくは我慢するさ」
「そうよね……」
しばらく無言で二人は踊り続けた。
それからルイズはちょっと頬を赤らめると、承太郎の顔から目をそらした。
そして、思い切ったように口を開く。


「ありがとう。その……フーケのゴーレムから、何度も助けてくれたじゃない」
「…………」
承太郎は無言だった。手は握ったまま、一緒に踊っているけれど、表情が解らない。
驚いているだろうか、それともやっぱり相変わらず無表情のままだろうか。
恐る恐る、ルイズは承太郎の顔を見てみた。

唇の端を少しだけ上げた微笑。
けれど、瞳の色はとても優しい。
ほとんど無表情と変わらないのに、何て優しい表情なんだろう、とルイズは思い――。

バッと顔をうつむけた。顔が真っ赤になるのを感じたからだ。
あの承太郎がこんな表情をできるだなんて、知らなかった。想像すらできなかった。
でも、承太郎はそんな表情を、自分に向けてくれていて。

「見慣れれば、なかなか綺麗なもんだな」
「えっ?」
綺麗なもんだな、って言葉に心臓が跳ね上がって、
見慣れれば、って言葉で頭に疑問符が浮かぶ。
この衣装を見て綺麗だなって思うのは解るけど、
見慣れればって事は何度か見てないといけなくて、
けれどこのドレスを見せるのは今日が初めてのはず。
疑問に思って承太郎を見上げると、彼はバルコニーを見ていた。
バルコニーに何かあるのかな、と思って視線を向けると、ふたつの月。
「……そっか。あんたの世界、月はひとつだけなんだっけ」
「ふたつ月があるなんざ最初は不気味に思えたが……悪くねーな」



ルイズは、ふと思い出す。
それは承太郎から条件を出されて、錬金の練習をしていた時の出来事。
失敗に失敗を重ね、ズタボロになった自分が見上げた夜空には、とてもとても冷たい色をしたふたつの月が浮かんでいた。
でも今は。

「ほんと……綺麗。久し振りに月をちゃんと見た気がするわ。
 …………こんなにも……あたたかい色をしていたなんて、気づかなかった」

それはきっと、月の色が変わったわけではなくて、ルイズの心の色のせい。
あの時は冷たく見えた月、今はあたたかく見える月。
違いは、何だろう?
それが何かは解らなかったけれど、ルイズは何だかすごく満たされた気持ちになれた。
こうして、ルイズと承太郎のダンスは続いた。

そんな様子をバルコニーで夜風を浴びて腫れた頬を冷やしながら見ていたギーシュが呟く。
「まあ、こうなるだろうとは思ってたけど、いざ目の当たりにするとやっぱり驚くよなぁ」
ふたつの月がホールに月明かりを送り、ロウソクと絡んで幻想的な雰囲気を作り上げている。
「ジョータロー、たいしたものだよ。
 君は認めていないけれど、主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見るよ!」



第一章 魔法の国・ガンダールヴ 完

┌―――――――┘\
│To Be Continued   >
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