ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第五話 『上は爆発下は洪水警報』

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第五話 『上は爆発下は洪水警報』

教室には先に駆け出していた者たちが先の闘いの余韻か、ざわつきながら座っていた。
しかしルイズとウェザーが入ると、水を打ったように静まり、みな一様に振り向き、奇異の視線を送る。
好奇心や畏怖といったものが大半だろうことは容易に想像できた。
もっとも、そのどれとも違う視線を赤と青が送っていたのに気付くことはなかった。
ルイズの後に続き彼女の席らしきところで立ち止まり振り返る。心なしか不機嫌そうだ。
「隣いいか?」
「ここはメイジの席だから使い魔は座っちゃダメ!座るなら床よ!」
「・・・・・・」
ルイズは正直ウェザーの視線が怖かったが、プライドが退かせなかった。
結局ウェザーは床には座らず教室の見渡せる後ろの壁にもたれることにした。
「しかしこれはまるで・・・『妖怪大戦争』だな」
確かに右も左も人外だらけなので言い得て妙だろう。中には普通に猫やカラスがいるが、大半は架空の生物だ。
六本足のトカゲや目玉の妖怪、半人半蛸の海獣などは以前エンポリオに見せてもらった『世界の神話・幻獣』と言う本に載っていたな。
改めて『異世界』を実感させられる。
しばらく教室を眺めていると扉が開き、中年女性が入ってきた。
紫のローブに帽子を被り、ふくよかな頬は穏やかな雰囲気を引き立たせている。
その中年女性が微笑んで言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」
言いながら教室中を品定めでもするかの様な目付きで眺め、やがてウェザーにたどり着いた。
「ミスタ・グラモンとミス・モンモラシーはお休みですか・・・おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」

シュヴルーズが教室内の異様な空気を読まずにとぼけた調子で言うが、それに反応するものはいなかった。
メイジを倒す平民。変わりすぎだった。笑えるものなどいはしない。
否、一人だけいた。
「ゼロのルイズ!召喚に失敗したからって平民なんか捕まえてくるなよな!」
「違うわよ!召喚に成功したら出てきたのがコイツだっただけよ!
だいたいただでさえ好かないアダ名をアンタのガラガラ声で言われたら余計に腹立つわ!『かぜっぴき』のマリコルヌ!」
「なんだと!俺は『風上』のマリコルヌだ!」
ルイズとマリコルヌが盛りのついた猫のように唸りながら火花を散らしていると、シュヴルーズが杖を振るい、二人をすとんと座らせた。
「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」
「ミセス・シュヴルーズ。僕はともかく、ゼロは事実ですよ」
話題がウェザーからルイズに逸れたからか、ようやく周りから笑いが漏れる。
シュヴルーズは再び杖を振るってそれらの生徒の口に赤土の粘土を押し付けた。
それを見たウェザーは、まったく魔法とは便利なものだな、と感心をした。
ようやく静まったところで授業の開始だ。
内容を要約すれば、「魔法には『火』『水』『土』『風』の四大系統がある」「五つ目の『虚無』は現在失われている」
「『土』が生活に密接している」ということだった。
ならば今さっき戦ったばかりのギーシュの系統はなんだ?『青銅』は『鉄』か?しかしそんな系統はない・・・
答えはこの目で見ることができた。

「今から皆さんには『土』系統の基礎である、『錬金』を覚えてもらいます」
なるほど、ギーシュは『土』を『錬金』で『青銅』にしたというわけか。
シュヴルーズが教卓の上の石ころにルーンを呟き杖を振ると、石ころが光り、収まるとそこには石ころの代わりにピカピカの金属があった。
「ゴ、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!」
キュルケが興奮して身を乗り出す。
「残念ながら、ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスでなければ・・・私はただの・・・」
そこでもったいぶり、一拍開けた。
「『トライアングル』ですから・・・」
またわからない単語だな・・・『スクウェア』と『トライアングル』。クラスと言っていたが・・・
悩んでいるとシュヴルーズが再び答えをくれた。
「ご存知かと存じますがメイジは系統を足せる数でランクが決まります。一つなら『ドット』二つなら『ライン』、三つで『トライアングル』となります」
つまり『スクウェア』がその上、つまり頂点か・・・しかしこのオバサン超能力者か?さっきからイイタイミングで解説が入るな・・・助かるが。
「では、誰かに実践してもらいましょう。そうですね・・・では、ミス・ヴァリエール!お願いします」
しかしシュヴルーズがルイズを指名した途端、室内が騒然となった。キュルケが青ざめて立ち上がる。
「先生やめてください!」
「なぜですか?」
「危険です」
教室が一体となり頷く。

