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宇宙要塞ア・バオア・クー その1

「こちらアリゾナ!被害甚大!誰か救助を!!」
「フェーベの反応はどうした?!通信はまだか?!」
「残存兵力の集結急げ!」
「どこへ集まれってんだ!!」
アースラの艦橋に、怒濤のような通信が押し寄せてきていた。エイミィ一人ではそれに対処できず、見かねたユーノも通信の手助けをする。
「状況の把握急いで!フェーベとの通信確立を最優先!第二連合艦隊各艦へ打電、現在地にて待機せよ!」
リンディが硬い表情で指示を飛ばす。ユーノがリンディを振り向いて叫ぶ。
「第一連合艦隊は救援を求めています。損害を受けて沈みかけている船もあります!前進の命令を出してください!」
「敵が第二射を撃ってくる可能性があります。全滅を避けるためには、第二を動かすわけにはいきません。」
「そんな!友軍がたくさん死にかけてるんです!」
「前進命令は出せません。第二連合艦隊はこの場で待機!」
リンディはユーノを強く睨みながら言い放った。納得できないという表情をしながらも、ユーノは通信の作業を再開した。
「第一が自力で事態を収拾できるとは思えませんが?」
リンディの傍らに立つクロノが彼女にそっと話しかけた。確かに第二射の危険性はあるが、このまま放っておいては味方の混乱は増していくばかりのように思われた。
「それでも第二を危険に晒すわけにはいかないわ。救助活動中に誘爆する船だってある。」
リンディの決断は覆らなかった。アースラ以下の第二連合艦隊は、未だに爆発を繰り返している第一連合艦隊から距離をとったまま、事態の推移を見守っていた。

見捨てられた形になった第一連合艦隊では、混乱の度合いがますます増長していくようであった。ソーラ・レイの直撃をくらい、綺麗に消え去った船はまだよかった。悲惨だったのは、その光に船体をかすめられ、それでもすぐには沈まなかった艦船だったのである。
サラミス級戦艦「ロンバルディア」もまた、そうした艦船の一つであった。
「隔壁閉鎖を急げ!火の手が船全体に回ったら終わりだぞ!」
ロンバルディア艦長、ハンス・クラウン中佐は額に汗を浮かべて懸命の指揮を続けていた。ロンバルディアは左舷側につき出した第二艦橋をソーラ・レイがかすめ、そこから出火した影響でまったく行動不能に陥っていたのである。
「艦長!エンジンが臨界を突破します!今すぐ切り離さないと…!」
オペレーターの一人がハンスに向かって叫ぶが、ハンスはそれに負けない大声で怒鳴り返す。
「エンジンを切り離したらどうやってこの船を動かすんだ?!機関士長になんとかさせろ!今すぐだ!」
「炎が船体居住ブロックに入りました!」
別のオペレーターがヒステリックな声で叫び、ハンスはそれにも大声でやり返す。
「隔壁を閉めろといったはずだ!なぜ閉まっていない!」
「まだ向こうのブロックにはクルーが!」
「助かりはしない!今すぐ隔壁を閉じろ!これは命令だ!消火班は向かっているのか?!」
「艦長!!あれを!!」
「む?」
不意に通信士が前方を指さし、ハンスはそちらに目をやった。動けないロンバルディアの目の前に、先行していたはずの姉妹艦「ハーメルン」が迫ってきていた。ハーメルンの艦影はみるみるうちに近づいてくる。
「あれはなんだ?!このままではぶつかるぞ!ハーメルンと通信できないのか?!」
ハンスは通信士に叫ぶが、通信士は首を横に振った。
「ダメです!通信設備がダメージを受けている模様です!通信不能!」
「光信号だ!ワレ操舵不能と送れ!」
「ハッ!!」
さっそく通信士が光信号を発信するが、ハーメルンからの信号はそれとまったく同じ内容であった。「ワレ、操舵不能」と。
さらにいくつかの信号がやりとりされたが、それらは二隻の船の断末魔の役割を果たしたに過ぎなかった。ハーメルンの巨体がロンバルディアの艦橋にめり込み、直後、臨界を突破したロンバルディアのエンジンが大爆発を起こした。閃光が二隻の軍艦を包みこみ、ハンスの肉体は瞬時にして消し飛ばされていた。


