ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-7

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 もしこの光景を第三者が見ていれば、余程間抜けな光景に見えただろう。
 学院中の生徒が広場に集まった中、誰も言葉を発さずに何が起こったのかを全員が計りかねている、という状況を。
 その中でも現状を生み出したジョセフ本人が一番計りかねているというのが、何よりもマヌケだった。

(い……今ありのままに起こった事を話すぜ! なんてモンじゃあないわいッ……もっと恐ろしい何かがこのわしに起こっておるッッッ)

 どこぞのフランス人のようなことを考えながらも、ハッタリを最大の武器としているジョセフである。いち早く正気を取り戻すと、歯を剥き出すほど笑い、握り締めた左手をギーシュに向かって見せ付ける。
「どうじゃッ! これがこのわしジョセフ・ジョースターの実力の片鱗というモンじゃッ! 降参するなら今のうちじゃぞお坊ちゃん!」
(いや違う違う、何言ってんじゃあわしぃ~~~~~シエスタを侮辱したあやつをブッチめるんじゃろうがッ気が動転してるからっていつも通りに振る舞ってどうするッッッ)
 心の中で自分にツッコミを入れながらも、口から出てしまった言葉は取り消せない。
(頼むッ! ここでヘタれて参りましたとか言わんとってくれッ、そんな決着はお互いのためになりゃせんのじゃッ)
 ガッツポーズは取りながらも、内心冷や汗流し放題のジョセフだった。無論、そんな様子は億尾にも出さないのは流石と言うべきか。
 薔薇を突き出したままのギーシュは、そっと俯いたかと思うと……肩を小刻みに震わせた。
「ふっ……」
「ふ?」
「ふざけるなッッッッこの平民がーーーーーッッッ」
 ギーシュがブチ切れた。降伏勧告がいい方向に行ったのは喜ばしいが、ジョセフはジョセフで(あっちゃー、こりゃ本当にヤッベェかもしれんのう)と他人事のように考えていた。

「次のお前のセリフは『こんな侮辱をしておいて生きて帰れると思うな』じゃ」
 それにしてもこのジジイノリノリである。
「こんな侮辱をしておいて生きて帰れると思うなッ……貴様ああああッッッ!!」
 彼が怒りに任せて薔薇を振り下ろすと、今度は七枚の花びらが宙に舞い……七体のワルキューレが広場に現れた!
 しかも今度は、七体のワルキューレそれぞれが槍、斧、剣を持ち、片手にはシールドさえ構えている。先程までより格段に殺意の高い錬金に、観客達は大盛り上がりだ。

「おおっギーシュの奴本気出してきたぞ!」
「ワルキューレ七体同時とか大人気なくね? 二股バレたからってどうなんだアレ」
「こりゃあの平民死んだろ」

 観客はジョセフ以上に他人事丸出しの無責任な言葉を並べ立てる。
 しかしジョセフは、内心胸を撫で下ろしていた。
(二股か。あの年で二股なぞけしからんッ。ロクな大人にゃなりゃせんわいッ。
 だがまぁ~~よしよし。流石にあのお坊ちゃんも、そこまでヘタレじゃなかったということじゃな。ちょうどいい、わしに一体何が起こっているのか確認させてもらうッ!)


 両腕をボクシングスタイルに構えると、ワルキューレ達がどう来るのか様子を見る。
 地面に散らばるワルキューレの残骸を目の当たりにした後では、流石にギーシュも慎重な陣形を引いてくる。
 一体を自分の左前方に置き、ひとまずの守りを固める。前衛に四体横に並べ、中堅には二体を並べてジリジリと進軍させてくる。怒り狂っている割にはジョセフを侮ることをやめた、堅実な用兵をしてくる。
(ただのお坊ちゃまじゃないようじゃな。こうなると、いきなりお坊ちゃまに走り込んで殴り倒して終了ォッという甘い話にゃならんな)
 数の上ではお坊ちゃん+ワルキューレ七体で合わせて八人、対するこちらは一人。
 得体の知れない第三の力が手元にあるらしいが、それがどう使えるものなのか。
 さっきの状況をもう一度頭に思い浮かべてみる。

