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ララ&アサシン ◆faoWBgi.Rg


◆◆◆◆

Lacrimosa dies illa
(涙の日 その日は)
qua resurget ex favilla
(罪ある者が裁き受けんがために)
judicandus homo reus
(灰の中からよみがえる日)
Huic ergo parce, Deus
(神よ どうかこの者をお許しください)
pie Jesu, Domine
(慈悲深き主 イエスよ)

◆◆◆◆

日は落ち、月が昇り、街は静けき夜の帳に包まれている。
通りの一つに面した、その西洋風の市民劇場は、入り口にささやかな灯をともして、ひっそりと夜の色に同化していた。
閉じきられた扉の中からは、とぎれとぎれに、歌声が漏れ聞こえている。
劇場の前には、共有の休憩所と、喫煙所があり、仕事帰りらしい男が二人、煙草を片手に、話し合っている。

「最近、出るらしいな」

「何が」

「『火吹き男』だよ。『火吹き男』」

「火吹き男?」

「こんな月の出た晩に、一人で歩いてたらさ。見上げたら、屋根の上にいるんだと。こう、長い手足をばあっと広げて…物凄い笑い声をあげて」

「なんだそりゃ。子供のおとぎ話じゃないんだから。通り魔とか、変質者ならともかく」

「そうだけどな。ここいらでやたらと噂を聞くもんだから」

男の言葉に、もう一人の男は、劇場の灯をちらりと顧みながら、

「こんなところで噂なんか聞くからだろう」

と言った。

「最近、若い子が妙に来るようになったからな。この劇場。前は金持ちの爺さん婆さんの御用達だったのに」

相方に合わせ、最初に口火を切った男も、劇場の扉へと目をやる。

「やっぱり、あの歌かね。今晩も……」

◆◆◆◆

外国のホールを模した、円形の観客席と、それが見下ろすステージ。
明かりを落としたその暗がりの中に、浮かび上がるようにして、ライトの真ん中で、一人の少女が歌っている。

“Lacrimosa dies illa……”

伴奏のない独唱。
音響装置も、最低限のものしか備えられていない。
それでも、少女の柔らかな、ゆったりとした歌声は、劇場の中にうねり、沁みるように響き渡る。

“qua resurget ex favilla……”

天上の歌声――聴く者の脳裏に、そんなありふれた修辞も浮かぶが、同時に、そう喩うるにはどこか哀しすぎる、やはりこれは、この地上の音楽である……そうも思わせる。

“judicandus homo reus……”

少女は歌い続ける。
身に付けた衣装もまた、とても舞台の上に立つものとは思えないほどに質素なそれである。
だが、観客は皆、少女の歌声だけでなく、その姿にも見入っていた。
布の覆いに包まれながら、そこから零れ、腰まで伸びる豊かな金の髪。
なめらかな、白い肌。
歌を紡ぎ出す小さな花のような唇。
そして、まっすぐに虚空を見つめる、冷たい宝石のような瞳。
その片方は、怪我でもしているものか、包帯に覆われている。

“Huic ergo parce, Deus……”

少女は、歌い続ける。
聴き惚れ、見惚れる客席にも、多くの「少女」の顔がある。
みな、いくらかの差異こそあれ、同じくらいのあどけなさを残し、同じくらいの大人びた気配を滲ませた顔だ。
少女たちは恐らく、誰ひとりとして、舞台の上から紡がれる歌声の、その歌詞の意味を――遠い異国の言葉の、訴えかけ、示そうとするところを理解していない。
それでも、彼女たちの目からは、自然と零れ落ちるものがあった。
それは、何の涙であっただろうか。
この架空の町で、幸せな夢の中で暮らす彼女たちの、かつての記憶と、抱いていたはずの思いと、願いと―――いまや失われたそれらへの、浮かぶはずのない涙であっただろうか。

“pie Jesu, Domine……”

少女は――――。
『ララ』という名を持つ歌姫の少女は、歌い続けた。
光に照らされながら、闇の中の少女たちへ向けて、彼女の『子守唄』を。

◆◆◆◆

夜も更け、劇場が全ての灯を落とし、再び扉を閉じた後。
ララは、一人で、劇場の裏の路地を歩いていた。
雲のない夜空から月が見下ろし、街灯の少ない道に、青い、不吉な色を与えている。
舞台の上と同じ衣装のまま、多くの歌手や役者たちがそうであるはずの、解放された風もなく、歌姫は歩いてゆく。
やがて、教会の前まで来たところで、ふと、空を見上げた。

