ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-6

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 ヴェストリの広場に立つ、決闘者二人。相対距離はおよそ20メイル。
 一人はギーシュ・ド・グラモン。
 それに対するはジョセフ・ジョースター。
 向かい合う決闘者を囲む貴族の少年少女達。 

 まだ昼食も終わったところだというのに、ギーシュの災難はなおも続行中だった。
 二股がバレたといっても、これはかなりの誤解が含まれている。
 モンモランシーが本命だというのはギーシュ自身も認めている。人前ではそっけない態度だが、二人きりになると意外と古式めかしく情が深い。モンモランシーを憎からず思っているから、彼女手製の香水を身に付けているし、瓶だって肌身離さず持っている。
 周囲曰く所の『浮気相手』のケティからは好意を寄せられているが、ギーシュ本人としては浮気以前のレベルである。
 健全な少年であるギーシュには、好意を寄せてくる相手を邪険にする理由はない。毎日挨拶するし、手を握ったり遠乗りに付き合ったりもする。
 だがそれが裏目に出た。
 ギーシュとしてはお愛想を振り撒いているだけのはずだったが、当のケティがギーシュの想像以上にギーシュにのめりこんでいたのだった。
 それに気付いたギーシュが、如何にしてケティを傷付けずそれとなくお別れするかを考えていたところ、気の利かないメイドが迂闊にも香水の瓶を拾ってしまった。
 しかも不運なことに、スキャンダルに飢えた友人達が面白半分にそれを囃し立てたのだ!
 ケティが大声で吹聴した勘違いを運悪く聞いてしまったモンモランシーからは、ワインを頭から引っ掛けられて絶交を宣告された。


 最愛の人には最低の振られ方をするし友人達は更に面白がるわで、ピンチの真っ只中に放り込まれて混乱したギーシュは、瓶を拾っただけのメイドに八つ当たりをしてしまった。
 友人達からの槍玉がメイドに向いて、これでひとまず急場を凌げたと思ったら……あの忌まわしい『ゼロ』のルイズの使い魔……平民の老人から突然手袋を投げ付けられて決闘を挑まれる! 

『なんだ、僕がどんな悪事を働いたというんだ! ここまでの仕打ちを受けなければならない理由が何処にある! くそ! くそっ!』

 高慢にも貴族に自殺の手伝いをさせようとする老人が何もかも悪い、とギーシュは責任転嫁を終了させていた。幾つかの不運が重なったにせよ、彼自身の脇の甘さが招いた事態だという真実は彼の頭の中から完全に抜け落ちていたのだった。


(……さぁて。大口叩いたはいいものの、メイジとやらの実力がどんなモンかまぁったくわからんからのォ~。これが他の五人なら気にせんと真正面から戦って勝てるんじゃろうが)
 脳裏に浮かぶのは、エジプトまで共に旅をした仲間達。
 それに対して自分が使えるのは波紋にハーミットパープル、それとイカサマハッタリ年季の違い。力押しで戦えるほど若くはない。
 だがジョセフは、目の前の坊やをさしたる障害として認識していない自分に気付いている。
 吸血鬼、柱の男、スタンド使い……彼らにあった紛う事のない殺気や凄みの欠片すら、目の前の少年は持ち合わせていない。それどころか、この期に及んで今の状況を戦いだと認識できていない。ただ身の程知らずの老人を甚振るだけの見世物の場としか考えていない。
 しかしそれでもジョセフは、目の前の少年を『敵』として認識していた。


 貴族の前でも怯えや恐怖を見せることなく、余裕綽々と言った様子で立っているジョセフ。
 それを見るギーシュの気分がいいはずもない。勢い良く薔薇の造花を突き付けると、芝居がかった態度で、ジョセフに向けてというより、周囲の観客に向けたセリフを叫んだ。
「いいだろう……どうせ老い先短い人生だ、この武門の名門グラモン家嫡子、『青銅』のギーシュ・ド・グラモンがお前の人生に美しくピリオドを刻んでやろう! ああ……そうそう、お前に一つ言っておく事がある」
 自分の世界に陶酔し切ったギーシュは、セリフを吐くごとにどんどん自分のカッコ良さとやらに耽溺していく。周囲の人垣からもちょっと笑い声が混じる。
 しかしジョセフはそれに頓着する様子もなく、右手の小指で耳をほじりながら口を開いた。

「次にお前は『僕はメイジだ。だから魔法で戦う。まさか文句はないだろうね』と言う」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。まさか文句はないだろうね……ハッ!?」

 ドッ、と笑い声が周囲から上がる。
 優雅さを気取っていたギーシュの顔が怒りと羞恥で真っ赤に染まったのは言うまでもない。
「……ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ……貴族への軽口の代償を平民が払い切れると思うなッ!!」
 著しくプライドを傷付けられたギーシュは歯軋りさえしながら、力任せに薔薇の造花を振り下ろす。
 一枚の花びらがゆらゆらと宙に舞ったかと思うと、それは瞬時に膨れ上がり、あっと言う間に女性型の巨大な人形へと変貌した。
 青銅の緑に輝く『彼女』の背丈は200サント、ジョセフより僅かに高い。
 フォルムも美しい流線型で、女性の美しいボディラインを再現しきっていた。四足歩行やキャタピラということもなく、両腕両足のスタンダードな二足歩行型だった。


