.
ある男が言った。「天国へ行く方法」があるかもしれない、と。
悪の救世主と称されることになる彼の『天国に行く方法を記したノート』は、空条承太郎によって焼却処分され、最早世界に残されてない。
ノートの内容を把握するには、ノートに目を通した空条承太郎の記憶を覗き見る他ないだろう。
だが―――……こんなウワサがあった。
ある財団組織が研究者に『天国に行く方法を記したノート』の復元を依頼し。
どうにか復元した内容も暗号化が施されており、解読者独自の解釈を付け加え、完成された。らしい。
実際のところ、復元された内容を理解が困難を極めたのだとか。
理由として、
DIOこと
ディオ・ブランドーも完全に「天国への到達」を確立したとも言い難い。
結論を導き出せなかった研究論文と称するべきか。
そして、復元されたノートの行方は、誰も知らない。
………………………………………
……………
………
☆
見滝原とは別世界、そこの裏側にあるもう一つの世界。
ナーサリー・ライムの固有結界。
救われてならない少年が夢見る世界。
彼が産み出して、彼の望んで永遠と続く世界。
とてもステキな美しい。愉快で優しいファンタジーと希望に溢れた場所。
だけど。
森林地帯を必死に駆け抜ける男女が、数人そこには存在していた。
恰好からして仕事帰りに飲み会でもやっていた社会人と思しき彼らの一人が、地中より現れた怪物に身を引き裂かれた。
バースデーケーキの怪物が虚空より落下し、一人を押しつぶす。血肉がイチゴジャムみたいに。
猿や羊っぽい動物が群れを為して、生き残った者たちを追い込む。
「ひぃぃぃいいぃぃ! どうなってるんだぁぁぁ!!」
「助けて! 誰か助け―――」
彼らは聖杯戦争とは無関係な無辜の住人に過ぎない。
固有結界に迷い込んだアリスのように、不思議で奇妙な冒険を始めずに、歪な怪物たちによって命を奪われていく。
しかし、彼らの死は必要不可欠だった。
単純な話。
ナーサリー・ライムの固有結界を発動し続けるのに『魔力』の問題が生じる。
この英霊が無作為に、見滝原の町中で無造作に固有結界の出入り口を産み出し、人々を引きこんでいる訳ではない。
決して、愉快犯の類じゃなく。
彼のマスター、ラッセルは『普通』の少年なのだ。
ラッセルの所業や前科はとやかく、一般人がマスター適正を所持していた部類に近く。魔力なんてからっきしだ。
それでも、ラッセルは夢を望んでいる。
固有結界によって生み出される『理想の世界』を求めている。
その理想を応えるのがサーヴァントの役目だ。魔力を確保する為、魂食いをし続けていた。
「聖杯戦争が始まる前に『7人』……十分かな」
ナーサリー・ライムの本拠点である街に点在する『情報屋』の家で、結界内の現状を把握する作業が行われていた。
固有結界内の情報は、自然と集まる。
否、固有結界そのものが
ナーサリー・ライムなのだ。
彼はマスターの容体を確認する。
ラッセルは就寝している。
深夜の時間帯なのだから普通の状態ではあるが、どっぷり深く、よっぽどの事態が発生しなければ目覚める事は無い。
日中は街の住人たちと日常を謳歌している。
それ以外は、このように眠りを強制されていた。
睡眠により魔力は多少なり回復し、抑制する状態でラッセルに負担はかからない。
逆に、ラッセルが起床し、他の住人たちを動かすと魔力消費が増大する傾向へ向かう。
「魔力は問題なし。さて……じゃあ」
次は固有結界で展開してある『出入り口』。
聖杯戦争が開始されると同時に、感知妨害が解除される為、
ナーサリー・ライムも場所を考慮することにした。
獲物をなるべく多くかき集めるには、なるべく広く展開するべきだが……
ナーサリー・ライム自体の戦闘能力と言えば、残念ながら。
固有結界で優位に立ち、複数のサーヴァントは相手にしたくない。
