「航跡の価値」Ⅳ
北海に吹く東風が冬の兆しを示し始めた。東を向いているどの船もその冷たい風に苦戦しながらゆるりゆるりと進んでいる。国としてまだまだ発展の余裕を感じさせるイングランド、その最大の欠点はビスケー湾から北海における航行ルートの限定にあった。国策として海域の安全を保持しようと努めるものの、海軍による不穏分子の摘発は一定の成果を上げてはいるが、海賊行為はまだ根絶されたわけでもなく特に高値で取引されるインド帰りの宝石を狙った海賊は後を絶たなかった。
「相場は生き物って言うけどね、ここまで芳しくないと死に体も良い所だな。」
高値ゆえの人気は商人にとっては見切りと見極めを試される、想像以上の不良相場だったダブリン、プリマスの2港に失意しながらドーバーを向けて舵を切った。数ある港街の中で確実な商売ができる港は首都ロンドンを始め、ドーバー、プリマス、ダブリン、エディンバラ、ハンブルグ、ベルゲン、オスロ、リューベック等、数はあれども厳しい北海の風に行く足を鈍らされる事が北海貿易の泣き所だった。
イングランドの国力はその厳しい風によって立ち遅れているといっても過言ではなく、それゆえに遠路からの宝石の価値は他国に比べ高値を生んでいる。
いっそ、バルト海まで足を伸ばせば売る側としては遠路になるものの更に高値を期待できるのだが、複雑に入り組んだ地形が海賊達にとってみれば格好の待ち伏せ場所となり大き過ぎるリスクに二の足を踏む者も多かった。そして、その考え方はこの船の提督にも同感の意を示している。
「バルト海までには落としたいな。」
この船の提督はその巨躯を椅子に沈め、白波立つ海音と吹きつける風の音を聞いている。顎鬚を手でなぞっては中途半端に予定の立たないこの先を考えると虚ろな顔で海の様子をぼんやりと眺めるだけで精一杯だった。
彼としてはドーバー、ロンドン、エディンバラの3港のどこかで宝石を降ろし、その足でハンブルグへ向かい金属加工を、オスロで工芸品加工を行うのが理想の形だと思っているものの考えどおりにならないのが交易の面白味と諦めていた。
「チャン提督、まもなくドーバー海峡へ入ります。」
副官の報告に頷くと自室から操舵室へと向かう。ブリテン島とヨーロッパ大陸との距離が最も近いドーバー海峡、その狭さは人が泳いで渡れるのではと思わせる。それゆえ船影は自然と濃くなり、かつてはこの海峡には名だたる海賊が我が物顔で横行と蛮行を繰り返していたが、昨今はイングランドおよびネーデルランド双方の合意によりこの海峡の安全を図ろうという国策が取られ比較的安全に航行できるようになっている。とは言えども両国海軍の目を盗んで生き延び悪事を働く輩がその入り江に隠れている事は否定できない悲しい事実だという認識は北海交易を行う場合において常識となっていた。
自ら見張り台に立ち周囲を見渡す、これがチャンが徹底する安全対策であった。巧妙に隠れる海賊船をより速く見つける事こそ被害に遭わない最良の対策だと彼は自負している。
「海賊船ってのは、巧妙に隠れていてもどこか商船とは雰囲気が違うんだ。」
常々、チャンは船員にそう伝えている。「どのように?」という船員からの問いに「勘と推測の域はでないが。」と笑って答えるが、事実彼の船はこのドーバー海峡においては海賊被害に遭遇したことがなかった。船員達の間では安全にこの海峡を渡してくれるとその洞察力の鋭さに全幅の信頼をおき、迷わず船を航行させることができた。
「西行きの商船が多いな…ドーバーは危ないかもしれない。」
望遠鏡を覗かなくても分かる船の往来数を何気なしに数えながらドーバー海峡を越える。
「おーぃ、ドーバーは回避して首都へ入ろう。」
チャンは一切の迷いなくドーバーへの入港を回避する。船はドーバーへ向けていた船首をロンドンへと変更し再び風を正面に受けながらブリテン島南部海域を進む。
魔女の足と呼ばれる岬を北へ大きく旋回する、地中海から比べると時化模様にも見える海へと進入する。海から見るブリテン島は強風の中でも霧を湛えていて神秘性を漂わせている。ロンドンはブリテン島の南東方向に位置し、その近海はドーバー海峡とそれにぶつかる海流、さらには強い風が寄港を拒むように船体を揺らす。地中海で育った船乗りがこの海へ乗り込んだ時、誰もが口をそろえて「これは海ではない。」と言うのだと古くからのジョークが伝えられている。港は入港管理局によって入出港の順序が仕分けられる、港のキャパを越えぬよう入出港の際に事故が起こらぬようにと徹底した管理の下におかれている。チャンはロンドン港が近づくと小船を下ろし管理局へと向かった。沖合いには入港を待つ船々が両の手に余るほど停泊している。
「全部が全部じゃないだろうが、この数だと不安になるな。」
