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Requiem その4

U.C.0080、1月1日。午前2時。

セイバーフィッシュ隊、出ます!」

タチバナの確固たる声が響き、3機のセイバーフィッシュがブラックハウスのカタパルトから飛び出していった。
鎮圧部隊の先遣隊たる第二連合艦隊、その露払いとして、あずにゃんはタチバナ小隊に偵察を命じていたのである。
あっという間に加速して編隊をくんだタチバナ小隊は、一路マハル宙域へ向かって飛翔した。

「ソーラ・レイの発射まであと7時間か。第二連合艦隊と主力の第六艦隊が接敵するにはまだあと2時間ほどあるはずだな。間に合うか…」

ピクシーが誰に言うでもなくそう言った。それに答えるのはたいていいつもPJの声だ。

「ようするにソーラ・レイの弾道軌道をそらせばいいんでしょ?わざわざ完全破壊する必要はないんですよね?だったら楽勝じゃないですか?戦闘時間は5時間もあるんだから。」
「わかってないな。ソーラ・レイはコロニーをそのままレーザーに転用した平気だ。レーザーそのものの直径は6000メートルに達する。月とマハル宙域の距離じゃ多少発射角度をずらしただけじゃ危険だ。グラナダへの直撃を阻止できても月面のほかの部位をかすめる恐れがある。」
「じゃあ、どうすればいいんです?」

ややむくれた口調でPJがピクシーに訊いた。タチバナは二人の会話を黙って聞いていた。
普段なら私語は慎むよう注意するところだったが、なんとなくそのままにしておいた。

「ソーラ・レイを完全に破壊するんだ。後腐れなく。ソーラ・レイは地球を狙うことはできないが、例えばア・バオア・クーを狙うことができる。あそこには連邦軍の艦船が軒並み集結してるんだ。敵の気が変わってそこを狙われてみろ。連邦軍は敵のいうことをなんでも聞いて講和せざるを得なくなるぞ。」
「そこまでいくとは思えませんが、しかしソーラ・レイを残してはおけないってのはわかりました。」
「そうだ。なんとしても終戦までにソーラ・レイを破壊するんだ。」
「終戦といえば、ピクシーさんはこの戦いが終わったらどうするつもりなんです?身の振り方を考えてたり?」
「俺はもともと軍人だった。戦争が始まってから志願したお前とは違うさ。もちろん軍に残るよ。ほかに食っていく術も知らないしな。お前はどうするんだ。」
「自分も軍に残ろうかなと思ってます。だけどその前にやることが。」
「なんだ?」
「俺、実は基地に恋人がいるんすよ。戻ったらプロポーズしようと。花束も買ってあったりして。」

その瞬間、タチバナはレーダーが不審な影を捉えたことに気づき、声を張り上げた。

「警告!アンノウン急速接近中!ブレイク!ブレイク!」
「なんだ!?」

刹那、はるか彼方から一条のビームが飛来し、タチバナのすぐ横を飛んでいたPJの機体が爆散した。

「ガルム1から入電!『接敵、座標ブラボー163アルファ、敵MSと交戦中』!ガルム3、PJ機は撃墜された模様です!」

アークが叫び、ブラックハウスの艦橋に緊張が走った。

「予想よりかなり早かったですね…PJさんの安否は?」

あずにゃんが比較的冷静な口調でアークに訊く。

「現在のところ不明です。タチバナ機との通信も不明瞭で…」
「増援を出しましょう。これが敵の本陣なのか、それとも敵方の偵察とぶつかっただけなのかを確かめる必要があります。」

あずにゃんはそういうと電話を取り上げ、格納庫のMkⅡに回線をつないだ。

「MkⅡさん、いま出られるMSは?」
リトルデーモンとストロードールだけだ!ほかは動かせない!目下ディスティニーを突貫で仕上げてる!」
「BlackCatとRXは?」
「BlackCatはアームストロング砲をジャイアントバズに換装中。RXはロボフォームの装着が終われば出せるよ!」
「RXを優先させてください!とりあえずリトルデーモンとストロードールを出します!」

