外伝「誓いと絆」(前)
真夏の太陽が主役の2人を祝福するようにその日差しをセビリアの教会に降り注いでいる。牧師はその両の手を高く上げ、祭壇前に並ぶ2人がその生涯に幸多かれと主に祈りを捧げている。互いに目を合わせることなく緊張した面持ちの2人は居並ぶ参列者の優しい視線を背中に浴びながら今日という晴れ舞台を迎えた事に自然と感激しているように紅潮した顔に緊張した表情を見せている。
静かな、本当に静かな教会は美しく飾られたステンドグラスが織り成す神秘的な光に包まれている。
参列者には見知った顔が並んでいる、誰も彼も一番の正装を身にまとい、2人の新たなる生活の始まりを祝福する為だけに集まったのだ。
いつもは甲冑に身を包む者、いつもは土埃と汗にまみれる生活をする者、いつもは作業着を身にまとう者…それらの全てが慣れない服の袖に手を通している。セレモニーが始まるまでは、互いの見慣れない格好を指差しては笑いあっていた。
「商会長がそんな服を持ってるなんてね。」
「やかましいわぃ。」
皆が妙に照れくさいように、聳え建つ教会の前に集まっている。
今日だけはここに集まっている誰もが主役ではなく、ただの脇役という事を全て自覚していた。
静かな、本当に静かな教会は美しく飾られたステンドグラスが織り成す神秘的な光に包まれている。
参列者には見知った顔が並んでいる、誰も彼も一番の正装を身にまとい、2人の新たなる生活の始まりを祝福する為だけに集まったのだ。
いつもは甲冑に身を包む者、いつもは土埃と汗にまみれる生活をする者、いつもは作業着を身にまとう者…それらの全てが慣れない服の袖に手を通している。セレモニーが始まるまでは、互いの見慣れない格好を指差しては笑いあっていた。
「商会長がそんな服を持ってるなんてね。」
「やかましいわぃ。」
皆が妙に照れくさいように、聳え建つ教会の前に集まっている。
今日だけはここに集まっている誰もが主役ではなく、ただの脇役という事を全て自覚していた。
教会の扉が重い音と共に開かれる。
眩い光に背中を押されながら純白の2人がそのバージンロードを進んでくる。
聖歌隊はその儀式をより神秘的に、より感動的に教会を包む。
参列者は静々とゆっくりと祭壇へと歩み寄る2人を暖かく、中にはその目に涙を浮かばせながら見守っている。
そんな参列者に目を合わせる事無く、新婦は俯いたまま赤い絨毯の上を手を引かれて進んでゆく。ゆっくりとその歩みに今までの様々な思い出が目の奥に鮮やかに浮かんでは消えて行く。今、私がこの道を歩めることが生を受けて今まで最高の幸せだとヴェールにかすんで見える花嫁の瞳に静かにうっすらと涙が滲んでいた。
全ての参列者が祭壇を向かい、いよいよ2人が祭壇の前に辿り着いた時、聖歌隊の歌声は最高潮に達しそして再び教会内は例えようのない祝福と緊張感が支配する。しんと静まり返った中、厳かにパイプオルガンの音が高い天井に反響し天使の歌声と評されるその音色を受けて牧師が大切な儀式の始まりを告した。アンレーデは参列者の一員として今まで見たことのないほどに美しいアムスの姿に女性としての幸せを感じ取っていた。いずれ自らもその道を歩けるのだろうか、そう思えば思うほどに純白の花嫁の姿が眩しく華やかに映り、そしてその姿は薄っすらとぼやけた視界へと変わった。目頭を押さえつつアムスとの時間を思い起こしていた。賛美歌はそんなアンレーデを含む参列者の全てを包み込むように教会全体に響いている。
眩い光に背中を押されながら純白の2人がそのバージンロードを進んでくる。
聖歌隊はその儀式をより神秘的に、より感動的に教会を包む。
参列者は静々とゆっくりと祭壇へと歩み寄る2人を暖かく、中にはその目に涙を浮かばせながら見守っている。
