(↑語り部:希鳥


「・・・むぅ?どうした?そんなところにつったって・・・」

 ―おにいさん、ここで毎日子供達にお話きかせてるんだって?

「・・・ああ。ま、それも今日で終わりだな。オレ、明日で退院だから。」

 ―じゃあちょうど良かった。最後の語り、聞かせてくれないかな?

「・・・いいけど・・・何がいい?(心:今日から入院する子なのかな・・・?)」

 ―おにいさんの得意なものでいいよー(けたけた)

「・・・じゃあ、一番良く子供達に聞かせているやつにするかな。」






『招き猫伝説』 (著者不明)



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むかしむかしの、そのまたむかし、ある一人の神さまがおりまして、この世のとある12匹の動物たちにお告げをあたえました。

「お前たちにわたしの力を分けあたえましょう。それで弱きにんげんたちが平和に暮らせるよう、つとめなさい。」

そうして、神さまの力をあたえられた12匹の動物はそれぞれ、鼠、牛、虎、兎、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪・・・そして、龍でした。

こうして、力をあたえられた12の動物たちは、神さまのお告げどおり、その力をつかってにんげんたちを助けていきました。

しかし、いつからか動物たちは、その力をらんぼうなことにつかうようになってしまいました。
にんげんを助けるための力で、にんげんを苦しめはじめたのです。

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にんげんたちは神さまに「たすけて、たすけて」と毎日お祈りしました。
そうして神さまは、13匹目の動物を選び、これににんげんたちを助けるように命じたのです。

それは、猫でした。しかも、生まれて間もない、子猫でした。

生まれて間もないその子猫は、まだ何もしりません。けれど、おそれも不安も、ふかのうもしらないのです。じゅんすいで、まっすぐなこころを持っていました。

そして子猫は、にんげんたちと力をあわせて、12の動物たちに戦いをいどみ、にんげんたちに勝利をもたらしたのです。

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こうして、この子猫はにんげんたちに福を呼んだ『招き猫』として、ずっとずっと大事にされていきました。
そして、にんげんたちは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし・・・。








 ―・・・童話?

「そうだよ。どこかの地方のどこかの小さな村の伝承を絵本にしたものなんだって。」

 ―・・・今、その村は?

「・・・昔に、戦争に巻き込まれて消えたらしい。」

 ―ふーん・・・・。ねぇ、もうひとつきいていいかな?

「・・・なんだい?」

 −おにいさんにとって、この物語はなぁに?

「・・・え?」

 ―一番良く聞かせているってことは、何か特別な思い入れがあるんじゃないかなーって、思って。

「・・・・・ごめんね、いえない。」

 ―じゃあ、おにいさんのこの物語の感想を教えて。

「は?」

 ―それもだめなのかな?

「・・・子供向けの物語に色々いうものなんだけど、この12匹の動物達は、どうして人間に悪いことをするようになったのかが気になる、かなぁ。」

 ―動物達が最初から悪い子だったんじゃないの?

「それはないと思う。だって、神様に選ばれたんだ。最初からどうしようもない奴らじゃなかったはず・・・。」

 ―・・・じゃあ、おにいさんはどうして動物たちが悪いことをするようになったんだと思う?

「・・・神様から与えられた大きすぎる力に振り回されたか、飲まれたか・・・それか・・・・」

 ―それか?

「・・・人間の、せい、なのかな・・・」

 ―どうしてそう思うの?

「・・・なんていうのかな、その・・・背景の描写があまりにもなさ過ぎるから・・・いや、これを子供向けのお話にいうのもアレなんだけどね。」

 ―・・・じゃあ、もしかしたら、それの元である伝承がわかれば、おにいさんの疑問もわかるのかもしれないね。

「・・・ああ、そうだな。けれど、もう、解る術もない。」

 ―・・・お話、聞かせてくれてありがとね。そして、退院おめでとう。

「・・・ありがとう。」

 ―これからのきみの旅路に幸あれ。

「・・・きみは、いったい・・・?」

 ―・・・それはね、ナ・イ・ショ。





最終更新:2012年03月28日 23:04