「何をおっしゃるのですか。彼女が努力家なのは聞いていますし、失敗を恐れていては何も始まりませんよ?」
ルイズが決意したような表情で壇上に上がる。
教室が一気に戦場と化した。
「メーデー!メーデー!」
「落ち着け!落ち着け俺ッ!」
「あ、慌てるなッ!こう言うときのための『おはし』だろう!
『お』れより
『は』やく
『し』ぬなよ・・・」
「へへ、実は俺、この授業が終わったらメアリーに告白するんだ」
「早く入るんだ!」
「それじゃあ狭すぎてお前が入れない!」
「俺のことは構うな!・・・ケンカばっかだったがよぅ・・・お前のこと、嫌いじゃなかったぜ」
「ボーンナムーッ!」
教室中でドラマが生まれている。だが、後半喋っていた奴らは死ぬな・・・
真剣な眼差しで石ころとにらめっこしていたルイズはとうとう覚悟を決めたらしく、短いルーンを唱え、杖を振り下ろした。
石ころはシュヴルーズの時のように光り、そして――――爆発した。
爆心地にいたルイズとシュヴルーズは爆風で吹き飛ぶ。飛来する破片をウェザー・リポートで叩き落とす。
「メ・・・アリ・・・愛し・・・よ」
「・・・俺は生きているのか?はッ!ボーンナム・・・俺の『盾』になって・・・」
「へ・・・へへ・・・」
「ボーンナムーッ!」
案の定被害は奴らに集中したらしいが、それでも教室は滅茶苦茶だ。シュヴルーズは完全に伸びているな。
ルイズの方を見ると、むくりと立ち上がり、煤で汚れた体をはたきながら壇上の真ん中に立ち、この惨状を意に介した風もなく、顎に手を当て渋い顔でこう言った。
「うん?間違えたかな?」
『またかよ・・・』
生徒の心が一つになった瞬間である。


――時を同じくして保健室。
ギーシュが目を覚まして最初に見たものは可愛らしい女の子の顔だった。
ああ、天使がいる。そうか、僕は死んで天に召されたんだな・・・。
しかし、徐々に意識がはっきりしてくると、それがモンモラシーであることがわかった。
「ギーシュ!よかったわ!」
「モンモラシー・・・?ここは?」
「保健室よ。あなたルイズの使い魔と決闘して気を失ってしまったのよ」
「そうか・・・僕は敗けて・・・しかも生かされたのか」
僕は命を取られても文句は言うなと言ったのに、彼は生かしたのか。
そう思うとギーシュの眼から涙が溢れてきた。
「ちょっと、ギーシュ?平民に敗けてショックなのはわかるけど・・・」
「違う・・・違うんだよモンモラシー・・・」
そうだ、この涙は敗けたからじゃあない。悔しいからだ。
「モンモラシー・・・以前君が三年生に絡まれていたとき、僕はあの場にいたんだ・・・でも恐くて、遠くから見守るしかできなかった・・・僕は何もできなかった・・・悔しかったんだ・・・僕はしがない『ドット』で、君を守り抜く力がない」
せうだ、あの時は前を向いて歩いていたはずなのに・・・
「必死だったよ・・・あのナンパな種馬と言われていたこのギーシュがだ・・・図書館で魔法書を借りて読み漁り、気付いたら朝だったなんて日もあった。
ふふふ・・・笑ってくれよ。それだけ努力しても結果は石礫『モドキ』だよ。知っているだろう?ちゃんとした使い手なら岩くらいは楽に飛ばすと言うのに・・・僕のはせいぜい小石さ。
『風』の扱いも下手クソだから近距離じゃなきゃ届かないしね」
「だからあなた今まで隠してたの?目立ちたがりなあなたが?」
「そうさ・・・ちっとも上手くいかなくて、僕は上辺だけでもと・・・取り巻きを連れて、女の子をはべらせて、平民に威張り散らしていたんだ・・・」
いつから僕は歩みを止めてしまったんだろう。
涙が止まらない。悔しかった。やはり僕にはモンモラシーを守る力なんてないのだ・・・


俯いていたギーシュの涙をモンモラシーの細い指が拭う。
「あなたは私を名誉を守るために戦ったんでしょう?少し守りかたが間違っていたけど・・・アリガトウ・・・嬉しかったわ・・・そしてかっこよかった」
「モンモラシー・・・」
「一人で辛いなら二人で頑張りましょう?だからもう浮気なんていやよ?」
涙が止まらなかった。だが今のこれは違う。嬉し涙というやつだ。やはりモンモラシー、君が僕の女神だ!
「そうそう、あなたのズボンと下着は洗って干してあるから」
「は?」
モンモラシーが何を言っているのかわからないぞ?ズボン?下着?
モンモラシーは顔を赤くしてギーシュから視線を外し、恥ずかしそうに言った。
「濡れていたからしょうがないわよね。ほら、あんな状況だったし・・・」
状況?雨か?確かに降っていたがあの程度ならばほっといてもすぐ乾く。
「あれなら誰だってそうなるわ。人は恐怖すると・・・その・・・『緩くなる』って言うし」
まさか・・・。
「モ、モンモラシー・・・まさかそれは『大きい方』と『小さい方』があって『シ』で始まる下半身関係の言葉かい・・・?」
モンモラシーは顔を一層赤くして頷いた。
「うわあぁぁぁぁあぁッ!」
ギーシュは再び洪水のような涙を流して叫んだ。

シュヴルーズ――ルイズの爆発により脳震盪。二時間後に復活したがしばらく『錬金』をしなくなった。
生徒たち――死者は出なかったが、一部で友情が芽生え恋が成就した。
マリコルヌ――人知れず気絶していた。美人を召喚した夢を見たと語るが相手にされなかった。
モンモラシー――ギーシュが意外に大きいことを確認。小さくガッツポーズ。
ギーシュ――上も下も大洪水で干からびる。再起可能?

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