ふたば系ゆっくりいじめ 632 フェザー・メモリー(前編)

フェザー・メモリー 26KB


虐待-普通 悲劇 自業自得 自滅 家族崩壊 妊娠 飼いゆ 野良ゆ 赤子・子供 都会 現代 人間なし 九作目

「フェザー・メモリー」(前編)


 ・過去回想の形式をとっています
 ・二分割です
 ・いくつかの独自設定を使っています。
 ・駄文注意

裏通りを跳ねるとそこには様々な「お仲間」がいる。
いや、お仲間ではない。ただただ「ゆっくり」という言葉にしか縋れない物など…自分は街のゆっくりとは認めない。

餌場の前には数匹のゆっくりがいる。バスケットボール大のれいむに子ありす。それと子れいむの三匹だ。
「ゆゆ!おきゃあしゃん!れいみゅいっぴゃいごはんしゃんをみちゅけちゃよ!」
「ありちゅもきのこしゃんをみちゅけちゃわ!」
ソフトボールサイズの子ゆっくり二匹がほんの僅かな、餡子の足しにもならない様な食料を見つけては親れいむに言ってすーりすーりしている。
「ゆ!いっぱいあつまったね!おかあさんはおにぎりさんをみつけたよ!きょうはさむいからゆっくりかえろうね!」
親れいむが子ゆっくり程の大きさのおにぎりを舌で転がしながらにこやかに語っていた。

何を考えているんだ?このゆっくりは。さっさと離れないとこの餌場を牛耳っているゆっくりに襲われかねないと言うのに…
あのれいむ一家に近づいていく。そしてこう言った。
「さっさとかえるんだぜ」
こんな所に潰れ饅頭を三つ作るのは通行上不便だ。さっさと無事に帰っていただこう。
それを見た親れいむは子ゆっくり二匹を後ろにやって恐怖におびえた目でこう言った。
「こ、これはれいむとおちびちゃんのごはんさんだよ!ゆっくりかえってね!」
自分をこの餌場を仕切っているゆっくりと勘違いしたようだ。それにしても案外強気な態度に出る。
意外と母性の強いれいむだとは思うが考えが甘すぎる…
「まりさはべつにここをとおりかかっただけだぜ、ここはみょんとそのいちみのえさばだからきづかれないうちにさっさときえたほうがれいむたちのみのため、といっているんだぜ」
「ゆゆ!だからってごはんさんはあげないよ!ゆっくりどこかへいってね!」

…何を勘違いしてるんだ。もういい、助け船を出した自分が馬鹿だった。
この甘っちょろさ、間違いなくこのれいむは自分と同じ「元飼い」だ。
「…もういいんだぜ、まりさはゆっくりどっかへいくんだぜ」
振り返らずに跳ねだす。あのれいむ一家の「おうち」と言うのも近くにあるだろう。
そもそも子ゆっくり二匹にまで狩りをさせて自分は良いゆっくりを気取っている。それが気に入らない。
まぁいいだろう。子ゆっくり二匹を狩りに出さなければならないと言う事は近い所にねぐらがある。においで追われて運が良くても飾りを取られてハイ、サヨナラだ。
ああいうゆっくりが一番嫌だ、昔を思い出して…

…あの時、自分はゆん生の絶頂期にいた。生まれるべくして生まれた純餡統のゴールドゆっくり。
赤ゆっくりの段階で銅バッジを取り、子ゆっくりの段階では一つ飛んで金バッジだ。
あの頃は周りは全て「ゆっくりできる」もので満ち溢れていた。
ふかふかのベッド、おいしいあまあま、外を出るときは巾着袋の様な「靴」を履いていく事もあった。
ホコリひとつない帽子にサラサラの砂糖細工の髪、そしてモチモチの小麦粉の肌…
「みんなでゆっくりするからゆっくりできる」そう信じて疑わなかった。
ゆっくりするという事はみんながゆっくりできる事だと…
だから自分は今街ゆっくりになったのかもしれない…
帰ってきた自分の「おうち」の中でボロボロの毛布に顔をうずめて思い返す。あの頃の事を…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ゆゆーん♪にんげんさん!まりさのはにーをしょうかいするね!ありすはとっても"とかいは"でゆっくりできるんだよ!おちびちゃんたちももうすぐうまれるよ!みんなでゆっくりしようね!」
「なかなかとかいはなにんげんさんね!これならありすだってあんしんしてくらせるわ!」

