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ジャブロー2日目の朝、
ブラックハウスの点呼は順調に進んでいた。オレは正直に言って驚いていた。ようやくとれた休息らしい休息にみんな羽目を外しきってしまうかと思われたが、軍人として最低限の規律は守られた。
それは点呼をとっている京大尉にとっても意外だったらしい。彼女は昨日ちょっとした揉め事に巻き込まれ、一時は憲兵隊に身柄を抑えられた。
と言っても彼女が問題を起こしたわけではなかったのだが、彼女がブラックハウスに戻ったのは明け方だった。ろくに休めていないだろう。
だが今日はクルー全員が忙しい。ようやく補充人員が配属されるのだ。新しく艦に乗る連中に様々なことを教えてやらなければならない。新兵が配属されるとは限らないが、この船独特の癖みたいなものがある。
機関の息継ぎだったり、銃座の回転速度だったり、他にも艦橋の壊れたままの床だとか、士官室のシャワーで頭を洗う時は「だるまさんが転んだ」と言ってはいけないとか、実践的なものから迷信的なものまで教えることは無数にあるのだ。
「補充人員は1030時に到着する。各部署の班長はそれを迎えにくること。配属はその場で伝える。また、新たな機動兵器が搭載される。それらは1200時にここへやってくる。各員準備を怠るな。以上。艦長、なにかありますか?」
京がキビキビとした口調で言った。
「待ちに待った補充です。早くブラックハウスに慣れてもらえるように、今から艦内の大掃除を開始します。皆さん自分の部屋と担当部署を徹底的に綺麗にしてください。」
あずにゃんの提案とも命令とも取れる言葉に、クルー達から「え~ッ」という避難の声が上がった。
「艦長の命令だ!さっさと始めるぞ!解散ッ!!」
京によれば命令らしい。命令ならば仕方ない。クルー達がとぼとぼと解散する。
「掃除なんてやだよ~。」
黒猫が全身からけだるさを放出しながら言う。部屋はともかく、担当部署となるとオレ達パイロットにとってはBlackCatと言うことになる。整備でもしろと言うことか。オレ達はとりあえず部屋の掃除をするため、士官用の居住区画で別れた。
そして1030時、オレは補充人員を迎えるためデッキに上がった。パイロットの中で隊長というのは決まっていなかったが、オレが京大尉に頼まれた。
補充パイロットは二人だった。波打つブロンドの髪が魅力的な少女と、黒髪で気が強そうな少年。少女のほうは見るからに魔法使いという身なりをしている。本当にパイロットなのだろうか。
MSより箒が似合いそうだが。少年のほうも連邦軍の正式な軍服ではなく、真っ赤な制服を着用していた。
「
シン・ナガモンだ。ブラックハウスに歓迎する。」
「霧雨魔理沙だZE☆」
「
シン・アスカです。」
「二人ともよく来てくれた。居住区画に案内する。まずはその両手の大きな荷物を置こうか。ついて来てくれ。」
オレは霧雨魔理沙のパンパンな荷物袋を一つとり上げ、艦内へ向かった。まずは魔理沙を女性士官用の区画へ案内する。
† † † † †
一通り艦内を回った後、シン・アスカは自分の部屋に戻っていた。どういう訳か自分以外のパイロットは皆女性だ。一瞬、シンの心の中に邪な考えがよぎった。
シンは思わずブンブンと首を振り、ポケットから大切そうに何かを取り出した。戦争で亡くした妹の形見、壊れかけの携帯電話だった。
マユ――――
お前と家族を俺から一瞬で奪いつくしたジオンに、俺は必ず復讐する。それまでは浮かれてはいられない。そういえば、実戦はいつになるだろう。シン・ナガモンならわかるかもしれない。
シン・アスカはそう思い、女性士官用居住区画にいるはずのナガモンを尋ねることにした。
居住区画はひっそりとしていた。照明もついていないし、人の気配が全然ない。シンはナガモンの部屋が見つからなくて困っていた。この辺りをうろうろしている様は不審者以外の何者でもない。
不意に、近くのドアが開いたままの部屋から人の声が聞こえてきた。部屋の電気はついていない。声は暗闇から聞こえてくる。
「んっ、…あっ、はぁん…」
シンの鼓動が一際高く鳴った。何だこの声は?まるで、というよりも明らかに…
「…くっ、あん!ダメ、そんな一気に…」
シンの鼓動がますます大きくなる。どうやら声の主は霧雨魔理沙らしい。だが、もう一人いるはずだ。
「あっ、痛い痛い!…もっと優しく…」
人を呼んだほうがいいのか?シンはそうも思ったが、そんな理性は好奇心とリビドーの前に敗れ去った。もう少し様子を見てみよう。
「んぁっ!ダメ!…やぁっ!んん~」
魔理沙は痛みをこらえるような声を出した。シンがついに部屋に踏み込もうとしたその時、背後から声がした。
「なにしてるんだ?そんな所で?」
シンが慌てて振り返ると、ナガモンが腕を組んで立っていた。
「あっ、ナガモン中尉!?いや、この中から変な声が聞こえたので!」
「変な声?どれどれ?」
ナガモンは躊躇なく部屋に入ると、照明のスイッチを入れた。シンは慌てた。今電気をつければめくるめく官能の全貌が露になってしまう…!
だが、灯りがついた部屋の中の様子は、シンの想像とはまったく異なるものだった。ベッドの上に長座前屈の姿勢で魔理沙が座り、その背中を黒猫が押している。
「なにやってるんだ?」
ナガモンが今度は黒猫にきいた。
「魔理沙の肉体開発。」
「誤解を生む言い方はやめてほしいぜ。私はただ柔軟を手伝ってもらってただけなんだZE☆」
シンは心のどこかにあった期待が粉砕されて落胆してしまった。ナガモンにいつ戦闘になるかきこうという気にもならない。そうこうしているうちにブラックハウスに新しく搭載される兵器が到着した。
パイロットも積載作業を手伝わなければならない。
左舷格納庫には新たに二機のMSが配備された。射撃専用MS、マスタースパークと、格闘専用MSの
ブラックサンだ。
見るからに重そうなマスタースパークは横から見ると象のような形状に近い。機体上部のマスパ砲は艦船のメガ粒子砲がほぼそのまま搭載されたものであり、両腕にあたる部分には補助ジェネレーターが取りつけられている。
下半身は
ガンタンク用のキャタピラ仕様で、不整地の走破性は高い。上からみるとまるで男性器だが、搭乗者は霧雨魔理沙になる予定だ。
格闘戦専用機であるブラックサンは、もともとは実験機だったゴルゴムという機体を改造したものだ。直線的なフォルムの多い連邦軍MSの中では異色のまるっこい形態が特徴だ。
これは「モノコック構造」という機体構造で設計されたためで、ジオンのMSで主に採用されている方式である。ブラックサンの機動性は機械のそれを逸脱したものであり、人間並の柔軟な運動ができるという。
これは先に黒猫が交戦したKMFと呼ばれるジオンの新兵器に接近戦で対抗するためだった。ブラックサンには黒猫が乗る予定だ。
一方右舷側の格納庫には、鹵獲したザクを改造したMS、
ヤラナイカと、ゼッチョーとよばれるMAに近い兵器、Gメカの各パーツ予備が積みこまれた。
ようやくMSを任された整備班第一班はさっそくヤラナイカの整備に取りかかった。ヤラナイカは開発されてからしばらくの間倉庫に放置されていたらしく、徹底的な重整備を必要としていた。
パッと見では単なる青いザクだが、その両腕には試作型のトンガリコーンが装着されており、股間に対人機銃をつけたその武装概念は後のBlackCatへと発展していく。ヤラナイカにはシン・アスカが乗る。
ゼッチョーは
シロネコとよばれるガンダム系MSの上半身にGメカのBパーツが取りつけられたもので、高速で飛行して戦う。
またシロネコは上半身のみでも飛行可能であり、さらにガンダムの下半身と合体することでガンダムWhiteCatともなる。だが今の段階では余剰な下半身パーツはなかった。ゼッチョーには乃人が乗り込む。
† † † † †
ジャブロー滞在の3日目、わたし達は新しい機体の操縦訓練を兼ねて、2チームに別れての模擬戦闘を行っていた。
機体よりも背の高い気が林立するジャブロー周辺のジャングルで行う訓練のため、見通しは効かず緊張感は満点だ。わたしはナガモンとペアを組み、乃人、シン、魔理沙のチームと対抗していた。
乃人チームは魔理沙のマスタースパークを防御の拠点とし、その周囲を乃人のシロネコとシンのヤラナイカが警戒している。守りはかなり固いと言っていい。わたしとナガモンはこれに攻撃を加えなければならない。
と言っても、レーザーポインタのビームと模擬刀と寸止めの格闘なのだが。
しかし双方共に本気だ。わたし達は常に機動しながら徐々にマスパに肉迫してゆく。マスパの主砲を表すレーザーポインタが機体のすぐ横の木に光った。射撃はかなり正確だ。
わたしの乗るブラックサンのセンサーがあの光をキャッチするとわたしは一撃で大破されたという判定が下る。一時も気を抜けない。格闘専用であるブラックサンだが、ナガモンのBlackCatからの援護射撃のおかげで敵に接近できた。
隠れていた木の陰から飛び出し、動きの遅いマスパを狙う。だがその前にシンのヤラナイカに気づかれてしまった。真っ青なザクがわたしの前に立ち塞がる。
「いかせませんよ!猫さん!」
シンのやる気は十分だ。
「受けて立つよ!シン!」
わたしは右腕の輻射波動砲を起動した。すると、肘から先全体が赤く輝きだした。
「わたしのこの手が光ってうなる!!お前を倒せと輝き叫ぶ!!」
「な、輻射波動砲?!反則でしょう!?」
「くらえ、愛と怒りと悲しみのォ、シャイニング・フィンガー!!!!」
わたしは右手をまっすぐに突きだし、ヤラナイカの顔面に強烈なアイアンクローをくらわせた。輻射波動砲を使うまでもなく、ヤラナイカのセンサーが頭部破損の信号を出した。ほんとに壊したのかもしれない。
シンが始めて本物のMSに乗るというから、少しからかってやるつもりだったのだが、やり過ぎてしまった。
「猫さん!反則ですよ!!」
乃人から通信が入る。だから反省してるってば。
「全員、戦闘を中止してください。訓練はここで終了します。17番ゲートから基地内に戻ってください。」
あずにゃんの声で通信が入った。不味い、あずにゃんに怒られてしまう。
ドキドキしながらブラックハウスに戻ったわたしは、皆と一緒に艦橋に上がった。あずにゃんが難しい顔をして立っている。その隣の京の表情も険しい。
「ご、ごめんなさいッ!!」
先に謝ってしまった。それで済むとは思わないけど。
「ヤラナイカの破損なら心配はいらない。メインカメラがイカれただけだ。すぐに直る。」
京が厳しい表情のまま言った。ならどうしてそんなに深刻そうな口調なの?
「実はレビル中将から正式な作戦指令が届いた。ブラックハウスはすぐにオデッサに向けて発進する。いよいよ反攻作戦だ。」
京がそう言ってわたしはようやく胸をなでおろした。怒られることはなさそうだ。険しい表情は作戦が決まった緊張からだったらしい。
「急なことで申し訳ないんですけと…レビル中将から直直の命令なんです。現在行われている
61式戦車の改造が済み次第、ジャブローを発ちます。パイロットの皆さんにはそれまでにニュータイプの適正試験を受けてもらわなければいけません…せっかくの休息だったのにごめんなさい。」
あずにゃんが泣きそうになりながら説明した。あずにゃんが悪いわけではないことくらい、わたし達はわかっていた。でも適正試験とはなんだろう。
ジャブロー内のとある一室で行われた試験は、手の込んだ身体検査といったものだった。わたしの試験が終わった時には、みんなの試験はとっくに完了していて、服を着替えているところだった。
「猫さんの試験だけ妙に長かったな。ニュータイプなのか?」
魔理沙が言った。わたしに自覚はないけど、確かに時々不思議な直感があったりする。
「さぁね、人の革新たるニュータイプの理論だけならあり得る話ではあるけどね。」
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かくして、ブラックハウスはジャブローを発進した。大西洋を一またぎに飛び越え、途中一切の補給も受けずに飛び続けたブラックハウスは、翌朝未明にはオデッサ作戦総司令部が置かれたワルシャワに到着していた。
ブラックハウスはさらにここから黒海西岸に飛び、その日の夜には作戦開始位置へ到着していた。ブラックハウスが配されたのは
エルラン中将の第4軍。
オデッサに西から向かうレビル将軍の第3軍の北隣すぐの位置だ。目の前にはウクライナの大平原が広がっている。
オデッサ作戦において、ブラックハウスは初めて友軍部隊と共に戦うこととなった。
エルラン中将の指揮下に置かれた部隊のうち、ブラックハウスはビッグ・トレー級2隻、
特殊自走砲部隊一個、61式戦車大隊二個、GM一個中隊と共にブラックハウス戦闘団を編成し、敵陣突破の先鋒を務めることになった。
ブラックハウス戦闘団は作戦開始後、マ・クベ軍の防衛網を迅速に突破し、その前線の後ろを撹乱して後続部隊の進撃を助ける役割を与えられた。
このような戦術は浸透作戦と呼ばれ、それを任されるのは敵の後方に入っても自軍の勝利を確信して戦える優秀な部隊だけだ。もっとも実際に敵陣を突破するのはブラックハウスとGM中隊のみで、他はこれらの援護に回る。
このため、ブラックハウス戦闘団の名称とは裏腹に、戦闘団の旗艦はビッグ・トレー級の一隻が務め、司令官もそちらに搭乗した。
ブラックハウスにはかなりの自由裁量権が与えられ、GM中隊があずにゃんの指揮下に入った他、攻撃開始と退却の判断以外はほぼ完全に自由だった。
作戦開始日時は刻一刻と迫って来ていた。すでにビッグ・トレー級の艦砲は目標の調整を終え、砲身は晴れわたる空に向けられていた。
特殊自走砲はそう簡単には展開できなかった。口径80センチという空前のスケールの砲は、61式の車体4輌の上の砲架に載せられ、人が歩くようなスピードで前身してきた。
この砲には独立対空砲二個大隊が付属し、砲弾を運ぶ車輌も61式を改造しクレーンをつけた特殊車を使用している。その運用には200人以上の人員が携わっていた。コストパフォーマンスは最悪と言っていいだろう。
だが連邦軍は攻勢の主力がどこにあるかをさとられないようにするため、各部隊に特異な兵器をいくつも配備していた。
例えばブラックハウス戦闘団の隣の戦区にいるコレマッタ小佐の独立混成第44旅団、通称死神旅団には、
陸戦強襲型ガンタンクなる兵器が配属予定だ。
作戦開始は2日後の11月7日。すでに部隊の配置は完了しつつあった。マ・クベの防衛ラインは不気味な沈黙を守っていた。決戦の時は近い。
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最終更新:2010年08月18日 21:00