「折れた剣」(後)
船は西を向いている。書類整理で思わぬ日数を消費してしまった焦りが俄かに顔に出ている。腕を組んでいる手の指は彼女の苛立ち具合を示しているようにテンポが速い。
「全く、どうして向かい風なんでしょうね。急いでるのに・・・」
「こればっかりは人様がどうこう出来るもんじゃないですからねぇ。それにこの辺りは年中向かい風ですぜ。」
「それもそうね、焦っているから余計に遅く感じるのでしょうね。」
「そうかも知れませんねぇ」
「ま、この海域は特に危険な事もないでしょうから。船室に戻るわ、後はお願いね。」
「へいっ」
どっかりと椅子へ腰掛けて彼女は机から1通の手紙を取り出した。先日セビリアの商会管理局で受け取った手紙だ。マッテンの商会加入申請手続き時には何も無かったのにその後の数日間で入れ違いになったらしい。彼女はそのタイミングの良さに感心しながら再びその手紙に目を通した。
船は西を向いている。書類整理で思わぬ日数を消費してしまった焦りが俄かに顔に出ている。腕を組んでいる手の指は彼女の苛立ち具合を示しているようにテンポが速い。
「全く、どうして向かい風なんでしょうね。急いでるのに・・・」
「こればっかりは人様がどうこう出来るもんじゃないですからねぇ。それにこの辺りは年中向かい風ですぜ。」
「それもそうね、焦っているから余計に遅く感じるのでしょうね。」
「そうかも知れませんねぇ」
「ま、この海域は特に危険な事もないでしょうから。船室に戻るわ、後はお願いね。」
「へいっ」
どっかりと椅子へ腰掛けて彼女は机から1通の手紙を取り出した。先日セビリアの商会管理局で受け取った手紙だ。マッテンの商会加入申請手続き時には何も無かったのにその後の数日間で入れ違いになったらしい。彼女はそのタイミングの良さに感心しながら再びその手紙に目を通した。
「親愛なるアンレーデへ
一度貴方と相談したき事あり、願わくば次の新月辺りにファロにてお会いしたくペンを取る次第です。何かと多忙とは存じますが、無事にこの手紙がお手元に届くようであれば、ご足労願えればと存じます。 ケンケーン」
一度貴方と相談したき事あり、願わくば次の新月辺りにファロにてお会いしたくペンを取る次第です。何かと多忙とは存じますが、無事にこの手紙がお手元に届くようであれば、ご足労願えればと存じます。 ケンケーン」
「ったく、私を呼び出すとは良い度胸ね・・・一体どんな用件かしら・・・」
航路は次の新月までぎりぎりに間に合うぐらいの猶予しかなかった。新月辺りという曖昧な表現が少々の遅れも許される事を示しているものの、彼女の性格はその曖昧な期限に甘える事を特に嫌っていた。あの書類整理さえなければ楽に出航出来ていたものをと、自分で自分の首をしめる結果となった発言を思い返していた。しかし、彼女がカフェで座り込んでいる間、彼らが手持ち無沙汰なのは目に見えていただけに、自分を責めきれずにいた。
「全く、私も運が良いのか悪いのか。あと数日遅ければ間に合わないから諦められたのに、絶妙の間合いね。しかし、私だけなんでこんなに忙しいのかしら?そもそも、この手紙さえ来なければ良かったのよ。」
少し責任転嫁気味に手紙を机へ投げ出す。向かい風にゆっくりとしか進まない窓の景色を見ながら焦る気持ちをぐっと噛み殺している。
「無駄に焦っても進める距離は変わらないしね・・・行って誰も居なかったらそれまでよ。」
彼女は書棚から本を取り出すと荒々しく椅子へと戻った。
「動植物観察術」妙につまらなさそうな題名だがそれは彼女にとってもそうだった。ただ気分転換する為に目に付いた本を手に取っただけだった。
昼を知らせる鐘の音が船中に響き渡る、彼女はつまらないと思っていた書籍を不覚にも読み耽ってしまっていた。
「存外に面白かったわね・・・。」
以前手にとった時はさほどに面白いと思わずに読みかけで本棚へと整理してしまっていたが、改めて読み進む後半部分は実用的な事も多く思いがけずに有意義な時間を取る事が出来たと彼女は栞を挟んだ本を机に置いた。
部屋へ運ばれてきた昼食をゆっくりと取りながらぼんやりとここ数日の出来事を頭の中で整理していた。
「何か引っかかるのよね、何か忘れているような気がするんだけど・・・」
思い当たるだけの手続きを指折り数えながら確認していく。
「あっ、1つ忘れてるわね。」
ヒロッチが加入した旨の内容を皆に告知し忘れている事を思い出す。そうなると折角に料理長が作ってくれた昼食もゆっくりと味わう余裕を無くしていた。
「うーん、抜かった。いろいろと有りすぎていろいろと忘れてる。」
取るものもとりあえずワインで無理矢理流し込むように昼食を終わらせると。彼女は読みかけの「動植物観察術」を机の隅へと追いやり、便箋と封筒をごっそり持ち出してはペンを走らせ始めた。
「カフェで過ごした日々の反動かしら、妙に慌しいわね・・・」
ペンと紙上を走る音が静かな船室内に寂しく響く、残り2日の航路を残して彼女を乗せた船は風に逆らいながらゆっくりと西へと進んでいる。
航路は次の新月までぎりぎりに間に合うぐらいの猶予しかなかった。新月辺りという曖昧な表現が少々の遅れも許される事を示しているものの、彼女の性格はその曖昧な期限に甘える事を特に嫌っていた。あの書類整理さえなければ楽に出航出来ていたものをと、自分で自分の首をしめる結果となった発言を思い返していた。しかし、彼女がカフェで座り込んでいる間、彼らが手持ち無沙汰なのは目に見えていただけに、自分を責めきれずにいた。
「全く、私も運が良いのか悪いのか。あと数日遅ければ間に合わないから諦められたのに、絶妙の間合いね。しかし、私だけなんでこんなに忙しいのかしら?そもそも、この手紙さえ来なければ良かったのよ。」
少し責任転嫁気味に手紙を机へ投げ出す。向かい風にゆっくりとしか進まない窓の景色を見ながら焦る気持ちをぐっと噛み殺している。
「無駄に焦っても進める距離は変わらないしね・・・行って誰も居なかったらそれまでよ。」
彼女は書棚から本を取り出すと荒々しく椅子へと戻った。
「動植物観察術」妙につまらなさそうな題名だがそれは彼女にとってもそうだった。ただ気分転換する為に目に付いた本を手に取っただけだった。
昼を知らせる鐘の音が船中に響き渡る、彼女はつまらないと思っていた書籍を不覚にも読み耽ってしまっていた。
「存外に面白かったわね・・・。」
以前手にとった時はさほどに面白いと思わずに読みかけで本棚へと整理してしまっていたが、改めて読み進む後半部分は実用的な事も多く思いがけずに有意義な時間を取る事が出来たと彼女は栞を挟んだ本を机に置いた。
部屋へ運ばれてきた昼食をゆっくりと取りながらぼんやりとここ数日の出来事を頭の中で整理していた。
「何か引っかかるのよね、何か忘れているような気がするんだけど・・・」
思い当たるだけの手続きを指折り数えながら確認していく。
「あっ、1つ忘れてるわね。」
ヒロッチが加入した旨の内容を皆に告知し忘れている事を思い出す。そうなると折角に料理長が作ってくれた昼食もゆっくりと味わう余裕を無くしていた。
「うーん、抜かった。いろいろと有りすぎていろいろと忘れてる。」
取るものもとりあえずワインで無理矢理流し込むように昼食を終わらせると。彼女は読みかけの「動植物観察術」を机の隅へと追いやり、便箋と封筒をごっそり持ち出してはペンを走らせ始めた。
「カフェで過ごした日々の反動かしら、妙に慌しいわね・・・」
ペンと紙上を走る音が静かな船室内に寂しく響く、残り2日の航路を残して彼女を乗せた船は風に逆らいながらゆっくりと西へと進んでいる。
「さすがアンレやな。期日ぴったりや。」
ファロの街で再会したケンケーンの開口一番はそれだった。
「私を呼び出すとは良い度胸ね。それで相談したい事って何かしら?金策かしら?」
「足労をかけたことは重々承知してる。ただ、ちょっと俺だけでは解決できそうにない問題が発生してな。」
「貴方に出来なくて、私に出来るというその根拠を知りたいわ。で、どんな事なの?」
「うん、それがな・・・おぃ、エンタっ!ランゼ!」
少し離れていたところに待機していた2人が彼の声で近づいてくる。
「こいつ等はエンタとランゼって言うんやけど」
見るからに若い、それにどこか職業的に船に乗っていないように思わせる雰囲気の2人だった。エンタと呼ばれた青年は活発で好奇心旺盛そうな顔つきで少し地黒の肌に澄み切った瞳を輝かせている。一方、ランゼと呼ばれた娘はまるでどこかの宮殿に飾られている人形がそのまま動き出したかのようなほど可愛らしい容姿をしている。
「初めまして、エンタ殿、ランゼ殿」
アンレーデは2人に握手を求めながら挨拶を交わす。
「私はこの唐辺木と同じ商会に所属しているアンレーデです。お会いできて嬉しいですわ。」
「おいおい、なんちゅう。自己紹介の仕方や?まるで俺が変人やんか?」
「あれ?違ったかしら?」
「違うっちゅうねん。」
「ま、そう言うことにしておきましょう。で、このお二方は海に慣れ親しんだ方じゃないように見えるけど?」
「さすがアンレやな。海に出て間もない2人なんや。」
「なるほど。」
「んで、アンレに相談があるんだが・・・」
「まさか・・・」
「そのまさかやねん。」
アンレーデは呆れたようにケンケーンを睨みつけた。
「それってアンタの仕事じゃないの?」
「ん、まぁ。手順でいけばそうなるかな?」
「じゃあ私は要らないじゃないっ」
「いぁ、そこはね。アンレにも手伝って貰おうかなーっとね・・・思ってみたり」
「そうやって、自分は口だけ出すだけにして実質私に丸投げするんでしょう?」
「んー、いぁ、そんな事は無いと思うぞ。ただ、アンレの方が教え方上手いやろ?」
「そんな事知らないわよ。」
まるで掛け合い漫才のように速いテンポで2人の会話が続いている。そんな光景をエンタとランゼは目を丸くしながらアンレーデとケンケーンの顔を交互に見渡している。
「なっ、アンレ、頼むよ。ほら、俺って軍人業が忙しいし・・・」
「交易の間違いでしょ?」
「・・・そんな事は無いぞ多分・・・」
「じゃー、今、ベルベットを幾ら載せてるの?」
「うっ・・・ほんの100箱ほど積んでます。」
「ほら見なさい。交易じゃない。」
「・・・・なんで分かったんだ?」
「でも、引き受けてあげるわ。その代わり美味しいもの奢りなさいよ。」
「うんうん、それくらいはするよ。」
「この先、ずっとよ。」
「それは勘弁してくれ」
「ははは、お2人面白いですね~お付き合いしてるんですか?」
エンタが思わず素朴な疑問を投げかける。傍で見ていた新人2人は面白さに笑いを堪えきれずに居る。ランゼは顔を真っ赤にしてまで笑いを我慢する事に必死のようだ。
「俺がアンレと?そんな恐ろしい事、冗談やない。」
「あら、聞き捨てならないわね。軍人を忘れた軍人さん、それはどう言う意味かしら?」
「ん?なんやアンレ居ったんかいな?」
「はいはい、私なんか眼中にないって事ね。分かったわ、エンタ、ランゼ両提督、本分を忘れる病気が感染る前に港へ行きましょう。私が教えられる事は何でもお教えするわ。」
「はいっ」
「おぃ、なんやその病気はっ!ちょっ、ちょっと!待てっ」
ケンケーンを取り残すように彼女と2人の若い提督は港へと向かった。リスボンとセビリアのちょうど中間ぐらいにあるこの街はとりわけ何かが有名なわけでもなく、隣国との緩衝帯になっているような鄙びた街だ。大海を往来する船はこのファロの街に帰港するより何かと都合の良いリスボンやセビリアまで足を伸ばす提督が大半以上だった。
逆に返せはその静けさが駆け出しの船乗りにとっては様々な事を練習できる格好の港でもあるのだが、大きな街についつい憧れてしまう昨今、はこの街でそのような活動を取る者はさほど多く無いというより少なかった。
ファロの街で再会したケンケーンの開口一番はそれだった。
「私を呼び出すとは良い度胸ね。それで相談したい事って何かしら?金策かしら?」
「足労をかけたことは重々承知してる。ただ、ちょっと俺だけでは解決できそうにない問題が発生してな。」
「貴方に出来なくて、私に出来るというその根拠を知りたいわ。で、どんな事なの?」
「うん、それがな・・・おぃ、エンタっ!ランゼ!」
少し離れていたところに待機していた2人が彼の声で近づいてくる。
「こいつ等はエンタとランゼって言うんやけど」
見るからに若い、それにどこか職業的に船に乗っていないように思わせる雰囲気の2人だった。エンタと呼ばれた青年は活発で好奇心旺盛そうな顔つきで少し地黒の肌に澄み切った瞳を輝かせている。一方、ランゼと呼ばれた娘はまるでどこかの宮殿に飾られている人形がそのまま動き出したかのようなほど可愛らしい容姿をしている。