間違いなく飼いゆっくりとしての資格がある。とその時は思っていた。
ちょっと見てくれは汚いがありすはとても「とかいは」でゆっくりできるからだ。
すっきり禁止とは言っても人間さんは新しいゆっくりを買ってくると言っていた。その時自分は知っていた。すっきりして赤ゆっくりを作るための新しいゆっくりではないか、という事を
なのでそこを突く事にする。
…「自分のおちびちゃんだから飼え」なんて事は言ってはいけない。そんな失礼な事を言って人間さんを説得する事は出来ないだろう。
ありすの蔓の実ゆっくりはは自分の子ゆっくりではない。そしてありすは「元金バッジ」と自分で言っていた。
金バッジ同士とその実ゆっくり、という事にしておけば飼わずにはいられないはずだ。どの道金バッジのゆっくりを飼うんだからむしろ手間が省ける
幸い先の実ゆっくりは前のつがいがまりさ種だったのだろうか?まりさとありすばかりなのでつじつまも合う。
あれだけ「とかいは」なありすがたった一匹で寂しい思いをしていたんだから助けると言うのが「ゆっくり」出来る事だから
それにありすは「おうた」だって上手だし、「おどり」だって上手だ。「こーでぃねーと」も得意でとてもオシャレなゆっくりなのだ。
人間さんはそれを見て見降ろすようにありすと自分を見つめていた。
確かに汚いが金バッジなのだ。絶対成功する。その時はそう思っていた…
今思えば、ドロが付いた小麦粉の皮にボサボサの砂糖水の髪、そしてボロボロの飾りでニタニタと品定めするように人間さんを見上げるありすを金バッジと思うようなやつはいないだろう。

人間さんの顔が歪む。次の瞬間隣にいたはずのありすが消えていた。
ありすの代わりに自分の側面にあったのは、人間さんの足だった。
「いだいいいいいいいいい!!あでぃずのどがいばながおがああああああああ!!」
遅れてきた声に振り替える。そこには塀に叩きつけられて口の端からカスタードクリームを飛び散らせて苦しむありすの姿だった。
寒天の右目が潰れていた。そして砂糖細工の歯がかなりへし折れてカスタードクリームに交じって地面に点々と落ちている。
「にんげんざんなにずるのおおおおおお!?」
反射的にこう言った。だが、何よりもありす、そしてその実ゆっくりの方に気が向くと、振り向いてありすの方へ近づいていった。
「あでぃずううううう!!ゆっぐりだいじょうぶ!?づるざんおれでない!?」
「ゆげぇっ!いだ、いだいいいいい!!あでぃずの!あでぃずのおおおおおお!!」
転がりまわるありすを何とか制する。大丈夫、頭の蔓は奇跡的に無事だ。
何とかありすの傷を治そうとぺーろぺーろしようとしてその時、不意に自分の体が持ち上がるのを感じた。
「ゆゆ?おそらをとんでるみたいー!」

…今はもうそんな事は言わないだろうがあの時を振り帰ってみると実にお粗末な物言いだ。
おさげを持ち上げられていたと気付くのは後になってのこと。地面が真横にある光景は何か妙だった。
人間さんの顔が間近で見れた。あれは「キレている」顔のそれだった。
「にんげんさん!ありすにひどいことしなっゆぶぅ!?」
抗議しようと声を上げた途端に目の前に何か丸い物が高速で飛んできて顔にぶち当たった。おさげを中心にブランブランと上下に視界が揺れる。
「…いだいいいいいいい!!までぃざのがゆばぁっ!?」
声を上げる間もなく二回目の衝撃。パキパキと音がしたのがわかった。砂糖細工の歯が折れたのだ。
「ゆっぐりやべでね!までぃゆぐぉっ!ゆびゃああ!ゆぎぃっ!ゆっぶあああああ!?」
その後は…正直覚えていない。かろうじて視界が空に地面に回る様に動いたのを覚えている。
気がつけば地面に這いつくばりモゾモゾと動くだけであった。
人間さんは自分の帽子をはぎ取るとバッジを引きちぎってただ一言こう言った。
「失せろ」
何を言われたか一瞬理解できなかった。捨てられた?自分は捨てられたのか・・・?
「あ”あ”あ”あ”!ばでぃざのばっじざんがえじでええええええ!!」
とにかくバッジだ。あのバッジが無ければ自分は飼いゆっくりでいられなくなる。
言う事を聞かない体を必死にくねらせ何とか取り返そうとする、だが次の瞬間黒い何かが飛んできて、それから自分の目の前が真っ黒になって途切れた。

