41 狼の咆哮 - 画像レスラー@ ウィキ(跡地)

第四十一話　狼の咆哮

椛「ちょ、ちょっと待ってください！」
たから（化身）「………では始めましょう」
椛「本当にちょっとだけだったー！」
たから（化身）「犬の何が悪いというのかしら」
椛「私は犬じゃない！　私は狼、白狼天狗です！」
たから（化身）「そんな小さなことに拘っているから、仲間を傷つけることになる」
椛「そ、それは…」
たから（化身）「あなたの精神も肉体も、私が鍛え直してあげるわ。私の特訓も兼ねてね」
椛「うわー！」

文『では特訓といきましょう』
エヴァ「…椛の事は放っておいて良いのか？」
文『…今はたからさんにお任せします。それよりも！』指ﾊﾟｯﾁﾝ

　文の呼びかけに、名もなき妖怪達が出現した。
　先日戦った河童達に加えて、人型の青い妖精、狸女、小柄な女性悪魔、大小の鬼二人、蜘蛛の精、春の妖精と様々な妖怪達がにこやかに立っていた。

文『彼女達はこの特訓に力を貸してくれるそうです。皆さん、ソガノトトスさんの知り合いでしたから…皆さん自然の掟と思いつつも、納得がいかないご様子。そこであなた達を強くすることで間接的にですが仇を取ろうと思っているのです』
ネロ「それは頼もしいね」
夕映「まといさんは出れそうですか？」
まとい「痛てて…いえ、普通に歩く分には問題ないですが、戦闘に参加は出来そうにないですね」
カロメ「二、三日すれば治る軽傷でしたからねっ」
カズキ「まといちゃんマジタフネス」
エヴァ「よし、では行くぞ！」
文『特訓の内容は至ってシンプル。ぎりぎりの攻撃を放ちますので、皆さんよけて反撃を当ててみてください！』
カズキ「へ？　うわぁ！」

　小さな鬼がカズキめがけてエネルギー波を打ち込んできた。
　彼は寸前でかわしたが、エネルギー波が抉った大地を見るに、かわさなければ命を落としかねない威力の攻撃であった。

カズキ「なるほど…スピードと瞬発力を鍛える特訓か！」
夕映「わー！　容赦ないです！」
真紅「ミキシトランス、ティラノ！」
妖精「！」

　妖精の放った氷は、真紅の肌をかすめた。

真紅「くそっ…ティラノの力じゃダメなのか！」
エヴァ「そうか…彼女達は長い時を生きてきたつわもの達。いかにティラノサウルスとはいえ、ただの獣では勝てないという事か」
布都「真紅…」
しゃも「…！」

　しゃもは妖精に向かって、自ら青い妖精に向かって飛び込んでいく。

真紅「しゃも！」
しゃも「勇気とは…『恐怖を知る事』ッ！」

　飛び交う氷の塊の中、しゃもはぎりぎりの所でそれを避けていく。

真紅「す、すげぇ！」

　そんなしゃもの背中に、ゆらり、と紫色の光が立ち上る。

エヴァ「！？　あれは、化身！」
超太郎「しゃもさんも化身使いなのか！？」
布都「良いぞー！　しゃもう！」
しゃも「うおおお、なの！」

　しゃもは攻撃こそ出来ないものの、妖怪達の攻撃を寸前でかわしていく。
　体力が尽き、倒れようとするも、強い意志で再び立ち上がる。

真紅「しゃも…俺も負けてられねぇ！」
布都「むぅ…真紅もしゃもうも頑張れー！」

　一方、たからと椛もまた激しい特訓を行っていた。
　と言うよりは、たからが化身の力で向かってくる椛を叩き伏せる一方的なものだった。

たから（化身）「どうしたの、その程度かしら」
椛「う、うう…」
たから（化身）「立ちなさい、犬走椛。あなたの力はこんなものではないはず」
椛「あなたに…私の何が分かるって言うんですか！」
たから（化身）「分からないわね。犬だ犬だと言われて、うじうじと泣いてるあなたなんか」
椛「う、うわぁぁぁ！」

