ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-4

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学院へと飛ぶ風竜の上は重苦しい沈黙に包まれていた。
ルイズは放心したように座り込み、キュルケは破壊の杖に目を落とし、タバサは行く先に目をやっていた。
「……ダーリンは…戻ってくると思う?」
キュルケがタバサに不意に聞いた。なぜかタバサなら分かると思ったのだ。
タバサは珍しく躊躇するようなそぶりを見せた後、答えた。
「…彼は死ぬつもりだった……と思う……」

リゾットがタバサの過去に傷を感じたように、タバサもまたリゾットの過去に傷を感じていた。
おそらくは彼はルイズの使い魔になる前、家族か、仲間か、何か大事なものを失ったのだ。
そしてそのことにリゾットは負い目を感じている。それは誰にも解決できない。彼自身が克服しなければならないのだ。
しかしタバサは思う。
それでも何か、他人が彼を助けになることはできないのかと。
自分自身のように、それは誰にも手出しできないものなのかと。

キュルケは自分の無力を痛感していた。
自分はゲルマニアでも有数の名門ツェルプストーに生まれ、その才能を余すことなく受け継いで生まれてきたと思ってきた。
最強の系統「火」の才能に恵まれ、才能だけでなく、たゆまぬ努力もしてきた。
炎を使えば誰にも引けをとることはないと思っていたし、事実、今まで火の扱いにおいては同年代の人々に負けたことはなかった。
もちろん、スクウェアクラスというより上位の使い手がいることは知っていたが、いずれはそこにもたどり着いてみせると内心では自信を持っていた。
今回の『破壊の杖』奪還任務も多少、手間はかかっても、自分がいれば楽に片付くと信じていた。

だが、現実はどうだ。
アヌビスに操られて友人を襲い、同じトライアングルクラスのフーケにすら太刀打ちできない。
結果、愛を語った相手を犠牲にして無様に逃走している。このざまのどこが名門なのか。どこが最強なのか。
自分など、この役に立たない『破壊の杖』と同じだ。名前と期待ばかりが大きく、実際には何の役にも立たない。
それらの思考がキュルケを苛むのだった。

ルイズは嫌悪していた。誰でもない自分自身に。
無能を表す『ゼロ』の二つ名を持ち、周囲からの同情と嘲笑、家族からの中途半端な優しさに隠された失望に囲まれ、屈辱を受けながら育ってきた。
だからこそルイズはフーケの騒ぎを聞いた時、これぞ千載一遇のチャンスと内心で手をたたいた。
ここでフーケを捕まえ、破壊の杖を取り戻せば誰にも『ゼロ』などと呼ばれない。
貴族として、メイジとして認められるそのためなら命だって惜しくない。そう思っていた。
だが、リゾットに「逃げろ」といわれた時、自分は安心していなかったか。口では反発しつつ、生き残れることを喜んではいなかったか。
思えばリゾットは、自分の使い魔だけは爆発しか起こせない自分を評価していた。同情も優しさも侮蔑もなく、ルイズに一定の価値を見出していた。
そうだ。いつもそうだった。
今も、あの妖刀に操られた時も、日常生活でさえも。
自分はリゾットに守られてばかりなのだ。
使い魔といっても勝手に呼び出されたのだ。従う義務は本当はない。
キュルケに言われるまでもなく分かってる。
リゾットには自由な意思があり、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せたはずだ。
なのに、彼は黙々とルイズに従った。

そこまで考えたとき、ルイズは叫んだ。
「タバサ、お願い! 戻って!」
その声を聞くと、すぐにタバサはシルフィードを反転させた。
「急いで」
声をかけられると、風竜は猛スピードで戻る。
来た道を引き返す中、ルイズが横をふと見るとキュルケが笑っていた。
「何笑ってんのよ…」
「見直したわ。それでこそ私のライバルよ。まだできることがあるかもしれないのに誰かを犠牲にして逃げるなんて、貴族のすることじゃないわよね」
ぐしぐしと頭を撫でられた。
ルイズはむっとしたが、放っておいた。
(リゾット、生きていて…)