あずにゃんは電話を切り、今度ははちゅねに向かって言った。

「艦隊のほかの船から発進可能な機体は?」
「ボール6、ジム8、パブリク3です!」
「パブリク以外全機発進!艦隊は突撃隊形に移行します!」
「了解!」

はちゅねは通信機に向きなおり、第二連合艦隊の各艦艇にあずにゃんの指示を伝達していく。
不意にクロノがあずにゃんの傍らに立ち、小声で話しかけた。

「艦長、兵力の順次投入は避けるべきです。MSを出撃させるなら数がそろってからのほうが…」
「わかっています。しかしタチバナさんたちを支援しないわけにはいきません。第二陣はまとめて出します。」
「…了解しました。第一陣とタチバナ隊がそれまで持てばいいのですが…」

† † † † †

その頃ハルヒは、嵐のような忙しさの格納庫でアララギと話していた。

「このケンプファーって奴も整備というか修理するんですか?」
「そうよ、使うかわかんないけど予備機はあるにこしたことないし、最後なら悔いが残らないようにしたいじゃない?中途半端な仕事する奴は死刑にするわよ!コイズミくん悪いけど彼の作業手伝ったげて!後、予備のノーマルスーツのチェック宜しく!」
「了解です!ここに来て死刑はごめんですからね。」
「わかりました。」

アララギとコイズミがフェイトのプロトタイプケンプファー、バルディッシュに走り用るのを見届け、ハルヒはそっとユキ・ナガトを呼び寄せた。接触回線を使って周りの人間には聞こえないように話す。

「カタパルト、とめられるかも知れないから緊急時の奴使ってこっちから操作出来るようにしといて。」
「もうやってある。」

抑揚のない声でナガトは答えた。

「流石ユキね。あとはタイミングだけね。ディスティニー発艦の命令が来た時がチャンスよ。」

ナガトはがっくりと首を縦に振り、機体の整備作業へと戻っていった。

「ホントにいいのかハルヒ。」

ハルヒの背後から声をかけたのはキョンであった。
「今更ね、だいたい無茶はいつものことでしょ。」
「まぁな…ありがとなハルヒ。シンやフェイトの代わりに例を言うぜ。」
「別に…好きでやってるだけよ。」
「どうだかな。まぁいい、俺はシンのほうを見てくる。」
キョンの背中を見送って、ハルヒは格納庫内を見やった。せわしなく動き回るSOS団の面々。
計画の準備はほぼ整った。あとはフェイトとシンの意志次第だ。

† † † † †

マハル宙域から離れた暗礁領域、その領域ぎりぎりのところで、エギーユ・デラーズの率いる艦隊がゼロ・レクイエムの行方を見極めようとしていた。もし黒の騎士団が本当に公国軍の名誉のために戦っているのであれば、それは彼らとデラーズ艦隊の目的が一致していることを意味する。ならばすぐにでもマハル宙域へと向かい、黒の騎士団とともに忌むべき連邦軍と戦うべきではないか。デラーズと行動を共にする将兵の多くがそう考えていた。だがデラーズは決断を焦らなかった。彼は黒の騎士団の指導者ゼロと直接通信を開き、その真の意図を聞き出そうとしていた。
自室から出てきたデラーズに、ソロモンの悪夢と呼ばれた闘士アナベル・ガトーが歩み寄った。

「ゼロとの対談はいかがでしたか?」

はやる気持ちを抑えきれず、ガトーはデラーズに問うた。

「うむ。この段階で蜂起するなど、ただの愚か者ならばこの手で引導を渡すつもりだったが、これだけの人間を集められるだけのことはある。」
「では我々も彼らに合流して…」