まず――見滝原中学校。
ここの出入り口は封鎖する。完全な撤退。当面、
暁美ほむらの討伐令で多くのサーヴァントに捕捉される場所だ。
別に生き急ぐ必要は無い。勝手に潰しあってくれるだろう。
入口を閉鎖。
次に――見滝原高校。
ここも閉鎖。理由はウワサに聞く大食い探偵である。彼女はどうやらここの生徒であることを、情報で掴んでいる。
どうだろうか? 実際、中学校よりもこちらの方が少数派ではあるが。
しかし、念の為だ。入口を閉鎖。
極力魔力を捕捉されない為、住宅街に複数点在させていたの入口も閉鎖。
一先ず……
ナーサリー・ライムが残した入口は繁華街と高層ビルが立ち並ぶ新都心周辺に数ヶ所。
この時間帯。
先ほどの『贄』と同じ、食事処を目的として徘徊する住人は多い。
基本的にそれが狙いである。
『7人分』の魔力も固有結界の維持には足りるが、戦闘を行う場合は別だ。
サーヴァントとの戦闘の為に、ある程度の魔力を確保しなくてはならない………
「……この感じ」
★
ある母親が息子に教え込んだ。「気高く誇り高く生きればきっと天国に行ける」と。
彼らの父親は最悪で、弱者を暴力でいたぶり、酒に溺れ、どうしようもない男であったのは確かだった。
彼らの生きた世界は底辺で醜悪な場所。
天国とは無縁の『奪う者』が集う巣窟。
母親はそれでも息子に教養を与えた。
後に、息子は養子先で教養が生かされるとは知らずに。
結局、母親が死に。それから最悪な父親は、息子が毒で殺した。
しばらく経った後のことである。
息子は何故だか無性に、母親が口にしていた『天国』について考察を始めた。
独自の憶測を重ねに重ね。
まず、彼は一つの結論に至ったのだ。
―――自分は『天国』には行けないだろう。
―――ここままじゃあ、行く事は出来ない。
―――自分は『生れついての悪』だ。最早、覆しようはない。善人などになれない。
―――だが………
―――それでも『天国』へ向かうには、どうするべきか……
★
見滝原とは別世界。
裏側に『トコヤミタウン』と呼ばれる町が存在する。
住人は花の異形頭の者が集い。太陽光の差す事のない特異な空間であるから、常に薄暗く。不気味な炎が光源だった。
今宵、一つの葬儀が行われる為、ある神父が隣町より足を運んでいた。
比較的神父にしては若い。まだ二十代の青年である。
気難しい表情と雰囲気を持つものの、信仰心は確かなもので、トコヤミタウンの住人たちは彼を頼りにする節があった。
だからだろうか。
遅くまでかかった葬儀を終え、帰路につこうとした神父に異形頭の住人が一人。
血相を変えて――否、変えたような感じで声をかけてきた。
「ああ、神父様。大変です。丘の方に――……」
「……なに?」
神父も目を見開いて困惑し、冷や汗を流す。
住人が言うに、最近『情報屋』より出回った情報。何らかの事件を起こした指名手配犯が、この町に――丘の方で目撃された。
丘は、つい先ほどまで葬儀が行われていた謂わば墓場。
話を聞いた神父は、死者が眠る場所にそのような者を――そう焦りと憤りを覚え、されど激情はせず、まずは住人を落ち着かせた。
「私が様子を見に行きますゆえ。他の者を近付けない様、お願いしたい」
「はいっ。わかりました、ありがとうございます。神父様」
良く表現すれば『頼りになる神父』であり。
悪く表現すれば『都合のいい神父』だろう。
しかし、彼はそれが自らの役目だと確信しており、神父の身に悔いもないと自負していた。
住人の不安を取り除く。
町の平穏を取り戻す意味での、正当な行いなのだと。
神父が緊張感を胸に丘へと昇ってゆくと、薄暗い常闇には不釣り合いな金の色彩を持つ救世主の姿がそこにある。
奇妙にも、神父は彼を恐怖することはなかった。