「初めまして、エンタ殿、ランゼ殿」
アンレーデは2人に握手を求めながら挨拶を交わす。
「私はこの唐辺木と同じ商会に所属しているアンレーデです。お会いできて嬉しいですわ。」
「おいおい、なんちゅう。自己紹介の仕方や?まるで俺が変人やんか?」
「あれ?違ったかしら?」
「違うっちゅうねん。」
「ま、そう言うことにしておきましょう。で、このお二方は海に慣れ親しんだ方じゃないように見えるけど?」
「さすがアンレやな。海に出て間もない2人なんや。」
「なるほど。」
「んで、アンレに相談があるんだが・・・」
「まさか・・・」
「そのまさかやねん。」
アンレーデは呆れたようにケンケーンを睨みつけた。
「それってアンタの仕事じゃないの?」
「ん、まぁ。手順でいけばそうなるかな?」
「じゃあ私は要らないじゃないっ」
「いぁ、そこはね。アンレにも手伝って貰おうかなーっとね・・・思ってみたり」
「そうやって、自分は口だけ出すだけにして実質私に丸投げするんでしょう?」
「んー、いぁ、そんな事は無いと思うぞ。ただ、アンレの方が教え方上手いやろ?」
「そんな事知らないわよ。」
まるで掛け合い漫才のように速いテンポで2人の会話が続いている。そんな光景をエンタとランゼは目を丸くしながらアンレーデとケンケーンの顔を交互に見渡している。
「なっ、アンレ、頼むよ。ほら、俺って軍人業が忙しいし・・・」
「交易の間違いでしょ?」
「・・・そんな事は無いぞ多分・・・」
「じゃー、今、ベルベットを幾ら載せてるの?」
「うっ・・・ほんの100箱ほど積んでます。」
「ほら見なさい。交易じゃない。」
「・・・・なんで分かったんだ?」
「でも、引き受けてあげるわ。その代わり美味しいもの奢りなさいよ。」
「うんうん、それくらいはするよ。」
「この先、ずっとよ。」
「それは勘弁してくれ」
「ははは、お2人面白いですね~お付き合いしてるんですか?」
エンタが思わず素朴な疑問を投げかける。傍で見ていた新人2人は面白さに笑いを堪えきれずに居る。ランゼは顔を真っ赤にしてまで笑いを我慢する事に必死のようだ。
「俺がアンレと?そんな恐ろしい事、冗談やない。」
「あら、聞き捨てならないわね。軍人を忘れた軍人さん、それはどう言う意味かしら?」
「ん?なんやアンレ居ったんかいな?」
「はいはい、私なんか眼中にないって事ね。分かったわ、エンタ、ランゼ両提督、本分を忘れる病気が感染る前に港へ行きましょう。私が教えられる事は何でもお教えするわ。」
「はいっ」
「おぃ、なんやその病気はっ!ちょっ、ちょっと!待てっ」
ケンケーンを取り残すように彼女と2人の若い提督は港へと向かった。リスボンとセビリアのちょうど中間ぐらいにあるこの街はとりわけ何かが有名なわけでもなく、隣国との緩衝帯になっているような鄙びた街だ。大海を往来する船はこのファロの街に帰港するより何かと都合の良いリスボンやセビリアまで足を伸ばす提督が大半以上だった。
逆に返せはその静けさが駆け出しの船乗りにとっては様々な事を練習できる格好の港でもあるのだが、大きな街についつい憧れてしまう昨今、はこの街でそのような活動を取る者はさほど多く無いというより少なかった。
「まず、海に出るからにはそれなりに操帆技術が必要になるわ。今からあなた達の腕前を見せてもらおうと思うの。」
「え?まだ未熟者ですから人を乗せてなんて自信ないですよ。」
「だから乗るの、上手く船を操るには欠点を補わないとね。さ、エンタ提督、出航の準備をお願いね、私は助っ人を呼んでくるわ。」
アンレーデはそう言い残すと彼女の船へと足を進める、そして20分ぐらいで古参の船員を1人連れて戻ってきた。
「出航の準備はいつでも良いんですが、本当に乗るんですか?」
「えぇ、それじゃ。行きましょう。」
エンタの船はランゼとアンレーデと助手1名を乗せて彼の号令の下で海へ出た、船員達が忙しく船中を走り回る。丸1日その近海をぐるぐると周回するよう航行し夜にはファロへと戻った。翌日、今度はランゼの船で同じ事が繰り返された、アンレーデの指示通りに船の進路を取って行く。同乗した古参の船員は2隻の船員達の動きをじっと観察している。
「じゃ、ファロへ帰りましょう。」
アンレーデは2人の操船技術を確かめると帰途へつくよう指示を出した。
「両提督共に思った以上に上手ね、明日からは本格的にお勉強しましょうね。」
「はいっ」
2人は声を揃えて返事する。その声に疲労感は全くなく彼らの全てが彼女より若いという事を証明していた。ファロの街は夕刻色に染まっている良く晴れた空が朱色に染まっている。
彼女は今日はこれで終わりにしようと言うと酒場へと向かっていった。
「いよっ、お疲れさん。あの2人はどう?」
待っていたケンケーンは彼女をエスコートするとそう切り出した。
「普通なんじゃないかしら?ただ、貴方よりかは上達が速いかもね。真面目よ。」
「へいへい、さようですか。」
ケンケーンは唇を尖らせながらワインを口へ運ぶ。
「とりあえず、あの2人は商会へ仮入会させると商会長に手紙しておいたわ。」
「お、手配りが良いね。」
「彼等も今は自分のやりたい事が見つけづらいでしょうから、慣れるまでの間だけね。」
「そりゃそうだ、アイツ等はアイツ等なりの考えがあるだろうからな。」
「実践を踏まえてあと10日ぐらいね。」
「ま、よろしく頼むわ。俺は明日から出かけてくるから」
「はいはい、2人の事は任されたわよ。」
「さすがアンレ!話が分かるな」
「横槍を入れられるより居ない方がマシだからよ。」
「あー、そういう解釈か・・・」
「ま、私としては貴方と一緒に食事するときは全てタダになる訳だし、良い仕事だわ。」
「あのー、アンレさん?ずっとなの?」
「えーっと、今日は何にしようかしら。」
「もしもーし、アンレさーん?」
小さいながらも地元住民で繁盛している酒場は船乗りとしては一種独特の疎外感を感じるものの彼女達に取ってはそれも店の味として飲み込んでいるようだ。初老の夫婦が作る料理は飛びぬけて美味いという事はないが、この複雑な歴史を持つ街ならではの味を堪能するに十分なものだった。ただ、彼女としてはもう少し強めの酒が欲しい所だったがこれ以上の欲は贅沢になると酔いの鈍いワインを傾けつつケンケーンとの食事を楽しんだ。
「え?まだ未熟者ですから人を乗せてなんて自信ないですよ。」
「だから乗るの、上手く船を操るには欠点を補わないとね。さ、エンタ提督、出航の準備をお願いね、私は助っ人を呼んでくるわ。」
アンレーデはそう言い残すと彼女の船へと足を進める、そして20分ぐらいで古参の船員を1人連れて戻ってきた。
「出航の準備はいつでも良いんですが、本当に乗るんですか?」
「えぇ、それじゃ。行きましょう。」
エンタの船はランゼとアンレーデと助手1名を乗せて彼の号令の下で海へ出た、船員達が忙しく船中を走り回る。丸1日その近海をぐるぐると周回するよう航行し夜にはファロへと戻った。翌日、今度はランゼの船で同じ事が繰り返された、アンレーデの指示通りに船の進路を取って行く。同乗した古参の船員は2隻の船員達の動きをじっと観察している。
「じゃ、ファロへ帰りましょう。」
アンレーデは2人の操船技術を確かめると帰途へつくよう指示を出した。
「両提督共に思った以上に上手ね、明日からは本格的にお勉強しましょうね。」
「はいっ」
2人は声を揃えて返事する。その声に疲労感は全くなく彼らの全てが彼女より若いという事を証明していた。ファロの街は夕刻色に染まっている良く晴れた空が朱色に染まっている。
彼女は今日はこれで終わりにしようと言うと酒場へと向かっていった。
「いよっ、お疲れさん。あの2人はどう?」
待っていたケンケーンは彼女をエスコートするとそう切り出した。
「普通なんじゃないかしら?ただ、貴方よりかは上達が速いかもね。真面目よ。」
「へいへい、さようですか。」
ケンケーンは唇を尖らせながらワインを口へ運ぶ。
「とりあえず、あの2人は商会へ仮入会させると商会長に手紙しておいたわ。」
「お、手配りが良いね。」
「彼等も今は自分のやりたい事が見つけづらいでしょうから、慣れるまでの間だけね。」
「そりゃそうだ、アイツ等はアイツ等なりの考えがあるだろうからな。」
「実践を踏まえてあと10日ぐらいね。」
「ま、よろしく頼むわ。俺は明日から出かけてくるから」
「はいはい、2人の事は任されたわよ。」
「さすがアンレ!話が分かるな」
「横槍を入れられるより居ない方がマシだからよ。」
「あー、そういう解釈か・・・」
「ま、私としては貴方と一緒に食事するときは全てタダになる訳だし、良い仕事だわ。」
「あのー、アンレさん?ずっとなの?」
「えーっと、今日は何にしようかしら。」
「もしもーし、アンレさーん?」
小さいながらも地元住民で繁盛している酒場は船乗りとしては一種独特の疎外感を感じるものの彼女達に取ってはそれも店の味として飲み込んでいるようだ。初老の夫婦が作る料理は飛びぬけて美味いという事はないが、この複雑な歴史を持つ街ならではの味を堪能するに十分なものだった。ただ、彼女としてはもう少し強めの酒が欲しい所だったがこれ以上の欲は贅沢になると酔いの鈍いワインを傾けつつケンケーンとの食事を楽しんだ。
翌朝、ケンケーンは3人の見送りを受けてファロの街を後にした。彼の船が桟橋からゆっくりと離れ、彼の船の帆が上手く風を捉えたのを見届けると、彼女は2人に言った。
「さてと、次はコッチね。とりあえず、船員教育は私ん所の者が行ってるから大丈夫でしょう。船員の仕事は船員に聞くのが一番だしね。」
「はいっ」
「で、私たちは今日からは提督としての勉強をしようかしら。」
「提督としての勉強・・・ですか?」
「そうよ、提督として覚えなければならない事は山のようにあるわ。テンポ良く進むから遅れちゃだめよ。」
「う~ん、それって眠そうですね。」
「寝たら愛の労働が待ってるわ。」
「愛の労働?」
「なに、簡単な苛酷労働よ。」
「過酷っていう時点で簡単じゃないような・・・」
「味わってみれば分かるわ。期待してるわよ。」
「絶対に寝ません!」
「ふふふ、それじゃ行きましょう。」
彼女は2人を連れて船へと向かった、船室に閉じこもり各種手続きや、書類の書き方、法規に地方のしきたり等など、詰め込み作業のように彼女は講義していった。エンタとランゼも必死に彼女の話についていこうと頑張っている。時に自らの冒険談を織り込みながら彼女の講義はアッという間に時間を経過させていく。しかし、彼女は区切りの良い時間になるとすっぱりと講義を中断し「こればっかりは忘れちゃだめよ。」と口癖のように言いながら船員に飲み物とケーキを持ってこさせた。こうやって休憩を挟むことで彼女自身が少しでも多くの知識を伝えたいと逸る気持ちを落ち着かせているようだった。
アンレーデの船で講義か開始されてから3日目の昼前、彼女は引き続いて2人に話しを続けている。早くこの退屈な講義を終了させないと2人のモチベーションが下がってしまうという不安もあったが、法規類の説明は意外と苦戦を強いられていた。そんな時、ドアのノック音で講義は一時中断した。
「アンレさん、元気―?新人教育してるんだって?遊びに来たよー」
ドアを開けて入ってきたのはセイジだ。
「あら、ご無沙汰ね。」
「セビリアでケンケーンから聞いてね、オポルト行くつもりだったから寄り道してみた。」
「ん~、逃げ出したアヤツに聞かせてやりたい言葉ね」
「ははは、このお2人が新人さん?商会のセイジです、初めましてー。」
いつも通り屈託ない性格での登場に船室の空気が明るくなる。セイジは机に並べられている法規類の書籍を手に取った。
「法規かー、面倒なんだよね。これさえ乗り越えれたら後は楽なんだけどねー」
「そうね、これが最大の難関ね。」
「どれもこれも、難しくて眠くなりそうです。」
「冒険家って気ままな生活をしてると思ってました。」
「ははは、意外と面倒だよね。アンレさんなんかそれで皺が増えたんだから。」
「えー、そうなんですか?」
「こらっ、セイジ卿!新人さんに嘘を教えちゃダメ!」
「いやいやいや、真実だよー。」
「ほほー、ケンケーンといい貴方と言い・・・良い度胸してるじゃない。」
「嘘、嘘、それよりさ。ずっと篭りっぱなしだと不健康だよ。外に食事しに行かない?」
エンタとランゼはその言葉に少し機敏な反応をする。さすがに詰めっきりだと気が滅入るのだろう、篭り始めて彼等から徐々に元気が消えていっているのは彼女にも感じて取れていた。
