「一体どういうことだ……」
彼が呟く。
「俺も聞きたいよ……」
わたしも呟く。本当にどうなってんだか。
見えるもの、聞くものすべて逆。唯一例外なのは彼と私自身だけ。彼には私が普通に見えるようだし、私にも彼が普通に見える。聞く場合も同じだ。
暫らくして私も彼も完全に落ち着きを取り戻す。
「考えてもわからないならしかたないな」
「そうだな」
彼はそう呟くとため息をつく。その言葉には賛成するよ。
「しかし何時まで我々はここにいるんだ?」
「……そうだったな」
ふとそんな疑問が頭を過ぎり呟く。彼は片眉をあげ反応を返してくる。
彼もそのことは失念していたようだ。
「しかしそんなもの考えていて結論は出るのか?」
……そうだった。どうしてここにいるかもわからないのに、何時までここいるかを考えるなんて情報不足にも程があるな。
情報がないクロスワードは出来はしない。
その場に座り込む。今ここで出来ることは何もない。
彼もそう思ったのだろう、その場に座り込んだ。男が二人正面に向かい合って座り込んでいる。やれやれ、これが女ならいいんだけどな。
それにしても、
「暇だな」
「ああ」
本当に暇だ。何かを考えるにしても情報が足りない。見渡す限り白くて(彼には黒いんだったな)何かあればわかりそうなものだが何も見えない。
あるのはぼやけた人影とそこから聞こえるサビの聞こえない歌だけ。何か暇を潰す道具があるわけでもない。
この状況を暇と言わずになんと呼ぶのだろうか。
彼が呟く。
「俺も聞きたいよ……」
わたしも呟く。本当にどうなってんだか。
見えるもの、聞くものすべて逆。唯一例外なのは彼と私自身だけ。彼には私が普通に見えるようだし、私にも彼が普通に見える。聞く場合も同じだ。
暫らくして私も彼も完全に落ち着きを取り戻す。
「考えてもわからないならしかたないな」
「そうだな」
彼はそう呟くとため息をつく。その言葉には賛成するよ。
「しかし何時まで我々はここにいるんだ?」
「……そうだったな」
ふとそんな疑問が頭を過ぎり呟く。彼は片眉をあげ反応を返してくる。
彼もそのことは失念していたようだ。
「しかしそんなもの考えていて結論は出るのか?」
……そうだった。どうしてここにいるかもわからないのに、何時までここいるかを考えるなんて情報不足にも程があるな。
情報がないクロスワードは出来はしない。
その場に座り込む。今ここで出来ることは何もない。
彼もそう思ったのだろう、その場に座り込んだ。男が二人正面に向かい合って座り込んでいる。やれやれ、これが女ならいいんだけどな。
それにしても、
「暇だな」
「ああ」
本当に暇だ。何かを考えるにしても情報が足りない。見渡す限り白くて(彼には黒いんだったな)何かあればわかりそうなものだが何も見えない。
あるのはぼやけた人影とそこから聞こえるサビの聞こえない歌だけ。何か暇を潰す道具があるわけでもない。
この状況を暇と言わずになんと呼ぶのだろうか。
「きみは今どこか行きたい所はあるかい?」
彼が話しかけてくる。そうか、お互い喋っていれば暇は潰せるな。
「ふむ、そういわれた一番行きたいのは劇場だな」
「へえ、劇場か」
「ああ、作品としてはどういったものでもいいんだが特にこれと絞るならやっぱワーグナーだろ」
「いい趣味してるじゃないか。ワーグナーのどれがいいんだ?私だったらやっぱり『ヴェーゼンドンク歌曲集』だな」
「私は代表的なものだよ。『ローエングリン』とか『パルジファル』、聞くだけなら『チューリヒの恋人』とかもいいな」
ああ、劇場に行くということは幽霊だったときには叶わなかった。ああいった場所のチケットは人から買うしかないのだ。
駅などのように機械がチケットを売るわけではない。生で『ローエングリン』が見れたらどれだけいいだろうか……、見れるだけの金はあったのに。
「それじゃあんたは何処に行きたいんだ?」
今度は逆に聞いてみる。その質問に彼は少し微笑む。
「私が住んでいるところにサンジェルマンというパン屋があってね。そこに行きたいんだ」
「パン屋?」
