深夜の甘味 6KB
小ネタ 調理 短いです ※一度削除、再アップしました
女の子は甘い物が好きである。これは世の常識だ。
そして甘い物が好きな男の子も多い。
そう、例えばこの俺だ。
今もなにかこう、無性に甘い物が食べたくなったので、リビングの水槽の中かられいむを持ってきた。
着せてあった服は脱がせてある。――大体なんでゆっくりなんぞに服を着せる必要があるんだ?
「ゆゆう。れいみゅはもう、おねむだよう……」
俺の手に乗っているこいつは、妹が大事に大事に育てている子れいむだ。
妹はこいつの他にも何匹かゆっくりを飼っている。
それなりに育ったゆっくりを買ってくりゃいいものを、わざわざ小さい頃から面倒見るだなんて、何だってそんな酔狂なことをするのか俺には理解できない。
妹曰く、「小さい頃から知っている方が安心できる」んだそうだ。
そんなもんかねえ。
こんなモンに下手に愛着持っちゃって、人間として嫌な気分にならないのかよ。
「かわいい」とまで言ってんだぜ。信じらんねえわ。
ともあれ、妹の物は兄の――すなわち俺の物。これも世の常識だ。
俺は甘い物が食べたくなった。
家には妹が育てているゆっくりがいる。
だからそいつを俺が食べる。
どうだ、この見事な三段論法。文句あっか。
この寒い中、しかも深夜に、わざわざ甘い物買いに外出たくないってーの。
しかもこのれいむ。健康そうに育っていて、子ゆっくりとしてはちょうど今日あたりが食べ頃と見たぜ。
「すーや、すーや……むーにゃ、むーにゃ……」
俺の手の中で呑気に眠りこけているれいむを、石油ストーブの上に敷いてあるアルミホイルの上に乗せた。
そのまま食べてもいいけど、この時期は温めたゆっくりが定番だよな。
「……ゆ? にゃんだかあんよがあっちゃかいよ! ぽかぽかだよ! ぽーかぽー……ああああぢゅいいいいいいいい!!」
漫画を読みながら、ちょっと待つ。
「あんよがあぢゅいよおおおおおおお!! いぢゃいよおおおおおおお!!」
おお、鳴いてる鳴いてる。
ちなみに俺の部屋は防音がしっかりしているので、外にこの悲鳴が漏れることはない。
「おねえじゃん! おねえじゃん! たぢゅげでね!! かばいいれいみゅをだぢゅげでね!!」
はいはい。早寝早起きのお姉さんは、自分の部屋で寝てるよ。残念だったね。
さてと――お、あんよはいい塩梅に温まったな。
「れ、れいみゅ、おぞらをとんでるみだいいいい!」
このちょっぴり焦げてるのが、またいいんだよね。
「れいみゅのあんよがあああ……」
じゃあ次は、ひっくり返して、おつむの方を温めるとしようか。
とりあえずお飾りを外して、っと。あちちっ。
「れいみゅのすてきなおりぼんしゃん! かえちて……ああああぢゅいいいいいいい!! れいむのおづむがああああああああ!!」
うーん。飴細工の髪の毛が焼ける甘い香り! たまらないなあ。
早く焼けないかなあ、とばかりに、れいむの体を押しつける。
「やめぢぇえええええ!! おねえじゃん! どごにいるのおねえじゃん! れいみゅをだぢゅげでええええええ!!」
また妹に助けを求めてやがる。よく懐いてるんだなあ。
まったく、こんなにかわいがって、妹も何考えてんだか。趣味が悪いったらないぜ。
――おっと。あまり温めてもまずいな。そろそろいいか。俺はれいむをストーブから下ろした。
「も、もうやぢゃあ……。れいみゅ、おうぢがえるうううう……」
あっちい! 火傷には注意しないとな。
ゆっくりを加熱していて火傷しましたなんて、格好悪くていけない。
「……ゆ? おにいしゃん、なにしゅるの? やめちぇね! やめちぇね!」
俺の口に運ばれる段になって、ようやくれいむは自分の運命を悟ったらしい。――よしよし。せいぜい鳴いてくれ。
では、いただきます。
俺はれいむのおつむをがぶりとかじった。ゆっくりと某ひよこ菓子は、頭からいくのが俺のこだわりだ。
「いぢゃいいいいいいい!! れいみゅのおつむがあああああああ!?」
うーん、うまうま! この、ほどよく温まった皮と餡子がたまらないね!
そこに餡子とは違う髪の毛の甘味が加わって――やっぱり冬の甘味ったらコレだな!
スイーツじゃなくて甘味と呼ぶ。これも俺のこだわりだ。
「やめちぇええええええ!! れいみゅのおつむたべないでええええええ!!」
そしてこのれいむの鳴き声。これがまた味のアクセントになるのよ。
やかましいからと口を塞いで黙らせたり、手っ取り早く殺してから食べる人もいるみたいだけど、俺に言わせりゃそれは素人だね。
悲鳴もゆっくりの味の内。これがないとやっぱり寂しいよ。
納豆やくさやなんかも確かに臭いけど、だからと言って臭わなかったら物足りないだろ?