月を背景にして――教会の、鋭角な屋根の上に、何かが立っている。

異様な長身であった。
真っ黒い全身から伸びた、奇妙なまでに長い手足が、縦長のそれの姿をさらにアンバランスにしている。
顔には二つの火が――不気味に燃える両の目があり、そればかりではなく、横に裂けた口からも、青白い炎が零れている。

それは、見上げるララを認めると、嗤った。
ひどく耳障りな、馬車の軋むような声で。

そして、長い肢を曲げ、たわめると、次の瞬間、空へ跳び上がり――急降下して、物凄い速さで、ララの眼前に降り立った。
地面が砕け、瓦礫が散り、ぷん、とひどい硫黄の匂いが立ち込める。
ごう、と音がして、青白い炎がララの前を掠め、その光に照らされて、怪人の、丈の長い黒いマントと、黒いシルクハットと、表情のない鉄仮面が明らかになる。
ララは、表情を変えなかった。
ただ、じっと怪人を見つめた。宝石のような片目で。
背を曲げかがめ、ランプのような両眼で、ララの顔を見下ろしていた怪人は――

「なぜ、ずっと気付かないふりをしていた」

口を、利いた。

「お前はすでに、この聖杯戦争のマスターとしての記憶を取り戻していたはずだ。
知識、情報、課せられたルール
そしてこの町が、造られた“贋物”であることも」

怪人は、口から炎を吐き出しながら、続ける。

「それなのに、オレを呼ぶこともせず、夜な夜なあの劇場で歌い続けていた……」
「……そう、あなたが、私のサーヴァント」

怪人の言葉の途中で、ララは少し笑みを浮かべ、その姿をしげしげと眺めると、

「あなた、“お化け”でしょう?
劇場に来る子たちが、噂していたわ。火を吹くお化けが出るって……」

確かめるように、そう言った。

「……ああ」

怪人は、肯定する。己が「怪人」であることを。
今のみならず、かつてにおいてもまた、人々の間に、恐怖と驚愕を以て語られた存在であることを。
ララはその顔を見つめながら、私と同じね、と呟く。

「でも。あなたのそれは、仮装でしょ。お化けの仮装。
……私は、違うよ」

そう言いながら、頭の覆いを、片目を覆う包帯を、ゆっくりと取り去った。

綺麗な金の髪。その上に、幾つもの機械の突起があった。
包帯の下。そこに、陶器のような顔面のひび割れと、破損した眼球があった。

怪人は。
怪人は、それを見て驚くでもなく、ふん……と声を洩らした。
ララは笑う。

「わかってたのね。そう、私は、人間じゃない」

そして語る。
かつて語られた一つの「奇怪」を。
「神に見はなされた地」に棲み付いた亡霊の話を。
絶望に生きる人々を慰めるために造られた、歌う快楽人形の話を。
五百年もの長きにわたり、その人形は、「ララ」は、その名をすら知られることなく、少女と化け物の中間の何かとして、乾いた土地の怪異として在り続けた。
一人の子供に出会うまで。
そして、悪魔と、悪魔祓い師たちと出会い、破壊されるまで。

「私の心臓は、特別なの。神様の――呪いなんだって」

胸に手を当てながら、己の中に埋め込まれた〈神の結晶〉、彼女を彼女たらしめた“イノセンス”と呼ばれる神秘のことを告げる。
彼女の物語は終わり、すでに取り去られた筈のそれが――自分の中に戻り、息づいていることの違和感。
寄り縋るように、ただ、歌うしかなかったことも。