「ああ、特にカツサンドがおいしくてね、評判もよくて午後1時過ぎにはいつも売り切れさ」
そのあとそのカツサンドがどういったものなのか教えてもらう。
「そりゃあ、うまそうだな」
「うまそうじゃなくて、実際にうまいんだよ。そのカツサンドを恋人と一緒に公園で食べるのが好きなんだ。景色もよくてね、幸福を感じさせてくれる」
「恋人なんているのか。もてるな」
やはり喋っているといい暇つぶしになるものだ。
「そのパン屋がある町の名前聞かせてもらえないか?興味が出たんだ」
彼が話しかけてくる。そうか、お互い喋っていれば暇は潰せるな。
「ふむ、そういわれた一番行きたいのは劇場だな」
「へえ、劇場か」
「ああ、作品としてはどういったものでもいいんだが特にこれと絞るならやっぱワーグナーだろ」
「いい趣味してるじゃないか。ワーグナーのどれがいいんだ?私だったらやっぱり『ヴェーゼンドンク歌曲集』だな」
「私は代表的なものだよ。『ローエングリン』とか『パルジファル』、聞くだけなら『チューリヒの恋人』とかもいいな」
ああ、劇場に行くということは幽霊だったときには叶わなかった。ああいった場所のチケットは人から買うしかないのだ。
駅などのように機械がチケットを売るわけではない。生で『ローエングリン』が見れたらどれだけいいだろうか……、見れるだけの金はあったのに。
「それじゃあんたは何処に行きたいんだ?」
今度は逆に聞いてみる。その質問に彼は少し微笑む。
「私が住んでいるところにサンジェルマンというパン屋があってね。そこに行きたいんだ」
「パン屋?」
「ああ、特にカツサンドがおいしくてね、評判もよくて午後1時過ぎにはいつも売り切れさ」
そのあとそのカツサンドがどういったものなのか教えてもらう。
「そりゃあ、うまそうだな」
「うまそうじゃなくて、実際にうまいんだよ。そのカツサンドを恋人と一緒に公園で食べるのが好きなんだ。景色もよくてね、幸福を感じさせてくれる」
「恋人なんているのか。もてるな」
やはり喋っているといい暇つぶしになるものだ。
「そのパン屋がある町の名前聞かせてもらえないか?興味が出たんだ」
「ああ、S市杜王町というところだ。知ってるかい?結構名品が多いんだよ」
……なんだって?
「すまないがもう一度言ってもらえるかな?」
「だから、S市杜王町だと言っているだろう」
彼は少し呆れ顔をしている。しかしそんなことは問題ではない。
S市杜王町だと?そんなわけないじゃないか。この男はおかしい。
「その町から引越しでもしてはなれて暮らしてる?」
「いいや、どうしてあの町から引っ越さないと行けないんだ」
決定だ。この男はおかしい。立ち上がり少し距離をとる。
「どうしたんだ?」
彼は私が立ち上がったのを不思議に思ったのだろう。話しかけてくる。
「S市杜王町などというところは無い」
「はあ、何を言ってるんだ?現に私はそこに住ん「S市杜王町は……」」
彼の言葉を遮る。
「S市杜王町は何年も前にS市に合併吸収された。今ではS市杜王区だ」
彼の顔が驚愕に歪む。
「もしかしたらあんた……」
男が耳を押さえる。
「やめろ!話しかけるな!」
……なんだって?
「すまないがもう一度言ってもらえるかな?」
「だから、S市杜王町だと言っているだろう」
彼は少し呆れ顔をしている。しかしそんなことは問題ではない。
S市杜王町だと?そんなわけないじゃないか。この男はおかしい。
「その町から引越しでもしてはなれて暮らしてる?」
「いいや、どうしてあの町から引っ越さないと行けないんだ」
決定だ。この男はおかしい。立ち上がり少し距離をとる。
「どうしたんだ?」
彼は私が立ち上がったのを不思議に思ったのだろう。話しかけてくる。
「S市杜王町などというところは無い」
「はあ、何を言ってるんだ?現に私はそこに住ん「S市杜王町は……」」
彼の言葉を遮る。
「S市杜王町は何年も前にS市に合併吸収された。今ではS市杜王区だ」
彼の顔が驚愕に歪む。
「もしかしたらあんた……」
男が耳を押さえる。
「やめろ!話しかけるな!」
「死んでるんじゃないのか?」