ギーシュとの決闘から一週間が過ぎた。次第に落ち着いてきたポルナレフの生活は一週間前想定していた最悪のそれとは著しく異なっている物となっていた。
まず食事だが、決闘の日の夕食前に使用した無断貸借のテーブルクロスを律義にも洗濯し、返しに行くと
マルトーがポルナレフを『我らの剣』と呼び、無断で持ち出したことを許して貰えたばかりか食事の面倒も見てくれることになった。
次に、ドットとはいえメイジを倒した平民として学園中に噂が広まり、決闘を挑まれるようになってしまったのである。
迷惑この上ないと思い、ルイズに了承を得た上で、見せしめとして
1番最初に挑んできたマリコルヌを容赦無く『針串刺しの刑』に処したのだが、それでもまだ収まらなかった。
ちなみにマリコルヌは今日も医務室で寝ている。(全治二週間)
そして、これがポルナレフにとって最も大切な問題なのだが、とうとうルイズに亀の『ミスター・プレジデント』がバレたのである。
初日にルイズの目の前で入ったりしたが、それを見たルイズが混乱したために無視されていた。
(どうやら先住魔法を使ったのだと思っていたらしい。)
しかし、決闘でもそれを利用したりしたため、流石に怪しまれ始めた。
それにポルナレフが気付かないわけが無く、ルイズの部屋の一角に藁を持ち込み、
ルイズが寝息をたて始めるまでそこで寝たふりをし、それから亀の中に入り寝るようにしたのだが、それも三日で見破られ、亀に入った瞬間、首根っこを掴まれ尋問されることになった。
そして亀の中の部屋を見て、「使い魔が主人と同等あるいはそれ以上の部屋に住むのは許可しないィィィィ!」と言って亀の鍵は没収してしまった。
その後鍵を取り戻すまで藁の中で寝る事になった。
(お陰で鍵を取り上げられてから寝不足気味である。)
「隙だらけだ!小僧!」
「ゲファッ!」
ドサァッと本日二人目がポルナレフの肘打ちを鳩尾に喰らい悶絶した。
ポルナレフはつかつかと近寄っていき、相手の杖を踏み潰した。
ギャラリーから歓声が上がる。
「惜しかったなぁ~」
「結局またゼロの使い魔の勝ちかよ。」
「ていうかなんでナイフしか持ってないのに勝てんだ?」
「たった一つのシンプルな答えだ。『奴は平民を怒らせた』」
(蛇足であるがギーシュとの決闘でメイジにもスタンドは見えない事ははっきりしている。
だからポルナレフはナイフで戦っている振りをしている。)
一週間もたつと挑んでくる数は少なくなるが、ラインより上が挑んでくるようになったため、睡眠不足も伴って疲労も生傷も絶えなかった。
現に今のは三年生の水のトライアングルだった。
この疲労だと今日はもうきつい。失礼だが今日は止めておこうと考えた。
その時、普通のギャラリーとは明らかに違う視線を二つ感じた。十年以上戦い続けて来ただけあってそういうのには鋭いのだ。
ちらりと数が減り出したギャラリーに目をやると、キュルケの使い魔であるサラマンダー『フレイム』が目に入った。
そういえば最近自分が行く先でよく目にすることを思い出す。
ポルナレフは何だか嫌な気がし、これが一つだな、と確信した。
さてもう片方は…と捜すが見当たらない。気のせいか、と思ったが、視界の端に何か白いものが走り去っていくのが見えた。
よく見えなかったが白鼠だったみたいである。
ポルナレフはどちらも特に何も害が無さそうだと推測すると、その場から立ち去って行った。
-----------
場所は変わって学院長室。
中では学院長オスマンの他、コルベールと秘書のロングビルが三人共壁に掛かっている鏡を見ていた。
「また勝ちましたね。」
「これで何連勝かのう?ミスタ・コルベール。」
「多分二十ぐらいじゃないかと。」
「ふむう…」
彼等が見ている鏡は『遠見の鏡』と言い、離れた場所を見ることが出来るマジックアイテムだ。
三人はそれを通してポルナレフをギーシュとの決闘の時から決闘の度に監視していた。
その理由は平民がメイジに勝ったなどという安っぽい理由だけではない。
一番重大な理由は別にあった。それは一週間前のギーシュとの決闘の時からしばしば目撃されていた物だった。
-----------
「オールド・オスマン!!」
オスマンの部屋にU字禿がトレードマークのコルベール駆け込んで来た。
その時オスマンはロングビルと水パイプの是非を討論していた。
「あーえっと…ミスタ・プラント?」
「コルベールですッ!」
「ああ、スマンスマン、ミスタ・ボーンナム」
ダン!
