罪 10KB
罪の自覚
「罪」
※虐待の描写は殆どありません
※現代設定(?)です
※独自設定があります
※ネタ被りがありましたらご容赦ください
※淡々としています
―ブツン。
頭の中で音がした。
その直後。
瞼を閉じていても痛みを感じるような、強烈な光を顔に当てられてれいむは目を覚ました。
体を動かそうにも、何かで押さえつけられているため叶わない。
あんよに何かが触れている感覚があり、ヒンヤリとした空気が体を包んでいた。
「……ゆ、ゆゆっ? ど、どうなってるの?!」
パニックを起こしかけたとき、光が弱まり、白一色だった世界がぼんやりと輪郭を取り戻した。
れいむは手術室のような部屋にいた。
冷たいマットのストレッチャーに乗せられ、ベルトで縛り付けられている。
無影灯があらゆる角度かられいむを照らす。
それ以外に明かりはない。
れいむは自分を見つめる2人の人間に気付いた。
1人は白衣を着ている。知らないお兄さんだった。
もう1人はお姉さん。
そのお姉さんの姿を見たとき、れいむは叫んだ。
「!! おねえさん?! おねえさんなの?!」
彼女はれいむの飼い主だった。
だが、れいむの呼びかけには身体を震わせるだけで答えてくれない。
部屋の明かりはれいむに集中しているため、表情も良く分からなかった。
代わりに白衣のお兄さんがれいむに言った。
「おはよう、れいむ。気分はどうだい?」
「ゆ?! おにいさんはだれ?! ここはどこ?!」
「落ち着いて。私は医者で、ここは病院だよ。
君は大怪我をして、今まで手術を受けていたんだ。
もう少しで“永遠にゆっくりする”ほどの酷い傷だった。
れいむ、覚えていないのかい? 君はおうちのお庭で倒れていたんだよ」
そう言いながら、れいむを拘束していたベルトを外してくれる。
お兄さんが優しい声をしていたこともあって、れいむは幾分落ち着きを取り戻した。
そして、お兄さんの言葉で自分に何が起こったのかをゆっくりと思い出し、震えだした。
「……ゆ、ゆ……! ……あ、……あぁぁ……!」
れいむの脳裏に、あの恐ろしい出来事が再生され始めた。
* * * * * * * * *
れいむはおうちの中にいた。
なんで?
だってれいむは飼いゆっくりだから。
ここはお姉さんとれいむのゆっくりプレイスだ。
お姉さんはどこ?
昼間はお仕事があるから、れいむは独りぼっちだ。
もう慣れたでしょ?
そう、れいむはとてもゆっくりしたれいむなんだ。
だから寂しくなんかない。
お姉さんが帰ってくるまで、ゆっくり待っていられる。
でもその日はいつもと違った。
前の晩に、れいむはお姉さんと些細なことで喧嘩してしまい、朝の挨拶もしていなかった。
バタン、と玄関のドアが閉まり鍵のかかる音がした。
お姉さんが仕事に行ったのだ。
いつもなら見送りをしていたれいむは、居間のソファーで不貞腐れていた。
「れいむはわるくないもん……」
そう言って、れいむはぷくぅ、と膨れていたが、
時間が経つうちに、自分がしたことを後悔するようになった。
「やっぱりわるいのはれいむだよ……。おねえさんごめんなさい……」
謝りたくても、その相手はいない。
我が儘だった自分に腹が立って、ゆっくりできなくなった。
「おねえさん……」
この世界で一番ゆっくりさせてあげたいお姉さんにひどいことをしてしまった。
その罪悪感が、れいむをますますゆっくりできなくさせる。
「おねえさん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
涙が溢れそうになるのを必死に堪える。
だって泣いたらゆっくりできないから。
お姉さんも言っていたじゃないか。
「笑顔が一番よ、れいむ。あなたに泣き顔なんて似合わないわよ」
いつのことだったか、微笑みながられいむを慰めてくれたお姉さん。
とっても暖かくていい匂いがした。
―ああ、そうだ。
ゆっくりした想い出が、れいむの心を癒していく。
うじうじした気持ちを吹き飛ばす。
笑顔。
笑顔が一番だ。
お姉さんが帰ってきたらとびっきりの笑顔で迎えてゆっくりしてもらおう!