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10/22 00:40 Windows(PC) [421]エルザス
420

似たような悲劇が、第一連合艦隊のあちこちで起こっていた。中には救助に向かった連絡艇が撃沈する戦艦の焔に巻き込まれるという場面もあった。連絡艇のクルーは操縦席から投げ出され、救助の手が届くはずのない宇宙の果てへと吹き飛ばされていった。彼には自らの命を絶つ手段すらない。ノーマルスーツの空気が切れて、ゆっくりと窒息死するしかないのだ。
どれだけの戦力が失われたのか、連邦軍はまったく把握できていなかった。おぼろげながらわかっていたのは、艦隊の旗艦であるフェーベがすでに消滅しており、作戦の最高司令官であるレビル将軍は戦死しているということだけだった。大損害を負った第一連合艦隊は、それでもどうにか指揮命令系統の復旧に乗り出し始めた。
レビル将軍を失った今、臨時の指揮はマゼラン級「ルザル」に託されていた。ルザルは残存艦隊に打電し、ホワイトベースを中心に艦隊の再集結をはかることを通知した。ホワイトベースは第一連合艦隊の侵攻を阻止すべく出てきた敵部隊と交戦していたため、艦隊から少し離れた位置におりソーラ・レイの難から逃れていたのである。
ホワイトベースを目印に艦艇が集まり始めた頃には、連邦軍は早くも敵の攻撃の詳細を掴み始めていた。その正体は連邦軍がソロモンで使用したソーラ・システムに酷似したものであり、ただしパワーだけは段違いにちがうのだという。

連邦軍上層部は、ここにいたって戦略の大幅な転換を迫られていた。彼らの選択肢は大きく分けて三つある。
一つ、このままの戦力で星一号作戦をそのまま決行。グラナダ、ア・バオア・クーを抜き直接サイド3へ侵攻すること。
二つ、サイド3へは向かわず、現戦力をもってア・バオア・クーに侵攻、敵の主力を撃破すること。
三つ、作戦を中止し、このままコンペイトウおよびルナツーへと帰還すること。
月のグラナダには敵の主力がいなかったため、グラナダを攻略するという選択肢は最初から考慮されなかった。また、攻勢主力となるはずだった第一連合艦隊が大きな被害を追ったために、直接サイド3へ侵攻するのはほぼ不可能であると判断された。
結果、彼らの判断は「ア・バオア・クーの攻略」もしくは「一時撤退」のいずれかに絞られたのである。現場の指揮官達の間でも、ジャブローの連邦軍総司令部の将星達の間でも、この判断の議論は荒れに荒れた。だが、決断を下すのにあまり長い時間をかけるわけにも行かなかった。現に艦隊はまだ宇宙にいたからである。
進撃か撤退か。連邦軍の将軍達が下した判断は、「ア・バオア・クーの攻略」であった。
この判断には二人の将軍の発言が決定的な役割を果たした。第六艦隊司令官ダグラス・ベーダー中将と、リンディ・ハラオウン提督である。
二人はともに最前線に立つ指揮官として敵戦力のすみやかな撃滅を主張し、そのためには作戦の予定を大幅に繰り上げ、艦隊の再編が済み次第直ちにア・バオア・クーへ侵攻すべきだと主張した。とくにベーダー卿はレビル将軍と士官学校で同期だったため、すみやかなる作戦の続行を喧伝してやまなかったのである。半ばその勢いに押される形で、連邦軍の最高首脳陣は星一号作戦の強行を決定した。そのために、何よりもまず第一連合艦隊の再編成を急ぐ必要があった。艦隊の各部隊に作戦の強行が知らされたとき、時刻はちょうど大晦日の午前0時を回ろうとしていた。


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10/22 00:45 Windows(PC) [422]エルザス
421