商船と思しき船体をミトンに隠れた指を折りつつ数えている。
「ま、ダメなら次だな。」
空を見上げてなにやら考えを纏めると、別段に焦燥感も感じさせないあっけらかんとした表情でロンドンの桟橋へと辿りついた。
入港管理局での手続きを手早く済ませ、チャンの足は自然と交易所へと向かった。なにはともあれ相場が気になる、良い状態でなければ物資補給後にすぐ出航しなければならない。港から造船所まで移動し、そこから商業地区へ抜けるメイン通りを歩く。建物に巻かれて吹き付ける風がじっとりと湿気を帯びながらチャンを襲う。初雪は1週間前に見られたらしく、行き交う人々の格好も真冬のそれに代わっている。母国とは言え寒いものは寒い、普段は薄着な彼もコートを羽織り、ミトンにファーブーツまで身に着けている。徐々に増え始めた人の合間を縫うように歩き進めようやく辿りついた商業地区は寒空を吹き飛ばすように熱気に溢れ、露天売りは地面が見えないほどに並び客引きの声が絶え間なく響き掘り出し物を探す人々は絨毯のように隙間無く押し詰めている。
「相場はどうだい?」
息も上がるほどに人波を押し分けて辿りついた交易所でチャンは単刀直入に最も知りたい情報について聞く。
「旦那、なにを下ろしたいんだい?…あぁ、今は丁度ぐらいだよ。」
欲を言えばキリはない、決して悪い相場でもないがエディンバラやハンブルグへ足を向ければ更に好相場かもしれない。さらに、沖合いで停泊する間に変動するかもしれない。再び雑踏の中へと戻り先の道とは異なる方向へと人を押し分けて進むその道中チャンの葛藤は尽きることなく続いた。
商業地区を抜けた先に市民に愛される教会がぽつんと建っている、中央広場の隅に人通りを眺めるように建っている。週末はミサが開かれ人で溢れる教会も、平日の昼には訪れる者も疎らで石畳に落とす日時計を示すことが最大の役目となっている。学校を終えた子供達はこの寒さを厭わぬように広場を駆け回っている。かつては誰もがその時代を迎えていたことなどと思い起こすことも少ないながら、健やかな子供達の動きは世に擦れた大人の心を落ち着ける材料としては最適のものだった。チャンも忙しく世界を走り回る身の上で我が子2人と過ごす時間が陸の商売人とは異なり少なくなってしまう事に悩みの種は尽きず、今の相場が明後日まで続いていたなら、ハンブルグとオスロに向けて出る予定を遅らせて家族との時間を作っても良いなと考えていた。
「明後日、入港するからそれまで留守番を交代しつつ、皆順次上がるように。」
同伴した船員にそう伝えるとチャンは家路を急いだ。
「相場は生き物って言うけどね、ここまで芳しくないと死に体も良い所だな。」
高値ゆえの人気は商人にとっては見切りと見極めを試される、想像以上の不良相場だったダブリン、プリマスの2港に失意しながらドーバーを向けて舵を切った。数ある港街の中で確実な商売ができる港は首都ロンドンを始め、ドーバー、プリマス、ダブリン、エディンバラ、ハンブルグ、ベルゲン、オスロ、リューベック等、数はあれども厳しい北海の風に行く足を鈍らされる事が北海貿易の泣き所だった。
イングランドの国力はその厳しい風によって立ち遅れているといっても過言ではなく、それゆえに遠路からの宝石の価値は他国に比べ高値を生んでいる。
いっそ、バルト海まで足を伸ばせば売る側としては遠路になるものの更に高値を期待できるのだが、複雑に入り組んだ地形が海賊達にとってみれば格好の待ち伏せ場所となり大き過ぎるリスクに二の足を踏む者も多かった。そして、その考え方はこの船の提督にも同感の意を示している。
「バルト海までには落としたいな。」
この船の提督はその巨躯を椅子に沈め、白波立つ海音と吹きつける風の音を聞いている。顎鬚を手でなぞっては中途半端に予定の立たないこの先を考えると虚ろな顔で海の様子をぼんやりと眺めるだけで精一杯だった。
彼としてはドーバー、ロンドン、エディンバラの3港のどこかで宝石を降ろし、その足でハンブルグへ向かい金属加工を、オスロで工芸品加工を行うのが理想の形だと思っているものの考えどおりにならないのが交易の面白味と諦めていた。
「チャン提督、まもなくドーバー海峡へ入ります。」
副官の報告に頷くと自室から操舵室へと向かう。ブリテン島とヨーロッパ大陸との距離が最も近いドーバー海峡、その狭さは人が泳いで渡れるのではと思わせる。それゆえ船影は自然と濃くなり、かつてはこの海峡には名だたる海賊が我が物顔で横行と蛮行を繰り返していたが、昨今はイングランドおよびネーデルランド双方の合意によりこの海峡の安全を図ろうという国策が取られ比較的安全に航行できるようになっている。とは言えども両国海軍の目を盗んで生き延び悪事を働く輩がその入り江に隠れている事は否定できない悲しい事実だという認識は北海交易を行う場合において常識となっていた。
