ルルーシュは
蜃気楼に乗って、ソーラ・レイを真上から見下ろしていた。
ブラックハウスの船体がソーラ・レイの内部に突入したかと思うと、ソーラ・レイは猛烈な光を放って爆発した。その瞬間、ルルーシュは真空が沸騰するのを感じていた。モニターすべてが真っ白になり、目を閉じたところでそのまぶしさは遮れなかった。この時目蓋を閉じていたのはルルーシュだけではない。その光を目撃したもの全員が、すべてを焼きつくす英魂の輝きを肌で感じ取っていたに違いない。死の光を発する決戦兵器、ソーラ・レイは、それとは別の光、それとは別種の邪悪な光によって、完全に破壊されたのである。
ようやく光が収まったときには、ルルーシュは無残な姿になったソーラ・レイを、いやソーラ・レイだったものを目の当たりにしていた。円筒状のコロニーは下半分が消し飛ばされて、ぱっくりと割れてしまっているようだった。もうこれで、この兵器が光を発することはない。だが、これでいいのだ。
ルルーシュは通信を開いた。今や自分のもとを離れた
黒の騎士団の兵士たちに、せめて一言だけ伝えておこうと思ったのだ。
「黒の騎士団のすべての生存者に告げる。私はゼロである。」
務めて尊大な口調を保ち、ルルーシュは語り始めた。これが自分の残す最後の言葉になるだろう。もう覚悟は決まっている。だから、今まで自分に尽くしてきた騎士たちに対して、最後の想いを伝えたい。自分の言葉によって。
「諸君、長く苦しい戦争だった。今やソーラ・レイは完全に破壊され、私の野望は無残にも敗れた。これで戦争は終わる。だが、君達は特別だ。特別な絆で結ばれている。戦場でのみ生まれる絆は、戦いが終わっても決して朽ちることはない。」
マハル宙域を脱出し、一路サイド3へ向かっていた黒の騎士団の兵士たちは、自分たちの指導者の言葉を聞いていた。誰も彼も、重傷を負っでわめいていた負傷兵でさえも、ゼロの言葉を聞き逃すまいと聞き耳を立てていた。
「我々は、死も、苦しみも、そして喜びも、すべてを供に味わった。諸君らのような忠実な騎士たちの、これまでの崇高な働きに感謝したい。諸君と供に戦えたことを誇りに思う。」
騎士たちの多くは泣いていた。彼らは直感的に悟っていた。自分たちの指導者ゼロは、間もなく命を落とすのだろう、と。それが自害であるか、敵と戦っての戦死であるのか、そこまではわからない。しかし、ゼロがこれから死のうとしていることは、彼の言葉の震えからして明らかであった。
「戦争は終わりだ。これからは平和な人生を送って欲しい。いままでご苦労だった。」
ゼロは通信を切った。これで終わりだ。戦争も、何もかも。
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01/30 23:40 Windows(PC) [588]エルザス
587
自分の目的はきっと果たせただろう。ゼロという偶像が、戦争の最後の最後で絶対的な悪を働く。そして徹底的に鎮圧され、ゼロは命を落とす。そうすれば、人々は戦いを続けることの無意味さをかみしめることができるはずだ。公国軍も連邦軍も、もう戦いをやめねばならない。本当にもう、こんな戦争はあってはならないのだ。
それが、ゼロの、ルルーシュの導き出したこの戦争の「あるべき終戦のかたち」であった。公国軍に抵抗は無駄と知らしめ、連邦軍には戦いの空しさをわからせる。その為に自分は犠牲になる。そうすることが、ナナリーや、世界の人々にとっての幸せにつながると思うから。そうすればきっと、みんなが笑って過ごせる世界が実現できるから。
不意にセンサー音が鳴って、ルルーシュは接近してくる機体に気付いた。漆黒の
プロトタイプケンプファー、バルディッシュだ。
バルディッシュは蜃気楼の真正面まで来て止まった。そのパイロット、フェイト・テスタロッサの声が聞こえた。
「ソーラ・レイは破壊されました。あなたの作戦は失敗です、ゼロ。」
緊張感をはらんだ声であった。それに対してルルーシュは、ゼロがいつも使う雄弁な語り口でしゃべった。
「そうだな。これが俺の目指した世界、その入り口だ。」
「入り口?終わりではなく?」
「そうだ。これで世界は戦うことの愚かさを知った。ソーラ・レイのような兵器が存在を許されない時代が、間もなくやって来るだろう。だがその前に、戦争の狂気を象徴するゼロは、正義によって討たれなければならない。」
「……?」
フェイトは黙ったままだった。ルルーシュが言わんとしていることを呑み込めていないようだ。