リゾットは一人、霧の中を歩いていた。
やがて霧の中から見覚えがある建物が現れる。チームが良く使っていたレストランだ。
テラスに部下の6人が座ってデザートを楽しんでいた。
席の向こうで巻き毛の男が新聞を読んでいる。ギアッチョだ。
「この新聞の政治家コメントにある……『身を粉にして頑張ります』の…『身を粉にして』…ってよォ~~。
 『頑張ります』ってのはわかる…。スゲーよくわかる。選挙で選ばれた政治家なんだからな…。
 だが『身を粉にして』って部分はどういう事だああ~~っ!?
 身体を粉にするっつーのかよーーーッ! ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ~~ッ!!!
 身体を挽いて粉にしたら政治ができねーじゃねーか! なれるもんならなってみやがれってんだ!
 チクショーッ。どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ! 身を粉にしてってどういう事だッ!
 ナメやがって、クソッ!クソッ!」
ギアッチョはそういいながら新聞をびりびり破り捨てている。パソコンを弄っていたメローネがそれをみて呆れる。
「『身を粉にして』ってのは比喩だ。相変わらずディ・モールトよくキレるな、ギアッチョは」
解説を入れるが、もちろんギアッチョは聞いていない。お茶を飲んでいたイルーゾォが振り向いて大声を出した。
「おい、ギアッチョ! その新聞、次は俺が読むっていっただろーが! おい、ペッシ! 止めろ」
「お、俺ですかい? おい、ギアッチョ、止めろって」
先輩に命令されたペッシはおどおどと言うが、ギアッチョは聞く耳持たない。
「しょぉぉぉがねぇ~なぁ~。イルーゾォ、だから先に読んどけって言っただろぉ~? お、ペッシ、そのケーキくわねーならもらうぜ」
その隙にホルマジオがペッシのケーキを横取りする。

「あ! ホルマジオさん、ちょっと待って!」
「もぉ~食っちまったよ。……おいおい、泣くこたぁ~ねぇーだろぉ? 新しいの頼んでやるからよぉ~」
「必要ないぞ、ホルマジオ。ギャングの世界では盗られる奴が間抜けなんだ」
「兄貴ィ、酷いんじゃないっすか?」
「黙れ、マンモーニ以下のゲス野郎になり下がりやがって!」
毎度おなじみのプロシュートの説教が始まった。ギャングの心得から説き直すつもりらしい。
「…ん? おお、リゾット、来たのか!」
ひとしきり暴れたギアッチョがリゾットに気がついた。
その場に居た全員がリゾットに注目する。
「思ったより早かったな、リーダー」
「リーダー、お疲れ様です!」
「おい、誰かリゾットの分のデザートとってやれ」
「しょ~がねぇ~なー。ウェイターさん、さっきのケーキ、もう二つ追加と、あと、ホットコーヒーを一つ頼むぜぇ~」
「まあ座れよ、リゾット」
「皆、もう来ていたのか…遅れてすまない」
「かまわんさ。ソルベとジェラートは先に行ってるぜ」
しばらく他愛のない話が続く。やがてコーヒーとケーキが運ばれてきた。
コーヒーに映る自分を見た時、リゾットはここに至った経緯を思い出した。
そう、目の前の部下たちは皆、戦いに敗れ、死んだのだ。そして自分も……。

「すまない……。お前たち」
リゾットの発言に、その場の全員が不可解な顔をした。
「すまない……。俺は…お前たちを巻き込んだ。お前たちが死んだのは俺の責任だ…」
六人は互いに顔を見合わせ…やがてホルマジオが噴き出すように笑った。
「しょ~がねぇ~なぁ~、リゾット。的外れなことを言うんじゃあねえよ」
ギアッチョが同意するように頷く。
「確かに俺たちは負けたぜぇ? だが、それは俺たちが弱かったからだ。それを他人のせいにするつもりなんぞここにはいねー」
メローネはいつものようにクールに答える。
「それに、ブチャラティたちもまた『誇り』と『覚悟』を持っていた。奴らのそれが、俺たちのそれをほんの少し上回っただけさ」
プロシュートは持っていた紅茶のカップを置いてリゾットを見た。
「ソルベとジェラートが殺されてからの二年間…俺たちは生きながらにして腐っていく日々を送った。
 『誇り』を失いかけ、負け犬の道を歩んでいたんだ。それは戦いで負けることなんかよりも、遥かに屈辱的なことだ」
イルーゾォがプロシュートの言葉を引き継ぐ。
「だが、ボスに反旗を翻してから、俺たちはまた蘇った……。俺たちはチームだ。仲間を殺されて黙ってるなんてことはありえない」
最後にペッシが皆に同意するように頷いた。
「リーダー、俺たちのうち一人だって反逆したことに後悔してる奴はいませんぜ」
「………だが、俺がお前たちの死ぬきっかけを作ってしまったのも事実だ」
「確かにきっかけを持ち出したのはお前かもしれない。だが、反逆したのは俺たちの意思だ。
 ギャングになったのも、暗殺者になったのも、いつも自分たちの『意思』と『覚悟』で道を選択してきた」
「おめーだってそーだろォ、リゾット? 俺たちは俺たちの意思で生きただけだ。だからお前が気に病むことなんてなんもねぇ」