再び連邦軍と戦えると思ったガトーの言葉を、デラーズは手のひらで制した。

「ただし戦いには直接参加はしまい。ことが終わった後の将兵の救助に尽力するつもりだ。」
「なぜですか?!閣下、我々が彼らと合同すれば連邦軍の残りカスどもを殲滅することも容易です!立ち上がるべきです!」
「ならん。今はまだ我々が立つ時ではない。国民は戦いに疲れ、連邦軍進駐の恐怖にあえいでおる。いま立ったところでそれは変わらん。国民が共和国政府こそ裏切り者の集団であることを認識してからこそ、我々の理想は果たされるのだ。」
「それはいつになるのでしょうか。」
「わからん。一年、いや三年かかるかもしれん。その時はガトー、貴公にも存分に働いてもらう。そして、ゼロは公国の独立、果てはスペースノイドの自立が最終目標だと標榜しておった。彼らが倒れたときは、我々がその志を継がねばなるまい。ジオンの意志を継ぐ者として。」
「ハッ。その時は、彼らに再び悪夢を見せてやりましょう…ただ、踊らされる将兵たちが不憫でなりません。もし許されるならば…」
自らの出撃を暗に望むガトーであったが、デラーズはやはりそれも止めるのであった。
「それはいかん、我々は彼から託されたのだ、公国と、スペースノイドの未来を。その決意を汚すわけにはいかん。結局この期に及んで踊らされるようなものは大事の際にも容易く踊る…ザビ家…『家』によってジオンは負け、ギレン閣下の大義は汚されたのだ。そのザビ家の血を引くものの末路がどうなるか、我々は括目して見届けねばならぬ。」
結果的に、デラーズ艦隊と黒の騎士団との共闘は果たされなかった。ゼロもデラーズも、本心から相手を信頼するということがなかった。求めるものが似通っていたとはいえ、二つの集団は本質的に異なっていた。黒の騎士団は敗れた大義のために見返りを求めずに死ぬ覚悟を固め、デラーズ艦隊は死ぬ覚悟を内に秘め、大義に恥じないように生きようとしていた。どちらが本物のジオン公国軍人だったか、判断できるものはいないだろう。それは彼ら自身の気概であって、客観的に判断できる事象ではないからだ。事実ガトーのように、死ぬ覚悟を決めた黒の騎士団のもとへと馳せ参じようとしたものもいた。だがデラーズは鋼の意志でこれらの願いを拒絶した。「生きねばならぬ。」デラーズは何度もその言葉を口にした。いずれ散りゆく命であっても、まだ今は生きていなければならぬ。
デラーズ艦隊は暗礁領域へと歩を進めた。これから先、彼らは三年間の長きにわたって潜伏生活を送ることになる。公国の大義を再び世界に示す、その日が来るまで。

† † † † †

出撃したパチュリーとアリスは、すでにタチバナが接敵したポイントへと到達しようとしていた。二人の機体を追うようにして、ジムとボールが編隊を組んで飛行する。
「前方に敵MSを多数確認!」
パチュリーがレーダーを見ながら言った。ミノフスキー粒子散布下であってもリトルデーモンの強力なレーダーは接近してくる敵機をはっきりととらえることができた。
「タチバナ機とピクシー機は?」
アリスがパチュリーに訊いた。
「まだ生きてるわ。でもかなり危険な状況よ。」
「了解。私とジム隊はこのまま突っ込むわ。パチュリーはボールを連れて上方へ抜けて。」
「わかったわ。幸運を!」
パチュリーは機体を上昇させ、アリスのストロードールから離れていった。後には6機のボールがしっかりとついてくる。ア・バオア・クーを経験した連邦軍パイロットの技量は飛躍的に上昇していた。あの激戦で腕が未熟なパイロットはほとんど駆逐された。生き残った者はみなやり手のパイロットであった。アリスとともにまっすぐ加速していくジムのパイロットも然りである。


「連邦軍に増援が現れた!これ以上の戦闘はわが方に不利!一時後退する!」
最前線にいるジェレミアからの報告を聞き、ゼロはにやりと笑った。デラーズとの対談を終え、ダモクレスの艦橋へと戻ってきた彼はすでにアリー・アル・サーシェスが敵の戦闘機を一機撃墜したことを聞いていた。そして敵は増援を出してきた。おそらく主力部隊も同じ場所に現れるだろう。そうなれば、ゼロの戦略はほぼ軌道に乗る。
黒の騎士団は、ソーラ・レイを中心としてその発射口に向かって左側に広く展開していた。ソーラ・レイにもっとも近いところにダモクレスが布陣し、その前面には未完成ながらも実戦に投入された空母ミドロがいる。ミドロはドロス級空母の二番艦であり、三番艦ドロワより先に起工されながらも艤装が遅れた為にア・バオア・クー決戦に間に合わず、本国での試験航行中に休戦協定が締結された。ミドロはそのままマハル宙域へと現れ、黒の騎士団の指揮下に入ったのだ。そしてそのミドロを扇の要とする形で部隊が左右に展開していた。ミドロに近づけば近づくほど、配置された部隊の密度は濃くなってくる。敵をミドロにひきつけることができれば殲滅は容易だし、しかもソーラ・レイに被害が及びにくい。ゼロはそれを見越してこのように部隊を配置したのだった。そして案の上、連邦軍は最短距離であるミドロ正面から接近しつつあった。敵を扇の内部へ誘い込むことができれば、ソーラ・レイ発射までの時間を稼げる。
「後退したジェレミア隊を敵が追撃してきたら、即座に左右から挟み撃ちにしろ。退路を断ち、包囲・殲滅するのだ!捕虜を取る必要はない!」
ゼロは命令を下し、艦橋から外を見やった。ダモクレスの上方に鎮座するスザクのランスロットが見えた。戦闘はまだ遠く、爆発の光はほとんど見えなかった。
ゼロは時計を確認する。現在午前3時10分前。ソーラ・レイの発射準備が完了するまで、あと6時間余り。


