その愛は侵食◆PatdvIjTFg
からころ、からころ、と空き缶を引きずる音が鳴る。
「愛するものが死んだ時には、自殺しなけあなりません」
ある街の大通りで、よたりと歩きながら詩人と呼ばれる男が大声で中原中也の詩を喚いている。
街の住民は誰一人として彼の本名を知らない、彼の口は詩を喚く以外の用途に用いられることは無いのだ。
どれだけ風呂に入っていないのだろうか、どれだけ服を変えていないのだろうか、どれだけ自分という存在に無頓着になってしまったのだろうか、
汚らしく――そして、哀れな男だった。
誰かが噂するには、彼は妻を喪ったとも、あるいは娘を喪ったとも、
愛する者が死んでも自殺出来なかった男――その点だけは、詩人に対しての数多の噂話に共通していた。
からころ、からころ、と詩人が空き缶を引きずる音が鳴る。
「愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない」
自殺以外の方法を見つけられなかった男だ、だから――壊れたスピーカーの様に詩を喚いている。
断罪を求めているのか、繰り返し、繰り返し、同じ詩を。贖罪を求めているのか、ひたすらに喚く。
からころ、からころ、からころ。
「けれどもそれでも、業〈ごう〉(?)が深くて、なほもながらふことともなつたら――」
機械のように、よどみなく詩を喚いていた詩人の言葉が止まる。
そこから先、何を言えばいいかわかる。
その後の詩文を、詩人ははっきりと覚えている。
それでも、続きが――言えない。
からころ、からころ、からころ、からころ。
「愛するものが死んだ時には、自殺しなけあなりません」
永遠に終わらない詩を引き連れて、詩人は再び歩き出す。
詩人はきっと、どこへ辿り着くこともない。
何も終わらせることの出来ぬまま、歩くだけだ。
からころ。
からころ。
からころ。
「うふふ……マスター、愛する人が死んだ時には自殺しなければいけないと」
「――――」
詩人と、――がすれ違う。
一瞬の交差、交わす言葉など無い。ただ、――が一方的に詩人の喚きを、心の底からの悲鳴を受け取るだけ。
しかし、詩に反応を返したのは、――ではない。
少女の声だけが、――の耳に届いている。
だが、この地上に声の主は存在しない。
鏡を見よ、鏡越しでのみ見ることの出来る写るはずのない少女を見よ。
処女雪のように真っ白で、右目に白薔薇を宿した少女を見よ。
実体の無いアストラル体の少女、朽ちる肉体が無い故に永遠の少女。人形の少女。
裁定者【
ルーラー】のサーヴァント、
雪華綺晶である。
「たった一人の少女のために、何人も何人も少女を集めて、ふふ……なんて、愛おしくて、愛らしいマスター。
人形の私なんかよりもずっとずっと可愛らしくて……うふふ、妬いてしまいそう……」
「――――」
「彼女たちは――貴方の愛した少女が辿れなかった未来、理不尽な死によって奪われてしまった可能性の蕾達……
だからこそ、英霊とともに聖杯に捧げなければならない――無垢なる魂。いえ、それとも憎しみ?
うふふ……何故、あの娘は死んだのに――お前たちは生きていると、調子はずれの復讐劇がお望みなの?」
「――――」
「まぁ、どっちにしても舞うしかないのでしょう、幕があがってしまったのだから、観客は――聖杯は今か今かと待ち望んでいるのだから」
「――――」
「さあ、マスター」
「けれどもそれでも、業〈ごう〉(?)が深くて、なほもながらふことともなつたら――どうするのですか?」
ごうん、ごうん、と12時を告げる鐘が鳴る。
それはきっと始まりの合図だったのだろう。
雪華綺晶のマスター、いやこの聖杯戦争そのもののマスターは、愛する少女を喪った。
そして、誓った。
如何なる手段を以てしても、愛する少女を取り戻すと誓った。
だからマスターは少女達を呼んだ。
少女達は、愛する少女が辿れなかった未来だ。愛する少女が喪った現在だ。愛する少女が二度と触れられぬ過去だ。
少女達の喜びは、怒りは、悲しみは、憎しみは、ときめきは、ありとあらゆる感情は、もう二度と死化粧の少女には得られない。
少女達よ、殺し合え。
戦いの中で生じる全ては、我が少女のために捧げられる。
英霊達を、再殺せよ。
何故、英霊は蘇り――しかし、我が少女は蘇らぬ。
少女への愛。
少女への憎しみ。
愛憎が入り混じり、少女達をこの地へと誘う。
――少女 製/性/聖 杯戦争 が始まる。
「――なほもながらふことともなつたら、
奉仕の気持に、なることなんです。
奉仕の気持に、なることなんです。
愛するものは、死んだのですから、
たしかにそれは、死んだのですから。
もはやどうにも、ならぬのですから、
そのもののために、そのもののために、
奉仕の気持に、ならなけあならない。
奉仕の気持に、ならなけあならない 」
【GAME START】
主催
【
???@???】
【ルーラー(雪華綺晶)@ローゼンメイデン】
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ルーラー(雪華綺晶) |
000:前夜祭 |
最終更新:2015年05月30日 21:55