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さあ、本日は「
スキュラ」のお話をしましょう。
昔々のその昔、古代ギリシャに
スキュラという娘がいました。
彼女はポルクスという神を父に持つ水の精ニンフで、とても美しい容貌でした。
生まれもよく、見目も麗しい彼女は多くの男性を恋に落とし、そしてその全てにつれない態度をしていました。
ある時、グラウコスという男が
スキュラと偶然出会い、多くの男と同じように恋に落ちました。
グラウコスは言います。
「私は偉大な海の神の一柱だ。かつては人であったが、オケアノスとテテュスの祝福を受けた。この身に流れるクリロノミアを見るがいい。今や私はトリトンやプロメテウスにだって劣らない。どうか私の妻になっておくれ」
熱烈な求愛の言葉を紡ぐグラウコスでしたが、グラウコスは足の代わりに魚の尾が生えた異形の姿をしており、
スキュラは彼の姿を怖れ逃げ出してしまいます。
それでもグラウコスは諦めません。
近くの島に住まう、薬学と魔術に秀でた賢者キルケーにどうか彼女を振り向かせる手伝いをしてほしいと頼み込みました。
しかし、相談を受けたキルケーの方がグラウコスに恋をしてしまうのです。
キルケーは言いました。
「君に振り向かない女なんて放っておきな。それよりも君のことを真摯に想ってくれる女性をこそ愛するべきだと思わないかい?つまり、そう。私だ。こう見えて尽くすタイプだよ。それになにより、大魔女だぞ?」
突然の告白に戸惑うグラウコスでしたが、自分が恋をしているのは
スキュラだと頑として譲りません。
キルケーはその態度に怒り狂います。しかしそれでもグラウコスへの恋心は失わなかったキルケーは、彼が思いを寄せる
スキュラに牙をむきました。
水の精である
スキュラは決まってある淵で水浴びをする習慣がありました。
キルケーはその淵の水に毒を流し、魔術でもって
スキュラを苛みます。
するとどうでしょう、
スキュラの周りに突如犬が現れて吠えかかり、さらに蛸や烏賊の触手も彼女を取り囲むように出現しました。
スキュラは驚いて逃げ出そうとしますが、なぜだか足がうまく動きません。
それでも両の手で水をかいて必死に逃げ出しますが、どんなに泳いでも犬も触手も彼女の側から離れませんでした。
それもそのはず、
スキュラを取り巻く犬と触手は毒によって変質した
スキュラの体そのものだったからです。
こうして
スキュラは美しいニンフの上半身、下半身は幾つもの犬と触手が生えた姿へと変わってしまいました。
キルケーはそれを嗤いました。そしてこんどこそグラウコスを自分のものにしようと再び彼に言い寄ります。
グラウコスはそれを悲しみました。そして
スキュラを治せない無力を嘆き、
スキュラに毒を盛ったキルケーに怒り、二度と二人に会うことはありませんでした。
スキュラは悲しみ、嘆き、怒り、怖れ、恨みました。そして心まで怪物となった彼女は、毒を盛ったキルケーへの復讐を誓います。
しかしキルケーの住まうアイアイエー島には当然魔術による守りが施されており
スキュラに入ることは叶いません。
それでも彼女は諦めず、糧となるものを喰らって力を増し続けました。いつの日か、復讐の刃がキルケーに届く日を夢見て……
旅をする船乗りを次々に襲う彼女は当然あらゆるものから倒すべき怪物として扱われます。
ある時、かの大英雄ヘラクレスが通りがかった時には彼の連れた牡牛を喰らい糧としました。
当然ヘラクレスは怒り、自慢の弓でもって
スキュラを射殺します。
哀れに思った父ポルクスは
スキュラを生き返らせるのですが、神たる彼の権能をもってしても
スキュラのことは怪物として蘇らせることしかできませんでした。それほどキルケーの魔術は強大だったのです。
再びの生を得てなおも怪物であることを強いられた
スキュラはそれまで以上に自らが怪物であることを突き付けられ、大いに嘆いたことでしょう。
ヘラクレスに討伐されたことを悔やむこともなく今までと変わらず通りがかるものを喰らい続け、今度はトロイア戦争の英雄オデュッセウス一向に襲い掛かります。
彼の部下を6人食い殺すことに成功しますが、手痛い反撃を受けて犬の首を斬られ、オデュッセウスらは生き延びます。実はオデュッセウスは事前にアイアイエー島に立ち寄り、
スキュラが出るから気をつけろとキルケーから助言を受けていたのです。
それが致命となったのでしょう。
オデュッセウス一行の後に、トロイア方の英雄アイネイアス一行が付近を通ると、その時既に
スキュラは物言わぬ岩礁となっていました。
スキュラの復讐は実ることはなかったのです…………
◇ ◇ ◇
ばうわうびゃうわうわうわう!!!