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12/12 18:53 Windows(PC) [533]エルザス
532

「各MSの発艦準備急いでください!BlackCatの整備完了次第、ディスティニーから順次発艦させます!」
格納庫内にアークの声が響き渡った。いよいよMS隊第二陣の出撃だ。
「じゃあな、フェイト。気を付けてな。」
バルディッシュのコックピットに収まったフェイトを見てキョンは言った。なんとかして誰にも気づかれずに彼女をここまで連れてきた。隣にいるコイズミの助力があったからこそ遂行できた任務だが、あとは彼女に任せるしかない。自分に協力できるのはここまでだ。
「ディスティニーの発進シークエンスが始まったら、一気にカタパルトまで進むんだ。そしてカタパルト上のディスティニーに抱えてもらって出撃する。躊躇したらダメだぞ。」
「はい。」
フェイトはきょとんとした表情だったけれども、返事だけはしっかりとしていた。そう、それでいい。彼女ならできるはずだ。
「どんな戦いになるかわからんが、無理はするな。死んだらなんにもならないからな。ちゃんとここへ帰ってこいよ。」
「お待ちしてますよ。」
キョンとコイズミは相次いでフェイトに言った。
「あの、ありがとうございま…あっ!」
そして彼女がお礼をいう暇もなく、キョンはコックピットのハッチを閉めてしまった。コイズミとならんでフロアに飛び降り、そのままバルディッシュから離れる。
「貴方にしては乱暴なやり方に見えますが?」
コイズミが言ったが、キョンは取り合わなかった。自分らしくないことをしているのは百も承知だ。もともと人助けなんてものが自分の柄にあっていない。
それでも…キョンはちらりとバルディッシュを振り返った。それでも彼女はいい娘だった。助けたくもなる。キョンは再びバルディッシュに背を向けると、そっと手を挙げた。
別れのあいさつにしてはコイズミの言うとおり乱暴なものになるだろうが、なに、彼女とはまた話せばいいのだから。ほんの一時別れるのに、たいそうな言葉を並べる必要はないだろう。
キョンはそう思い、ハルヒの手伝いへと向かった。

キョンが離れていくのを見ながら、フェイトはようやく落ち着きを取り戻していた。こっそりとバルディッシュのコックピットに隠れてから、ずっと緊張しっぱなしだった。いつ整備士に見つかるかわからない恐怖。しかもフェイトはどの整備兵が協力者なのかもよくわかっていなかったのである。それでもキョンとコイズミという整備兵たちのおかげでどうにかここまで漕ぎつけた。自分のために協力してくれた人たちがこの後どんな罰則を受けるのか、フェイトにはわからない。彼らはフェイトがそのことで謝ると、「気にすることはない」とい笑ってくれた。その優しさがフェイトの心には痛かった。初めての優しさ、心のぬくもりがまだ信じられなかったからだ。整備兵だけではない。ナノハやシンがいてくれなかったら、間違いなく自分は死んでいた。二人にはどれだけ感謝しても足りないくらいだ。
だけどその前にまず、けじめをつける。ゼロを止めて、ジオンの人間としての自分に終止符を打つ。そして自分は新しく生まれ変わるのだ。人々の温かさのなかで生きる人間へと生まれ変わりたい。これはそのための戦いだ。自分を救って、そしゼロも一緒に救う。それが今のフェイトの戦う理由であった。
「捨てればいいって訳じゃない。逃げればいいって訳じゃ、もっとない。」
フェイトはつぶやいていた。誰に言うのでもなく、しいて言うのなら、バルディッシュと自分に対して。
「私の、私たちの全ては、まだ始まってもいない。そうなのかな…バルディッシュ。私…まだ始まってもいなかったのかな?」
バルディッシュの機関が動き始める。騒音の中でそれに気づくものはまだいない。
「そうだよね…バルディッシュも、ずっと私のそばに居てくれたんだもんね…お前も、このまま終わるのなんて、嫌だよね。」
私の、私たちの全ては、まだ始まってもいない。
だから、ホントの自分を始めるために、今までの自分を、終わらせよう。
今までの戦いでボロボロになりながらも、なおも自分とともに戦ってくれるバルディッシュに感謝しながら、フェイトは新たな誓いを立てていた。ゼロを止める。それが意味するものは自分にとって何よりも大切だ。今もどこかで戦い続けているゼロ。
「ディスティニー発進します!カタパルト接続、整備員はカタパルト上から退避!」
再びアークの声が格納庫に響き、フェイトははっと我に返った。待機の状態だったバルディッシュをよみがえらせる。動く…!

