起き立つ黄金の獅子
私の元にF・トーレスから手紙が届いたのが2週間前の事だった。
先月に東地中海へ行くとの連絡を送ってから、今私が居るアレクサンドリアに手紙を何の躊躇もなく送ってくる彼の推察力はいつも感心させられるばかりだ。手紙には2週間後アテネにて待つと簡単な内容が素朴は筆致で書かれている以外は何の飾り気もない手紙だったが、これも彼らしいと苦笑いとも皮肉とも思えるような口元の緩みを自分自身で感じながら、聞き慣れている船首が波を押し分けて進む音を感じて私は自らの部屋でその手紙を手に取るともしない手つきで遊びながら、深々と椅子に身を納めていた。
先月に東地中海へ行くとの連絡を送ってから、今私が居るアレクサンドリアに手紙を何の躊躇もなく送ってくる彼の推察力はいつも感心させられるばかりだ。手紙には2週間後アテネにて待つと簡単な内容が素朴は筆致で書かれている以外は何の飾り気もない手紙だったが、これも彼らしいと苦笑いとも皮肉とも思えるような口元の緩みを自分自身で感じながら、聞き慣れている船首が波を押し分けて進む音を感じて私は自らの部屋でその手紙を手に取るともしない手つきで遊びながら、深々と椅子に身を納めていた。
アレクサンドリア周辺はやはり危険な海域である、というのも港での話題といえばその殆んどが海賊の事ばかり。そんな中にも少しはとある国の提督が何やらを発見したという噂が流れてきてはいるものの、その真贋すら海賊に襲われた船の話で消え去っているようであった。憂鬱な話に支配されている港町の中に身をおいていると、それが明日自らの身に降りかかるかもしれないという一抹の不安材料を投げかけられる。私とて多くの船員とその家族を守るという職を自覚しているが、その不安を船員に見せることこそがこれから共に冒険を続けていこうとする仲間に対して最大の罪になるのだと常に自らの戒めとしていたのである。それでも人の口に戸は立てられないもので、どんなに私が気丈に振舞おうとどんなに彼らに不安を抱かせないようとしても、彼らの足で聞きつけてきた噂話に尾ひれ背びれがついて船全体に広まってしまうのはどうしようもなかった。時にはその不安に駆られて私に後悔の安全を疑いに来る者も居たが、海賊の動きは逐次把握しているそれより次の出航へ向けての準備を完璧にしておく事がいざという時にも安全なのだという自分でも苦しいと思うような説得を続けていた。
希望より不安が募る毎日を送り続けていくという事は、彼らにも相当の精神的苦痛を与えるのは目に見えている。無論、海の上で多くの時間を過ごしてきている彼らが陸に上がっている事自体が苦痛かもしれない、近海に海賊が居るという情報を握っている以上はたとえ心的な苦痛を与えていても生命を守る為の手段としてこの地に留まるのが最良の手段だと私は決意していた、確かに海賊の数はこの大海原を往き来する多くの船から比べればきわめて少数だが、もっぱら古の文化と生命の神秘について多くの発見を主としてきた私たちが急時において無事に切り抜けられる事は可能性として低かったし仮にその瞬間に難を逃れられたとしても少なからずの人的被害が出ることは何よりも私の最も嫌うことでもあり、より確実な航路を取ることが出来ない以上は私も彼らと出航できない苦痛を分かち合うしか出来ない不甲斐なさを感じられずにはいられなかった。
アレクサンドリアの情けのない太陽の下に一時の非難を求めて寄港してから幾日が経過しただろう、その日は虫の知らせというべきか朝を迎えた時から私自身も落ち着きがなく、言い表せない不思議な高揚を感じていた。何かに急かされているような感覚で身支度を整えた私は港へ降り立ちギルドへ急ぐ。ブーツの足音が砂に支配されている街の中を乾いた音を響かせながら目的の場所へと向かってゆく、思った通りにギルド前には多くの諸提督が集まっている。息も少し切れ気味な私はその合間を縫うようにしてずっと待っていた情報を得ようと建物の中へ入っている。やはり…とうとう討伐隊が出たという情報であった。
前夜からの隠密行動であり、今朝に始まった軍隊による奇襲で近海を支配するような勢いでその勢力を振るっていた海賊はナイル川上流へとその向きを変えたらしい。これだ、いやこの日だ!今をおいてその日はないと直感した私はその瞬間にF・トーレスから来た手紙を思い出していた。