恐怖、ではなく。不思議な……神に似た幻想の存在と邂逅した時、表現し難い『感動』があるような。
あまりにも未知の感覚だ。
ハッと我に帰り神父は声をかけた。
「そこで何をしている?」
セイヴァーが振り返り、邪悪な瞳に神父が移り込むが。彼には憤りも、感情すら無い。
ただ通りかかった人物を無関心に眺めている。傍観者かのような振舞いだ。
彼は静かに語る。
「ちょっとした『ウワサ』を聞いたのさ」
「ウワサ?」
「この町は『太陽の光』が差しこむことがないというウワサだよ」
ポカンと口を開ける神父に、ようやくセイヴァーが微笑んだ。
心の奥底からの笑みではない。他人に対し、気を赦させるような想いにさせる仮面のような笑み。
だが。
次に言葉を紡ごうとした時。彼は何かを迷った。
脳の違和感でもあるのか、片手を髪逆立てるように頭に当てながら、丁寧に告げた。
「……アレルギーなんだ。太陽の光に当たると……肌に炎症が起こる。
全身に高熱の鉄板が押し込まれたような、酷い熱さに襲われる。だから普通の生活が難しい」
「あ、アレルギー?」
神父は唐突な話に戸惑いながらも、少し間を置いて冷静さを保ち。頷く。
「成程……随分と苦労してきたのだろう。であれば、この『トコヤミタウン』はお前に適した町に違いあるまい」
セイヴァーが不可思議に神父を眺める様子は、彼らしくない奇妙な姿だった。
神父は、格別動揺を見せず。
むしろ平静に踵を返しながら言う。
「町の住人達が、お前を酷く警戒している……余所者であるから、仕方ない事だ。
私が上手く彼らの誤解をとこう。きっと分かって貰える筈だ」
「――待て」
セイヴァーが神父を呼びとめた。
「私を信じるのか? いや。このまま私を始末する為に、仲間を呼ぼうとしているんじゃあないか?」
「…………」
図星とも言い難い。本来この男は『この世界』において指名手配犯で……だが。
神父は、そうセイヴァーが尋ねたのに対し、焦りでも恐怖でもなく憐れみを抱いたのだ。
嗚呼、何故人を疑うのか、と。
セイヴァーは純粋に問いかけているだけかもしれない。だが、真っ先に『疑い』を発想するのは嘆かわしい事である。
ただこれだけで、彼が育った環境の醜悪さと救済無き無常を神父は感じる。
神父は目を伏せて、あえて指摘はせずに。その問いかけに答えた。
「そのような事はしない。お前が悪人だとして……自らの弱みを明かすとは思えない。
アレルギーは、お前にとっての弱点だ。嘘ではないだろう。本当の事であると、私には分かる」
「………」
これは建前かもしれない。
神父にとってまず『疑う』行為そのものが発想に無かったようなものだからだ。
疑うよりも先に。
『もしそうだったら』の可能性を考慮したのだ。
仮に、本当にセイヴァーがアレルギーだったとして、彼を町の外に追い出し、苦しめるような……
そうあってはならない。
神父は、迷える者に手を差し伸べる神の下僕だ。
彼の義務であり、それこそが喜びに『幸福』に繋がるのだから。
決して『得体の知れない』『赤の他人』の者を苦しめる者ではない。
自らの在り方に疑念を抱いてすらない神父を眺め、セイヴァーは一つの確信を持った。
「君は『引力』を信じるか? 人と人が引き合う『現象』だ」
神父が気付いた時には、セイヴァーとの間合いは詰められていた。多少となり距離があったにも関わらず。
セイヴァーが、神父の腕を掴みながら言葉を続けた。
「恐らく、聖杯戦争に召喚された他の英霊や、嘲笑う『時の神』は君を取るに足らない存在だと一蹴するだろう。
だが……私はそうは思わない。一つ試そう。私の宝具だが………『世界(サ・ワールド)』の原理と同じなら……」
つまり。
『世界(サ・ワールド)』は文字通り世界の支配を示すなら
セイヴァーが英霊として会得した宝具は――『悪の支配』の体現だ。
☆
悪の『還元』とはなにか?
