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Requiem その8

「どこにこれだけのMSを隠していたんだ?!」
ナガモンは叫んでいた。ソーラ・レイにとりついてからずっと、次から次へと敵のMSが現れ、ナガモンとグラハムに襲い掛かってきていた。頼みの綱の第二連合艦隊は敵艦隊に遮られてその姿が見えない。
「この程度の数で、私を止められると思うな!」
一機のザクを撃墜したグラハムが雄々しく叫ぶ。二人の周囲にはいまや20機近い数の敵MSが残骸となって漂っていた。それを遮蔽物にして、また別の敵機が接近してくる。
「後ろだ!グラハム!!」
「南無三!!」
ナガモンの叫びにグラハムは即座に反応し、フラッグⅡの背後からジャイアントバズーカを放とうとしていたリック・ドムを瞬殺した。
「感謝するぞガンダム!」
「余計なお節介だったか?とにかく無事で何よりだ。」
「お節介なものか、君とガンダムへの想いが、私を強くする。」
「ふん、精神論だな。それより、これ以上ここで頑張っていても味方は現れそうにない。いっそのこと元来た道を戻って味方に合流し、その上でここまで艦隊をひっぱて来ようと思うんだが、どうだ?」
「いいだろう。敵中突破だ。」
「よし、行こう!!」
BlackCat が一瞬で加速し、フラッグⅡがそれに続く。二人の機体は空母ミドロに向かって飛んだ。一度敵艦隊の上方に位置を占め、その向こうにいるはずの第二連合艦隊をさがすのだ。しかし、敵のMSが目ざとく二人を見つけて攻撃を加えてきた。さらに空母ミドロから何機かのゲルググが発進してくるのが見える。おそらく補給を受けに空母に着艦していたのだろう。
「後ろにつかれると厄介だ!いま出てきたゲルググは倒してから行くぞ!」
「望むところだ!」
BlackCatとフラッグⅡは散開し、それぞれ別のルートからミドロへと接近していった。
「ソーラ・レイに比べれば小さいが、それでも…!」
近くによってみると、その大きさは見るものを圧倒するようだった。ナガモンは編隊を組んだまま向かってくる敵のゲルググに照準をあわせ、ビームライフルの引き金を引いた。だがゲルググの編隊はぱっと散開し、ビームは外れてしまった。
「そうこなくっちゃ!」
敵が撃ちかけてくるビームをよけつつ、ナガモンは叫ぶ。ゲルググ編隊は上下に分かれ、下方にまわった二機の敵機はナガモンの背後をおびやかした。それに構うことなく、BlackCatは上方のゲルググに向かっていく。数はこちらも二機だ。
「そこッ!!」
改めてビームライフルを発射し、片方のゲルググは頭部を撃ちぬかれた。残る一機はビームサーベルを抜いて突っ込んでくる。
「やるのか…!?」
ナガモンもサーベルを抜き、相対距離がぐっと縮まる。
「くらえ!」
ナガモンはサーベルを敵機に向かって突き出した。だが敵はそれをするりとかわし、すれ違いながらBlackCatの胴に切りかかってくる。
「!」
BlackCatはトンガリコーンスラッシュで敵機の腕を押さえ、切らせない。次の瞬間には両機はすれ違っていた。BlackCatは逆立ちの姿勢になりながらも素早くビームライフルを構える。
「落ちろぉ!!」
トリガーが引かれ、背中を見せたままのゲルググはバックパックを射抜かれていた。爆発が起こり、ナガモンの顔を明るく照らす。その瞬間、彼女は背後に強烈な殺気を感じていた。誰かが自分を狙っている。
「下か!!」
叫びながら機体をターンさせた。目の前を二条のビームが駆け抜けて行く。後方ななめ下、残る二機のゲルググだった。
「こざかしい…、なにっ?!」
ナガモンがビームライフルを向けた瞬間、二機のゲルググは同時に爆発してしまった。まだ撃っていないのに。
「私はがまん弱く落ち着きのない男なのさ。しかも、姑息なまねをするやからが大の嫌いときている…ナンセンスだが動かずにはいられない!」
「グラハムか!」
そう、ナガモンを背後から付け狙っていた二機のゲルググを葬ったのは、グラハム・エーカーの早業であった。一瞬で二機のゲルググを同時撃破。さすがだ。
「いい腕だな、グラハム。」
「借りを返したまでだ。それより、敵艦隊に動きがみられる。前進していくようだ。」
「間もなく第二連合艦隊がここに到達するはずだ。殴り込んで混戦に持ち込むつもりか?被害は大きいだろうが、時間稼ぎにはいちばん有効な作戦だな。」
ナガモンはこちらに背中を見せている黒の騎士団艦隊を見やった。ほぼ間断なく発射されるメガ粒子砲の向く先には、あずにゃんたちが来ているはずだ。