(波紋を込めた左手でアッパーぶちこんだら、あのワルキューレが吹き飛びおった。敵に強度がなかったワケじゃない……今の状況で波紋ヌキとかは出来ん。では左手以外で攻撃を仕掛けたらどうなるか、じゃな)

 確認すべき事柄を頭の中で反復すると、姿勢を低くして一番左のワルキューレに距離を詰める! 波紋を流しているとは言え、これほど身体を軽く感じるのは五十年ぶり……これまでのことを考えれば、まるで身体が羽根のようだ、とさえジョセフは思った。

「食らえぃッ! 波紋のビィィィィィトッッッ!!」

 まず最初は頭数を減らすことも期待して、左ストレートをワルキューレのくびれた腰目掛け撃ち放つ!


 鉄球を鉄骨の上に叩きつけたような凄まじい音を発したワルキューレは、陥没して引きちぎれた腰から上が地面に重々しく落ち、続いて残った下半身も膝から崩れ落ちた。
(左手はマグレじゃないということかッ)
 ワルキューレが使い物にならなくなったのを横目で確認して、すぐ隣のワルキューレの懐へ一気に飛び込んで距離を詰め……今度はワルキューレの脛に左のローキック!
 続いて響くのは、鉄板に鉄槌を振り下ろしたような鈍く大きな音。
 彼女の足はひしゃげるどころか引き千切れ、ぐらりと体勢を崩す。そのまま勢いに任せ、右フックを盾を構えた左腕目掛けて打ち込めば、盾を構えた腕どころか胴体にまで拳がめり込んだ。
 ワルキューレのフォルムが大きく歪んだのを確認すると、カウンター気味に振り回された腕を左腕で受け止め、そのまま反発する波紋を流して4メイルほど背後へ飛びずさる。
 僅かな時間で二体の金属人形をスクラップにしたジョセフは、自らの身体に起こっている異変にひたすら驚愕していた。

(い……一体、わしの身体に何が起こってるんじゃッ! これは明らかにわしの知らん力が働いておるッ……! だがDIOの血の効果じゃあないッ)

 まだそうだと判断するには早計かもしれないが、その可能性を否定する材料には乏しい。DIOの血が原因だとすれば、波紋を流し続けている自分にダメージが来ているはず。
 今のジョセフの血は、波紋の影響で主人にダメージを与えるどころか、ダメージ自体ほぼなくなっている。それはつまり、DIOの血はおおよそ浄化されているということだ。その考えたくもない可能性を放棄出来ることに、ジョセフは安堵の吐息を漏らす。


 しかしギーシュは素早く薔薇を振り、再びワルキューレの数を七に戻す。
 前に残っている四体のワルキューレは、一気にスピードを上げてジョセフへ距離を詰めていく。
(そりゃそうじゃわな、数で押してりゃどうにかなるかもしれんからなッ。幾らブッ飛ばしてもお坊ちゃんがすーぐに七体に数戻しやがるのが厄介じゃわいッ)
 ジリ、と後ろずさるジョセフの踵に、先程破壊したワルキューレの残骸が当たる。拳大ほどの青銅塊は、武器としても十分に使えそうだ。
 ジョセフは続いてテストを行うべく、素早く身を屈めると塊を両手に取り、左手の塊にだけ波紋を流す。
「これでも食らえぃッ!」
 裂帛の叫びと共に、一番近いワルキューレの足元目掛け、波紋を流した青銅を投げ付ける。
 その身体の振りを利用し、返す腕で波紋を流していない塊を二番目に近いワルキューレの足元へと投げ付ける! 本当は胴体目掛けて投げたかったが、流れ弾を観客にぶつけてしまうのは本意ではない。外れれば地面にめり込むコースを心がけて投げた。
 ワルキューレは素早く避けようとしたが、その努力もむなしく二体とも足に青銅塊の直撃を受けた。酷く歪んだ足は自重を支えることが出来ず、そのままぐらりと地面へと崩れ落ちた。

(これもそうかッ……投げたモノでもあのデカブツをブッ壊せるッ! それも波紋のあるなしは関係ナシということじゃな。詳しい事はちっともわからんが、これって……
 スター取ったファイヤーマリオ状態っつーことでいいんじゃろうなァ~~~ッ?)
 力の意味はよく判らんがとにかく凄い力だ、とジョセフは判断した。


 だがしかしだ。今しがた二つのワルキューレを再起不能にしたというのに、ギーシュは倒れたワルキューレに素早く見切りを付け、またも新しいワルキューレを錬金していた。
 ギーシュのその顔に焦りはない。むしろ余裕を取り戻した笑みさえ浮かべていた。

(そうさッ……冷静に考えたら幾ら平民が強かろうが、じっくりとチェックメイトまで駒を動かし続ければいいんだ! 向こうはたった一人、僕はワルキューレ七体とメイジ一人……この勝負、勝てるッ!)