暁美ほむらにセイヴァーが施したのは『悪』であり『負』の穢れの吸収だった。
セイヴァーの元に『還った』悪は力となって、
シャノワールとの戦闘でも十全な効果を発揮させていた。
しかし。
この宝具の真価は、単純な『悪の無力化』ではなく『悪の支配』。
彼こそが、彼の存在した世界における『諸悪の根源』ならば。宝具名の通り漆黒の意志の頂点に立つ『王』であり。
それを支配する絶対的な『王』なのだ。
「……っ!? な、んだ………いま……『何か起きたのか』?」
神父は困惑していた。何が起きたのか分からない。
ひょっとしたら錯覚でしかなく、何も起きてなかったのかもしれない。
だが、彼の前にはセイヴァーが居る。ゆっくりと神父の腕を離した彼は「フム」と関心する。
「最初の内はこんなものか。能力の仕様に、私が慣れるまで時間がかかる」
「……?」
戸惑いつつ、神父はしかと返事をした。
「私は……私はドグマという」
「ドグマ。たった今、君を『自由』にした。この世界で君だけは解放され、支配下から逃れられる」
「自由? どういう意味だ……??」
神父……ドグマの疑問が解消されることは叶わなかった。
突如として空間は歪み。セイヴァーの姿が幻想のように靄かかり消え往こうとする。
けど、セイヴァー・ディオの言葉だけがハッキリと響き渡った。
―――世界の主も、私の宝具を理解し。追放しているのだ。
―――1つ付け加えるなら……私は君を構成している『悪』を還元し、私の『悪』を君に与えた。
―――もし君と私の間に再び『引力』が生じるなら、必ず巡り合えるだろう。
世界の歪みが終わった時には、セイヴァーの姿はなく。丘で一人、ドグマだけが佇んでいた。
ドグマは、セイヴァーが告げた言葉の全てを何一つ理解できずにいる。
そもそも。
ドグマは本来、
ナーサリー・ライム……それが鏡となって映し出すラッセルの『夢』の再現体の一つ。
即ち、名前も無い使い魔に等しい。セイヴァーの言うとおり『取るに足らない存在』でしかない。
セイヴァーが醜悪に撒いた悪意の種でしかない。普通ならば。
なのにセイヴァーは、何故か意味を見出そうとしている。
「………いかんな。私も疲れている」
ドグマは混乱状態にあった。冷静に状況を見直す。自分は葬儀を終えた。職務を終えたのである。
指名手配犯のセイヴァーは……もう居ない。
理由は分からない。状況もドグマが理解するのは叶わない。
妹。
そうだ。妹のコーディが待っている。町に戻ろう。
ドグマは
ナーサリー・ライムが、ラッセル・シーガーが描くシナリオ通りに準えて行く。
少なくとも……今は
★
必要なものに『信頼できる友』がある。
彼は欲望をコントロールし、欲望のない、所謂聖職者のような無欲さがなければならない。
人の法ではなく、神の法に従う下僕のような人間だ。
単純な話。
安心できる人間。自らの思想を託せ、それを無為に利用する貪欲で愚かな人間を望んでないという意味。
果たして、聖職者である必要があるのだろうか。
必ずしも『そういう人間』が友に成りうるとは限らない。
ひょっとすれば聖職者じゃなくとも奇跡的な割合で、神の法に従う人間が存在するかも………
★
不味かった、と
ナーサリー・ライムは一息ついていた。
非常に危険であったが、もうセイヴァーは固有結界から追放し、あの宝具による侵食も未然に防がれただろう。
不穏要素はドグマが直接影響を受けた所。
最も、
ナーサリー・ライムにとっても『想定外』な宝具だったのだ。
違う。
恐らくセイヴァー・
DIOの目的は達成された。どういう訳か、ドグマを自らの支配下におこうと試みていた。
固執した理由は分からない。
ドグマ以外にも、それこそトコヤミタウンの住人全てを支配下におけばいいものを。
始めに手をかけたのはドグマだった。何故? 深く考える必要は無いかも分からない。
ドグマに変わった様子は無い。
ナーサリー・ライムは、ドグマ自体に異常性はないように感じる。
だが、あくまで
ナーサリー・ライムが感じる点だけ。
ナーサリー・ライム自身の感覚に異常は無くとも『悪』という規格外の領域。
何よりドグマ単体の表面上は確かに、変化がないが内側はそうもいかない。
ナーサリー・ライムは、まだ気付いていない。ドグマ自身も自らの異常を理解していない。
「ここじゃ戦えない。それが分かっただけでも良い収穫だけどね」
確かに、本格的な戦闘に至らず、宝具の手の内が把握できたのは、むしろ幸いと称するべきだ。
――――しかし。
ならばセイヴァーはどう倒す?