† † † † †

「密集隊形を崩さないでください!対空砲火の弾幕を絶やさないで!」
ブラックハウスの艦橋では、あずにゃんが声を嗄らして叫んでいた。
「左舷からの敵MS隊、突撃第二波来ます!正面からは敵艦隊が急速接近中!!」
カントーも周囲に轟く爆音に負けない大声で叫ぶ。あずにゃんはモニターに映る敵艦隊を強く睨みつけた。こちらの行く手を阻む意図なのは明らかだ。
「第二連合艦隊、右四点逐次回頭!!敵艦隊の鼻先を抜けます!機関最大!全速前進!!」
あずにゃんの命令により、第二連合艦隊の先頭を行くウォースパイトが右へ45度旋回した。続航する各艦が順に面舵を切り、真正面に見えていたソーラ・レイが左へと流れていく。
「ブラックハウス、何をしてるの?!ソーラ・レイはそっちじゃないわ!」
敵MS隊と交戦中のパチュリーから通信が入る。戦闘のさなかでも広い視野を失わないあたりさすがだ。
「わかっています。しかし敵艦隊と真正面からぶつかりあうよりは、この方が被害も少なく時間も短縮できるはずです!」
エイミィがパチュリーに返答する。彼女はあずにゃんの意図を正確に読み取っていたが、さらに付け加えるとすれば、左翼から接近中の敵MSの突撃から距離を置くという狙いもあった。スザク率いる黒の騎士団MS隊は、隊長のスザク以下数機がカレンやタチバナ、そしてパチュリーを倒すため足を止めたが、大部分はそのまま第二連合艦隊へと襲い掛かってきていたのである。艦隊は側面を強襲された形になったが、手持ちのジムを投入してなんとか敵を食い止めている状況であった。
「敵艦隊の後方に巨大空母が接近中!せり出すように近づいてきます!」
カントーが不気味な敵の接近を告げた。空母ミドロだ。
「無視してかまいません。今は敵艦隊の猛攻に捕まらないことが大事です。空母に構っている暇はありません。アークさん、黒猫さんたちは?もうソーラ・レイにとりついたんでしょうか?」
「まだです!敵艦隊の中で暴れまわってます!すでに戦艦二隻を撃沈!」
「ではナガモンさんは?」
「こちらに戻ってきています。間もなく黒猫中尉と合流できるかと思われます!」
「わかりました。黒猫さんたちには敵艦隊をできるだけ混乱させてもらいましょう。その間に第二連合艦隊はソーラ・レイの正面に戻ります!」
「敵艦隊からの斉射来ます!!」
エイミィが叫んだ次の瞬間、無数のビームやミサイルが第二連合艦隊に襲い掛かった。ブラックハウスにもミサイルが直撃し、艦橋を激しい振動が襲う。
「きゃあああああああああっ!!」
アークとカントーが同時に悲鳴をあげ、あずにゃんは艦長席にしがみついてどうにか体勢を保った。
「くっ、損害報告を!!」
「左舷ガンルーム付近に被弾!被害甚大!」
エイミィが切迫した声を上げる。
「左舷Bブロックを閉鎖します。付近の船員は直ちに退避!艦隊の僚艦に被害は?!」
あずにゃんが今度ははちゅねに問う。
「オーバー・ザ・レインボウ、シンベリン、タイタスが被弾するも損害軽微!アンドロニクス、オセロが中破、続航不能!テンペスト、応答ありません!!」
「生き残った船だけでも突進を続けます!反撃の手を緩めないでください!」
「被弾した船を見捨てるんですか?!」
「敵はまだ動ける船を狙ってくるはずです!命令を伝えてください!」
「…了解…!」
はちゅねが各艦との連絡を始めたとき、あずにゃんはひそかに涙をぬぐっていた。攻撃を受けた味方は、この混戦では撃沈される可能性が高いだろう。だが、彼らのために立ち止るわけにはいかないのだ。ソーラ・レイの発射までもう時間がない。一刻も早くソーラ・レイを狙える位置に戻り、それを破壊しなくてはならない。どんなに無慈悲な判断であれ、彼らを助けられる余裕は、第二連合艦隊にはないのだ。艦隊司令とは、なんと残酷な役目なのだろうか。
「センパイ…力を貸してください…」
あずにゃんはか細い声でそっとつぶやいた。