U.C.0079、12月31日、午前1時17分、ア・バオア・クーではギレンによる出陣演説が行われ、ジオン軍将兵の士気が頂点に達しようとしていた。
「我が忠勇なるジオン軍兵士達よ。今や地球連邦軍艦隊の半数が、我がソーラ・レイによって宇宙に消えた。この輝きこそ我らジオンの正義の証である!
決定的打撃を受けた地球連邦軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。あえて言おう、カスであると!!
それら軟弱の集団がこのア・バオア・クーを抜くことはできないと私は断言する。人類は、我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理・運営されてはじめて永久に生き延びることができる!これ以上戦いつづけては人類そのものの危機である!地球連邦の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん。今こそ人類は、明日の未来に向かって立たねばならぬ時であると!!」
大げさな身振り手振りを交え、鷹揚な調子で語るギレンの言葉に、ア・バオア・クーの兵士達の咆哮が答える。
「おおおおおおおおおおおっ!!」
この後ギレンは、妹のキシリアと共に要塞の司令室で直接指揮を執ることとなる。
ア・バオア・クーは他の要塞とは違い、要塞を上から見下ろした時の周囲を4つの防空管制エリアに区分した防衛システムを採用しており、モビルスーツ隊等のエリア配属・防衛管制を行っていた上、この戦いでは、重要エリアの死角区域にドロス級大型空母が配備されていた。だが、その戦力は充分とはとても言えなかった。戦争が進むにつれて急速に古参兵の損害が増えたジオン公国軍は、正規兵でたりない部分を学徒兵によって補う有様であった。彼らはろくな訓練も受けられないまま要塞の前面に配置し、敵が侵攻してきた暁には反撃の狼煙となるべきはずであった。


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10/22 00:46 Windows(PC) [423]エルザス
422
午前5時、連邦軍第一連合艦隊の再編成が完了した。それと同時に各部隊に攻撃目標が指示された。第一連合艦隊のうち、ソーラ・レイによって大規模な損害を被った第一大隊は、ルザルを旗艦として要塞の地球に臨む側、Sフィールドを攻めることとなった。この第一大隊にはホワイトベースも含まれている。残る二個大隊は要塞を挟んで反対側、サイド3に面したNフィールドを目標とした。指揮官はベーダー卿である。
いっぽう、リンディ提督の第二連合艦隊は、ソロモン攻略戦で多数の艦艇を失い、更にソーラ・レイの攻撃以降一部の部隊を第一連合艦隊に回していたため、ア・バオア・クーでは副次的な任務を背負わされていた。すなわち、地球側から見て右翼のEフィールドと、左翼のWフィールドに対する牽制である。
牽制とは言え、第二連合艦隊もまた全力で攻撃に当たることに代わりはなかったのだが、両フィールドの対する攻撃はSフィールドへの攻撃開始から少し時間をおいてから発動されることになっていた。これはSフィールドへの攻勢を敵へのブラフに見せかけるためであり、結果ジオンの守備隊をすこしでも多く引きつけることを意図していた。ゆえに、第二連合艦隊が出くわすであろう抵抗は、当然熾烈なものとなるはずだった。リンディ提督は第二連合艦隊を二つにわけ、自らはWフィールドの指揮をとることに決めていた。彼女は自らの指揮下にアースラ、ブラックハウス、そしてラピュタを納め、隙あらば要塞に突入しようとさえ考えていた。もし敵がこちらの真意に気づいた場合、敵の防衛戦はS、もしくはNフィールドに重点が置かれるはずだ。そうなれば、いかにも戦力不足の自分にも敵陣突破のチャンスはある。彼女はそう考えていたのだ。

午前8時、連邦軍の全艦艇が作戦開始位置での展開を完了した。時は来た。

Nフィールドの前面に、ゲルググを受領した学徒兵たちが周囲を警戒していた。情報に寄れば、連邦軍はすでに要塞のすぐ近くまで迫ってきているのだという。にもかかわらず、宇宙はとてつもなく静かだった。異常は認められない。
「こちら、Nフィールド、ユンカース32。定時報告、異常なし。」
小隊長に任命されたばかりの学生が、落ち着き払って通信を終えた。
「敵…こないね?」
別の学徒兵が不思議そうにつぶやいた。
「来るよ…そのうち…」
小隊長の学生は、達観した物言いでそう返事した。