そんな参列者に目を合わせる事無く、新婦は俯いたまま赤い絨毯の上を手を引かれて進んでゆく。ゆっくりとその歩みに今までの様々な思い出が目の奥に鮮やかに浮かんでは消えて行く。今、私がこの道を歩めることが生を受けて今まで最高の幸せだとヴェールにかすんで見える花嫁の瞳に静かにうっすらと涙が滲んでいた。
全ての参列者が祭壇を向かい、いよいよ2人が祭壇の前に辿り着いた時、聖歌隊の歌声は最高潮に達しそして再び教会内は例えようのない祝福と緊張感が支配する。しんと静まり返った中、厳かにパイプオルガンの音が高い天井に反響し天使の歌声と評されるその音色を受けて牧師が大切な儀式の始まりを告した。アンレーデは参列者の一員として今まで見たことのないほどに美しいアムスの姿に女性としての幸せを感じ取っていた。いずれ自らもその道を歩けるのだろうか、そう思えば思うほどに純白の花嫁の姿が眩しく華やかに映り、そしてその姿は薄っすらとぼやけた視界へと変わった。目頭を押さえつつアムスとの時間を思い起こしていた。賛美歌はそんなアンレーデを含む参列者の全てを包み込むように教会全体に響いている。
それは、冬の寒さが少し残る日だった。
F・トーレスはかねてより話を進めていた事を商会員にどのように伝えるか思案していた。
場所はセビリア、ゴールデン・ルーヴェの面々がいつも屯する一室の椅子に深く腰を下ろしている。とは言え、各々がこの部屋に集う事は定例会議が殆んどで、それ以外は使われていない時間が大半を占めていた。
「あれ、商会長。珍しいわね」
部屋に入ってきたのは脇に重たそうな書類を抱えたアンレーデだった。
「ん?まぁな。アンレは…なんだその書類は?」
机に下ろした音がどすんと室内に響く。ダマスク織シュルコーに付いた塵埃を払い落としてアンレーデは空いている席に座る。
「いつもの事よ」
慣れた手順で慣れた手順でそれらを仕分けると、それも慣れたようにペンを執っては書類作成に取り掛かっている。
「なぁ、アンレ。」
「なぁに?」
「この商会を発足させた時、どんな気分やった?」
「どんな気分と聞かれてもね。新しい何かを始める気分としか例えようがないわ。」
「いいや、そうやなくてな。アンレは元々違う商会に入ってたやろ。そして移籍してくれた訳や。」
「そうね。」
「移籍を決めた時はどんな気持ちやったかという話や。」
アンレーデは書類上で走るペンをそのままに、しばらく考えて答える。
「普通の一言よ。」
ペンを止め、商会長へと向き直すと当時の事を語り始めた。
「辞める時も、そして新たな場所へ入った時もいたって平静だったわ。今まで築いてきた物が全く役に立たない所へ移るんですもの妙に楽しかったわね。」
「そっか。……実はなとある商会からの移籍の話があるんや。」
そう言うとF・トーレスは1枚の紙をアンレへ向かって滑らせる。それには聞き覚えのある名前が3名記されている。アンレーデは目を疑った、これほどまでに有名な人物が今の商会を抜けてゴールデン・ルーヴェに移籍してくれるなど露ほどに思わない話だったからだ。
「商会長、これって本当なの?」
問われた商会長は懐から煙草を取り出すと静かに火をつけて頷いた。
「そいつとはインドで共に戦場を駆け巡った仲でな…まぁ、商会の事情とやらで話が上がったんや。」
「閣下が認めたのなら素晴らしい方に違いないわ、反対する人も居ないでしょう。」
「どうやろか、他の2人はそれほどに知ってる仲じゃないが。」
「来る人を拒まないのはウチのモットーでしょ?良いんじゃない?」
「まぁな。」
アンレーデはそういうと再び書類に向かいペンを走らせ始めた。
「新しい仲間が増えるのは大歓迎よ。」
「まぁな。」
F・トーレスはかねてより話を進めていた事を商会員にどのように伝えるか思案していた。
場所はセビリア、ゴールデン・ルーヴェの面々がいつも屯する一室の椅子に深く腰を下ろしている。とは言え、各々がこの部屋に集う事は定例会議が殆んどで、それ以外は使われていない時間が大半を占めていた。
「あれ、商会長。珍しいわね」
部屋に入ってきたのは脇に重たそうな書類を抱えたアンレーデだった。
「ん?まぁな。アンレは…なんだその書類は?」
机に下ろした音がどすんと室内に響く。ダマスク織シュルコーに付いた塵埃を払い落としてアンレーデは空いている席に座る。
「いつもの事よ」
慣れた手順で慣れた手順でそれらを仕分けると、それも慣れたようにペンを執っては書類作成に取り掛かっている。
「なぁ、アンレ。」
「なぁに?」
「この商会を発足させた時、どんな気分やった?」
「どんな気分と聞かれてもね。新しい何かを始める気分としか例えようがないわ。」
「いいや、そうやなくてな。アンレは元々違う商会に入ってたやろ。そして移籍してくれた訳や。」
「そうね。」
「移籍を決めた時はどんな気持ちやったかという話や。」
アンレーデは書類上で走るペンをそのままに、しばらく考えて答える。
「普通の一言よ。」
ペンを止め、商会長へと向き直すと当時の事を語り始めた。
「辞める時も、そして新たな場所へ入った時もいたって平静だったわ。今まで築いてきた物が全く役に立たない所へ移るんですもの妙に楽しかったわね。」
「そっか。……実はなとある商会からの移籍の話があるんや。」
そう言うとF・トーレスは1枚の紙をアンレへ向かって滑らせる。それには聞き覚えのある名前が3名記されている。アンレーデは目を疑った、これほどまでに有名な人物が今の商会を抜けてゴールデン・ルーヴェに移籍してくれるなど露ほどに思わない話だったからだ。
「商会長、これって本当なの?」
問われた商会長は懐から煙草を取り出すと静かに火をつけて頷いた。
「そいつとはインドで共に戦場を駆け巡った仲でな…まぁ、商会の事情とやらで話が上がったんや。」
「閣下が認めたのなら素晴らしい方に違いないわ、反対する人も居ないでしょう。」
「どうやろか、他の2人はそれほどに知ってる仲じゃないが。」
「来る人を拒まないのはウチのモットーでしょ?良いんじゃない?」
「まぁな。」
アンレーデはそういうと再び書類に向かいペンを走らせ始めた。
「新しい仲間が増えるのは大歓迎よ。」
「まぁな。」
翌月もまだ寒さの残る日々が続いていた。チュニスの地に降り立ったアンレーデは代理報告の手続きを終らせメイン広場へと足を向けていた。寒い時期は生物学に関する依頼も少なく、またフィールドワークを行おうにも冬眠からいまだ目覚めぬ動物たちは調べようにも無かった。そんな理由もあってジェノヴァ近海の海事依頼を引き受けての活動を主としている。全身打ち身になりそうな激しい戦闘に疲れを隠せないままにその足は自然と書庫へと向かっている。
「アンレーデさん」
その呼びかけに一瞬反応が遅れた。まさかこの街で知己に会うとも思っていなかった。
ようやく足を止めたのは2度目の呼びかけと駆け寄ってくる足音に気付いてからだった。
「アンレーデさん。初めまして、アムスと申します。」
ショートに揃えられた栗色の髪を耳上で留め、大きな瞳を輝かせながら1人の女性が駆け寄ってくる。屈託のない笑顔とどこか品位の通った立ち振る舞いにアンレーデは思わず襟を正した。
「こうやってお会いするのは初めてですね。」
彼女の言葉に首を傾げる素振りを見せると、アムスと名乗る女性は一度セビリアのとある会で同席した経緯を述べた。
「あの会に貴女も…気付きませんでした。」
「えぇ、私は遠目に見ただけですから。えぇ、トーレスさんとご一緒してたのですが」
これはいきなり手厳しいと思わず天を仰ぐアンレーデを見てアムスはクスクスと笑っている。
そんな街角の2人に対してチュニスの町は突然の降雨で歓迎した。急いで最寄の休憩所へと駆け込む2人。大きな雨粒が屋根を叩く音が鈍く響いている。
アムスはトーガの雨をを払いながら華奢な仕草で席に着く。
「ゴールデン・ルーヴェにようこそアムス。」
第一声はありきたりの言葉だった。
「えぇ。まだ、お会いしてない方も多いんですけど。」
「皆忙しいみたいね。でも、いずれ会えるわ。」
運ばれたお茶を口へ運ぶと口の中に混じる砂漠の洗礼が妙に気に掛かる、しかし、それ以上に疲れた体に染み入る感覚がその不快感を払拭するようだった。
「不安だったでしょ。」
不意の問いかけにアムス嬢は大きな瞳をより広げてアンレーデの顔を見た。
「そんな事はないですよ。今までお会いした方は皆さん優しい方ばかりでしたし。」
「アムス。私もね移籍組なのよ。」
そう言うとアンレーデは自らの経験を語り始めた。
「それはね不安と言うより恐怖に近い感情だったわ…」
アテネ会談から始まるゴールデン・ルーヴェの歴史の中で彼女が味わった経験を隠す事無くアムスへと伝える。
「でもね、新しい仲間が増える度にあの恐怖感の対価以上の喜びを感じるの、そして貴女のような素晴らしい方を迎えることができて、また味わう事ができたわ。」
少し驚いたような照れたような顔を浮かべながらアムスは口を開いた。
「正直、不安だらけでした。それなりにと言えば語弊があるかもしれませんが、前の商会も楽しかったんです。でも…」
アンレーデはその先を手で遮る。
「私は今、すごく嬉しいわ。他の商会でなくこのゴールデン・ルーヴェを選んでくれた事が。私は何の役にも立たないお荷物的存在だけどよろしくね。」
「え、お荷物なんですか?」
「まぁ、そんなモンよ。」
休憩所の外はいつの間にか空中の全ての砂埃を取り払い透明度の高い空気が街を包んでいる。そんな外の変化にも関係なしにそれは似た境遇を得た者同士の話はいつ尽きるとも知らないほどに盛り上がっていた。
「自分には無理だと最初から否定するのはダメよ。何事もやり始めてから考えないとね。」
「あはは、私はナマケモノですから。無理です。」
「何でもやってみると楽しいものよ。」
「えー。そうですか?」
「うんうん、さっそくケンに連絡入れておくわ。貴女が何かしたいって。」
「だめです!」
その笑顔できっぱりと否定されてはアンレーデも笑顔で返すしかなかった。
「でも、出来そうな事を見つけてやってみますね。」
「期待してるわ。あら、雨が上がったようね…」
雨音が消えてからかなりの時間が経ってからようやくに2人はその事実に気が付いた。そして揃って外へ出る、うって変わって眩いほどの日差しに照らされて2人の虚像がそこらかしこにある水たまりに写っている。
「さてとっ!」
アンレーデはぐっと背伸びをしながら自らに檄を飛ばす。まだ体の芯には鈍い疲れが残っているように背伸びが心地よい。
「アンレさん。ありがとうでした。」
そんなアンレーデの横でアムスは唐突にお辞儀する。アンレーデはアムスに何かと驚かされている。
「急に何を言ってるの?」
「いぁ、やっぱり緊張してて、必死だったから。アンレさんと話せて良かったです。」
「緊張なんて無駄な労力は不必要よ。こんな役立たずも居させてくれる商会ですもの。」
「役立たず?」
「こんな事しかできないからね。」
「そんな…」
「ふふふ、お互い頑張りましょうね。」
「はい。私はバルサ方面へ向かいます。」
「道中気をつけてね。貴女みたいな美女は襲われるわよ。」
「捕まらないように気をつけます。」
休憩所前の2つの影はその言葉を最後に別々の方向へと分かれていった。
「アンレーデさん」
その呼びかけに一瞬反応が遅れた。まさかこの街で知己に会うとも思っていなかった。
ようやく足を止めたのは2度目の呼びかけと駆け寄ってくる足音に気付いてからだった。
「アンレーデさん。初めまして、アムスと申します。」
ショートに揃えられた栗色の髪を耳上で留め、大きな瞳を輝かせながら1人の女性が駆け寄ってくる。屈託のない笑顔とどこか品位の通った立ち振る舞いにアンレーデは思わず襟を正した。
「こうやってお会いするのは初めてですね。」
彼女の言葉に首を傾げる素振りを見せると、アムスと名乗る女性は一度セビリアのとある会で同席した経緯を述べた。
「あの会に貴女も…気付きませんでした。」
「えぇ、私は遠目に見ただけですから。えぇ、トーレスさんとご一緒してたのですが」
これはいきなり手厳しいと思わず天を仰ぐアンレーデを見てアムスはクスクスと笑っている。
そんな街角の2人に対してチュニスの町は突然の降雨で歓迎した。急いで最寄の休憩所へと駆け込む2人。大きな雨粒が屋根を叩く音が鈍く響いている。
アムスはトーガの雨をを払いながら華奢な仕草で席に着く。
「ゴールデン・ルーヴェにようこそアムス。」
第一声はありきたりの言葉だった。
「えぇ。まだ、お会いしてない方も多いんですけど。」
「皆忙しいみたいね。でも、いずれ会えるわ。」
運ばれたお茶を口へ運ぶと口の中に混じる砂漠の洗礼が妙に気に掛かる、しかし、それ以上に疲れた体に染み入る感覚がその不快感を払拭するようだった。
「不安だったでしょ。」
不意の問いかけにアムス嬢は大きな瞳をより広げてアンレーデの顔を見た。
「そんな事はないですよ。今までお会いした方は皆さん優しい方ばかりでしたし。」
「アムス。私もね移籍組なのよ。」
そう言うとアンレーデは自らの経験を語り始めた。
「それはね不安と言うより恐怖に近い感情だったわ…」
アテネ会談から始まるゴールデン・ルーヴェの歴史の中で彼女が味わった経験を隠す事無くアムスへと伝える。
「でもね、新しい仲間が増える度にあの恐怖感の対価以上の喜びを感じるの、そして貴女のような素晴らしい方を迎えることができて、また味わう事ができたわ。」
少し驚いたような照れたような顔を浮かべながらアムスは口を開いた。
「正直、不安だらけでした。それなりにと言えば語弊があるかもしれませんが、前の商会も楽しかったんです。でも…」
アンレーデはその先を手で遮る。
「私は今、すごく嬉しいわ。他の商会でなくこのゴールデン・ルーヴェを選んでくれた事が。私は何の役にも立たないお荷物的存在だけどよろしくね。」
「え、お荷物なんですか?」
「まぁ、そんなモンよ。」
休憩所の外はいつの間にか空中の全ての砂埃を取り払い透明度の高い空気が街を包んでいる。そんな外の変化にも関係なしにそれは似た境遇を得た者同士の話はいつ尽きるとも知らないほどに盛り上がっていた。
「自分には無理だと最初から否定するのはダメよ。何事もやり始めてから考えないとね。」
「あはは、私はナマケモノですから。無理です。」
「何でもやってみると楽しいものよ。」
「えー。そうですか?」
「うんうん、さっそくケンに連絡入れておくわ。貴女が何かしたいって。」
「だめです!」
その笑顔できっぱりと否定されてはアンレーデも笑顔で返すしかなかった。
「でも、出来そうな事を見つけてやってみますね。」
「期待してるわ。あら、雨が上がったようね…」
雨音が消えてからかなりの時間が経ってからようやくに2人はその事実に気が付いた。そして揃って外へ出る、うって変わって眩いほどの日差しに照らされて2人の虚像がそこらかしこにある水たまりに写っている。
「さてとっ!」
アンレーデはぐっと背伸びをしながら自らに檄を飛ばす。まだ体の芯には鈍い疲れが残っているように背伸びが心地よい。
「アンレさん。ありがとうでした。」
そんなアンレーデの横でアムスは唐突にお辞儀する。アンレーデはアムスに何かと驚かされている。
「急に何を言ってるの?」
「いぁ、やっぱり緊張してて、必死だったから。アンレさんと話せて良かったです。」
「緊張なんて無駄な労力は不必要よ。こんな役立たずも居させてくれる商会ですもの。」
「役立たず?」
「こんな事しかできないからね。」
「そんな…」
「ふふふ、お互い頑張りましょうね。」
「はい。私はバルサ方面へ向かいます。」
「道中気をつけてね。貴女みたいな美女は襲われるわよ。」
「捕まらないように気をつけます。」
休憩所前の2つの影はその言葉を最後に別々の方向へと分かれていった。
(続く)