前夜からの隠密行動であり、今朝に始まった軍隊による奇襲で近海を支配するような勢いでその勢力を振るっていた海賊はナイル川上流へとその向きを変えたらしい。これだ、いやこの日だ!今をおいてその日はないと直感した私はその瞬間にF・トーレスから来た手紙を思い出していた。
ギルドから足早に船に戻った私は急いで船員達を甲板へ召集し、これ以上ないほどの好機だ、これから再び海へ出る。と号令をかけた。彼らはずっとこれまで貯まっていた胸の何かを全て空へ向かって吐き捨てるような大声を上げたあと、見事な速さでその持ち場へと向かって行く、まったく現金なものだ、朝と比べるとその表情すら見違えて正しく生きる場所を得たような毅然とした表情をしている…しかし、その表情こそが私が最も頼れる顔なのだと、自らも自然と笑みを浮かべている事に気付いていない私もこの数日見せた事がないような足取りで船室へと向かっていった。
風向きは悪いながらも自らの帆に風を一杯に含んで進む船の甲板で私はこれから始まる運命の悪戯を全く予知することもなく、久しぶりに会う友人への懐かしい思いに浸っていた。ゆっくりながらも進む船の風を受けて私の耳元を飾るトルコ石のピアスが不規則にゆれている。もっと速くと船に伝えるようなその振り子は海のたまに巻き上がる波飛沫で乱反射する東地中海の光を浴びてキラキラと光りながら耳元で遊んでいた。船の上は気まぐれな風を捉え損じないようにと懸命に動き回る船員達の足音と声が飛び交い、静けさが戻る気配すらない。そんな賑わしい中でF・トーレスと初めて会った日の事を不意に思い出していた。華やかさと薄暗い欲望が渦巻く社交界に決別を決めて何よりも自らの手で新しい事を掴むことに意義を問いただすのだと海へ飛び出してから数年が立った時の事だった。海の世界ではまだ駆け出しという所の私だったが、商会への加入や少なくない発見の体験を下にリスボンへ寄港したときの事であった。偶然にもリスボンに寄港していた商会の仲間から彼を紹介された。滞在に多くの予定を取っていなかった私は、その場で簡単な挨拶と他愛のない会話で終始し再びリスボン後にした。気さくで幾多の戦場を駆け抜けた人が持つ雰囲気を出していた印象が残る人だなと、その時はそれだけしか思っていなかったが、私の行き先を見透かすような連絡がその後続いたのには舌を巻いたのを覚えている。その後、何回かの連絡を取り合った後、ロンドンに寄港した時にばったりと同じ街に寄港していた彼と再会した。日々を戦場に置く彼にとって私が話す様々な発見談は非常に興味を惹いたらしく連日深夜にまで及ぶ彼との会話に少し疲れを感じながらも楽しい時間を過ごしていた。そんな楽しい日々を過ごしている中に冒険者ギルドから依頼が届く、オスロ方面での生物探索との事だった、その日も彼に呼ばれての酒宴を催した私は早速明日にも出航する事を彼に告げると、一緒に行くと言い出してしまった。その場こそ酒の勢いによる物と互いに笑っていた翌日、まだ体中にアルコールが残っているのだろうか、考えの上手く纏まらないのを座りなれた椅子に寄りかかって振りきろうとする。まとまりきらない髪を両手で整えつつ、今から出航して進む航路をぼんやりとする頭で繰り返していた。
私がだらしなく身支度を整え船員達に号令をかけようと甲板に出たときであった。いつもと雰囲気が違う彼等の動作に少なからずの違和感を感じ、船員達の動揺とも不安とも取れる挙動の主は彼等が集合している先…船首に座る一人のせいだった。私の目線に気付いたその人は昨夜まで共に飲んでいたF・トーレスである。しっかりと身支度を整え、すでに船も出港準備を整えて昨夜の酔いが残っている振りもない顔で早く出ようと私を誘うのだ。そんな事から始まった彼との付き合いもすでに長い、時折は落ち合っての酒宴もあったが彼と私の生活の場が違うことから手紙のやり取りがもっぱらの手段だった。無論会っては楽しい人だったが、ふと自ら所属する商会の話となると少し怪訝な表情をみせて実情を語る事もあったが私は船乗りの愚痴としての一つとして捉えていた。
