ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『燃えよドラゴンズ・ドリーム その2』

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
『燃えよドラゴンズ・ドリーム その2』


「ミテロヨオメーらッ!」
ドラゴンズ・ドリームは天高く飛翔した。
「ルイズはオレを召喚してル! その時点でゼロじゃネェーッ」
草原全体を見渡せる高度まで駆け昇る。
「ソシテオレがッ、もっとッ、もおっとルイズをプラスにシテヤるんダッツーの!」
見える。各所に点在している方角が見える。
風になびく草の先。突き出た岩。露出した泥土。今にも崩れそうな砂山。
ルイズに幸と力を与える方角が見える。

「乙の方角百七度二分十八秒ッ」
使い魔として召喚された時から中立は捨てた。
「辰の方角百二十一度十五分二十秒ッ」
風水は皆に幸せを運ぶためのものという信念は残していたが、
「丁の方角百八十九度零分十五秒ッ」
今はルイズを最優先にする。
「庚の方角二百六十度十四分五十六秒ッ」
風水の基本的な考え方にのっとり、
「亥の方角三百三十三度十分三十三秒ッ」
あらゆることには意味があった。
「この中デのベストは……四番目ッ、庚! 確認終了ッ」
ドラゴンズ・ドリームは自分がここにいる意味を考え、
役割を果たすため全力を尽くさんと燃え上がった。

上昇した時と同じ速度で下降、削り過ぎないよう細心の注意を払ってルイズに触れた。
何度となく生み出された爆発のおかげで、一面にもうもうと土煙が巻き上がっている。
皮膚の端を削った程度では本人すらも気づかない。
「ヨシヨシヨシッ」
前回の唇とは違い、確たる意思をもってルイズの皮膚を送り込んだ。
絶対の方角はルイズを成功へ押し上げてくれる。
押し上げてくれるが、まだ足りない。あと一歩がどこまでも遠い。

詠唱、爆発。詠唱、爆発。詠唱、爆発。ただただ繰り返す。
ルイズの召喚が成功する気配は未だ見えなかった。
「……ソウカよ」
やまない笑い声。「ゼロ」「実家に帰る準備」「使い魔無しがお似合い」
ドラゴンズ・ドリームは眩暈で倒れそうになる体を気力で支えた。
ここで意識を手放すような大間抜けではないつもりだ。
「まだダ……まだイケルよな?」
ルイズは望みを捨てていない。
杖を手放さず、折れそうになる膝を伸ばし、足を踏ん張って耐えている。
ルイズの姿勢がおかしかったのか、クラスメート達がまた笑う。
そんなはずはないのに、草原の中で笑いが木霊している。頭の中で延々と響き渡っている。
ルイズがよろめいた。杖を振り、右腕を戻し、なんとか体を戻す。
ドラゴンズ・ドリームの眩暈も続く。頭の中が回る。眩暈から酩酊へ。
人間が、草が、太陽が、風が、全てが歪む中で笑い声はまだ響いていた。
「ツイテこいヨォー、オレッ!」

続けざまに四度、ルイズの体を掠めて飛んだ。
視界内にある全ての「進むべき道」に体の一部を送り込む。
自然界に存在する目に見えないエネルギーを流し込む。
酩酊は混濁になり、混濁しながらも激しい痛みを伴った。
痛みには不慣れだが、それでもまだ我慢できる。
主が我慢している限り、使い魔が音を上げるわけにはいかない。
爪がささくれ、割れた。鱗が剥がれ、中空にとけ、消えていく。
自慢のヒゲが音も無く落ちた。牙の一本一本がぐらついている。
振り落とされそうな意識を保つ。寝るにはまだ早すぎる。



ドラゴンズ・ドリームは気づかなかった。
疲労感をはじめとして、眩暈、気絶、見るはずのない夢、それら全てがある一事を示していた。
何もせず、傍観者として静かに生きるべきだと教示してくれていた。
エネルギーの供給を絶たれたスタンドが力を振るえば、進むべき道は一つしかないのだから。



笑い声が聞こえない。
笑い声だけではなく、爆発音も聞こえない。全ての音が耳に入らない。
目の前が茫漠としてつかめない。
一つだけぼんやりと輝く黄色の球体が確認できた。
あれは太陽か。つまり、今は空を見ているということか。
「イケ……る……ゼ」
痛みを感じなくなった。これは都合がいい。
ドラゴンズ・ドリームはさらなる力を振り絞ってエネルギーを運び込む。
予測はつかない。だが結果が見える。燦然と輝くルイズの未来が見える。
「ヤッテ……やれ、ルイズ……ッ!」