「気に病むことがあるとすれば、いつも言ってた『責任』をまだ果たしてないことですよね」
「……『責任』? 何の責任だ?」
「生きている責任さ。リーダー、あんたは俺たちとは違ってまだ生きてる」
「その形が何であれ、人間は『栄光』に向かって努力し、『成長』するべきだ。たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようが、生きている限りな…」
「でもよぉ~。それでもお前がそうやって不貞腐れるんだったらそれもしょぉがねえ。それもお前の選択だからな」
「個人的な意見としては俺たちのリーダーが腐っていくのは残念に思うが…。何なら一緒に来るか? お前のためならあの世の席の一つくらい、俺たちが作ってやるが?」
「元の道に帰るならよォ。あっちだぜ」
「選べよ、リゾット。ここで死んで土に還るか、再び鉄を纏って生きていくか。オメーの進むべき二つの道だぜ」
それっきり、その場の全員は黙り込んだ。長い沈黙の後、やがてリゾットは答えを出した。
「……戻るよ」
「そうか」
「それでこそ俺たちのリーダーだ」
「しょ~がねぇ~なぁ~。お前がいねー間、こいつらの面倒は俺が見ておいてやるぜ」
「オメーが向こうの世界で『栄光』を掴むことを願ってるぜ。何やら変な世界にいるようだがな」
「羨ましいじゃないか。あんなに女の子に囲まれるなんて暗殺者やってたら絶対ないぜ?」
「……メローネ、オメー少しは自重しろ」

エンジンの音を聞き、全員席を立つ。ゆっくりと向こうからバスがやってきた。
「さて、俺たちは行くぜ、リゾット。また、向こうでな」
「ああ……、ソルベとジェラートによろしくな」
「おぅ、ゆっくり来いよ。何なら女を連れてきてもいいぜ」
「ふん、妙な期待をするな。じゃ、またな…」
軽薄な冗談と挨拶を交わし、明日また会うかのように別れて行く。
いつの間にか霧が晴れ、太陽が別れ行く七人を明るく照らし出していた。
リゾットは一人、もと来た道を歩いていく。仲間たちはバスへと乗り込んでいく。
どちらも一度も振り向かなかった。

頬を冷たい液体が伝う感触に、リゾットは意識を覚醒させた。
眼を開けると、ルイズの泣きはらした顔があった。
「馬鹿が…戻って…来たのか? 何故逃げない?」
リゾットが眼を開けたのを見ると、ルイズは涙をぬぐうことすらせず、声をあげた。
「逃げないわ! 私は貴族よ! 使い魔を犠牲にしたりはしない……! ここで逃げたら、私は! 私は……本当に『ゼロ』になってしまう!」
そういいながら、ルイズはがくがくと震えている。いくら口で強がりを言っても、恐ろしくて堪らないのだ。
だが、彼女は恐怖を押し殺し、自らの使い魔を助けにきたのだ。
かつてギリシアの史家ブルタルコスは言った。
『人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にある』、と。
リゾットはルイズに人間のあるべき姿の一つを見た気がした。
「少しは…マシになったか……」
「え?」
「いや、なんでもない…。ゴーレムは?」
見ると、ゴーレムはまとわりつく風竜を撃墜しようと両腕を振り回していた。
風竜は懸命に攻撃を掻い潜り、キュルケとタバサが魔法で攻撃していた。
だが、相変わらず決定打に欠けるようで、けん制以上の動きにはなっていないようだった。
リゾットは起き上がった。ところどころ身体が痛んだが、鋼鉄の塊の一撃を受けたにも関わらず、骨や内臓に損傷はないようだった。
そんなことはないと知りながら、リゾットは仲間たちに守られたような気がした。
「リゾット、無理はしないで!」
「いや…大丈夫だ。……見た目ほど酷くはない…」
止めるルイズを制して、リゾットは立ち上がる。