「お前……願いは、ないのか」

少女人形の語りを聞き終えて、怪人が問う。
この世界に、この戦争に誘われた者たちは、多く、何かしらの願いを抱いているはずだった。

「――貴方が、叶えてくれるの? お化けさん」

悪戯っぽく、ララが問い返す。
怪人は、その瞳に込められたものを測りかね、少し考えた後、答える。

「残念だが、オレは弱い。勝ち抜けるのかと言われれば、怪しいかもな」

同じ“ジャック”でも、別の奴が出ていれば違ってただろうが、と、どこか自嘲を帯びた口調で付け加えた。
ララは、怒るでも、失望するでもなく、ふふっと笑った。

「そんな怖い見た目なのに、けっこう気が弱いんだね」

そうしてから、空を見上げる。宙天にかかる大きな月を見る。
五百年前も、彼女は、こんな月を見た気がした。

「私は……私は、ただあの子と。
たった一人、私を愛してくれた、受け入れてくれた人と、一緒にいたかった」

独り言のように、人形の唇から漏れた言葉に、怪人が、動かぬ鉄仮面の下の顔が、刹那、沈黙する。
そして、ややあって、再び問う。

「……それが、願いなのか」

ララは戸惑うように、かぶりを振る。

――――ホラ こんなにきれいになったよ ララ
――――ララ ずっと側にいてくれ
――――そして 私が死ぬ時 私の手で お前を壊させてくれ

――――僕が この二人の犠牲になればいいですか?
――――可哀そうとか そんなキレイな理由 あんま持ってないよ
――――僕は ちっぽけな人間だから 大きい世界より 目の前のものに心が向く

彼女は。
快楽人形の物語は。

――――ぼくのために うたってくれるの…?
――――ララ
――――大好きだよ


「……私、最後は、あの子のために歌えたの」
ララは、目を閉じて、最後の瞬間を想い浮かべながら、呟く。

「グゾルに会いたいけど、でも……わからない。
本当なら、今すぐこの心臓を取り出して、壊れてしまえばいいのかもしれない」

老いたグゾル。「変わっていく」彼の前で、ララはずっと「変わらなかった」。
最後には、変われたのか。
人形は、何かになれたのか。

「わからない」

怪人は、ただ見つめていた。
月光が、二人の間にある教会を照らし、その門の前に置かれた、聖母の像の―――眠る幼子に顔寄せた表情が、己がマスターの、少女の、人形の顔に重なる。

或いは、かつて彼を変えた女性……愛するものと結ばれ、幸せに人生を全うしたはずの、一人の女性の姿が。

或いは、彼の前で、少年の袖を握る、彼の姪の小さな手が。


あきゃきゃきゃきゃきゃ!!


馬車の軋むような笑い声が再び響いたかと思うと、いつの間にか怪人の姿は、夜の間に溶けるかのように消え去り――――ララのそばに、一人の男が立っていた。
豪奢な服に身を包み、長めの金髪に、険のある目。傲慢な笑みを浮かべた口元。

「わからない、か。まあ、それも面白い」
片手に鉄仮面を携えて、男は、ララに告げた。
「答えが見つからないのなら、探せばいい。
“バネ足ジャック”が、最後まで付き合ってやるよ、マスター」

教会の前、時は夜半、まだ月だけが、見下ろしている。





――――
【クラス】
アサシン

【真名】
ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド(ジャック・ザ・スプリンガルド)@黒博物館スプリンガルド

【パラメータ】
 筋力C(E) 耐久D(E) 敏捷B(E) 魔力D(E) 幸運D(C) 宝具C

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適したスキル。
ただし、攻撃態勢に移るとランクは大きく下がる上、アサシンの場合は後述するスキル「跳梁する恐怖」もあって、怪人としての攻撃時には確実に己の存在を気取らせてしまうだろう。

【保有スキル】
跳梁する恐怖:B
暗殺者と言うよりは、出現と存在そのものによって人々に影響を及ぼす「怪人」の特性。異様な姿を現すと共に特徴的な甲高い笑い声を上げ、相手サーヴァントの敏捷値を下げた状態で対峙を開始する。また、魔術師や一般人に対しても、精神抵抗力に応じてショック状態のバッドステータスを付与する。このスキルの効果は、NPC含む周囲へのアサシンの姿や噂の流布によって強化される。

阻まれた顔貌:C
正史では遂に特定され得なかったバネ足ジャックの正体。狂人と称されるような振る舞いの数々を残した、傲岸不遜な若き貴族としての顔。同ランク分までの精神干渉を相殺する。
また、「バネ足ジャック」を装着していない状態において、アサシンのパラメータは()内のものに変化し、跳躍力や各種機構及びスキル「跳梁する恐怖」を失う代わりに、サーヴァントとしての気配を全く気取られなくなる。
精神防壁に、気配遮断の条件強化・正体隠蔽を複合したスキルとも言える。

単独行動:C
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。ロンドンを縦横無尽に跳び回り、不可解なまでに広い範囲で出現が噂された逸話からこのスキルを獲得している。
Cランクならば1日程度の現界が可能。

情報抹消:C
対戦が終了した瞬間に、目撃者と対戦相手の記憶・記録から、アサシンの「怪人としての外見及び特徴的な笑い声」を除く能力・挙動などすべての情報が消失する。たとえ戦闘が白昼堂々でも、カメラなどの機械の監視でも効果は変わらない。