他の主従に任せる、なんて不確定要素に頼るのは心乏しい。
討伐令がある故、他の主従も彼を狙うが……
ナーサリー・ライムは手元にある空っぽのソウルジェムを眺める。
何も、セイヴァーの魂の回収を必須にすることはない。七騎分の魂を回収し、聖杯を完成させればいいだけだ………
【ラッセル・シーガー@END ROLL】
[状態]魔力消費(小)、睡眠、???
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]日記帳
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:みんなと普通にくらす
1.明日はなにをしようか。
2.セイヴァー(
DIO)に思うところがあるが……
[備考]
※聖杯戦争の情報や討伐令のことも把握していますが、気にせず固有結界で生活を送るつもりです。
※セイヴァー(
DIO)のスキルの影響で、彼に対する関心を多少抱いています。
【アサシン(
ナーサリー・ライム)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:固有結界を維持しつつ、聖杯作成を行う
1.魔力の確保と他サーヴァントと一対一の状況を作りたい。
2.セイヴァー(
DIO)を侵入させないようにするが……倒すのは……
[備考]
※セイヴァー(
DIO)の真名および『
漆黒の頂きに君臨する王』を把握しました。
※『
漆黒の頂きに君臨する王』によって固有結界が支配されると理解しました。
※住人の一人・ドグマが『
漆黒の頂きに君臨する王』の影響を受け、繰り返しの日常から逸脱する可能性があります。
※現在、新都心と繁華街にのみ結界の『入口』を解放しています。
☆
『悪』……以前、
DIOが
暁美ほむらより回収したソウルジェムの穢れ。
シャノワールとの戦闘やドグマの支配に使用し、英霊相手を支配下におけるほどの『悪』が足りない。
これは魔力とは別だ。
だからこそ魔力を『悪』に変換し、利用する事も出来ない。
再び『悪』を回収しなければならない。
暁美ほむらの穢れだけでは、
ナーサリー・ライムの固有結界を突破し、支配下におけない。
逆を返せば、相応の『悪』を備えておれば彼の結界を無理矢理にもこじ開ける事も可能だと、
DIOは自覚していた。
彼の『直感』を用いれば『
漆黒の頂きに君臨する王』で可能な範囲を薄々理解できる。
単純に
ナーサリー・ライムのような古典的な悪の集合体のエネルギーであればいいが……分かりやすいのは
魔法少女の穢れだろうか。ならば……
暁美ほむらの知人たち。
彼女たちが魔法少女であれば、穢れの回収に困る事は無い。
しかし……
DIOは今日に至るまで英霊としてのスペックを確かめていた。
故に、だ。
やはり
暁美ほむらは、自分に適した最良のマスターなのに間違いは無いと分かったのである。
主従関係としてじゃあなく、魔力の適正の意味で。
時の力を有するマスターの魔力だからこそ適している。
当然のことだが重要な事もである。
恐らく、他に『時の力』を有するマスターがいない限り、
暁美ほむらが最も
DIOの力を引き出せるマスターだ。
同時に『穢れ』もそうだ。
『穢れ』も
暁美ほむらが最も
DIOに適した『悪』を齎すのではないだろうか?
