まだ、彼を突き飛ばした両手が震えている。
 あるいは、まだ涙が止まらないせいかもしれなかった。

「……うぇっ……ひっぐ……ぐすっ」

 何故彼らは死を選んだのか、チェダーには理解できない。
 自分も、確定された死へ向かわなければいけない。ヴォルスの命令のために。
 直接、死ねと命令されたわけではない。
 ある意味生き延びることもできる命令内容なのは、ヴォルスの温情か。

 いや……、とチェダーは何度も頭に浮かんだ希望を振り払う。
 もしかしたら。そんな幻想を与えておいて、それを粉々に砕く。
 それがヴォルスのやり方だ。
 そして、チェダーへの罰だった。

 命令の中身は、チェダーがどうがんばっても、いや、死ぬほどがんばって初めて完遂できるものだ。
 実質「死ね」と命令されていることに変わりなかった。

「……死にたくない」

 それでも、チェダーは泣き続けていた。泣きながら、何度も同じことを呟いた。
 だがそれは、彼の今までの所業を考えると行きすぎたわがままとも言えた。
 ことの発端となった大元は自分。その発端の原因も自分。
 どこまでも自業自得で、逃げ場も言い訳もできない。

 チェダーはそれを知ってしまった。

「……ヴィルにぃ……アカメ……」

 それでもなお死にたくないと泣きじゃくり、自分から決別してしまったかつての仲間の名前を呼ぶチェダーを、彼女はなんと思うだろう。

「……クイーン…………ぱぱ……っ」

 あのひと抱えもあるランタン、ソウルケースは、ヴォルスが持って行ってしまった。
 今のチェダーにあるのは、このリダスタ家ヴィダスタが使っていた部屋と、自作の大瓶だけだ。
 これに魔封じの図式を書き込むヒントをくれたディプスも、この作業に取り掛かるまでさんざん甘えたキチョウ達も、自分は最後に裏切らなければいけない。

「ワルス…………ハピィ…………にい、ちゃっ…………」

 ランタンの代わりに抱えている大瓶には、今はなみなみと液体が詰まっている。こぼれないよう、密封もしてある。

「まま……っ」

 今度はもう、誰を呼んでも来てくれない。
最終更新:2012年07月23日 03:19