コルベールが思いっきり壁を殴り付けた。壁にひびが入る。
「私の名前はコルベールだ…プラントでもボーンナムでも無い…コルベールだ…二度と間違えるな…」
「いや、本当にゴメン。ところで何かね?」
「先日ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔についてですが…」
ちらりとロングビルの方を見て
「二人だけでお願いできますか?」といった。
「ミス・ロングビル。スマンが少し席を外してくれ。」
オスマンはロングビルを退室させ、コルベールと向かい合った。
「さて話を聞こうか。ミスタ・コルベール。」
「はい。」
コルベールはポルナレフのルーンのスケッチを取り出した。
「このスケッチはあの平民の左手に刻まれた使い魔のルーンですが、
今まで見てきた様々な使い魔のルーンにこれと同じものを見たことが無かったので、気になり調べて見たのですが、このルーンが…」
今度は机の上に『始祖ブリミルの使い魔達』を置き、しおりを挟んでおいたページを開け、そこに描かれている絵を指差した。
「ガンダールヴのものと一緒なのです。」
オスマンは呆れた。何言ってんだ、この禿は。初めて見るルーンや似ている事ぐらいいくらでもあるだろうが。
「……冗談も休み休みにしたまえ。ミスタ・ペイジ」
「いや、大マジですから!あとコルベールです!」
その時コンコンと誰かがドアをノックした。
「すいません、オールド・オスマン。もう入っても宜しいでしょうか?お伝えしたいことが…」
ドアの向こうから聞こえてきたのはロングビルの声だった。
「いいぞ」
「え、ちょ…」
ガチャリとドアが開きロングビルが入って来た。
「ヴェストリ広場でまた決闘が…」
「またか。全く…校則で禁止しておるのに…で、その阿呆共は誰と誰かね?」
「ギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔です。」
最後の言葉を聞き、オスマンは意地悪く笑いコルベールの方を向いた。
「お主が言ったガンダールヴ君の実力を見てみようかのぉ?ミスタ・ジョーンズ」
明らかに挑発しつつ、遠見の鏡を使い決闘を観戦しだした。
途中、左手のルーンが光り二体のワルキューレの腕を切り落とした時の動きにも驚いていたが、(この時コルベールは何度も「ガンダールヴだ!」と叫んだ)
それ以上に鏡に映った『者』がその場にいた三人を驚かせた。
そしてこれこそがポルナレフを監視する理由となったのだ。
「なんでしょうか?これは?」
「さあ…ゴーレムじゃないのですか?」
「ゴーレムかと思うかね?じゃあなんで透けてるんじゃ?」
鏡に映った『それ』は透けていた。隠れるはずの後ろがうっすらと見えるのである。
「ゴーレムじゃないとすれば一体…」
「ガンダールヴですよ!」コルベールが誇らしげに言った。
「きっとガンダールヴの力で…」
「ガンダールヴにそのような力があると聞いた事が無い。それにわしらには見えておるが、どうも広場にいる者達には見えとらんらしい。」
コルベールの意見を全面否定してオスマンが言った。「いずれにせよ、メイジに平民が勝つとは…。わしらでしばらく監視を続けることにしよう。」
「おかえり、我が使い魔モートスルニル。…ふむふむ。」
「オールド・オスマン、どうだったのですか?」
「やはり『あのゴーレム』は見えんかったらしい。」
ううむ、とオスマンは唸った。
「やはり遠見の鏡を通さないと見えないのですか…。やっぱり本人を呼び出しますか?」
コルベールはどうやらポルナレフがやけに気になるらしい。言葉に力が篭る。
「…しょうがあるまい。あれで宝物庫とかをどうかされても困るしのう…あそこの壁を破れるとは思えんが…」
こうして後日、ポルナレフは学院長室に呼び出されることになった。
なお、コルベール、オスマン両者ともに気付かなかったが、宝物庫という言葉が出た時、ロングビルは少しだけ冷汗をかいていた。
To Be Continued...
まず食事だが、決闘の日の夕食前に使用した無断貸借のテーブルクロスを律義にも洗濯し、返しに行くと
マルトーがポルナレフを『我らの剣』と呼び、無断で持ち出したことを許して貰えたばかりか食事の面倒も見てくれることになった。
次に、ドットとはいえメイジを倒した平民として学園中に噂が広まり、決闘を挑まれるようになってしまったのである。
迷惑この上ないと思い、ルイズに了承を得た上で、見せしめとして
1番最初に挑んできたマリコルヌを容赦無く『針串刺しの刑』に処したのだが、それでもまだ収まらなかった。
ちなみにマリコルヌは今日も医務室で寝ている。(全治二週間)
そして、これがポルナレフにとって最も大切な問題なのだが、とうとうルイズに亀の『ミスター・プレジデント』がバレたのである。
初日にルイズの目の前で入ったりしたが、それを見たルイズが混乱したために無視されていた。
(どうやら先住魔法を使ったのだと思っていたらしい。)
しかし、決闘でもそれを利用したりしたため、流石に怪しまれ始めた。
それにポルナレフが気付かないわけが無く、ルイズの部屋の一角に藁を持ち込み、
ルイズが寝息をたて始めるまでそこで寝たふりをし、それから亀の中に入り寝るようにしたのだが、それも三日で見破られ、亀に入った瞬間、首根っこを掴まれ尋問されることになった。
そして亀の中の部屋を見て、「使い魔が主人と同等あるいはそれ以上の部屋に住むのは許可しないィィィィ!」と言って亀の鍵は没収してしまった。
その後鍵を取り戻すまで藁の中で寝る事になった。
(お陰で鍵を取り上げられてから寝不足気味である。)
「隙だらけだ!小僧!」
「ゲファッ!」
ドサァッと本日二人目がポルナレフの肘打ちを鳩尾に喰らい悶絶した。
ポルナレフはつかつかと近寄っていき、相手の杖を踏み潰した。
ギャラリーから歓声が上がる。
「惜しかったなぁ~」
「結局またゼロの使い魔の勝ちかよ。」
「ていうかなんでナイフしか持ってないのに勝てんだ?」
「たった一つのシンプルな答えだ。『奴は平民を怒らせた』」
(蛇足であるがギーシュとの決闘でメイジにもスタンドは見えない事ははっきりしている。
だからポルナレフはナイフで戦っている振りをしている。)
一週間もたつと挑んでくる数は少なくなるが、ラインより上が挑んでくるようになったため、睡眠不足も伴って疲労も生傷も絶えなかった。
現に今のは三年生の水のトライアングルだった。
この疲労だと今日はもうきつい。失礼だが今日は止めておこうと考えた。
その時、普通のギャラリーとは明らかに違う視線を二つ感じた。十年以上戦い続けて来ただけあってそういうのには鋭いのだ。
ちらりと数が減り出したギャラリーに目をやると、キュルケの使い魔であるサラマンダー『フレイム』が目に入った。
そういえば最近自分が行く先でよく目にすることを思い出す。
ポルナレフは何だか嫌な気がし、これが一つだな、と確信した。
さてもう片方は…と捜すが見当たらない。気のせいか、と思ったが、視界の端に何か白いものが走り去っていくのが見えた。
よく見えなかったが白鼠だったみたいである。
ポルナレフはどちらも特に何も害が無さそうだと推測すると、その場から立ち去って行った。
-----------
場所は変わって学院長室。
中では学院長オスマンの他、コルベールと秘書のロングビルが三人共壁に掛かっている鏡を見ていた。
「また勝ちましたね。」
「これで何連勝かのう?ミスタ・コルベール。」
「多分二十ぐらいじゃないかと。」
「ふむう…」
彼等が見ている鏡は『遠見の鏡』と言い、離れた場所を見ることが出来るマジックアイテムだ。
三人はそれを通してポルナレフをギーシュとの決闘の時から決闘の度に監視していた。
その理由は平民がメイジに勝ったなどという安っぽい理由だけではない。
一番重大な理由は別にあった。それは一週間前のギーシュとの決闘の時からしばしば目撃されていた物だった。
-----------
「オールド・オスマン!!」
オスマンの部屋にU字禿がトレードマークのコルベール駆け込んで来た。
その時オスマンはロングビルと水パイプの是非を討論していた。
「あーえっと…ミスタ・プラント?」
「コルベールですッ!」
「ああ、スマンスマン、ミスタ・ボーンナム」
ダン!