…気がつけば自分はゴミ捨て場に埋もれるようにしていた事を覚えている。
隣にはありすが砂糖水の涙を流して「いだいわぁぁ…!あでぃずのどがいばながおがぁぁ…!」と言っていた。
「ゆ”!ゆ”!ありず…だいじょうぶだっだんだね…ゆっぐりよがっだよ…」
とにかくはありすは無事だった。心配して声を上げる。
「ごんなのどがいばじゃないわぁぁ…!」
…とにかくは無事の様だ。
「ありず…どにがぐありずのおうぢにいっだんもどろうね…」
ぐずるありすを引きずる様に連れて行きながら、ありすの「おうち」へ戻っていく。もう元の「おうち」には戻れない…あの時は妙に冷静だったのでその判断に行きついてのかもしれない。
これからどうしようか…とにかくその時はそれだけを考えていたと思う。

「「む~しゃむ~しゃ…それなりー…」」
おうち…と言っても草がぼうぼうに生えた空地の端にダンボールを立てただけの簡素なものだが…その中で食べられそうな柔らかい草を適当に引き抜いて食べていた。
…自分にとって「それなり」どころではない位にマズイ。昨日まで最高級のゆっくりーフードに果物、そして菓子類と食べていたのだ。味どころか土や砂がジャリジャリと時折音がするのが気持ち悪くて仕方ない。
「ゆゆ…ありす…このまえまりさがもってきたごはんさんは?」
ふと気になって聞いた。つい三日前に大量のゆっくりフードやお菓子をありすに持ってきたばかりなのだ。自分的なペースで勘定しても一週間は余裕で満腹に持たせられる程の量を。
「…ぜんぶありすがたべちゃったわ…」
…一瞬理解できなかった。何故?経った三日であれだけのものを食べれらるのか?ゆっくりフードが1kg近く。菓子類だって帽子の中をパンパンになる程の量があったはず?それを食べた?たった三日で?
「ゆっくりわかったよ…」
もう、「どうして」と聞く気力もない。無いには変わりないのだから…無駄な体力をつくよりはじっとしていたほうがいい。
寂しい食事を終えた後は今後の事について話し合う。と言っても無計画には変わりないが…

幸い今は冬ではなく、秋の中頃だ。寒くはない。
だがここで一つの問題が浮上した。自分にはどう「狩り」を行っていいか分からなかったのである。
空地の草や虫を食べていても問題ないが冬になれば食料を貯め込まなければならないと言う事は知っている。今から貯めなければ間に合わない。
だが自分にはその術がなかった。
…術?術なら一つだけある。
「おうたさんをうたってみんなをゆっくりさせてあげればごはんさんをもらえるかな?」
「ゆゆ!それよ!ありすとまりさならだいじょうぶだわ!ありすはおうたさんがじょうずだからきっとだいじょうぶよ!」
「そうだね!まりさだっておうたさんをうたえるよ!みんなをゆっくりさせてあげればごはんさんをいっぱいもらえるね!」
「ありす!すーりすーり!」
「まりさ!すーりすーり!」
ここにきて「おうた」が役に立つとは思わなかった。当時はその喜びを見つけて互いにすーりすーりをしていた。
「ゆ!じゃあ、おちびちゃんがうまれればもっときれいなおうたさんがうたえるよ!それまではくささんでがまんしようね!」
「ゆっくりわかったわ!」
おちびちゃんが生まれればもっときれいな歌が歌える。なんたって金バッジゆっくり同士の子ゆっくりだ。
「とかいは」で「ゆっくり」なおちびちゃんに違いない。

その日はよく眠れた。切り替えが早いのが功を喫してだろうか?それとも生きる術を見つけての喜びからだろうか?今となってはわからない。
…二日目の朝だっただろうか、ダンボールの中で自分は驚きとうれしさ半分でありすを眺めていた。
「ゆゆー!もうちょっとでおちびちゃんがおちるよ!」
「ゆっくりがんばるのよ!とかいはなおちびちゃん!」
蔓の先の実ゆっくり…赤ゆっくりと呼ぶべきか?がフルフルと揺れている。
食料の草をベッドの代わりにしてありすの前に敷く。暫くすればほぼ同時にポトポトと三つほどの赤ゆっくりが落ちてきた。
「「「ゆ・・・ゆ・・・ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」」」
「「ゆっくりしていってね!」」
うれしさのあまり思わず声が出てしまった。目の前にはとてもゆっくりできる赤まりさが1匹に赤ありすが2匹。元気に声を上げているのだ。
「ゆゆううううう!よかったよありすうううう!とってもゆっくりできるおちびちゃんだね!」
「おちびちゃん!つるさんをたべてね!」