「わからないか?俺は君に討たれたいと言っているんだ。」
「なっ?!」
フェイトが息をのむ様子がはっきりとわかった。
「ゼロの死によって、この作戦は本当の終結を迎える。人々にはソーラ・レイという兵器よりも、ゼロという一人の悪人のほうがわかりやすいはずだ。世界はゼロを憎むことによって戦争をも憎む。その気持ちが平和につながる。」
「あなたはまさか、最初からその為にこの作戦を…」
「そのせいで、死ななくていい人間がたくさん死んだことはわかっている。だが、それは必要な犠牲だった。これから先長い間、世界が平和であるためには、彼らの犠牲が必要だった。明日の平和への礎とするために。」
「そんな……勝手です…これからの未来のために、今を生きる人が犠牲になるなんて…」
「だがそれは必要な犠牲だ。もちろん犠牲を生み出した責任はとる。だからこそ俺はここで討たれる。君が討つんだ、フェイト。戦争という巨悪の化身、ゼロを倒し、明日の未来に平和をもたらせ。そのために俺は、この命を天に捧げる。」
「討たれる覚悟が、あなたにはあると…?」
「討っていいのは、討たれる覚悟のある奴だけだ。」
「…っ!」
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01/30 23:40 Windows(PC) [589]エルザス
588
フェイトが再び息をのんで、それから少しの静寂が訪れた。厳かな祈りの時間か、あるいはフェイトの哀切がそれを必要としたのか。
しばらくして、バルディッシュの右腕が持ち上がった。その手にはビームスピアーが握られている。
「本当に、これでいいんですね…?」
フェイトの問いに、ルルーシュは不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ。これで世界は、明日を迎えることができる。
「それが…ゼロ・レクイエム…」
マハル宙域から遠く離れたところ、暗礁領域の入り口で、一機のMSが力なく漂っていた。その機体、黒の騎士団の暁に乗っていたのは、C.C.であった。彼女はルルーシュの心を痛いくらいに感じていた。ルルーシュは今まさに討たれようとしている。
「ルルーシュ、お前は…明日の平和の代償として…」
つぶやく彼女の瞳には、涙がいっぱいにたまっていた。
「フェイト、君は英雄になるんだ。世界の敵、ゼロの手から、グラナダと未来を救った救世主に…これが最後の命令だ。」
「…その命令、確かに受け取りました……ゼロ、さようなら。」
その瞬間、バルディッシュのビームスピアーが蜃気楼のコックピットに向かって突き出された。自らを貫く剣先を認識したとき、ルルーシュの脳裏にはナナリーの姿が映っていた。
誰よりも愛しいナナリー、お前はもう、立派な考えで生きている。だからこそ、俺は俺の道を進むことができた。ありがとう。愛してる、ナナリー…
刹那、ルルーシュの躰はビームスピアーの切っ先によって完全に貫かれていた。その先端は蜃気楼のバックパックにまで到達し、蜃気楼は大爆発を起こした。
光に包まれる瞬間、ルルーシュは最後の思念を残していた。
あぁ…俺は、世界を…壊し…世界を……創る―――
BGM
「貴っ様あああああああああああああああああああっっ!!」
ナガモンの叫びは天にこだました。ブラックハウスが沈んだ。あずにゃんが死んだ。それら全部、この男のせいだ。
「
アリー・アル・サーシェスっ!!オレはお前を許さない!!」
「はっ、笑わせるぜ!俺たちはまだ戦争をやってるんだ!敵は殺して当たり前だろうがぁ!!」
「ほざくなあ!!」
BlackCat は
シャドームーンとの熾烈な格闘戦を戦っていた。ナガモンは黒猫のRXと連携しつつ、シャドームーンに対して猛烈な攻撃を仕掛けていたのだ。だが、アリーの戦闘技量は信じられないほど高かった。ナガモンと黒猫を相手に、彼は互角の戦いを繰り広げて見せたのである。
「三対一なら!!」
グラハムが叫びながら飛び出し、シャドームーンに切りかかろうとした。だが、ナガモンはそれを制した。
「手を出すなグラハム!!こいつはオレと黒猫の獲物だ!!助太刀無用!」
「なにを?!」
「わたしたちに任せて!必ず仕留めて見せる!!」
黒猫もナガモンに同調する。グラハムは短く舌打ちしたが、目の前で繰り広げられる壮絶な戦いをただ黙って見ていることしかできなかった。それが彼女たちの意志だというなら。