「たちゅけてえええ……おねえしゃん、たしゅけてええええ……」
また妹に助けを求めてやがる。いい加減にあきらめろっての。
俺はれいむの体を口に入れた。
口の中に「もっちょゆっくちしちゃかった……」という声が響く。
うーむ。この断末魔も、ゆっくりを食す醍醐味だぜ。
こんなゆっくりを育ててくれた妹に感謝だ。
「なんで私のれいむを食べちゃったの!?」
「甘い物が食べたかったからだ!」
明けて今日、朝早くから妹に叩き起こされた。
そして説教を食らっている。もちろん、妹のれいむを食べちゃった件に関してだ。
「信じらんない! 私が精魂込めて育ててたって知ってるよね!?」
妹はちょっと涙目になっている。
さすがの俺にも罪悪感が芽生えるが、ここで折れては兄の面目に関わるのだ。
できるだけふんぞり返って言ってやる。
「精魂込めてっておまえ、たかがゆっくりにさあ」
その辺で買ってくりゃいいじゃねえかよ。
「素性がはっきりしていた方が安心できるでしょ!?」
「加工所製のでいいだろ。安全だぜ?」
「私は本物志向なの!」
けっ。何言ってんだか。
「だいたい、あのれいむ。夕べあたりがちょうど食べ頃だったぜ」
俺がそう言った瞬間、妹の目つきが恐く――いや、さっきから恐かったので、より凶悪になった。
「はあ? あんた今何て言った? ちょっともう一回言ってくれる?」
「い、いや、ちょうど食べ頃って……」
「食べ頃!? 夕べが!? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「た、食べ頃に見えましたよ?」
つい敬語になってしまった。
「あんた、信っじらんないくらいド素人ね!」
妹は盛大に溜息をついて、
「食べ頃は明日の夜よ。そんなこともわかんないの?」
心底馬鹿にした目つきで俺を見て言った。
口喧嘩で妹に勝てる兄はいない。これは世の常識だ。
俺は今、妹のためにゆっくりを買いに走らされている。
妹サマは『最高級天然子れいむ(血統書付)』をご所望だそうだ。
「なんだって俺がこんな事を……」
つい口に出して愚痴ってしまうが、原因なんてわかりきっている。
妹が食用として大事に大事に育てていたれいむを、俺が食べてしまったからだ。
認めたくないが、まあ全面的に俺が悪い。
自称『本物志向』の妹は、めったに店売りのゆっくりを食べない。
なんでも「加工時の添加物や調味料がゆっくり本来の味を殺す」んだとさ。
この美味しんぼ気取りの女は自分でゆっくりを飼育しはじめた。
もちろん、自分で食べるためにだ。
でもあいつ、ペットにそうするように愛情たっぷりで育てるものだから、まあゆっくりに懐かれること懐かれること。
あの女ってば、一秒前まで自分を「おねえさん」なんて慕ってたゆっくりを笑顔で食うんだぜ! 趣味悪すぎだろ!
――まあいいや。そういう人は世界にごまんといるみたいだし、人様の食生活なんてとやかく言う物ではない。
ただ一つだけはっきりさせておきたい。
あの子れいむは夕べが食べ頃だった。
兄のプライドにかけて、そこは譲れないぜ。
(了)
作:藪あき
挿絵 byめーりんあき
以前書いたもの……
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 愛で派かと思ったらまさかのスイーツだったwwwwww -- 2014-06-05 18:17:30
- Oh~ -- 2013-07-10 15:22:56
- 愛で派だと思ったwww -- 2012-07-30 22:28:00
- 「ほんものしこう、だってさ。おお、こっけいこっけい。
たべごろさんのわかるかしこいおにいさんが
めのくさったいもーとのかわりにたべてあげるよ!
かんしゃしてね!」ってことだねー、わかるよー。
うわずみさんだけとっていくことにざいあくかんをかんじない
あんこのうなゲスおにいさんをもっておねえさんもたいへんだねー。
-- 2012-02-04 20:26:01
- お兄さんちょうど旬の焼きゆっくり2つ予約で -- 2012-01-08 11:52:15
- はぁあああ!?甘味といったらゆっくりぃ!?何いってんのぉおおお!?
職人の手で作られたスイーツこそ至高にして究極なんじゃあああああ!!
スイーツ侍なめんなぁああああああ!!!
あ、店員さん焼きゆっくり一人前追加でお願いします。 -- 2011-11-08 10:52:35
- 食べ頃は明後日の夜でしたとさ。 -- 2011-09-29 07:02:10
- バカ兄貴だな -- 2011-09-14 00:56:38
- このお兄さん弱いよ! -- 2010-09-12 20:52:35
- なにが本物志向だよ こういう馬鹿うぜぇ -- 2010-08-20 02:30:30
最終更新:2010年03月14日 09:55