自ら見張り台に立ち周囲を見渡す、これがチャンが徹底する安全対策であった。巧妙に隠れる海賊船をより速く見つける事こそ被害に遭わない最良の対策だと彼は自負している。
「海賊船ってのは、巧妙に隠れていてもどこか商船とは雰囲気が違うんだ。」
常々、チャンは船員にそう伝えている。「どのように?」という船員からの問いに「勘と推測の域はでないが。」と笑って答えるが、事実彼の船はこのドーバー海峡においては海賊被害に遭遇したことがなかった。船員達の間では安全にこの海峡を渡してくれるとその洞察力の鋭さに全幅の信頼をおき、迷わず船を航行させることができた。
「西行きの商船が多いな…ドーバーは危ないかもしれない。」
望遠鏡を覗かなくても分かる船の往来数を何気なしに数えながらドーバー海峡を越える。
「おーぃ、ドーバーは回避して首都へ入ろう。」
チャンは一切の迷いなくドーバーへの入港を回避する。船はドーバーへ向けていた船首をロンドンへと変更し再び風を正面に受けながらブリテン島南部海域を進む。
魔女の足と呼ばれる岬を北へ大きく旋回する、地中海から比べると時化模様にも見える海へと進入する。海から見るブリテン島は強風の中でも霧を湛えていて神秘性を漂わせている。ロンドンはブリテン島の南東方向に位置し、その近海はドーバー海峡とそれにぶつかる海流、さらには強い風が寄港を拒むように船体を揺らす。地中海で育った船乗りがこの海へ乗り込んだ時、誰もが口をそろえて「これは海ではない。」と言うのだと古くからのジョークが伝えられている。港は入港管理局によって入出港の順序が仕分けられる、港のキャパを越えぬよう入出港の際に事故が起こらぬようにと徹底した管理の下におかれている。チャンはロンドン港が近づくと小船を下ろし管理局へと向かった。沖合いには入港を待つ船々が両の手に余るほど停泊している。
「全部が全部じゃないだろうが、この数だと不安になるな。」
商船と思しき船体をミトンに隠れた指を折りつつ数えている。
「ま、ダメなら次だな。」
空を見上げてなにやら考えを纏めると、別段に焦燥感も感じさせないあっけらかんとした表情でロンドンの桟橋へと辿りついた。
入港管理局での手続きを手早く済ませ、チャンの足は自然と交易所へと向かった。なにはともあれ相場が気になる、良い状態でなければ物資補給後にすぐ出航しなければならない。港から造船所まで移動し、そこから商業地区へ抜けるメイン通りを歩く。建物に巻かれて吹き付ける風がじっとりと湿気を帯びながらチャンを襲う。初雪は1週間前に見られたらしく、行き交う人々の格好も真冬のそれに代わっている。母国とは言え寒いものは寒い、普段は薄着な彼もコートを羽織り、ミトンにファーブーツまで身に着けている。徐々に増え始めた人の合間を縫うように歩き進めようやく辿りついた商業地区は寒空を吹き飛ばすように熱気に溢れ、露天売りは地面が見えないほどに並び客引きの声が絶え間なく響き掘り出し物を探す人々は絨毯のように隙間無く押し詰めている。
「相場はどうだい?」
息も上がるほどに人波を押し分けて辿りついた交易所でチャンは単刀直入に最も知りたい情報について聞く。
「旦那、なにを下ろしたいんだい?…あぁ、今は丁度ぐらいだよ。」
欲を言えばキリはない、決して悪い相場でもないがエディンバラやハンブルグへ足を向ければ更に好相場かもしれない。さらに、沖合いで停泊する間に変動するかもしれない。再び雑踏の中へと戻り先の道とは異なる方向へと人を押し分けて進むその道中チャンの葛藤は尽きることなく続いた。
商業地区を抜けた先に市民に愛される教会がぽつんと建っている、中央広場の隅に人通りを眺めるように建っている。週末はミサが開かれ人で溢れる教会も、平日の昼には訪れる者も疎らで石畳に落とす日時計を示すことが最大の役目となっている。学校を終えた子供達はこの寒さを厭わぬように広場を駆け回っている。かつては誰もがその時代を迎えていたことなどと思い起こすことも少ないながら、健やかな子供達の動きは世に擦れた大人の心を落ち着ける材料としては最適のものだった。チャンも忙しく世界を走り回る身の上で我が子2人と過ごす時間が陸の商売人とは異なり少なくなってしまう事に悩みの種は尽きず、今の相場が明後日まで続いていたなら、ハンブルグとオスロに向けて出る予定を遅らせて家族との時間を作っても良いなと考えていた。
「明後日、入港するからそれまで留守番を交代しつつ、皆順次上がるように。」
同伴した船員にそう伝えるとチャンは家路を急いだ。
「パパおかえりー。」
愛娘の出迎えに顔が綻ぶ。可愛い盛りの娘達を目の前にすると毎日相場を睨みつける事がいかに心を荒ませる事なのかを実感できる。
「リン、リーファ。元気だったか?」
「うん。ねぇパパ、今度はいつまで居てくれるの?」
娘達の素朴な質問がチャンの胸にちくりと痛い。
「まだ分からないな。でも、居られるだけ居るからね。」
親として商売人としてどの領分も疎かにしたくないと常々思っているものの、生活の天秤はそれほど上手く釣り合うものではなく、事実今回の帰宅は実に半年振りであった。
「長らく居なかったけど何も変わったことはないかい?」
娘2人は首を大きく横に振って答える。愛しい我が子を抱え上げると暖炉のある居間へと移った。久々に感じる父親の力強さと抱え上げられた高い目線に興奮する娘達を見ると、遠距離を走った疲れなど微塵も感じさせないほどに体が軽い。いつかは腰をすえた商売をせねばなるまいと思う彼だったが、時代はより遠く、より珍しいものをと果て無き欲求を求める時世へと変わりつつあった。求める限り与えよ、欲するところへ持ち込めという商人気質はまだ彼をそうさせることを許してはくれそうになかった。
「商売人の悲しい性だな…」
「なーに?パパ。」
「なんでもないよ」
緩んだ顔は決して暖炉の温かさだけがそうさせるのではないことをチャン自身自覚していた。
愛娘の出迎えに顔が綻ぶ。可愛い盛りの娘達を目の前にすると毎日相場を睨みつける事がいかに心を荒ませる事なのかを実感できる。
「リン、リーファ。元気だったか?」
「うん。ねぇパパ、今度はいつまで居てくれるの?」
娘達の素朴な質問がチャンの胸にちくりと痛い。
「まだ分からないな。でも、居られるだけ居るからね。」
親として商売人としてどの領分も疎かにしたくないと常々思っているものの、生活の天秤はそれほど上手く釣り合うものではなく、事実今回の帰宅は実に半年振りであった。
「長らく居なかったけど何も変わったことはないかい?」
娘2人は首を大きく横に振って答える。愛しい我が子を抱え上げると暖炉のある居間へと移った。久々に感じる父親の力強さと抱え上げられた高い目線に興奮する娘達を見ると、遠距離を走った疲れなど微塵も感じさせないほどに体が軽い。いつかは腰をすえた商売をせねばなるまいと思う彼だったが、時代はより遠く、より珍しいものをと果て無き欲求を求める時世へと変わりつつあった。求める限り与えよ、欲するところへ持ち込めという商人気質はまだ彼をそうさせることを許してはくれそうになかった。
「商売人の悲しい性だな…」
「なーに?パパ。」
「なんでもないよ」
緩んだ顔は決して暖炉の温かさだけがそうさせるのではないことをチャン自身自覚していた。
「特に変動はないね。今なら丁度で買い取るよ。」
「ぴったりか。最近はコレを持ってくる船も少ないんじゃないか?」
ようやく入港となり、大事な商品のサンプルを携えて再び交易所を訪れたチャンは商人として一番の勝負どころに居た。賑わう地区の一角で交易所の主人を捕まえての交渉が始まっていた。
「聞けばカナリア沖で海賊被害が多発中らしいじゃないか。」
チャンは取っておきの情報をちらつかせて主人の反応を見る。航海者それぞれが持つ情報網からもたらされる物は貴重な交渉カードとして十分に使える事が多く、仲買人にとって有益な情報は食いつきが良く交渉の主導権を取り易い。
「なに?」
「やっぱり情報は遅れてるな。運ばれる量が減少するのは目に見えてるよ。ちょいと奮発して買い貯めしておかないか?」
「おいおい、不安なことを言うなよ。デマ掴まされたら俺は大損になっちまう。」
「デマかどうかはアンタの判断次第だな。実際無くなってからじゃ手が付けられんがね」
「まてよ、その情報は本当なのか?」
「海を行く者同士の情報だからな、陸に居るアンタが信じる信じないは別モンだ。それに、売り場所は他にもある。例えばそう酒場に居る連中とかね…」
遠く港の方向を促すような手の動きに主が過敏に反応する。闇ルートというほどでもないにしろ、酒場には航海者が持ち込んだ積荷を自分達協会に所属する交易所を通さずに下ろそうとする商人が少なからず活動していた。転売に次ぐ転売を重ねてその仲介料を食い物にする狡い連中だが、相場変動で下ろしそこなった航海者や、関税に悩む他国の商人に狙いを定めそれなりの甘い汁を吸っている。そんな連中は正規の交易所から見れば商品の適正値を崩されかねない鼻摘み者に思えていた。
「おい。あんなモグリの奴らにか?」
「より高く買ってくれるなら、それが商売ってモンだ。俺は付き合いあるアンタに良いネタと商品を提供しようとしてるだけだが、信用されなきゃ意味ナシだからな…。」
眉間に皺を寄せて考え込む交易所主人、チャンの話をどれだけ信じてよいものか苦悩しているようだ。今の相場で買い取れればチャンの話が本当だったとき、儲けはいつもの倍は越えるのは確実、しかし貴重な情報の見返りはきっちりと支払わなければならない。ちらりと見たチャンの顔は余裕の表情で返事を待っている。彼からしてみると交易所主人が情報を聞いた時点で自分の勝利を確信していた。対価を支払う性分は商人の悲しい性とも言える、あとは細かい値段を詰めるだけだと悠然と待ち構えている。
「分かったよ、いくらで売りたいんだ?」
「これくらいだな。」
業とらしくチャンは高騰時相場に近い値段を提示する。
「それは高すぎじゃないか、せめてこれぐらい…」
「それが情報の見返りかい?そんなに安いネタじゃないぜ。」
「分かったよ。でも、コッチの事情も察してくれると信じてコレくらいでどうだ?」
「それならこの端数を上げてキリ良く商売しようや。」
「あー。分かったよ…旦那にゃあ敵わんね。代金は振り込んでおくよ…」
「ほぃ、交渉成立。いつも悪いね。」
主人の肩をぽんぽんと叩き、差し出された伝票にサインしながら口を開く。
「なぁに、俺の情報に間違いはないって。まぁ1ヵ月後を楽しみにしてな。」
体格に似つかわしい大振りなサインを数枚に認める。
「こいつはサービスだ。」
サンプルで持ってきた宝石袋を主人のポケットへ突っ込む。
「ありがとよ。これも値段の内だろう。」
「まぁな、またよろしくな。」
伝票の写しをポケットへ押し込むと大きな体を窮屈そうに人ごみへ紛れ込ませ、交易所を後にした。まともに歩くことすら出来ず、肩をぶつけ合い隙間を縫うように目的地までの道を進む、一体何を求めてここへ来るのかと人の群れの中でチャンの格闘は続いていた。
「ぴったりか。最近はコレを持ってくる船も少ないんじゃないか?」
ようやく入港となり、大事な商品のサンプルを携えて再び交易所を訪れたチャンは商人として一番の勝負どころに居た。賑わう地区の一角で交易所の主人を捕まえての交渉が始まっていた。
「聞けばカナリア沖で海賊被害が多発中らしいじゃないか。」
チャンは取っておきの情報をちらつかせて主人の反応を見る。航海者それぞれが持つ情報網からもたらされる物は貴重な交渉カードとして十分に使える事が多く、仲買人にとって有益な情報は食いつきが良く交渉の主導権を取り易い。
「なに?」
「やっぱり情報は遅れてるな。運ばれる量が減少するのは目に見えてるよ。ちょいと奮発して買い貯めしておかないか?」
「おいおい、不安なことを言うなよ。デマ掴まされたら俺は大損になっちまう。」
「デマかどうかはアンタの判断次第だな。実際無くなってからじゃ手が付けられんがね」
「まてよ、その情報は本当なのか?」
「海を行く者同士の情報だからな、陸に居るアンタが信じる信じないは別モンだ。それに、売り場所は他にもある。例えばそう酒場に居る連中とかね…」
遠く港の方向を促すような手の動きに主が過敏に反応する。闇ルートというほどでもないにしろ、酒場には航海者が持ち込んだ積荷を自分達協会に所属する交易所を通さずに下ろそうとする商人が少なからず活動していた。転売に次ぐ転売を重ねてその仲介料を食い物にする狡い連中だが、相場変動で下ろしそこなった航海者や、関税に悩む他国の商人に狙いを定めそれなりの甘い汁を吸っている。そんな連中は正規の交易所から見れば商品の適正値を崩されかねない鼻摘み者に思えていた。
「おい。あんなモグリの奴らにか?」
「より高く買ってくれるなら、それが商売ってモンだ。俺は付き合いあるアンタに良いネタと商品を提供しようとしてるだけだが、信用されなきゃ意味ナシだからな…。」
眉間に皺を寄せて考え込む交易所主人、チャンの話をどれだけ信じてよいものか苦悩しているようだ。今の相場で買い取れればチャンの話が本当だったとき、儲けはいつもの倍は越えるのは確実、しかし貴重な情報の見返りはきっちりと支払わなければならない。ちらりと見たチャンの顔は余裕の表情で返事を待っている。彼からしてみると交易所主人が情報を聞いた時点で自分の勝利を確信していた。対価を支払う性分は商人の悲しい性とも言える、あとは細かい値段を詰めるだけだと悠然と待ち構えている。
「分かったよ、いくらで売りたいんだ?」
「これくらいだな。」
業とらしくチャンは高騰時相場に近い値段を提示する。
「それは高すぎじゃないか、せめてこれぐらい…」
「それが情報の見返りかい?そんなに安いネタじゃないぜ。」
「分かったよ。でも、コッチの事情も察してくれると信じてコレくらいでどうだ?」
「それならこの端数を上げてキリ良く商売しようや。」
「あー。分かったよ…旦那にゃあ敵わんね。代金は振り込んでおくよ…」
「ほぃ、交渉成立。いつも悪いね。」
主人の肩をぽんぽんと叩き、差し出された伝票にサインしながら口を開く。
「なぁに、俺の情報に間違いはないって。まぁ1ヵ月後を楽しみにしてな。」
体格に似つかわしい大振りなサインを数枚に認める。
「こいつはサービスだ。」
サンプルで持ってきた宝石袋を主人のポケットへ突っ込む。
「ありがとよ。これも値段の内だろう。」
「まぁな、またよろしくな。」
伝票の写しをポケットへ押し込むと大きな体を窮屈そうに人ごみへ紛れ込ませ、交易所を後にした。まともに歩くことすら出来ず、肩をぶつけ合い隙間を縫うように目的地までの道を進む、一体何を求めてここへ来るのかと人の群れの中でチャンの格闘は続いていた。
この街に生まれ、この街に育ちそしてこの街を出て商売をし、この街で売る。チャンはこれまで自らの過去になんら疑問を持つことは無かった。自分がなぜ商売を始めたか、商人になったかなど、もう思い出すこともできないほど毎日が充実し一日一日が短く過ぎ去っている。しかし、こうやって妻を娶り、愛しい我が子が生まれ自らに背負うものが大きくなってからは家族の為にと自らに言い聞かせ遮二無二働き、富豪と呼ばれるには程遠い別世界ながらも過不足ない生活を妻子に供給することが父親としての責任だと今までは思っていた。
「なんだって?リンやリーファが俺みたいな商人になりたい?」
妻に聞かされた子供の夢にチャンは驚かざるを得なかった。どの世界も甘く生きられるほど緩くはない、しかし、遠距離を航行する船乗りほど過酷なものはないとチャンは実体験から学んでいた。疫病、人間関係、海賊、荒れる海、閉塞された空間に同じ顔が数十人も共同生活を送るのだ、傍目に見るほど楽な商売ではないと酌をしてくれている妻に呟く。
「まぁ、今は何かの憧れみたいなもので錯覚しているんだろう。時が経てば考えも変わるさ。」
グラスの中で屈曲しながら揺らぐ暖炉の炎を見つめながら、父の跡を継ごうとする娘の心情を嬉しくも悲しくも感じ取っていた。
『エディレスコンプレックス』思春期の少年・少女が父親に抱く嫌悪感にも似た感情をもつ事、娘2人もそんな時期にさしかかっているにも関わらず不在が多い父親を思ってくれているとは思いもよらない事だった。しかし、同じ道に育てることが娘にとって、親として、幸せなのだろうかと疑念を抱かずには居られなかった。娘と同じ船に乗り海を渡りながら商売をする姿は親として幸せかもしれない、しかし、娘として良き男性と巡り合い家庭を築き、円満な暮らしを送る事こそが娘の幸せなのではないか?そう考えるにつれチャンの酒は進む一方だった。
「父親として過ごす時間が短い事の反動かも知れないな、いずれ真実を知ったときの為にもう少し商人を続けさせてもらうかな…」
その一言を最後にチャンは口を閉ざした。
「なんだって?リンやリーファが俺みたいな商人になりたい?」
妻に聞かされた子供の夢にチャンは驚かざるを得なかった。どの世界も甘く生きられるほど緩くはない、しかし、遠距離を航行する船乗りほど過酷なものはないとチャンは実体験から学んでいた。疫病、人間関係、海賊、荒れる海、閉塞された空間に同じ顔が数十人も共同生活を送るのだ、傍目に見るほど楽な商売ではないと酌をしてくれている妻に呟く。
「まぁ、今は何かの憧れみたいなもので錯覚しているんだろう。時が経てば考えも変わるさ。」
グラスの中で屈曲しながら揺らぐ暖炉の炎を見つめながら、父の跡を継ごうとする娘の心情を嬉しくも悲しくも感じ取っていた。
『エディレスコンプレックス』思春期の少年・少女が父親に抱く嫌悪感にも似た感情をもつ事、娘2人もそんな時期にさしかかっているにも関わらず不在が多い父親を思ってくれているとは思いもよらない事だった。しかし、同じ道に育てることが娘にとって、親として、幸せなのだろうかと疑念を抱かずには居られなかった。娘と同じ船に乗り海を渡りながら商売をする姿は親として幸せかもしれない、しかし、娘として良き男性と巡り合い家庭を築き、円満な暮らしを送る事こそが娘の幸せなのではないか?そう考えるにつれチャンの酒は進む一方だった。
「父親として過ごす時間が短い事の反動かも知れないな、いずれ真実を知ったときの為にもう少し商人を続けさせてもらうかな…」
その一言を最後にチャンは口を閉ざした。
「パパ。朝だよー起きて。」
いつの間にか暖炉前の椅子に腰掛けたまま寝ていたチャンを愛娘2人が彼の体を揺すりながら起こそうとしている。妻が掛けてくれた毛布にすっかりと身をくるみ寝息を立てるチャンを起こそうと娘達は懸命に努力している。
久々の我が家と酒に思わず熟睡してしまった彼は毛布の中でごぞつくもののなかなか目を覚まさない。熱の入ってきた娘達は半ば遊び感覚で父親を起こそうとしている。何度目かの挑戦にようやく求めに応じたチャンは眠い目を擦り、椅子で寝てしまった反動で軋む体の節々を解すようにゆっくりと椅子から立ち上がる。見れば暖炉にはまだ幾分火が残っている、妻が木を利かせて薪をくべてくれていたのだと変に寝癖の付いた頭を掻きながら周りを見渡した。
「今日はミサの日だよ。一緒に教会へ行こうよ。」
愛娘達は目を輝かせながら返事を待っている。折角の我が家、できるなら正規のベッドでもう一眠りしたい所であったが、その純真無垢な瞳に見つめられては頷くしか他なかった。
娘の手を引いて教会へ向かう、何気ない事が彼にとっては非日常的行動でとてつもなく嬉しく感じる、すれ違うご近所さん達との何気ない会話も自然と懐かしい。もっぱらチャンの仕事を知る人々は遠い異国の地での話しには食い付きが良く、またチャン自身も職業的に話し上手な事もあり、意外に長引いた立ち話に退屈した娘にせかされる場面も何度かあった。
両手を娘に引かれて教会への道を急ぐ、雲の切れ間から所かしこに日がさしている。朝露に湿った路面が白く淡い光を蓄えている中を娘達の歩調に合わせるよう引っ張られながら走るチャン、その口から白い吐息が規則正しく吐き出される、気温はかなり下がってきている、この寒さがもう1絞り厳しくなったら年末が近いきっと主の降誕祭には本格的な冬がこの街を覆っているだろう。ロンドンの冬はとかく寒い、一年の大半をこの街以外で過ごすようになり、かつて自分が育った街がこれほどに厳しい街だったのかと痛感させられる。
「神父様おはようございます。」
「やぁ。リンとリーファおはよう。おや、チャンさんお帰りになられていたのですね。」
「父親業が恋しくなりましてね、親としてこの子たちの傍にいてやれない私を主はお許しになるでしょうか?」
「チャンさん、貴方は家族の為に仕事を立派にやり遂げています。主はそんな貴方を見捨てたりは致しません。きっと、お導きがあるでしょう。ささ、中へどうぞ。もすぐ始まりますよ。」
古ぼけた蝋燭の煤の匂い、何万人もの足に踏みつけられた床に訪れた真新しい足跡が残っていき、ざわざわと人の息遣いが響いている。まだ角度のない日差しに照らされたステンドグラスの光はちょうど反対側の壁にぼやけた輪郭を映している、決して名工と呼ばれた職人の作という訳でもなく、偉大な業績を残した人物の絵が飾られることも無く、人の手によって造られた神聖なる場所、そして人の手によって育てられた憩いの場所・心の拠り所としてその存在価値を保ち続けている。
「皆様、お寒い中ミサへお集まりいただきありがとうございます。かつて主はその身を自ら苦境に立たされ…」
神父が祭壇に立ち恭しく説教がはじまった。こうやって家族と共にミサへ来るなんていつ以来だろうと気も漫ろに説教へ耳を傾ける。ちらりと見た2人の娘は存外に難しい言葉を使っている神父の話を驚くほどしっかりと聞いていた。しかし、チャンには自分にも難しい話なだけに、この2人が内容を理解しているとは思えなかったが、その真剣な横顔をみるにつれ我が子の成長した姿に思わず目を細めた。
ミサが終わり我が家へと戻ったチャンは遊んでくれとせがむ娘達に付き合わされて再び街へと出向く。軽々と両手に娘達を抱きかかえ繁華街へと繰り出す。
「ねぇ、パパ。私とリーファは将来パパの船に乗って世界中を旅するんだよ。」
「そうか、パパと一緒に居てくれるのか。」
「いつもパパは一人ぼっちでしょ?今はダメだけど大人になったらパパと一緒に居てあげる。」
「嬉しいな。でもね、リンとリーファがパパと一緒だったらママは一人になっちゃうよ。」
「大丈夫、皆で一緒に船に乗れば良いの。それなら皆寂しくないでしょ?」
「そうだな。2人が大人になったらな。」
「(大人になったら…か。)」
声にならないつぶやきが路地を吹き抜ける寒風にかき消される。
いつの間にか暖炉前の椅子に腰掛けたまま寝ていたチャンを愛娘2人が彼の体を揺すりながら起こそうとしている。妻が掛けてくれた毛布にすっかりと身をくるみ寝息を立てるチャンを起こそうと娘達は懸命に努力している。
久々の我が家と酒に思わず熟睡してしまった彼は毛布の中でごぞつくもののなかなか目を覚まさない。熱の入ってきた娘達は半ば遊び感覚で父親を起こそうとしている。何度目かの挑戦にようやく求めに応じたチャンは眠い目を擦り、椅子で寝てしまった反動で軋む体の節々を解すようにゆっくりと椅子から立ち上がる。見れば暖炉にはまだ幾分火が残っている、妻が木を利かせて薪をくべてくれていたのだと変に寝癖の付いた頭を掻きながら周りを見渡した。
「今日はミサの日だよ。一緒に教会へ行こうよ。」
愛娘達は目を輝かせながら返事を待っている。折角の我が家、できるなら正規のベッドでもう一眠りしたい所であったが、その純真無垢な瞳に見つめられては頷くしか他なかった。
娘の手を引いて教会へ向かう、何気ない事が彼にとっては非日常的行動でとてつもなく嬉しく感じる、すれ違うご近所さん達との何気ない会話も自然と懐かしい。もっぱらチャンの仕事を知る人々は遠い異国の地での話しには食い付きが良く、またチャン自身も職業的に話し上手な事もあり、意外に長引いた立ち話に退屈した娘にせかされる場面も何度かあった。
両手を娘に引かれて教会への道を急ぐ、雲の切れ間から所かしこに日がさしている。朝露に湿った路面が白く淡い光を蓄えている中を娘達の歩調に合わせるよう引っ張られながら走るチャン、その口から白い吐息が規則正しく吐き出される、気温はかなり下がってきている、この寒さがもう1絞り厳しくなったら年末が近いきっと主の降誕祭には本格的な冬がこの街を覆っているだろう。ロンドンの冬はとかく寒い、一年の大半をこの街以外で過ごすようになり、かつて自分が育った街がこれほどに厳しい街だったのかと痛感させられる。
「神父様おはようございます。」
「やぁ。リンとリーファおはよう。おや、チャンさんお帰りになられていたのですね。」
「父親業が恋しくなりましてね、親としてこの子たちの傍にいてやれない私を主はお許しになるでしょうか?」
「チャンさん、貴方は家族の為に仕事を立派にやり遂げています。主はそんな貴方を見捨てたりは致しません。きっと、お導きがあるでしょう。ささ、中へどうぞ。もすぐ始まりますよ。」
古ぼけた蝋燭の煤の匂い、何万人もの足に踏みつけられた床に訪れた真新しい足跡が残っていき、ざわざわと人の息遣いが響いている。まだ角度のない日差しに照らされたステンドグラスの光はちょうど反対側の壁にぼやけた輪郭を映している、決して名工と呼ばれた職人の作という訳でもなく、偉大な業績を残した人物の絵が飾られることも無く、人の手によって造られた神聖なる場所、そして人の手によって育てられた憩いの場所・心の拠り所としてその存在価値を保ち続けている。
「皆様、お寒い中ミサへお集まりいただきありがとうございます。かつて主はその身を自ら苦境に立たされ…」
神父が祭壇に立ち恭しく説教がはじまった。こうやって家族と共にミサへ来るなんていつ以来だろうと気も漫ろに説教へ耳を傾ける。ちらりと見た2人の娘は存外に難しい言葉を使っている神父の話を驚くほどしっかりと聞いていた。しかし、チャンには自分にも難しい話なだけに、この2人が内容を理解しているとは思えなかったが、その真剣な横顔をみるにつれ我が子の成長した姿に思わず目を細めた。
ミサが終わり我が家へと戻ったチャンは遊んでくれとせがむ娘達に付き合わされて再び街へと出向く。軽々と両手に娘達を抱きかかえ繁華街へと繰り出す。
「ねぇ、パパ。私とリーファは将来パパの船に乗って世界中を旅するんだよ。」
「そうか、パパと一緒に居てくれるのか。」
「いつもパパは一人ぼっちでしょ?今はダメだけど大人になったらパパと一緒に居てあげる。」
「嬉しいな。でもね、リンとリーファがパパと一緒だったらママは一人になっちゃうよ。」
「大丈夫、皆で一緒に船に乗れば良いの。それなら皆寂しくないでしょ?」
「そうだな。2人が大人になったらな。」
「(大人になったら…か。)」
声にならないつぶやきが路地を吹き抜ける寒風にかき消される。
娘達の買い物にしっかりと付き合わされ街中を巡らされるチャン。ふと通りかかった広場の掲示板が目に留まる。伝言等様々な張り紙が風に心許なく揺れている。
「○○○○商会員募集 拠点ロンドン、詳細は以下に連絡を…」
雨風に打たれ、日に焼けたどこかのメンバー募集のチラシがチャンの目に留まる。
「商会か…。あいつらは何してるんだろうな。」
商会を抜けて自由気ままな商人としての生活も暫くになる。数人は陸に上がったという噂を風の便りで耳にした。フリーな体になってから今まで特に何の影響もなく商人を続けてきたものの同じ釜の飯を食った仲間がどうしているのか気にならない訳もなかった。
「陸に上がらなさそうなヤツが数名居たが、生きてるんだろうか。」
家族では得られない信頼が存在していたのは確かだった。各地に散らばった彼らの事が一度思い出されると、その考えは後々チャンの思考の片隅を時折支配していた。
「○○○○商会員募集 拠点ロンドン、詳細は以下に連絡を…」
雨風に打たれ、日に焼けたどこかのメンバー募集のチラシがチャンの目に留まる。
「商会か…。あいつらは何してるんだろうな。」
商会を抜けて自由気ままな商人としての生活も暫くになる。数人は陸に上がったという噂を風の便りで耳にした。フリーな体になってから今まで特に何の影響もなく商人を続けてきたものの同じ釜の飯を食った仲間がどうしているのか気にならない訳もなかった。
「陸に上がらなさそうなヤツが数名居たが、生きてるんだろうか。」
家族では得られない信頼が存在していたのは確かだった。各地に散らばった彼らの事が一度思い出されると、その考えは後々チャンの思考の片隅を時折支配していた。
(まだ引っ張ります♪)