ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

依頼! 風のアルビオンを目指せ! その②

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依頼! 風のアルビオンを目指せ! その②

「今から話す事は誰にも話してはいけません」
とアンリエッタが言い、承太郎は無言で退出しようとした。だが。
「メイジにとって使い魔は一心同体。席を外さなくても結構ですよ、使い魔さん」
「…………」
さすがに友達でありお姫様であるアンリエッタの前で恥をかく事はないと、使い魔という単語をスルーする承太郎だったが、
やはりルイズは彼が何か文句を言ってきやしないかと気が気ではなかった。
だが承太郎がおとなしくソファーに戻るのを見てホッと一息。
直後、アンリエッタがゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になったと聞いて、心臓が口から飛び出るほど驚く事になってしまう。
理由はアルビオンの貴族が反乱を起こし、今にも王室が潰れそうな事にあった。
反乱軍が勝利すれば次はトリステインに侵攻してくるに違いない。
それに対抗するにはゲルマニアと同盟を結ぶしかなく、同盟のために結婚せねばならない。
そして王女としてはともかく、一人の女としてアンリエッタはその結婚を望んでいない。
悲しそうなさみしそうな口調を聞けばそれは誰にでも解る事であった。
承太郎もさすがに戦争に発展しかねない政治レベルの問題に言葉を失う。
アンリエッタの結婚と判断は正しい。
貴族、いや王族の義務として、国を国民を守るためゲルマニアに身を売るのは正しい事だ。
そう、絶対的に正しい。文句のつけようがない。
アンリエッタは王族であり、平民ではないのだ。
王族として生まれた瞬間、王族としての宿命を背負いまっとうしなければならないのだから。
それでも――彼女に同情する事くらいは許されるだろうと、承太郎は思った。
だからルイズの何ともいえない表情を見て、やりきれない思いにもなる。
真に幸福な結婚とは、愛し合う者同士が心から祝福されて行うべきもの。
それだけは揺ぎ無い事実だろうから――。
アンリエッタは自分の結婚話という前置きを終えると、いよいよ本題を語り出した。
アルビオンの貴族はトリステインとゲルマニアの同盟を妨害するため、婚姻を妨げる材料を血眼になって探している。

そしてその材料は存在するのだ。それは、アンリエッタが以前したためた一通の手紙。
その手紙の内容はさすがに言えないらしい。それは構わない。
だが問題は、その手紙がアルビオンにあるという事。
すでに敵の手中に陥った訳ではなく、反乱勢と争う王家のウェールズ皇太子の手にあるのだ。
遅かれ早かれウェールズ皇太子は反乱勢に囚われてしまう、そうしたら手紙も見つかる。
そうなったらトリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならない。
だからその手紙を何としても取り戻して欲しい。
――が、アンリエッタは本気でルイズに依頼をしに来た訳ではなかった。
どうしたらいいか解らず、混乱し、唯一心を許せるルイズに打ち明けたかっただけらしい。
「貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼める訳がありませんわ……」
だがルイズは力強く王女の願いを聞き入れた。
「例え地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫様の御為とあらば、何処なりと向かいますわ!
 『土くれのフーケ』を捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せください」
「やれやれ……勝手にしやがれ」
ようやく話がついたらしいので、承太郎は内心どう行動するか決めつつも、わざとぼやいた。
するとルイズは承太郎の本心に気づかず、ついてこないものと思って眉を釣り上げる。
「あんたは私の使い魔なんだから、私と一緒に来て、私を守るの」
「フーケの時のようにか? 自分の身を守ろうとすらしねー奴を守りきる自信はねーな」
ルイズの未熟さ、無謀さを指摘し、成長という改善を望んでの言葉だったが、まだまだルイズはそんな承太郎の言葉の裏を読めるほど成長していなかった。
「守れなくても守りなさい。あなたは私の、使い魔、でしょう?」
ルイズは承太郎がなぜかアンリエッタの前ではおとなしくしている事に気づき、ニンマリと笑って言った。
(さすが姫様。高貴で気品あるたたずまいに、
 さすがのジョータローも礼儀を払わずにはいられないみたいね)
承太郎の気持ちを全然解ってないルイズでした。