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10/22 23:47 Windows(PC) [424]エルザス
423

ア・バオア・クー要塞内のWフィールド側に、黒の騎士団が停泊するドックがあった。そこにはザンジバル級のダモクレスと、ムサイ級のアイメル、そしてツィマッド社特務隊のオンドゥルが停泊していた。
黒の騎士団の指導者、ゼロは、ギレンからWフィールドの指揮を任されていた。ギレンはNフィールドとSフィールドの前面に巨大なMS空母「ドロス」と「ドロワ」を配備していたが、Wフィールドにはそのような強力な防衛戦力が配されていなかったのである。そこでギレンは、精鋭の呼び声が高い黒の騎士団に、Wフィールドの死守を命じたのである。もちろん黒の騎士団単独で達成できる任務ではなかった。ギレンはゼロの指揮下にMS隊二個と戦艦数隻を与え、Wフィールド防衛軍を組織させた。
Wフィールドの前面に展開する連邦軍がどの程度の戦力なのか、この時点ではまだゼロは知らなかったが、明らかな兵力不足であることは認識していた。彼はギレンに働きかけ、さらなる増援部隊の派遣を要請した。意外にもギレンはこれに応じ、日付がかわる直前に増援部隊を送り込んできた。その部隊を視察したとき、ゼロはマスクの中の目を見開いていた。
彼のもとに派遣されてきたのは、「増援部隊」とは名ばかりの編成されて間もない学徒兵部隊だったのである。学生達の指揮は極めて高かったが、その戦闘能力には疑問を持たざるをえなかった。聞けば、彼らは簡単なMS操縦の訓練を受けただけで、高度な陣形戦や熾烈な格闘戦には耐えられそうになかったのである。
さらにゼロが驚いたのは、そのような学生の中に義弟のロロを見出したときであった。
「ロロ?!」
ゼロはロロの腕を引っつかみ、人気のないところへ導いた。そしてマスクを外し、一気にまくし立てた。
「お前、こんなところで何をしてる?!ズム・シティでナナリーを守れとあれほど言っておいただろうが!なぜお前が前線の、しかも戦闘部隊にいるんだ!」
ほとんど怒りにまかせて、ルルーシュは声を荒げた。だが、ロロは決意に満ちた瞳でルルーシュを見返すと、言った。
「志願したんだ、兄さん。今は国家の危機だ。黙ってみているなんてできない。」
「お前…死ぬかも知れないんだぞ?」
「覚悟はある。」
ロロがそう言い切った瞬間、ルルーシュは目を見開き、そしてロロの頬をひっぱたいていた。
「!?兄さん?!」
赤くなった頬を押さえながら、ロロは怯えた目で義兄を見た。
「わかったような口をきくな!死ぬとはどんなことか、お前はわかっているのか!」
珍しく冷静さを失った様子のルルーシュを見て、ロロはかえって落ち着いていく自分を認識していた。
「以前、兄さんはこういったね。『討っていいのは、討たれる覚悟のある奴だけだ』と。だからあえて言うよ、僕には討たれる覚悟がある。死ぬのは恐いけど、どっちにしたって兄さんが救ってくれた命だ。」
「……」
ルルーシュは黙っていた。汚い路地裏に倒れていたみなしごのロロを見つけたのは、もう何年も前になる。ルルーシュは母マリアンヌにロロを助けてくれるよう頼み、マリアンヌはロロを介抱した上に自分の養子にしてしまった。以来、ルルーシュとロロは仲のいい兄弟として過ごしてきた。母マリアンヌが亡くなるまでは。
「いまは戦争で死んでいく人間はたくさんいる。だから大切なのは生き残る人間なんだ。ナナリーのもとに残ってはくれないか?」
静かな口調で、ルルーシュはそう言った。だが、ロロの決意は固かった。
「生き残った人達には兄さんのようなリーダーが必要だよ。だから僕が戦って兄さんを守る。」
「そうか…。」
ルルーシュはもうロロを説得しようとはしなかった。彼はマスクをつけると、ロロを残して立ち去った。

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10/22 23:48 Windows(PC) [425]エルザス
424