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01/22 23:58 Windows(PC) [572]エルザス
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フェイトは猛然と蜃気楼を攻撃していた。さきほどダモクレスを飛び出してきた蜃気楼は、即座にフェイトとシンに向かってきた。二人は探していた敵、すなわちゼロを見つけていきりたった。ここでゼロを討てれば、この戦いを終わらせることができる。フェイトはそう信じていたのだ。
だが、蜃気楼のシールドは鉄壁であった。バルディッシュとディスティニーが繰り出すあらゆる攻撃は跳ね返され、二人は蜃気楼の本体に傷ひとつ負わせることができなかった。そうしている間にダモクレスはどんどん遠ざかっていった。進行方向にはブラックハウスと第二連合艦隊がいるはずだ。行かせてはならない。
「シン、ここはまかせて、ダモクレスを追って!ダモクレスはブラックハウスに向かってる!」
フェイトは蜃気楼に切りかかっているディスティニーに告げた。
「一人で大丈夫なのか?とんでもなくかたいぞ、こいつ!」
攻撃を跳ね返され、機体ごと押し戻されたディスティニーでシンが応じる。
「大丈夫。シンはブラックハウスを守らなきゃ。私は、自分のなすべきことをなす。」
「わかった。気を付けてな。死ぬんじゃないぞ!!」
ディスティニーの機体が翻り、蜃気楼に背を向けて加速していった。ダモクレスを猛追していくシンを見送り、フェイトは蜃気楼に視線を戻した。
「フェイト、君が立ちはだかるとは思っていなかった。」
不意に通信が入った。蜃気楼からだ。
「私も、まさかあなたがこんなことをするなんて思っていませんでした。」
フェイトの表情が曇る。
「信じていたのに…」
絞り出されたフェイトの声に、ルルーシュの声は悠然とした態度を崩していなかった。
「いずれ君にもこの作戦の本質がわかるだろう。ジオン国国民は目を覚まさなければならない。あるべき終戦の形へ祖国を導くために、俺はまだ戦わなくてはならない。」
「あなたがやりたかったことはこんなことではなかったはずです!あなたが目指していたのは、みんながもっと幸せになれる未来だった。私はあなたのその夢に自分の夢を託していたんです。なのにあなたはそれを…!」
「裏切ったと言いたいのか?間違っているぞフェイト。自分の夢は自分で掴むしかない。自分の命を懸けて、目標を達成するしか、人が幸せになる方法は存在しない。」
「あなたがやろうとしていることで、幸せになる人がいるんですか?!」
「いずれわかるさ、君にも。」
「私にはわかりません!!」
フェイトは叫び、バルディッシュを駆った。ビームスピアーが突き出され、蜃気楼のシールドを叩く。蜃気楼はスピアーが跳ね返ったほんの一瞬だけシールドを解除し、胸部のビームを放った。俊敏なバルディッシュはこれをかわし、再びビームスピアーを繰り出す。
ルルーシュとフェイト、奇妙な運命を背負った二人の戦いは、まだ始まったばかりであった。

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01/22 23:59 Windows(PC) [573]エルザス
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第二連合艦隊の左翼では、カレンとスザクの壮絶な一騎打ちが続いていた。カレンの乗る紅蓮弐式が右腕を大きく伸ばし、スザクのランスロットはシールドを展開する。刹那、紅蓮弐式の輻射波動砲が起動し、ランスロットのシールドは激しく火花を散らした。
「これで輻射波動は弾切れ…!」
必殺技を封殺されたカレンが苦々しげに言う。
「シールドエナジーも尽きたか…!」
一方のスザクも防御の手立てを失い、息を荒げていた。
「それでもッ!」
カレンが紅蓮弐式を上昇させ、スザクがそれに反応して機体を動かす。決定的な武装を失った両機は、今やヒートサーベルだけで敵を倒そうとしていた。双方の機体が幾度となくすれ違い、そのたびに火花が飛び散る。時折機体から小さなパーツが弾け飛ぶが、二人ともそんなことは気にしていない様子だった。とにかく動きを止めてはならない。常に機動し、敵の狙いをそらすこと。
黒の騎士団のエース同士の戦いは続いてゆく。そう、最初からわかっていたのだ。この戦いは、どちらかが、あるいは双方が倒れるまで、決して終わらないのだと。




黒猫たちと合流したナガモンは、グラハムとともに黒の騎士団艦隊をこれでもかというほど痛めつけていた。
「苦しみが残していったものを味わえ!!」
ナガモンが一喝し、BlackCatはジャイアント・バズを発射した。弾丸は一隻のムサイに吸い込まれるように飛翔し、そのムサイ―――マネキン艦隊の生き残り、戦艦アイメルであった―――は艦橋に直撃弾をくらって大破した。
「なんで戦うのをやめようとしない!もう負けたんだよ!お前たちは!」
ナガモンは叫びながら次の目標に向かう。黒の騎士団の戦艦群は、ナガモンや黒猫たちによって重大な損害を追っていたが、それでもブラックハウスをはじめとする第二連合艦隊への射撃をやめていなかった。
「ナガモン、艦橋をつぶす必要はない!メガ粒子砲とミサイルの砲門をつぶせばそれでいい!」
黒猫のRXがBlackCatのそばに寄ってきた。ナガモンは黒猫に言われた通りにした。構えたビームライフルの射角をわずかに調整し、敵艦の艦橋に向けていた銃口をメガ粒子砲の砲塔に向けた。トリガーが引かれ、BlackCatが放ったビームは狙っていた砲塔を見事に撃ちぬいていた。
「同胞を傷つけるのは本意ではないが…!」
グラハムのフラッグもまた、敵艦の対空機銃座をつぶしていた。黒の騎士団はかつて自分と一緒に戦った仲間だ。彼らを討たねばならない自分の身の上の、なんと数奇なことか。だが、それを嘆いている場合ではない。道を踏み外した彼らに引導を渡すのも、自分の役目であるように思われた。
「以て瞑すべし、黒の騎士団!!」
グラハムは叫び、また一隻の戦艦が戦闘能力を失った。

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01/22 23:59 Windows(PC) [574]エルザス
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ブラックハウスの艦橋では、あずにゃんが艦隊に指示を飛ばしていた。
「ナガモンさんたちが敵艦隊を叩いています。この隙に敵艦隊の真横を通り抜けます!第二連合艦隊、左四点順次回頭!!左舷全砲座は全力射撃を維持!ソーラ・レイの正面に出ます!!」
第二連合艦隊で動ける船は、ついに5隻を数えるのみとなった。ウォースパイトを先頭に、ブラックハウス、オーバー・ザ・レインボウ、シンベリン、タイタスの各艦が続く。その後方には、落伍して真空を漂うだけの友軍艦の姿があった。彼らはすでに戦闘能力と推進力を失い、この危険な戦場で救援をじっと待つしかない。あずにゃんは艦隊に残っていたジムを彼らの護衛に残していた。これで敵MS隊をすべて防げるとは思えないが、励ましくらいにはなるはずだ。


ブラックハウスの右舷格納庫では、戦いから補給に戻ったジムを全力で修理する整備班員の姿があった。
「第二連合艦隊が生き残ってるうちにこのジムを出すわよ!みんな、いつもの百倍気合入れなさい!!」
いつのまに独房を出たのであろうか、整備の指揮をとっているのはほかならぬハルヒであった。その傍らには、ハルヒと同じく独房に入っていたはずのミクル・アサヒナの姿もある。
「団長!もう右足の高圧導管のスペアがありません!」
声を張り上げたのはコヨミ・アララギであった。アララギは恋人のヒタギ・センジョウガハラと一緒に、一機のジムの脚部を点検していた。
「あそこにあるボール用ので代用しなさい!ユキ、手伝ってあげて!」
ハルヒは格納庫に隅に置かれた予備のパーツを指差した。ハルヒに呼ばれたユキ・ナガトは手にしていたメガネレンチを置き、アララギのもとへ駆け寄った。
「キョン、あれを運ぶの手伝ってあげなさい。泣くのはそのあと。」
ハルヒは自分の足元に座り込んでいるキョンにも命令した。いつもよりいくらか優しい口調だった。
「別に泣いてるわけじゃない。考え事してただけだ。」
キョンはふらりと立ち上がった。その眼はどことなくうつろだ。目の前でMKⅡとコイズミの死を目撃したキョンを、整備班の誰もが心配していた。
「考える暇があったら手を動かす。それがSOS団の鉄則よ。覚えておきなさい。」
ハルヒはキョンの手をとって言った。キョンの手は機械油で汚れているが、ハルヒの手はきれいだった。
「一番手を動かしていないのはお前じゃないのか?」
「私の仕事は頭を使うことだもの。使う頭のないキョンは手を動かすの。わかった?」
「はいはい、わかりましたよ。」
「わかったらさっさと働きなさい、バカキョン!」
ハルヒはキョンの手を放し、つっけんどんに言い放った。キョンはため息をついて予備のパーツをとりに歩き出した。と、突然歩みをとめ、ハルヒを振り返った。
「ありがとな、ハルヒ。おかげでなんとなく、元気がでた。」
「…ふん、さっさと働きなさいっていってるでしょ?感謝の気持ちは労働で示してほしいわ。」
「わかったよ。」
キョンは再び歩き出す。その背中を見つめるハルヒの頬は、すこし紅潮しているようにも見えた。