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12/12 18:54 Windows(PC) [534]エルザス
533

不意に動き始めたバルディッシュを見て、Lv.57はあんぐりと口を開いていた。カタパルトにはすでにディスティニーが乗っているのだ。いったい誰があの機体を…?
「整備士長!あれは!?」
そばにいたMkⅡに向かって声を限りに叫んだ。MkⅡも負けじと怒鳴り返した。
「知るもんか!指示は出てないよ!!」
MkⅡは格納庫の壁にある艦内電話に飛びついた。艦橋を呼び出す。
「もしもし!バルディッシュには出撃命令が出たのかい?誰を乗せた?こっちは聞いてないよ!…なに?…わからない?!じゃああれは誰が…もしもし!もしもし!!」
受話器に向かって叫び続けるMkⅡから目をそらし、Lv.57はバルディッシュに視線を戻した。いまやバルディッシュはカタパルトに上がり、ディスティニーに背中を預けるような姿勢を取っていた。するとディスティニーはバルディッシュに腕をまわし、抱きかかえるような体勢になった。
「まさか…」
Lv.57がつぶやいた瞬間、カタパルトの起動を告げる3つのレッドランプが点灯した。

「どういうことだ?!誰がバルディッシュに?…とにかくカタパルトを止めろ!」
艦橋ではクロノが躍起になってバルディッシュとそれを抱えたディスティニーの発進を止めようとしていた。しかしアークの答えは悲壮感すら漂わせていた。
「緊急時プログラムが走ってます!格納庫からしか操作出来ません!」
「なに?!」
刹那、クロノの足元に轟音が響き渡り、カタパルトから二機のMSが飛び出していった。ディスティニーとバルディッシュは編隊を組んで上昇し、ブラックハウスから離れていった。
「どういうつもりだ?いったい誰が…?」
クロノは一瞬思考を巡らせ、すぐに答えに行き着いた。
「まさか…」
「クロノ副長。」
「!?」
不意にあずにゃんに呼ばれ、クロノは彼女を振り返った。制帽のしたの彼女の瞳はやけに眼光鋭く、有無を言わさぬ威圧感があった。
「今はほかのMSの発進を優先させます。戦闘はすでに始まっています。」
「しかし艦長、あれにはあきらかにフェイトが乗っています!脱走です!」
「まだ脱走と決まったわけではありません。」
レイジングハート発進します!」
あずにゃんの言葉とアークの言葉とがほぼ同時だった。再び足元を轟音が駆け抜け、白亜の機体がカタパルトから飛び出してきた。レイジングハートはなぜか艦橋の真正面に接近すると、艦橋構造物に手を触れて接触回線をつないだ。
「ナノハです。艦長、聞こえますか?」
「こちら艦長です。聞こえています。」

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12/12 18:55 Windows(PC) [535]エルザス
534
あずにゃん以外の全員があっけにとられていた。ナノハはいったいどういうつもりなのか。
「バルディッシュが出撃したことについて、ひとこと言わせてください。」
「どうぞ。」
「バルディッシュにはフェイトちゃんが乗っています。私が彼女をバルディッシュに乗せました。全責任は私にあります。」
「…続けてください。」
「だけど私はまったく後悔していません。自分のしたことが間違っていたとは思いません。それは、フェイトちゃんが助けを求めていたからです。困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、そのときは迷っちゃいけないって。これ、うちのお父さんの教えです。私はそれが正しいと思ったから、ほんの少しだけどフェイトちゃんに力を貸しました。だけどフェイトちゃんなら、ちょっと力を貸すだけできっとゼロを止められます。そしてまたここへ帰ってきます。私はそう信じます。」
ほんの少しの間、息が詰まるような沈黙が流れた。
「わかりました。前線へ向かってください。気を付けて。」
「はい。艦長も。」
レイジングハートが加速し、あっという間に見えなくなった。
「…まさか艦長、フェイトが本当にゼロを止めようとしているとお考えですか?」
あずにゃんをにらみながらクロノは言った。
「そう思っています。たぶんクロノ副長もそう思っているはずです。」
「馬鹿な…!」
「BlackCatとRX、同時に発進します!」
アークがあずにゃんとクロノのやり取りを気にしつつも叫んだ。これでMSは全機飛び立った。またしても沈黙が艦橋を支配する。
そこへハルヒが威風堂々と入ってきた。キョンも一緒だ。
「スズミヤ技術大尉、第一戦闘配備だぞ!部署を離れるな!」
クロノはいきなりハルヒを叱りつけた。しかしハルヒは意に介さずといった様子であずにゃんに向き合った。
「重要な報告があったので参りました。廃棄予定だったMSをシンに頼んで捨ててもらいました。」
「なっ?!」
これにはクロノだけでなく、無表情だったあずにゃんも驚いていた。ハルヒの大胆不敵な言い訳に圧倒されたといってもいい。
「そんなとってつけたような言い訳が…もしそうだとしても敵兵士を乗せていたのは立派な利敵行為に…!」
「クロノ副長。ハルヒさんの言っていることは本当です。」
再び無表情に戻ったあずにゃんがクロノを制して言った。
「本気ですか艦長?彼女はついさっきまでジオン軍にいました。そもそもそれ以前に捕虜虐待です、南極条約違反になります!こんなことは間違っています!」
「いいえ、彼女はそもそも捕虜ではありません。彼女はツィマッド社の社員でジオン軍に戦時徴用された民間人であり、我々に保護された彼女が志願した…現地徴用兵です。」
「……」
クロノはもう言葉もなかった。ありえない。こんなことが軍隊の中で起こっていいはずがない。

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12/12 18:56 Windows(PC) [536]エルザス
535
「クロノ、一つだけ言わせて。」
それまでクロノを無視しているようだったハルヒが不意に口を開いた。
「フェイトは運命に弄ばれた娘なの。彼女自身にはなんの罪もないのに、ひどい宿命を背負わされて、いままでたった一人で戦ってきた。自分に罪はなくとも、自分にふりかかる出来事は全部自分の責任だと思ってね。
だけど彼女は知らなかっただけなのよ。ほかの人に助けてもらうってことを。助けてもらえるんだってことを知らなかった。悲しいわよね、彼女は自分から助けを求めたことなんて一度もなかったのよ?それが許されることだとも思っていなかったんだから。誰かによりかかったっていいのに、あんな小さな躰で彼女はすべてを背負ってきた。そんな彼女が初めて、人に助けを求めているのよ?ゼロを止めたいっていうその一心で、必死に助けを求めてる。それに救いの手を差し伸べる私たちは、はたしてクロノの言うような間違った人間なのかしら。
こんなはずじゃなかったのよ、彼女の運命は。何一つ間違ってないのに、彼女はとことんまで悲しい目にあってきた。助けてあげたいと思うじゃない?」
クロノは黙って聞いていた。正しい。ハルヒが言っていることは全部正しい。自分の本心はそう思っている。クロノ自身もそれは自覚している。そうか…
「世界は、いつだって…こんなはずじゃないことばっかりだよ。ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ。こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ。だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない。
ただし、相手が助けてくれるのならば…そうか…」
この船の団結力は恐ろしい。正しいのは自分のはずなのに、これでは自分が悪者ではないか。いや、明らかな不正を前にして反射的に反対してしまったが、実は自分もフェイトの言い分が真実であると考えていたのではないのか。だがそれは許されるはずはないと思って、思考から押しやってしまっていたのではないか?ならば、これでいいのではないか…?
それに、とクロノは思い直す。もう自分たちとフェイトは、無関係なんかじゃない。
長い沈黙が流れた。あずにゃんもクロノも、ハルヒもキョンもアークもカントーもはちゅねもジョーンズも、何も言わなかった。戦闘の音も聞こえなかった。
重い口を開いて、クロノは言った。
「…あとでフェイトによく言って聞かせないと、上層部が調査に乗り出したらそれまでです。」
「わかっています。口裏合わせのシナリオ作りは副長に任せます。」
あずにゃんはこともなげに答えて見せた。クロノはため息を一つつき、肩をすくめた。
「了解しました。うまくやります。」
「ありがとうございます。」
あずにゃんはクロノに向かってにっこりとほほ笑んだ。クロノは自分が赤面するのを怖れて目をそらした。きまりが悪いにもほどがある。
「それはさておき、ハルヒさんには無断投棄の責任を取ってもらわないと。戦闘が終わるまで独房入りを命じます。キョンさん、彼女を連れて行ってください。」
「ハッ。」
ハルヒは黙ったまま艦橋を出て行った。さりとて不満があるという様子でもなかった。それくらいの責任を取る覚悟はあったようだ。
「…この処分では不服ですか?」
あずにゃんはさきほどとは全く違う、探るような調子でクロノに尋ねた。クロノは開き直ってさばさばした口調でそれに答えた。
「減棒処分で内々に処理くらいは必要でしょう。まぁわざわざ身内の恥を晒す必要はないと思います。とりあえずあの3人には何か奢ってもらいましょう。」
脱走者が出たわけではない。クロノは確信した。そうではない。仲間が増えただけだ。