† † † † †

「時間合わせどうぞ…5…4…3…2…1…0!星一号作戦開始です!」
ブラックハウスの艦橋では、通信担当のはちゅねが作戦開始時刻を告げていた。
あずにゃんは黙ったままカントーとアイコンタクトをとり、頷いた。
カントーも同じく頷き、正面に向き直ってレーダーに目をこらす。
「総員第一種戦闘配置!10分後に前進を開始します!」
艦橋にいたオレと黒猫は、クルー達に敬礼し、格納庫へと向かった。これが最後になるかもしれない。そう思った。だが、あえて言葉を交わそうとは思わなかった。それだけ別れがつらくなるし、案外みんな無事に帰ってくるかも知れないと思ったからだ。
艦橋から格納庫へ向かうエレベーターには、先客に魔理沙達が乗っていた。
「お、ニュータイプの参上だぜ。」
魔理沙がオレたちを見ていった。
「ねぇ、中尉たちにはこの戦いがどうなるか見えているの?」
パチュリーの質問に、オレは肩をすくめて見せた。黒猫はどうかと見てみると、オレの真似をしている。
「ニュータイプになって未来がみえたら、苦労はしないよ。」
黒猫がやや投げやりに言った。
「そりゃそうよね。人間は逆立ちしたって神様にはなれないものね。」
アリスがほぅ、とため息をついてつぶやいた。
格納庫のフロアにつき、オレと黒猫は魔理沙たちと別れた。できたらまた会おう、と内心につぶやいて、手を振って挨拶する。
右舷側のデッキでは、ハルヒたちが機体の最終調整に追われていた。
「なんとか間に合ったわ。BlackCatとブラックRXの調子は万全よ。」
鼻のところにちょっとした油の汚れをつけたまま、ハルヒがいたずらっぽく笑って見せた。
その周りにはSOS団の面々がオレたちを見つめている。心配そうな表情の者、ぎこちなく笑ってみせる者、普段と変わらず無表情の者、多種多様だ。そんなSOS団が、オレは好きだった。
「色々と世話になったな、ハルヒ。」
オレはそう言って右手を差し出した。彼女はそれをしばらく見つめていたが、握り返そうとはせず、そっぽを向いてしまった。
「しみったれたのは好きじゃないわ。必ず帰ってきなさい。さもなきゃ死刑。」
「またそれか。」
オレは思わず吹き出していた。確かに、彼女はこんなお別れの仕方は嫌いだろう。
「わかったよ。それじゃ、行ってくる。」
そう言って、機体のほうへ歩み寄る。黒猫はめいっぱいの笑顔でSOS団のみんなに「いってきまーす!」とだけ言った。
「帰ってこなかったら承知しないんだからね!!」
ハルヒが叫び、オレはコックピットに収まった。機体のシステムを立ち上げる。
「ナガモン中尉、カタパルトの準備できてます。発進後はブラックハウスの前方で待機してください。前進開始はあと7分後です。」
アークからの通信に頷き、機体をカタパルトにのせた。
「シン・ナガモン、BlackCat、イきます!!」
いざ、決戦の宇宙(そら)へ。

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10/22 23:48 Windows(PC) [426]エルザス
† † † † †

「ま、前!!」
Nフィールドの学徒兵が、前方に無数の光が接近してくるのを見つけた。あっという間に目の前に迫ったそれが飛来するミサイル群であると確認した頃には、味方の機体が直撃を受けて吹き飛んでいた。
「回避!回避!」
小隊長の学生はそう叫ぶなり機体を急旋回させていた。だが、避けようがなかった。文字通り宇宙を埋め尽くさんばかりのミサイルは、何機避けてもあとからあとから押し寄せた。戦友が次々に死んでいくなか、小隊長は必死に機体を操った。だが、一機のミサイルが彼のゲルググを正確に捉え、機体は一瞬にして爆散した。
「敵主力、Nフィールド、Fラインを突破!」
連邦の攻撃が始まったことを告げる第一報がア・バオア・クーの防衛司令部に飛び込んだ。その直後、反対側のSフィールドにも敵が現れたことが報告される。