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01/23 00:00 Windows(PC) [575]エルザス
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医務室でも死闘が続いていた。アベ軍医は手を尽くして負傷兵の治療にあたったが、すでに何十人もの兵士が命を落としていた。アベとミチシタが怒鳴りあいながら医薬品を手渡しし、ほかの衛生兵たちも絶え間なく動き回っている。
クロノはそれをどこか他人事のような気分で見守っていた。思考がぼやけてまとまらない。自分の傷が思ったより重症であったことを、彼は今更ながらに実感していたのだった。絶対安静だと言い張って自分をとめようとしたミチシタをふりきり、カレンを紅蓮二式に乗せて出撃させた。そこまではよかったのだ。クロノは紅蓮を見送った直後に失神し、こうして医務室に連れ戻された。だが、医務室はもう負傷兵でいっぱいであり、アベやミチシタがクロノにしてやれることもそれほど残されてはいなかった。
クロノは猛烈に煙草を吸いたい衝動に駆られた。傷は相変わらず痛むし、この部屋には血の匂いが充満していた。気分転換をしたかったのだ。だが、壁に貼ってある禁煙のポスターを見てそれも諦めた。煙草は体に良くないと、母さんによく聞かされていたっけ…
急に視界がぼやけはじめ、クロノは驚いた。彼は涙を流していた。それがなぜなのかわからず、クロノは当惑した。いったい今になってなぜ、自分は涙なんて流しているのだろうか。見当もつかない疑問だったが、クロノは涙をぬぐうこともせず、そのままにしておいた。急に眠くなってきた。目をつむると、溢れた涙が頬を伝った。瞼の裏に優しかった母の姿が浮かぶ。瞼の母というやつか。だが母の姿はすぐに掻き消え、エイミィやナノハ、シン、それにアースラクルーみんなの表情が浮かんだ。みんなクロノに笑いかけていた。安らかな気持ちだった。クロノは深い眠りに落ちてゆく。自分を支えてくれたみんなの笑顔に囲まれて、自分も笑顔を浮かべて。
この時、時刻は午前八時ちょうど。ソーラ・レイ発射まであと一時間を切った時点で、クロノ・ハラオウンの意識は途絶した。彼の静かな死に気づくものは、まだ誰一人としていなかった。


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01/23 00:01 Windows(PC) [576]エルザス
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シンはダモクレスまであと一歩のところに迫っていた。だがダモクレスからの対空砲火は熾烈で、これ以上距離を詰めることができない。焦るシンの視線の先、漆黒の戦艦の姿が見え始めた。ブラックハウスだ。その周囲には生き残った第二連合艦隊の戦艦。
「くそっ!」
シンは毒づき、ディスティニーを無理やりに加速させた。曳光弾が機体のすぐ横を通過していくが、構わずダモクレスに接近する。
「でやあああああああああっ!!」
気合一閃、ディスティニーはアロンダイト・ビームソードを振り下ろした。巨大な制動刀はその切っ先をダモクレスの船体に食い込ませた。シンはそのままビームソードを斬り進め、ダモクレスの表面に巨大な切り傷を穿った。その時、ダモクレスは不意に推進機能を停止した。
「やったか?!」
シンはビームソードを引き抜き、機体を後退させた。戦艦の轟沈に巻き込まれてはたまらない。
だが、ダモクレスは爆発したりしなかった。船体を鳴動させたかと思うと、ダモクレスは両舷から一機ずつ、かなりの大型ミサイルを発射した。
「あれは?!」
シンはミサイルの向かう先を見た。いや、見るまでもなかった。ミサイルが向かう先にいるのは、あずにゃんの第二連合艦隊に他ならない。
「逃げろブラックハウス!逃げてくれ!!」
シンは我を忘れて叫んでいた。


「方位330より高熱源体接近!!こっちに向かってきます!大型ミサイルです!!」
カントーが叫び、あずにゃんははっと息をのんだ。敵艦隊をやり過ごしたこと思った矢先の出来事だった。
「全艦緊急回避!」
あずにゃんが叫ぶのと同時に、ジョーンズが舵を大きく右に切った。ブラックハウスの船体が大きく傾き、機関は最大出力をたたき出す。
「ミサイル、後方の友軍艦に向かいます!シンベリンへの直撃コース!」
カントーが再び叫んだとき、あずにゃんは接近してくるミサイルを肉眼で確認していた。士官学校でデータを見たことがある。超大型熱核ミサイル、Jミサイルと呼ばれるものだ。
「総員衝撃に備え!!」
あずにゃんが声を荒げた次の瞬間、大型ミサイルはその弾頭を起爆させた。


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01/23 00:01 Windows(PC) [577]エルザス
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このミサイルは、正確にはJミサイルとは異なる兵器であった。といっても原理は同じ熱核弾頭であり、黒の騎士団ではこれを「フレイヤ」と呼称していた。フレイヤは黒の騎士団がたった二発だけ開発した究極の戦術核兵器であった。その弾頭が起爆すれば、半径1000メートル以内にある物質はすべて完全に消滅する。ゆえに、フレイヤ使用のタイミングはゼロの厳命によって明確に示されていた。すなわち、「一撃において敵艦隊の殲滅を図れる場合」である。
今まさに起爆したフレイヤは、当初の目標どおり第二連合艦隊を殲滅した。戦艦シンベリンを中心として起こった爆発は、シンベリンの前方を航行していたオーバー・ザ・レインボウを巻き込み、さらに後方にいたタイタスとその後ろで漂っていた戦艦数隻をも呑み込んでいた。その周囲で護衛の任務にあたっていたジム部隊も同様の運命をたどった。
コロニーレーザー、あるいはソーラシステムに匹敵するほどの光が第二連合艦隊を包み込み、その光が消えたあとには、戦艦もMSも人間もなにもかもが消え去っていた。

「そんな…ここまで来て…」
呆然とつぶやくあずにゃんの視線の先、さっきまで頼もしい友軍艦がいた場所には、なにも残っていなかった。生き残ったのはわずかにブラックハウスとその前を行くウォースパイトのみ。ソロモン、ア・バオア・クーの激戦を戦い抜いた第二連合艦隊は、今度こそ壊滅したのである。
「二隻だけで、どうやってソーラ・レイを…」
アークがあずにゃんを見ながら言った。あずにゃんは黙したまま答えなかった。

シンは、フレイヤ弾頭の起爆によって呆然自失となっていた。この期におよんで、自分たちはまたしても仲間を失ってしまった。そこまでして抵抗する強い意志がこの黒の騎士団にはあるのか?敵も味方も次から次へと一瞬にして死んでゆくのに。
恐怖と憎悪が渦巻く戦場に、今よりいっそうの怒りの感情が爆発しようとしていた。
「お前たちがあああああっ!」
怒りに任せて制動刀を振るうディスティニーに対して、ダモクレスの抵抗は皆無であった。それはあたかも、自分たちのなすべきことは終わったとでも言うように。
ディスティニーの制動刀はまずダモクレスの艦橋へと突き刺さり、シンはそのまま機体を加速させて船を斬り裂いていった。装甲板が溶断され、そこから火花が飛び散ったかと思うと、ダモクレスは船体の半分を爆散させた。シンはその上方に位置をしめ、第二連合艦隊の仇の最期を見届けた。ダモクレスのもう半分も爆発をおこし、シンはそれに背を向けた。フェイトはまだ戦っているはずだ。

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最終更新:2011年01月30日 14:51
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