「ダリル、ウォースパイトの護衛に戻るぞ!あとは二人に任せる!」
「しかし隊長!」
「二人を信じろ!!」
グラハムは一喝し、ダリルを引き連れてウォースパイトとランチのいるところへ戻っていった。狡猾なアリーのことだ。どさくさに紛れてランチを攻撃してくるかもしれない。
「黒猫!接近して一気にとどめを!」
「うかつに飛び込まないでナガモン!相手の腕だって半端じゃない!!」
アリーとの戦いを続ける黒猫は、珍しく敵と距離を置こうとしていた。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!!さっさとくたばれ!」
間合いを取ろうとしたBlackCatとRXに対し、シャドームーンは自分の方から接近してきた。
「このっ!」
ナガモンはビームサーベルを振るう。
「ゆるい!」
アリーの絶叫とともにシャドームーンが急旋回し、サーベルは宙を切った。
「そこっ!」
黒猫がビームライフルを放つが、シャドームーンはひらりと身をかわしてこれもよける。
「物足りねえなぁ、ガンダム!!」
「は、速い…!」
あっけにとられるナガモンに向かって、シャドームーンの長剣が突き出される。BlackCatは飛び上がってそれをかわすが、すぐに別の短剣が切りかかってくる。
「おいおいどうしたぁ!そんなもんなのかぁ?ガンダムってやつはぁ!」
短剣を危うくよけて、ナガモンは再びサーベルを構えた。
「だまれ!仇討ちをさせてもらう!!」
「黒い木馬のことか?自業自得だろ!まっすぐ突っ込んできやがったんだからよぉ!」
「ブラックハウスには、あずにゃんが乗ってたんだぞ!!」
「知ったことかよ!」
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01/31 23:18 Windows(PC) [591]エルザス
590
シャドームーンとBlackCat、双方の機体が一気に距離をつめ、俊敏な機動での切り合いがはじまった。黒猫のRXもそこに乱入していく。RXがシャドームーンの正面から頭部めがけて鉄拳を繰り出すが、シャドームーンは後ろを振り向くようにしてそれをかわした。そして振り返りざまに長剣で切り付けてくる。 RXは身を屈めるようにしてその下に潜り込んだ。それと同時にシャドームーンの後ろからBlackCatが迫る。
だが、アリーは背後からの攻撃すら見切っていた。下から振りかぶったBlackCatの太刀筋を、彼は後ろ向きのまま宙返りしてかわしたのである。シャドームーンはそのまま BlackCatの後ろに降り立ったが、ナガモンの反応もはやかった。シャドームーンがBlackCatに長剣を突き出すより早く、ナガモンは機体を急旋回させていた。正対した双方の機体が刃を交わし、飛び散った火花が対照的な両者をちらちらと照らした。
「戦争狂いが!明日の未来のためにも、お前はここで討つ!!」
ナガモンは必死の形相だった。この男こそが、いまこの世界にある歪みの根源なのだと、そう思えてならなかった。
「とんだ正義の味方だぜ!さんざん死体の山を築いてきたてめえが、未来とか言ってんじゃねえ!!」
「だけどお前とは違う!!いまだ、黒猫!」
ナガモンが叫んだ瞬間、シャドームーンの背後に回り込んでいたRXが上段に構えた斬撃を繰り出した。
「おおっと!!」
だが、やはりサーシェスが一枚上手だった。シャドームーンは右手の長剣でBlackCatとつばぜり合いつつ、左手の短剣でRXの刃をとめて見せたのである。
「なに…!」
自分の攻撃をとめられた黒猫が驚嘆の声を発する。その途端、RXの機体はシャドームーンの左手一本で押し返された。
「にゃっ…!!」
弾き飛ばされたRXをすぐに立て直し、黒猫はバイタルチャージを起動した。サーベルがダメなら、腕の一本を犠牲にしてでも、敵を粉砕してみせる。RXが再びシャドームーンに躍り掛かる。
「そうはいくかよっ!!」
アリーが叫んで、シャドームーンは飛び上がった。力を受け流されたBlackCatは前のめりに倒れかける。RXのバイタルチャージは不発に終わった。
「どこまでも戦争を楽しもうってのか!貴様は!!」
ナガモンは怒りに任せて叫んだ。そうとしか考えられなかった。
「じゃあ聞くが、楽しくもない戦争をなんで続けてんだ?お前らは?」
余裕さえ感じさせる口調で、アリーは言った。
「お前の戦いに意味はないのか!」
「あるよ…おめえには、理解できないだろうがなぁ!」