いつの間にか、おうちの中は夕日で赤く染まっていた。
もうすぐお姉さんが帰ってくる。
ポヨヨンとソファーから飛び降りたとき、お庭に面した窓がガシャンと割れた。
冷たい風がれいむの頬を撫でる。
「ゆぅ?!」
振り返るれいむ。
窓を割って入ってきたのは黒帽子のゆっくりまりさだった。
「なかなかいいおうちなんだぜ! まりささまにふさわしいんだぜ!」
薄汚れた体。
典型的な野良ゆっくり。
そしてお決まりのセリフ。
「だ、だめだよ! ここはおねえさんとれいむのおうちだよ!」
反射的に叫んだれいむ。
まりさはそこで初めてれいむの存在に気が付いたようだった。
「……! ……なんだ、れいむだったのかぜ」
「こ、ここはおねえさんとれいむの……」
「うるさいんだぜ! にんげんなんかにかわれているゆっくりが、まりささまにさしずするんじゃないのぜ」
れいむを無視して、おうちを荒らそうとするまりさ。
手始めに、鉢植えに咲いている花を食べようとした。
「やめてぇっ!!」
鉢植えには赤い花が咲いていた。
れいむがお願いして買ってもらったものだ。
れいむとお姉さんはその花の香りが大好きだった。
思わず体当たりをするれいむ。
予想外の攻撃に、まりさは驚きの表情を浮かべて、そのまま転がった。
ポヨンポヨンと勢い良く、2匹はそのままお庭に飛び出した。
ドテッ、ボヨン、と地面に叩きつけられるれいむとまりさ。
暖かかったおうちの中から一転して、肌を刺すような寒さに襲われた。
「ゆうぅぅ……!」
今まで経験したことのない痛みと恐怖に震えるれいむ。
そんな中で、れいむはまりさがどれだけ辛い環境にいたのかを理解した。
まりさがどうしておうちの中に入ってこようとしたのかを理解した。
「……まりさ……ごめんね……れいむは……」
まりさの方を向いたれいむの目に映ったのは。
まりさはれいむを睨んでいた。
ゆっくりできない顔だった。
ブツブツと何かを呟いていた。
「……むの……」
「……? まりさ……?」
「くずのれいむのぶんざいでぇえええええええええええええっ!!」
跳躍するまりさ。
見上げるれいむ。
落ちてくるまりさ。
動けないれいむ。
―たすけて、おねえさん。
強い衝撃を感じたのを最後に、れいむの意識は途切れた。
* * * * * * * * *
―ブツン。
「ゆわぁああああああ! あああああああああああ!」
「大丈夫だ。れいむ、落ち着いて。大丈夫だから」
必死になって暴れるれいむを誰かが押さえつける。
誰? この声は……確か……。
れいむが見上げると、そこには白衣を着たお兄さんがいた。
「全て思い出したんだね、れいむ」
「ゆ……? おにいさん……? まりさは……?」
「もう終わったよ。終わったことなんだ」
れいむが大人しくなると、お兄さんは手を離した。
部屋全体を照らす明かりがつく。
お姉さんがれいむを見つめていた。
「ゆうぅ……! おねえさん、れいむ……」
そこから先は言えなかった。
お姉さんは泣いていた。
最初はれいむが助かって、嬉しくて泣いているんだと思った。
でも違う。
お姉さんは、とても悲しそうな顔をしていた。
「……おねえさん……? どうしたの……?」
お姉さんはただ涙を流すだけ。
白衣のお兄さんがお姉さんに向かって言った。
「もう充分でしょう。この『まりさ』はれいむの記憶をほぼ完璧に追体験しました」
―え?
―まりさ?
―まりさがどこにいるの?
混乱するれいむ。
―れいむ?
―そうだよ、れいむはれいむなんだぜ。
―あれ?
―いまれいむはなんて……?
―なんだろう、おかしいよ……おかしいんだぜ……。
―きもちがわるい……たすけて……おねえさ……。
混濁する意識の中で助けを求める。
「システムとの接続は一時的に切ったから、君の自我の優位が戻ってきているんだ。
でも、れいむの記憶から得た知識で、これが何かは分かるだろう?」
お兄さんが何か言ってる。
―なにをいってるの……?
―いみがわからないよ……?