　椛は気づいていなかった。
　その背中から、紫色の光が立ち上がり始めていることを。

たから（化身）「そう、その意気よ」
椛「私は、狼なんだぁ！」
たから（化身）「まだ言うのね…ジャスティスウィング！」

　椛はもう何度目になるか分からない攻撃を受け、その場に叩き付けられた。

たから（化身）「…私には二匹の飼い犬がいるわ」
椛「…う、うう…？」
たから（化身）「ヘンデルとグレーテル。二人とも良い子達よ」
椛「…」
たから（化身）「二人は犬。けれども自分達が犬だとは主張するわけでもなく、ただ私のために頑張ってくれている。もっとも、今はお留守番で連れてきてはいないけれど」
椛「…何が言いたいんですか？」
たから（化身）「自分が何者かだなんて、そんな小さな事に拘るのは止めなさい。あなたはあなたのやるべきことを果たしなさい」
椛「どうやって…」
たから（化身）「自分で考えなさいな」
椛「…」

　思えば、文が怒ったのは初めての事であった。
　今までどんな事にも否定も肯定もせず、ただ優しくしてくれた彼女の事を思うと胸が苦しくなる。

椛（そうだ…私はただ認めてもらいたかったんだ…あの人の力になれるんだって…）

　犬と呼ばれるのは確かに辛い。
　でももっと辛いのは、文に嫌われる事だ。
　それに比べれば、犬呼ばわりは些細な事だったのだ。

椛（犬だって良いんだ。私は私で、私の力であの人と共にいつまでもいたい…あの人の力になりたい！）

　そして椛は立ち上がる。
　今度は自分の力をはっきりと確信した。
　体の奥底から燃え上がるような熱い力を、今ここに開放する！

椛「出でよ、私の化身！」

　椛の背中に、雄叫びを上げる四足の化身が出現した。

椛（化身）「はぁはぁ…行きますよ、たからさん！」
たから（化身）「望む所よ。かかって来なさい、コハナさん！」

杏子「うーん…」
ネロ「どうしたのさ、杏子」
杏子「のぶさんは強い。勝つにはどうしたら良いんだろうって思ってさ」
イエロー「杏子さんの強烈な一撃を頭にずどんといってみてはどうでしょう？」
ネロ「イエロー、ちょっと発想が腹黒いよ…」
イエロー「えっ？」
杏子「そうか…良し！　俄然やる気が湧いてきたぜ！」

　そして一日が終わった。
　ＰＣとの戦闘のダメージと過酷な訓練にへとへとになった彼女達は野宿する事となった。

ネロ「そういえば結局たから達は戻ってこなかったね…」
エヴァ「椛もな…」
文『…』
たから「あら、呼んだかしら？」
文『…！』

　野宿の準備が終わる頃、たからは椛を背中に抱えて現れた。

文『あの、椛は…』
たから「大丈夫よ。眠っているだけだから」
椛「Ｚｚｚｚ…」
カズキ「なんて安らかな寝顔なんだ…」
文『お手数をおかけします』
たから「いいえ、大したことはしてないわ」

　たからは椛を文に預けた。
　文はいわゆる『お姫様抱っこ』で椛を抱き上げる。

文『こんなにボロボロで…一体何が？』
たから「フフフ…特訓よ。それよりも」
文『はい？』
たから「ちゃんと仲直りするように」
文『ええ、ありがとうございます』

　そうして一夜が明け、体力と傷を回復させたレスラー達は特訓を再開した。
　目覚めた椛は文と顔を合わせたがお互い何を言っていいか分からず、迷っているうちに妖怪達が再びやってきて騒ぎ始め、二人でゆっくりと会話は出来なかった。

椛（文さん…）
文『…』
たから（これ以上口出ししない方が良いわね）
まとい「椛さん、私なら大丈夫ですから。私の分まで頑張ってくださいね！」
椛「はい、まといさん…ごめんなさい。私、やります！」
真紅「うぉぉぉ！」

　真紅は突出するが、勢い余って滑ってしまう。
　そこへ、小鬼の放ったエネルギー弾が襲い掛かった。

しゃも「真紅！」

　しゃもが走り、その腕を掴み取る。

真紅「ぬおおおお！」

　その勢いのまま、真紅はエネルギー弾を弾き返した。
　弾は大きく何度かバウンドし、光の粒子となって消滅した。

しゃも「大丈夫、真紅？」
真紅「あ、ああ…今の…」
しゃも「さぁ、頑張るのよー！」
真紅「うーん？」

？？？「無駄なあがきですね」
超太郎「あ、白蓮！」

　再び聖白蓮率いるパーフェクト・カスケイドが出現する。

影月「目標を補足。これより作戦を開始。レスラーズを殲滅する」
杏子「へっ、のぶさん！　あたしが元に戻してやるぜ！」
たから「皆…行くわよ。気を引き締めて！」
皆「おう！」

（続く）

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