アレクサンドリアを出航して4日が過ぎた船室へと戻る私の足にチャドリが軽く絡んでいる、すっぽりと身を包むその衣装は少々私の身の丈に合っていないようなものだった。
それでも酷暑とも言える地域で砂漠の民が伝統衣装として今も受け継がれているこれは、砂漠にあっても涼しさを感じさせるような良く機能的なものであるなと私は思っていた。船室に戻った私は、そのチャドリを脱ぎ傍らの椅子に投げかける、ふわりと優しく投げかけられたチャドリの下にはこの東地中海へ入る前からお気に入りである深紅に染め上げられたジュストコールの上着が掛けられている。手元のグラスにチャイを注ぎ、喉を湿らす程度に口へ運ぶ、この地に来てこの飲み物だけは難なく受け入れる事が出来た…北欧の何にも似ているわけでもなかったが、見知らぬ土地へ来て食事に馴染めない事など多々ある中で、自らの舌に合う食材があるということは少なからず嬉しい事だった。
それでも酷暑とも言える地域で砂漠の民が伝統衣装として今も受け継がれているこれは、砂漠にあっても涼しさを感じさせるような良く機能的なものであるなと私は思っていた。船室に戻った私は、そのチャドリを脱ぎ傍らの椅子に投げかける、ふわりと優しく投げかけられたチャドリの下にはこの東地中海へ入る前からお気に入りである深紅に染め上げられたジュストコールの上着が掛けられている。手元のグラスにチャイを注ぎ、喉を湿らす程度に口へ運ぶ、この地に来てこの飲み物だけは難なく受け入れる事が出来た…北欧の何にも似ているわけでもなかったが、見知らぬ土地へ来て食事に馴染めない事など多々ある中で、自らの舌に合う食材があるということは少なからず嬉しい事だった。
決して片付いているとは言えない机の上には航路や地形、上陸地点の書き込みでおよそ当初の姿すら想像するに難しい地図と革張りの航海日誌、そして測量器具に飲みかけのグラス。無造作な手つきでいっぱいの机の上にあるものを片隅へと追いやると、引き出しにしまってあった彼からの手紙を取り出した。小刻みに、たまに船が波を正面で浮けたときに起きる大きな揺れと同じくしてグラスのチャイと耳元を飾る耳飾りが同じ様子で揺れ、ただチャイが日の光と共に机上に作り出す模様だけが不規則に踊っている。
私たちが苦楽を共にする船がカンディアへと進路を向けようとしている時であった、船内にけたたましい鐘の音が鳴り響くと同時に私は無意識に深紅に染め上げられたジュストコールを掴み身を包む。自然と険しくなる表情、船員達も不穏な同様を隠せないでいる、急ぎ甲板へと躍り出て一段高いところから船員の示す方角を望遠鏡で確認する。今まで見たことのない紋章、それにこちらからの信号に返事を出さない様子、なにより多く傷ついた船体から発せられる不安な雰囲気。間違いないだろう、海賊だ。しかし、アレクサンドリアで噂となっていた海賊ではない、その様相からして近海のならず者が集まっただけの者だろう。しかも、相手は1隻…固唾を飲む事さえ忘れている船員達は今まで以上の緊張感を顔に出している。私はと言うと、賊の足にもよるだろうが幸いにも距離は離れている。ここで仕掛けられることなないと確信を得ていた。私の指示を待つ船員達はこれ以上ない強張った顔でまるで古の呪いを駆けられたように固まっている。軽い足取りで彼等の方を向いた私は自分でもこんな顔が出来るのかというほどの柔らかい表情で大した事はない幸い向こうの分よりこの船の方が足は速い、ただ少しだけ進路を変えるだけで十分離脱できるだろう。と伝え、再び険しい顔で進路を真西へ取るようにいつもより大きな声で指示した。その声は人の出来事を悠然を見知らぬ顔で通り過ぎる空に高く響き、船内に漂う不穏な空気を一掃させるには十分な大きさだった。
アテネの町は驚くほどに整備されており、ここがかつて大都市で繁栄を極めていた事を裏付けるには十分なほどの景観で何度訪れても飽きることのなく、また人の賑々しさが緊張する航海の疲れを忘れさせるほど嬉しかった。雑多するメインストリートを避け、慣れた風に小さな路地へと足を向ける。たまにトルコ石が耳元で柔らかな光に反応してさわやかな光を白壁の民家に映し出している。たまに吹き抜ける潮風もどこか独特で鼻腔をくすぐる匂いがこの街は他の街とは違うという雰囲気をそこらかしこから湧き出でているようだった。