ありすが頭の蔓をフルフルと振ってボトっと落とす。
食べやすく自分が口でちぎって咀嚼した物を赤ゆっくり達の前に落とした。
「「む~ちゃむ~ちゃ!ちあわちぇええええええ!!」」
一生懸命口いっぱいに蔓をほおばる赤ゆっくり達。それを見ただけで捨てられた絶望感など吹き飛んでしまう。
まだ上手く跳ねられないけど2~3日も「おうた」の練習をすればきっとうまくなれる。場所までは自分の帽子の中で運べばいい。そう思っていた。
「ゆゆ!さっそくだけどまりさとありすはおうたさんをうたってみんなをゆっくりさせるんだよ!だからおちびちゃんたちもれんしゅうしようね!」
「「「ゆっきゅりー!!」」」
「さっそくおかーさんがてほんをみせるからまねしてうたってね!」
「まりさもうたうよ!ゆ~♪ゆ~♪」
その日は一日中自分たちの歌声が響いていた…と思う。

…それから数日後。朝早く自分とありすは人通りの多い公園の一角に来ていた。
「ゆゆ!ここならだいじょうぶそうだね!」
「まりさ!おちびちゃんをぼうしのなかからだして!おうたさんをうたうわ!」
「ゆっくりわかったよ!」と返事をして帽子を取り払う。地面に逆さにしておくと中から自慢の赤ゆっくり達が出てきた。
まだ上手く跳ねられないためここで歌ってもらう。
赤ゆっくり達は初めて見る外の景色に目をきらきら輝かせながら見張っていた。
今からみんなが自分たちのお歌でゆっくりして話で聞いたとてもゆっくりできる「あまあま」を置いていってくれる…そう考えると表情もキリッとなるものだ。
「じゃあいくわ!ゆ~♪ゆ~♪ゆっくり~♪」
「ゆっくり~♪ゆっくり~♪」
「ゆ~♪ゆっきゅりしちぇ~いっちぇ~ね~♪」
「「ちょかいは~♪ちょかいは~♪」」
今思えばとてもじゃないが歌じゃない。だがあの時の自分は100点満点の完璧な物として感じていた。
歌っているうちに奇妙な事に気づいた。通行人がたちどまっていやそうな顔をして去っていく。何故だろうか?

立ち止まったある青年に自分はいったん歌をやめて跳ねながら近づく。そうだ。きっとみんなあまりの自分の歌のうまさに戸惑っているのだ。
緊張をほぐすためにも少し遊びも入れないと。
「おにいさん!おうたをきいていったらゆっくりおぼうしさんのなかにあまあまさんをおいていってね!す~りす~り!」
デジャブとその時思った。黒い何かがまた自分の方に向かって飛んできたのだ。空と地面がグルグル交互に入れ替わり地面が視界いっぱいに広がる。
「いだいいいいいいいいい!!」
「までぃざあああああああ!?なにずるのごのいながぼのおおおおおおおお!!」
どうやら蹴られたようだ。この時にようやく気付いた。
ありすが青年に食ってかかっている。おちびちゃんたちが小麦粉の皮を寄せ合って不安そうにこちらを見つめていた。
「ごのいながぼのおおおおお!!ゆっぐりじゆぼぉっ!?」
青年がありすを蹴とばした。同じようにゴロゴロと転がって悶絶する。
「あでぃずううううううううううううう!?」

何かに踏みつけられるような感覚が襲った。
「ゆぎゅっ!?ぐるじいいいいい…!」
「くっせー体を近づけるんじゃねぇよ」
「までぃざはぎだなぐなんがないよぉぉ…おうださんをうだっでだだげなのにぃぃ…」
「あれが歌?あんなのが歌ならなぁ日常生活喋ってる言葉全部が歌になるわ」
「ゆ”!どぼじでぞんなごどいうのぉぉ…!?」
「あー気分悪っ。小汚い帽子に変なの乗せてるしよ、バカじゃねぇの?」
「べんじゃないよぉぉゆぎゃっ!?」
「話すだけ時間の無駄だ。さっさとここから消え失せ…イテっ!?」