ならば……彼女を『あえて』絶望させるのも一つの手段…………
DIOは再び見滝原に戻ってきた。
だが、始めに
ナーサリー・ライムの世界に侵入した場所とは異なった。
外灯の明かりが反射する池が遠目に見え、線路を挟んだ先は高層ビルの並ぶ新都心がある。
彼が居る位置は、比較的郊外から離れた控えめの住宅地。
救世主としての
DIOは不思議に冷静を保ち続けているのだが、彼は『俺』の方ではきっとこの聖杯戦争をやっていけないだろうと感じる。
確かに、
暁美ほむらは適したマスターだが、時の入門を可能とする彼女を『俺』が赦す事はない。
シャノワールに関しては、そもそも『時の力』を有しないにも関わらず侵入する屁理屈っぷりだ。
『私』である
DIOは、彼の始末と期待とを想っているが。『俺』の方は違う筈だろう。
…………何より。
「やはり『見ているな』。貴様」
DIOは虚空を睨んだ。
何もないし、誰も居ないのだが――
DIOは常に感じる時計の音色と『見られる』感覚に静かな苛立ちを秘めている。
見られている。
かつてジョセフ・ジョースターのスタンドで似た感覚を味わった経緯がある
DIOは、一際『監視』に敏感だった。
そして、見滝原全土に響き渡る時の音。どこにいようとも監視し、嘲笑する上位なる存在。
DIOは便宜上『時の神』と呼称している。敬意ではなく皮肉を込めて。
神霊の『時の神』の可能性もありうるのだが、ウワサだけの情報では雲を掴むようなアテのなさだ。
常に監視はなく。
だが、暇さえあれば「そういえば
DIOって今なにしてんのかなぁ?」とSNSアプリで様子を伺うような。
ありふれた感覚と頻度で眺めて来るのだから、救世主の
DIOでさえ苛立ちを僅かに込み上げている。
救世主の彼でさえコレなのだから。
本来の
DIOなら怒り心頭どころでは済まない。
優先させたいのは、やはり『時の神』の始末だろうか。
最も、それが何を目的としているのかも不明である。
しかし……いづれ
DIOの目的たる天国への到達を邪魔する存在に違わなかった。
天国への到達に必要なもの………固有結界に居た神父の役割を与えられた青年。
彼が果たして『友』になりうる存在なのか定かじゃないが。
どういう訳か。
DIOはアレルギーと称したが、太陽が弱点であることを自然と彼に明かしていた。
彼に心を赦した、よりかは。
似たような事があった。既視感(デジャヴ)なるものだ。『私』の記憶にないのなら『俺』が巡り合った友との既視感か?
どちらにせよ。
あの固有結界には再び侵入しなければならない。英霊以外にも、あそこにマスターが居た筈だ。
まだ他に接触したいサーヴァントも居る。
時の勇者や赤い箱の怪人も関心がある。
運命を操る少女にも出会いたいと、何故か思う。
時間泥棒……
DIOは、きっとスタンド使いの英霊ではないかと感じ取っていた。
恐竜を使役する者も。時に関係ない筈だが、非常に興味があった。
孤高の歌姫も、何か自分に通ずる部分がある気がする。
そして……『天国への到達』に関するウワサ。アレを冠するサーヴァントは何者なのか?
全てが
DIOの『直感』に集束された情報なのだが、生前から『直感』に確証を得ていた
DIOには全て真実だと豪語出来た。
聖杯戦争は火ぶたを切られたばかりである。
【C-1 住宅街/月曜日 未明】
【セイヴァー(
DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、
暁美ほむらの穢れ(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得と天国へ到達する方法の精査
1.他サーヴァントとの接触を試みる
2.『時の神』は優先的に始末したい
3.『悪』の回収。
暁美ほむらをあえて絶望させる?
4.再び
ナーサリー・ライムの固有結界に侵入する。
[備考]
※
ナーサリー・ライムの固有結界を捕捉しました。
※『時の神』(杳馬)の監視や能力を感じ取っています。時の加速を抑え込んでいる事には気付いていません。
※自らの討伐令を把握していません。
※ウワサに対し『直感』で関心ある存在が複数います。
最終更新:2018年07月13日 22:10