「だから、ついてきなさい」
「……やれやれだぜ」
こうして一応の了承を取りつけたルイズは、改めてアンリエッタの依頼を確認する。
「では姫様。アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子を探して、手紙を取り戻してくればよいのですね?
 しかしこんな夜に訪ねていらっしゃるとは、急ぎの任務なのですか?」
「敗北はもはや時間の問題です……」
「早速明日の朝にでもここを出発いたします」
こうしてルイズとアンリエッタが約束を交し合った後、なぜかアンリエッタが承太郎の方を向いて左手を差し出した。
「頼もしい使い魔さん」
誰が使い魔だ、と言いたいのを我慢しながら承太郎はアンリエッタを見た。
「わたくしの大事なお友達を、これからもよろしくお願いいたしますね」
「…………」
これは、手の甲にキスしろというジェスチャーなのだろうか。
なるほど確かに王族らしい行為だ。だが承太郎はキスなんざする気は無かった。
「いけません! 姫様! そんな、使い魔にお手を許すなんて!」
「いいのですよ。忠誠には、報いるところがなければなりません」
二人は勝手に承太郎がキスをするものとして話を進めている。
抗議の意味を込めて承太郎は立ち上がり、目に拒絶の光をギラつかせてアンリエッタを見下ろした。
アンリエッタは、ニコリと微笑む。承太郎の拒絶に気づいてないらしい。
┣¨┣¨┣¨┣¨しても、空気が読めてないのかアンリエッタはキスを待っている。
痺れを切らしたルイズが承太郎に小声で話しかけてきた。
「何してんのよ! 早くキスしなさい。それとも作法が解らないの?」
「……悪いが俺は貴族じゃねーんでな。
 あんたが王女様だろうと、偉ぶった相手にキスするなんざごめんだね」
もう口に出して断るしかないと思って承太郎はそう言い、タバコを取り出して火を点けた。
煙でアンリエッタが咳き込む。
ルイズが怒鳴る前に、部屋の戸がバタンと開いた。


「ジョータロー! 姫殿下の前でタバコを吸うとは何事かァーッ!!」
部屋に飛び込んできたのは薔薇の造花を持ったギーシュだった。
「……何でここにいるッ」
「ギーシュ! あんた立ち聞きしてたの!?」
承太郎とルイズの問いを無視して、ギーシュは夢中になってまくし立てる。
「薔薇のように見目麗しい姫様の――」
「オラァッ!」
「ガボッ!?」
鬱陶しそうなので承太郎はギーシュの頬を殴り飛ばした。歯が折れないよう手加減はした。
「さて、お姫様。俺達の話を聞いてたこいつはどうする? 首でも刎ねるか?」
さすがに事が事だけに、口封じのための抹殺も仕方ないだろうと承太郎は考えていた。
アンリエッタがGOサインを出したら自分が処刑すると立候補して、適当に殺したフリをして逃がしてやるのがいいか、などと思案する。
だがギーシュは頬を押さえて立ち上がると、逆に立候補してきた。
「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」
「グラモン? あの、グラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
ギーシュは深々と礼をし、アンリエッタの表情が明るいものに変わる。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。
 ではお願いしますは。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」
憧れの姫殿下に名前を呼ばれたギーシュは最高に「ハイ!」って感じに狂喜乱舞した。
そしてウェールズ皇太子がアルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞かされ、ルイズはアルビオンの地理に明るい事から出発の準備はほぼ整ったといえた。
そこでアンリエッタは、机に座ると羽根ペンで羊皮紙に手紙をしたためた。
そしてしばし自分の書いた文章を眺めた後、悲しそうな顔をして呟く。
「始祖ブリミルよ……この自分勝手な姫をお許しください。
 でも、国を憂いても、わたくしはやはり、『この一文を書かざるえない』のです……。
 自分の気持ちに、嘘をつく事はできないのです……」



密書だというのに、まるで恋文でもしたためたような表情だった。
承太郎はウェールズが持っているという手紙の内容と、アンリエッタが最後に書き加えた『一文』の内容を察した。
それは王族の義務を背負う者としてあるまじき行為だが……承太郎は何も言わなかった。
アンリエッタは手紙を巻いて杖を振り、魔法で手紙を封ろうして花押を押した。
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。
 すぐ件の手紙を返してくれるでしょう」
それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜くとルイズに手渡した。
「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。
 お金が必要なら、売り払って旅の資金にあててください。
 この任務にはトリステインの未来がかかっています。
 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りますように」
ルイズとアンリエッタ。
二人は確かな友情を確かめ合い、そして困難な任務の未来を憂い――。

咳き込んだ。

「コホッ、コホッ! ジョータロー! いい加減タバコ消しなさい!」
「断る。ほれ、用が済んだならとっとと出てくんだなお姫様」
「ひひひ、姫様になんて口を利くのよ! この、馬鹿犬ーッ!!」
「…………」

馬鹿犬、という単語で承太郎はイギーを思い出した。
そういえば学帽にガムをつけられた事もあった。
今ではすべていい思い出だ……。

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