 チッ、と舌打ちがジョセフの口から小さく漏れた。

(質量保存の法則とか余裕無視じゃのー。向こうが魔力尽きるまで根競べするか? ……出来ればそれは避けたいッ。お坊ちゃんの顔を見るに……まだまだ余裕ですよッて顔しとる!)

 得体の知れない力とは言え、いつどんな反動が来るかさえ理解できていない。そんな力に頼るのは出来うる限り避けたい。
 だがこちらは一人、どれだけ早く動いたとしても一度の動作で二体壊すのが今の限界。
 二体壊してもすぐに向こうは新しいのを用意してくるのだから、堂々巡りもいいところだ。
 無理矢理接近してもいいが、向こうもまだ何を隠し持ってるかは判らない。かと言ってこのままではジリ貧になるのは目に見えている。
 ならば取る手は!
 ジョセフは帽子を手に取ると、軽く頭を掻きむしり。そして帽子を被り直すとパンパンと手を叩き合せ、ニヤリと笑って言い放つ!


「こーゆー時は強行突破すんのが一番じゃよなァ~~~~~~!!?」

 そう叫んだ瞬間、ジョセフはワルキューレの隙間を潜り抜けてギーシュへの速攻タッチダウンを狙う!

「そう簡単に行かせると思うなよッ!! ワルキューレッッッッ!!」
 だがそれはギーシュにとって予想内の行動でしかない!
 そして何より、ギーシュの付近には召喚したてのワルキューレが多くいる。ギーシュへ辿り着く進路を巧みにブロックしながら、ジョセフの前に立ちふさがるワルキューレから必殺の速度を持って槍が突かれる!
「フンッッッ!!!」
 しかしその一撃は、ジョセフが素早く突き出した左肘が、切っ先を受け止める!
 だが背後からは剣を大きく振りかぶったワルキューレが、ジョセフの脳天を打ち砕こうと大上段から振り下ろし……
「チィッッ!!」
 こちらは帽子に当たったところで、帽子に流れた波紋が剣の動きを封じ込めた!
 だがそれでジョセフの足は敢え無く止まってしまい、その隙を見逃さないワルキューレ達が一斉に武器を哀れな老人目掛けて打ち下ろしたッ!
「まっ……まだまだ、じゃああああ!!」
 ジョセフは意地を見せる! 続いて振り下ろされる斧も剣も槍もメイスも、波紋を流した指や腕や肘で、辛くも全てを受け止めた。だがジョセフは、七体のワルキューレで象られた円陣の中央に封じ込められる結果となってしまった。
 少しでも力を抜けばジョセフはワルキューレ達の武器に押し潰されるだろう。ワルキューレ達は各々の怪力と数に任せ、ジリジリとジョセフへの圧迫を強めていく。