「ルイズ、魔法はまだ使えるな?」
「え? …ええ、使えるけど……」
「なら、これから俺とお前で、フーケを倒すぞ」
「そんなこと、出来るの!?」
予想外の一言にルイズが驚いて訊く。
「俺を信じろ。………お前の使い魔を」

「これだけやっても一つも当たらないなんて!」
キュルケは火炎を放ちながら歯噛みした。横ではタバサも荒い息を吐いている。
二人とも限界近くまで消費し、あらゆる魔法を行使しているのだが、土を盛り上げ、鉄のドームで防御するフーケに攻撃は届かなかった。
土のトライアングルメイジのフーケの『錬金』は想像以上に強力で、それぞれ火と風を得意とする二人の『錬金』では打ち砕くことができない。
『錬金』が魔法としては初歩であることもフーケに味方していた。圧倒的に精神力の消費が少ないのだ。
あせる二人の視界に、疾走する黒い影が目に入った。
「ダーリン!」
「リゾット…」
リゾットはデルフリンガーを鞘に収めて柄を持ち、ルイズを抱きかかえてゴーレムに向かって走っていた。
その眼に浮かぶ、静かな闘志を秘めた冷静さを見て、二人は何か策があることを悟った。
「タバサ、もう少し頑張りましょう!」
キュルケの言葉にタバサが頷き、代わる代わる魔法を唱える。

二人が攻撃している間、フーケは鉄のドームに潜ったきり、出てこない。
それは文字通り鉄壁の守りであるが、鉄壁であるがゆえに外の様子がほとんど分からないという欠点があった。
つまり、二人が攻撃する限り、リゾットとルイズの接近はフーケに気づかれないのだ。
しかしゴーレムは多少は自らの思考があるのか、リゾットとルイズに拳を繰り出す。
先ほどまで自由に動ける状態でギリギリの回避だったのだ。ルイズを抱えた状態では回避は不可能に思えた。

迫りくる拳を前に、ルイズはリゾットに掴まる手の力を強くする。使い魔が信じろといったのだ。危なかろうと、とことん信じるつもりだった。
リゾットは直進し続ける。拳が鋼鉄の変化した瞬間、リゾットは自らの心の力の名を呼んだ。
「『メタリカ』!!」
ロオォォドオォォォ……。
声に応えるように、リゾットの内に声なき声が響いた。

何が起きたのか、上空の二人は分からなかった。
拳が鋼鉄に変わり、リゾットたちに命中すると思った瞬間、急に拳の軌道が曲がり、同時にリゾットが何かに引っ張られるように加速した。
外れた一撃にはかまわず、ゴーレムが第二撃を放とうとする。
「………無駄だ……。既に! 『倒し方』は、できている! タバサ、竜を上昇させろ!」
リゾットが叫ぶ。タバサが風竜をあわてて上昇させると、ルイズはありったけの魔力を込めて『錬金』を唱えた。
「当たってーッ!」
遠くにあるものに大きな力を及ぼすには相応の精神力がいる。今回狙ったのはゴーレムの腹部に刺さった、ロケットランチャーの弾だった。
命中精度が悪いため、できるだけリゾットが近づき、ルイズは大きな爆発を起こすよう、精神を振り絞った。
果たして、ルイズの魔法は弾に届き…信管の壊れた弾頭は大爆発を起こした。

学院へ帰る竜の背の上で、四人は今回の事件について話していた。
後ろには縄で縛られたフーケが転がっている。
フーケはあの爆発に巻き込まれたが、鉄のドームに篭っていたことが幸いし、頭を打ち、気絶する程度で助かった。その後、発見されて縛られたのだが。
その近くには切り落とされた左腕も転がっている。
『固定化』をかけたので腐ることはない。水のメイジに頼めばつなげることもできるだろう。
ルイズたちはほっとけばいいと言ったのだが、リゾットが持ち帰ることを提案したのだ。
「結局…フーケの狙いって何だったのかしら?」
「ああ……推測だが…『破壊の杖』の使用法を知りたかったんだろう。
 でなければ俺たちにわざわざ見つかるように誘導する理由がない。おびき寄せるだけなら情報と案内で十分だからな……」