「そうね、気晴らしにでも外に出ようかしら。2人とも疲れてるみたいだし。」
「そうそう、アンレさんの前だとこの2人も言い出しにくいよ。」
「それは言えてるわね。」
「大蛇に睨まれたアマガエルって感じだしねー」
セイジは小声で呟いた。
「なに?セイジ卿、何か言った?」
「いやー、なんでもないよ。エンタ、ランゼ両提督行くよー」
この機を逃すまいと両提督は準備する。
「それより、どこでやるの?」
「そうだねー、近くの海岸でぱ~っとやろうっか」
「良いわね、皆で楽しくやりましょうっか、エンタ提督、ランゼ提督。船員も皆集めて騒ぎましょう。」
「はいっ」
2人はいつも通り揃った返事をすると足早に自らの船へと向かった。
両提督が出て行った船室にセイジと2人が残った。
「アンレさん、按配はどう?」
「いたって順調よ、2人とも向学心に溢れてるわ。」
「アンレさんが褒めるって珍しいね。」
「ふふふ。でも…」
「でも?」
「なんか、違うのよね…向学心は有るけど将来の映像が見えてないというか…」
「なにそれ?」
「んっと、ただの思い過ごしだと良いけどね」
アンレーデは両提督が出て行った扉を見つめながら言った。
「さてと、次はコッチね。とりあえず、船員教育は私ん所の者が行ってるから大丈夫でしょう。船員の仕事は船員に聞くのが一番だしね。」
「はいっ」
「で、私たちは今日からは提督としての勉強をしようかしら。」
「提督としての勉強・・・ですか?」
「そうよ、提督として覚えなければならない事は山のようにあるわ。テンポ良く進むから遅れちゃだめよ。」
「う~ん、それって眠そうですね。」
「寝たら愛の労働が待ってるわ。」
「愛の労働?」
「なに、簡単な苛酷労働よ。」
「過酷っていう時点で簡単じゃないような・・・」
「味わってみれば分かるわ。期待してるわよ。」
「絶対に寝ません!」
「ふふふ、それじゃ行きましょう。」
彼女は2人を連れて船へと向かった、船室に閉じこもり各種手続きや、書類の書き方、法規に地方のしきたり等など、詰め込み作業のように彼女は講義していった。エンタとランゼも必死に彼女の話についていこうと頑張っている。時に自らの冒険談を織り込みながら彼女の講義はアッという間に時間を経過させていく。しかし、彼女は区切りの良い時間になるとすっぱりと講義を中断し「こればっかりは忘れちゃだめよ。」と口癖のように言いながら船員に飲み物とケーキを持ってこさせた。こうやって休憩を挟むことで彼女自身が少しでも多くの知識を伝えたいと逸る気持ちを落ち着かせているようだった。
アンレーデの船で講義か開始されてから3日目の昼前、彼女は引き続いて2人に話しを続けている。早くこの退屈な講義を終了させないと2人のモチベーションが下がってしまうという不安もあったが、法規類の説明は意外と苦戦を強いられていた。そんな時、ドアのノック音で講義は一時中断した。
「アンレさん、元気―?新人教育してるんだって?遊びに来たよー」
ドアを開けて入ってきたのはセイジだ。
「あら、ご無沙汰ね。」
「セビリアでケンケーンから聞いてね、オポルト行くつもりだったから寄り道してみた。」
「ん~、逃げ出したアヤツに聞かせてやりたい言葉ね」
「ははは、このお2人が新人さん?商会のセイジです、初めましてー。」
いつも通り屈託ない性格での登場に船室の空気が明るくなる。セイジは机に並べられている法規類の書籍を手に取った。
「法規かー、面倒なんだよね。これさえ乗り越えれたら後は楽なんだけどねー」
「そうね、これが最大の難関ね。」
「どれもこれも、難しくて眠くなりそうです。」
「冒険家って気ままな生活をしてると思ってました。」
「ははは、意外と面倒だよね。アンレさんなんかそれで皺が増えたんだから。」
「えー、そうなんですか?」
「こらっ、セイジ卿!新人さんに嘘を教えちゃダメ!」
「いやいやいや、真実だよー。」
「ほほー、ケンケーンといい貴方と言い・・・良い度胸してるじゃない。」
「嘘、嘘、それよりさ。ずっと篭りっぱなしだと不健康だよ。外に食事しに行かない?」
エンタとランゼはその言葉に少し機敏な反応をする。さすがに詰めっきりだと気が滅入るのだろう、篭り始めて彼等から徐々に元気が消えていっているのは彼女にも感じて取れていた。
「そうね、気晴らしにでも外に出ようかしら。2人とも疲れてるみたいだし。」
「そうそう、アンレさんの前だとこの2人も言い出しにくいよ。」
「それは言えてるわね。」
「大蛇に睨まれたアマガエルって感じだしねー」
セイジは小声で呟いた。
「なに?セイジ卿、何か言った?」
「いやー、なんでもないよ。エンタ、ランゼ両提督行くよー」
この機を逃すまいと両提督は準備する。
「それより、どこでやるの?」
「そうだねー、近くの海岸でぱ~っとやろうっか」
「良いわね、皆で楽しくやりましょうっか、エンタ提督、ランゼ提督。船員も皆集めて騒ぎましょう。」
「はいっ」
2人はいつも通り揃った返事をすると足早に自らの船へと向かった。
両提督が出て行った船室にセイジと2人が残った。
「アンレさん、按配はどう?」
「いたって順調よ、2人とも向学心に溢れてるわ。」
「アンレさんが褒めるって珍しいね。」
「ふふふ。でも…」
「でも?」
「なんか、違うのよね…向学心は有るけど将来の映像が見えてないというか…」
「なにそれ?」
「んっと、ただの思い過ごしだと良いけどね」
アンレーデは両提督が出て行った扉を見つめながら言った。
ファロの街を出てすぐの海岸で4隻分の人間を集めた宴会が始まった。と言っても急支度な分趣向を凝らす事ができず。ワインとハーブソルトで味付けをした肉を焼くだけの簡素なものだった。それでもここ数日の鬱憤を晴らすように肉と酒は勢い良く彼等の胃袋へと消えていった。アンレーデは盛り上がった宴の様子を見ながら「これ以降のお勉強は無理ね。」と少し困った顔をしながらセイジに意見を求めた。
「皆、結構というかかなり溜まってるモンがあったんやね~」
「私なら逃げ出すような事に良く付き合ってくれてるわ。」
「俺もアンレさんの講義なら受けたいな。」
「ベテランは高いわよ」
「有料なんだ・・・」
「金持ちからはふんだくらないとね」
「ひでー、俺だって裕福じゃないよー」
「さてどうかしら?」
宴は覚める雰囲気を見せずに盛り上がりを続けている。宴会慣れしているはずのアンレーデの船員さえも一緒に盛り上がっている。酒も肉も余るぐらいの量を用意しているだけにやむなく終了する事は無いとしても依然として彼らの消費速度は激しいままだった。
「アンレさん、飲んでますかぁ~?」
上機嫌のエンタが右手にワイン、左手に肉を持ってやってきた。
「エンタ提督、ご機嫌様ね。」
「へへへ、こういう宴会は大好きですよ。アンレさんも1杯どぞ・・・」
薦められるままにエンタの酌を受けそれを何気なく飲み干す。
「おっ、アンレさんすごいね。格好良いな~。」
「ふふふ、エンタ提督。あっちで船員が呼んでるわよ。」
「おーい、エンタ提督~。肉焼けましたぜ~」
「ホントだ。んじゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
彼女とセイジは少し離れたところで席を設けている。「船員は船員で居るほうが楽」と気を遣っている部分もあるが、離れているほうが彼等に聞かれたくない話もそれなりに出来るというメリットもあるからだ。今回はその席にもう2席増やして設けているが、エンタとランゼは船員と一緒に騒ぐ方が楽しいようだ。エンタはあちこちの船員に注しつ注されつの状況で騒いでいる、一方ランゼというと船員達に囲まれてあれこれ質問攻めに遭っているようだ。グラスを両手で握ったまま、周囲からの質問に上手く答えているように見える。まぁあれだけの容姿だと自然とそうなってしまうだろうなと彼女は遠目に見ながら状況を確かめている。セイジは提督席用の火で見事に上手く肉を焼き分けている。
「アンレさん、食べないと減らないよ。」
気付けば彼女の皿にはセイジが取り分けてくれた肉で一杯になっている。
「あれっいつの間に・・・」
「アンレさん食べるの遅いね~」
「そうかしら、一般的だと思うんだけど」
「ん~、ちょっと遅いと思う。」
「こんなもんでしょ。」
そう言われても彼女は急ぐ風もなく、ゆっくりと皿に取り分けられた肉を1片ずつ口へ運んだ。
「皆、結構というかかなり溜まってるモンがあったんやね~」
「私なら逃げ出すような事に良く付き合ってくれてるわ。」
「俺もアンレさんの講義なら受けたいな。」
「ベテランは高いわよ」
「有料なんだ・・・」
「金持ちからはふんだくらないとね」
「ひでー、俺だって裕福じゃないよー」
「さてどうかしら?」
宴は覚める雰囲気を見せずに盛り上がりを続けている。宴会慣れしているはずのアンレーデの船員さえも一緒に盛り上がっている。酒も肉も余るぐらいの量を用意しているだけにやむなく終了する事は無いとしても依然として彼らの消費速度は激しいままだった。
「アンレさん、飲んでますかぁ~?」
上機嫌のエンタが右手にワイン、左手に肉を持ってやってきた。
「エンタ提督、ご機嫌様ね。」
「へへへ、こういう宴会は大好きですよ。アンレさんも1杯どぞ・・・」
薦められるままにエンタの酌を受けそれを何気なく飲み干す。
「おっ、アンレさんすごいね。格好良いな~。」
「ふふふ、エンタ提督。あっちで船員が呼んでるわよ。」
「おーい、エンタ提督~。肉焼けましたぜ~」
「ホントだ。んじゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
彼女とセイジは少し離れたところで席を設けている。「船員は船員で居るほうが楽」と気を遣っている部分もあるが、離れているほうが彼等に聞かれたくない話もそれなりに出来るというメリットもあるからだ。今回はその席にもう2席増やして設けているが、エンタとランゼは船員と一緒に騒ぐ方が楽しいようだ。エンタはあちこちの船員に注しつ注されつの状況で騒いでいる、一方ランゼというと船員達に囲まれてあれこれ質問攻めに遭っているようだ。グラスを両手で握ったまま、周囲からの質問に上手く答えているように見える。まぁあれだけの容姿だと自然とそうなってしまうだろうなと彼女は遠目に見ながら状況を確かめている。セイジは提督席用の火で見事に上手く肉を焼き分けている。
「アンレさん、食べないと減らないよ。」
気付けば彼女の皿にはセイジが取り分けてくれた肉で一杯になっている。
「あれっいつの間に・・・」
「アンレさん食べるの遅いね~」
「そうかしら、一般的だと思うんだけど」
「ん~、ちょっと遅いと思う。」
「こんなもんでしょ。」
そう言われても彼女は急ぐ風もなく、ゆっくりと皿に取り分けられた肉を1片ずつ口へ運んだ。
息抜きを兼ねた屋外での食事は思わぬ盛況で時間の経過と深酒を促して終了した、彼女が思っていた通りエンタとランゼも良い具合に酒が回っているようだ。何処で誰から知ったのか船員達の飲ませ上手の餌食として彼等2人は見事に引っかかってしまった。
「さてと、今日はこれで終わりにした方が良いみたいね。セイジ卿の思惑通りかしら?」
「あれ?なんか俺が悪者になってる?」
「ふふふ、これが狙いだったのでしょ?」
「さてね・・・」
セイジはそっぽを向きながらとぼけた振りをする。
「変わらずに策士ね。彼らにとって良い休息になるでしょうけど」
「アンレさんは真面目だからね~。」
「そういう貴方も新人さん思いじゃない」
「俺は優しい人間だよ。」
「まるで私が優しくないと取れる言い方ね」
「あははははは」
「そこは笑う所じゃなくて、否定する所よ。」
「あはははは、そう言えばそうだ。」
「ふふふ」
宴会の後は綺麗に片付けられ、船中とは聞こえの違う潮騒を聞きながら2人は宴後の静けさを楽しんでいる。一定のリズムで砂浜へ叩きつけられる波の音がゆっくりと時間を経過させるように感じる、時折吹き抜ける浜風は周囲の草木を揺らしながら酒で熱くなった体を静かに冷やし、砂浜に描かれる風紋には彼女がつける水晶の耳飾りが、その風に揺れて織り成す一筋の模様を絶え間なく、映し出している。
「あっと言う間にメンバーが12名にもなったわね、もっとも彼等は仮だけど。」
隣にいるセイジへ問い掛ける訳でもなく、ただ独り言のように彼女は呟いた。
「会員同士の繋がりもあるみたいだし、順調すぎて怖いわね。」
「そりゃ、アンレさんが頑張ってるからさ。」
「他人事のように言うわね。」