獣の雄叫び。
(ひっ…!あの鳴き声……近づいて……)
複数の甲高い犬の鳴き声が響き渡る。
獲物を追い詰め、威嚇しているのか。獲物はこっちだと主人に伝えているのか。
なんにせよ碌なものじゃあるまいと、隠れ潜む魔術師は震える歯の根を噛みしめながら周囲を警戒する。
……鳴き声は止んだはずだが、脳裏にこびりついてまだ聞こえているような気がしてくる。
頭を振るってそんな幻聴をかき消し、周囲の気配と右手の令呪に意識を巡らせる。
(アサシンはまだ残っている。マスターは殺したんだ、そう長くはないはずだあの―――)
ぴちぴちぴちぴち……
濡れた音。
水気を含んだ、柔らかく、大きなナニカが這いまわる音がする方に魔術師は視線をやった。
そこにソイツは、いる。
簡素な布地で体を覆っただけの、美しい女性。
地中海系の深い顔立ち、真砂のように白い髪、母なる海を想起させる豊満な肉体。
……その魅力全てを塗り潰して余りある異形。
腰から下から六頭の犬の首が生え、足があるべき箇所からは烏賊か海月のような触腕がいくつも生えて蠢いている。
人のカタチだけなら150㎝前後と常識の範疇だが、犬のサイズを含めればその倍、触腕の長さまで含めれば4~5倍はあるだろうか。
その特徴的な外観から真名の推察は難しくない。
しかし、
スキュラという真名から致命となる情報を探るのは難しい。
キルケーに毒を盛られた?ヘラクレスに射殺された?そんなもの、大多数のサーヴァントに通用するに決まっているではないか。
だから、魔術師はマスターの方を狙った。
幸いにして彼のしもべは暗殺者のクラスで召喚され、その刃でもって寸分たがわず
スキュラのマスターらしき男の心臓を抉った。ついでに令呪のついた右腕も奪わせた。
そこまではよかった。
マスターの死に遅れて反応したサーヴァント、
スキュラからは即座に撤退を命じた。しかし、どこまでも
スキュラは追いすがってくるのだ。
奪った令呪を持っているため霊体化はできないが、気配遮断のスキルを持つアサシンを見失うことなく。するり、するりと触腕でもってその巨体を引きずって。
ついには距離をとっていたはずの魔術師との合流地点にまで、こうして姿を見せている。
なぜついてこれる?そもそも、マスターを殺したというのにいつまで現界しているというのだ?
逃げ出すべく、一時の拠点から飛び出して、路地裏に身を潜めて。
ゆっくり、と
スキュラから離れるべく歩を進めると
「やあ、やっと見つけた。僕の、んンっ。右腕はあなたが持ってるんですか?」
ぞぞ
と魔術師の背筋に冷たい悪寒が駆け抜ける。
突如現れて声をかけてきたのはしもべのアサシンに心臓を抉られたはずの男であった。
右腕を欠いてはいるが出血はなく、刃で抉られたはずの胸には傷一つなく、名残といえば破れた服くらいのもの。
男は何やら空咳を繰り返しながら刺されたであろう胸のあたりを、服の切れ目から左手を差し入れてかきむしっていた。
ずぶり
とその爪が、それどころか指全体が男の胸に突き立てられた。
えづきながら中をかき回している男を呆然と見ていると、耳垢でもほじくり出すように男は胸から赤黒く染まった布切れを掘り出した。
「あー、うん、よし。あなたのサーヴァントに刺されたときに破れたシャツが体の中に残ってたみたいでして。やっとすっきりしましたよ。
……ふふ、赤ずきんに石をつめられた狼はこんな気持ちだったのかな。どう思います?」
抉り出した服の切れ端をひらひらと振る。
当然取り出した時に相応の出血もしたのだが、その傷もすでに跡形もない。
「お、お前……」
何者なんだ?
どうやってついてきたんだ?
なぜ死んでいない?
神秘の徒ならば軽々しく口にはできないような稚拙な疑問だが、それが口をついて出てしまいそうなほどに異様な空気を男は漂わせていた。
その問いが発せられる前に、ずるりずるりと這うような音がして
「神狩屋さん」
怪物もまた合流する。
すん、すんと犬の何頭かが鼻を鳴らしていた。続けて唸り声をあげて魔術師相手に涎を垂らす。
あと数歩で、
スキュラの牙が魔術師に届く。
犬の頭を女性の手が伸びて撫でると、唸り声が不承不承といった様子だが大人しくなる。
自らの体の一部をペットのように慈しむ姿は、美しくあるが、同時に滑稽でもあり、また悍ましくもあると魔術師には思えた。
「神狩屋さん。それであなたの腕はどちらに?」
「うーん、どうやら彼は持ってないらしい。これは僕より修司のやり方だから慣れていないんだが」
スキュラの問いかけに答えるように、神狩屋と呼ばれた男はかけた右腕をセンサーのように振るう。
その先に引き合うものを探して―――
「あ」
こっちだ、と神狩屋が口にしようとした瞬間。
ひゅう
と空を切る音。
そしてその音よりも速く、短刀が神狩屋と
スキュラに向けて投げられていた。
方角は神狩屋の示した方向……神狩屋の右腕を持ったアサシンが、マスターの窮地を救わんと放った攻撃。
速い。だが、
スキュラの反応も早かった。
「『牙をむく獣の数字(アドベント・ビースト)』。食べていいわよ、私(
スキュラ)」
ばうわうびゃうわうわうわう!!!
と六つの犬の頭が雄叫びを上げ、牙をむいた。
首をまるで大蛇のように長く伸ばすと、二頭が投げられた短刀を弾き、三頭がアサシンの腕と喉笛を食いちぎって神狩屋の腕を取り戻し、一頭は魔術師の両足に噛みついた。
「ひぎゅッ!が、ああああああああああああ!!!」
ぶちり、ぶちり。
犬の牙が食い込み、肉を咀嚼する音が両足としもべの体から響く。
どちらもすぐに耐えきれず、アサシンは消滅し、魔術師の足も犬のエサとなった。
咀嚼は終わっても痛みは止むわけではなく、魔術師の口から出る悲鳴もまた止まない。
それを見ても何も感じることはないのだろう、神狩屋は
スキュラに自身の右腕を渡されると、それを患部に押し当てて即座に繋いで見せた。
その異様な回復力に魔術師もさすがに息を飲み、一瞬だが悲鳴が止まる。
それを見て神狩屋は魔術師が口にし損ねたWhy?に答えた。
「僕の〈断章〉は〈黄泉戸契〉。口にしたものは決して死なない黄泉の人になる。心臓を抉られた程度じゃ、死ねないんですよ。
そしてあなたたちが僕の右手を持っていったから、治ろうとする僕の体に引かれてあなたたちを探し当てました。聞きたいこともあったので」
話ながら神狩屋はゆっくりと魔術師に歩み寄る。
それに
スキュラはいい顔をしないし、犬たちも心配するように小さく吠える。
「神狩屋さん?」
「言ったろうアヴェンジャー。君の目的に協力はするが、僕の目的も忘れるつもりはないと」
止めようとする
スキュラを神狩屋は制して、魔術師と向き合う。
「あのアサシンのことは、その、残念だった。僕を殺してくれるんじゃないかと期待したんですがね……宝具ならできたんでしょうか。だとしたら心底悔やまれる……まあ、終わったことより、今はあなたです」
心の底から残念だ、と。お悔やみを伝える弔問客のようにアサシンの死を悼み、そして何より羨み。
今にも命尽きかねない魔術師にも心配するように声をかけ、縋るように口にした。
「あなたは、僕を殺してくれますか?」
心底の望みだった。
虚しさしかない神狩屋の生の、全てを籠めたような願い事。
底の見えない谷底を映したような神狩屋の瞳に魔術師は逃げ出したくなるほどの恐怖を覚え……そして逃避のために足の痛みと流れる血液に身を任せて逝こうとする。
「―――お願いですよ。死んでなんかいないで、答えてください」
ぐい、ごくん。
何かが魔術師の口内に押し込まれ、力づくで胃の腑まで送り込まれる。
それは神狩屋の手にあった布切れ……神狩屋の血で赤く染まったシャツの切れ端だった。
「い…や…え、えぇ……?」
男の足の痛みが止んだ。出血も収まる。意識もはっきりしてきた。
でも、それが〈悪夢〉の始まりだった。
―――〈黄泉戸契〉。口にしたものは決して死なない黄泉の人になる―――
その神狩屋の言葉がフラッシュバックするとともに、魔術師の体が変化する。
「え、あ、あぁぁあぁ!?嫌だ嫌だ嫌だイヤダ、ナン、これッ!?」
食い千切られた足が再生していく……いや再生ではなく、新生というほうが近いだろうか。
生えてきたのは鱗に塗れ、磯の匂いを漂わせた異形……魚の尾びれだった。
痛みはない。けれども人間の身体じゃない部位に鼓動とともに血が通っていくのを感じ、それが自分の一部だというのに凄まじい嫌悪感と違和感を覚えさせられる。
獣化魔術とか人形とかそんなものではすまない、もっと悍ましい変化が強制的に引き起こされる。
悲鳴を上げる声の質も変わっていく。喉元から頬にかけて骨格から変わっていき、エラの張った魚のような顔立ちに。
腕からも鱗が、それどころか小魚の顔までぴちぴちと音を立てて産毛のように生えてきた。
「い、やだ。やめ、助け―――」
「大丈夫、そうなればもう死にませんよ。だから、どうか答えて。僕を殺してくれませんか?」
魔術師の悲嘆など知ったことではないというように淡々と神狩屋は問い続ける。
今までに体験したどんな魔術よりも凄惨な、肉体が変質してくという拷問に魔術師は悲鳴を上げて屈した。
「む、無理だ!アサシンで殺せなかったものを私で、でで、できるわけがない!なんなんだ、これ!?ヨモツヘグリって極東の?どうす―――」
「そうですか。でしたら、もう結構です」
望む答えが得られなかったことで神狩屋は冷徹な表情をさらに冷たく染め上げ、魔術師の口に右腕に付着していた血を流しこんだ。
それにより魔術師の変化は加速する。
顔立ちはさらに魚染みて、全身が肥大して鱗を纏い、尾びれが二分して足のようになり。
最後に魚が地上で呼吸ができないときのように、口をパクパクと開閉しながら、言葉を発して彼の人としての生は終わった。
「おま、キル、ケェ?」
「…………ふむ」
陸に上がった魚のように僅かに痙攣するだけになったそれを神狩屋は見下ろす。
さらに上方から
スキュラがそれを見下ろし、魔術師の変化が終わったのを見届けると触腕でもって魔術師だったモノを掴んで犬の口へと運ぶ。
「よし」
許可を出すと犬たちはそれに食いついて、肉を喰いつつ『魂食い』も同時に行う。
本来ならば致命となる捕食行為だが、神狩屋の断章によって不死身にされてしまった魔術師は、食われても食われても再生を続ける。まるで中国の視肉か、北欧のセーフリムニルのような無限のエネルギー源へと彼はなってしまった。
「これで、僕が死んでも大丈夫かな?」
「…あなたが死んでもこのサカナが死なないのならば、ですけれど。というかあなたほどの魔力と不死性を持ったマスターを失うのは惜しいので今からでも考え直していただきたいのですけれど」
「それは難しいかなあ、どちらも」
心底申し訳なさそうに頭をかく神狩屋に呆れたように
スキュラはため息をつく。犬も抗議のように小さくうなる。
「何度も言うけど、僕は死ねない自殺志願者だし、君のように神様相手に復讐を考えるほど前向きにはなれない。というか、意思があるように見える現象に過ぎないカミサマに当たり散らすことに何の意味も見いだせない」
それが神狩屋の哲学・信仰だ。強烈な自殺志願者にして究極の無神論者。
死後の世界や幽霊など一切信じない。幽霊なんてものは、生前の誰かに似たような振る舞いを偶然起こしているように見えるだけの現象に過ぎないのだと。
死を求めるのは恋人のいない世界に一切の意味を感じていないから。死後に再会できるとか輪廻だとか、そういうのではないのだ。
だから聖杯に恋人を生き返らせたいと願うことはないし、神様への復讐なんて台風で死んだ人の仇をとるべく台風にミサイルを打ち込むようなもの。あまりにも虚しい。
「……だから、あなたを殺せる人かサーヴァントを探す?白野くん、でした?あなたの肝いりでも殺せなかったあなたを?」
「うん。さすがに死んだと思ったらここにいたというのはへこたれたけど、だからといって生きることに前向きにはなれないよ。僕の心はとっくに死んでいるんだから」
死ぬ希望が叶わないのは神狩屋にとってはいつものことだ。
一部再生しないところまではいって、むしろ彼以上の〈断章保持者〉ならば殺せるだろうと希望が湧くほど。
聖杯戦争。
過去の英雄譚を数多再現するなんて、とびっきりの〈元型〉にまみれたここでなら不死身の人魚を殺すことだってできるはず。
「とはいえ再現される英霊に限りがある以上、確実に死ねるとも限らないからね。サブプランとして君と協力し、聖杯を手にして自殺願うというのも嘘ではないよ、アヴェンジャー」
「欲のない人ですこと」
まあそれこそヘラクレスにヒュドラの毒矢を撃たれたり、ペルセウスにハルぺーで斬られでもしなければ大丈夫だろう……と楽観することにする。
まだ不満そうな犬たちをよしよしと撫でて、
スキュラはせめて自分は前向きにいくことにした。
「それでは、勝つために私が動くのに協力してくれますね?神狩屋さん」
「もちろん」
神狩屋の答えに、では、と犬を抑えていた手をほどく。
「『禁断なる讐宴(メタボ・スキュラーズ)』」
魔術師であったサカナを、今度は肉の一片も残さず犬が咀嚼し、呑み込む。
唾液と混ぜてよく噛んで、体内に取り込むとそれが糧となったのだろう。触腕の一つが鳴動して太く大きく成長する。
「……〈黄泉戸契〉はサーヴァントには効かないのかい?」
「さて。私の体はキルケーの毒で変質し、少なくとも海神グラウコス様の手には負えませんでした。キルケーの毒以上の劇物・薬物でなければ私の体は変わりません」
憎々しく
スキュラは漏らした。
怨嗟の籠もったこの声を聴けば、
スキュラという存在の本質は下半身の怪物ではなく、内面の復讐心であることが誰にでもわかろう。
「なら僕の〈断章〉で回復に専念できる、と。しかし今全部食べる意味はあったのかい?」
「それが私の宝具です。この身に未だ流れるキルケーの毒。血でも肉で涙でも犬の唾液でも、取り込んだ物を怪物(
スキュラ)に変えて使役する」
太くなった触腕が再び脈動し、半ばから抜け落ちるように生え変わった。
そして落ちた肉塊が変形して、一個の怪物……半魚人のカタチになった。
「犬か水怪になるのですけど、見ないデザインですね。神狩屋さんの〈断章〉の影響でしょうか?」
「僕の〈断章〉の影響ならもっと醜い姿になる。これはいわゆる〈インスマス面〉というやつだね……混ざったことでこうなったのか。あるいはこの地での影響か?興味深いな」
揃ってしげしげと観察するが、見たところで疑問の答えが出るでもない。
当座の方針通り、
スキュラはそれを放つことにした。
犬を追うように放つと、半漁はぺたぺたと湿った足音を立て、磯臭い匂いを振りまいて街へ進んでいった。
「おとり?あるいは威力偵察かな?」
「そうですね。あれも私(
スキュラ)の一部なので、〈通りがかった力ある糧に襲い掛かる水怪〉になっています。マスターやサーヴァントを見つけたらたちまち襲い掛かるでしょう。私(
スキュラ)の暴威と、〈黄泉戸契〉の不死身さでもって」
「あれを君と同じ
スキュラと呼ぶのは憚られるし、紛らわしいね……仮に〈深きもの〉と呼称しても?」
「いいですよ。ふふ、まるで神狩屋さんと私の子供に名をつけたみたい」
「それは…まあ名付け親くらいで勘弁してほしいかなあ」
愉快そうに笑う
スキュラは、さすが神話の住人か枯れた神狩屋から見ても美しい。
恋人以外のことを捨ててきて、これからも拾うつもりがないとはいえ些か毒ではあった。
誤魔化すように笑って話題を逸らした。
「そういえば先ほどのマスターは僕をキルケーと最期に呼んでいたけれど……」
「あなたが?キルケー?そうですね……」
スキュラ少し戸惑ったような声を漏らし、神狩屋をじっくりと見つめる。
目の色に憎悪と好奇がぐるぐる混じり、獣のような笑みを浮かべて言葉を発した。
「神狩屋さん。あなた、恋人以外の全てがどうでもいいタイプですよね?私は恋を知らないから、その気持ちを理解はできませんが」
「うん?まあ……そうだね」
そこまで切り込んだ話はした覚えはないが価値観については散々触れたし察しはつくだろうか。
……いや、志弦に言及はしていないはず、と神狩屋の胸中に疑問が満ちる。
「サーヴァントとマスターはお互いの過去を夢に見ることがあります。少し、見てしまいした」
そう言って
スキュラはいたずらそうに笑う。
悪夢の共有という前例を知る神狩屋はそういうものかと納得する。
「気を悪くするかもしれませんが、優秀な知恵と力を恋人のために、ひいては自分のためだけに振りかざすところは、ええ。キルケーと似たところがあるかもしれません」
「それは困るなあ」
大魔女キルケ―に似ている。
聞く人が聞けば殺し合いにまで発展しかねない発言にも神狩屋は困る、としか反応しない。
「キルケーには殺された逸話がない。いや、オデュッセウスに命乞いをしなければ殺してもらえるのかな……?」
どうでも良さそうな神狩屋の言葉だが、
スキュラはそれに敏感に反応した。
「オデュッセウス…ええ、かの人ならば殺せるかもしれませんね。でもそれは私が困ります。キルケーを殺すのは私なんですから」
深く思い憎悪と狂気を、美しきニンフが振りまいた。
下半身の犬たちが怯えるほどのそれは、神狩屋の知る幾人かの〈断章保持者〉のそれと同質ながら大きく上回って感じられた。
さすがに復讐者のサーヴァント、といったところか。
「ねえ、神狩屋さん。やっぱりあなたも復讐に〈生きて〉みませんか?」
復讐の先達者が、後進をいざなうように語り掛けた。
「マスター、ああ私のマスター。あなたは私、私はあなた。
私と同じ、神の手で怪物にされたヒト。一度死んだはずなのに、もう一度怪物としての生を余儀なくされたヒト。
その名も『神狩屋』。神を狩るもの、いい屋号じゃないですか。自殺志願者という欠点を補って余りある魔力と不死性。なのに、あなたは神殺しを願わないなんて」
不満というより心底意味が分からない、という風だ。
召喚されたときに理由は聞いた。個々の信仰によるものでは仕方ないのかもしれないが、少なくとも
スキュラに共感できるものではない。
「人格のないシステムに復讐しても意味はない?ええ、ええ。確かに神々はただの機構です。それでも、その機構を壊したいとは思わないんですか?気が済むまでめちゃくちゃにしてやりたいと、本当に思わないのですか?」
「……そこに意味を感じられない、と前にも―――」
「意味、ですって?」
「ただの機構を壊すのに意味はない?復讐なんて、得るものなどない虚しいもの。結局は意味のない八つ当たりでしょう?それに―――」
「今のあなたが生きている、そこに何か意味はあるのですか?意味がないから自殺しようとしてるのでしょう?」
それを。
真っ向からつきつけてくる残酷な者は少なくとも神狩屋の周りにはいなかった。
だから
「ああ…………それは、盲点だったね」
復讐なんて、意味がない。それは時槻雪乃をはじめとする多くの〈断章保持者〉にさんざん言ってきたことだ。
自分の生に、意味はない。それは自分が痛感していて、だから恋人のいないこの世界から消え去ろうとしてるのだ。
無意味に無意味を重ねても、何も変わらないのでは?
神を殺す。復讐する。八つ当たりする。それは、今までと何ら変わらない無意味な生のままなのでは?
―――それなら、志弦の行為を無意味にはしないだろう。彼女を恨む必要は、ないだろう。
「それじゃあ、試しに殺してみようか。神とやらも」
ゴミを捨てるように。
無価値なものを放るように。
何の執着も戸惑いもなく、神狩屋は復讐者となる道を選べた。
だって結局無意味なのだから、と悟ることで。
「なるほど、君はたしかに僕だね」
無意味な復讐のために生きる怪物。
美しい女性の上半身に、水怪の足で蠢く〈人魚姫〉が、人魚の肉を喰らって、不死身となった〈人魚姫〉を導いた。
この人魚姫はきっと王子の命を短刀で奪う。
【クラス】
アヴェンジャー
【パラメーター】
筋力A++ 耐久B 敏捷C+++ 魔力A 幸運E 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:B
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:A+
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
時がどれほど流れようとも、その憎悪は決して晴れない。たとえ、憎悪より素晴らしいものを知ったとしても。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化する。
自己回復(魔力):A+
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。
ニンフとして生まれ持った神秘に加えて魔女キルケ―の毒を身に宿し続ける
スキュラは最上級の回復力を誇る。
【保有スキル】
怪力:A
魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。
スキュラの場合、使えば使うほど魔獣化が進行してしてしまう。具体的には触腕の数や犬の首の数が増えたりするなど。
変転の魔:B+
英雄や神が生前に魔として変じたことを示す。
過去に於ける事実を強調することでサーヴァントとしての能力を著しく強化させるスキル。
スキュラの場合、人の身では絶対に不可能なランクの筋力に到達し、水上・水辺においては敏捷も超常の域に達する。
なお怪物である犬の頭は一つ一つが
スキュラとは別の思考を持つため、このスキルも
スキュラの完全な制御下ではないといえる。
一応
スキュラは犬の頭を『私(
スキュラ)』と呼び、自らの一部かつペットのようなものとして従えてはいる。
精神異常:B
精神を病んでいる。バーサーカー化による狂化ではなく、恐れを知らなくなる精神的なスパーアーマー。
どのくらい恐れ知らずかというと大英雄であるオデュッセウスやヘラクレスに躊躇なく襲い掛かり、ヘラの加護がなければアルゴノーツすらも襲撃していたくらい。
怖れ、怒り、魅了、憐憫その他いかなる精神的な事象があろうとも彼女がそれに囚われ攻撃を戸惑うことはない。
耐毒(偽):A
疑似的な毒への耐性。同ランク以下の毒・薬などによる干渉を無効化する(例外あり)。
キルケ―の毒に侵され生涯それを癒せなかった彼女の体は、キルケーの毒以上に強力な魔術や薬でなければ元に戻ることはなく、変質することもない。
ただし怪物の姿に直すことに限ればこの限りではなく、例えば回復魔術を受ければきちんと傷は治り、『元通り』怪物の姿へと戻る。
このスキルを超えられる例としてはキルケ―の弟子が持つ『あらゆる契約を破戒する』『あらゆる傷を癒す』といった特級の魔術が挙げられる。
魅惑の肢体:-
ニンフとして生まれ持った魅力的な容姿と体。
多くの神々を惹きつけた
スキュラのそれは高ランクの魅了スキルとして機能したのだが……
キルケ―の毒によって肉体的にも精神的にも怪物になったことでこのスキルは失われた。
一応だが、彼女の下半身が水棲生物の触手になっているのが水精としての名残ではある。
【宝具】
『禁断なる讐宴(メタボ・スキュラーズ)』
ランク:C- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
キルケーの毒を身に受け、キルケーの工房近くで潜み続け、キルケーの食撰を受けた動物(ひとびと)を喰らい続けた
スキュラはキルケーの心象風景の一部を侵すまでに至った。
無銘の英雄が固有結界の一部を投影として現実に溢すように、征服王が臣下を呼ぶように、キルケーの固有結界、メタボ・ピグレッツより流れ出たもの。
召喚の固有結界、その傍流。メタボ・ピグレッツがピグレットを産む宝具であるように、メタボ・スキュラーズはスキュラを産む宝具である。
スキュラの体の一部を取り込んだものは、その血に残るキルケーの魔術の名残によって怪物と化し、
スキュラと同ランクのスキル:精神異常と復讐者を獲得、
スキュラの怪物部の意思に従うようになる。使い魔のように使役されるほか、固有結界に取り込んで保存することも可能。イメージはネロ・カオスの獣王の巣。
魔力ステータスによって抵抗判定を行うほか、天性の肉体や頑健など肉体の変質に耐性があるものならば無効化できる。
『牙をむく獣の数字(アドベント・ビースト)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1~6人
ヘラクレスからゲリュオンの牛を、オデュッセウスから6人の部下を奪って食い殺した逸話の再現。
戦闘開始時において保持する犬の首の数だけ先制攻撃権を獲得する。
ただしヘラクレス、オデュッセウス本人を攻撃できなかった逸話の再現により、攻撃のターゲットの優先順位は必ずマスター<サーヴァント<その他で決定される。
『泡沫の如くは消えず、泡禍の如く暴れ(バブル・ぺリル・ヒア)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
復活宝具。ヘラクレスに殺された後も活動を続け、最期はアイアイエー島近海で岩礁になっていたという逸話の再現。なぜ生き返ったのか本人は覚えていない。
霊核破壊後に一度だけ再生し、スキル:単独行動をランクEXで獲得する。ただし復活後はスキル:精神異常のランクがターンごとに向上していき、最終的には意思疎通不可能な怪物へと堕ちる。それでもスキル:忘却補正によりキルケ―への怨みだけは忘れないだろうが。
この宝具発動後に死亡した場合、消滅せずに岩礁として残り続ける。
なお岩礁となった後も宝具『禁断なる讐宴(メタボ・スキュラーズ)』は機能しており、岩礁の欠片などを摂取してしまえば怪物となる。
【weapon】
初期装備はなし。
なお登場話時点で、神狩屋によって怪物にされた人だったモノを宝具『禁断なる讐宴(メタボ・スキュラーズ)』により使役している。
【サーヴァントの願い】
キルケーを惨たらしく殺す。
【外観】
上半身は美女、下半身は水棲生物の触腕が12本(烏賊や海月のものが混在)と6頭の犬の前半身。テーマはありったけの悪意を込めて描かれた人魚姫。
クリュティエ・ヴァン・ゴッホの人間態をロングヘア、豊満にして下半身から怪物を生やしたイメージ。
アニメデビルマンの妖元帥レイコックみたいな。
なおあまりに特徴的なため、大多数の英霊・魔術師は一目で真名を看破すると思われる。ケイローンのように下半身を人型にするなど、彼女には夢のまた夢である。
【人物背景】
冒頭の語った通り。
スキュラ、とは犬の子を意味する名である。
美しいニンフとして生まれ、多くの男を恋に落とし、その想いに応えることはなかった。美しいことが罪ならば彼女はとても罪深いオンナといえるが……
ある時海の神の一柱グラウコスも彼女に恋をし、懸命に愛を説くが
スキュラを射止めることはできなかった。
何とか思いを成就したいグラウコスはキルケーに力を貸してほしいと頼んだのだが、キルケ―の方がグラウコスに恋をしてしまう。大魔女ェ……
そしてグラウコスがキルケーの想いに応えないと彼女は激高するが、恋焦がれる相手を害する気にはなれず、恋敵を貶めようと
スキュラに毒を盛る。
その毒により
スキュラの半身は醜い怪物となり、毒を盛ったキルケーにも怪物になった
スキュラにも愛想をつかしたグラウコスは二人との関係を断つ。
怪物となった
スキュラは怒り狂いキルケーに復讐をしようとするが、腐っても大魔女であるキルケーの工房であるアイアイエー島に招かれざる者、それもキルケーの毒を受けて変質するモノごときが侵入することはできるはずもなく。
スキュラはアイアイエー島近海を通るものを無差別に襲う化生として語られるようになり、多くの旅人や船を沈めたという。
……ある時、ゲリュオンの牡牛を連れ帰るという十二の試練の一つを遂行するさなかのヘラクレスが
スキュラの潜むオケアノスを通過しようとしたところ、彼にも襲い掛かり牡牛を食ってしまった。
当然ヘラクレスは怒り狂い、弓矢で
スキュラを射殺すのだが、彼女のことを不憫に思った父である神ポルクスが彼女を蘇生させる。残念ながら怪物のまま、だが。
ヘラクレスに殺された後も災害の如く怪物として暴れる
スキュラ。
アイアイエー島にギリシャ神話の英雄が多く集った――彼女をかつて殺したヘラクレスも乗っているし、船員はヘラクレスの認める強者ばかり――アルゴノーツが通りがかった際にも襲撃を試みるが、事前にヘラの加護受けていたアルゴノーツはこの難を避けることに成功する。
さらに時は流れ、今度はトロイア戦争から帰国する英雄オデュッセウス一行が通過する。
彼らにも襲い掛かり、船員6名の命を奪うもオデュッセウスの反撃にあい犬の首を斬りおとされる。
なお、オデュッセウスは事前にアイアイエー島に立ち寄り、キルケーから
スキュラのことを事前に聞いていたので、犠牲は出るが勝機はあると
スキュラの元を通過することを選んでいた。大魔女の出航の助言である。
オデュッセウス一行の後に、トロイア方の英雄アイネイアス一行が付近を通ったが、オデュッセウスの反撃が致命となったのだろう、その時既に
スキュラは岩礁と化した後だった。
理不尽に怪物にされたものが、理不尽に襲い掛かる災害へと転じたモノ。
恐らくはヘラクレスにもオデュッセウスにも無銘の旅人にも平等に襲い掛かる水難の擬人化ならぬ擬獣化が原典であろうが、今回はそれを「憎しみに囚われ犠牲を顧みなくなってしまった、被害者であった加害者」と解釈した。恋をしなかった、できなかった間桐桜属。
【マスターとしての願い】
集合無意識に住まう神を殺してみる。。
…………もちろん、聖杯戦争の最中に死ねるならそれはそれで構わないだろうが。
【人物背景】
泡禍に対処する「断章騎士団」の支部、神狩屋ロッジの世話役。通常は拠点を構える店名の「神狩屋」で呼ばれる。
大学在学中に入院した病院で、後に婚約者となる志弦と知り合い、駆け落ちをした。しかし、志弦は神狩屋に浮かび上がった〈神の悪夢〉による〈泡禍〉の犠牲となり、自殺している。
その後は自殺を試みるも先述の断章ゆえに死ぬことが出来ず、仕方なく生きる理由として「断章騎士団」に所属、団員のために動いていたが……
友人、役目、義務などに拘っているふりをして嘘の生を嘘の生き甲斐で満たしている…その実生きることなどどうでもいいと考え、強烈な自殺願望を抱き続ける生ける屍。
役目自体はそれなりに気を紛らすことはできていたのだが、自分と同じく恋人の死を悪夢として抱えた友人が命を落としたことで糸が切れる。
かねてから目をつけていた自分を殺せる〈断章保持者〉に殺されようと画策。
自らの断章により多くの人を異形に変え、その解決のために殺されることになる……彼の望み通りに。
その直後の参戦である。
死という希望すら奪われた神狩屋はもう、やつあたりに過ぎない復讐に〈生きる〉しかない。
【令呪】
右上腕部。濁った泉からシャボン玉のように浮かぶ泡が二つ。
泉で一画、泡が二画。
【能力・技能】
〈黄泉戸契〉(ヨモツヘグリ)
かつて起きた〈泡禍〉という災害により神の悪意と悪夢の泡の欠片を身に宿した、〈断章保持者〉と呼ばれる異能者。
詳しく言うなら『トラウマをフラッシュバックさせることでその原因もフラッシュバックさせる』能力、のような現象を保持している。
抱えた悪夢の内容は“死にたくても死ねない”。黄泉の国の食物を口にしたならば黄泉の住人となる、ゆえに黄泉戸契。
神狩屋の血液などを摂取する事で、ケースバイケースだがあらゆる肉体の外傷を治癒する事ができる。ただし、瞬時に〈異形〉という怪物化するため一般人には使用できず、耐性のある〈断章保持者〉でも摂取し過ぎると〈異形〉化する可能性があるらしいため、治療の際には少しずつ様子見をしながら使用している。例えるならアンリ・マユを心臓にすることで生き延びてた言峰の簡易Ver。当然メンタルに大ダメージ。
また、神狩屋自身はいかなる外傷を負っても、意思とは関係なく瞬時に〈効果〉が発動するため、決して肉体的な損傷で死ぬ事はできない。前の例に則るなら心臓どころか全身の血肉に至るまでにアンリ・マユに置き換えているようなもので、肉体は健全だが精神は正気を失っている。
クトゥルフ的にいうならSAN値0。型月的にいうなら高ランクのスキル:精神汚染。
……正しくは〈八尾比丘尼〉。人魚の体の一部を口にした者が不死身になるように、神狩屋の肉体の一部を許容量以上に取り込んだものは不死身の人魚になる。
人魚と言っても美しいものではなく、全身から鱗や小魚を生やした醜い不死身の〈異形〉と化す、黄泉の存在。
なおこの聖杯戦争の地ではなんらかの〈外なる神〉の影響なのか、異形はみな〈インスマス面〉の怪物となり、暴れ出す。
神狩屋自身はこれ以外に能力は持ちえないが、不死身ゆえに骨折など厭わず肉体の力を発揮できるためおぞましいまでの力を発揮することができ、痛みや自らの負傷も気に懸けず行動が可能。
断章とは「無意識に住まう神の悪意の欠片」であり、つまり神狩屋はアラヤの悪意とそれに伴う魔力を受け取っている。
例えるなら「この世全ての悪」の泥ではなく泡を宿している。
膨大な魔力を持つが、もしこの泡が弾けて器(神狩屋)の外にあふれたならそれは〈泡禍〉という悲劇を招くだろう。
恐らく彼のそれは、周囲の生き物全てを人魚へと変える悍ましきヘブンズ・フィール。
そしてすでに「神の悪意の欠片」を宿しているため彼の意識の容量はすでにほぼ一杯であり、他の要素が入り込む余地が少ない。
そのため断章保持者は断章、ひいては神秘を伴う異能に耐性を持つ。
記憶を奪う断章に触れても不快感ですみ、、侵入を禁じ認識を阻害する断章の効果も受けず、針の山や鳩の爪によるダメージもそれが〈泡禍〉に由来するものならば少なく済む。
……だがあくまで耐性にすぎず万能ではない。
他のサーヴァントによる異能などへの抵抗はほぼできないだろう。最もどんなダメージを負っても彼は死ねないのだが。
纏めると「魔力タンク」「そこそこの異能耐性」「不死身の肉体」
「神狩屋の体の一部を摂取すると、彼と同じ不死身の人魚になる」
「ただし異能への耐性があるものなら多大なメンタルダメージと引き換えに回復の恩恵だけを預かることができる」
「制御失敗すると『この世全ての悪』的な代物の欠片が暴走してヤバイ」
最終更新:2022年05月16日 22:21