ケース問題とはどういう問題なのでしょうか。以下にサンプルを掲載しましたので出題の感覚をつかみましょう。
ケース問題「ブックオフ」(経営戦略)
ブックオフコーポレーション(以下、ブックオフ)は、1991年、創業社長の坂本氏によって神奈川県相模原市に第1号店を開店。創業14年目の2003年2月には、店舗数700を越える古本屋チェーンに成長した。
書店業界では、年間約4億冊の本が店頭に並び、その30%程度は出版社に返本されているといわれる。しかし、再販制度(*)の下、返本された書籍は新古本として価格を落として流通することはない。出版・書店業界は再販制度に守られた業界なのである。一方家庭の本棚からは読み終わった本があふれ、行き場を失っていた。従来の古書とは、「珍しい絶版本」「名著の初版本」といった価値基準によって“プレミアム”が付いたものを指し、家庭で生まれた多くの中古本は、古本屋に持ちこまれることはなかった。持ち込まれたとしても、本の値段付けは古書業界で「目利き十年」といわれるように、長い経験とカンが頼りの難しい仕事であり、本を売りにいく客にとっても敷居の高い業界だった。
1991年、坂本氏が足を踏み入れた古本屋で、古本が埃をかぶったまま積まれているのを見た。商品である古本が何の工夫もなく、無造作に並べられていた。坂本氏は「これなら勝てる」と確信したという。古本屋のイメージは『汚い、暗い、くさい』といわれている。坂本氏はこう言う。「お客さんの価値判断はきれいか、汚いかです。明るければお客さんだって入ってきますよ。何もしていない古本が多すぎるのです」(財界95年7月25日号)
ブックオフの店舗はコンビニ感覚である。店内は明るく、きれいで、若い女性客も多い。広い店内にジャンル別に見やすく整理された本棚が並んでいる。陳列されている本はきれいである。「新しくてきれいなものに価値基準をおいている」というブックオフは、この基準が商品にも反映される。持ち込まれた本の断裁面はヤスリで削り白くする。カバーの汚れは洗剤で拭く。
本の買取りは、「新しくてきれいなもの」という価値基準に従ってシステム化し、バイトの学生でもパートの主婦でも値段付けができるように、マニュアルにしている。価格体系は簡単にいえば、定価1000円の本なら100円で買い取り500円で売るという形だ。これで粗利は80%となる。
本の値段は黒、赤、緑、青の4色の値札を使って表示する。この値札の色は3ケ月ごとに変えられ、切り換え時に前の色で売れ残っている本はすべて100円コーナーに落とす。「これは別にブックオフが発明したやり方でも何でもない。八百屋や魚屋がいつもやっているやり方で、閉店前になると半値で売り切るのと同じことをやってるだけ。この方法で、単品ごとに棚卸する手間を省いている。出版されたすべての本をデータベースにして管理するのは不可能であるため、ブックオフは、商品の仕入れ、販売時点での伝票計上を、「コミック」「文庫」「新書」「写真集」などのジャンル別仕分けにとどめている。
ブックオフが売るのは、従来の古本と似ているが、その性格はまったく異なり、「中古本」という新しい市場を創造したといわれている。
(*)再販制度とは、生産者が小売業者の販売価格(再販売価格)を指示し、守らせる制度。このような行為は独占禁止法で違法としているが、文化振興の観点から書籍、雑誌、新聞等の著作物は「法定再販」として除外されている。
問題
設問1
以下は創業当初のブックオフコーポレーションの3C分析である。
市場(顧客、Customer)分析として適切でないと思われるものを一つ選びなさい。
a. |
一般消費者には稀小本以外でも中古本に対するニーズがあった。 |
b. |
一般消費者は「きれいで安い中古本」を求めていた。 |
c. |
出版業界は毎年大量の書籍を発刊し、読者に供給していた。書店業界は書籍の値付けを自由にできたため、一般消費者が中古本を安く買う誘因は低かった。 |
d. |
古本屋のイメージは、『汚い、暗い、くさい』であったが、一般消費者は、きれいな入りやすい店舗で買いたいと思っていた。 |
設問2
以下は創業当初のブックオフコーポレーションの3C分析である。
競合(Competitor)分析として適切でないと思われるものを一つ選びなさい。
a. |
古本屋は一般的に希少性がありプレミアムのつく商品を販売することで付加価値をつけていた。 |
b. |
古本屋は一般的に『汚い、暗い、くさい』というイメージを持たれているように、商売に対する意識が低かった。 |
c. |
古本屋は一般的に書籍のフローにこだわり、次々と回転させる事でその売上を確保していたといえる。 |
d. |
書店業界は、毎年刊行される膨大な新刊を、再販制度に守られ定価で販売していた。制度上、書店間の価格競争が起こる事はなかった。 |
設問3
以下は創業当初のブックオフコーポレーションの3C分析である。
前二問の分析に基づき、創業者である坂本氏は、自社の競争優位性をどこに作ったのか。以下の説明文から適切でないと考えられるものを一つ選びなさい。
a. |
本をストックとしてではなくフローとしてとらえ、売り手と買い手のニーズを結び付け、次々に商品を回転させることで従来の古本屋と違うステージで競争した。 |
b. |
取り扱う商品を「希少本」ではなく、「新しくきれい」な本に絞り、顧客に新品とは違うが同様の価値を備えた商品を提供した。 |
c. |
きれいで入りやすい「コンビニ」感覚の店舗で、顧客の入りやすさ・買いやすさを競争優位とした。 |
d. |
希少本の販売価格を下げることで、従来の古本屋と価格面で優位性を出した。 |
設問4
従来の古本屋はチェーン展開が難しいといわれていた。以下は、ブックオフコーポレーションがこの常識を破り全国的なチェーン展開をすることができた要因について説明した説明文です。
以下の説明文のうち、適切でないと考えられるものを一つ選びなさい。
a. |
顧客は希少性のある本や絶版本の安売りを求めており、このような潜在顧客は全国に存在した。 |
b. |
「新しさ」「きれいさ」という価値基準の簡素化とマニュアル化により、学生やパートタイマーでも買い取りの値付けができるようになった。 |
c. |
価格決定の簡素化とマニュアル化により、損益計算が見えやすくなった。 |
d. |
商品管理の簡素化により、単品ごとに棚卸する手間を省きつつ、死に筋商品を排除できるようになった。 |
解答
以下解答と簡単な説明を付け加えておきます。
設問1(解答)
問題 |
解答 |
解説 |
設問1. |
c |
「書店業界は書籍の値付けは自由にできない」との本文の記述と矛盾する。 |
設問2. |
c |
本文の「従来の古書とは・・」や「古本が埃をかぶったまま・・」との記述から従来の古本屋は書籍のフローにこだわっていないことが読み取れる。 |
設問3. |
d |
希少本の取り扱いについての記述は一切無く、かつ本文に「新しくてきれいなものに価値基準をおいている」と明記されている。 |
設問4. |
a |
本文に一般顧客が希少本の安売りを求めている、などの記述は一切無い |
問題とどう向き合うか
いかがでしたか?経営戦略、人事戦略、マーケティングのケース問題については答えが本文に載っている、または本文に書かれているか、答えが容易に想定できることしか聞かれません。今回はほぼ誰でも知っている「ブックオフ」という会社の経営戦略が題材となりましたが、まったく知らない会社の経営戦略に関する問題が出題されたとしても必ず本文の中に答えが記載されているかヒントとなる言葉が載っています。設問に書かれている内容を表す一文を本文の中に見つけ、根拠を確認して回答することができればケース問題も恐くありませんね!
※企業会計やファイナンスはケース問題の傾向が異なるので、別ページで解説します。
最終更新:2020年04月04日 20:48