裏通りとも言えないが、およそ現地に住む人々しか知らないような小道を抜けていったところにある小さな酒場、余所者が入るには少々覚悟がいるような店構えだが、来客が少ない分出入りする人が店主に覚えられやすいという利点もこういう店にはあるのも事実だ。
店内は表よりずっと小奇麗で、珍しく採光窓にステンドグラスを用いて店内を明るく見せている。朝夕と太陽の姿が変わるごとにその店内を神秘的に照らし出せる工夫はこの店主の技なのか、それとも以前より何かしらの建物を改造しただけなのかは不明だが全てが訪れる人を和ませる空気を作り上げている。久しぶりとはいえ、ここの空気はいつも躊躇なく受け入れられる、ゆっくりとした時間が流れているような雰囲気と酒に溺れる事のない客の交じり合ったそれがそうさせているのだと私は常々思っていた。カウンター越しの店主に近寄るとお連れ様達がお見えですよと2階の行きなれた部屋を指差した。いつもの店のいつもの部屋…ここら辺の思い入れも彼らしい、好きな事を好きなだけ続ける、そんな性分だからこそ彼を慕う人は船員に留まらず他国の諸提督にも及んでいるのだろう。
楽しげな声が聞こえてくる扉を軽くノックした後に返事を待たず入った部屋には逆光に映し出される3人の人影、これは意外にも不意を突かれた感じで影に隠れたF・トーレス意外の同席者を軽く見渡したが、その顔ぶれには見覚えあるっというより馴染みの顔が居ることで心の何かを払拭することができた。同席した人は私を呼び出したF・トーレス、そして私と同じ商会に所属するライラ、そして初対面であるF・トーレスと同じ商会のアイラであった。おう、遅かったな~時間に厳しい嬢が期日に遅れるとは珍しい、どこかで良い男にでも貢いでいたのか?などと屈託ない笑顔で洒落を言いながら私を迎えるF・トーレス、それにつられて場の雰囲気がぐっと和む。微笑返しではないが、あんたより良い男がアレクサンドリアに居たからねっと言いながら席に座るが早いか否か店主が良く冷えたグラスをラム酒のボトルと共に入ってきた。F・トーレスに注がれるままにグラスを傾ける、
一つの机を囲み各々が次々と語り始める冒険談はアテネの陽を西へと追いやり、また、尽きるとも知れないこれからの夢の話は東から上る上弦の月を真天に誘うには十分すぎるほどの話題だった。
一つの机を囲み各々が次々と語り始める冒険談はアテネの陽を西へと追いやり、また、尽きるとも知れないこれからの夢の話は東から上る上弦の月を真天に誘うには十分すぎるほどの話題だった。
4本目のラム酒のボトルの最後の一滴をグラスに注ぎながら、薄明るくランプだけで照らし出されている室内で彼からいつもの話題が発せられる、そう商会の話である。櫛の歯が欠けるようだと比喩を使いながらグラスのラム酒を口へ注ぐ彼の顔元は酔いからなのか少し寂しげで、室内の明りの少なさとも相まって一層にその口調を静かにするようだった。
いつの間にかそこに居る4人が全て、楽な格好で椅子に座っている。私といえばチャドリを脱ぎブラウスのボタンを数個外した格好で椅子の肘掛を使って頬杖を突きながら、4人で囲む時間を楽しんでいた。机の上にはかつて肴が美しく盛られていた皿が数枚、内容物を失ったボトル、そして各々の身に着ける装飾品が映し出す斑の模様だけが揺らめいている。
扉の向こうにあるテーブル席(っと言っても4人掛けのものが3つほど並んでいるだけだが)は時が進むにつれて席主を失った静寂が支配してきていた。トルコ石の耳飾を片手で遊びながら心地のよい気分の中で彼の話を聞くとも無しに聞いていた私だったが、その酔いを醒ますには十分なほどの言葉が両脇から発せられる。「新しい商会を作ってしまえば?」唐突というよりも突飛な発言に酔いがさめるほどの緊張を感じ思わず椅子に座る態を改めてしまっていた。内心をえぐるようなこの話題は膨らむコトを止めようとはせずそこに居る皆が身を乗り出しての笑い話となり傍らに置かれる空き瓶は皆がその場を離れるまでの間に3本ほど増えていた。後にこの日の会談はゴールデン・ルーヴェ内でアテネ会談と呼ばれるようになる。