「あははははははっ、見ろ! これが『青銅』のギーシュが生み出す美麗なゴーレム……その名も『ワルキューレ』だ!」
 既に勝利を確信したギーシュの高笑いと、これから始まる惨劇を期待する観客達の熱い視線がジョセフを包み込む。
 だがジョセフ本人は、ワルキューレと称された人形をただ観察していた。
(ほう。青銅とかなんとかのたまってたが……だとすると青銅製の自動人形じゃと考えていいわけじゃな。あれだけ自信があるんじゃから、実際の攻撃力もそれなりにあるんじゃろ。……んまあ、殴られたら痛いじゃろうなァ。なかなか重そうな腕をしとる)
 耳をほじっている右手を下ろしながら、ゆっくりと波紋を練り込んでいく。
 うっすらとジョセフの身体が発光するものの、昼下がりの日差しの中でほのかな光に気付く生徒はあまりおらず、数少ない生徒達も目の錯覚だと断じてしまった。
「さあ行けワルキューレ! 不遜な平民を痛めつけてやれ!」
 ギーシュがその言葉と共に薔薇を振り下ろした瞬間、ワルキューレは短距離走選手のような速度とフォームでジョセフへと駆けていく。
 ギーシュは勝利を確信し、シエスタは両手で覆った顔を背け、キュルケは養豚場の豚を見るような目をし、ルイズは部屋で不貞腐れ。
 ジョセフは慌てず騒がず、自分に駆け寄ってくるワルキューレが勢い良く左腕を振り上げ、風を切り裂いて自分の頭上に振り下ろされる拳を眺め――

 ついさっきまで耳をほじっていた右手の小指を、す、と差し出す。

 それでワルキューレの拳は完全に止まった。


「………………なっ………………?」
 理解できない光景が展開していた。
 図体が大きいとは言え、ジョセフは間違いなくメイジではない。ただの平民である。
 だが、ワルキューレの渾身の一撃は、無造作に差し出されたジョセフの小指で完全に止められていた。

「んあー。いい一撃じゃったのう。ただ一つ問題があるとすれば……」

 ワルキューレは自らの全体重をかけてジョセフを押し潰そうとするが、まるで老人は巨木でもあるかのように老人はびくともしない。かと言って後ろに引こうとしても、まるで地面に吸いつけられたように足が動かない。押すも引くも、ワルキューレには許されなかった。

「このワルキューレちゃんのパンチよりか、わしの耳クソの方がより手応えがあるってぇことじゃないかのォ?」

 事も無げに言い放つジョセフは、あくまでも飄々とした態度を崩していない。
 対してワルキューレは全身を軋ませるほど無理な駆動を強いても、そのままの体勢から身動き一つすら取る事ができない!
「ばっ……馬鹿な! 貴様ッ……何をしたッ! 何をしている!?」
 懸命に薔薇を上下させながら、ギーシュは絶叫にも似た問いを投げ付ける。
「そんぐらい自分で考えんと成長できんぞ、お貴族様のお坊ちゃま」
 差し出した指先に蝶を止まらせてますよ、と言わんばかりの涼しげな声で答えを返しながら、ジョセフはワルキューレの腹に左手を当てた。
(ハーミットパープルッッッ)


 紫の茨はワルキューレの内部でくまなく伸ばされる。万が一にもワルキューレの外に茨を出して観客達に見えてしまわないよう、そこだけは十分に注意する。もはや波紋は見せるしかないとは言え、切り札であるスタンドはまだ注意深く隠しておかなければならない。
 一瞬のうちにワルキューレの内部は紫の茨で占められる。
 どう戦うにせよ、相手の正体を把握せねばならない。その為にハーミットパープルを発動させ、内部構造を理解する。
(ふうむ。中はかっちり隙間なく青銅じゃな……関節もいい感じに作っておる。おそらく魔力とやらで動かしておるんじゃろうが……この魔力は、生命エネルギーとおおよそ同じと考えていいじゃろうな。
 そもそも四大元素が自然の中に存在するエネルギーと考えれば、波紋の親戚のようなモンと言ってもあながち間違っちゃおらんのう)
 解析し、大体の見当を付けるまでおよそ五秒。
 ハーミットパープルを解除し、左手を離し――

(果たして波紋は魔力に干渉するのか! まずはそれを試すッ!)

「たっぷり波紋を流し込んでやろう!! 響け波紋のビィィィィィトッッッ!!!」
 気合一閃! ジョセフの左アッパーが、動きを封じられたワルキューレのボディにめり込み……


 コンマ数秒前までワルキューレだった残骸は美しい青空をバックに空高く飛び散り、ヴェストリ広場に降り注いだ。


 地面に金属が盛大に降り注ぐ音と鳥の鳴き声が、時ならぬ静寂の中では大きく聞こえる。


 薔薇を振りかざしたまま固まるギーシュ。地面に散らばったワルキューレの残骸やジョセフを見つめる観衆。
 アッパーカットを振り抜いた体勢のまま固まるジョセフ。

(あ……あっれェ~~~~~? い、今……何が、起こったんじゃ……)

 高々と掲げられた左手を包む手袋の中では、使い魔のルーンが鮮やかに輝いていた。
 しかし手袋の中で輝いても、ジョセフ自身の目にも見えはしない。

(波紋って……こんなに強かった……かのォ~~~~~~!!?)


To Be Continued →

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