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12/12 18:56 Windows(PC) [537]エルザス
536
パチュリーは焦っていた。引き連れていたボールのうち2機を撃墜され、しかも敵の数は増え始めていた。形勢は極めて不利だ。不意に背後に殺気を感じ、振り向きざまに機体の腕部に装備されたグレネード・ランチャー発射する。今にも襲いかからんとしていたザクが直撃をくらい、下半身が吹き飛んだ。
「アリス!敵の数が増えてるわ!合流して体勢を立て直しましょう!」
無線でアリスのストロードールを呼び出す。しかし、返答はない。
「アリス?こちらパチュリーよ!返事をして!!」
その時、パチュリーは視界の端にすさまじい勢いで機動するボールの姿を捉えた。特殊なカラーリングのその機体はアリスのストロードールに付属するAI搭載型ボール、「ホウライ」であった。半自立型のホウライが戦っているということは、アリスはこの付近にいるはずだ。ひょっとするとミノフスキー粒子が濃い場所にいるのかもしれない。パチュリーはこれまでの戦闘中に大量のミノフスキー粒子を散布していた。だから無線がつながりにくいのかもしれない。
パチュリーはそう判断し、自分に向かってくるドムと向き合った。今はアリスを探している余裕がない。次から次へと現れる敵機を倒さねばならない。
パチュリーはリトルデーモンを駆り、急速にドムへと接近していった。

「こちらガルム2!相棒、まだ生きてるか?」
無線から聞こえてきたピクシーの声を聞き、タチバナは少し安心していた。
「ピクシー、無事だったか。こっちは何とか無事だ。お前はどこにいる?」
タチバナはあちこちを見まわしながら訊いた。敵機ばかりが目につく。味方の機影が少なすぎる。
「お前の真下だ。右後ろにつける。」
足元から片方の翼を派手なレッドに塗ったセイバーフィッシュが現れた。コックピットでピクシーが親指を立ててみせる。タチバナもそれに答え、両機は編隊を組んだ。
「戦闘の激しさは今までで一番かもしれない。セオリーから外れない方がいい。編隊飛行で戦闘だ。」
タチバナは自分にしっかりとついてくるピクシーに言った。こうして二人だけで編隊を組むのは久しぶりだった。二人だけになってしまった。
「了解だ。ドッグファイトに持ち込んでもMS相手じゃ勝ち目がないからな。止まってる敵、もしくは他から離れている敵を狙おう。」
「そうだ。いつも通りだ。行くぞ!」
タチバナは機体を急上昇させ、一機のゲルググに真下から接近していった。ピクシーもぴったりと張り付いている。ゲルググはこちらに気づき、ビームライフルを向けたが、タチバナはその時にはすでにレールガンのトリガーを引いていた。一瞬遅れてピクシー機もレールガンを発射し、ゲルググは両機の攻撃を受けて沈黙した。まずは一機。PJの弔い合戦だ。
その頃、タチバナの後方にシンを先頭にしたMS部隊第二陣が到達しようとしていた。ブラックハウスから発進したシン、フェイト、ナノハ、ナガモン、黒猫がそれぞれの愛機を駆って突き進む。さらにそのあとには第二連合艦隊の各艦から出撃してきたジムやボール、さらには通常弾頭のミサイルを抱えたパブリクまでもが続いていた。
「フェイト、聞こえているか?」
ナガモンはフェイトの乗るバルディッシュに通信を入れた。もともとは敵のものだった機体に通信するというのは、なんとも妙な気分だった。
「聞こえています。」
凛として透き通った声が返ってきた。フェイトは落ち着いている。
「お前はこれからオレの指揮下に入れ。いま敵味方識別のコードを送る。」
「はい。」
バルディッシュが連邦軍の識別コードを発信し始め、ナガモンは満足そうにうなずいた。これでフェイトが味方に、連邦軍に誤射されることはないはずだ。
「よし。いいなフェイト、お前はシンとナノハから離れるな。ゼロがいる場所を探しだし、やつを止めろ。できるな?」
「やります。」
フェイトは即答した。その為にここまで来たのだから。
「2時の方向に敵MSを捕捉!ナガモン!」
黒猫が注意を喚起する。ナガモンは深く息をしてから、頼りになる仲間たちに語りかけた。
「…ここが最後の場所だ。油断するな。オレたちの最終目標はソーラ・レイの破壊だ。敵には巨大な空母がいるが、そっちには目もくれるな。ソーラ・レイをつぶせ。
みんな、死ぬなよ。」
すぐそばを飛ぶ仲間たちの機体から、燃えたぎるような闘志が溢れかえっていた。絶対に戦い抜く。ここで戦争を終わらせる。今こそ敵を討つ時だ。守るべき未来と、世界の平和のために。
「散開!!」
ナガモンが叫び、MSが一斉に上下左右に散った。そのまま敵のMS部隊と交わり、激闘が始まる。最終決戦のゴングが鳴り響いた。

「敵艦隊捕捉!ほぼ方位032から348にかけて展開、MS第二陣ははすでに交戦を開始した模様です!」
カントーが報告し、あずにゃんは二度三度とうなずいた。
「私たちもMS隊に続きます。ブラックハウス、敵艦隊へ向けて最大船速!全砲門開いてください!第二連合艦隊の血路を切り開きます!」
機関がうなりをあげ、ブラックハウスは轟々たる勢いで敵陣へと斬り込んでいく。あとに続くマゼラン、サラミス、そして補給艦であるマゼラン級の姿もあった。文字通り第二連合艦隊の全力出撃。迎え撃つ敵艦隊との間に熾烈な砲撃戦が始まった。
「右舷弾幕薄いぞ!なにやってんの!」
クロノが砲撃戦の指揮をとり、ブラックハウスはいきなり敵のムサイを撃沈した。飛び交うビームが艦橋にいるクルーの表情をちらちらと照らす。
「第六艦隊ベーダ―卿より入電、『第六艦隊先遣隊、バスク少佐指揮の部隊はまもなく戦域に到達予定』とのことです!」
はちゅねが落ち着いて電文を読み上げると、それに答えるようにカントーが声を張った。
「8時の方向に友軍の艦隊近づきます!バスク艦隊です!」
あずにゃんが左舷側に目をやると、やや離れた宙域でも艦隊砲撃戦が行われているのが見えた。すでに轟沈した船が出たのか、ひときわ大きな光が巻き起こり、あずにゃんを照らした。
「バスク少佐もやりますね。」
クロノがあずにゃんに言った。バスクという男は粗雑で乱暴な人物ではあるが、戦闘では無類の戦果をあげているのも事実だった。
「同感です。しかし、あの宙域は敵空母の真正面にあたるのでは?」
あずにゃんはソーラ・レイと第二連合艦隊の位置関係を思い描いていた。第二連合艦隊は敵の中央からむかってやや右寄りに攻撃を仕掛けた。バスク艦隊がいるのは敵陣のほぼ中央部分だ。その先にはジオンの空母ミドロが待ち構えている。
「第六艦隊は空母も沈めるつもりでしょうか?」
クロノにそう訊かれ、あずにゃんは首を左右に振った。
「わかりません。とにかく私たちは自分のやるべきことをやるだけです。」
「ハッ。」
クロノは船の正面に向きなおり、艦隊の僚艦に指示を飛ばし始めた。高度な連携プレーを演じなければ、艦隊砲撃戦には勝利できない。
あずにゃんは近づいてくる敵艦隊を見据え、制帽をかぶりなおした。

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最終更新:2010年12月24日 02:55
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