その時、自分には声だけしか聞こえなかった。ひんやりとしたアスファルトの感触を今でも覚えている。
「ごのいながぼのおおおお!!よぐもあでぃずのどがいばながおをおおおお!!ゆぎぎぎぃぃぃっ!」
「痛てっ!いてぇ!この!」
自分の体が急に軽くなった。視界を向けると青年の足にありすが歯を突き立てて食らいついている。
青年の手がありすの砂糖細工の髪を掴んだ。一気に引っ張るとありすの体が持ち上がる。
「痛てぇだろうがクソ饅頭がぁ!」
「だばれごのぐぞじゆぎっ!?いだいいいいいい!!ゆぎゅっ!ゆべぇ!ゆごぉっ!ゆが!ゆぎっ!ぎっ!」
「やべでねええええええええ!!あでぃずがいだがっでるよおおおおおお!!やべであげでねえええええええ!」
あの時はただ足に体当たりするしかできなかった。そんな何の足しにもならない事を繰り返している間にありすは青年に砂糖細工の髪の毛を引っ掴まれ何度も殴られていた。
「ゆ”!ゆ”!ゆ”!」
「この!この!」
「やべでねええええええ!あでぃずはきんばっじのとってもゆっくりでぎるゆっぐりなんだよおおおおおおお!」
思わず口走ってしまった。だがその時はそれしか方法がないと…そう思っていた。
「あ?これが金?」
青年の手が止まる。ありすは掴まれてダランと力なく垂れているがまだ大丈夫だ。それほどカスタードクリームを出していない。
「ぞうだよ!あでぃずはどっでもどがいばでゆっぐりでぎるきんばっじざんのゆっぐりなんだよ!やべであげでね!」
「ふーん…お前このゆっくりが本当に金バッジだと思ってんの?」
「ゆ?」
言っている意味が分からなかった。ありすは金バッジそう言っていたのだから間違いないはずだ。おうただって上手だしおどりだって…
「言ってる意味がわかってないみたいだな。おい起きろ」
「ゆ”!いだいいいい…!ゆっぐりじだいわぁぁ…!」
「今から質問するからよーく聞けよ。金バッジ試験の時にどんな事をした?」
「ゆ”!ぞ、ぞれは…どぼじでぞんなごどごだえなぎゃいげゆぎゃああ!」
「答えなきゃ潰す。」
「わがりばじだああああ!ごだえばずうううう!えっどえっどおおおおお!?」
「どうした?早く言えよ」
「あでぃずううううう!ばやぐいっでね!わがるでじょ!?」

何をまごまごしているんだ!金バッジなら絶対忘れる筈がないはずだ!
自分の考えをよそにありすは迷っている。忘れたにしろすぐ思い出せるはずだ。
青年が残念そうに首を振ってこう言った。
「どうせお前普段から自分が金だって吹いてたんだろ?いるんだよなぁ"自分は金バッジになれるほどのゆっくり"って思いこんでるのが。そのクチだろ?」
「あ、ありす?ほんとうなの?」
「…あでぃずはいずれきんばっじをどるんでずうううう!だがらきんばっじとおなじぐらいどがいばっ!?」
ありすが地面に叩きつけられる。
自分はその言葉を聞いて茫然としていた。
「意味分かんねぇよ。結局元飼いゆっくりでも金バッジでもねぇじゃねぇか。」
「…ありす…どうして…?きんっていってたよね?まりさとおなじ…」
反射的にこうつぶやいたのを覚えている。青年はこちらを向いて鼻で笑うとこう言った。
「ひょっとしてお前騙されて捨てられたクチか?残念だなぁこんな汚いゆっくりの虚言に踊らされて…お前らの言葉で言うなら"おお、あわれあわれ"って所か?」

何も言い返せなかった。頭が拒否したからだ。
ありすはただの野良ゆっくり。じゃあ何のために?なんのために自分は…
目の前にありすが蹴りだされた。中のクリームが不規則に変化したのか、髪飾りと砂糖細工の髪以外では何種か判別できなくなっていた。
「ゆ”…!ゆ”…!あでぃずは…あでぃずはどっでもどがいばで…どがいばで…」
うわ言のようにブツブツと繰り返すありすを見てすらも何の感情も思い浮かばない。ただただ乾いた笑いが込み上げてくるだけだ。
「ゆへ・・・ゆへへ・・・ゆぎゃはははははははは!」
「かわいそうにな。まぁ運が悪かったと思うんだな」
青年は振り返らずに去っていった。そんな事はどうでもいい。笑いだ。笑わなければ何かが壊れそうな気がした。
通行人はボロボロの自分達を見て何か汚いものでも見るように足早に去っていく。時折クスクスという笑い声が聞こえるがそんな事はどうだっていい。
笑うしかない。自分は何のためにこのありすを助けたんだ?何のために一生懸命食料を探してきたんだ?何のために…
自分はバカだ…何が「みんながゆっくりできるから自分もゆっくりできる」だ。その甘っちょろい考えの果てがどうだ?この間までふかふかのベッドで寝てあまあまに囲まれていた、だがこのありすのせいで今はどうだ?
蹴られ、罵られ、蔑まれ、寒いダンボールで身を切るような思いをし、うまくとも何ともない砂混じりの雑草を食べて、挙句の果てに「ありすは金バッジになれるはず」?
涙が流れた。甘ったるい砂糖水の味が口に広がる。不意にありすらしきゆっくりが顔を上げてこう言っていた。