【宝具】
『霧の都、月に跳ぶ怪人』(ブラックミュージアム・スプリンガルド)
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大補足:50人
夜の間に限り、アサシンは「仕切り直し:A」のスキルを追加で得ると共に、
  • 無数の建物や尖塔の幻
  • 青白い月光を帯びた霧
の二点をそれぞれ任意で出現・発生させることができる。
建物群、尖塔の幻影は地理感覚を狂わせると共に、アサシンとそのマスターのみが触れ得る足場となる。
霧は、対象を求めて指向性をもって広がり、触れた者の魔力を自動的に放出消耗させていく。また、サーヴァントであれば耐久値を1ランクダウンさせ、防御・遮蔽・回避系のスキル及び宝具の効果を減衰させる。
なお、この霧の効力は、対象が「怪人」の存在を強く意識しているほどに強まり、「バネ足ジャック」の名を看破している状況下において最大の補正を受ける。
霧に触れた誰に効果を与え、誰に効果を与えないのかは宝具の使用者が選択可能。
霧によって方向感覚が失われるため、振り切るにはランクB以上のスキル"直感"、もしくは何らかの魔術行使が必要になる。

後世の伝承・創作の中で、霧の撒く月下に数多の怪人が闊歩する魔都と化したロンドンの形象(イメージ)、その一角の再現。

【weapon】
バネ足ジャック:当時最先端の工学技術を応用した悪趣味なバネ足怪人の仮装。本来はなんら神秘性を持たない装備だが、都市伝説「バネ足ジャック」として人々に認識され恐怖されたため、相応の神秘を帯びている。人体を引き裂く強力な鉄の爪(本来は女性の衣服を掻き破るためのものだが)、銃兵隊を呑み込むほどの青い火焔の放射ギミック、さらにはスプリングの脚部による、代名詞とも言える驚異的な跳躍力・滞空能力を誇る。

【人物背景】
19世紀ヴィクトリア朝、切り裂きジャックの犯行よりはるか以前、ロンドン中の話題をさらった謎の怪人「バネ足ジャック」の正体にして、広大な領地を構える英国の若き侯爵。
狂人と揶揄されるほどに破天荒な放蕩貴族であるが、それは幼少期に家庭環境から負った孤独な心傷の反動によるもので、一人の女性との出会いをきっかけに彼は変わり始める。
最終的には、新たなバネ足ジャックを騙り連続殺人事件を引き起こしたかつての友人と人知れず戦い、彼女を守り抜いた。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守る。何がやりたいのかを見つけるまで、付き合う。




【マスター】
ララ@D.Gray-man

【マスターとしての願い】
わからない。グゾルと会いたい……?

【weapon】
なし。

【能力・技能】
自立稼働する人形。特殊な技能はないが、巨大な石柱を掴んで投擲できるほどの怪力は備えている。
その生命の根源として、神の結晶たるイノセンスを心臓とする。イノセンスはノアの洪水の時代より存在する神秘の結晶であり、加工によっては千年伯爵の生みだす兵器・AKUMAへの対抗武器ともなりうる未知の物質だが、この聖杯戦争においては基本的に魔力の源として以上の意味は持たないであろう。これが奪い去られると、ララはただの人形となってしまう。

【人物背景】
「神に見離された地」マテールにおいて噂されていた「亡霊」。
正体は、イノセンスによって命を持った快楽人形であり、何百年もの間、存在価値を果たせないまま孤独な時を過ごしていたが、醜さゆえにマテールへ放逐された少年・グゾルによって初めて名前を与えられる。
出会いから80余年、歳を重ねるグゾルと静かな時を過ごしていたが、イノセンスを巡る黒の教団とAKUMAとの戦闘に巻き込まれ、エクソシスト・アレン=ウォーカーらの尽力もむなしく、イノセンスを奪われてただの人形に戻ってしまい、グゾルも致命傷を負う。
アレンによって取り返されたイノセンスを心臓に戻されるも元の姿に戻ることはなく、死したグゾルの傍で人形として歌い続け、三日目の夜、最後のほんの刹那に、アレンへ感謝の言葉を告げて機能停止した。

【方針】
わからない。

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Happy Birthday! ララ&アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド 000:前夜祭
002:ばねあしジャックと人形の家

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最終更新:2015年05月09日 23:56