ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『女教皇と青銅の魔術師』-5

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
決闘の前日

二人は町まで買出しに出かけた。
馬には乗りなれていないミドラーは町に付くころには腰痛になっていた。
駱駝いないの、とギーシュに恨みがましい目を向けるがギーシュは取り合わない。
そもそも彼は駱駝を知らなかった。

ミドラーの服を数着と背負うタイプの袋を買う。
ミドラーが決闘に勝った場合すぐに学院を脱出できるように物資を購入する。
自分が死んだ時のために準備する、というのはどんな気持ちだろうとミドラーは彼の表情を伺うが、
ギーシュは平然としていた。

その後武器屋にてギーシュは撒き菱と魔法のレイピアを購入。
(魔法の…?)
ミドラーはいぶかしく思いながらハイプリーステスでスキャンしてみる。
(鞘は…問題ない。ただの真鍮の飾り)
(刀身と…鍔、それと鞘の口金部分に何か…スタンドが反発する部分がある?)
ひょっとしてこんなものが切り札なのだろうか、と落胆する。
確かにスタンド本体に斬りつければダメージはあるだろう。
だが、ギーシュが挑戦し失敗たように地面からの攻撃時にはスタンドは地面と地下部分にしかいない。
攻撃している部分は、変形させたただの物質でしかないのだ。
まあ決闘相手にわざわざ弱点を教える事も無いか、と思考を切り上げる。

帰りにミドラーは、女教皇で作ったコブを馬に付けてなんとかしようと試み、
3度馬に振り落とされた。



そして決闘当日。

早朝からギーシュは決闘の場となる広場の清掃をしていた。
ごみを捨て、石畳の隙間に至るまで入念なチェックをする。
級友が数名無言で客席の設営をしてくれている。
たまに堪えきれず嗚咽を漏らす友人もいた。
彼等の中ではギーシュは討死確定らしい。

石畳のチェックをしているギーシュに、サイトが話しかけてくる。
「おい、お前また決闘すんだって?」
今朝方ギーシュとの決闘の後の昏倒から目覚めたばかりで、一連の騒動を知らないらしい。
「お前俺に負けてからまだ3日ぐらいじゃん。何?ひょっとして決闘マニぶぎゅげッ!」
サイトを杖で殴り倒したルイズが涙を浮かべて謝罪する。
そのあまりの取り乱しぶりに、
ギーシュはちょっとだけルイズに同情した。



決闘30分前

ミドラーはとうに準備を済ませて仮設テントにいた。
ギーシュはまだ現れない。何やら準備があるとかで部屋に戻ったのだ。
衆人環視の中命の取り合いをする、という初めての行為に緊張を自覚するミドラー。
僅かな日数とはいえ行動を共にしたギーシュに多少の情は移っている。
できれば死なせたくなかった。
(再起可能程度に叩きのめして…駄目だ。どちらにせよあの爺がいる)
(いっそギーシュを連れて逃げるか?)
(あの顔が使えれば口の中に入れたまま逃げられたのに…)
ハイプリーステスの現在において最大の攻撃、巨大な顔のイメージは出せなくなっている。
承太郎に破壊されてまだ間が無い為、破壊された印象が強すぎるのだ。
溜息をついて頭を振る。
どうもあのボウヤに当てられたのか、思考が変な方向に向く。
あの子が自分に勝つ、などありえないのに。
自分がDIO様から逃れることが不可能なように。

「DIO様からは逃れられない」=「できることなら自由になりたい」であることに、
一度心が折れて服従してしまったミドラーはまだ自分では気付けない。
なおも考えているミドラーに、声が掛かる。
時間のようだ。
ミドラーは立ち上がって、決闘の場に赴いた。


決闘の場にギーシュが現れた際、観客はどよめいた。
ギーシュが盛装していたからである。
羽飾り、花飾りをふんだんにあしらった大きな帽子。
カラフルな刺繍を施した、古めかしい衣装。
腰にはこれまた飾りつけの多いレイピア。
それは、もはや舞踏会でも珍しくなった古い貴族の盛装であった。
ご丁寧に目元には仮面まで付けている。

決闘の場、正面にはオスマン師。脇にはコルベールが控えている。
約定が読み上げられる。双方が賭けるものは命と自由。
ギーシュが使い魔を手に入れるか、ミドラーが自由を手にするか。
ギーシュが命を落とすか、ミドラーが使い魔になるか。

「承知しました」
「OK…いや、えーと、それでいいです」

わりと締まらないミドラーの宣誓の言葉で、決闘は始まった。



両者の距離は6メルテほど。
ギーシュは昨日買ったレイピアをすらりと抜くと、鞘をミドラーの前方1メルテに投げ転がす。
「予告する」
ギーシュが朗々と宣言する。
「ぼくは、その鞘の位置まで歩いて近付く」
「この5メルテの距離を歩く間に、ぼくを止めてみろミドラー!」
観客は沸かない。
もはや彼の行動は死の前の傾きとしか見られていない。
右手のレイピアは下段に、左手のバラの造花の杖は横に水平に構えて、ギーシュが呪文の詠唱を開始する。

詠唱の聞こえる場所にいたメイジは全員、耳を疑った。
ギーシュは『錬金』を唱えている。ワルキューレ召喚ではない!
土の基本である錬金は呪文も極端に短い。
その末尾をゆっくりと唱えながら一歩前に踏み出す。
戦闘の駆け引きが、始まる。



ミドラーはこの期に及んでなお躊躇していた。
(この子を、どうにかして助けられないだろうか)
しかし彼は呪文を唱えこちらに一歩踏み出した。
(ああもう!恨むんじゃないよ!)
ハイプリーステスを発動。目標はギーシュの目の前の石畳。
ミドラーは、生まれて初めて運命を呪いながら攻撃した。

