ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-7

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「ルイズさん、私の話を聞いてますか?」
「そりゃこっちの台詞でしょ。あなたこそわたしの話を聞いてちょうだい」
 目の端の涙をぬぐう。もう抗議のために来たんだか懇願をしに来たんだか。
「しかし私の話を聞いてもらわないと困ってしまいます」
「話を聞くにやぶさかではありませんけどね、誰が敵とか誰からの命令とかどこかから来たとか、そういう妄想は一切抜きにしてお話を進めてもらえないかしら」
「もちろんです。妄想を語る理由などありませんからね。全て事実をお話します」
「だったらいいけど……」
「私の本名はヌ・ミキタカゾ・ンシ。年齢は二百十六歳です。こちらの世界では『ミキタカゾ』の『キ』をとって『キーシュ』と名乗っています」
 こ、こいつ……。
「グラモン家の人たちは洗脳して息子だと思い込ましているんです。生活するためのお金や立場が必要だったものですから」
 わたしの言いたいことを……。
「出身地はマゼラン星雲の中の小さな星です。とてもいい所だったのですが滅亡してしまいました」
 まるで理解していない……!
「以前は宇宙船のパイロットをしていました。現在は多元宇宙における歴史の一巡による平行世界への影響を観察するために……」
「ストップ!」
 阿呆キーシュ、何面食らった顔してんの。あんたにそんな顔する権利はありません。
「分かった。分かりました。いいたいことがあるってのはよおっく分かりました」
「それはよかった」
 嬉しそうな顔する権利だってないからね。忌々しいったらもう。
「とりあえずそういう大きな話は置いておくとしてね。小さい話からにしましょう」
「ええ、分かりました。それではもう少し私的な話をしましょう。私の趣味は動物を飼うことです。かわいいでしょうこの二十日鼠。『ミキタカゾ』の『ミキ』をとってミッキーマウ……」
「ストップ!」
 ダメだ。放っておくと明後日の方向にかっ飛んでいく。
 婉曲的な言い回しとかちょっとした比喩表現とかは全部外して、可能な限りストレートにいかなくちゃ。

「……事実のみを確認していきましょう」
「はい」
「あんたはわたしのサモン・サーヴァント失敗に合わせて眼鏡を放り投げた」
「放り投げたというより作り上げたと言うべきです」
「それはわたしに召喚が成功したと思い込ませるためだった」
「ルイズさんだけでなく、他のみなさんにもそう信じてもらう必要がありました」
「それはなぜ?」
「よくぞ聞いてくれました」
 キーシュははちきれんばかりの笑顔で胸を張った。
「実は私、異世界からやってきたのです」
「……」
「本名はヌ・ミキタカゾ・ンシ。年齢は二百十六歳です。以前は宇宙船のパイロットをやっていたのですが……」
 ……。

 わたしの右隣には柔らかな壁があり、わたしはそこへ押し付けられていた。
 つまり、わたし自身が気づかないうちに、腰掛けていたはずのベッドで横倒しになっていた、ということだ。力が入らない。
 窓の外から嬌声が聞こえる。誰かがどこかで楽しいことをやっている。
 時を同じくして、わたしはベッドの上に倒れている。
 キーシュはまだ何事か話している。わたしは右耳から左耳へとやり過ごす。何も残らない。
 キュルケのおっぱいは見事だったな。あれは一つの芸術といっても差し支えなかったと思う。
 一つの、芸……術……ぅ……うう……。
「うわあああああああ!」
 お腹の底から声を振り絞り、二度三度と頬を叩いた。
 ベッドの上に仁王立ち、靴は履いたままだけどかまうもんか。
 わたしはまだ折れない。まだ折れないぞ。キーシュごとき口舌の徒の蒟蒻問答にだまくらかされてなるもんか。

「キーシュ!」
 不審げな顔で――少しくらいは怯えてくれるかと思ったのに――わたしを見上げるキーシュに対し、ぴしりと決め付けた。
「その話はさっき聞いた! もうけっこう! もっとストレートに! 単刀直入に! 答えなさい! あんたはどうしてわたしの邪魔をしたの!」
「……少し誤解があったようです。私は邪魔をしたわけではありません」
「どう考えても邪魔だってば!」
「結果的に邪魔をしてしまったことは申し訳なく思います。ですが、私は時間を稼ぐだけのつもりだったのです」
 窓の外の嬌声から遠慮の二文字が消えていく。
 振り上げたわたしの拳は、早くも行き場を失おうとしている。いやいや、ためらうなルイズ。
 キーシュの阿呆が、どうして何人もの真面目な生徒を騙すことができたのか、その理由が分かったような気がする。
 グラモンの兄は女を騙し、グラモンの弟は利口ぶった馬鹿を騙す。
 よく言ったもんね。でもわたしは馬鹿じゃない。馬鹿じゃないんだったら。
「時間を稼ぐってどういうこと?」
「あのままいけばルイズさんは失敗し続けるだけだったでしょう」
 悔しいけどそれはその通りだと思う。でもね、その通りだからどうだっていうの。
「成功したと勘違いすれば、そこで儀式を切り上げます。後でバレるとしても大丈夫。誰かの悪戯で勘違いしたんだからチャンスはもらえるはずでしょう」
「それで?」
「人をだますことは悪いことです。でもみんながハッピーならだましてもいいんだそうです。だから私はだましました」
 ハッピーなのはあんたの頭よクソバカゲロアホクサリカケミンチニクヤロウ。
「儀式が日延べになれば、私もルイズさんに協力することができます」
 トンチキドジマヌケドテカボチャクサレノウミソネジノイッポンハズレタ……ん?
「そうすれば確実に成功するでしょう。そうすれば私も嬉しい。ルイズさんも嬉しいです」
 協力? 確実に成功? こいつ本気で言ってるの?
 たしかにこのままじゃ何度繰り返したって成功する見込み無しだけど。
 キーシュの協力か……天才と呼ばれてるのは知ってるけど、まともに手伝ってくれるわけ? こいつ信用するくらいなら煮立った蛙風呂に入った方がマシうええええ気持ち悪い想像しちゃった。

「どうですルイズさん」
「……よおっく分かったわ」
 ちょっと心惹かれるものがあるのは嘘じゃない。キーシュの魔法の冴えは知ってるし。
 信用できないのはアレだけど、まともに協力しなかったら悪戯の件をバラしてやるとでも脅せばいいし。あんな悪戯したなんて知れれば今度こそ退学確定だろうしね。
 でもねぇ……あーあ、わたしのキャラってもんを考えると、ここでとるべき行動は一つだけなのよね。
 平手を振り上げ、キーシュの頬に叩きつける直前で、あっさりと止められた。止めちゃダメでしょ。ここは空気読んで殴られなよ。
「馬鹿にしないで! なんであんたなんかに同情されなきゃいけないのよ!」
 いやあ、本当のところね、助けてもらえるなら同情でもなんでもオールオッケーなんですわ。
 でもねえ、やっぱり一応貴族だからね。それにわたしってそういう性格ってことで通ってるでしょ?
 ああ、キーシュが適当な言い訳でわたしを説得してくれますように。
「これは同情じゃありません」
 よしよし、いいぞキーシュ。あんたの得意な詭弁でも何でもいいからがんばれ。
「私のためでもあるんです」
 ほうほう、それでそれで。
「実は使い魔を召喚していなかったことがバレてしまいました」
 ……は?
「召喚したふうに見せかけてミッキーを使い魔ということにしようとしたのですが」
 え?
「コルベール先生は大変怒っていたようです。私もあなたと一緒に召喚をやり直すことになりました」
 えええええええ?
「一緒にがんばりましょうルイズさん」
 あんた本当にちょっともうああああああああああああああああ!
 ……うぐぐぎが、外の嬌声は度し難い嬌羞をさらけ出し、すでに隠す気はさらさら無いらしい。
 胸いっぱいに息を吸い込み、ベッドから下りた。
 内側から窓の鍵を外し、全開で窓をオープン、胸の空気を残らず吐き出す。
「馬鹿は他所でやりなさい!」
 窓を閉めた。嬌声は聞こえなくなった。オープン助平どもざま見ろ。


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