広がった連邦軍艦隊がありったけのミサイルで攻勢準備砲撃を終わらせると、ソロモンでも活躍したパブリクがビーム撹乱幕をばらまくために突撃してゆく。だが、その多くはここでも要塞からの弾幕に絡め取られ、次々に被弾していった。猛烈な弾幕をどうにかかいくぐったパブリクに、今度は公国軍の戦闘機が襲いかかり、鈍重なパブリクはなすすべもなく撃墜されてゆく。それでもパブリクが抱えていたビーム撹乱幕は、戦域にばらまかれつつあった。甚大なる犠牲と引き替えに、連邦軍はビーム撹乱幕を戦域にまんべんなくばらまくことにほぼ成功したのである。これにより、ア・バオア・クー防衛司令部は要塞の持つビーム兵器がほぼ無力化されたことを知った。
出撃したパブリクのほとんどは帰らなかったが、今度は数多くの戦艦からジムが姿を現した。ア・バオア・クーへ向かって進撃を続ける戦艦から飛び出したジムは、迎撃に出てきた敵艦やザクめがけて突撃してゆく。無数の弾丸が交錯し、それにぶつかった不運なMSが次々に爆発を起こす。
激戦であった。数の上で圧倒的優位に立っていたはずの連邦は、決死の覚悟で戦うジオン兵達の熾烈な抵抗に遭遇し、損害を増やしつつあった。もちろん、ソーラ・レイによる攻撃が連邦軍の戦力を削っていたことが影響したことは言うまでもない。

そのころ、Eフィールドで要塞の防衛にあたる一隻の船では、闘志に燃える一人の男が戦いに臨もうとしていた。ヘルベルト・フォン・カスペン大佐である。彼は輸送艦ヨーツンヘイムで、再編されたカスペン戦闘大隊の指揮をとっていた。
「敵はNフィールドの主攻線を引いた。また、搦め手のSフィールドを第二線となし、なだれ込んでおる。我が隊は持てるすべての戦力をもって、手薄なEフィールドを防衛する!」
堂々と宣言した彼の見つめる先、Eフィールドの前面には、連邦軍第二連合艦隊の一部の部隊が襲来しつつあった。なんとしてもこのEフィールドを死守する。カスペンの決意は固い。いかなる損害をはらってでも、任務を全うしてみせるという気概が感じられた。

アースラの格納庫で、シンはアララギからディステニーの機体状況について説明を受けていた。ソロモンで中破に値する損傷を受けたディステニーには、急ピッチで修理が施され、どうにか出撃できる状態にまで復元されていた。だが、完全な状態からはほど遠い。アララギによれば、手足の関節の動きが遅く、姿勢制御用のスラスターの反応が悪くなっているのだという。だが、シンはディステニーで出撃することを決していとわなかった。彼はあらかじめディステニーにはビームソードだけを装備し、他の追加武装は一切必要ないとアララギに言っておいた。アララギはヒタギとともにシンの注文通りに機体を整備しておいたが、内心では不安でいっぱいだった。
ディステニーに乗り組もうとするシンの背中に、アララギは声をかけた。
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない。」
シンは凛とした表情ではっきりと答えた。ディステニーはアースラのカタパルトに乗る。
シン・アスカ、ディステニー、行きます!」
飛び出して行くディステニーをヒタギと見送りながら、アララギは妙な胸騒ぎをおぼえていた。息が苦しいような、なんとも言えない不快感。
不意に、ヒタギがアララギの手を握った。アララギは驚いてヒタギを見たが、彼女の目は遠ざかっていくディステニーに向けられたままだった。
「どうして男って…」
「え?」
ヒタギがディステニーを見据えたまま言ったが、途中で言葉を切ってしまった。
「なんでもないわ。さ、レイジングハートが出るわよ。」
ヒタギがそう言った直後、アースラのもう一つのカタパルトからナノハのレイジングハートが飛び出していった。
今度はそれを見つめつつ、ヒタギが再び口を開いた。
「どうして男って、ときどきバカみたいな無茶をやりたがるのかしら。自分の身を犠牲にして他人を守ろうとしたり、変なこだわりをもって戦いに臨んだり。」
「……」
アララギは黙っていた。なんとなく、ヒタギが言っているのはシンのことだけでなく、自分も含まれているような気がしたからだ。
「なんでだろうな…ただ、男ってのは、何かを守りたいと思うと、無茶ができる生き物なんだと思うよ。」
「独善的ね。アララギくんもそうなのかしら。」
やはり自分のことも考えていたのか、とアララギは思った。
「少なからずそうだな。」
正直にそう答えた。たぶん、それはヒタギが一番よく知っているはずだ。
「そして女は、そんな男のバカな一面にときどき心奪われるのね。」
「え?」
よく意味がわからず、アララギはヒタギのほうを向いた。ヒタギもまた彼を見ていた。
「アララギクン、ケッコンシマショウ。」
「…は?」
「ケッコンシマショウ、と言ったの。」
ケッコンという言葉が「結婚」という単語に変換されるまで、アララギはかなりの時間を要した。
「け、結婚?!」
「いやなの?」
即座に聞き返してくるヒタギに、アララギはたじたじになる。嫌なはずがない。むしろ自分から言いだしたかったという気持ちが強い。ただ、それは今言うべきことなのだろうか。
「できればいま返事がほしいわ。二人とも今日死ぬかも知れないのよ。」
ヒタギがそう言うのを聞いて、アララギは納得してしまった。今だからこそ、ヒタギはプロポーズに踏み切ったのだ。もう二度とチャンスが訪れないかも知れないから。
「わかった。結婚しよう。」
真剣そのものの表情で、アララギは言った。