コルベールが思いっきり壁を殴り付けた。壁にひびが入る。
「私の名前はコルベールだ…プラントでもボーンナムでも無い…コルベールだ…二度と間違えるな…」
「いや、本当にゴメン。ところで何かね?」
「先日ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔についてですが…」
ちらりとロングビルの方を見て
「二人だけでお願いできますか?」といった。
「ミス・ロングビル。スマンが少し席を外してくれ。」
オスマンはロングビルを退室させ、コルベールと向かい合った。
「さて話を聞こうか。ミスタ・コルベール。」
「はい。」
コルベールはポルナレフのルーンのスケッチを取り出した。
「このスケッチはあの平民の左手に刻まれた使い魔のルーンですが、
今まで見てきた様々な使い魔のルーンにこれと同じものを見たことが無かったので、気になり調べて見たのですが、このルーンが…」
今度は机の上に『始祖ブリミルの使い魔達』を置き、しおりを挟んでおいたページを開け、そこに描かれている絵を指差した。
「ガンダールヴのものと一緒なのです。」
オスマンは呆れた。何言ってんだ、この禿は。初めて見るルーンや似ている事ぐらいいくらでもあるだろうが。
「……冗談も休み休みにしたまえ。ミスタ・ペイジ」
「いや、大マジですから!あとコルベールです!」
その時コンコンと誰かがドアをノックした。
「すいません、オールド・オスマン。もう入っても宜しいでしょうか?お伝えしたいことが…」
ドアの向こうから聞こえてきたのはロングビルの声だった。
「いいぞ」
「え、ちょ…」
ガチャリとドアが開きロングビルが入って来た。
「ヴェストリ広場でまた決闘が…」
「またか。全く…校則で禁止しておるのに…で、その阿呆共は誰と誰かね?」
「ギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔です。」
最後の言葉を聞き、オスマンは意地悪く笑いコルベールの方を向いた。
「お主が言ったガンダールヴ君の実力を見てみようかのぉ?ミスタ・ジョーンズ」
明らかに挑発しつつ、遠見の鏡を使い決闘を観戦しだした。
途中、左手のルーンが光り二体のワルキューレの腕を切り落とした時の動きにも驚いていたが、(この時コルベールは何度も「ガンダールヴだ!」と叫んだ)
それ以上に鏡に映った『者』がその場にいた三人を驚かせた。
そしてこれこそがポルナレフを監視する理由となったのだ。
「なんでしょうか?これは?」
「さあ…ゴーレムじゃないのですか?」
「ゴーレムかと思うかね?じゃあなんで透けてるんじゃ?」
鏡に映った『それ』は透けていた。隠れるはずの後ろがうっすらと見えるのである。
「ゴーレムじゃないとすれば一体…」
「ガンダールヴですよ!」コルベールが誇らしげに言った。
「きっとガンダールヴの力で…」
「ガンダールヴにそのような力があると聞いた事が無い。それにわしらには見えておるが、どうも広場にいる者達には見えとらんらしい。」
コルベールの意見を全面否定してオスマンが言った。「いずれにせよ、メイジに平民が勝つとは…。わしらでしばらく監視を続けることにしよう。」
「おかえり、我が使い魔モートスルニル。…ふむふむ。」
「オールド・オスマン、どうだったのですか?」
「やはり『あのゴーレム』は見えんかったらしい。」
ううむ、とオスマンは唸った。
「やはり遠見の鏡を通さないと見えないのですか…。やっぱり本人を呼び出しますか?」
コルベールはどうやらポルナレフがやけに気になるらしい。言葉に力が篭る。
「…しょうがあるまい。あれで宝物庫とかをどうかされても困るしのう…あそこの壁を破れるとは思えんが…」
こうして後日、ポルナレフは学院長室に呼び出されることになった。
なお、コルベール、オスマン両者ともに気付かなかったが、宝物庫という言葉が出た時、ロングビルは少しだけ冷汗をかいていた。
To Be Continued...