「ぎくっ・・・い、いあ我が身の事のように思ってるよー」
「ふふふ、今はその言葉通りに受け止めておくわ。」
「うーん、怖いなー。」
セイジはそういう彼女の顔がそれほどまでに順調を思わせるほど楽な表情をしてない事が気にかかっていた。それに今朝聞いた彼女の言葉も合わせて言葉で取り繕っている何かを察せずには居られなかったが、それを言葉に出して言うほど彼も彼女を責めつける理由がある訳でもなく、話題を少しだけ逸らすだけに留めた。
「そうそう、これからの予定は?」
「彼等のかしら?そうね、まずは法規類を終わらせなきゃね。外に出してあげたいけど、いきなりは危ないでしょうからね。」
「うーん、過保護過ぎじゃない?」
「そうかも知れないわね、でも何となく世話を焼きたい性分なんでしょうね。」
「良い人っぽいね。」
「ぽいって何よ」
「そう言う意味で。」
「ったく、もぅ。」
海が朱に染まりだしたころ、2人は海辺の散策から船へと戻った。一方、ランゼはエンタの船へと出向き、その船室で2人は話し込んでいた。
「楽しかったわね、あんな事をいつもやってるのかしら。」
「どうだろう。でも、あんな生活が出来るってのは魅力だよね。」
「そうね、いつかああやって生活する日が来るのかな?」
「それが理想だけどさ、今の状況もいつまで隠し通せる訳もないよ」
「そうね、白黒はっきりしないとダメね・・・」
「でも、一度味わうと止められないかもね。そりゃ、今は色んな人の支援があるから楽なだけだろけどさ。」
「そうね・・・今は苦しい事を知らないから、そう思うだけなのかな。」
「あっちもこっちも同じさ、苦楽の種類が違うだけだよ。いずれ、けじめをつける日が来る。それまでは目の前のことを頑張ろうよ。」
「そうだね、ちょっとお酒が過ぎたみたいだから戻って休むね。」
「僕もそうするよ。」
ランゼは彼の船を出た、何度も何度も風に踊る髪を耳に掛けながら自らの船へと戻っていく。夕日と呼べるほどに傾いた太陽が桟橋に彼女の影を細く長く映し出す。暫くはその場に立ちすくんでいた彼女はその細い長い影を伴いながらゆっくりと歩き出した。
「さてと、今日はこれで終わりにした方が良いみたいね。セイジ卿の思惑通りかしら?」
「あれ?なんか俺が悪者になってる?」
「ふふふ、これが狙いだったのでしょ?」
「さてね・・・」
セイジはそっぽを向きながらとぼけた振りをする。
「変わらずに策士ね。彼らにとって良い休息になるでしょうけど」
「アンレさんは真面目だからね~。」
「そういう貴方も新人さん思いじゃない」
「俺は優しい人間だよ。」
「まるで私が優しくないと取れる言い方ね」
「あははははは」
「そこは笑う所じゃなくて、否定する所よ。」
「あはははは、そう言えばそうだ。」
「ふふふ」
宴会の後は綺麗に片付けられ、船中とは聞こえの違う潮騒を聞きながら2人は宴後の静けさを楽しんでいる。一定のリズムで砂浜へ叩きつけられる波の音がゆっくりと時間を経過させるように感じる、時折吹き抜ける浜風は周囲の草木を揺らしながら酒で熱くなった体を静かに冷やし、砂浜に描かれる風紋には彼女がつける水晶の耳飾りが、その風に揺れて織り成す一筋の模様を絶え間なく、映し出している。
「あっと言う間にメンバーが12名にもなったわね、もっとも彼等は仮だけど。」
隣にいるセイジへ問い掛ける訳でもなく、ただ独り言のように彼女は呟いた。
「会員同士の繋がりもあるみたいだし、順調すぎて怖いわね。」
「そりゃ、アンレさんが頑張ってるからさ。」
「他人事のように言うわね。」
「ぎくっ・・・い、いあ我が身の事のように思ってるよー」
「ふふふ、今はその言葉通りに受け止めておくわ。」
「うーん、怖いなー。」
セイジはそういう彼女の顔がそれほどまでに順調を思わせるほど楽な表情をしてない事が気にかかっていた。それに今朝聞いた彼女の言葉も合わせて言葉で取り繕っている何かを察せずには居られなかったが、それを言葉に出して言うほど彼も彼女を責めつける理由がある訳でもなく、話題を少しだけ逸らすだけに留めた。
「そうそう、これからの予定は?」
「彼等のかしら?そうね、まずは法規類を終わらせなきゃね。外に出してあげたいけど、いきなりは危ないでしょうからね。」
「うーん、過保護過ぎじゃない?」
「そうかも知れないわね、でも何となく世話を焼きたい性分なんでしょうね。」
「良い人っぽいね。」
「ぽいって何よ」
「そう言う意味で。」
「ったく、もぅ。」
海が朱に染まりだしたころ、2人は海辺の散策から船へと戻った。一方、ランゼはエンタの船へと出向き、その船室で2人は話し込んでいた。
「楽しかったわね、あんな事をいつもやってるのかしら。」
「どうだろう。でも、あんな生活が出来るってのは魅力だよね。」
「そうね、いつかああやって生活する日が来るのかな?」
「それが理想だけどさ、今の状況もいつまで隠し通せる訳もないよ」
「そうね、白黒はっきりしないとダメね・・・」
「でも、一度味わうと止められないかもね。そりゃ、今は色んな人の支援があるから楽なだけだろけどさ。」
「そうね・・・今は苦しい事を知らないから、そう思うだけなのかな。」
「あっちもこっちも同じさ、苦楽の種類が違うだけだよ。いずれ、けじめをつける日が来る。それまでは目の前のことを頑張ろうよ。」
「そうだね、ちょっとお酒が過ぎたみたいだから戻って休むね。」
「僕もそうするよ。」
ランゼは彼の船を出た、何度も何度も風に踊る髪を耳に掛けながら自らの船へと戻っていく。夕日と呼べるほどに傾いた太陽が桟橋に彼女の影を細く長く映し出す。暫くはその場に立ちすくんでいた彼女はその細い長い影を伴いながらゆっくりと歩き出した。
翌日にセイジはオポルトへ向けて出航した、ファロへ留まった3人は再びアンレーデによる講義が始まった。いつものように淡々と講義をする彼女の言葉に彼ら2人は必死についていく。昨日の宴会の効果か如何は知れないものの彼らからの発言が多くなってきたのは彼女にとってありがたい事だった。補足や反復で少々時間が掛かるものの相手の理解度を判断するには当人の言葉から聞き取るのが一番分かり易いからである。
彼女の予定よりも数日遅れ、あの宴会から8日経過した。
依然と変わりなくエンタ、ランゼがアンレーデの船へ通いつづける日々が続いていた。あまり健康的でない生活に2人の表情には疲れた様子が見え隠れする。
「じゃ、これ以降は明日にしましょう。」
そうアンレーデが締めくくると2人は帰り支度を始めた。アンレーデは分厚い本を書棚に戻している。
「では、また明日もお願いします。失礼します。」
礼儀正しく後姿の彼女に一礼すると2人は部屋を出ようとした。
「あ、ちょっと待って。」
アンレーデは2人を呼び止める。
「2人にこれを渡しておくわ、名品とまでは行かないけど。私が贔屓にしてる店の物よ。」
そう言うと、2振りの剣を取り出した。
「近々、これを必要とするようになるわ。私からのプレゼントね。」
「え?」
「それと、これに目を通していてね。」
彼女はそれぞれに書類を手渡した。
「早ければ明後日に室内講義は終了よ。そして、実際にその書類に書いてあるギルドの仕事をやってみましょう。」
「ほんとですか?」
「それに、あなた達の船員の教育もあらかた終わったみたいだし。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと疲れてるとは思うけど。書類に目を通しておいてね。」
「はいっ」
2人の元気な返事が船室に響く。彼らはアンレーデから渡された剣と書類を手に取りありがとうございますと深く一礼して部屋をでた。
彼女の予定よりも数日遅れ、あの宴会から8日経過した。
依然と変わりなくエンタ、ランゼがアンレーデの船へ通いつづける日々が続いていた。あまり健康的でない生活に2人の表情には疲れた様子が見え隠れする。
「じゃ、これ以降は明日にしましょう。」
そうアンレーデが締めくくると2人は帰り支度を始めた。アンレーデは分厚い本を書棚に戻している。
「では、また明日もお願いします。失礼します。」
礼儀正しく後姿の彼女に一礼すると2人は部屋を出ようとした。
「あ、ちょっと待って。」
アンレーデは2人を呼び止める。
「2人にこれを渡しておくわ、名品とまでは行かないけど。私が贔屓にしてる店の物よ。」
そう言うと、2振りの剣を取り出した。
「近々、これを必要とするようになるわ。私からのプレゼントね。」
「え?」
「それと、これに目を通していてね。」
彼女はそれぞれに書類を手渡した。
「早ければ明後日に室内講義は終了よ。そして、実際にその書類に書いてあるギルドの仕事をやってみましょう。」
「ほんとですか?」
「それに、あなた達の船員の教育もあらかた終わったみたいだし。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと疲れてるとは思うけど。書類に目を通しておいてね。」
「はいっ」
2人の元気な返事が船室に響く。彼らはアンレーデから渡された剣と書類を手に取りありがとうございますと深く一礼して部屋をでた。
彼等の去った船室で椅子に腰を下ろし、左手の腕輪を弄びながら彼女は呟いた。
「我ながら意地悪ね、こんな稚拙な悪戯を仕掛けるなんて・・・」
皮肉めいた笑みが彼女の口元に浮かぶ。無論、彼らに渡した書類も剣も全て本物だが、それらはこの室内講義が全て終了してから手渡せば十分だが、彼女はあえて終了間際のタイミングを選んだのである。
「これで彼等の集中力が落ちるなら・・・」
彼女はこれまでの経験から物事が一段楽する直前のトラブルが一番多いことを知った。例えそれが軍籍の者であれ冒険稼業の者であれ様々な失敗談を耳にしても圧倒的にその瞬間の事故が多いのである。それは一段落つくという達成感が少なからず保っていた緊張を緩めるからだと彼女は思っていた。無論、彼女にもそんな失敗は大なり小なり経験している。先の襲撃事件もそんなタイミングだった。そして、彼らにも講義終了と外に出るという事を宣告し規模は小さいながらも擬似的にその状況を再現してみたのである。
「ま、こんな子供だましに引っかかるとは思わないけど。」
彼女はそう言うとよいしょと腰を上げて食堂へ向かった。
「また酒ですかい?」
「えぇ、ウィスキーはあるかしら?」
「最近酒量が増えてませんか?」
「んー、そうかな。」
「提督の身になにか有ればアッシ等は食いっぱぐれますからね。注意してくださいよ。」
「ありがと。じゃ、今日は軽くワインにしておくわ。」
「・・・それじゃ、あまり変わりないと思いますけどねぇ。」
「あら、やっぱり分かっちゃうのね。」
「どうぞ、ウィスキーですよ。ワインが欲しけりゃ、そこの棚にありやすから。」
「さすが料理長。大好きよ。」
「アッシよりウィスキーが。でしょうに。」
「あら、全てお見通しのようね。」
彼女はウィスキーを注がれたグラスを手に取ると、空いた手にワインの瓶を持ち上機嫌で食堂から甲板へ向かった。近頃、肌寒い甲板で飲むことが彼女のささやかなお気に入りだった。遥かに臨む水平線を眺めるように座り込み、静寂に響く波の音と緩やかに地球を回る星と月を眺めながら彼女はゆっくりとグラスの中身を減らしていった。アイボリー色に染め抜かれたブラウスの襟元が風に揺れている。纏まりきらない髪を手で櫛上げながら空を仰いだ。
「ふぅ・・・疲れた・・・」
「我ながら意地悪ね、こんな稚拙な悪戯を仕掛けるなんて・・・」
皮肉めいた笑みが彼女の口元に浮かぶ。無論、彼らに渡した書類も剣も全て本物だが、それらはこの室内講義が全て終了してから手渡せば十分だが、彼女はあえて終了間際のタイミングを選んだのである。
「これで彼等の集中力が落ちるなら・・・」
彼女はこれまでの経験から物事が一段楽する直前のトラブルが一番多いことを知った。例えそれが軍籍の者であれ冒険稼業の者であれ様々な失敗談を耳にしても圧倒的にその瞬間の事故が多いのである。それは一段落つくという達成感が少なからず保っていた緊張を緩めるからだと彼女は思っていた。無論、彼女にもそんな失敗は大なり小なり経験している。先の襲撃事件もそんなタイミングだった。そして、彼らにも講義終了と外に出るという事を宣告し規模は小さいながらも擬似的にその状況を再現してみたのである。
「ま、こんな子供だましに引っかかるとは思わないけど。」
彼女はそう言うとよいしょと腰を上げて食堂へ向かった。
「また酒ですかい?」
「えぇ、ウィスキーはあるかしら?」
「最近酒量が増えてませんか?」
「んー、そうかな。」