 それを見たギーシュが、自らの勝利を疑わない高らかな笑い声を上げた。
「は、はははははははッッ! 惨めな姿だな平民! まるで鳥篭の中のボロマリオネットじゃあないか!」
 ジョセフが身動き取れなくなったのを見て、余裕たっぷりに近付いていくギーシュ。
 ギーシュはマリオネットと言ったが、見る人間が見れば新しいジョジョ立ちとも称する事の
出来る……とどのつまり、ジョセフは人体構造にかなり無理を強いる体勢になっていた。
「やっ……やかましいわい!」
 さしものジョセフも、七体のワルキューレを支え切るのがやっとらしい。
 先程までの余裕の表情は何処へやら、歯を強く食いしばって辛うじてワルキューレを留めている、といった状態だった。
「ふはははははっ、全くお似合いの姿だよ! ああ、言い忘れていたが僕の能力は当然とも言えるかもしれないが『錬金』だけじゃない。僕自身にも攻撃手段があるということを先に言わせて貰おうッ! 僕の勝ちだッ平民ッッッ!!」
 罠にかかった獲物を今から嬲り殺そうとするハンターの笑みを浮かべながら、薔薇をジョセフに向けたその時!
「ちょっ……ちょぉっと待ってくれんかのぉ?」
 媚びているようなジョセフの笑みが、ギーシュに見えた。
「なんだどうした? あれだけ威勢のいいことを言っておきながら今頃命乞いか?」
「いやいや、命乞いだとはそんな。ここは一つ、お互いのために引き分け、ということにせんかと提案をな」
 当然ギーシュはハン、と鼻で笑い飛ばした。
「引き分けェ? 僕が勝ったのに? どうして僕が君の言う事を聞かなければならないんだい?」
「どうしてもダメですかなァ~?」
「どうしてもダメだな」
「どうしても?」
 ジョセフの笑みが消え、はっきりと唇が動いた。





           「ならお前の負けじゃ。色男のお坊ちゃん」






 ギーシュがその言葉の意味を吟味するよりも先に、ジョセフは瞬時に身を屈めたかと思うと――ジョセフのボディブローが、眼前のワルキューレの胴体を歪めて行く!
「この期に及んで悪足掻きをしてどうするッッッ」
 未だワルキューレの輪の中心にいるジョセフを見下ろし、悠然と薔薇を振ってワルキューレ達を動かそうとしたギーシュは、やっと気付いた。

『ジョセフに止められていたはずのワルキューレ達の武器が、ジョセフはしゃがんでいるというのに微動だにしていなかったこと』と、『薔薇を振ったはずなのにワルキューレ達はジョセフに抑えられているかのように身動きが取れないこと』に。

「なっ……」
「どおおおおりゃああああああッッッッ」

 何が起こっているのか理解し損ねたギーシュの眼前で、一体のワルキューレが吹き飛ばされ青銅の塊に成り下がった。
 六体のワルキューレは、それでも動こうとするが全く動くことが出来ない。
 目の前で起きていることが信じられず、何かに憑かれたように薔薇を振り回すギーシュの眼前に、ジョセフが立ちはだかった。
 ギーシュの心に、これまで経験したことのない感情が沸き上がったのを、彼は知った。

「なっ……何をした!? 何をしたと言うんだァーーーーッッッ!!?」
「そんぐらい自分で考えんと成長できんぞとさっき言ったはずじゃよな、お貴族様のお坊ちゃま?」

 ジョセフの左手が素早く動き、ギーシュの右手を薔薇ごと掴む。
 振り解くことも、薔薇を落とすことさえも、異様な握力の手は許さなかった。
 何故ワルキューレの動きが封じられたかを説明しようッ!
 ジョセフがワルキューレ達に突撃する前に『帽子を手に取ると、軽く頭を掻きむしり。そして帽子を被り直すとパンパンと手を叩き合せ』たことを思い出して欲しい。
 ここの描写をもっと詳細に描写するとこうなる。

『ジョセフは自分の髪の毛を数本掌に取り、波紋を流した髪の毛を両手に用意した』が、正確な描写なのだッ!

 ジョセフはワルキューレ達を自らの身を囮として誘き寄せさせて、ワルキューレ達の攻撃をわざと受け止めたのだ。
 その際振り下ろされた武器に波紋を流した髪を付着させ、隣にやって来たワルキューレにくっつけることにより、『ワルキューレ達を瞬間的に溶接』してしまったのだッッッ!
 そして一体だけ、「囲まれた後の脱出口を作る」ため、わざと溶接しないワルキューレを残す。
 ジョセフはワルキューレを各個撃破してもギーシュが次々と作り出す事への対抗策として、『壊さずに動きを止め、ワルキューレ達が動かないことに動揺したギーシュに接近をかける』ことを選んだのだッ!

 だがジョセフは、ギーシュに手品の種明かしをすることはしない。
「さぁて……オシオキの時間じゃのォ~~~~~、色男のお坊ちゃんよォ~~~~~?」


 今、自分が抱いている感情の名前は、恐怖なのだと。ギーシュの心の何処かが、答えを出した。


To Be Continued →

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー