プリンセスシリーズでも評価が高い『フラッシュ☆プリンセス!』を視聴したヴルトゥームの感想は、
結末だけは評価できる。残り全ては好都合が過ぎて矛盾の多い三流作品……だった。
悪かった点をあげればキリがない。

たとえば――序盤にやられた主人公の相方妖精モエルン。
オトコングの執念が実った結果と極道は評価していたのだが、どう考えたってモエルンが油断したせいで、オトコングが運が良かっただけ。
描写を考慮するにモエルンはオトコングを超える能力を持っていたのだ。
しかし、油断のせいでオトコングに殺された。

これはまあ百歩譲っていいが、その後のネムルンも似たような末路だったものだから、
これは脚本家の悪癖なのかとヴルトゥームは悪態ついた。

何より、ヒースと主人公が互いの正体に気づきそうで気づかない場面の多さ。
これが最も都合がいいというか。
モエルンとオトコングが雌雄を決した現場で気づけば、
ネムルンがさっさと言えば、ガキミーラが明かしておけば、面倒な事にならず済んだのに。

……とは言えだ。
最後の最後、主人公とヒースは分かり合ったが、それでも互いの信念と散った仲間の為、最終決戦を行う展開は良かったとヴルトゥームは述べる。
仲良しこよしのハッピーエンドで、過去をなあなあに処理するかと諦めた矢先に、これだ。
視聴者は共感しながらも二人の結末に熱い想いを滾らせ、涙し、この結末を迎えるしかなかったのか、嘆いたとか。

ヴルトゥームはそうは思わなかった。
ここだけは好都合も運命もなく、互いの主張を貫いた結末だと納得した。

そんな感想、否、意見を伝えたヴルトゥームに極道も溜息をついていた。

しかし、だ。
人類において動揺などは天敵であり、如何なる技量を持つ者であっても油断が生じて死ぬのは事実らしい。
英霊も同じだった。
実際、幾騎か倒した英霊もヴルトゥームには共感できない油断で脱落した。

そして………


多仲忍者


極道が友と呼ぶべき存在が二十三区内に存在する。
コレのせいで極道が変に足を引っ張るような真似をすれば本末転倒だ。
ヴルトゥームには『忍者』の存在を極道へ伝えずに伏せる。という選択肢があった。
しかし……

ヴルトゥームがいる『地獄への回数券』を製作する地下施設へ入って来るのは、極道だった。
まあ、ヴルトゥームは宝具により周囲を索敵していた為、彼がやって来る事も、彼が何を考えているかも把握している。
極道はやれやれといった様子で話を始めた。


「キャスター。少々厄介な事になってしまったよ。先程、追加の通達でマスターの帰還について触れられてね。
 聖杯を獲得したマスターだけが帰還を許されるらしい……これから同盟を考えていた我々にとっては痛手の情報だ」


一先ず「そうですか」とヴルトゥームは相槌をする。


「私としましては『そうでしょうね』としか言えませんね。帰還に膨大なリソースが必要でしょうから。
 事情を聞く限り無作為にマスター候補を選出し、ここへ呼び寄せるだけでも相応のリソースは消費されたでしょう。
 帰還の為に、無事なマスターへ余計なリソースは消費したくありません。あくまで私の意見ですが」


……最も、それほどのリソースを消費してまで聖杯戦争を開催する意図は、分からない。
彼が聖杯戦争を懐疑的でいるし、消極的なのは、それが要因だ。
これが自身が行ったような実験の一環であるなら――恐らくマスターを帰還は愚か、聖杯そのものが紛い物に違いない。

科学者として、ヴルトゥームが考えうる『聖杯』の正体はいくつかあった。
その一つにあるのが、聖杯の材料に脱落したサーヴァントをリソースとして詰め込むというもの。
所謂、サーヴァントの魂を。
であれば、納得できる部分は幾つかあるが。
それでもマスター収集にリソースを消耗している点が、小骨が引っ掛かるような感覚を覚える。

極道は冷静にヴルトゥームの意見に耳を傾け、一つ興味本位に尋ねる。


「ちなみにだけど――……君がかつて作った『宇宙船』を再現する事はできるかい。
 最高神『ヴィシュヌ』の化身、最後のアヴァターラ『白き騎士(カルキ)』!
 君が支配した宇宙全土を浄化し、まさしく神話の如く『クリタ・ユガ』を打ち立て最悪の時代を終焉に導き英雄!!
 その清浄から逃れた君の『宇宙船』をだよ」


熱を籠ったように語る極道に対し、ヴルトゥームは氷のように冷え切った返事をした。


「それ。貴方がそう思っているだけですよ。何かの化身であるのは確かで特徴も似通っていますが
 向こうは名乗りもしませんでしたから『カルキ』か『ヴィシュヌ』かも不確定ですからね」

「なに、そこは夢を持とうじゃないか。私はそうだと信じているよ」

「……科学的なリソースを用いて脱出は可能か?のアンサーは『可能だとしても貴方達のいる外宇宙へ至れる保証はない』ですね」

「成程……いよいよ。主催者が所有するシステムでなければ帰還は不可能か」


一通りの確認作業を終えた極道。
ヴルトゥームは念の為の意味合いで極道に問う。


「では他のマスターとの同盟計画は中断しますか」

「まさか。するとも。例のリストを出してくれ」


無言でヴルトゥームは極道に差し出したのは、現時点で生存確認されており確証あるマスター候補。

デスボイスの偶像(アイドル)のマスター『七草にちか』。
行方不明になった重症患者『鑢七実』。
指名手配のビラがばら撒かれ、裏の邪魔をする『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』。
双子の殺し屋『ヘンゼルとグレーテル』。
絶賛暴走中の暴走族の神性『殺島飛露鬼』。
突如、人気を博したアイドル『リルル』。
万世極楽教の教祖であり人食いの一種である『童磨』。
行方不明者としてリストアップされている中に『荼毘』がおり、不審な学生の中に『吉田優子』『久世しずか』もいた。

童磨に関しては、彼の信者を捕捉し、それらが隠蔽工作しているのをヴルトゥームの宝具で盗み見た為。
外見的に不審な学生としてあげられている『吉田優子』だが、彼女以外にも奇妙な生徒はちらほらいる。
『久世しずか』は酷いイジメに合っているだけ、が理由。
なので学生と行方不明者候補の『荼毘』などを含めた大雑把なマスター候補を合わせても相当数いる。

となれば。
リストを確認する極道は思案する。


「この中ならば『七草にちか』か……所在が掴めている明確なマスターの中で唯一、連絡が通じるのは恐らく彼女だけ。
 他にも所在を掴めれば、同盟を組めそうな候補は幾つかいるが――」


極道を手と言葉が止まった。
リストの間に、ただの紙切れのように挟まっている書類に記載されている情報は――『多仲忍者』のものだったから。
だが、ヴルトゥームは大した事ない風に告げる。


「ああ、貴方が依頼した『多仲忍者』の所在も入っていますよ。マスターであるかは不明ですが」


無論。
ヴルトゥームも渡すまで幾つかのパターンを計算した。その上で極道に情報を渡したのである。
『多仲忍者』が二十三区に実在するという情報を。
これには極道も、凍てつく雰囲気を纏いヴルトゥームに問いただす。


「何故……私に彼の情報を明かした? キャスター」

「明かすもなにも、貴方が依頼したのですから応えただけですよ。まあ、仰りたい事は分かります。
 彼の存在が貴方にとって障害になりうる以上、あえて彼の情報を伏せて然るべきではないかと。あのプリ何とかと同じように。
 ですが、私は違います。ご都合主義も運命も戦争には関係ありません。
 仮にこれが要因で貴方に支障が生じるなら、被害を最小限に留める為、事前告知した方が良いと判断しました」

「……成程。君の判断はサーヴァントとしては『0点』だ」

「しかし、彼がいると知らなければ大概でしょう」


その通りだった。
『多仲忍者』がここにいる。これは極道にとっては大きな障害になりえるが、同時に彼を奮い立たせる動力にもなった。
満更でもない笑みを浮かべ、改めて彼は現状を見る。


「ああ、そうだとも! そうか……忍者君もここに! 奇妙な偶然だ。まさかこんな形で、聖杯戦争のマスターとして巡り合うとは!!」

「ですから、マスターかどうかは確定してません」

「いや。恐らくマスターだ。私と君が推測した通りだよ。
 忍者君は高校生。他にも『七草にちか』を含めた数名に『学生』がいるのは間違いない」


本戦開始がゴールデンウイークである事。
そして、極道とヴルトゥームがばら撒いた『地獄への回数券』に引っ掛からなかった事。
この二つを踏まえ、昨日時点で特段目立った戦闘も行われなかった事実から導き出されるのは、学生のマスターがおり。
普段は学生の役割(ロール)を熟しているのではないか、という推測。

何ら一般的な学生か、それ相応の少年少女であれば途方に暮れて、普段通り生活してしまう。
あるいは普通の家庭があるだろうから、両親の存在が枷となり目立った行動がしにくい立場にある。
だが、極道からすると例の――主催者関係者による通達が決め手となった。

あれは聖杯戦争への戦意がなく、帰還を求めているマスターに向けた……それを対象に戦意を駆り立てる為のものだ。


ならば同盟を組むのは容易なのだが
よりにもよって、主催者関係者らしき男からあのような告知をされたものだ。
中々、厳しいものがある。

相当重要な起点になりうる部分をヴルトゥームは素っ気なく頼む。


「その辺りは私の専門外なので、よろしくお願いします」


投げやりではあるが、彼にとっての『不得意分野』なのだから仕方ない。
十分理解している極道は「やれやれ」といった態度をしつつも、元よりそのつもりだったので改めてリストと向き合うのだった。






【台東区 地下施設/1日目・未明】

輝村極道@忍者と極道】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[装備]
[道具]
[所持金]表向きの会社員と裏で稼いだ分の資金
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.他主従との同盟
2.そうか、忍者君もここに――……
[備考]
※多仲忍者の所在を把握しました。マスターではないかと確信しています。
※素性が掴めているマスターの所在を掴んでいます。
※残存のマスターに学生がいると考えています。


【キャスター(ヴルトゥーム)@クトゥルフ神話】
[状態]:無傷
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:聖杯獲得
1:他主従との同盟…交流(そういうの)は極道に任せる
2:
[備考]
※素性が掴めているマスターの所在を掴んでおります。
※多仲忍者の所在を把握しましたが、マスターである点に関しては懐疑的です。
※残存のマスターに学生がいると考えています。
※台東区にある地下施設を拠点とし『地獄への回数券』を生成しております。
最終更新:2022年06月09日 21:10