「までぃざ…おうぢまでづれでいっでぼじいの…あでぃずはうごげないがら…ゆっぐりあでぃずをだずげでね」
何を言っているんだ「これ」は?
「…ありすはきんばっじじゃなかったの?なんでうそをついたの?ゆっくりこたえてね」
「あでぃずはどがいばできんばっじをどるだげのじづりょぐがあるがら…」
「…もういいよ。まりさはきんばっじのありすしかしらないよ」
「ゆ”?なにいっでるの?ばやぐどがいばなあでぃずをだずげなざい…」
「しらないよ…まりさをだましたようなありすはもうまりさのしってるありすじゃないよ」

そうだ。こんなのにかまってる暇はない。
目の前のそれは砂糖水の涙と涎の様な物を流しながら小麦粉の皮をグネグネと動かしてこちらに向かって何かをがなりたてていた。
「…だばれごのぐぞまでぃざああああ!!もどはどいえばおばえがあでぃずをがいゆっぐりにでぎながっだぜいだろおおおおおお!」
ああ、何か言っているがどうでもいい。何も感じないし、何も聞こえない。
自分は振り返って帽子を取りに帰る。後ろでは何か言っているが知ったことではない。
「あ”あ”あ”あ”うぞでずうううううう…!おでがいでずううう!ゆっぐりがえっでぎでええええ!!までぃざああああ!までぃざああああああ!…ごんなのどがいばじゃないいいいいい!!」

帽子の中では赤まりさと赤ありす二匹がこちらを見上げていた。
「おとうしゃん?どうしちぇおこっちぇりゅにょ?」
「ちょかいはじゃにゃいわ!しゃっしゃとかえりちゃいわ!」
「ゆんやああああああ!ありしゅにゃにもわりゅこちょしちぇにゃいわあああ!」
その言葉を聞いて我に帰る。そうか、怒った顔をしていたのか…
自分はその時、赤まりさ以外を帽子の外に出して帽子をかぶった。そのまま跳ねだしていたと思う。
「ゆっきゅりまっちぇえええええ!ゆ!ゆ!」
「おねえしゃんだけぢゅりゅいよおおおおおおお!」
恐らくはまだおぼつかない底部で跳ね様としていたのだろう。だが跳ねられるはずがない。モソモソとこちらに向かって這いずって行くだけだろう。
どうでもいい…本当にどうでもいい事で全てを失ったんだ…その失望感だけが底部を重くしていた…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ちゅーやちゅーや…」
赤まりさが包めたタオルの上ですやすやと寝ている。
あれから一か月。外は徐々に寒くなって冬が近づいている事を感じさせる。
街の中心部の路地裏のダンボールの中で自分と赤まりさはいた。
…一か月もたてば普通はソフトボールサイズまで大きくなっているはずだが赤まりさはまだミカン程のままだ。
無理もない。いくら優先的に食料を回したところで手に入るのはたかが知れている。
当然こんな様子では越冬用の食料の貯め込みも出来ていない。このままではジリ貧のままゆっくりできなくなるのは目に見えている。