「あんたがあの筒を撃ちだしたのよね。使い方なんてよく知ってたわね?」
「あれは俺の世界の兵器だからな…。まあ、実物を見るのは初めてだったが」
「世界?」
タバサが本から顔を上げ、口を挟んだ。他の二人も不思議そうな顔をしている。
「ああ……。…俺は…別の世界から召喚されてここに来たんだ。…信じようと信じまいと勝手だがな……」
別に隠していたわけでもないのだが、訊かれなかったので答えなかったことを教える。
「ふーん……」
キュルケとルイズは半信半疑の様子だった。なぜかタバサは納得していた。
「そういえば、ゴーレムが倒れる前、不自然な動きをしたけど、あれはダーリンがやったの?」
「ああ……」
「どうやって?」
「魔法じゃあない。……そうだな。名前だけは教えておくか。アレはスタンドだ」
「スタンド?」
「力ある生命のビジョンだ。それを操ることが出来る人間をスタンド使いと呼ぶ。スタンドはスタンド使いにしか見えない」
「……なんだか良く分からないけど…魔法じゃあないの?」
「あそこまで汎用性のある能力じゃあない。できることは決まってる。最も、杖は必要ないが」
「ふぅん…。で、アンタはその……」
「何だ?」
「わ、私の使い魔なんだよね?」

以前、リゾットは「恩を返すまではルイズの使い魔でいる」といった。
今回の件で恩を返した、と判断したらリゾットは去ってしまうのではないか。それをルイズは心配してるのだ。
「ああ……。お前には…余計に恩が出来たから……な」
「そう、やっぱりいなく…え?」
「これからもお前の使い魔でいる……といっている」
「そ、そうなの…」
リゾットの即答にルイズは不可解さと安堵を同時に感じることとなった。
最後にリゾットが戻る決断をした理由の一つは、新たに出来た知人たちのためでもあった。
(最初は命を救われた。その恩を返して、今回は心を救われた)
リゾットにとって、今回の件はそういうことだった。
もっとも、まだリゾットは彼女たちをスタンドの能力について教えるほどには信頼していないのだが。
「そんなに不安がるな。俺はまだ少しの間はお前の使い魔だ」
「な……。誰が不安がってるのよ! アンタがスタンド使いだろうと平民だろうと、
 私の使い魔であることに変わりはないもの! これからもしっかりご主人様に尽くしなさい!」
内心を読み取られたルイズは顔を真っ赤にしながら照れ隠しを言う。
彼女らしい物言いにリゾットは内心苦笑した。
「いいじゃない。ダーリン、こんな幼児体型は捨てて、私のものになりなさいよ」
キュルケがしな垂れかかってくる。
「暑苦しい……と言っただろう………」
「ちょっと、ツェルプトー!!」
「何かしら、ヴァリエール? 恋愛は個人の自由でしょう? 自分に自信がないからってやっかみは止めてくれない?」

「だ、誰がやっかんでるのよ!」
また二人で言い合いを始めた。元気なことだ。
それを適当に聞き流しながら、リゾットはこの二人、言うほどには仲は悪くないのかもしれないな、などと考えているのだった。
「……珍しい」
不意にタバサが声を上げた。
「何がだ」
タバサがリゾットの顔を指差した。
「笑ってる」
他の二人も言い争いを止めてまじまじとリゾットの顔を見る。もうリゾットは無表情に戻っていた。
「本当、タバサ?」
ルイズの問いにタバサが頷く。
「えー、私もダーリンの笑顔、みたかったなー」
「何よ、どうせ見間違いでしょ。この鉄面皮が笑うわけないじゃない」
「あら、負け惜しみ?」
また言い争いをはじめた。それを聞き流しながら、リゾットは呟く。
「笑うことくらい……ある」
「レア。見たことない」
なぜかタバサは満足げだった。
リゾットは考える。こちらで笑ったことがなかったか?
そうかも知れない。こちらに来てからリゾットの心はずっと死んでいたのだ。
リゾット・ネエロは一度死んで、今、ようやく蘇ったのだった。
やがて、学院が見えてきた。


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