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金の獅子の背に乗って
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金の獅子の背に乗って

第12話

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「航跡の価値」Ⅱ


少し羊雲が混じる空色の下を白い引き波を立てながら船は進んでいく。いつもより過ごしやすい船内での生活も数十日が過ぎようとしていた。誰の手元に届くのかは知らない宝石を満杯に乗せている証拠に船の喫水線が深く上がっている。
「やれやれ。これだと運び屋だな…」
商人としての生活は大きく分けて2通りに分類される、陸に住む人種と洋上を走る人種である。仲買人としての生活も商人としての手腕を振るうに値する生活でもあるが、板ばさみの生活を送ることは彼の心情的に楽しいと感じるものではなく、仕入れから運搬、そして荷売りまでを自らの手腕を頼りに生活する事の方が性に合っていると、この長い航路を往復している。一時は繊維や織物に関する交易事業を生業としていた彼だったが、これ以上の拡張性がないと思った彼は自らの手腕をより広く強く振るえる場所として、現在の商売へと転向した。ただ、繊維や織物に関する商売はアフリカ大陸の東での近海交易で十分に利益が取れていたものの、こと宝石に関しては最大の利益を生む場所が自らが生まれ育った地中海ということもあり、長く退屈な洋上の日々を余儀なくされていた。
今回の航路は比較的というより珍しくも平和な過程が多く、最も危険だとされていたザンジバル-カリカット航路、そして有名なセイロン島周辺、名所ともいえるケープ沖とどれもが何の障害なく通り越し、船はいよいよカナリア沖へと指しかかろうとしていた。
この頃になると、地中海の匂いを誰とはなしに嗅ぎ付けるのか船中の張り詰めた空気が緩み始める、もっともこの先にあるカーボベルデにはそんな緩んだ船を食い物にする海賊が常駐している為、提督としては船中の雰囲気を保ち続けることに苦心することも屡であった。定時的に行う見回りで、船員達に話しかけ緊張を弛ませないよう巧みに彼らを誘導している。
「よしっ!あと数日で地中海だ。家族が首を長くして待っている。カーボさえ注意すれば後はバラ色の生活が待っている。最後にミスをすれば何もないのと同じだ、愛する家族の為にもう一仕事頼むぞ。」
男達のドスが聞いた返事を確認し、決まった足取りで続く甲板へと出る。
自らの船以外一隻もその視界に写らず360度を大海に囲まれ、薄い雲に覆われた太陽の日差しが平和を象徴するように心地よい。このまま順調に進めば半月後には地中海へ到達するだろう試算を何度も数えなおしながら、変哲の無い青い平野を見つめていた。そして、その足で船上をぐるりと回り船内へと戻ろうとした時、視界へ飛び込んできたの西の水平線に見える黒い模様だった。
「おや…。イベントが起こりそうだな」
意に留めず、拍子抜けする口調で言葉が出たかと思うとなにやら指折り数えて頷く。
「ここで意外な足止めを食らってしまうな。」
そう呟きながら船中に戻ると、シッドは声を大きくして皆に伝える。
「近々、嵐になるぞ!」

大海の大波に揺れる船はただ浮かぶだけの木の葉と同じように上へ下へと翻弄されている。
シッドの言葉通り嵐は彼の船へと襲い掛かった。しかも、いつになく強い嵐だ。
立つことすら儘ならぬ船中はあらゆるものが船の動きと同調し、雷鳴轟く船外と同じように船中は様々な怒号が響いている。中でも船倉が持ち場の者の必死さは他の持ち場と比べまさに戦場と呼ばれるほどの壮絶さだ、もっとも壮絶という事だけでは厨房もそれに匹敵するほどの過酷さを強いられる持ち場でもある。