慣れない酒量に漬かりきって迎えた朝は、激しい頭痛と共に迎えた。深夜とも朝とも言える時間まで続いた会は時間の経過と自らが消費したラム酒の量を忘れさせるには十分過ぎるほど楽しいものであったが、今迎えているこの惨状を考えると自制心の無さに強く後悔していた。果たして私はどのような道をこの船まで帰ってきたのか、いったいどれくらいのラム酒を飲んだのか偏頭痛で上手く働かない思考を一つづつ纏めようとしてみたが、いくら考えても今の私には満足する解答を得られるはずもなかった。昨夜は他の船員にも少々の飲み代を配り、ゆっくりと休養をとるようにと伝えてはいたが彼等の話を聞くとやはり最後に船に戻ってきたのは私だったらしい。アテネでの滞在期間は7日を予定していたがその間にあれこれと次なる航海へ向けての準備を考えていたが、この様では今日一日をフイにしてしまうなといつもより重たい歩調で甲板へと歩き出た。アテネの穏やかな横波に船が小刻みに揺れている、いつもなら心地よいこの揺れも今日の今となっては少し恨めしく、航海するには最適とも思われる日差しは私の目を容赦なく照らしつけ今日ほどこの日差しを憎らしく思った日は過去にはなかっただろう。
再び船の中へ戻った私は船内の浴室へと足を向けた、浴室と言っても湯が出るわけでもないく温もりも無い水がただ流れ出るシャワーがあるだけで、最低限の体の汚れを落すだけの簡易なものだった。昨日から着続けていた衣類からようやく解放され昨日に流れ込んだ酒がこの水で洗い流せないものかと無駄な考えをめぐらせながら、その酒によって少し体温が上昇している体に滔滔と流れ続けるシャワーからの水が冷たく徐々に酒に醒めていくような感覚に、このままずっとこうしていても良いかなと再び無駄な思考をめぐらせていた。
今、浴室に居るのはこの船の提督である、昨夜に痛飲した代償を払うために火照った体を冷やす為にその場所に居る。その躯体は流れるシャワーの水滴の中にも華奢とも言えるような美線を描き出し、いっそ陸へ上がって社交界へと踊り出れば行き交う男性が後ろを振り向くような容姿をしている。しかし、常に日に晒される手や顔は少し日に焼けて元の肌の色をしているだろう部分のそれとは一瞥して異なっていた。それでも、彼女の利発さを見せる整った顔、一般階層にはないように思える整ったそれがその日に焼けた肌すらも魅力的に感じさせるようで、彼女自身もその褐色に変わった肌を自分でも誇らしげに思っているようだった。しかし、いくら冒険を稼業にしているとはいえ女性として生きているという自覚はあるようだ、無意識なのか意識的なのか日差しの強い地域への旅にはよくよく日焼けしすぎないような服装を選び、船のいたる所に女性ならではの配慮がなされている。テーブルクロス、ふと目に留まる船内に飾られている花々、食事にしてもそうだ男ばかりだと肉に偏りがちだが栄養価を考えてのメニューが並べられる。ただ、女性だと行って全てが緩やかな船ではなかった、1隻の船の提督として船内の規律はおそらく他の船以上に厳しく決められていた。それでも理論だてて規律の意味を船員に伝えている彼女への不平不満は周りが思う以上に少なく、船員からの信頼は勝ち得ている言っても過言ではなかった。
今、浴室に居るのはこの船の提督である、昨夜に痛飲した代償を払うために火照った体を冷やす為にその場所に居る。その躯体は流れるシャワーの水滴の中にも華奢とも言えるような美線を描き出し、いっそ陸へ上がって社交界へと踊り出れば行き交う男性が後ろを振り向くような容姿をしている。しかし、常に日に晒される手や顔は少し日に焼けて元の肌の色をしているだろう部分のそれとは一瞥して異なっていた。それでも、彼女の利発さを見せる整った顔、一般階層にはないように思える整ったそれがその日に焼けた肌すらも魅力的に感じさせるようで、彼女自身もその褐色に変わった肌を自分でも誇らしげに思っているようだった。しかし、いくら冒険を稼業にしているとはいえ女性として生きているという自覚はあるようだ、無意識なのか意識的なのか日差しの強い地域への旅にはよくよく日焼けしすぎないような服装を選び、船のいたる所に女性ならではの配慮がなされている。テーブルクロス、ふと目に留まる船内に飾られている花々、食事にしてもそうだ男ばかりだと肉に偏りがちだが栄養価を考えてのメニューが並べられる。ただ、女性だと行って全てが緩やかな船ではなかった、1隻の船の提督として船内の規律はおそらく他の船以上に厳しく決められていた。それでも理論だてて規律の意味を船員に伝えている彼女への不平不満は周りが思う以上に少なく、船員からの信頼は勝ち得ている言っても過言ではなかった。
しかしながら船員たちの誰もが不思議と思っているのは、彼女の出身についてである、古参の船員であっても、彼女の出自について知っているのは皆無といって良いほどで、ほとんどの船員が彼女の名前がアンレーデである以外の情報を握っている人間はいなかった。しかし、その数少ない情報であるアンレーデという名前もファーストネームということぐらいしか不明であり、ファミリーネームすら彼らに教える事はなかった。無論、彼らも尋ねない事もなかったが、そんな時はいつも決まって「海はたとえ名前を明かさなくても受け入れてくれる。貴族も咎人も分け隔てなく受け入れてくれる、この大自然の前では皆が平等なのだ。君たちと私は職業的に平等という訳にもいかないが少しでもそれとなるようにしているだけよ。」と屈託のない笑顔で返されるのだ、これをやられるとそれ以上のことも聞くことが出来ずに引き下がるほかなかったのである。実際、海に出ると名前のことなどは些細なことで、むしろファーストネームで呼び合う方が船員も肩の力が抜けて皆の結束力が高まるのが早いのではないかと思う者さえ居たぐらいである。
体の奥底にまだ少しの酒が残っているような感覚があるにせよ、シャワーによって幾分というよりかなりの冷静さを取り戻した私は船室へ戻る通路に居た。船室の扉前には誰かが気を利かせてよく冷えた果実ジュースがボトルで置かれている。深酒を浴びた翌日は私が好んでこのジュースを飲むことを知っている彼等の誰かが置いてくれたのだろう。まだぬれている銀にも近い髪を両手で櫛上げながら真紅のジュストコールに身を包み直し、白壁と青い海の町へと再び降り立つ準備をする、昨日よりは少し穏やかに思える日差しも今の私にとっては少々まぶしい気もするが、それでも次なる航海の計画を立てるには何よりも仕事の依頼が有ってこそである。石畳に響くレザーブーツの乾いた足音が雑踏し変わらずに賑々しい街中へと入ってゆく、通り過ぎる街中の建物の壁に私と分かる人影と耳元に飾られたトルコ石の装飾品の光がゆっくりと歩調にあわして揺れて消えてしている。その行く先は昨日の路地裏とは全く違う方向の路地へと吸い込まれて行き再び何も飾らない看板すらない凡そ民家と思しき建屋の前で止まる。初めてこの街に降り立ち、正規(皆が集う)の仲介人との面識も風の噂にもならない名声しか持たない船の提督には、どの街に降り立っても冷風が吹き付けるような待遇と仕事の斡旋しかないのは慣れた事では有ったが、この街では些細なきっかけから表に出される仕事(つまらなく仕事)よりも、より冒険家として魅力を感じ得ないほどの依頼が集まるこの家の住人と知り合いになれたのは、生まれ持った幸運かそれとも主の導きかと感激したものだった。見かけ以上に重いその木造りの戸を開けて入った中は普通の民家としか例えようの無いごくありふれた間取りが広がっている、玄関の側においてある呼び鈴を決まった手はずで鳴らすと小柄で物腰の柔らかそうな男性が私を見てちょうど良かったと言うような顔で迎えてくれた。
その家を出たのはアテネの街を真上から太陽が照らしだす時間を迎える頃だった、あれこれと依頼とは全く関係ない話が大半を占めた時間であったが、得るものも大きい時間だったと仲介人より紹介された仕事内容に満足しながら白壁が続く街中で歩を進めて行く。
喧騒とする街を通り過ぎ、再び船室へと戻った私はこれからの発見に心躍るような感情が表れているかのようにいつもの机に大雑把に航路図を広げ、いつの間にか真紅のジュストコールをも脱いだ格好で今はもぅかつての冷気を失った果実のジュースを口へと運びながらベイルートへの航路を考えていた。時折、クセのように耳の装飾品を手の中で遊ぶような仕草で息を抜きながら、私が酔いを醒ましている間にも、いや私が目覚める前ぐらいにも昨夜共に飲んだ他の3名はすでに次なる港へ向けて出航した後だと仕事の仲介人から聞いた時の事を思い出していた。