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10/22 23:50 Windows(PC) [428]エルザス
427

そのころ、南米・ジャブロー。連邦軍総司令部内の自室で、ゴップ将軍がゆっくりと椅子に座っていた。
「ルナツーより急報です。」
そういいながら部屋に入ってきたのはツムギであった。
「作戦開始時刻か。」
落ち着いた様子でゴップは訊ねる。
「はい、本日現地時間8時10分に星一号作戦が予定通り開始されたのを確認、我が軍はア・バオア・クーの防衛部隊と交戦を開始した模様です。」
「ふむ…結局のところ戦闘における勝敗というのは、準備の段階で9割がた決まっていると言っていい。そういう意味ではソロモン戦は戦う前からほぼ勝敗は決まっていたな。」
「なら今回は…」
やや不安げな表情で、ツムギが訊いた。
「レビルに多数の将官、アルキメデスの鏡を戦う前に失った、まぁ五分だな。」
ゴップの言ったアルキメデスの鏡とは、連邦軍がソロモンで使用したソーラ・システムのことである。
「そんな…」
ゴップの言葉にツムギはいっそう表情を暗くした。星一号作戦には彼女の後輩が参戦していることを思い出したゴップは、とりなすようにやや明るい口調で言った。
「逆に言えばこの戦いは最後までどちらに転ぶか予想出来んということだ、たった一人の存在が戦場を大きくかえることもある…最終的に勝つよ。我が軍は。」
「それは、そうでしょうけど…」
ツムギの顔色は冴えない。彼女はうつむいたしまった。
「…ふむ、紅茶を煎れてくれんかね。ああすまんがここのは壊れているようだから、外のを使ってくれたまえ。」
「あ、はい。」
ツムギが退出するのを見届けてから、ゴップは深く息をつき、つぶやいた。
ゴップ「見通しが甘かったな、ギレン・ザビはコロニーでの本土決戦を躊躇わん。この戦いが最後とはいかんかもしれんな…」
ゴップは頭上の天井を見つめた。その遙か上空では、今頃血みどろの死闘が展開されているはずである。

「あ、ムギちゃん!!」
給湯室に向かっていたツムギを背後から呼び止めたのは、海軍のユイ・ヒラサワ中佐であった。ユイは妹のウイとリツ・タイナカ、ミオ・アキヤマ両中佐と一緒にいて、廊下を走って近づいてきた。
「ねえねえ聞いた?星一号作戦だって。」
それがあたかも栄光の暗号であるかのごとく、ユイはツムギに語りかけた。
「うん。作戦開始したんですってね。」
「あずにゃんも戦ってるんだよね。」
「そうね…」
心配そうな表情になったツムギを、リツとミオが励ます。
「アズサなら大丈夫だって。ニュータイプのパイロットもついてるし、ブラックハウスのクルーはみんな優秀だし。」
「アズサ自身、立派な艦長に育っていたしな。」
楽観的な見通しを述べる仲間達の言葉を聞いて、ツムギの心も晴れてきた。
「そうよね。きっと大丈夫よね。」
「あずさちゃんなら大丈夫にきまってます!」
ウイも真剣な眼差しで言う。
「あずにゃんだけじゃなくて、ブラックハウス隊の他のみんなも無事に戦い抜けるといいね。」
ユイがそういって、一同を見回した。みんなうん、うんと頷く。
「じゃあ、こうしましょう。」
ツムギが手をパンと叩いていった。
「みんなで手を取り合って、ブラックハウス隊の無事を祈るの。こうやって、目をつぶって…」
言うが早いかツムギがユイとミオの手をとった。みんながそれにならい、5人は小さな輪をつくった。
「あずにゃんとブラックハウス隊のみんなが、最後までケガしませんように…」
ユイが代表してそう願い事を唱え、皆が真剣に祈った。祈りが本当に届くのか、誰にもわからない。だが、作戦の行方を待つ身ではこれしかできない。5人の願いは、はたして叶うのだろうか。


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10/22 23:51 Windows(PC) [429]エルザス
428

星一号作戦決行のしらせは、砂漠が広がるアフリカ大陸にも届いていた。砂漠の真ん中にホバートラックが一台止まっている。その荷台に立つ男は、報告を受け取るなり直ちに部下に出撃を命じた。ホバートラック上で声を張り上げているのは、死神旅団を率いるコレマッタ中佐その人であった。
「戦闘…でありますか?」
副官が怪訝な表情でコレマッタに訊いた。
「そうだ!今すぐ前進する!」
「しかし、宇宙では決戦が始まったというではないですか、もうすぐ戦争は終わるのでは?」
戦闘に消極的な態度を見せる副官を、コレマッタは眉間に皺を寄せてどなりつけた。
「なーにを言っとるのだ貴様は!我々の任務は何だ!?ジオン兵を一兵残らずこの地球上から叩き出すことでないのか?!宇宙での決戦?それは宇宙軍の話だろう!月の裏側での話など知ったことか!わかったらさっさと戦闘配置につかんかぁ!グズグズしていると戦争が終わってしまうぞ!!」
つかみかからんばかりの勢いでそう言ったコレマッタは、今度は無線機を引っつかんだかと思うと、旅団の全部隊に大声で命令を下した。
「旅団前へ!凱歌をあげる最後のチャンスだ!ジオンどもを一人も生かして宇宙へ返すな!!突撃!突撃!!」
ホバートラックが唸りを上げて動き出し、周囲に隠蔽されていたジムが一斉に立ち上がった。死神旅団最後の戦いが幕を開けた。

「機長、死神旅団が行動を開始します。」
副操縦士にそう言われて、ノドカはミデア輸送機から地上を見下ろした。たしかに、何機かのジムが移動をはじめつつあった。
「また仕事が増えるわね。補給線が伸びることになるわ。」
ノドカはトレードマークの赤い下縁メガネをクイとあげた。
「しかし、星一号作戦が始まったと聞きました。すぐに戦争も終わるでしょう。」
副操縦士はそう言ってノドカの反応を待った。ノドカは連邦軍上層部と太いパイプを持っている。ちまたに流れる噂より彼女の状況判断のほうが何倍も信頼できた。
「そう簡単にはいかないわ。アフリカのジオンは戦い続ける。それがいつまでかはわからないけど、戦いが続くのは確実ね。」
ノドカはそう言うと、雲一つない青い空に目をやった。あずにゃんの姿が思い浮かんだ。彼女はあの宇宙のどこかで戦っているはずだ。
「どうか、無事で…」
それだけをつぶやき、ノドカはまた自分の任務に没頭していった。

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最終更新:2010年11月04日 00:28
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