「荷崩れだけは防げ!これが崩れると俺達のメシはないぞ!」
荷崩れに巻き込まれると自らの命すら危うい、しかし、荷崩れを起こし商品が傷物になると値は下がる。セイロン島を出立した頃には水や食料など必要物資も加えて満載になっているため嵐が到来してもさほど怖い事は無い、しかし、船はカナリア沖まで到達し船中の水や食料が減ると船倉に隙間ができてしまう。積荷の揺れ幅は次第に大きくなりいくら縛り付けていても崩れる可能性は十分にあった。売れば自らが生活するための金になる、しかし、今は命を奪いかねない凶器として彼らの目の前で揺れている。それはまるで獲物を狙う肉食動物のようにゆっくりと力強い揺れだった。
「浸水です!」
船中の誰かが叫ぶ。
「修理班を向かわせろ!」
報告と指示の数がかみ合わないほど様々な情報が交錯する。シッドも自ら修理道具を持って船中を忙しく動いている。床を這うように現地へ行き、修理が終わらない状況に次の報告が飛び込んでいる。びしょ濡れになり、床や壁に叩き付けられながら只管に動き続けていた。
「くそっ!普段の行いが悪いのは誰だ!こんな酷い嵐を呼びやがって!」
外の風は弱まる気配どころか更に強さを増したようにマストに絡み付いて不気味な音を出し、撃ちつける大粒の雨を浴びてその重量を増した帆が一層その身に掛かるモーメントを加算する。ぎいぎいと軋み音を足しながら弾性の限界を試されるような強風をメインマストはじっと耐えていた。
現場で船員を鼓舞する声はやむことなく続いている。
幾多の戦場を切り抜けてきたシッドも声が枯れ始めている。
「やれやれ、これじゃ戦場の方がまだマシだ。」
副官の声は鬱陶しい船の揺れに逆撫でされて語気が荒い。
「なに言ってやがる、これも戦場だ。お前も来い、まだ浸水が止まってない場所がある!」
シッドはそう言いながら抱えていた資材を投げ渡すと、再び揺れる船内を這うようにしながら現場へと戻っていく。

一昼夜、ゆっくりと進んだ嵐の雲は疲労で疲れ果てた船中を知らぬ顔で通り過ぎた。台風一過とは言うものの今はその日差しが目に染みるように痛い。これ以上水分を吸い込まないぐらいに濡れた甲板がその中へと染み入る順番を待つ嵐の名残を乗せて太陽光を反射している。体中が打ち身で痛い。
「一変してこの天気か…こんな日和を見るとアイツなら喜び勇んで釣りをしてるだろうが、今の俺達には似合わんな。」
シッドはかつて同じ商会に居たハガルを思い出す。
「今何やってるんだか知らんがね。」
一通り船体の確認を終えると嵐の後片付けに追われる船中へと戻る。いくら準備していたとは言え船中は嵐の爪痕でごった返し、総員で取り掛かってもゆうに半日を要した。
「さぁ、愛しい家族が待つ地中海へ帰るぞ!碇を上げろっ」
号令が発せられると、快晴の空の下に畳まれていた帆がゆっくりと広げられ、徐々に風を含むとゆっくりと船を地中海向けて運び始める。
思わぬ足止めを食らった船が再び心地よい波きり音を立てるのを確認し、シッドは自らの船室へと戻る。しかし、部屋のドアを開いた瞬間、シッドの足が止まる。
「しまった。まだここが残っていたか…」

潮風がまとわり付くような港で浮きを見つめる隻眼の青年が一人。大きな鍔の帽子を被り、隙間から風にゆれる髪は少し赤味が掛かっている。
「ちぇ、またベラか。」
小さなアタリに合わせた魚は彼の想像以上の小物だった。
「君のお父さんかお爺さんを連れてきてくれ。」
釣ったばかりの魚をリリースする。何食わぬように海の中へ戻った魚へ彼は軽く呟く。今日は思ったほどの釣果が出ていない、日和、風、潮共に申し分ないコンディションにもかかわらず彼の竿には大きなアタリが出ることなく時間だけが過ぎていっていた。
もっとも、彼としては釣りができる事を楽しんでいるようにも見えた。釣り糸を垂れるその顔は楽しげで幼いようにも見えるほど真剣で年齢を間違えるほどに熱中している。次こそはと繰り返し打ち続ける様は好きなことを止められない子供のように時が経つことも厭わない無邪気な少年そのものだった。
「きたっ!これは大きいぞ」
勢い良く海中に消しこまれた浮きに渾身の力を込めてあわせる。今日一番の引きが竿から両手に伝わってくる。その手ごたえに思わず声を上げる。魚はどうにか逃れようと右へ左へと走り、釣り糸を切ろうと沈み根へ潜ろうと試みる。しかし、巧みに竿を操りながら魚の作戦を上手くかわす。
「なかなかやるな。でも、今日一番を逃すわけにはいかないな。」
魚との駆け引きを存分に楽しむようにその声は明るい。キシキシと撓む釣竿の弾性を上手く使いながら魚を追い詰めてゆく、そしてとうとう掛かった獲物が水面に顔を出した。
「オキスズキか。良いサイズだ」
魚からの抵抗がようやく収まり始めた。一度空気を吸わせた魚はゆっくりとその動きを緩め、諦めたようにその銀色に光る魚体を見せ付ける。
「とうとう観念したか。この勝負は僕の勝ちだな。」
糸の緊張を保ちつつ、取り込みやすいように竿を操る。そして、体全体のバネを使いながら海から魚を引き抜いた。
「よしっ!」
思わず拳を握り締めた。陸に上げられたオキスズキは自らを釣り上げた人物を恨めしそうに睨んでいる。しかし、当の本人は釣り上げた充実感で彼を見ていない。いつの間にか隻眼の青年の周りにはギャラリーが増え、そのギャラリーは口々に釣り上げられたオキスズキのサイズが良いことに感嘆の声をあげ、また見事に釣り上げた青年に喝采を投げている。中には俺の漁船に乗らないかと声をかける者も居たりしたが、その声は興奮覚め止まぬ隻眼の青年には届いていなかった。
「よしっ。今日はこれでおしまいだな、これ以上のラッキーを使う必要もないや。」
本日最大の獲物を魚篭へと入れると、手早く帰り支度を整えて港を後にした。
セビリアの市場、軽い足取りの青年は埠頭を後にした足でここに立ちよっていた。朝一番の活気はないものの、夕食の買出しに来た人々でそれなりに賑わっている。青年もその他大勢と同じように同じ目的で足を伸ばしていた。
「今日は気分良いからな。この魚に合うワインでも買っていこうか。」
意気揚々と高ぶる気持ちが思わず声に出る。気持ちの高揚はついつい財布の紐を緩めあれこれと物色する青年の後姿を遠めに見る視線に彼は気づいていなかった。
市場を抜ける頃、青年の両の手は思わず買い込んだ荷物をかろうじて持てるほどの状況になっていた。少し買い込みすぎたかなという疑念が彼の中にあったものの、たまにはこんな贅沢も良いだろうと言い訳しながらその足は自らの船へと向かっている。
しかし、通りを1・2本抜けたところで青年は後ろから付いてくる足音に気が付く、自分に用事があるかどうかは知らないが、後ろから付いてくる人物は確かに自分と同じ道をぴったりと付いている。
「僕に用事なのかな…まさかね。」
少し気味悪い感覚を覚えた青年は遠回りするような道へと足を変えて港へと急いだ。
「ついて来ないね。やっぱり、気のせいだった。同じ道順を歩く人なんて何人でも居るからね。」
自分が気を回しすぎ、余計な事を考えてしまったなと首をひねりながらその道を急いだ。
「おい、ハガルじゃねーか。」
気が緩んだ瞬間、隻眼の青年は目の前に現れた人物に進路をふさがれた。
「うあっ!誰!」
「誰やあれへんやろ。」
いきなりの事に何が起こったか分からないが、自らの進路に立つ人物は確実に自分の名前を呼んだ事だけは確かだった。逆光で見づらいその人物を目を細めるようにして睨みつける。その顔は見覚えのある人物だった。
「ん?あっ、トーレスさん?」
「なんで疑問形やねん。」
「なんとなく…」
「お前、今なにやっとん?」
「市場からの帰り道だよ。」
「いあ、そうじゃなくて」
「そうそうトーレスさん。今日一番の獲物見てよ、オキスズキの大物だよ」
両手の荷物を傍らに置くと魚篭に入っている魚を取り出した。
「ハガル。確かに立派やけどな…」
「でしょ?すっごい引きだったんだよ。」
「まぁ、その話は後で聞くから。とりあえず、今なにやってるん?」
「港帰って、これ食べる準備っ」
釣り上げたオキスズキを誇らしげに手に持ち、自信に満ちた声で言い切った。ハガルのそんな調子にF・トーレスは思わず天を仰ぐとハガルの言葉を否定するように手を左右に振る。
「ハガル、ちゃうねん。仕事の話や、し・ご・と。」
F・トーレスの言葉にキョトンとして、数秒の間をおいてようやく我に返る。
「あぁ、僕はまだ冒険稼業だよ。」
「そかそか。で、まだアノ商会に居るんか?」
かつてハガルはF・トーレスと同じ商会で活動を共にしていた、しかし、隆盛を極めようとする前に活動する人員が減り、その商会でまともな活動を行っていたのは4名になった。そして、F・トーレスはかのアテネ会談を経てゴールデン・ルーヴェの設立にいたったのである。ハガルはそんな4名の内の一人だった。
「びっくりしたよ。トーレスさんが抜け、シッドさんが抜け、気づいたら僕一人だったよ。」
ハガルはF・トーレスが抜けてからの状況を話始めた。告げられずに人が去っていき、商会の維持も儘らない状況が迫っていた。そんな時、商会管理局へ出向くとF・トーレスを始め活動していた4名の名前が消えていた。実質、活動していたのはハガルだけという状況になっていたのである。ハガルは悩みに悩んだ、このままこの商会と運命を共にしようか否かと、もしかしたら活動を休止している人達が戻ってくるかもしれない、そんなときこの荒れた状況を見てなんと思うだろう。しかし、自分一人でできる事は高が知れているし、精一杯やっても戻ってこなかったらそれも水の泡になってしまう。恩義と責任の狭間でハガルは連日眠れない日々が続いた。そんな時期が続いた後、彼の弟であるバベルが彼に習って海にでるという話が持ち上がり、ハガルはそれを期にその商会を辞めた。
「自分で求める事を自分なりに追い続けたかったんだよ。」
隻眼の青年は暗く沈んだ口調で目前の軍人に訴えた。
「そうやな。ワシも相談せずに抜けてしもうたからな、んで今は自由なんか?」
「そうだね、同じ轍を踏むのはご免だからね。こうやって気ままにやってるよ。」
「ならワシの所へ来んか?」
「トーレスさんの所?」
「そや。みんなエエ奴ばかりやで、特にハガルと同じ職業の奴が多いからな。ぴったりやと思うがどうや?」
ハガルは言葉を詰まらせた。再び商会に所属することが果たして自分にとって有意義なことなのだろうかと激しく葛藤する。もし、同じことが起こったら?不安は拭いきれるものではなかった。それほどまでに前の商会での出来事は彼の心に深い影を落としていたのである。
「前の商会よりずっと魅力あると思うで、活動人数は保障付きや。」
「そうなのか。トーレスさんは楽しいかもしれなけど、僕にも合うとは限らないよ。」
「試しに入ってみい。気に入らんかったら抜けたらええんやから。」
「うん…でも…」
「ええい!はっきりせい!入るか?入らないか?どっちだ!」
煮え切らないハガルの言葉にF・トーレスの語気が思わず荒くなる。戦場では優柔不断こそが命取りになりかねない、素早い決断を求められる環境で過ごしてきた彼にとってはハガルの切れ味悪い言葉が苛立ちの原因だった。
「わわっ。はい、入る。入るよー。」
その凄みに押されるようにハガルは返事する。その反面、F・トーレスのこういう態度は以前から変わっていないと思うとくすりと笑ってしまっていた。
「トーレスさん、その強引さ相変わらずだね。」
「当たり前や、変わってたまるかいっ。」
先ほどの一言とは違ってF・トーレスの口調は元通りになっている。むしろその顔は穏やかに笑っている。
「トーレスさん、あんまり強引だと女性からモテないよ?」
「お前に言われたくないわい、そういうお前はどうなんや?モテるんか?」
「う…僕は、まぁ、それなりさっ。」
F・トーレスの笑いが石畳に響き港からの潮風がその笑いを路地の遠くまで響かせようと吹き付けて浚っていく。早速、商会管理局へと足を伸ばした2人はその場で申請と決済を済ませ建物を出た。後は管理局側の仕事を待てばハガルは商会員として正式に認められる。
「ハガル、ようこそゴールデン・ルーヴェへ」
改めてF・トーレスはハガルに握手を求め、ハガルもそれに応じる。
「2回目やけど、これからもよろしくな。」
「お世話になります。」
「まぁ、商会の詳しいことは副代表に聞いてくれ。多分、そこら辺の海をうろうろしてるはずや。」
「どんな人?」
「そうやな、職人肌な奴と意地っ張りな奴や。両名とも女性やが外見に騙されないようにな。」
「なんか怖そうな感じだね。」
「言うたやろ、皆ええ奴ばっかりやって。大丈夫や。年恰好は、そやなそこに歩いてる奴ぐらい…あれ?」
F・トーレスが指差した先には見覚えのある姿が通りを歩いている。シルバーグレイの髪を靡かせながら歩く女性、相変わらず重たそうな書類をずいぶんと抱えているのが遠目にも見て取れる。F・トーレスはその女性が歩く方向を見て、その目的が急ぎではなくとある場所へと向かっているのを瞬時に感じ取る。
「丁度良い、ハガルついて来い。」
そう言うと傍らに突っ立っていたハガルの返事を待たずして歩き始める。その足取りは歩くを通り越して半ば走るに近いものだった。不意を突かれて出足の鈍ったハガルは見る間に遠ざかるF・トーレスの後姿を見失わないようにと懸命に駆け出した。体力の差は歴然として2人の距離を遠ざけるが、目的地を知らないことの必死さがどうにか彼の足を最後まで走らせ続けた。

街の外れにある閑静な住宅地のとある一軒家で彼女は足を止めた。玄関の鍵が掛かっていることを確かめるとポケットを探り鍵を取り出す。家の中は全くと行って良いほどに生活感がなく、しんと静まり返っている。深くカーテンに閉ざされた室内は暗く、篭った湿気が気管へ絡むように充満している。
家の中へ入った女性が持っていた書類を居間のテーブルへ放り投げると、溜まっていた埃が舞い上がり僅かに差し込む太陽光に照らし出されて光の幕を作り出す。
「最近は誰も寄ってないみたいね。」
薄暗い中で躓かないように窓へと進んだ女性は手当たり次第の窓を開け始めた。室内の古い空気が一気に外へ飛び出して行き、変わりに新鮮な空気と光が室内を掃除し始める。部屋の調度品はかつてここに住んでいた人が残していたものだが、当時自慢だったそれらも埃を被ってその誇らしげな雰囲気の面影も薄い。部屋の現状を確かめると、女性は次々と他の部屋の窓を開けに移動する。1階、2階どの部屋も大差なく埃の化粧を施している。
「まずは掃除から始めないとダメか。」
そう言いながら服の袖を捲くり上げながら階段を下りる。
「おぃ、ライラさん。居るか?」
聞き覚えのある声が玄関方向から聞こえてくる。

(まだまだ続きます)
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