見えず、聞こえない。だが感じることはできた。
全てのエネルギーが必然の角度で重なり合い、
絶対の方角を通して不安定な魔法を確かなものに変えた。
見えない目にも見える。濃い光が広がっていく。
「ヨッシャ……」
召喚は成功だ。この場にいなかったはずの気配を感じた。頼りないが、温かい。
「ヨシ……」
さすがルイズだ。この難局を見事に乗り切った。もうゼロと呼ぶものはいない。
「オメーら見ろッツーの……カッコいいダロ……自慢……ご……主……」
脳裏には微笑むルイズが見えた。
かわいらしい胸をそびやかし、腕と脚を高く上げ下ろしして食堂を行く。
その後ろにかしずくのはドラゴンズ・ドリームと後輩使い魔だ。
キュルケが分別くさく鼻を鳴らす。シャルロットは小さく拍手をしていた。
ギーシュは熱い視線をこちらへ送り、それを見たモンモランシーが憮然としている。
馬鹿にしていた連中も目を丸くしていた。
祝福と驚嘆と羨望と嫉妬の入り混じった視線が、ルイズとその僕達に降り注ぐ。
ひそひそと囁かれる噂話がここまで届く。
使い魔を二体も召喚するメイジがいるなんて! それもあんな美少女が!



ドラゴンズ・ドリームは知らなかった。
あらゆる魔法には曲げることのできないルールがある。召喚に関しても例外ではない。
サモン・サーヴァントを再び使うためには、召喚した使い魔が――死ななければならない。



「これでヤーット話できるネ。オレさ、話シタイコトタクサンあってサ。
 ルイズは知らなイだろうケド、コノ前食堂がスンゴカッタんだゼ……」




「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」
口々にそう言って笑いながら飛び去っていく。
召喚の真っ最中にも散々ちゃちゃを入れてくれた連中だ。
いつもなら怒鳴り返すところだが、今日は機嫌がいい。
残されたのはルイズと、才人と名乗る平民だけになった。

「ふざけんな! なんであいつら飛んでんの!」
何を怒っているのか分からない。
「そりゃ飛ぶわよ。メイジが飛ばなくてどうするの」
「メイジ? いったいここはどこだ!」
優しく諭したのに怒鳴り返された。これにはルイズもムッとくる。
「トリステインよ! そしてここはかの有名なトリステイン魔法学院!」
「魔法学院?」
なぜ疑問系で聞き返す。まさか魔法も知らないというのだろうか。
いったいどこの蛮族なんだろう。頭が痛くなりそうだ

「わたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。
 今日からあんたのご主人様よ。覚えておきなさい!」
「あの……ルイズさんよ」
「なによ」
「ほんとに、俺、召喚されたの?」
何度説明させるつもりなのか。
本来ならばルイズの堪忍袋はけして大きくない。
出会ったその日から喧嘩をしたくないため、大人の態度で抑えていたが、
これがどこまでもつのかは本人にさえも分からない。
「そう言ってるじゃない。何度も。口が酸っぱくなるほど。
 もう、諦めなさい。わたしも諦めるから」
「諦めるって……勝手に人を呼び出しといてなんて言い草だよ」
「言い草とはなんて言い草よ。仮にもあなた使い魔なんでしょう?
 ……はぁ、なんでわたしの使い魔、こんなに冴えない生き物なのかしら」
あれだけ失敗してからやっとの思いで成功したのだから
贅沢は言えないのだが、それでも言ってやりたい。
「もっとカッコいいのがよかったのに。ドラゴンとか。ドラゴンとか。ドラゴンとか」
「なんだよドラゴンって。いるわけねえじゃん」
「口の利き方に気をつけなさい。使い魔たるもの主人に忠節を誓って……」
「んなもん知らねェッツーの」

しずくが一滴、ルイズの心中に落ちた。波紋が広がっていく。
「ちょっと待って。あなた今なんて?」
「な、なんだよ。だから、ほら、使い魔の心得なんて知らないって……」
急に肩を掴まれサイトは面食らったようだったが、ルイズ本人もまた驚いていた。
自分がなぜ驚いたのか分からないことが彼女を戸惑わせていた。
何に驚いた? 田舎ものが使い魔を知らないこと? なぜそんなことに驚く?
驚くだけの理由が無い。なら他の理由で驚いた? いったい何に?
「オ、オレそんなにおかしなこと言った? いくらなんでも泣くこたないだろ」
「は? 何言ってるの? 何でわたしが泣かなきゃ……」
頬に手をやると、濡れていた。
これもまた分からない。ここで泣く理由も無い。
悲しいことも無ければ悔しいことも辛いことも無い。
強いて言うなら嬉しいことだろうか。
失敗に失敗を重ねた挙句、ようやくサモン・サーヴァントを成功させることができた。
たとえ召喚した使い魔がただの平民だったとしても成功は成功だ。
生れ落ちてから初めてとなる魔法の成功。嬉しくないわけが無い。
――なるほど。嬉し涙ってわけね。
これならば納得できる。
しかし使い魔――才人――にこれを悟らせてはならない。
サモン・サーヴァントに成功して嬉し泣きしているなどということが知られれば、
この使い魔はまず天狗になる。いかにも調子に乗りそうな顔をしている。
そんなことになればいい笑いものだ。
主人の立場を守るためにも、毅然とした姿勢を崩してはならない。
ルイズは誤魔化すことに決めた。ブラウスの袖口で涙を拭い、
「ほら、わけわかんないこと言ってないで黙ってついてくる。
 グズグズしてたらご飯抜きだからね!」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー