ブラックハウスはすでに、真空の海原を進んでいた。
アースラとの合流ポイントは目の前で、カントーはすでにレーダーでアースラを確認していた。
「回線はつながりますか?」
あずにゃんがはちゅねにきいた。
「問題ありません。」
「ではお願いします。」
あずにゃんはそう言うと艦長席から立ち上がり、モニターに向かって不動の姿勢をとった。傍らに立つ京もそれにならう。
モニターにアースラ艦橋の様子が映し出された。その中央に、淡いブルーの髪をした女性士官と、きりっとした目付きの青年士官が立っていた。
「ブラックハウス艦長、アズサ・ナカノ少佐です。」
「同じく副長の京であります。」
「ブラックハウスは現時刻をもってアースラのリンディ・ハラオウン大佐の指揮下に入ります!」
あずにゃんと京が同時に敬礼し、向こうの二人もそれに答える。
「アースラ艦長兼ブラックハウス隊司令、リンディ・ハラオウンです。」
凛とした声で女性士官が言った。
「副長のクロノ・ハラオウンだ。」
青年士官もややぶっきらぼうな口調で自己紹介する。
「皆さんの指揮をとることができて、光栄に思います。あまり固くならずに、仲良くしてくださいね。」
女性士官、リンディはそういって軽くウィンクして見せた。あずにゃんと京の緊張が少しとけて、二人とも微笑みを浮かべた。
「さっそくだけど、MSの移管準備に入りましょう。まずそちらから
コアファイターと
レイジングハートを送ってください。そのあとでルナツー工廠製のMS二機を引き渡します。アズサさんは一度アースラに来てください。打ち合わせをします。」
「了解しました。それでは。」
あずにゃんがもう一度敬礼し、通信が切れた。
「MS移管作業の指揮はアークさんに一任します。私はアースラに行くので、副長に留守を任せますね。」
「わかりました。しかし、万が一艦長が不在のまま敵襲があったらどうしますか?そのまま自分が戦闘指揮を?」
「そうなりますね…大丈夫、京さんなら私より上手くできますよ。」
「は、はぁ…」
あずにゃんは屈託なく笑っていたが、京の表情は冴えなかった。というのも、宇宙で最初の実戦を、初めて指揮をとる自分が上手くやれるかどうか自信がなかったからである。
ブラックハウスのカタパルトから、コアファイターとレイジングハートが発進した。コアファイターのコクピットでは、シンの膝の上に乗ったあずにゃんがGに耐えて「ううっ」と唸っていた。
あずにゃんはリンディと今後の打ち合わせのために、アースラに異動となったシンに同乗したのである。
「ランチを出せばいいのに。」
ナノハが通信を入れてきた。ようやくGから解放されたあずにゃんがそれに答える。
「わざわざ整備士さんたちの手を煩わせることもないかと思いまして。」
「でも艦長、帰りは結局ランチ出してもらわなきゃいけないだろ?俺とコアファイターはこのままアースラに残るわけだし。」
「あ。」
シンの的確な指摘にあずにゃんは頬を赤らめた。そういえばそうだ。
「艦長もそんな思い違いしちゃうことがあるんだね。」
ナノハが言った。コアファイターとレイジングハートはアースラの着艦用ハッチに近づいていく。シンは自分の膝の感覚がもうすぐ終わってしまうのを残念に思った。やわらかくてほのかに暖かい。
他方、シンの愚息には血が集まり始めていた。バレてしまう前にアースラに着いてよかったのかもしれない。シンはそう思い直して、自分に落ち着けと言い聞かせながら着艦の準備に入った。
「ようこそアースラへ。艦長に代わって歓迎する。」
アースラの格納庫では、クロノがあずにゃんたちを待っていた。敬礼をかわして、あずにゃんが言った。
「わざわざありがとうございます。リンディさんは?」
「艦長室でお待ちだ。案内しよう。」
「ありがとうございます。あっ、それと…」
あずにゃんがクロノの耳元に顔を近づけた。
「あとでランチを一機、貸して下さい…」
赤面しながらそう言ったあずにゃんを、クロノは目を真ん丸にして見返した。
「かわいい。」
「え?」
「あ、いや、その…わかりました!手配しておきます!じ、じゃあ行きましょうか。」
「ありがとうございます!」
クロノについてあずにゃんとナノハが歩いてゆく。シンは見るからに不快そうな視線をクロノにぶつけていたが、間もなく三人を追った。
ブラックハウスでは、アークが音頭をとって、新型MSの受け入れ準備が進んでいた。
「整備班の準備完了、アースラに発光信号で合図を!」
アークの号令でMS発進の合図がアースラに送られる。すると、アースラ両舷の飛行甲板のハッチが開き、二機のMSがゆらりと姿を現した。
「あれが新型か…」
京が窓から見ながらつぶやいた。
新たにブラックハウスの戦力となる二機のMS、
リトルデーモンとストロードールは、これまで京が見てきたどんな機体ともことなるはっきりとした特徴を持っていた。
強行偵察用MSとして開発されたリトルデーモンは、あらゆる情報収集装置が搭載されているほか、それを駆使してMS部隊全体に指令、戦況を伝える能力も持っていた。
しかし元来は偵察機であるため速度と防御力は高く、戦場の高高度に鎮座して部隊に効率のよい戦いを指導することが可能だった。
他方、ストロードールはその外見からしてすでに他のMSと一線を画していた。機体の両肩には改造されたボールが装着され、それぞれにビームライフルが二丁ずつ据え付けてある。
聞くところによれば、ストロードールの主戦法はこのボールを機体から切り離し、それを遠隔操作で誘導して敵に攻撃をしかけるというものらしい。
驚くべきは、MS本体とボール二機の操作を、たった一人のパイロットがすべて同時にこなしてしまうということだ。ボールには半自立型のOSが搭載されているらしいが、それにしてもパイロットは驚異的な能力だ。
「ストロードールは第一デッキ、リトルデーモンは第二デッキに着艦願います。」
アークがインカムにそう吹き込むと、両機の目がキラリと光った。了解ということか。
「アーク少尉、パイロットには着艦後艦橋に上がるよう伝えてくれ。」
「了解しました、副長。」
さて、パイロットはどんな人物であろうか―――
「まさか、またあなたと同じ所属になるとはね…」
ブラックハウスの廊下を、綺麗な金髪の少女が歩いていた。髪型はショートで、瞳から凛とした強さが感じられる。
「その言葉、そのまま返すわ。せっかく新型機の試験に集中できると思ったのに。」
その横を、長い紫の髪の少女が歩く。頭には三日月の飾りがついた帽子。その下で眠そうな目が物憂げに光っている。
「こ、こっちだって同じよ!新しいOSがようやく実戦レベルまで来たのに。」
「どうかしらね。自分からブラックハウスに乗りたいって言ったんじゃないの?」
金髪の少女が反論しようとしたとき、二人の背後から大きな声が聞こえた。
「おぉー!アリス!パチュリー!久しぶりだな!」
「「魔理沙!」」
二人の声がピタリと揃った。その見つめる先には、相変わらず黒い魔女衣装を着ている霧雨魔理沙の姿があった。
「霧雨准尉は二人と知り合いなのか?」
ブラックハウス艦橋で、京が魔理沙にきいた。艦橋にはブラックハウスMS隊のパイロットが全員集まっている。
「おう!同じアカデミー出身だぜ。専門は違ったけどな。」
「なるほど。それならちょうどいいな。ストロードールとリトルデーモンは、マスタースパークと供にバックアップチームを組んでもらう。」
「バックアップぅ!?」
魔理沙の顔が膨れる。
「まぁ聞け。現在ブラックハウスの持つMS戦力は6機、BlackCat、WhiteCat、
ブラックRX、そして今言った三機だ。これまではこんなにたくさんのMSを持っていなかったし、故障中の機体があって全機出られなかったりしたからナガモン中尉が戦闘中でも指揮を取れた。しかし6機となると話は別だ。こうなるとチームを二つに分けたほうが効率がいい。アタッカーとバックアップに。」
「それはわかったけど、どうして私がバックアップなんだよ!」
「マスパは連射するためにはブラックハウスからエネルギーを供給してもらう必要があるだろう?当然の判断だ。」
「そりゃそうだけど…」
魔理沙は黙ったが、表情はまだ不満そうだ。京は新しい二人のパイロット、マリス・マーガトロイトとパチュリー・ノーレッジの方を向いた。
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07/01 12:13 Windows(PC) [288]エルザス
287
「二人は、異論はないな?」
「ま、まぁ、魔理沙とチームって言うのはちょっと嫌だけど、しょうがないわね。」
アリスが魔理沙からそっぽを向いて言った。
「その割には顔赤くなってるよ。アリス、嬉しそう。」
黒猫が言った。
「な!?そ、そ、そんなことないわよ!」
明らかに慌てるアリスに、パチュリーがじとっとした視線を向けた。そのパチュリーに京があらためてきく。
「構わないな?」
「む、むきゅ。」
パチュリーはこくりと頷いた。その目は明らかに不満を示していたが、京は気にしなかった。任務さえ果たしてくれればパイロット同士の交際はどうあろうと勝手だ。
「よし。ではさっそく30分後から戦闘訓練を始める。各自、自分の機体のチェックを。」
「了解。」
パイロット一同の敬礼が揃い、京も答礼する。なかなかどうして悪い気分ではない。代理ではあるが、艦長というのは乙なものだ、と思った。
そのころ、
ブラックハウス隊から少し離れた位置に、パトロールを行うムサイ艦隊がいた。
突撃機動軍所属、カティ・マネキン大佐の部隊である。三隻のムサイと搭載するリックドムからなるマネキンパトロール艦隊は、早くもブラックハウスとアースラの反応をキャッチしていた。
「総員、戦闘配備だ!あれはおそらく敵艦隊主力の尖兵だ。気を抜くな!」
旗艦クロメルの艦橋でマネキン大佐が叫んだ。直ちにMSのパイロットが出撃準備にかかり、リックドムがカタパルトから次々に飛び出していく。ブラックハウスの宇宙初実戦の時は、近づきつつあった。
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07/01 12:13 Windows(PC) [289]エルザス
288
アースラの格納庫で、シンは自分の新しい機体を前にしていた。羽のような巨大なプロペラントタンクが特徴の、どこかまがまがしい雰囲気もするその機体を、シンは一目で気に入っていた。
「これが…俺のガンダム。」
「ガンダム4号機5号機の系列機で、敢えて言うならガンダム4.5号機とも言える機体だ。」
シンの横に、アースラ副長のクロノが立った。
「だけどそれは仮の名前でしかない。本来なら6号機の名前がつくはずだったんだが…そうだ、自分で愛称をつけてみたらどうだ?そのほうが愛着も沸くだろう。」
そういうと、クロノはさっさと行ってしまった。
「愛称、か…」
クロノの背中を見送ってから、シンは機体を見上げてつぶやいた。急に言われても特にアイデアは思い浮かばない。
格納庫を見回すと、先程ブラックハウスから移籍してきたばかりのSOS団員、キョンの姿が視界に入った。シンはキョンのほうへそそくさと歩み寄っていく。
「なぁ、ちょっと話があるんだけど。」
「ん、なんだ?機体に何か問題か?股間アタッチメントならまだ使えないぞ。」
「そうじゃなくて、こいつの愛称を決めたいんだ。何かいい案ないかな?」
「愛称?名前ってことか。そうだな…正直そういうのはハルヒのほうが得意そうだが…」
「なんでもいいんだ。」
「ふむ…ガンダムキバなんてどうだ?」
「ガンダム…キバ?」
「そう。運命にあらがうもののキバってことでガンダムキバだ。」
「運命にあらがうもの…」
シンは再び新たな愛機を見上げた。そしてしばらくじっと見つめる。運命、か。
「…どうした?気に入らなかったらそう言ってくれていいんだぞ。」
「あ、いや、なんか『運命』って言葉を気に入って…」
「そうか。なら運命ガンダムじゃカッコ悪いし、ディスティニーガンダムでどうだ。」
「ディスティニーガンダム…」
シンの愛機を見る目が大きくなり、鼓動が加速する。それだ!
「ディスティニーガンダム!それに決めた!ありがとッ!!」
シンはキョンへのお礼もそこそこに、もう艦橋に向かって走り出していた。早くクロノに知らせなくては。
「あっ、おい!……ったく。」
取り残されたキョンは、自然と笑いが込み上げてくるのを感じていた。人騒がせな奴だ。
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07/01 12:14 Windows(PC) [290]エルザス
289
「リックドム隊発進急がせろ!全艦全速前進!目の前をすり抜けられたら話にならんぞ!」
戦艦クロメルの艦橋で、マネキンが叫んだ。
「パトリック・コーラサワー、リックドム、行くぜ!」
お調子者のパイロット、パトリックが発進していった。お気楽で実力もないくせに自信家、マネキンにとってはどうも放っておけない男だ。マネキンは直直にパトリックとの通信を開くと、言った。
「パトリック、手柄をあせるな。私が必ず必勝のチャンスを引き出してみせる。」
「心配無用です大佐!この突撃機動軍のエース、パトリック・コーラサワーにかかれば、黒い木馬なんてあっというまに叩いて見せます!」
「ふっ、言ってくれる。」
パトリックが率いるリックドム隊は三隻のムサイの前方に展開し、敵艦へと襲いかかる。
「なぜ今まで発見が遅れた!」
ブラックハウス艦橋では、未だにあずにゃんが帰らない状況で、京が引き続き船の指揮をとっていた。彼女に叱られたのはレーダー係のカントーである。
「この宙域ではこれが精一杯です!ミノフスキー粒子の干渉で…」
「目視確認するより早かっただけマシか…戦闘訓練中だったのも幸運だったな。」
ブラックハウスの艦橋からは、すでに発進を終えているブラックハウス隊のMSが一望できた。だが、BlackCatとリトルデーモンの姿だけが見えない。戦闘訓練中で、ブラックハウスからやや離れた宙域に行っていたのだ。
「リンディ提督からは戦闘命令も出ている。敵をやっつけろ、だそうだ。これがブラックハウスの宇宙初実戦である!各員、気合いを入れろ!!」
おぉっ!とクルーが答えて、京は満足そうに艦長席に座った。まさかこの大事な時にあずにゃんがいないとは…。きっとアースラでやきもきしながら戦況を見守っているだろう。
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07/02 08:59 W51S(e) [291]エルザス
290
「ディスティニーガンダム、俺のガンダムだ…」
隊伍を組んで敵へと向かうMS隊の一番端、シンのディスティニーはそこにいた。敵に接近するのはブラックRX、WhiteCat、そしてディスティニーの三機だ。マスタースパークはブラックハウスの甲板上、レイジングハートはアースラ前方で各々の船を守り、その間にストロードールが鎮座している。タチバナの戦闘機小隊はアースラ周辺を旋回して警戒に当たっていた。これが、リンディ提督の考えた理想の布陣であった。しかし、相変わらずBlackCatとリトルデーモンの姿はない。
「ひとつやってみるか…!」
シンはそう呟き、ビームライフルを発射した。まだ敵はかなり遠い。すかさず乃人がつっこむ。
「今のはシンか?早い、早いよ!」
ようやく敵MSが視界に入った。リックドム数機が、上下に別れて飛んでくる。
「二手に別れたのか!猫さん、シン、下から来る奴を狙おう!上のは艦隊に任せよう!」
「こちら黒猫、了解!」
「
シン・アスカ、了解!」
ブラックハウスの甲板上で、マスタースパークが射撃体勢に入っていた。そのコックピットで魔理沙が叫ぶ。
「ナノハ、発射のタイミングを合わせよう!十字砲火なら敵を一気に殲滅できる!」
「了解だよ。こっちはいつでもOK、魔理沙に合わせるね。」
「ありがたいぜ。よーし、3、2、1…」
照準機の十字線がピタリと重なり、一群のリックドムが射線上に集まった。
「ってぇ!」
まばゆい閃光がきらめき、二条の強烈なビームが発射された。
「んっ?」
パトリックがその光を目にした瞬間、彼のリックドムは両足から火を噴いていた。
「な、なんだあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
機体の制御を失い、パトリックのリックドムが迷走する。彼の後ろにいたドム数機はビームを直撃され、次々に爆発した。ようやく生き残った一機にビームがさらにおいすがり、また新たな爆発が起こった。
「コーラサワー小隊が全滅です!生き残りは小隊長機ともうひとつ、二機だけです!」
オペレータの報告に、マネキンは戦慄を覚えた。さすが黒い木馬、ただの戦艦とは違う。
「リックドム二機下がらせろ!こちらの砲撃の邪魔だ!」
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07/02 09:49 W51S(e) [292]エルザス
291
マネキンが命じると、僚機に支えられたパトリック機がフラフラと戻って来るのが見えた。連邦のMS隊はパトリック機には目もくれず、ムサイ艦隊に攻撃を集中してきた。猛烈な対空砲火が展開されるが、かすりもしない。
「アイメルがエンジンに被弾!戦隊から落伍します!」
「構わん!アイメルは離脱させろ!クロメル、シロメルだけで黒い木馬を仕止める!」
無数のビーム、砲弾が飛び交うなか、二隻になったムサイがブラックハウス隊に接近していく。残ったリックドム隊は善戦し、敵のMSを一時的にムサイから遠ざけた。その時、オペレータがマネキンの方を向いて叫んだ。
「連邦の黒い奴がいません!」
しかしその声は連続する爆発音にかき消されて聞こえない。
「なにぃ?!聞こえないぞ!」
「ガンダムがいないそうです!」
「ガンダムが…?そんなはずはない…あのリックドムは?」
艦橋のすぐ横に、一機のリックドムが戻ってきていた。リックドムはモノアイで光通信を送ってきた。
「ヨハン曹長です。奴は、ガンダムを見てないと言っています。」
その途端、ヨハン曹長の機体が爆発した。強烈な衝撃が艦橋を襲う。
「くっ…!今の攻撃は?!どこからだ?!」
マネキンが見渡しても、敵のMSらしい影は見つからなかった。オペレータの返答は意外なものだった。
「ボ、ボールです!二機のボールが高速で移動し、我が軍のリックドムを叩いています!しかし、機動速度からして人間が乗っているとは思えません!」
「自動制御!?いや、遠隔操作か…?」
「ゼロ方向に、高熱源体が接近!」
「なに!?なんだ?!」
「本艦にではありません!」
「むっ…?シロメルか!」
マネキンがシロメルを振り返った瞬間、三条のビームがシロメルを貫いていた。細い二本が両舷のエンジンを、太い一本が艦橋を粉砕していた。直後、シロメルは船体のあちこちから火を噴いて爆発した。マネキンは目を見開いた。
「ガ、ガンダムだ!あの黒い奴だ!」
マネキンの見つめる先、クロメルの上空には、たしかに黒いガンダムタイプの機体がいた。そしてその傍らには、小さな黒い羽がはえた別のMSもいた。パチュリーのリトルデーモンである。リトルデーモンはここまでミノフスキー粒子をばらまきながらBlackCatを誘導し、ムサイ必殺のタイミングを演出してみせたのである。
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07/02 22:27 W51S(e) [293]エルザス
292
両手のビームライフル、そしてネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を同時に発射し、一瞬でシロメルを仕留めたBlackCatは、かつてのようにモニターがダウンすることもなかった。宇宙戦仕様への改造が思わぬところでも効果を表しているらしい。
「リックドム全機、クロメルの回りに集まれ!密集体型で対空砲火しつつ、この戦域を離脱する!」
マネキンが決断を下した。これ以上戦闘を続けては戦隊が全滅するおそれがある。それほどまでにあのガンダムという機体は畏怖されていたのだ。
もっとも、今戦隊の全力をもって対空砲火の弾幕をはっても、敵が本気で攻撃してくれば、クロメルもシロメルの後を追うしかない状況ではあった。三三五五散っていたリックドムがクロメルを取り巻いて再集合する。といっても、残ったリックドムはパトリックの機体を除けば4機しか残っていなかった。
クロメルが急速回頭で反転すると、上空のガンダムがビームライフルを捨てて接近してきた。マネキン戦隊の全員が戦慄した。リックドムがジャイアントバズーカを次々に発射するが、ガンダムは簡単な仕草でそれをよけ、どんどん迫って来た。下腹部の巨大な砲身を突きだしたかと思うと、その先端からまばゆい光がほとばしった。アームストロング砲の二射目はクロメルの右舷エンジンを直撃し、推力は半減した。
「もはやこれまでか…!」
マネキンが奥歯を噛みしめたとき、不意に敵母艦が信号弾を発射した。ガンダムの動きが止まり、リックドムも思わず射撃を止めた。
「敵は撤退命令を出した模様です!」
オペレータがわかりきったことを叫んだが、マネキンにも信じられなかった。敵は明らかに優勢だ。我々を見逃すつもりなのか…?
ガンダムはなおも離脱をはかっているクロメルを一瞥すると、母艦の方へ戻って行った。
「た、助かった…」
オペレータがほっと息をついた。まさに奇跡だ。だが、マネキンはすぐに気を引き締めた。
「まだ敵の勢力宙域だぞ!目の前の敵がいなくなったからといって油断するな!リックドムの着艦急げ!敵の第二波が来てもおかしくない!」
クロメルに再び緊張が戻り、クルーたちは自分の仕事にかかった。被弾したエンジンの状態はよくないが、自力航行に問題はなかった。
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07/02 22:44 W51S(e) [294]エルザス
† † † † †
「副長!なんで信号弾なんて撃った!あと少しで敵を殲滅できたのに!」
オレはブラックハウスに着いて開口一番、そう叫んでいた。
「リンディ提督からの命令だ。もっと言えば、ティアンム提督の第二連合艦隊からの命令だ!やむを得ないだろう。」
「ティアンム艦隊から?なぜ?」
「我々が暴れ過ぎればティアンム艦隊が目立ってしまう。なんのためにホワイトベースを囮にしたと思っているのだ?」
「しかし…!」
「ナガモンさん、そこまでです。」
アースラから、あずにゃんが通信に割り込んできた。
「第二連合艦隊の命令は理にかなっています。ここで敵を殲滅すれば、敵は我々を必要以上に警戒して、この宙域にパトロール艦隊を追加派遣してくるでしょう。そうなればティアンム艦隊主力の発見は必至です。私たちの独断でそんな危険を犯すことはできません。」
「くっ…」
「ティアンム艦隊からはもう一つ命令が来ています。『ブラックハウス隊はそのままサイド6へ直行せよ』と。」
「サイド6?なぜ?」
「今回の戦闘で敵が私たちを追尾する可能性は高いです。サイド6にはホワイトベースも向かっているはずですし、ティアンム艦隊の進路を偽るには最適な方法です。」
「あそこは中立コロニーだろ?戦闘にはなりそうもないな…」
「宇宙戦は初めてでしたし、あまり戦闘が連続してもミスをおかしてしまうかもしれない。ちょっとした小休止ですよ。」
「…わかった。」
「副長、もう少しだけブラックハウスの指揮をお願いします。私はすぐにランチでそちらに行くので。」
「承知しました。サイド6に向けます。では。」
通信が切れ、オレはコックピットのハッチを開けた。少し酔っているかもしれない。なんだか視界がふらつく。MSは無重力空間なら地上ではありえないような急激な機動が可能だ。少なくとも機体のスペックとしては。問題なのは、その機動にパイロットの躰が耐えられるかどうかだ。
手すりにつかまってぼんやり立っていると、ブラックRXから降りた黒猫が寄ってきた。
「にゃんと、ナガモン顔色悪いね。」
「ほっといてくれ。それより聞いてたか?サイド6だってさ。」
「美味しいもの食べられるかな?」
「お前なぁ。」
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07/05 09:02 W51S(e) [295]エルザス
294
「早くシャワー浴びて食堂行こうよ。出撃後の一杯は美味しいんだ。」
「もう少し緊張感を…って言っても無駄か。」
「戦闘が終わったあと位いいでしょ?」
「…まぁそうだな。じゃあ行こうか。でも、あんまり飲みすぎると太るぞ。」
「にゃっ?!それは言わないで欲しいなぁ…」
相変わらず愉快な奴だ。
熱いシャワーを浴びて食堂でビールを飲む。確かに美味い。黒猫ははやくもグラスを空にして、次を飲もうか迷っていた。
「まだ喉は乾いてるし…、でもこの一杯が体重に響くんだよなぁ…でも飲みたいし…」
戦闘中の勘の良さはどこへやら、まるっきり優柔不断だ。
「ねぇどうしようナガモン。」
「知らないよ。好きに決めろ。」
「それができないんだってば。」
「なら飲むな。決まり。」
「えぇ~!やだよ飲みたいよ!」
「じゃあ飲めばいいだろ?」
「う~ん…」
すぐにまた考えこんでしまう。何がしたいんだか。
結局黒猫はもう一杯を飲み干し、オレたちは食堂をあとにした。
† † † † †
カティ・マネキンのクロメルは、
黒の騎士団旗艦
ダモクレスと接触していた。クロメルは損傷を負っていたが、ダモクレスが持ってきた命令書を読んだマネキンは仰天してしまった。
「このまま黒の騎士団の指揮下に入れ、と…?」
「大佐ぁ、何事ですか?」
呑気な調子でパトリックがきいてきた。
「私は部隊を取り上げられた。これからは黒の騎士団の指揮下で戦う。」
「ホントですか!?大佐はどうするんですか?」
「もちろん一緒に行く。ここからは純粋にクロメルの艦長としての権限しかないがな。」
「ってことは、俺たちMS隊は…?」
「ゼロが直接指揮をとるだろう。しばらくはお前とはお別れだな。」
「いやです!」
「なに?」
「自分は大佐の元を離れません!クロメルに残ります!」
「バカを言うな。そんな無茶が通る訳…」
「その願い、叶えよう。」
「えっ?」
パトリックとマネキンは同時に振り返った。碧色の髪をした少女がいたずらっぽい笑みを浮かべて立っていた。
「黒の騎士団の連絡将校か。たしかC.C.と言ったな。」
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07/05 09:02 W51S(e) [296]エルザス
驚いた表情をすぐさま消して、マネキンが言った。いっぽうパトリックは期待に目をらんらんと輝かせて先を急かした。
「願いを叶えてくれるって、クロメルに残っていいってことか?なぁ!」
「そうだ。ゼロに掛け合ってやろう。傷ついたクロメルには直援のMSが一機くらいついて当たり前だ。ゼロも納得するだろう。」
「いよっしゃあああああ!」
パトリックがガッツポーズした。マネキンはそれを複雑な表情で見ていた。
最終更新:2010年12月22日 02:03