「提督の身になにか有ればアッシ等は食いっぱぐれますからね。注意してくださいよ。」
「ありがと。じゃ、今日は軽くワインにしておくわ。」
「・・・それじゃ、あまり変わりないと思いますけどねぇ。」
「あら、やっぱり分かっちゃうのね。」
「どうぞ、ウィスキーですよ。ワインが欲しけりゃ、そこの棚にありやすから。」
「さすが料理長。大好きよ。」
「アッシよりウィスキーが。でしょうに。」
「あら、全てお見通しのようね。」
彼女はウィスキーを注がれたグラスを手に取ると、空いた手にワインの瓶を持ち上機嫌で食堂から甲板へ向かった。近頃、肌寒い甲板で飲むことが彼女のささやかなお気に入りだった。遥かに臨む水平線を眺めるように座り込み、静寂に響く波の音と緩やかに地球を回る星と月を眺めながら彼女はゆっくりとグラスの中身を減らしていった。アイボリー色に染め抜かれたブラウスの襟元が風に揺れている。纏まりきらない髪を手で櫛上げながら空を仰いだ。
「ふぅ・・・疲れた・・・」
翌日の2人は彼女の罠に引っかかる事無く、むしろその集中力を増して講義する声に集中している。アンレーデにとっては少し胸をなでおろす気分だったが、肩に力が入りすぎているようにも感じる雰囲気に早めの休憩を取った。
「ちょっと、お茶にしましょう。」
「はい。」
彼女は部屋の扉を開けそこら辺に居る船員にお茶とケーキを持ってくるように伝えた。
「2人とも飲み込みが良くて助かったわ。」
「そうなんですか?かなり必死だよね、ランゼ。」
「うん、難しいのもあるけど。覚える事が一杯で・・・」
「一気に覚えるなんて無理よ、ただ、こうやって一度聞いておけば困ったときに何を探せば言いか思い出せるでしょう。」
「うーん、でも覚えれる限りは覚えたいですね。」
「大丈夫よ、何百、何千という書類がこれから待っているんだから、嫌でも覚えられるわ。」
「何千ですか・・・」
「ただし、冒険職ってのはとても楽なのよ。」
「楽とは?」
「うん、冒険は先達が残してくれた知識を流用できるの。もし、これが軍人ならある人が10年掛けて会得したものを誰か人へ授けようとしても、その人が会得する為にはやはり10年以上掛かるものなのよ。」
「へぇ」
「一部の天才と呼ばれる人は除いての話だけどね。私みたいな凡人は10年コースね。」
「僕も10年コースだな。」
「私は10年以上かな」
「戦事にはそれぞれ得手不得手は有るけれど、冒険職はその先達の知識で自らを補えば様々な発見に出会えられるわ。」
「なるほど。」
「これから先どんな職を追求していくかは貴方達次第だけど、冒険職になった時には、出来るだけ先達の記した書籍を手にとって読んでもらいたいの、きっと役に立つと思うわ。」
「はいっ」
「さて、いい具合に肩の力が抜けたみたいね。お茶を終わりにして一気に進みましょう。」
3人はカップに残る紅茶とケーキを少し急いで食べ終えアンレーデは講義を再開した。
そしてその次の日
「・・・っという訳でこれでおしまいっ。2人ともごくろうさま。」
「やった・・・終わった・・・」
「うん、終わったね。ものすごく頭が重いわ」
エンタは椅子に凭れ掛かり、ランゼは机に突っ伏している。アンレーデはそんな2人を横目に書籍や資料を片付けている。
「2人とも寝なかったわね、愛の苛酷労働はどちらもお預けね。」
「そうだ、その内容って何だったんですか?」
「簡単な事よ、これくらいの書籍が倉庫に3~400冊ぐらいあるの。それの虫干しと片付けよ。」
そういうとアンレーデは先ほどまで使っていた厚さ5cmほどの本を彼らに見せる。
「・・・寝なくて良かった・・・単純に過酷だ。」
「うん、本当に寝なくて良かったわ。」
「ん~残念、残念」
アンレーデは真顔になっている2人に笑顔で答えた。
「休憩を入れたら、次はいよいよお仕事の話よ。」
2人は言葉を聞いてさっと姿勢を正す。
「あら、まだ元気そうじゃない。」
「それとこれとは話が別ですよ。」
「ですよ。」
「なるほど、2人とも書類には目を通したかしら?」
彼女は依頼をするにあたっての内容や、その準備について説明し始める。2人は再び一言も漏らすまいとペンを走らせている。
「それだけの準備を長くても2日以内にそろえてね。今回の依頼は特に急がないけど、時には急ぎの依頼もある。そんな時には準備の時間さえも削らないと間に合わないからね。船員達と効率よく動けば楽に揃えられるから。準備が出来たらこの船に来て頂戴、待ってるわね。」
そういう彼女の言葉を聞きながら2人は準備するものを書き留めたメモを睨んでいる。
「エンタ、早速準備しようよ。少しでも時間は惜しいよ。」
「うん、そうだね。アンレさん、早速準備に取り掛かります。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
2人は急いで彼女の船を出て行った。その様子を甲板まで見送った彼女は一度大きく背伸びをすると近くの船員に告げた。
「私はこれから部屋で休むわ、誰も近づけちゃだめよ。」
「ちょっと、お茶にしましょう。」
「はい。」
彼女は部屋の扉を開けそこら辺に居る船員にお茶とケーキを持ってくるように伝えた。
「2人とも飲み込みが良くて助かったわ。」
「そうなんですか?かなり必死だよね、ランゼ。」
「うん、難しいのもあるけど。覚える事が一杯で・・・」
「一気に覚えるなんて無理よ、ただ、こうやって一度聞いておけば困ったときに何を探せば言いか思い出せるでしょう。」
「うーん、でも覚えれる限りは覚えたいですね。」
「大丈夫よ、何百、何千という書類がこれから待っているんだから、嫌でも覚えられるわ。」
「何千ですか・・・」
「ただし、冒険職ってのはとても楽なのよ。」
「楽とは?」
「うん、冒険は先達が残してくれた知識を流用できるの。もし、これが軍人ならある人が10年掛けて会得したものを誰か人へ授けようとしても、その人が会得する為にはやはり10年以上掛かるものなのよ。」
「へぇ」
「一部の天才と呼ばれる人は除いての話だけどね。私みたいな凡人は10年コースね。」
「僕も10年コースだな。」
「私は10年以上かな」
「戦事にはそれぞれ得手不得手は有るけれど、冒険職はその先達の知識で自らを補えば様々な発見に出会えられるわ。」
「なるほど。」
「これから先どんな職を追求していくかは貴方達次第だけど、冒険職になった時には、出来るだけ先達の記した書籍を手にとって読んでもらいたいの、きっと役に立つと思うわ。」
「はいっ」
「さて、いい具合に肩の力が抜けたみたいね。お茶を終わりにして一気に進みましょう。」
3人はカップに残る紅茶とケーキを少し急いで食べ終えアンレーデは講義を再開した。
そしてその次の日
「・・・っという訳でこれでおしまいっ。2人ともごくろうさま。」
「やった・・・終わった・・・」
「うん、終わったね。ものすごく頭が重いわ」
エンタは椅子に凭れ掛かり、ランゼは机に突っ伏している。アンレーデはそんな2人を横目に書籍や資料を片付けている。
「2人とも寝なかったわね、愛の苛酷労働はどちらもお預けね。」
「そうだ、その内容って何だったんですか?」
「簡単な事よ、これくらいの書籍が倉庫に3~400冊ぐらいあるの。それの虫干しと片付けよ。」
そういうとアンレーデは先ほどまで使っていた厚さ5cmほどの本を彼らに見せる。
「・・・寝なくて良かった・・・単純に過酷だ。」
「うん、本当に寝なくて良かったわ。」
「ん~残念、残念」
アンレーデは真顔になっている2人に笑顔で答えた。
「休憩を入れたら、次はいよいよお仕事の話よ。」
2人は言葉を聞いてさっと姿勢を正す。
「あら、まだ元気そうじゃない。」
「それとこれとは話が別ですよ。」
「ですよ。」
「なるほど、2人とも書類には目を通したかしら?」
彼女は依頼をするにあたっての内容や、その準備について説明し始める。2人は再び一言も漏らすまいとペンを走らせている。
「それだけの準備を長くても2日以内にそろえてね。今回の依頼は特に急がないけど、時には急ぎの依頼もある。そんな時には準備の時間さえも削らないと間に合わないからね。船員達と効率よく動けば楽に揃えられるから。準備が出来たらこの船に来て頂戴、待ってるわね。」
そういう彼女の言葉を聞きながら2人は準備するものを書き留めたメモを睨んでいる。
「エンタ、早速準備しようよ。少しでも時間は惜しいよ。」
「うん、そうだね。アンレさん、早速準備に取り掛かります。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
2人は急いで彼女の船を出て行った。その様子を甲板まで見送った彼女は一度大きく背伸びをすると近くの船員に告げた。
「私はこれから部屋で休むわ、誰も近づけちゃだめよ。」
アンレーデは両提督の準備が整うのを船中で待っていた。2日で揃えろと伝えたものの彼女の思惑では揃わないだろうと考えていた。当の彼女は既に完了しているが、それは手筈を心得ている船員に伝えていた為に彼女がアレコレと動く必要がなかったからである。仕事の依頼を受けて彼女は早速船員に指示を出していた為にエンタ、ランゼへの講義中には既に出港準備は万端であった。
「今日はゆっくり休めそうね…」
両提督が奔走しているだろう事を想像しながら彼女はゆっくりとベッドから起き上がる。寝癖の付いた髪を手櫛で整えながら普段より高く上っている太陽の日差しを確かめつつ着替え始めた。
左手に残る傷はすっかり塞がり実生活に支障ないほどに回復している。整った身体がその日焼け後を見せつけ、衣服に隠れている箇所は元の肌色を現し作りたてのピザ生地を思わせるように健康的に見える、そして日焼けした痕は彼女が生物学者としてフィールドワークを好む証拠でもあった。彼女の体をよくよく見ればそのいたるところに傷跡が見えている。ひときわ大きい傷跡は先の襲撃に受けた左手のものだがそれ以外にも多くの傷を抱えている、それらは全て市販のファンデーションで隠せそうなものばかりだが彼女はそれをするようにはなく、気に留めるわけでもない様子だ。彼女はその体を日向の匂いを残す浅黄色のブラウスを身に纏い身支度を整え船室を出た、彼女の予定では今日一日ゆっくりと過ごせるはずだ。気も楽に足を食堂へと向ける、少し遅く起きたために運ばれていた食事は下げられてしまった、まだ残っているか不確かだが一応に向かったのである。
「あっ、提督。料理長から言伝ですが。厨房に1皿残しているからそれを食べてくれと」
船内を掃除している船員が食堂へ向かう彼女を見つけるとそう伝える。
「あら、そう。ありがとう」
その船員に手を上げつつ挨拶をすると、躊躇いなく厨房へと向かった。確かに彼女1人分の食事が取り分けられている。
「よくよく考えると私もズボラな提督ね…ふふふ」
用意されていたサラダを味わいながら誰も居ない食堂で1人食事する音と微かな笑い声を響かせていた。
「今日はゆっくり休めそうね…」
両提督が奔走しているだろう事を想像しながら彼女はゆっくりとベッドから起き上がる。寝癖の付いた髪を手櫛で整えながら普段より高く上っている太陽の日差しを確かめつつ着替え始めた。
左手に残る傷はすっかり塞がり実生活に支障ないほどに回復している。整った身体がその日焼け後を見せつけ、衣服に隠れている箇所は元の肌色を現し作りたてのピザ生地を思わせるように健康的に見える、そして日焼けした痕は彼女が生物学者としてフィールドワークを好む証拠でもあった。彼女の体をよくよく見ればそのいたるところに傷跡が見えている。ひときわ大きい傷跡は先の襲撃に受けた左手のものだがそれ以外にも多くの傷を抱えている、それらは全て市販のファンデーションで隠せそうなものばかりだが彼女はそれをするようにはなく、気に留めるわけでもない様子だ。彼女はその体を日向の匂いを残す浅黄色のブラウスを身に纏い身支度を整え船室を出た、彼女の予定では今日一日ゆっくりと過ごせるはずだ。気も楽に足を食堂へと向ける、少し遅く起きたために運ばれていた食事は下げられてしまった、まだ残っているか不確かだが一応に向かったのである。
「あっ、提督。料理長から言伝ですが。厨房に1皿残しているからそれを食べてくれと」
船内を掃除している船員が食堂へ向かう彼女を見つけるとそう伝える。
「あら、そう。ありがとう」
その船員に手を上げつつ挨拶をすると、躊躇いなく厨房へと向かった。確かに彼女1人分の食事が取り分けられている。
「よくよく考えると私もズボラな提督ね…ふふふ」
用意されていたサラダを味わいながら誰も居ない食堂で1人食事する音と微かな笑い声を響かせていた。
簡単に食事を片付けた彼女は最低限に身支度を整えると、甲板で慣れた潮風を浴びながら静かな街の雰囲気を存分に楽しむように、いつの間にか用意した椅子に腰掛けた。季節的に少し太陽が高く遠く感じられるものの昼を迎える前時刻の海を楽しむには十分な天候で彼女はその陽気に満足し持ち出した蔵書を開いた。
「あら、優雅な生活をしてるじゃない。」
特に何も周囲に気を配る事無く自分の時間に没頭していた彼女はいきなりに飛んできたその声に少し驚く素振りを見せて振り返った。
「こんな昼日中に甲板で読書なんて、どこかのご令嬢並みね。」
腰に手を当てるような格好でその声の主は意地悪な台詞を彼女に投げかけている。
「驚いたわ、いつこの街に?」
「今朝の事よ。別に寄港する予定はなかったんだけど、船員の何人かが壊血病にかかってね。」
「あら、それは大変ね。」
「ビールを飲ませていたんだけど、余り効き目はないみたいね。迷信かしら?」
「さぁね。でも、ビールが効くと言ってる提督も数多いわよ。」
「私からしてみれば眉唾ね。」
「あらら…言い切っちゃった。」
「それより、貴女はこんな所で優雅になにやってるの?」
少し呆れたような顔を見せながらイザナミは暢気に座っている彼女を見下ろした。アンレーデは開いていたページに適当な栞を挟みこむと通りかかった船員に椅子を持ってくるように伝える。そして、今彼女が置かれている経緯を手短に話すとなるほどねと運ばれた椅子に座った。船員は再び船内へと戻ると今度は小さなテーブル、そして紅茶とシフォンケーキを運んできた。
「すごいわね、貴女の船員教育ってここまでやってるの?」
「ん~っと。そんな事はないつもりだけど…」
彼女は髪を無意味に梳きながら船内へ戻った船員の後姿を振り返る。
「どうせ言われるんだろうからと先持ってやったんじゃないかな…」
「ふふふ、この船の提督は相当に怖いのね。」
「そんな事はないわ。彼等には感謝して優しく接してきてるつもりよ。」
厳しい話題にお茶を飲みながらその目は空へと向いている。
「さて、彼等はどう思ってるのかしらね」
「それには何も言えないわね。彼等には聞けないもの」
「まぁね。それより、近々ギルドの仕事をするんですって?」
エンタ、ランゼの話を聞いて彼女はその部分に興味をもったように切り出した。
「簡単な仕事よ。彼等には手ごろで良いと思ってね。」
「私も興味あるわ。一緒して良いかしら?彼等にも面通しもできるし一石二鳥でしょう。」
「それもそうね、パーティーは1人でも多いほうが楽しいわ。」
「ありがとう。思わぬところで冒険に出会えたわ。早速準備に入るわね、お茶ご馳走様」
なにやら嬉しそうな顔を浮かべたイザナミはカップを置くとアンレーデに挨拶すると軽い足取りで船を後にした。頬杖ついたまま何かを考えていたアンレーデはその主を失った椅子へ目をやりながら小さな言葉を口に出す。
「なんか変な巡りね…」
再び読みかけの本を手に取った彼女は栞を挟んでいたページを開き直し再び贅沢な時間を自分の為だけに使い始めた。
「あら、優雅な生活をしてるじゃない。」
特に何も周囲に気を配る事無く自分の時間に没頭していた彼女はいきなりに飛んできたその声に少し驚く素振りを見せて振り返った。
「こんな昼日中に甲板で読書なんて、どこかのご令嬢並みね。」
腰に手を当てるような格好でその声の主は意地悪な台詞を彼女に投げかけている。
「驚いたわ、いつこの街に?」
「今朝の事よ。別に寄港する予定はなかったんだけど、船員の何人かが壊血病にかかってね。」
「あら、それは大変ね。」
「ビールを飲ませていたんだけど、余り効き目はないみたいね。迷信かしら?」
「さぁね。でも、ビールが効くと言ってる提督も数多いわよ。」
「私からしてみれば眉唾ね。」
「あらら…言い切っちゃった。」
「それより、貴女はこんな所で優雅になにやってるの?」
少し呆れたような顔を見せながらイザナミは暢気に座っている彼女を見下ろした。アンレーデは開いていたページに適当な栞を挟みこむと通りかかった船員に椅子を持ってくるように伝える。そして、今彼女が置かれている経緯を手短に話すとなるほどねと運ばれた椅子に座った。船員は再び船内へと戻ると今度は小さなテーブル、そして紅茶とシフォンケーキを運んできた。
「すごいわね、貴女の船員教育ってここまでやってるの?」
「ん~っと。そんな事はないつもりだけど…」
彼女は髪を無意味に梳きながら船内へ戻った船員の後姿を振り返る。
「どうせ言われるんだろうからと先持ってやったんじゃないかな…」
「ふふふ、この船の提督は相当に怖いのね。」
「そんな事はないわ。彼等には感謝して優しく接してきてるつもりよ。」
厳しい話題にお茶を飲みながらその目は空へと向いている。
「さて、彼等はどう思ってるのかしらね」
「それには何も言えないわね。彼等には聞けないもの」
「まぁね。それより、近々ギルドの仕事をするんですって?」
エンタ、ランゼの話を聞いて彼女はその部分に興味をもったように切り出した。
「簡単な仕事よ。彼等には手ごろで良いと思ってね。」
「私も興味あるわ。一緒して良いかしら?彼等にも面通しもできるし一石二鳥でしょう。」
「それもそうね、パーティーは1人でも多いほうが楽しいわ。」
「ありがとう。思わぬところで冒険に出会えたわ。早速準備に入るわね、お茶ご馳走様」
なにやら嬉しそうな顔を浮かべたイザナミはカップを置くとアンレーデに挨拶すると軽い足取りで船を後にした。頬杖ついたまま何かを考えていたアンレーデはその主を失った椅子へ目をやりながら小さな言葉を口に出す。
「なんか変な巡りね…」
再び読みかけの本を手に取った彼女は栞を挟んでいたページを開き直し再び贅沢な時間を自分の為だけに使い始めた。
エンタとランゼは小走りにファロの街をアンレーデの船へと向かっていた。彼女との約束は2日以内だったが、彼等2人がその準備に費やした時間は3日、アンレーデが伝えた期日を1日超過していた。
「早くアンレさんの船に行かないと。」
エンタの焦る気持ちがその口をつく言葉の速さに現れている。
「うん、思った以上に時間かかっちゃったね。」
「大体あれだけの物資を準備するなんて2日じゃ無理だったんだよ。」
「どうだろ。アンレさんの船は完了してたみたいだよ。」
「そりゃ、アンレさんの船は俺達と違って動ける時間がイッパイあったからさ。」
「…そうなのかな」
「そうさ。自分にできるからって俺達にもできるって思ってるだよ。」
「うーん」
「俺達はあの人じゃない。あの人の基準を俺達に押し付けたんだよ。」
「でも、アンレさんに出来て私達に出来ないはずはないんじゃない?」
「何を言ってるんだよ。食料にしても水にしても役人の態度を思い出してみろよ。」
エンタはこの3日間、自分達が受けた仕打ち特に何を申請しても後回しにされる事に憤りを感じていた。後から来た名の通っている提督の船には優先的に物資を回して、自分達の船に物資が届いたのは彼等の最後だった。
「彼等と俺達の何が違うって言うんだっ!」
その怒りが彼の口がら唐突に突いて出る。それにつれてアンレーデの船へ向かう歩幅も自然と大きくなっている。
「それに関してアンレさんは何も悪くないんじゃない?」
ランゼがその怒りの矛先がアンレーデに向かうのを避けようとしている。
「いや、アンレさんもアッチ側さ。優先的に物資が回ってくる側の人なんだよ。」
「そうなのかな。」
「そして、遅れた俺達をこっぴどく叱るのさ。理不尽だよっ。」
彼の歩調がさらに速くなる。精一杯やった。それでも期日には間に合わなかった、それもこれも彼達の手際が悪い為ではなく世間の彼等に与えた評価がそうさせた故の遅れだった。エンタは自らの言葉が余計に怒りを昂ぶらせるような悪循環に陥っている事を自覚しながらもそれら全てが許せないという感情でイッパイになっていた。ランゼはその様子をどうやって沈められるものかと彼の後ろを一緒になって歩いて、いや、もはや走っているに近い足取りでアンレーデの船へと向かった。そして、彼女がその決定的な打開策を見つけられないままに2人は目的地に到着してしまった。
「早くアンレさんの船に行かないと。」
エンタの焦る気持ちがその口をつく言葉の速さに現れている。
「うん、思った以上に時間かかっちゃったね。」
「大体あれだけの物資を準備するなんて2日じゃ無理だったんだよ。」
「どうだろ。アンレさんの船は完了してたみたいだよ。」
「そりゃ、アンレさんの船は俺達と違って動ける時間がイッパイあったからさ。」
「…そうなのかな」
「そうさ。自分にできるからって俺達にもできるって思ってるだよ。」
「うーん」
「俺達はあの人じゃない。あの人の基準を俺達に押し付けたんだよ。」
「でも、アンレさんに出来て私達に出来ないはずはないんじゃない?」
「何を言ってるんだよ。食料にしても水にしても役人の態度を思い出してみろよ。」
エンタはこの3日間、自分達が受けた仕打ち特に何を申請しても後回しにされる事に憤りを感じていた。後から来た名の通っている提督の船には優先的に物資を回して、自分達の船に物資が届いたのは彼等の最後だった。
「彼等と俺達の何が違うって言うんだっ!」
その怒りが彼の口がら唐突に突いて出る。それにつれてアンレーデの船へ向かう歩幅も自然と大きくなっている。
「それに関してアンレさんは何も悪くないんじゃない?」
ランゼがその怒りの矛先がアンレーデに向かうのを避けようとしている。
「いや、アンレさんもアッチ側さ。優先的に物資が回ってくる側の人なんだよ。」
「そうなのかな。」
「そして、遅れた俺達をこっぴどく叱るのさ。理不尽だよっ。」
彼の歩調がさらに速くなる。精一杯やった。それでも期日には間に合わなかった、それもこれも彼達の手際が悪い為ではなく世間の彼等に与えた評価がそうさせた故の遅れだった。エンタは自らの言葉が余計に怒りを昂ぶらせるような悪循環に陥っている事を自覚しながらもそれら全てが許せないという感情でイッパイになっていた。ランゼはその様子をどうやって沈められるものかと彼の後ろを一緒になって歩いて、いや、もはや走っているに近い足取りでアンレーデの船へと向かった。そして、彼女がその決定的な打開策を見つけられないままに2人は目的地に到着してしまった。
「あら貴女って世界史序説なんて持ってるのね。」
「ん?あぁ、それね。カイロだったかな?あっち方面に行ったついでにね。」
「ふぅん」
イザナミはアンレーデの本棚を眺めながらその本を手に取りペラペラと数ページめくると近くの椅子を引き寄せてしっかりと読み始めた。アンレーデは自らの椅子に腰を下ろしたまま連日読み続けている書籍に目を通しながら後ろ越しの声に応えていたが、イザナミがその書籍を読み始めるとその静寂にも応えている。
「そう言えば貴女、その2人には何日で用意しろって伝えたの?」
「ん?えっと2日かな。」
「結構厳しい要求したのね。2日なんて無理でしょう。」
「そうでしょうね。」
「あら、確信犯のようね。嫌われちゃうわよ。」
「遅かれ速かれ味わう事よ、今の内に経験しておけば楽でしょう。それで私が嫌われても特に構わないわ。」
「ふふふ」
アンレーデは手元の書籍から目を離す事無くイザナミの質問に答えている。岬風に船体が揺れるたびに空になっているティーカップがかちゃかちゃという音を立てる。もし、彼女が彼等2人の立場と同じ状況なら最低でも4日は掛かるだろう、そしてそれは今彼女が持っている書籍を読みきれる時間であり、彼女としても時間の有効活用できると安気に構えていた。彼女自身、蔵書の数を3~400冊と言ってみたものの正確にはその数を数えたわけでもなかったが数ある街へ立ち寄る度に気になる書籍を購入して周る生活を送っていると自然と未読のままの書籍も数を増やしていっている。本を読む速さが格別に良くもない人並み程度のスピードでは購入量に対して読破する数が追いつかない現状はどうしようもなく、いっそ購入量を減らせば良いと単純に考えれる事でさえ彼女にとっては今そこにある本を購入しないと次にもまた売れ残っているという確証のなさから手元にあれば何れ読めるという思考の元に未読の書籍が増え続けるのであった。こうやって強制的に街へ停泊する機会こそがそれらを減らす格好の時間でもあり、順当に行けば今目を通しているものを読破する前後、そう、彼女の思惑では明日の夜ぐらいにでも彼等2人が来ると踏んでいた。
「ん?あぁ、それね。カイロだったかな?あっち方面に行ったついでにね。」
「ふぅん」
イザナミはアンレーデの本棚を眺めながらその本を手に取りペラペラと数ページめくると近くの椅子を引き寄せてしっかりと読み始めた。アンレーデは自らの椅子に腰を下ろしたまま連日読み続けている書籍に目を通しながら後ろ越しの声に応えていたが、イザナミがその書籍を読み始めるとその静寂にも応えている。
「そう言えば貴女、その2人には何日で用意しろって伝えたの?」
「ん?えっと2日かな。」
「結構厳しい要求したのね。2日なんて無理でしょう。」
「そうでしょうね。」
「あら、確信犯のようね。嫌われちゃうわよ。」
「遅かれ速かれ味わう事よ、今の内に経験しておけば楽でしょう。それで私が嫌われても特に構わないわ。」
「ふふふ」
アンレーデは手元の書籍から目を離す事無くイザナミの質問に答えている。岬風に船体が揺れるたびに空になっているティーカップがかちゃかちゃという音を立てる。もし、彼女が彼等2人の立場と同じ状況なら最低でも4日は掛かるだろう、そしてそれは今彼女が持っている書籍を読みきれる時間であり、彼女としても時間の有効活用できると安気に構えていた。彼女自身、蔵書の数を3~400冊と言ってみたものの正確にはその数を数えたわけでもなかったが数ある街へ立ち寄る度に気になる書籍を購入して周る生活を送っていると自然と未読のままの書籍も数を増やしていっている。本を読む速さが格別に良くもない人並み程度のスピードでは購入量に対して読破する数が追いつかない現状はどうしようもなく、いっそ購入量を減らせば良いと単純に考えれる事でさえ彼女にとっては今そこにある本を購入しないと次にもまた売れ残っているという確証のなさから手元にあれば何れ読めるという思考の元に未読の書籍が増え続けるのであった。こうやって強制的に街へ停泊する機会こそがそれらを減らす格好の時間でもあり、順当に行けば今目を通しているものを読破する前後、そう、彼女の思惑では明日の夜ぐらいにでも彼等2人が来ると踏んでいた。
船室へ差し込むファロの日差しはその白色光を徐々に赤色へ変化すると共に、自然の日時計を顕すようにその船室を照らす方向をゆっくりと変えている。黙々と書籍を読み続ける時間を2人は続けている、3日目の夜があと幾許かで訪れようとしているなか船体には厨房から夕食の準備を思わせる香りが充満してきた。今日一日の仕事を早く終らせようとする船員達の足音がそれに合わせるように忙しくそちらこちらに響いている。それと相反するようにアンレーデが書籍のページをめくる速度は一定のままに船室は支配されている。同室のイザナミも彼女と同じように同じ速度で世界史序説を読みふけている。このまま3日目は静かに終る予定だった。
彼女達2人の静寂は西の空に太陽が隠れて間もない時に荒々しい靴音に破られた。およそ2人分のそれは部屋の前で止まると続いて部屋をノックする音へと変わった。
「アンレーデさん、エンタとランゼです。」
部屋の主とイザナミは書籍を読む手を止めて互いに顔を見合わせた。そしてアンレーデは部屋の外にいる2人を中へ招き入れた。
「遅くなって申し訳ありません。」
エンタとランゼは開口一番にそういうと荒々しく息する上体を下げた。
「そうかしら、まだ3日しか経ってないわ。」
エンタとランゼはその言葉を聞くなり不思議な顔をして互いに見合った。
「えっと、長くても2日で揃えろと言う約束でしたよね?」
たまらずエンタはアンレーデに問いかける。
「そうね、確かに私は2日で揃えろと、準備しろと言ったわ。1日の超過なんて遅れの内に入らないわ上出来どころか立派だわ。」
「はぁ…それは…」
きつい叱責の言葉を覚悟していた2人にとって彼女の言葉は意表をつくほどに全く逆の意味合いだった。船中までに怒りに任せていたエンタの表情も拍子抜けた様子でランゼはさらに肩を落すように走って乱れた呼吸を整えるように佇んでいる。
「さて、紹介するわ。貴方達の先輩にあたり、そして私の掛替えのない親友のイザナミよ。」
アンレーデはそう言うとイザナミは椅子から立ち上がり2人に歩み寄った。
「初めましてイザナミよ。お話は聞いてるわ、よろしくね。」
3人は互いに名乗りあいながら握手を交わす。
「今回の依頼に対してサポートしてくれるわ。」
「ありがとうございます。」
「ふふふ、一介の商人に対してサポートなんて何を期待してるのかしら」
「いろいろと期待してるわ。」
「苦労するのは貴女だけで十分よ。私はゲストとして同行させてもらうわ」
「あら?そうなの?」
「そうよ。」
アンレーデは困ったようなジェスチャーを見せると何も言わずに立っているエンタとランゼに向かって助けを求めた。
「そういう事らしいわ。貴方達はどう思う?」
「えっと…」
「私たちもゲストでよろしくです。」
ランゼが間髪入れずにアンレーデへ返す。
「あらっ」
期待外の言葉にアンレーデのジェスチャーした手が止まる。
「そういう事らしいわね。アンレーデ提督がんばってね。」
ふざけた真顔でイザナミがアンレーデに止めを刺す言葉を投げかける。
「うーん。そう来たか…」
「ははは」
「ふふふ」
3人の笑い声が船室に響く。
「ま、それについては追々考えるとして。とりあえず夕食にしましょうっか。」
「そうね。」
「えっと…俺達は…」
「ん?私達と一緒じゃイヤ?」
「ほら、嫌われてるじゃない。」
「嫌ってるなんて、そんなっ。」
「ご一緒させてもらいます。」
「うーん、この微妙なやり取り…私だけ悪者扱い?」
「そうよ、貴女だけが悪者ね」
「そんな事ないですよー。」
「アンレさんには感謝してます。」
「うぅ…慰められた…」
「ふふふ」
4人は揃って街の酒場へと向かった。膨らむ明日への期待と不安を酒を交えて言葉に変えて時間を過ごした。アンレーデやイザナミにとっては数ある依頼の1つとしても、エンタとランゼにとっては初の本格的依頼である。緊張や不安、期待や安心感が入り混じった感覚が自然と酒量を増やしていった。
彼女達2人の静寂は西の空に太陽が隠れて間もない時に荒々しい靴音に破られた。およそ2人分のそれは部屋の前で止まると続いて部屋をノックする音へと変わった。
「アンレーデさん、エンタとランゼです。」
部屋の主とイザナミは書籍を読む手を止めて互いに顔を見合わせた。そしてアンレーデは部屋の外にいる2人を中へ招き入れた。
「遅くなって申し訳ありません。」
エンタとランゼは開口一番にそういうと荒々しく息する上体を下げた。
「そうかしら、まだ3日しか経ってないわ。」
エンタとランゼはその言葉を聞くなり不思議な顔をして互いに見合った。
「えっと、長くても2日で揃えろと言う約束でしたよね?」
たまらずエンタはアンレーデに問いかける。
「そうね、確かに私は2日で揃えろと、準備しろと言ったわ。1日の超過なんて遅れの内に入らないわ上出来どころか立派だわ。」
「はぁ…それは…」
きつい叱責の言葉を覚悟していた2人にとって彼女の言葉は意表をつくほどに全く逆の意味合いだった。船中までに怒りに任せていたエンタの表情も拍子抜けた様子でランゼはさらに肩を落すように走って乱れた呼吸を整えるように佇んでいる。
「さて、紹介するわ。貴方達の先輩にあたり、そして私の掛替えのない親友のイザナミよ。」
アンレーデはそう言うとイザナミは椅子から立ち上がり2人に歩み寄った。
「初めましてイザナミよ。お話は聞いてるわ、よろしくね。」
3人は互いに名乗りあいながら握手を交わす。
「今回の依頼に対してサポートしてくれるわ。」
「ありがとうございます。」
「ふふふ、一介の商人に対してサポートなんて何を期待してるのかしら」
「いろいろと期待してるわ。」
「苦労するのは貴女だけで十分よ。私はゲストとして同行させてもらうわ」
「あら?そうなの?」
「そうよ。」
アンレーデは困ったようなジェスチャーを見せると何も言わずに立っているエンタとランゼに向かって助けを求めた。
「そういう事らしいわ。貴方達はどう思う?」
「えっと…」
「私たちもゲストでよろしくです。」
ランゼが間髪入れずにアンレーデへ返す。
「あらっ」
期待外の言葉にアンレーデのジェスチャーした手が止まる。
「そういう事らしいわね。アンレーデ提督がんばってね。」
ふざけた真顔でイザナミがアンレーデに止めを刺す言葉を投げかける。
「うーん。そう来たか…」
「ははは」
「ふふふ」
3人の笑い声が船室に響く。
「ま、それについては追々考えるとして。とりあえず夕食にしましょうっか。」
「そうね。」
「えっと…俺達は…」
「ん?私達と一緒じゃイヤ?」
「ほら、嫌われてるじゃない。」
「嫌ってるなんて、そんなっ。」
「ご一緒させてもらいます。」
「うーん、この微妙なやり取り…私だけ悪者扱い?」
「そうよ、貴女だけが悪者ね」
「そんな事ないですよー。」
「アンレさんには感謝してます。」
「うぅ…慰められた…」
「ふふふ」
4人は揃って街の酒場へと向かった。膨らむ明日への期待と不安を酒を交えて言葉に変えて時間を過ごした。アンレーデやイザナミにとっては数ある依頼の1つとしても、エンタとランゼにとっては初の本格的依頼である。緊張や不安、期待や安心感が入り混じった感覚が自然と酒量を増やしていった。
セウタから東へ進んだところに4人は上陸した。アンレーデにとっては何度も足を運んだ場所だ、生物学者として始めて地中海へ赴いて初の依頼がこの地での探索だった。それ以来この地は西地中海の中で屈指の生物学の宝庫であると彼女自身お気に入りの土地でもあった。アンレーデは上陸開始から目的地に辿り着くまでエンタとランゼに指示を出しながら彼女がこれまでに培ってきた効率よい方法について説明している。イザナミも後方のバックアップに奔走している。
2日ほど陸を進んだ所で一行は探索地点へと到達した。
「ここを拠点にしましょう、明日からは本格的に調査に取り掛かるわ。各自テントの準備をして明日に備えましょう。深酒は厳禁ね。」
アンレーデの言葉に皆は準備に取り掛かった。
「ねぇねぇ」
ランゼは準備中のエンタに近寄って切り出した。
「どうした?」
「アンレさん本当に怒ってないのかな?」
「なんの事?」
「準備が遅れた事だよ。」
「怒ってないと思うよ。」
「どうしてそう思うの?」
「アンレさんはアノ仕打ちを俺達が受けることを分かってたんだろうさ。」
「え?」
「いずれ受けなければならない洗礼をアンレさんは前もって体験させてくれたのさ。」
「なるほど。」
「だから、アンレさんは3日しか経ってないって言ったのさ。」
「あれはそういう意味だったんだ…」
「もう少しでアンレさんを嫌いになるところだったよ。」
「なってたんじゃないの?」
「あれは方便さ…」
「本当に?」
「多分…でも今は嫌いじゃないよ。」
「今はね。」
「なんだよ。」
「なんでもないよー」
そう言うとランゼは準備中している自分の隊へと帰っていった。釈然としないエンタも痛いところを突かれ事に憮然としてテントの準備を再開する。見ればアンレーデとイザナミはすでに夕食準備を始めている。
「これは経験の差かな?」
その夜も4人は囲って夕食を共にして酒量が嵩む前にテントへと戻った。
2日ほど陸を進んだ所で一行は探索地点へと到達した。
「ここを拠点にしましょう、明日からは本格的に調査に取り掛かるわ。各自テントの準備をして明日に備えましょう。深酒は厳禁ね。」
アンレーデの言葉に皆は準備に取り掛かった。
「ねぇねぇ」
ランゼは準備中のエンタに近寄って切り出した。
「どうした?」
「アンレさん本当に怒ってないのかな?」
「なんの事?」
「準備が遅れた事だよ。」
「怒ってないと思うよ。」
「どうしてそう思うの?」
「アンレさんはアノ仕打ちを俺達が受けることを分かってたんだろうさ。」
「え?」
「いずれ受けなければならない洗礼をアンレさんは前もって体験させてくれたのさ。」
「なるほど。」
「だから、アンレさんは3日しか経ってないって言ったのさ。」
「あれはそういう意味だったんだ…」
「もう少しでアンレさんを嫌いになるところだったよ。」
「なってたんじゃないの?」
「あれは方便さ…」
「本当に?」
「多分…でも今は嫌いじゃないよ。」
「今はね。」
「なんだよ。」
「なんでもないよー」
そう言うとランゼは準備中している自分の隊へと帰っていった。釈然としないエンタも痛いところを突かれ事に憮然としてテントの準備を再開する。見ればアンレーデとイザナミはすでに夕食準備を始めている。
「これは経験の差かな?」
その夜も4人は囲って夕食を共にして酒量が嵩む前にテントへと戻った。