―れいむを……まりさを……たすけて……。
お兄さんが目の前に何かを置いた。
―ああ、これは……。
それは鏡だった。
自分の全身が映し出される。
鏡の中にいたのは。
「……ど……、どうして……まりさが……いるの……?」
そこにいたのは自分を襲ったまりさ。
帽子、髪型、目つき、口元。
忘れるわけがない。
「うそ、なんだぜ……? だって……まりさは……」
そう言った瞬間、全てを思い出した。
人間のおうちに侵入して、れいむに見つかったこと。
れいむと一緒にお庭に転がり落ちたこと。
れいむにやられたことで、激しい怒りを覚えたこと。
そして、れいむをぐちゃぐちゃになるまで踏み潰して、殺したこと。
「ゆわぁあああああああああああああああああああああっ!!」
まりさは絶叫した。
* * * * * * * * *
私はまりさに、自分のことを「医者」だと言ったが、実際は少し違う。
確かにゆっくりを治療したりもするが、本業はゆっくりの研究だ。
ストレッチャーの上のまりさには2本のコードが繋がっている。
ちょうど、こめかみの辺りに突き刺すような感じだ。
そのコードの先には機械と、れいむから摘出した餡子が接続してある。
試作品だが、上手く機能してくれた。
ここに運ばれてきたとき、れいむは既に蘇生が不可能な状態だった。
そしてれいむと共に連れてこられた、野良ゆっくりのまりさ。
辛うじて無事だった僅かな餡子と、健康な体。
れいむの飼い主の希望で、れいむの記憶をまりさに移植することとなった。
この処置の目的はふたつ。
ひとつは、まりさに己の罪を自覚させること。
そしてもうひとつは……。
「ゆぅううう……! ゆぁあああああ……!」
れいむの記憶に悶え苦しむまりさ。
それも間もなく終わる。
「まりさ」
私の呼びかけに、まりさは涙でいっぱいになった瞳を見開く。
「君が殺したれいむがどれだけ愛されていたか理解できたか?」
「……」
「君がどれほど酷いことをしたか理解できたか?」
「……」
「まりさ、この『まりさ』のことをどう思う?」
私は鏡の中のまりさを指し示す。
短い沈黙の後、まりさが呟いた。
「……このまりさは……わるいまりさ……だよ……。……ゆっくりできない……ひどいまりさだよ……。
……だから……せいさいして……もう……ころして……」
「そうか、分かった。その願いは半分だけ叶えよう」
私はコンソールを操作した。
モニターの波形が大きく揺れ動く。
「ゆぐぇばばばばばばばばば……!!」
まりさはグルンと白目を剥き、痙攣した後、意識を失った。
* * * * * * * * *
れいむが意識を取り戻したとき、目の前にお姉さんがいた。
「……おねえさん……? っ! おねえさん! おねえさぁんっ!!」
飛びつくれいむをお姉さんは優しく抱きかかえる。
その顔はいつもと変わらない微笑みを浮かべていた。
「おねえさん……! れいむ、こわいゆめをみたよ……! こわかったよぉ……!」
腕の中で泣きじゃくるれいむに、お姉さんは言った。
「大丈夫よ、れいむ。何もかも夢なんだから。私がいるから安心して……」
「本当にこれで良かったんですね?」
誰かがお姉さんに言った。
「ええ……。私にはこの子しかいないんです。たとえどんな姿でも……。
無理なお願いをして、申し訳ありませんでした。……心から感謝します」
彼女たちはそのまま部屋を後にした。
残されたのは1人の研究者。
「体は『まりさ』で、記憶は『れいむ』か……。
ゆっくりの本質はどっちにあるんだろうな……」
れいむの残骸からサルベージできた記憶は完全なものではない。
『まりさ』の自我は消え去ったが、あれを『れいむ』といって良いのだろうか?
また、研究テーマが増えてしまった。
明かりを消し、研究者は部屋を出ていった。
(了)
あとがき
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
れいむ
お願いだから話しておくれ
聞かせて欲しいんだよ
れいむの救い方を!
ゆっくりにとって従順は美徳だ
最高の美徳だよ
だから話しておくれ……
……話せよ!
話せったら話せ!
この饅頭がァ!!
どこかの狂王がこんなことを言っていました。
いつかは、ストレートにれいむが幸せになる話に挑戦したいです。
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- ↓誰がうまいこと言えと・・・ -- 2011-07-01 03:58:28
- ↓↓うんうん が詰まらんのか
良かったな快便なのはいいことだ -- 2011-06-30 00:29:20
-
いい話じゃないか -- 2010-12-07 14:48:17
- うん!つまらん -- 2010-11-15 05:06:05
最終更新:2009年11月15日 16:06