アリーが叫んだ瞬間、シャドームーンがものすごい勢いで突っ込んできた。並びあっていたBlackCatとRXが散開し、シャドームーンは急旋回してRXに追いすがった。
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01/31 23:19 Windows(PC) [592]エルザス
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「来るなら来い!!」
黒猫は背後から迫るシャドームーンを振り返り、向かい合った。
「やっぱ戦争は、白兵でないとなあ!!」
アリーが叫びながら長剣で切りかかり、RXは左手のビームサーベルでそれを防いだ。
「ちょいさぁ!!」
途端に短剣が振るわれ、RXの左手首が切り落とされた。抵抗力がなくなった長剣はRXめがけて振り下ろされる。黒猫は信じられない反射神経で後ろに跳び、それをかわした。
「なんなんだよ、お前は!!」
黒猫も激怒したように叫んでいた。彼女の本能が告げていた。この男は、生きるに値しないと。この男を討たなければ、自分たちに未来はないと。
「俺は俺だあ!!」
仰々しく叫んだアリーは、両方の剣を構えてRXへとぶつかっていった。だが、RXの反応は緩慢だった。手首を切り落とされた左腕はだらりと垂れさがり、右腕は真横に向かって伸ばされていた。
「バカが!!ここでくたばれ!!」
アリーは叫び、二つの剣を突き出した。その瞬間、黒猫が言った。
「見切った…!」
刹那、シャドームーンの両腕は、ひじから先にかけて完全に粉砕されていた。握っていたはずの二つの剣はRXの後方へと吹き飛んで行った。
「なに…?!」
アリーはとっさに状況を把握できていなかった。粉々になったシャドームーンの両腕があった位置には、RXの赤熱した右手が、力強く握りしめられていた。
「バイタルチャージだと?…あの速さの攻撃を…うおっ!?」
アリーがようやく事態を理解した途端、RXはシャドームーンの機体を乱暴に振り向かせた。そして両腕でシャドームーンの背後からその機体をがっしりと抑え込んだ。動きを封じられたシャドームーンのコックピットで、アリーはこちらに向かって突っ込んでくる機体を見た。漆黒のガンダム、BlackCat。
「これで、終わりだ…!」
ナガモンがつぶやき、BlackCatはビームサーベルを構えた。アリーは必死で機体を操作しようとしたが、RXに抑え込まれて動けなかった。
「シャドームーン、動け!シャドームーン!なんで動かねえんだ!!」
「受け取れ!死んでいったみんなの思いを!生きていくオレ達の力を!!」
「なにぃ?!」
「でやあああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「バカなっ!この俺が…!おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
その瞬間、RXはシャドームーンの背後から素早く離れていた。
BlackCatが突き出したビームサーベルは、アリー・アル・サーシェスの肉体を貫き―――
シャドームーンの銀色の機体は、まばゆく輝く強大な光に呑み込まれていった。
† † † † †
オレはただ呆然と、流れていく星空を見上げていた。ついに倒した。多くの仲間の命を奪い、オレ達をボロボロになるまで追い詰めた仇敵を、オレはついに倒したのだ。
その実感がわかなくて、オレはただ投げやりな気持ちで目を閉じた。ひどく疲れていた。そういえば、昨日のア・バオア・クーでの戦いからろくに眠っていなかったのだ。それからずっと戦い続けていた。
このまま眠ってしまおうと思った時、オレを呼ぶ声が聞こえた。
「ナガモン、みんなが来てくれたよ。」
黒猫の声だった。その優しい声につられて、オレは目を開けた。目の前に、黒猫の乗るRXが漂っていた。RXのコックピットハッチは開いていて、そこから黒猫の姿が見えた。オレに向かって、やさしく微笑んでいた。RXは残された右手で、オレの後ろを指差した。
「シンだよ、フェイトもいる。ウォースパイトも後ろにいるよ。補給艦ダンボールもいるみたい。連邦軍の救援部隊が来たんだ。もう、大丈夫だよ」
黒猫の言うとおり、ボロボロになったバルディッシュと、それを抱えたディスティニーが見えた。ディスティニーのコクピットからを身を乗り出して手を振ってるのはシンとフェイトだろうか?