中心部に来てみたものの、餌場は既に他のゆっくりが独占している状態だ。れみりゃやふらんが出る時間帯スレスレを縫って僅かな時間で食料を取ってくる…そんな事しかできなかった。
当然量が見込めない。おまけに赤まりさ付きとあってはどうしようも無い。
だが、危険な目に会わなければ食料は得られない。一日でも休めない余裕のなさが自分の感情をむしばんでいた。
唯一この赤まりさの為に動いている。今はそんな状態だ。
「おちびちゃん…いつもおいしいごはんさんをたべさせられなくてごめんね…こんなたおるさんなんかよりもっとふかふかのもうふさんをきっとがんばってあつめるからね…」
と、言っても赤まりさを連れていくしかない。赤ゆっくり程ならまだ「おうち」の中でゆっくりとしている時期のはずだ。
だが赤まりさの風貌は違う。生傷だらけの小麦粉の皮、ゴミやきれを巻きつけた砂糖細工の髪、白いリボンが擦り切れて落ちたため本当に真っ黒く汚くなっている帽子…底部に至ってはまだ小麦粉の皮が薄い頃に跳ねまわった物だから何度も餡子がにじみ出るように漏れかけ、その度にぺーろぺーろしていたためにススが付いた様に黒くなってガチガチだ。
…とてもじゃないが赤ゆっくりの風貌には見えない
小麦粉の皮を擦り合わせて目を閉じる。屋根すら付いていない、本当にダンボールの側面部分だけを三つ立てただけの簡素な「おうち」、隙間風と身を切るような寒さが小麦粉の皮に当たる中で、赤まりさの温かみだけが記憶に残っている…

「ゆ!ゆ!おちびちゃんゆっくりついてきてね!」
「ゆっきゅりわかっちゃよ!ゆ!ゆ!」
次の日、と言っても日も沈みかけて気温も下がる夕方近くだが、自分と赤まりさはいつものように「狩り」に出かける。
赤まりさのスピードに合わせているとはいえ、赤まりさに取ってはかなりのハイペースで動いている。
餌場につくと、いつものように二手に分かれて食料を探す。
「ゆゆ!おちびちゃんはむこうね!まりさはこっちをさがすよ!」
「ゆっきゅりわかっちゃよ!」
元気よく赤まりさが飛び跳ねる。自分も振り返って食料探しに集中する。
ほんの僅かな時間…30~40分ほどが勝負だ。それ以上経てば完全に動き始めたれみりゃやふらんに鉢合わせしてしまう。
「ゆっくりさがすよ!ゆ!ゆ!」
…どれだけ探したろうか?そろそろ時間だ。
赤まりさが跳ねてくる。帽子の中には萎びた野菜くずが三切れ程入っていた。帽子のサイズから考えれば「大漁」なのだろう。
「ゆゆーん!おとうしゃん!まりしゃやしゃいしゃんをみちゅけちゃよ!」
「ゆゆ!すごいね!まりさはうどんさんをみつけたよ!そろそろじかんだからゆっくりいそいでかえろうね!まりさのおくちのなかにはいってね!」
「ゆっきゅりわかっちゃよ!」
口の中に赤まりさを収容すると帽子の中からうどんの麺をこぼさないように注意深く、だが速く跳ねていく。
辺りはすでにかなり暗くなっており、そろそろれみりゃが現れる時間帯だ。少々リスキーだが近くの公園を横切る最短ルートで帰る事にする。

その判断が間違っていたのかもしれない。公園の中腹を通った辺りだろうか?後ろから声がした。
「う~☆あまあまだど~☆まつんだど~☆」
れみりゃだ!早い!?なぜこんな時に!?
小麦粉の皮が冷える。冷たい砂糖水の汗が噴き出した。急いで跳ねる。振り返りもしない。振り返ればその分追いつかれる。
「が~お~た~べ~ちゃ~う~ぞ~☆」
「ゆ”!ゆ”!ゆ”!」
舌が震えている。赤まりさもれみりゃに気づいている様だ。
寒天の目を血走らせて跳ねる。
背中に何か触れた。途端に痛みが走る。

「ゆ”っ~~~~~~~~~!?」
痛みのあまり転んだ。恐らくだが持たれて噛まれたのだ。そして跳ねた時にズレて縦に切れ込みが入ったのだろう。
帽子が投げ出される。中からうどんの麺が零れ出ていた。
だが何よりの失態は、赤まりさが飛び出てしまった事だ。
「ゆんやああああああ!いぢゃいよおおおおおおおお!」
「おちびちゃん!?ゆっくりまりさのおくちのなかにもどってね!はやくしてね!ゆ!?」
横を通り過ぎていくその姿。れみりゃだ。初めて見るが何故か記憶している。
「う~☆まずはぜんさいからたべるんだど~☆」
しまった。赤まりさの方へ行ってしまう。
「おちびちゃん!ゆっくりにげてね!」
反射的のそう叫ぶ。だが赤まりさはすでに逃げ出そうとしていた。
「ゆっきゅりにげりゅよ!ゆ!ゆ!?まりぢゃのおぼうしじゃんがあああああああ!」
追いつかれてしまい、れみりゃに帽子を引っ張られる。それに気づかず逃げたため帽子が離れてしまったのだ。
「ゆっきゅりかえしちぇね!まりしゃのおぼうしかえしちぇね!」
この非常時に何を呑気な事を…と今になって思うが当時は必死だった。
「おぢびぢゃんんんんんんんんんんんん!?ぼうじはいいよ!ばやぐにげでねえええええええ!」