4日分の調査期間を設けて十分すぎるほどの結果を得ると同時にアンレーデとイザナミは上陸調査に関する様々な技術的助言を2人に伝えた。しかし、どんな技術を伝えるにしても最後には「これを元に自分なりのやり方をみつけなさい。」と付け加えていた。人真似だけで乗り切れるほど楽な探索ばかりではない、様々な変事においては結局その場その場で乗り切るしかないのだ、全てのアクシデントに対応するマニュアルなんてあるわけが無い。アンレーデもイザナミもそれが肝要なことだという事を気付かせる為に何度もそう繰り返したのである。
そうして、一行は上陸地点を後にし。リスボンへ戻る為の準備を整え始めた。
「ねぇ、アンレ。」
「なに?」
「普通に帰るのも面白くないわ、帰路は貴女と私でレースしない?」
「面白いわね、何を握る?」
「そうね…1杯行きましょう。」
「分かったわ、ご馳走になるわ。」
「蓋を開けてみないと分からないわよ。」
「ふふふ。」
一行は2班に別れて上陸地点を後にした。風は東からジブラルタル海峡へ向けて流れている。互いに譲れない一飯の権利を賭けた勝負が静かに始まった。両者の船は完璧なまでに風を捕らえ、あとは洋上での駆け引きと船の性能に掛かっていた。
そうして、一行は上陸地点を後にし。リスボンへ戻る為の準備を整え始めた。
「ねぇ、アンレ。」
「なに?」
「普通に帰るのも面白くないわ、帰路は貴女と私でレースしない?」
「面白いわね、何を握る?」
「そうね…1杯行きましょう。」
「分かったわ、ご馳走になるわ。」
「蓋を開けてみないと分からないわよ。」
「ふふふ。」
一行は2班に別れて上陸地点を後にした。風は東からジブラルタル海峡へ向けて流れている。互いに譲れない一飯の権利を賭けた勝負が静かに始まった。両者の船は完璧なまでに風を捕らえ、あとは洋上での駆け引きと船の性能に掛かっていた。
「イザナミ、宣言通りご馳走になるわ。」
リスボンの酒場でアンレーデは程よくブランデーが注がれたグラスを手に持って挨拶した。追い風でのピンネースは風向きが変わるリスボン沖でも追いつかれる以上のアドバンテージを十分に取れるほど快適だった。
「仕方ないわね。」
エンタ、ランゼは冒険の話しで興奮しつつグラスを傾けている。
「さて、エンタ、ランゼ両提督」
「はい。」
「これで私ができる講義は一度終了するわ。これから先は自分の力で自分のやり方を模索しながら頑張ってね。」
「はい、ありがとうございました。」
「何かあれば連絡を頂戴。私は北海からこの近辺に掛けて活動しているからすぐに駆けつけるわ。」
「はい。これからもご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。」
「堅苦しい挨拶はなしよ。無理矢理だけど今日が両提督にとって2度目の旅立ちよ。イザナミの奢りだし派手にいきましょう。」
アンレーデはそういうと勢い良くグラスを酒で満たすと乾杯と声を出し飲み干した。
「乾杯っ!」
残る3名もそれに続き、リスボンの酒場の一角は酒場マスターが看板を宣言するまで浴びるほどの酒量と料理を冒険と海事話と共に過ごしたのであった。
リスボンの酒場でアンレーデは程よくブランデーが注がれたグラスを手に持って挨拶した。追い風でのピンネースは風向きが変わるリスボン沖でも追いつかれる以上のアドバンテージを十分に取れるほど快適だった。
「仕方ないわね。」
エンタ、ランゼは冒険の話しで興奮しつつグラスを傾けている。
「さて、エンタ、ランゼ両提督」
「はい。」
「これで私ができる講義は一度終了するわ。これから先は自分の力で自分のやり方を模索しながら頑張ってね。」
「はい、ありがとうございました。」
「何かあれば連絡を頂戴。私は北海からこの近辺に掛けて活動しているからすぐに駆けつけるわ。」
「はい。これからもご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。」
「堅苦しい挨拶はなしよ。無理矢理だけど今日が両提督にとって2度目の旅立ちよ。イザナミの奢りだし派手にいきましょう。」
アンレーデはそういうと勢い良くグラスを酒で満たすと乾杯と声を出し飲み干した。
「乾杯っ!」
残る3名もそれに続き、リスボンの酒場の一角は酒場マスターが看板を宣言するまで浴びるほどの酒量と料理を冒険と海事話と共に過ごしたのであった。
リスボンを出航したアンレーデはギルドの依頼を受けてロンドンへと進路を取った。
彼女の専攻は生物学者だが、常に生物に関する依頼があるわけでもなく、そんな時は考古学関連や美術関連の依頼を挟んで生活を保っている。出来ることなら年中生物学についての見識を深める生活を送りたい所だが生活と船員達に払う給金を捻出するためには時に専門外の仕事もこなさなければならないという冒険家ならではの苦悩も味わっている。今回の依頼もロンドンの書庫に飾られているという絵画についての調査依頼である。「息抜きがてらに美術鑑賞も良いかも」と引き受けたのである。この依頼を足がかりに北海方面で再び生物に関する遣り残した仕事を片付けてしまおうと揺れる船室で彼女は考えていた。北海方面は寒冷地ならではの生態系が存在するもののそれ以上に多様な歴史が織り成す伝説や歴史的遺物の存在が数多の人の関心を寄せている為、生物学を修めようとする学者は少ない依頼の数に自然とその足が南へと向いてしまっていた。かく言うアンレーデもその中の1人だった。
「アレ以来の北欧か…今回は注意しないとね。」
左手の傷を服の上から確かめながら、ゆっくりと揺れる船室の窓からビスケー湾の海を眺めては自らに言い聞かせるように呟いた。
ロンドンは変わらずに街全体が薄霧に覆われるように、高湿度を保っている。
「この数ヶ月で何が変わる訳もないけどね。」
艀を居りながらアンレーデは早速依頼の調査に街へ足を向ける。美術関連の依頼は生物学と比べて捜索場所に困ることはないものの、美術品の所有者が無闇に人にそれを晒したがらない場合もあり、その交渉に時間が掛かる場合があるのが彼女にとって苦手な事でもあった。
「対人交渉って余り好きじゃないのよね。今回は楽に見られると良いけど…」
広場を闊歩しながら彼女は顔を曇らせた。
王城の衛兵と工房職人からの情報収集は真っ当な方法と大声では言えないものの、快く情報の提供を得られる事が出来た、規律正しい英国の風の中でも硬い石を割る為には相応の手法が必要であると、長らくの航海で得た知識は真っ白に輝く物ばかりではなかった。少々の出費を元に貴重な情報が得られるのであれば、決して安い買い物ではない。形が残らない物だからこそ出し惜しみで損する場合もある事は痛いほど経験してきた結果であった。
得られた情報の痕跡を残さぬように手帳に記すこともなく、最後の難関が待ち受ける絵画の持ち主への交渉へと手筈を始めていた。
絵画の所蔵主は書庫管理局、いくら公の場としても秘匿する風潮は少なからずあるのは否めない事実であった。
「さてっと、素直に見せてくれるかな…」
責任者と面会する為の書類にペンを走らせながら、自身が感じている不安を和らげる為にわざとらしく言葉を口に出していた。
自らも学者としての生業を立てている為か学者の住む世界の生活ではさまざまなタイプの人間が寄ってたかって派閥を組もうとする日常を少なからず彼女も体験してきた。
元来、学者とは一意専心にとは行かないものの専攻する学問に対して精力を傾けるべき人種であるはずだが、まったく利権の絡む世界はごちゃごちゃと面倒な縛りが多くそれゆえか極稀に偏屈な性格を持つ者が誕生してしまう世界となってしまっている。
自らがその渦中に引き込まれる前に彼女はそんな人たちが嫌うフィールドワークを主とする拠点を持たない学者の道を選んだのは、人の失敗を素直に喜ぶ人種、とりわけその事を願う人種になってしまいそうな雰囲気からの逃避でもあった。
彼女の専攻は生物学者だが、常に生物に関する依頼があるわけでもなく、そんな時は考古学関連や美術関連の依頼を挟んで生活を保っている。出来ることなら年中生物学についての見識を深める生活を送りたい所だが生活と船員達に払う給金を捻出するためには時に専門外の仕事もこなさなければならないという冒険家ならではの苦悩も味わっている。今回の依頼もロンドンの書庫に飾られているという絵画についての調査依頼である。「息抜きがてらに美術鑑賞も良いかも」と引き受けたのである。この依頼を足がかりに北海方面で再び生物に関する遣り残した仕事を片付けてしまおうと揺れる船室で彼女は考えていた。北海方面は寒冷地ならではの生態系が存在するもののそれ以上に多様な歴史が織り成す伝説や歴史的遺物の存在が数多の人の関心を寄せている為、生物学を修めようとする学者は少ない依頼の数に自然とその足が南へと向いてしまっていた。かく言うアンレーデもその中の1人だった。
「アレ以来の北欧か…今回は注意しないとね。」
左手の傷を服の上から確かめながら、ゆっくりと揺れる船室の窓からビスケー湾の海を眺めては自らに言い聞かせるように呟いた。
ロンドンは変わらずに街全体が薄霧に覆われるように、高湿度を保っている。
「この数ヶ月で何が変わる訳もないけどね。」
艀を居りながらアンレーデは早速依頼の調査に街へ足を向ける。美術関連の依頼は生物学と比べて捜索場所に困ることはないものの、美術品の所有者が無闇に人にそれを晒したがらない場合もあり、その交渉に時間が掛かる場合があるのが彼女にとって苦手な事でもあった。
「対人交渉って余り好きじゃないのよね。今回は楽に見られると良いけど…」
広場を闊歩しながら彼女は顔を曇らせた。
王城の衛兵と工房職人からの情報収集は真っ当な方法と大声では言えないものの、快く情報の提供を得られる事が出来た、規律正しい英国の風の中でも硬い石を割る為には相応の手法が必要であると、長らくの航海で得た知識は真っ白に輝く物ばかりではなかった。少々の出費を元に貴重な情報が得られるのであれば、決して安い買い物ではない。形が残らない物だからこそ出し惜しみで損する場合もある事は痛いほど経験してきた結果であった。
得られた情報の痕跡を残さぬように手帳に記すこともなく、最後の難関が待ち受ける絵画の持ち主への交渉へと手筈を始めていた。
絵画の所蔵主は書庫管理局、いくら公の場としても秘匿する風潮は少なからずあるのは否めない事実であった。
「さてっと、素直に見せてくれるかな…」
責任者と面会する為の書類にペンを走らせながら、自身が感じている不安を和らげる為にわざとらしく言葉を口に出していた。
自らも学者としての生業を立てている為か学者の住む世界の生活ではさまざまなタイプの人間が寄ってたかって派閥を組もうとする日常を少なからず彼女も体験してきた。
元来、学者とは一意専心にとは行かないものの専攻する学問に対して精力を傾けるべき人種であるはずだが、まったく利権の絡む世界はごちゃごちゃと面倒な縛りが多くそれゆえか極稀に偏屈な性格を持つ者が誕生してしまう世界となってしまっている。
自らがその渦中に引き込まれる前に彼女はそんな人たちが嫌うフィールドワークを主とする拠点を持たない学者の道を選んだのは、人の失敗を素直に喜ぶ人種、とりわけその事を願う人種になってしまいそうな雰囲気からの逃避でもあった。
重々しい雰囲気の漂う廊下を歩きながら、この先に待つ学者が決してその人種に当てはまらない事を一応に平然を装いながらも懸念してか、その歩調は先導する学芸員との距離が少しずつ広がっている事に現れていた。
学者の住まう部屋にしては重厚で不釣合いな扉の前で2人はその歩調を止めた。
「アンレーデ様をお連れいたしました。」
学芸員の呼びかけに部屋の主は少し甲高い声で返事をしている。
その部屋は学者の部屋としては少し装飾が過ぎているような感覚を受けるものの、学者らしく彼女の蔵書と比較してその数倍はあろうかという威圧感を持った本棚が埋め尽くしている。所かしこに貴重な調度品が並べられているものの、それさえ除くと一見してここが書庫といっても過言ではないような室内であった。
学者の住まう部屋にしては重厚で不釣合いな扉の前で2人はその歩調を止めた。
「アンレーデ様をお連れいたしました。」
学芸員の呼びかけに部屋の主は少し甲高い声で返事をしている。
その部屋は学者の部屋としては少し装飾が過ぎているような感覚を受けるものの、学者らしく彼女の蔵書と比較してその数倍はあろうかという威圧感を持った本棚が埋め尽くしている。所かしこに貴重な調度品が並べられているものの、それさえ除くと一見してここが書庫といっても過言ではないような室内であった。