ウォースパイトは七色の発光信号を打ち上げ続けている、それはまるでこの宙域に散った者たちに捧げる花びらのように見えて…見えて…なにが大丈夫なのかわからなくて、オレは黒猫にそれを尋ねようかと思った。その瞬間、涙が溢れてきた。
「わたし達の戦いは終わった…わたし達は生きて、この戦争を戦い抜いたんだよ…」
黒猫の声も震えているようだった。そうか…オレ達は生き延びたのか…
だけど、どうして生き延びたのに、生き延びることができたのに、涙が、涙が溢れて、止められないんだろうか…
オレはBlackCatのハッチを開けた。機体から飛び出し、黒猫のもとへ。誰よりも大好きな人のところへ。
黒猫はオレを優しく抱きとめてくれた。彼女とふれている。躰だけでなく、心でもふれあっている。それがはっきりとわかった。
「オレ達…生き延びて…」
「そうだよナガモン。わたし達は、生き延びたんだよ…」
黒猫の瞳も涙でいっぱいだった。それがますます涙を誘った。オレの目頭がまた熱くなる。視界がにじむ。黒猫の優しい笑顔が見えなくなってしまう。それがいやで、オレはもっとよく見ようと黒猫に近づいた。そして、彼女をもっと感じていたいと思った。
「おいで、ナガモン。」
とびっきりの笑顔で、彼女は言った。オレは彼女の胸に飛び込んでいた。
そして、泣き叫んだ。
† † † † †
わたしの胸に抱かれて泣くナガモンは子供みたいで、わたしは彼女をずっと抱きしめていてあげたいと思った。ぎゅっとつよく抱きしめて、離さない。ふれあうお互いの心が、わたし達を励ましてくれた。
「オレは…オレは……みんな死んじゃったのに…だけど…生き延びたことはうれしくて……またお前と、生きて出会えたから…これからもお前と、生きてゆけるから…」
泣きじゃくりながら、ナガモンはしぼり出した。自分の本当の気持ちを吐露していた。言葉だけでなく、心からも感じられた。そうなのだ。ここにこうして二人でいられることが、とてつもなくうれしい。
「それでいいんだよ、ナガモン…だれもひとりでは、生きられないんだから……わたしたちは支え合って、励まし合って生きていかなくしかない…死んじゃったみんなのぶんまで、わたしたちが生きて生きて、生き抜かなくちゃいけないんだよ…」
言葉が、気持ちが、次から次へと溢れてきた。あたたかい感情。命の息吹。ナガモンを抱きしめる腕に力が入った。彼女もわたしのことを強く抱きしめる。こうしてふたりで、抱きしめあっていられたらいい。それでいい。ほかにはもうなにもいらない。ただただ、二人でいられればそれでいい…
「黒猫…死んだ連中とは、もう会えないのかな?…オレ達だけが生き残って、ほんとうにこれでよかったのかな…?」
ナガモンの瞳は、まだまだ涙にぬれていた。きれいな瞳がますますきれいに見えた。
「広い宇宙はどこまでもつながっている…きっとまた逢える…めぐり逢える時がくる…だからその時まで、わたしたちは精いっぱい生きないとね…全力で生きてゆくことが、わたしたち生き延びた者に課せられた使命であり、この宇宙に散った人たちへの、せめてもの礼儀なのだから…」
「うん…そうだな……」
ナガモンは目を閉じ、もう一度腕に力を込めた。わたしも目を閉じた。あぁ、感じている。見えている。聞こえている。人々の希望が…この世界の未来が―――
† † † † †
U.C.0080、1月1日。この戦いの後、地球連邦政府とジオン共和国の間に、終戦協定が結ばれた―――
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最終更新:2011年02月01日 01:38