何と赤まりさは帽子を手に持っているれみりゃの方に向かって飛び跳ね始めたのだ。
叫んだ頃にはもう遅い。がっちりと掴まれ底部がグネグネと虚空を描く。
「あ”あ”あ”あ”!?まりぢゃをはなぢじぇねえええええ!」
「う~☆いただきますだどぶぎゃっ!?」
何故あの時そこまで動けたのか。今でも分からない。
気がつけば後ろかられみりゃに体当たりをくらわしていた。
れみりゃは前のめりに顔から倒れ、赤まりさが前に投げ出される。
「ぶぎゃあああああああ!?いだいどおおおおおお!れびりゃのぶりじーながおがああああああ!」
「ゆ!ゆ!おぼうししゃん!ゆ!?」
かなりのスピードで自分は自身の帽子を舌で引っ張ると一気に被り、赤まりさの砂糖細工のおさげを加えて跳ね始める。
「ばなじぢぇええええええ!ばりぢゃのおぼうじじゃんんんんんんん!」
「ゆ!ゆ!」

急いで跳ねる。気が付けば公園を離れ、路地を曲がり裏道を通り、元の「おうち」に戻っていた。
「ゆ!ゆ!まりぢゃのおぼうじじゃんぎゃぁぁぁ…」
食らい路地裏のダンボール箱の中で、帽子が無くなった赤まりさが泣いている。
それを見てあの時の自分はこう言った。一語一句今でも覚えている。
「ゆ!なかないでね!おぼうさんがなくてもおちびちゃんはとってもゆっくりできるゆっくりだよ!」
「ゆぅ…でみょ…」
「よくきいてね!あのおぼうしさんはもうぼろぼろだからゆっくりしたおちびちゃんのところからはなれていったんだよ!」
「はねれちぇ?」
「そうだよ!つまりつぎはもっとゆっくりとしたおとーさんのようなきれいなおぼうしさんがまたおちびちゃんのところにくるんだよ!」
「ゆゆ!ほんちょ!?」
「ほんとうだよ!おちびちゃんはいつもゆっくりしているからかならずくるよ!だからなきやんでゆっくりしていってね!」
「ゆゆ!ゆっくちしちぇいっちぇね!」

…今思えば詭弁だ。自分は真っ先に帽子を頭に載せたくせにそんな事を言う。思い出すだけで自分に腹が立つ。
いつかのありすと子まりさの様に、結局は自分の保身のためにいつまでもグズる子ゆっくりをそれっぽく言いくるめただけではないか。
後ろがヒリヒリする。餡子は出ていないようだが引っかかれたようになっているのだろうか?まぁ大した傷ではない。すぐ治るだろう
だが今はいい。とにかくゆっくり眠りたい。
タオルを敷いてその上に乗る。そして帽子の中に赤まりさを入れると目を閉じて眠りについた…
…所で何故赤まりさだけを一緒に連れてきたのか?
それは単なる気まぐれとしか言いようがない。赤ありすは見たくもなかったが、餡子がつながってないとはいえ自分に似ている…様な気がする赤まりさを放っておく事は出来なかったからだ。
今思っても非効率的な方法だ。しかもそれが赤まりさ自身の身に降りかかるとは、あの時は予想もしていなかった。


過去作品




トップページに戻る
このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • タイトルから仮面らいだーW関連かと思った -- 2011-11-24 23:31:35
  • 羽付き誕生秘話か -- 2011-07-26 09:16:16
  • 羽付きも若い頃は甘ちゃんだったんだな -- 2011-06-08 13:10:31
  • ↓↓最近話題になってるなこいつ。キモ!W -- 2011-03-09 00:52:30
  • 出た!キモいしか言えない人!! -- 2011-03-08 22:30:14
  • 他ゆの子供を妊娠中のゆっくりを番にするってゆっくり的にありえんの?
    そもそも物語的に羽付きの実子じゃないとする意味があるの?
    意味があるとすればキモい作者的に僕の考えた格好良い羽付きに
    実の子を見捨てたり死なせたりさせたくないって事くらいか
    キモ!とんでもなくキモい厨二設定だ!キモ過ぎる!キモいにも程がある!
    キモいんじゃハゲェエェ!!! -- 2011-03-08 16:59:30
最終更新:2010年01月06日 16:29
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。