次の瞬間、
ギーシュの目の前の石畳の一つから巨大な鉄の塊が生えはじめ、
ギーシュが唱えていた『錬金』を完成させ、

―――ミドラーが身体の左側面から血を噴出して、倒れた。




決闘の場は静まり返っていた。
歓声を上げるべきギーシュの友人達も、何が起きたのか判らなかった。
(―――何だ?)(今、何をした?)(一体、錬金で、何をした?)
それはミドラーも同様。
(何だ!今何をされた!)
(本体ではない!スタンドに攻撃された!?)
慌ててスタンドを引き戻そうとして、違和感を感じる。
スタンドの感覚を広げる。
石畳の間に、何か反発を感じる。
昨日感じた「魔法」とやらの感触だ。そしてこの形は…『撒き菱』!
ミドラーは理解する。
スタンドが発現している石に、この撒き菱を打ち込まれたのだ、と。

ギーシュは思考する。
(第一手成功)
7箇所同時に錬金をターゲットし、どこかの石から何か生えた瞬間、その隣接する石に錬金を発動。
石の片側に金属(彼が最も得意な青銅)を錬金、石を動かして固定化の魔法をかけた撒き菱を突き刺す。
丸一日、ミドラーに跳ね飛ばされながら考えた作戦であった。


ミドラーは最初に会った時、大怪我をしていた。
魔法で作った顔を、敵に砕かれたと説明していた。
ならば、
ミドラーの魔法は、作ったものに攻撃すると彼女にダメージが行く?
最初に試してみたが、そうではなかった。逆に食い込んだ剣が自らに当り腕が千切れた。
そして、気が付く。
ミドラーの視覚を共有して見ていると、ギーシュの目では見えない何かが動いている。
地面から武器?を出現させるとき、その何かが働いている。
生えてきた鉄の塊などには、その何かはくっついていない。
地面と、その境目にくっついている。
ミドラーとつながっているのは、そこだ。

ミドラーに向かって悠然と歩く。
ミドラーがこちらを見る。何をされたか、理解したようだ。
そしてこちらを凝視―――そしてはっとした表情になる。
そうだ。これが第二手。
『今ぼくが着ている服は、何一つ金属が使われていない』

模擬戦闘の最中、木の板に乗ったときに、わざわざ木の下の地面から鉄の紐を出して、こっちを縛り上げた。
木板ごと。何故?木板から出せればもっとコンパクトに手早く縛れたはず。
レビテーションで壁近くに浮遊して誘ってみた時も、壁の石部分からしか出てこなかった。
木からは発生していない―――できない?
土に属する魔法なら、それなりに制約を負う、というわけだろうか。
これを利用すれば、かなり有利に戦える。

そして今、ギーシュの身に付けているものから金属を探し出そうとして、ミドラーは貴重な時間を無駄にした。
間合いが詰まる。



ミドラーは思考する。
(甘かったッ!)
(この子は、強い!)
(こちらを完全に理解して、封じるように手を打ってくる!)
最初のダメージの後、石畳からではなくギーシュの装飾品から攻撃しようとした。
しかし、ギーシュは金属を何も身につけていない。
明らかに、スタンドの特性を理解した上で封じにきている。
ギーシュは呪文を唱えながら歩いて近付いてくる。
石畳を改めて広範囲にスキャン。
ギーシュと自分の間、所々に抵抗を感じる石がある。
石畳からのスタンド攻撃は、完全に封じられている。
影響の無い遠くの石では、こちらに届くまで時間がかかり過ぎる。

あと数歩。
ミドラーは必死で思考する。
そして、辿りつく。
目の前に転がされたレイピアの鞘、それは真鍮製だ!
口の一部分は何か魔法が掛かっているが、他はただの金属!
自分をここまで追い詰めたギーシュに畏怖しつつ、
最後の一手として、ハイプリーステスを発現させ、ギーシュに襲いかかった。



目の前に自分のレイピアの鞘が跳ね上がってきた時、ギーシュは最後の仕掛けを発動した。
呪文の詠唱を中断、一言だけの合言葉を唱える。
本来はただの見栄のためにしかならない、魔法のギミックが発動する。
投げ上げた剣を、何も見ずに鞘で受ける、というつまらない効果。


ミドラーはハイプリーステスが急に引き寄せられるのを感じる。
ギーシュの剣に吸い寄せられるように、鞘がそちらに引きずられる。
抗う術もなく、剣は鞘に――いや、鞘は剣に収まった。
そして次の瞬間、
剣は振るわれ、ハイプリーステスの憑いた鞘はミドラーの頭上を越えて飛んでいった。


引き戻せ、間に合うか?とミドラーが考えた時、再び鞘は引き寄せられる。
目の前ではギーシュがレイピアを構えている。
盛装の貴族が、レイピアをぴしりと構えている。
そのあまりに型通りな光景に、ミドラーは一瞬見惚れる。

この距離ならミドラー本体にもギーシュのレイピアは届く。
あの魔法のレイピアで全力の突きならば、ハイプリーステスとて貫かれるだろう。
本体とスタンド、両者同じ防御行動をとる。
両腕で顔を咄嗟に庇ったのだ。

衝撃が走る。
何処を貫かれたのか、と身構える。
しかし、いつまでたっても痛みはやって来ない。
頭をなでる感覚がある。
顔を上げると、ギーシュが鞘に発現したハイプリーステスの頭をなでていた。

「ぼくの、勝ちだ」
右手が差し出される。
周囲の観客が、歓声を上げる。
オスマン師が、満面の笑顔で膝を打つ。
この日、青銅の魔術師は、女教皇を手に入れた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー