121-150 - (2009/05/13 (水) 19:46:56) の1つ前との変更点
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121 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 05:59:10
おはようっす。十話前半投下します。
しばらく投下出来ないんで、前倒しで。
122 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:01:03
新説ガンダムドルダ
第十話 追撃、そして
天高く聳え立つ高層ビルの群れ。都会のネオンは淡い幻想。
街の喧噪もあまり見られないここは、地球の中でも比較的治安の良い場所だ。
公社の寄越した小型飛行挺に乗車した(この時代・この世界における乗用車の一種なので、敢えてこの表現を使用することにする)、フィリア・シュード。
頬杖をつき、景色を眺めていると、助手席に搭乗したカナンが話しかけてくる。
「シュード主任、初めての火星はどんなモンでした?エイリアンとか、いそうな感じのイメージが俺の中にはあるんだけどねえ」
意外と話好きなのかもしれないこの男。
「エイリアンもプレデターもいませんよ。全て昔の人達の妄想です」
「夢がないねぇ」
「夢は見る物じゃなくて、叶える物ですよ」
デイヴ譲りの皮肉で返すフィリア。
「…詳細は、その“ジャイアントマン”なる人物に提示する予定ですので、その際にご一緒にどうぞ」
そう、フィリア達がジャイアントマンなる人物に呼び出された理由。
火星での調査報告を直に行うことと、未確認MSについての情報の直接的な提示、であった。
ジャイアントマンなる人物が一体何者なのかは一切知らされてはいないが、地球連邦政府の重鎮、とだけは先程聞かされていた。
ロクでもないことになりそうだな、とフィリアは腹を括る。
しかし、同時に考えてもいた。
うまくジャイアントマンに取り付くことで、デイヴ捜索の為に動けるかもしれないからだ。
(その辺、うまくやらなくちゃ)
フィリアは夜空に浮かぶ月を眺め、親友・デイヴの為に決意を新たにした。
「地球へは、どうするつもりかね、ソウヤ君?」
火星義勇軍・ダイモスではマスター・ベイトを中心に、今後の動向についての会議を行っているようだ。
陽光は起立し、ベイトの質問に答える。
「はっ、地球へ向かった火星開発公社の者達の追撃には、既にマイケル・ミッチェル隊を向かわせました」
「フム…彼ならうまくやってくれるか。いいだろう。第七次調査団、だったかな?彼らの個人データを先程閲覧したが、なかなか興味深い」
ベイトは唇の端を上げると静かに言う。
123 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:03:11
「それで、月へ向かったと考えられる謎のMS、ガンダムドルダを有する者達への追撃はいかがなさいましょう?」
レオ五郎右衛門、いや、ジミー・アンが口を挟む。
「そうだな、禍根は早めに絶っておかねばなるまい。来るべき連邦との“聖戦”の前にな」
「ジミー。それなら私に考えが…」
陽光がジミーに対して意見を言おうとするのに対し、ベイトは冷たく射抜くような視線で陽光を捉える。
「彼はレオ五郎右衛門だよ、ソウヤ君。口には気をつけたまえ」
「!」
陽光の瞳がわずかに揺らぐ。
が、日本刀のように研ぎ澄まされたその瞳は、真っ直ぐベイトを見つめ返した。
「…失礼致しました」
「……」
静かににらみ合う陽光とベイト。
ジミーはどうしていいかわからず、おろおろとしている。
やがて、ベイトが口を開く。
「…どるだ、を追撃した方がいいというのは君の意見だったな、エステル」
「…ええ」
エステルが答える。この少年は、重要な会合に出席することも出来るらしい。
「あれは、放っておけば我々にとっても大きな障害になるでしょう。即刻、滷獲及び破壊すべきです」
「その機体、連邦側への攻撃意思はないのか?我々の味方となる可能性も…」
陽光がエステルに問う。
「ガンダムマルスのミッションレコーダーを拝見しましたが、あの機体は数機のローズを破壊しています」
「そうか…」
陽光が頭を抱える。
「…で、考えというのは何だね?ソウヤ君。聞かせてもらおうか」
ベイトが頬杖をついて尋ねる。
「はっ、今こそ『ムスペルヘイム』を使うべき時なのでは、と…」
「…うむ。まあ、そうだろう。しかし相手も一筋縄にいきそうにないな。誰か同行せねばなるまい。構わないな、アンデレ権八郎?」
これまで静かに話を聞いていたアレスに話しかける。
「問題ありません、猊下」
無表情のアレスが淡々と答える。
「でも、君にはツライだろ?」
気遣うように言うエステル。
「構わない。マルスに乗ることになった時から、どんなことになろうが覚悟はできている」
「でも…なら、僕がドル・デーに搭乗してマルスを補佐します」
エステルが強い決意を宿した瞳でベイトを見る。
「ふむ…よかろ」
ベイトが言いかけたのを、ティモールが阻む。
「ならん、エステル!済まんがお主にはワシの研究を手伝ってもらわねばならん。敵を知り己を知れば百戦危うからず、そうじゃろ?」
「…博士の仰ることはもっともです。では…」
ベイトが言いかけると、陽光が名乗り出る。
「僭越ながら、私めが」
「陽光、しかし君は対連邦軍の指揮を取らねば…」
ジミーが陽光をたしなめる。
「百聞は一見に如かず。私はこの目で一度ドルダなるMSを見ておきたいのだ」
頑として譲らない陽光。
「…そういうことなら、ソウヤ君。君に任せた。対連邦指揮はしばらくレオ五郎右衛門、君に一任する」
124 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:04:09
「「はっ!」」
コンパニヤ式の敬礼をするジミーと、火星軍式の敬礼をする陽光。
「当面の方針はそういうことにしておこう。では諸君、祈りの時間だ」
席を立ち、神妙な面持ちで胸に手を当てるベイト。
「…くだらん。ワシにゃ時間が惜しい。退室させてもらおう。行くぞ、エステル」
「…はい」
そそくさと退室するティモールに、その後ろに従うエステル。
「私も、失礼させていただく」
陽光もそれに続く。
やがて薄暗い部屋の中には三人の男が残った。
「…フン、無粋な者達だ。では始めよう」
ベイトが言うと、アレス、ジミーは静かに目を閉じ、彼らの神に祈り始めた…
そして同時刻。
デイヴィッド・リマーを乗せたガンダムドルチェは既に大気圏を突破し、無事に火星開発公社・地球本社へと向かっていた。
「わぁー、見て見てデイヴ。海よ!」
はしゃぐエリス。対してデイヴは気のない返事を返す。
「そうだな」
ここまで何事もなく来られた、ということはデイヴにとって少し意外ではあった。
なにせあのハンスとかいう少年、超絶うさん臭かったからだ。
…理由?デイヴ的に言わせてもらうと、そもそもエリスがうさん臭い。イコールその連れもうさん臭い。
ただそれだけだった。…ただ、恐ろしく勘の鋭いこの男の読みは、少なくとも外れてはいない。
(ホントに、来ちまった、地球…)
デイヴは感慨深そうに景色を見渡す。
(俺の故郷、か)
思えば色々なことがあったな…
地球で、平凡な中流階級のアースノイドの両親の下に生を授かり、それなりに生きてきたこれまでの人生。
人より恐ろしく勘の良い彼はその勘の良さで、神童と呼ばれたフィリア・シュードと学生時代の全てを過ごしてきた。
彼らは進宇宙国際記念学園の卒業生だった。
それから大学も同じところに進学して、共に軍に入隊して…
父さんが死んで、母さんも死んで。一人になって。
やがてテロリズム・イヤーでのガンダムドルチェの悲劇。
助けられた筈の少女の命を助けられなくて。
自暴自棄になって、軍を退役して、地球を出て。
それから…
(ああ、こっからは思い出したくもねえや)
デイヴはエリスのはしゃぎ声をBGMに、自嘲気味に笑う。
「…ちょっと!ねえデイヴ。聞いてるの?」
エリスがデイヴに話しかける。
あの謎の場所を飛ってからというもの、ずっとこんな調子であった。
125 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:04:55
「…聞いてるよ」
頬杖をつくデイヴ。
「じゃあさっきまでの私の話を300字以内で要約してみて」
「う・み・が・き・れ・い。(マル)…悪りぃ、7字だわ」
指を折り曲げながら答えるデイヴ。だんだんエリスの扱いにも慣れてきたらしい。
「…ちょっとぉ!愛があれば出来るはずよ!」
「愛なんかいらない」
「えー!?デイヴったら、冷たい男(ヒト)…」
泣き真似をしてみせるエリス。
「同情するなら金をくれ」
「じゃあ、お金をあげたら私のものになってくれる?」
「だが断る」
…二人はそんな感じで、目的地へと向かっていた。
突然、先ほどまでキャアキャアはしゃいでいたエリスが、鋭い目つきになる。
「…どうした?」
さすがのデイヴも気になったらしい。尋ねてみる。
するとエリスは面を上げ、いやな笑みを見せながら言う。
「来たわ、来たわぁ。雑魚がわんさか!」
それなんてミハ兄?って思った人は五秒正座。
「!」
見ると、ガンダムドルチェの目の前には、火星義勇軍・ダイモスの手によるローズ部隊がいたのだった。
「うーん、アレがドルチェか。ディラン、どうだい?」
第七次調査団の追撃任務として遣わされたローズ隊の隊長、マイケル・ミッチェルが言う。
「……」
ディラン、と呼ばれた少年。静かにローズのコクピットに座っている。
どことなくアレスに似た雰囲気のこの少年を、やはりどことなくエステルに似たマイケルは放っておけないのであった。
「どうするの?すぐにでも仕掛ける?」
尋ねたのは女パイロット、ターニャ・ソブロフ。マイケルの右腕的存在の女性だ。
「…そうだね、敵にも視認されたみたいだし、こちらから先手を打った方がいいかもしれない。タオとマオ、君達もいいかな?」
マイケルがそう言うと、ディスプレイに『OK, Master.』と文字による通信が送られてきた。
タオとマオ。この二人の少年兵は口がきけなかった。けれど、マイケルはその理由を知らない。
むしろ、知らなくていいと思っている。人には誰しも、知られたくない事があるのだ。
人の弱さを知ることで、歩み寄れる…そんなものは詭弁だ、とマイケルは考える。
「それじゃあ行こう。僕とディランで先行する!」
五機のローズは、白き舞姫ガンダムドルチェの元へと向かっていった。
126 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:05:49
世界一高い塔。ここに、通称・ジャイアントマンがいるらしい。
「ここに、ジャイアントマンがいらっしゃいますわ」
長い長いエレベーターに乗って到達した扉。ヴァニラが恭しく言う。
「彼は地球圏連邦政府発足の当時からその風格を現し、今も尚各界に影響を与えることのできる大富豪、『BIG5』のうちの一人。くれぐれも、粗相のないように」
ニヤリ、と笑ったヴァニラが扉に手をかける。
ゴクリ。息を飲んで、扉に入るフィリア。
しかし彼の目にしたものとは…
(これが…ジャイアントマン!?)
世界一高い塔と思われる場所に到着し、世界一高いエレベーターに乗って、世界一高い場所に案内されたフィリアの前にいたのは、なんてことのない小男だった。
身長は、140cm前後だろうか。
リーゼントを自慢気にキメ、偉そうに足を組んでいる。
変な柄のアロハシャツに、趣味の悪い純金のネックレス。
ディックもスメッグヘッドも、驚きを隠せない様子だった。
「ねぇ、主任。これ、どこの白雪姫ですか?」
ひそひそとフィリアに耳打ちするディック。小人のことを揶揄しているのだろう。
「え…!?知らないよ、僕に聞かれても…」
困った表情のフィリアに、男・ジャイアントマンが言う。
「…聞こえてんぞ、コラ」
「「!」」
びくっ、と肩を震わせるフィリアとディック。
「あ、い、いや、失礼しました!」
慌てて言うフィリア。
「フン、まあいいさ。これぐらいのことで怒る俺様じゃねえ。なんたって俺様は、世界一ビッグな漢、ジャイアントマン様だからなぁ!」
夜露四苦ぅぅぅぅ!声高に叫び、ジャイアントマンが言う。
「は、はぁ…」
苦笑いするフィリアとディック。スメッグヘッドは帰りたそうにイライラしている。
「なあお前ら思ったろ?何故俺がジャイアントマンなのか、不思議でしょうがねえだろ?」
煙草をふかしながら言うジャイアントマン。
フィリアとディックは焦りつつ答える。
127 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:06:51
「い、いえ。別に…」
「よし、答えてやろう!なんたって今日の俺様はビッグだからな!」
まあいつもビッグだけどな、ジャイアントマンはそう言うと口を開く。
「なんてったって、デカイからさ」
「態度が、だろ?」
口を挟むカナン。
「ァア!?んだとカナンテメェコラ!」
思い切りカナンにメンチ切るジャイアントマン。
「まあまあ。お客さん、困ってるぜ?ジム。さっさと本題に入ったらどうだい?」
カナンがジャイアントマンをたしなめるように言う。
「…わかったよ。で?フィリア・シュードにディック・オメコスキー、アルフ・スメッグヘッドだな?」
急に、なんだか深みのある目線になって三人を順々に見ていく。
「フェアプレイの精神といこうぜ。俺の本名は、ジム・ストライカー。連邦議会ではジャイアントマンで通ってる」
偉そうにふんぞり返るジム。
「今日お前らを呼んだのは他でもねぇ。こないだの火星調査の件だ。なんだありゃ?意味わかんねえな。世の中デカいぜ、チクショー」
煙草をふかすジム。
「そうそう、世の中は広いですわね、ジム。ジムが小さいのではなく、世の中が広すぎるのです」
粗相のないように、と言っておきながら早速粗相をしてみせるヴァニラ。相当強かだ。
「うんうん…って何度言わす気だコラァ!このスットンキョーがァ!てめえヴァニラ(ピー)するぞコラァ!」
この男、ノリツッコミもばっちりだった。
「あら、そんな気なんかないクセに」
しれっと流すヴァニラ。どうやらカナンとヴァニラ、ジムの間ではこの程度の会話は日ごろから行われているらしい。
「あー、悪りぃ。話を戻すぜ。で、早速調査の詳細を、直にこの俺に見してくんねえか?」
「…ええ。し、承知しました」
この場のノリに着いていけず、まだフラフラするフィリアとディック。
スメッグヘッドなどは最初から着いて行く気などないらしいが。
フィリアがおぼつかない足取りで、ジムの座る椅子の前のテーブルに、カード型端末を通す。
現れるホログラム映像に、ジムは「ほぅ」と洩らし、ニヤリと笑ってみせたのだった。
後編へ続く
128 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:09:01
出来?まぁ、アレです。だが反省はしていない。
ただ一言言うとしたら本編の人、色々本当にすいません。苦情はいつでも受け付けます。
それでは皆様良いお年を
129 :コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/26(金) 16:39:40
>>バルド氏
wiki更新ありがとうございます!!
いつもいつもまかせっきりにしてすいません。
>>エルト氏
設定&新説投下乙です。
ジャイアントマンwwwGJです
デイヴとエリスの会話がなんかいいです。正座五秒?やりましたよ。
そうですか、ぶっ飛んでますか。
飛ばしましたからね、そりゃ飛びますわ。
第二話も飛ぶ予定。第三話もおそらく。
ちなみにアスルファイサはラングが持ってきた純火星製(コロニーではない)
出力機関はドルダやドルチェと同じです。
130 :コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/26(金) 17:05:44
そういえばアスルファイサの設定かいてなかったので投下
超高速戦闘艦アスルファイサ
所属:アスルビエント
船長:カルロ・ビスターシュ
武装:小型連装陽電子砲×1
360°回転式ビームバルカン×8
大型ビームサーベル×3
戦闘用大型グラップラーアーム×2
対デブリ用ビームフィールド
アスルビエントの母艦。ラングが持ってきた船でドルダやドルチェと同じ純火星製
形は非常に分かりやすく言うと水の中のペンギン。
その速さは現存する全ての船より速く、最大速度はローズの三倍のスピード
強力な対G装置のおかげで最大速度を出さない限りは人体にGはかからない
武装の大型ビームサーベルは艦首と左右両翼の下に取り付けられており、持ち前のスピードですれ違いながら敵を攻撃することが可能。
グラップラーアームは戦闘以外にもさまざまなことに転用可能。通常時は翼の中に格納されている。
対デブリ用ビームフィールドは艦全体をビームで包み接触下デブリを融解させる。
ただしビームなどは防いでくれない上、一定以上のスピードだとデブリが融解されない。
131 :バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/26(金) 18:01:08
エルト氏GJ!
とうとう地球に降下しましたね。エリス段々馴染んでるw
態度のでかいジャイアントマンもイイ!
132 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 22:35:12
投下乙!
133 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:29:40
Doll-Device Archive No.07 ドリームズ
それは、彼女が今より若かった頃。
彼女が幸せだった頃。
幸せに、満ち溢れていた頃。
『近年、戦争による被害者は増える一方。兵士も、民間人も』
『それで、無人兵器を戦争に投入して早期解決を図るか』
彼女には恋人がいた。
同じ軍人で、同僚であった。
『これ以上人命を軽視できないわ。こんなことを続けていれば、
いずれ世界中の人々の感情は爆発して、暴動やテロが起きてしまう』
未来を悲観して、彼女は憂いを口にする。
『でも無人兵器は、戦争をゲームとして考えてしまうんじゃないのかい?』
『それは指揮官が正しく導ければ大丈夫よ。私は、そんな指揮官になりたいの』
『メリル、君は強いな』 恋人の言葉に、彼女は小さく首を振る。
『私はそんなじゃないわ。ただ、世界の安定を望んでいるだけ』
相次ぐ戦争は、彼女の心を痛めた。
戦地に赴き、その惨状を目にしたこともある。
彼女は優しい女性だった。
あの事件が訪れるまでは。
『どういうことだねルシェッタ大尉?』
『わ、私はっ……』
厳つい中年の男。当時の上官だった男だ。
彼女を、火星圏に追いやった男でもある。
134 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:33:01
『機密漏洩。スパイであった君の恋人がしでかしたことで、我々は対応に追われている』
『私は関係ありません! 信じてください!』
『信じておるよ。調査もしたしな。君は実に優秀な士官だ』
その目は、信じてなどいなかった。
一度疑いがかかれば、信用は一気に地に落ちる。
それが例えどんなエリートだったとしても。
『それでだ、ルシェッタ大尉。君を特別待遇で中佐に昇進させ、
火星圏駐留軍艦隊、旗艦モーリシャスの艦長に任命したい』
『!?』
彼女に衝撃と動揺が走る。
『それは、左遷ということ……でしょうか』
『何を言う。2階級特進に艦長就任。立派な栄転じゃないか』
苦虫を噛み潰したように、彼女の顔が歪む。
2階級特進。それが何を意味するか。
地球から遠く離れた、治安の悪い火星圏に転属すること。それが何を意味するか。
彼女はわかっていた。
(あぁ……この男も、そうなのか。同じなんだ……)
彼女は、諦めてしまった。
呆れて、笑みが込み上げてきそうになる。
『メリル、愛しているよ』
『ふふっ。私もよ』
違う。
『ルシェッタ大尉。君と肩と並べられるとは光栄だ』
『いえ、私も司令殿のお隣で勉強させて頂きます!』
違う。
135 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:37:50
『メリルの才能には惚れ惚れするよ。君は僕の最高のフィアンセさ』
『そんなに褒めないで。照れてしまうわ……』
違う。
『ハッハッハ。これでは私のイスも危ういな』
『私はまだまた、現場も不慣れな未熟者です』
違う。
そうやって、いかにも気を許したかのように笑いかけ、優しい言葉を吐く。
ただ自分の目的のために、自分が満足感を得るためだけに。
そして必要がなくなったならば、簡単に切り捨てる。
(そうか……信じた私が…………)
一言一句に喜んで、舞い上がって。
ただいいように扱われただけじゃないか。
信じることに、意味などあるのか。
(こんなに惨めな思いまでして……)
彼女は、ゆっくりと目を覚ました。
肌はじんわりと汗をかき、不快にさせる。
「あの頃の夢を、見るなんて……」
ビットシステムが軌道に乗ったからか。
ビットシステムの原形は、あの頃にあった。
優秀な指揮官が無人機での戦闘の指揮をとることによって、人命の損失の軽減を図る。
戦場には少ない人員で済む。被害も最小限で抑えられ、早期解決も可能だ。
初めは、そんな淡い願いから生まれた構想だった。
しかしその願いは変貌し、別のものへと変わっていく。
136 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:41:29
命令に絶対服従の無人兵器。
信じることも疑うことも必要ない、裏切らない機械。
「そうだ……それでいい」
そう割り切っても、虚しいのは何故だろう。
ドルダを狙った襲撃から、半日近くが経過した。
戦闘は、残存したローズの撤退をもって終了。
ドルダはそれを追撃することなく、ドックに戻った。
地球圏連合軍側も、ビットシステムを積んだイーグルクロウを墜とされ、追撃を断念した。
「どう? ヘルガちゃんの容態は?」
医務室にクランが入ってくる。
休戦協定の交渉が決裂し、ギデオンと共に居住施設も兼ねたドックに帰ってきていた。
ベッドにはヘルガ。そしてそれを見守るシオンとモモ。
「例の侵入者さんと遭った極度の恐怖感のせいで失神したみたいですね。その内起きると思いますぅ……」
「クソッ! 俺のせいだ。……俺がヘルガから離れたから!」
「シオン君、自棄になっちゃ駄目よ」
シオンに駆け寄るクラン。
屈んで、今にも泣き出しそうなシオンの頭を、優しく撫でる。
「昔、私にも妹がいたわ。もう……この世にはいないけれど」
「えっ……」
シオンは、クランが何を言っているのかわからずに、不思議そうに顔を上げた。
137 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:46:15
モモは不安気に、かける言葉を探している。
「私は助けられなかったから。だからシオン君、あなたは、ヘルガちゃんを守ってあげて」
強いが、悲しい瞳。
クランは切なく、小さい笑って、またシオンの頭を撫でた。
そんなクランを見つめていたモモは、不意に立ち上がる。
「クランさん……モモ、思うんです。クランさんも、自分の過去に決着を付けた方がいいと思います」
「モモちゃん……」
「シンシアちゃんと出会ってからのクランさんは、ずっと辛そうです。
クランさんは、本当の妹さんとシンシアちゃんと重ねてるんじゃないですか?」
「それは……」
表情を曇らせていくクランに、モモは苛立ちを募らせていく。
「しっかりしてくださぁい! モモはどんな結果になっても、クランさんとシンシアちゃんを応援します!」
怒るようにも励ますようにも取れる言い方で、モモは言う。
精一杯の叱咤激励だった。
「…………ありがとう」
クランは、笑った。
「そうね。そうだわ。このままじゃいけないもの」
クランも立ち上がる。
「行ってきます」
「はいっ! 行ってらっしゃいです!」
互いに笑って、短い挨拶を交わす。
クランはしっかりと顔を上げて、医務室から出て行った。
138 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:51:47
吹っ切れたように。否、彼女は吹っ切れたのだ。
「なぁ、シンシアって、何者なんだ?」
クランのいなくなった医務室で、ぽつりと、シオンが疑問を口にする。
「シンシアちゃんは、火星の地下でドルダと一緒にいたんです。何者なのかは、わかりません……」
「それって……」
「でも、モモは信じたいんです。シンシアちゃんも、クランさんも」
例えシンシアが普通じゃないとしても。
紫藤兄妹には知らされていないが、シンシアが撃たれたことはモモの耳にも入ってきている。
患部が謎の発光現象を引き起こし、傷を治癒させたことも。
「モモは地球にパパとママがいるし、ヘルガちゃんにだってシオン君やパパがいます」
暗い表情に変わるモモ。
「……でも、このままじゃ、クランさんは独りだもん」
「そっか……家族に、姉妹(きょうだい)になろうとしてるんだ、あの人も」
「うん。だから、シオン君もシンシアちゃんのこと、変な目で見ないでくださいね」
「おう! 俺はジャンク屋の子供だぜ!」
明るく元気に言ってみせるシオンに、暗い面持ちだったモモも笑顔に変わる。
(でも、独りなのはクランさんだけじゃない……)
シオンに不安をかけまいと、笑顔は消さずに。
139 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:56:07
しかしモモの中には、まだ心配に思う人物がいた。
「ん、んん……」
ベッドから声が聞こえる。
「ヘルガ! 気が付いたか!?」
「…………?」
ぼんやりとした顔で、ヘルガがシオンを見る。
一瞬、この人は誰なんだろうと、疑問が浮かぶ。
段々と意識が晴れていく中、やっと目の前の少年がシオンだということを思い出した。
「お兄ちゃん……」
彼女は夢を見ていた。
今より幼かった頃の夢。
血の繋がった家族と暮らしていた頃の、夢。
クランはドックに向かう。
用意された自室に、シンシアはいなかった。
そうなると、シンシアはどこにいるのだろうと考える。
もし、このコロニーに友人がいるなら、繋がりを求めて、その友人を訪ねるかもしれない。
繋がり。そう、繋がりだ。
シンシアにとっての繋がり、それはドルダ。
安心できるのは、偽りの姉ではなく、自分が眠っていた揺り籠。
「やっぱり、ここにいた」
ドルダの足下で、うずくまっているシンシアがいた。
「……クラン」
気付いたシンシアが、名を呼ぶ。
呼び方が、ステーションにいた時に戻っていた。
「気付いたのね。自分が、私の妹じゃないって」
140 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:00:35
クランが言うと、シンシアはハッとする。
やはりそうなのかと、シンシアは思い詰めた様子だった。
「これに乗ると、わたしがわたしでなくなっちゃう」
「シンシア……」
「敵を倒せって、別のワタシが囁くの。これに乗ると、その囁きに耐えられなくなっちゃう」
ドルダに乗ると、一時的に記憶を取り戻すのだろうか。
火星の地下で出会った、冷たいあの少女に。
デブリでの一戦の際、酷く苦しそうにしていたのは、攻撃的な自分に抗おうとしていたからなのか。
「わたしは誰なの? なんなの!?」
縋り付くように、シンシアは声を荒げた。
「撃たれたはずなのに、どこも痛くない……」
服の上から撃たれた箇所を触りながら、シンシアは消え入りそうな声を出す。
「わたし、化け物なのかな」
「!!」
「ねえ……わたし、化け物なの!?」
「違う!」
クランはシンシアを抱き締める。
「あなたは化け物じゃない! 化け物なんかじゃない!!」
「でも、こんなの、人間じゃないよ…………」
「それでも、あなたは私の妹よ」
クランはより強く、シンシアを抱き締める。
「いもうと……?」
そうではない。
クラン自身も、妹ではないと言った。
141 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:05:11
ゆっくりと、クランはシンシアから少しだけ距離をとる。
目線の高さをシンシアと同じにして、クランはまっすぐ、シンシアを見た。
「私は、してはいけないことをしてしまった。死んでしまった妹と、あなたを、重ねてしまった」
謝罪にもならない。
ただただ、クランは自分を責める。
「あなたと、あの子は違うのに。あの子だと思おうとしてしまった」
だが、それは間違いなのだ。
そんなことを続けていても、嘘はいつまでも嘘に過ぎない。
自分は、赤の他人を妹として扱うというその嘘に対して、永遠に自責の念にかられ、
そして偽りの妹は、自分が本当に妹なのだろうかという違和感に、自分と姉を疑い続ける。
「だから、もう一度、やり直させて」
こんなことを頼むのは、図々しいことなのかもしれない。
けれども、言わずにはいられなかった。
そうしなければ、贖罪にもならないから。
「私はあなたの、姉になりたい」
今度は、都合のいい言い訳などにはしない。
クランは、右手を差し出す。
どんな結果になろうとも、後悔はしない。
「…………」
シンシアは、否、もうシンシアではないのかもしれない。
彼女はクランの目を、じっと見つめていた。
142 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:09:29
そして、その視線は、差し出された手へと移る。
彼女はゆっくりと自分の右手を、クランの右手へと持っていく。
その二つの手を重ねて、優しく握った。
「わたしはシンシア・ナギサカ。あなた、だぁれ?」
そう言って、笑った。
込み上げてくる涙を抑えず、クランは再び、シンシアを抱き締める。
泣きながらも、クランの顔は、笑顔に満ち溢れていた。
シンシアも抱き締め返す。
心地良い温もり。
心の中にあった壁が一つ、崩れた気がした。
だが、まだシンシアの中には、自分に対する疑問が残っている。
ドルダに乗ると現れる攻撃的な自分。
(もう一人のワタシは誰なんだろう)
それが、本当の……
「化け物です」
ドックに、クランとシンシアではない女の声が響く。
クランとシンシアは振り返る。
そこにいたのは、ノーマルスーツを着た、ミランダだった。
「ミランダさん、何を言っているの……?」
「その子は、化け物だと言ったんです。クラン・R・ナギサカ」
強い口調で、ミランダは言う。
「火星地下の建造物。そこにあったモビルスーツとそのパイロット。その正体が何かはわかりません」
ゆっくりとミランダが近付いてくる。
143 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:14:56
その表情は険しく、凄みさえ感じさせた。
「わからないけれど、それが何を意味するのかはわかります」
「何を、意味するのか……?」
「敵意あるものから自身を防衛し、そして掃討を行う兵器です」
現在の人類とは別の高度な技術を持った人類が生み出した兵器。
信じたくはなかったが、やはりそう考えなくては合点がいかない。
「そして私は、その兵器から、火星コロニーの独立を訴える人々を守らなくてはならない」
「ミランダさん、あなた、何を言って……」
ミランダの言っていることに、理解が追い付かない。
そんなクランとシンシアと、ミランダがいるドック内に、警報が鳴り響く。
『皆、聞いているか。コロニーにローズ部隊が接近している。
1機は、隊を離れてコロニーの下方に向かったということだ』
ギデオンの声がスピーカーから流れてくる。
コロニーの下方。
この、ドックが位置する場所。
「まさか、ミランダさん……」
「火星調査任務。素晴らしい経験でした。火星の大地を踏み締めて、火星コロニー民の未来にも希望が持てた」
「いつから? いつからなの!?」
「第一次調査隊が選抜される以前からです。審査官の中に潜入者がいたんです。
144 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:22:24
私はその方の推薦で調査隊に選ばれ、監視のために貴女達と行動を共にした。
ステーションのスタッフも、私の指示で独立派の構成員とすり替えておきました」
嘘はついてない。
いつもと変わらない、真面目で冷静な、ミランダだった。
「そんな……」
あまりにも受け入れ難い事実。
動揺を隠せずにいるクランの目の前にまで、ミランダはやってくる。
「今まで、ありがとうございました」
頭を下げて、ミランダは謝辞を口にした。
そして、シンシアに顔を向ける。
「私は、あなたを殺す」
「……」
「あなたとこのモビルスーツは、危険すぎるわ」
敵意に満ちた顔をして、ミランダが告げる。
シンシアは、驚くでも怖がるでもなく、じっとミランダを見ていた。
(ッ……不気味だわ!)
ミランダは駆け出す。
もうこの場所にいる理由はない。
ミランダは、気密扉のロックを解除する。
「ミランダさん! ミランダ・ウォン!!」
クランの叫びは届かない。
(さよなら、調査隊として過ごした日々。さよなら……ヴァイスさん)
ミランダは、開いた扉の先に、消えていった。
145 :本家ドルダの人:2008/12/27(土) 03:29:35
(ここでCM。アイキャッチは寂しげなミランダ。そして彼女の想い人の後ろ姿)
サブタイはXのOPではありません。
一週間ぶりくらいでしょうか。
一週間のうちに投下がたくさんでビックリ。
新説、外伝、これからwikiで読ませてもらいます!
ではまた後日。年明けでしょうか。
146 :コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/27(土) 16:48:54
ミランダさーーーーーん!!!!
本家ドルダ、投下乙です。
クランとシンシアにしろミランダにしろ今回の話は急展開が多かったですね。
それを違和感無くつなげている辺りがすごい。
GJです!!
147 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 22:13:42
保守
148 :本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:31:18
(CM終わり。アイキャッチはヴァイスと、ノーマルスーツを着た誰かの後ろ姿)
内側の気密扉が閉まり、気密の調整が終わると、外側の気密扉が開く。
目の前には、広大な火星圏の宇宙が広がっていた。
ヘルメットに搭載された通信機が鳴る。
『ミランダ・ウォンか』
「回収お疲れ様です」
ギデオンの言っていた、コロニー下方に向かっていたローズ。
乗っているのは、ディランだ。
コックピットが開き、差し出されたディランの手を取り、ミランダが乗り移る。
「あんたは……」
「あの時のことは気にしないでください。貴方は貴方の任務を全うしただけ」
ヘルメット越しに映る顔でも、誰だかは覚えている。
記憶力がいいのは、お互い様だった。
「ドルダ……いえ、コードネームガンダムの破壊任務は、まだ継続中でしょうか」
「いや。だが、可能ならばこの場で破壊を優先したい」
淡々とした会話だった。
一分一秒が短く過ぎていくような。
「では、頼み事があります。アレの破壊は、私に任せてください」
淡々とした口調の中に、少しだけ感情が加わる。
すぐにその変化に気付いたディランは、多少の間を置いて口を開いた。
「それは上が決めることだ。だが今は、あんたの回収を優先させよう」
「感謝します。必ず、アレを討ちます」
ミランダは決意に、燃える。
149 :本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:36:41
ドルダの破壊は、ディランだけの任務ではない。
追撃部隊だったマイケル・ミッチェル隊もその任に就いている。
だが、ミランダの意志はそれをも押しのけてしまいそうな、執着にも近かった。
「俺からも一つ、訊いていいか」
「なんでしょうか」
「ガンダムのパイロットが誰なのか、知りたい」
何故そんなことを訊くのだろう。
ミランダは疑問に思う。
シートの脇に移動したミランダの位置からでは、ディランの顔色を窺い知ることはできない。
別に隠すこともないと、ミランダは素直に答えた。
「火星の地下で、あの機体は発見されました」
言葉だけで思い出してしまいそうになる自分を、心の中で叱る。
「その時に乗っていたのは正体不明の謎の少女で、今もそれは変わりません」
「……そうか」
抑揚なく、ディランは言う。
ミランダは心なしか、その声が安心しているようにも聞こえた。
ディランとミランダが乗るローズは、コロニーを離れ飛び去っていく。
コロニー中間部付近の宙域では、未だにマイケル・ミッチェル隊が
ローズを回収した地球圏連合軍の部隊と交戦中だった。
マイケル・ミッチェル隊。
隊の一員であるターニャ・ソブロフもまた、この物語の中で、誰かと家族になろうとした一人だった。
それは数時間前に遡る。
150 :本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:42:29
第33コロニーの軍事ドックは、作業に追われたていた。
先日届いた武装の取り付けが、急ピッチで進められている。
そんなドックで、タオとマオは、じーっと自分達のローズを眺めていた。
二人が搭乗する2機の装備が、ビームライフルからビームガンブレードに交換されていく。
左肩部にはシールドが取り付けられた。
レイピアは、対ガンダム戦のためにそのままにされている。
「あんた達、ここにいたのか!」
聞き慣れた小気味よい女の声に、二人は振り返った。
「ミッチェル隊のパイロットは全員ミーティングだってさ」
ニッと笑って、ターニャは出口に向かって歩き出す。
それを追うタオとマオ。
「それにしてもあのオッサンはアホだね。帰ってきて早々出撃って」
オッサンとはもちろんマイケルのことである。
「鷲がすばしっこくなったことへの牽制と、新型装備の慣らしだってさ」
一方的にターニャは喋る。
彼等は声を出すことができない。返事がないことは、百も承知だ。
しかし、ターニャはどこがで期待していた。
いつか二人が一言でもいい。言葉を発してくれるのではないかと。
彼等は幼少時のトラウマで声を出すことができなくなったという。
つまり声帯や喉には異常はないのだ。
121 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 05:59:10
おはようっす。十話前半投下します。
しばらく投下出来ないんで、前倒しで。
122 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:01:03
新説[[ガンダムドルダ]]
[[第十話 追撃、そして]]
天高く聳え立つ高層ビルの群れ。都会のネオンは淡い幻想。
街の喧噪もあまり見られないここは、地球の中でも比較的治安の良い場所だ。
公社の寄越した小型飛行挺に乗車した(この時代・この世界における乗用車の一種なので、敢えてこの表現を使用することにする)、[[フィリア・シュード]]。
頬杖をつき、景色を眺めていると、助手席に搭乗したカナンが話しかけてくる。
「シュード主任、初めての火星はどんなモンでした?エイリアンとか、いそうな感じのイメージが俺の中にはあるんだけどねえ」
意外と話好きなのかもしれないこの男。
「エイリアンもプレデターもいませんよ。全て昔の人達の妄想です」
「夢がないねぇ」
「夢は見る物じゃなくて、叶える物ですよ」
デイヴ譲りの皮肉で返すフィリア。
「…詳細は、その“[[ジャイアントマン]]”なる人物に提示する予定ですので、その際にご一緒にどうぞ」
そう、フィリア達がジャイアントマンなる人物に呼び出された理由。
火星での調査報告を直に行うことと、未確認MSについての情報の直接的な提示、であった。
ジャイアントマンなる人物が一体何者なのかは一切知らされてはいないが、地球連邦政府の重鎮、とだけは先程聞かされていた。
ロクでもないことになりそうだな、とフィリアは腹を括る。
しかし、同時に考えてもいた。
うまくジャイアントマンに取り付くことで、デイヴ捜索の為に動けるかもしれないからだ。
(その辺、うまくやらなくちゃ)
フィリアは夜空に浮かぶ月を眺め、親友・デイヴの為に決意を新たにした。
「地球へは、どうするつもりかね、ソウヤ君?」
火星義勇軍・ダイモスでは[[マスター・ベイト]]を中心に、今後の動向についての会議を行っているようだ。
陽光は起立し、ベイトの質問に答える。
「はっ、地球へ向かった火星開発公社の者達の追撃には、既に[[マイケル・ミッチェル]]隊を向かわせました」
「フム…彼ならうまくやってくれるか。いいだろう。第七次調査団、だったかな?彼らの個人データを先程閲覧したが、なかなか興味深い」
ベイトは唇の端を上げると静かに言う。
123 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:03:11
「それで、月へ向かったと考えられる謎のMS、ガンダムドルダを有する者達への追撃はいかがなさいましょう?」
レオ五郎右衛門、いや、[[ジミー・アン]]が口を挟む。
「そうだな、禍根は早めに絶っておかねばなるまい。来るべき連邦との“聖戦”の前にな」
「ジミー。それなら私に考えが…」
陽光がジミーに対して意見を言おうとするのに対し、ベイトは冷たく射抜くような視線で陽光を捉える。
「彼はレオ五郎右衛門だよ、ソウヤ君。口には気をつけたまえ」
「!」
陽光の瞳がわずかに揺らぐ。
が、日本刀のように研ぎ澄まされたその瞳は、真っ直ぐベイトを見つめ返した。
「…失礼致しました」
「……」
静かににらみ合う陽光とベイト。
ジミーはどうしていいかわからず、おろおろとしている。
やがて、ベイトが口を開く。
「…どるだ、を追撃した方がいいというのは君の意見だったな、[[エステル]]」
「…ええ」
エステルが答える。この少年は、重要な会合に出席することも出来るらしい。
「あれは、放っておけば我々にとっても大きな障害になるでしょう。即刻、滷獲及び破壊すべきです」
「その機体、連邦側への攻撃意思はないのか?我々の味方となる可能性も…」
陽光がエステルに問う。
「[[ガンダムマルス]]のミッションレコーダーを拝見しましたが、あの機体は数機の[[ローズ]]を破壊しています」
「そうか…」
陽光が頭を抱える。
「…で、考えというのは何だね?ソウヤ君。聞かせてもらおうか」
ベイトが頬杖をついて尋ねる。
「はっ、今こそ『ムスペルヘイム』を使うべき時なのでは、と…」
「…うむ。まあ、そうだろう。しかし相手も一筋縄にいきそうにないな。誰か同行せねばなるまい。構わないな、アンデレ権八郎?」
これまで静かに話を聞いていたアレスに話しかける。
「問題ありません、猊下」
無表情のアレスが淡々と答える。
「でも、君にはツライだろ?」
気遣うように言うエステル。
「構わない。マルスに乗ることになった時から、どんなことになろうが覚悟はできている」
「でも…なら、僕が[[ドル・デー]]に搭乗してマルスを補佐します」
エステルが強い決意を宿した瞳でベイトを見る。
「ふむ…よかろ」
ベイトが言いかけたのを、[[ティモール]]が阻む。
「ならん、エステル!済まんがお主にはワシの研究を手伝ってもらわねばならん。敵を知り己を知れば百戦危うからず、そうじゃろ?」
「…博士の仰ることはもっともです。では…」
ベイトが言いかけると、陽光が名乗り出る。
「僭越ながら、私めが」
「陽光、しかし君は対連邦軍の指揮を取らねば…」
ジミーが陽光をたしなめる。
「百聞は一見に如かず。私はこの目で一度ドルダなるMSを見ておきたいのだ」
頑として譲らない陽光。
「…そういうことなら、ソウヤ君。君に任せた。対連邦指揮はしばらくレオ五郎右衛門、君に一任する」
124 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:04:09
「「はっ!」」
コンパニヤ式の敬礼をするジミーと、火星軍式の敬礼をする陽光。
「当面の方針はそういうことにしておこう。では諸君、祈りの時間だ」
席を立ち、神妙な面持ちで胸に手を当てるベイト。
「…くだらん。ワシにゃ時間が惜しい。退室させてもらおう。行くぞ、エステル」
「…はい」
そそくさと退室するティモールに、その後ろに従うエステル。
「私も、失礼させていただく」
陽光もそれに続く。
やがて薄暗い部屋の中には三人の男が残った。
「…フン、無粋な者達だ。では始めよう」
ベイトが言うと、アレス、ジミーは静かに目を閉じ、彼らの神に祈り始めた…
そして同時刻。
デイヴィッド・リマーを乗せた[[ガンダムドルチェ]]は既に大気圏を突破し、無事に火星開発公社・地球本社へと向かっていた。
「わぁー、見て見てデイヴ。海よ!」
はしゃぐ[[エリス]]。対してデイヴは気のない返事を返す。
「そうだな」
ここまで何事もなく来られた、ということはデイヴにとって少し意外ではあった。
なにせあの[[ハンス]]とかいう少年、超絶うさん臭かったからだ。
…理由?デイヴ的に言わせてもらうと、そもそもエリスがうさん臭い。イコールその連れもうさん臭い。
ただそれだけだった。…ただ、恐ろしく勘の鋭いこの男の読みは、少なくとも外れてはいない。
(ホントに、来ちまった、地球…)
デイヴは感慨深そうに景色を見渡す。
(俺の故郷、か)
思えば色々なことがあったな…
地球で、平凡な中流階級のアースノイドの両親の下に生を授かり、それなりに生きてきたこれまでの人生。
人より恐ろしく勘の良い彼はその勘の良さで、神童と呼ばれたフィリア・シュードと学生時代の全てを過ごしてきた。
彼らは進宇宙国際記念学園の卒業生だった。
それから大学も同じところに進学して、共に軍に入隊して…
父さんが死んで、母さんも死んで。一人になって。
やがてテロリズム・イヤーでのガンダムドルチェの悲劇。
助けられた筈の少女の命を助けられなくて。
自暴自棄になって、軍を退役して、地球を出て。
それから…
(ああ、こっからは思い出したくもねえや)
デイヴはエリスのはしゃぎ声をBGMに、自嘲気味に笑う。
「…ちょっと!ねえデイヴ。聞いてるの?」
エリスがデイヴに話しかける。
あの謎の場所を飛ってからというもの、ずっとこんな調子であった。
125 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:04:55
「…聞いてるよ」
頬杖をつくデイヴ。
「じゃあさっきまでの私の話を300字以内で要約してみて」
「う・み・が・き・れ・い。(マル)…悪りぃ、7字だわ」
指を折り曲げながら答えるデイヴ。だんだんエリスの扱いにも慣れてきたらしい。
「…ちょっとぉ!愛があれば出来るはずよ!」
「愛なんかいらない」
「えー!?デイヴったら、冷たい男(ヒト)…」
泣き真似をしてみせるエリス。
「同情するなら金をくれ」
「じゃあ、お金をあげたら私のものになってくれる?」
「だが断る」
…二人はそんな感じで、目的地へと向かっていた。
突然、先ほどまでキャアキャアはしゃいでいたエリスが、鋭い目つきになる。
「…どうした?」
さすがのデイヴも気になったらしい。尋ねてみる。
するとエリスは面を上げ、いやな笑みを見せながら言う。
「来たわ、来たわぁ。雑魚がわんさか!」
それなんてミハ兄?って思った人は五秒正座。
「!」
見ると、ガンダムドルチェの目の前には、火星義勇軍・ダイモスの手によるローズ部隊がいたのだった。
「うーん、アレがドルチェか。ディラン、どうだい?」
第七次調査団の追撃任務として遣わされたローズ隊の隊長、マイケル・ミッチェルが言う。
「……」
ディラン、と呼ばれた少年。静かにローズのコクピットに座っている。
どことなくアレスに似た雰囲気のこの少年を、やはりどことなくエステルに似たマイケルは放っておけないのであった。
「どうするの?すぐにでも仕掛ける?」
尋ねたのは女パイロット、[[ターニャ・ソブロフ]]。マイケルの右腕的存在の女性だ。
「…そうだね、敵にも視認されたみたいだし、こちらから先手を打った方がいいかもしれない。タオとマオ、君達もいいかな?」
マイケルがそう言うと、ディスプレイに『OK, Master.』と文字による通信が送られてきた。
タオとマオ。この二人の少年兵は口がきけなかった。けれど、マイケルはその理由を知らない。
むしろ、知らなくていいと思っている。人には誰しも、知られたくない事があるのだ。
人の弱さを知ることで、歩み寄れる…そんなものは詭弁だ、とマイケルは考える。
「それじゃあ行こう。僕とディランで先行する!」
五機のローズは、白き舞姫ガンダムドルチェの元へと向かっていった。
126 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:05:49
世界一高い塔。ここに、通称・ジャイアントマンがいるらしい。
「ここに、ジャイアントマンがいらっしゃいますわ」
長い長いエレベーターに乗って到達した扉。ヴァニラが恭しく言う。
「彼は地球圏連邦政府発足の当時からその風格を現し、今も尚各界に影響を与えることのできる大富豪、『BIG5』のうちの一人。くれぐれも、粗相のないように」
ニヤリ、と笑ったヴァニラが扉に手をかける。
ゴクリ。息を飲んで、扉に入るフィリア。
しかし彼の目にしたものとは…
(これが…ジャイアントマン!?)
世界一高い塔と思われる場所に到着し、世界一高いエレベーターに乗って、世界一高い場所に案内されたフィリアの前にいたのは、なんてことのない小男だった。
身長は、140cm前後だろうか。
リーゼントを自慢気にキメ、偉そうに足を組んでいる。
変な柄のアロハシャツに、趣味の悪い純金のネックレス。
ディックもスメッグヘッドも、驚きを隠せない様子だった。
「ねぇ、主任。これ、どこの白雪姫ですか?」
ひそひそとフィリアに耳打ちするディック。小人のことを揶揄しているのだろう。
「え…!?知らないよ、僕に聞かれても…」
困った表情のフィリアに、男・ジャイアントマンが言う。
「…聞こえてんぞ、コラ」
「「!」」
びくっ、と肩を震わせるフィリアとディック。
「あ、い、いや、失礼しました!」
慌てて言うフィリア。
「フン、まあいいさ。これぐらいのことで怒る俺様じゃねえ。なんたって俺様は、世界一ビッグな漢、ジャイアントマン様だからなぁ!」
夜露四苦ぅぅぅぅ!声高に叫び、ジャイアントマンが言う。
「は、はぁ…」
苦笑いするフィリアとディック。スメッグヘッドは帰りたそうにイライラしている。
「なあお前ら思ったろ?何故俺がジャイアントマンなのか、不思議でしょうがねえだろ?」
煙草をふかしながら言うジャイアントマン。
フィリアとディックは焦りつつ答える。
127 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:06:51
「い、いえ。別に…」
「よし、答えてやろう!なんたって今日の俺様はビッグだからな!」
まあいつもビッグだけどな、ジャイアントマンはそう言うと口を開く。
「なんてったって、デカイからさ」
「態度が、だろ?」
口を挟むカナン。
「ァア!?んだとカナンテメェコラ!」
思い切りカナンにメンチ切るジャイアントマン。
「まあまあ。お客さん、困ってるぜ?ジム。さっさと本題に入ったらどうだい?」
カナンがジャイアントマンをたしなめるように言う。
「…わかったよ。で?フィリア・シュードに[[ディック・オメコスキー]]、[[アルフ・スメッグヘッド]]だな?」
急に、なんだか深みのある目線になって三人を順々に見ていく。
「フェアプレイの精神といこうぜ。俺の本名は、ジム・ストライカー。連邦議会ではジャイアントマンで通ってる」
偉そうにふんぞり返るジム。
「今日お前らを呼んだのは他でもねぇ。こないだの火星調査の件だ。なんだありゃ?意味わかんねえな。世の中デカいぜ、チクショー」
煙草をふかすジム。
「そうそう、世の中は広いですわね、ジム。ジムが小さいのではなく、世の中が広すぎるのです」
粗相のないように、と言っておきながら早速粗相をしてみせるヴァニラ。相当強かだ。
「うんうん…って何度言わす気だコラァ!このスットンキョーがァ!てめえヴァニラ(ピー)するぞコラァ!」
この男、ノリツッコミもばっちりだった。
「あら、そんな気なんかないクセに」
しれっと流すヴァニラ。どうやらカナンとヴァニラ、ジムの間ではこの程度の会話は日ごろから行われているらしい。
「あー、悪りぃ。話を戻すぜ。で、早速調査の詳細を、直にこの俺に見してくんねえか?」
「…ええ。し、承知しました」
この場のノリに着いていけず、まだフラフラするフィリアとディック。
スメッグヘッドなどは最初から着いて行く気などないらしいが。
フィリアがおぼつかない足取りで、ジムの座る椅子の前のテーブルに、カード型端末を通す。
現れるホログラム映像に、ジムは「ほぅ」と洩らし、ニヤリと笑ってみせたのだった。
後編へ続く
128 :エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:09:01
出来?まぁ、アレです。だが反省はしていない。
ただ一言言うとしたら本編の人、色々本当にすいません。苦情はいつでも受け付けます。
それでは皆様良いお年を
129 :コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/26(金) 16:39:40
>>バルド氏
wiki更新ありがとうございます!!
いつもいつもまかせっきりにしてすいません。
>>エルト氏
設定&新説投下乙です。
ジャイアントマンwwwGJです
デイヴとエリスの会話がなんかいいです。正座五秒?やりましたよ。
そうですか、ぶっ飛んでますか。
飛ばしましたからね、そりゃ飛びますわ。
第二話も飛ぶ予定。第三話もおそらく。
ちなみに[[アスルファイサ]]はラングが持ってきた純火星製(コロニーではない)
出力機関はドルダやドルチェと同じです。
130 :コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/26(金) 17:05:44
そういえばアスルファイサの設定かいてなかったので投下
超高速戦闘艦アスルファイサ
所属:アスルビエント
船長:[[カルロ・ビスターシュ]]
武装:小型連装陽電子砲×1
360°回転式ビームバルカン×8
大型ビームサーベル×3
戦闘用大型グラップラーアーム×2
対デブリ用ビームフィールド
アスルビエントの母艦。ラングが持ってきた船でドルダやドルチェと同じ純火星製
形は非常に分かりやすく言うと水の中のペンギン。
その速さは現存する全ての船より速く、最大速度はローズの三倍のスピード
強力な対G装置のおかげで最大速度を出さない限りは人体にGはかからない
武装の大型ビームサーベルは艦首と左右両翼の下に取り付けられており、持ち前のスピードですれ違いながら敵を攻撃することが可能。
グラップラーアームは戦闘以外にもさまざまなことに転用可能。通常時は翼の中に格納されている。
対デブリ用ビームフィールドは艦全体をビームで包み接触下デブリを融解させる。
ただしビームなどは防いでくれない上、一定以上のスピードだとデブリが融解されない。
131 :バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/26(金) 18:01:08
エルト氏GJ!
とうとう地球に降下しましたね。エリス段々馴染んでるw
態度のでかいジャイアントマンもイイ!
132 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 22:35:12
投下乙!
133 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:29:40
[[Doll-Device Archive No.07 ドリームズ]]
それは、彼女が今より若かった頃。
彼女が幸せだった頃。
幸せに、満ち溢れていた頃。
『近年、戦争による被害者は増える一方。兵士も、民間人も』
『それで、無人兵器を戦争に投入して早期解決を図るか』
彼女には恋人がいた。
同じ軍人で、同僚であった。
『これ以上人命を軽視できないわ。こんなことを続けていれば、
いずれ世界中の人々の感情は爆発して、暴動やテロが起きてしまう』
未来を悲観して、彼女は憂いを口にする。
『でも無人兵器は、戦争をゲームとして考えてしまうんじゃないのかい?』
『それは指揮官が正しく導ければ大丈夫よ。私は、そんな指揮官になりたいの』
『メリル、君は強いな』 恋人の言葉に、彼女は小さく首を振る。
『私はそんなじゃないわ。ただ、世界の安定を望んでいるだけ』
相次ぐ戦争は、彼女の心を痛めた。
戦地に赴き、その惨状を目にしたこともある。
彼女は優しい女性だった。
あの事件が訪れるまでは。
『どういうことだねルシェッタ大尉?』
『わ、私はっ……』
厳つい中年の男。当時の上官だった男だ。
彼女を、火星圏に追いやった男でもある。
134 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:33:01
『機密漏洩。スパイであった君の恋人がしでかしたことで、我々は対応に追われている』
『私は関係ありません! 信じてください!』
『信じておるよ。調査もしたしな。君は実に優秀な士官だ』
その目は、信じてなどいなかった。
一度疑いがかかれば、信用は一気に地に落ちる。
それが例えどんなエリートだったとしても。
『それでだ、ルシェッタ大尉。君を特別待遇で中佐に昇進させ、
火星圏駐留軍艦隊、旗艦モーリシャスの艦長に任命したい』
『!?』
彼女に衝撃と動揺が走る。
『それは、左遷ということ……でしょうか』
『何を言う。2階級特進に艦長就任。立派な栄転じゃないか』
苦虫を噛み潰したように、彼女の顔が歪む。
2階級特進。それが何を意味するか。
地球から遠く離れた、治安の悪い火星圏に転属すること。それが何を意味するか。
彼女はわかっていた。
(あぁ……この男も、そうなのか。同じなんだ……)
彼女は、諦めてしまった。
呆れて、笑みが込み上げてきそうになる。
『メリル、愛しているよ』
『ふふっ。私もよ』
違う。
『ルシェッタ大尉。君と肩と並べられるとは光栄だ』
『いえ、私も司令殿のお隣で勉強させて頂きます!』
違う。
135 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:37:50
『メリルの才能には惚れ惚れするよ。君は僕の最高のフィアンセさ』
『そんなに褒めないで。照れてしまうわ……』
違う。
『ハッハッハ。これでは私のイスも危ういな』
『私はまだまた、現場も不慣れな未熟者です』
違う。
そうやって、いかにも気を許したかのように笑いかけ、優しい言葉を吐く。
ただ自分の目的のために、自分が満足感を得るためだけに。
そして必要がなくなったならば、簡単に切り捨てる。
(そうか……信じた私が…………)
一言一句に喜んで、舞い上がって。
ただいいように扱われただけじゃないか。
信じることに、意味などあるのか。
(こんなに惨めな思いまでして……)
彼女は、ゆっくりと目を覚ました。
肌はじんわりと汗をかき、不快にさせる。
「あの頃の夢を、見るなんて……」
ビットシステムが軌道に乗ったからか。
ビットシステムの原形は、あの頃にあった。
優秀な指揮官が無人機での戦闘の指揮をとることによって、人命の損失の軽減を図る。
戦場には少ない人員で済む。被害も最小限で抑えられ、早期解決も可能だ。
初めは、そんな淡い願いから生まれた構想だった。
しかしその願いは変貌し、別のものへと変わっていく。
136 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:41:29
命令に絶対服従の無人兵器。
信じることも疑うことも必要ない、裏切らない機械。
「そうだ……それでいい」
そう割り切っても、虚しいのは何故だろう。
ドルダを狙った襲撃から、半日近くが経過した。
戦闘は、残存したローズの撤退をもって終了。
ドルダはそれを追撃することなく、ドックに戻った。
地球圏連合軍側も、ビットシステムを積んだイーグルクロウを墜とされ、追撃を断念した。
「どう? ヘルガちゃんの容態は?」
医務室にクランが入ってくる。
休戦協定の交渉が決裂し、ギデオンと共に居住施設も兼ねたドックに帰ってきていた。
ベッドにはヘルガ。そしてそれを見守るシオンとモモ。
「例の侵入者さんと遭った極度の恐怖感のせいで失神したみたいですね。その内起きると思いますぅ……」
「クソッ! 俺のせいだ。……俺がヘルガから離れたから!」
「シオン君、自棄になっちゃ駄目よ」
シオンに駆け寄るクラン。
屈んで、今にも泣き出しそうなシオンの頭を、優しく撫でる。
「昔、私にも妹がいたわ。もう……この世にはいないけれど」
「えっ……」
シオンは、クランが何を言っているのかわからずに、不思議そうに顔を上げた。
137 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:46:15
モモは不安気に、かける言葉を探している。
「私は助けられなかったから。だからシオン君、あなたは、ヘルガちゃんを守ってあげて」
強いが、悲しい瞳。
クランは切なく、小さい笑って、またシオンの頭を撫でた。
そんなクランを見つめていたモモは、不意に立ち上がる。
「クランさん……モモ、思うんです。クランさんも、自分の過去に決着を付けた方がいいと思います」
「モモちゃん……」
「[[シンシア]]ちゃんと出会ってからのクランさんは、ずっと辛そうです。
クランさんは、本当の妹さんとシンシアちゃんと重ねてるんじゃないですか?」
「それは……」
表情を曇らせていくクランに、モモは苛立ちを募らせていく。
「しっかりしてくださぁい! モモはどんな結果になっても、クランさんとシンシアちゃんを応援します!」
怒るようにも励ますようにも取れる言い方で、モモは言う。
精一杯の叱咤激励だった。
「…………ありがとう」
クランは、笑った。
「そうね。そうだわ。このままじゃいけないもの」
クランも立ち上がる。
「行ってきます」
「はいっ! 行ってらっしゃいです!」
互いに笑って、短い挨拶を交わす。
クランはしっかりと顔を上げて、医務室から出て行った。
138 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:51:47
吹っ切れたように。否、彼女は吹っ切れたのだ。
「なぁ、シンシアって、何者なんだ?」
クランのいなくなった医務室で、ぽつりと、シオンが疑問を口にする。
「シンシアちゃんは、火星の地下でドルダと一緒にいたんです。何者なのかは、わかりません……」
「それって……」
「でも、モモは信じたいんです。シンシアちゃんも、クランさんも」
例えシンシアが普通じゃないとしても。
紫藤兄妹には知らされていないが、シンシアが撃たれたことはモモの耳にも入ってきている。
患部が謎の発光現象を引き起こし、傷を治癒させたことも。
「モモは地球にパパとママがいるし、ヘルガちゃんにだってシオン君やパパがいます」
暗い表情に変わるモモ。
「……でも、このままじゃ、クランさんは独りだもん」
「そっか……家族に、姉妹(きょうだい)になろうとしてるんだ、あの人も」
「うん。だから、シオン君もシンシアちゃんのこと、変な目で見ないでくださいね」
「おう! 俺はジャンク屋の子供だぜ!」
明るく元気に言ってみせるシオンに、暗い面持ちだったモモも笑顔に変わる。
(でも、独りなのはクランさんだけじゃない……)
シオンに不安をかけまいと、笑顔は消さずに。
139 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:56:07
しかしモモの中には、まだ心配に思う人物がいた。
「ん、んん……」
ベッドから声が聞こえる。
「ヘルガ! 気が付いたか!?」
「…………?」
ぼんやりとした顔で、ヘルガがシオンを見る。
一瞬、この人は誰なんだろうと、疑問が浮かぶ。
段々と意識が晴れていく中、やっと目の前の少年がシオンだということを思い出した。
「お兄ちゃん……」
彼女は夢を見ていた。
今より幼かった頃の夢。
血の繋がった家族と暮らしていた頃の、夢。
クランはドックに向かう。
用意された自室に、シンシアはいなかった。
そうなると、シンシアはどこにいるのだろうと考える。
もし、このコロニーに友人がいるなら、繋がりを求めて、その友人を訪ねるかもしれない。
繋がり。そう、繋がりだ。
シンシアにとっての繋がり、それはドルダ。
安心できるのは、偽りの姉ではなく、自分が眠っていた揺り籠。
「やっぱり、ここにいた」
ドルダの足下で、うずくまっているシンシアがいた。
「……クラン」
気付いたシンシアが、名を呼ぶ。
呼び方が、ステーションにいた時に戻っていた。
「気付いたのね。自分が、私の妹じゃないって」
140 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:00:35
クランが言うと、シンシアはハッとする。
やはりそうなのかと、シンシアは思い詰めた様子だった。
「これに乗ると、わたしがわたしでなくなっちゃう」
「シンシア……」
「敵を倒せって、別のワタシが囁くの。これに乗ると、その囁きに耐えられなくなっちゃう」
ドルダに乗ると、一時的に記憶を取り戻すのだろうか。
火星の地下で出会った、冷たいあの少女に。
デブリでの一戦の際、酷く苦しそうにしていたのは、攻撃的な自分に抗おうとしていたからなのか。
「わたしは誰なの? なんなの!?」
縋り付くように、シンシアは声を荒げた。
「撃たれたはずなのに、どこも痛くない……」
服の上から撃たれた箇所を触りながら、シンシアは消え入りそうな声を出す。
「わたし、化け物なのかな」
「!!」
「ねえ……わたし、化け物なの!?」
「違う!」
クランはシンシアを抱き締める。
「あなたは化け物じゃない! 化け物なんかじゃない!!」
「でも、こんなの、人間じゃないよ…………」
「それでも、あなたは私の妹よ」
クランはより強く、シンシアを抱き締める。
「いもうと……?」
そうではない。
クラン自身も、妹ではないと言った。
141 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:05:11
ゆっくりと、クランはシンシアから少しだけ距離をとる。
目線の高さをシンシアと同じにして、クランはまっすぐ、シンシアを見た。
「私は、してはいけないことをしてしまった。死んでしまった妹と、あなたを、重ねてしまった」
謝罪にもならない。
ただただ、クランは自分を責める。
「あなたと、あの子は違うのに。あの子だと思おうとしてしまった」
だが、それは間違いなのだ。
そんなことを続けていても、嘘はいつまでも嘘に過ぎない。
自分は、赤の他人を妹として扱うというその嘘に対して、永遠に自責の念にかられ、
そして偽りの妹は、自分が本当に妹なのだろうかという違和感に、自分と姉を疑い続ける。
「だから、もう一度、やり直させて」
こんなことを頼むのは、図々しいことなのかもしれない。
けれども、言わずにはいられなかった。
そうしなければ、贖罪にもならないから。
「私はあなたの、姉になりたい」
今度は、都合のいい言い訳などにはしない。
クランは、右手を差し出す。
どんな結果になろうとも、後悔はしない。
「…………」
シンシアは、否、もうシンシアではないのかもしれない。
彼女はクランの目を、じっと見つめていた。
142 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:09:29
そして、その視線は、差し出された手へと移る。
彼女はゆっくりと自分の右手を、クランの右手へと持っていく。
その二つの手を重ねて、優しく握った。
「わたしはシンシア・ナギサカ。あなた、だぁれ?」
そう言って、笑った。
込み上げてくる涙を抑えず、クランは再び、シンシアを抱き締める。
泣きながらも、クランの顔は、笑顔に満ち溢れていた。
シンシアも抱き締め返す。
心地良い温もり。
心の中にあった壁が一つ、崩れた気がした。
だが、まだシンシアの中には、自分に対する疑問が残っている。
ドルダに乗ると現れる攻撃的な自分。
(もう一人のワタシは誰なんだろう)
それが、本当の……
「化け物です」
ドックに、クランとシンシアではない女の声が響く。
クランとシンシアは振り返る。
そこにいたのは、ノーマルスーツを着た、ミランダだった。
「ミランダさん、何を言っているの……?」
「その子は、化け物だと言ったんです。クラン・R・ナギサカ」
強い口調で、ミランダは言う。
「火星地下の建造物。そこにあったモビルスーツとそのパイロット。その正体が何かはわかりません」
ゆっくりとミランダが近付いてくる。
143 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:14:56
その表情は険しく、凄みさえ感じさせた。
「わからないけれど、それが何を意味するのかはわかります」
「何を、意味するのか……?」
「敵意あるものから自身を防衛し、そして掃討を行う兵器です」
現在の人類とは別の高度な技術を持った人類が生み出した兵器。
信じたくはなかったが、やはりそう考えなくては合点がいかない。
「そして私は、その兵器から、火星コロニーの独立を訴える人々を守らなくてはならない」
「ミランダさん、あなた、何を言って……」
ミランダの言っていることに、理解が追い付かない。
そんなクランとシンシアと、ミランダがいるドック内に、警報が鳴り響く。
『皆、聞いているか。コロニーにローズ部隊が接近している。
1機は、隊を離れてコロニーの下方に向かったということだ』
ギデオンの声がスピーカーから流れてくる。
コロニーの下方。
この、ドックが位置する場所。
「まさか、ミランダさん……」
「火星調査任務。素晴らしい経験でした。火星の大地を踏み締めて、火星コロニー民の未来にも希望が持てた」
「いつから? いつからなの!?」
「第一次調査隊が選抜される以前からです。審査官の中に潜入者がいたんです。
144 :本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:22:24
私はその方の推薦で調査隊に選ばれ、監視のために貴女達と行動を共にした。
ステーションのスタッフも、私の指示で独立派の構成員とすり替えておきました」
嘘はついてない。
いつもと変わらない、真面目で冷静な、ミランダだった。
「そんな……」
あまりにも受け入れ難い事実。
動揺を隠せずにいるクランの目の前にまで、ミランダはやってくる。
「今まで、ありがとうございました」
頭を下げて、ミランダは謝辞を口にした。
そして、シンシアに顔を向ける。
「私は、あなたを殺す」
「……」
「あなたとこのモビルスーツは、危険すぎるわ」
敵意に満ちた顔をして、ミランダが告げる。
シンシアは、驚くでも怖がるでもなく、じっとミランダを見ていた。
(ッ……不気味だわ!)
ミランダは駆け出す。
もうこの場所にいる理由はない。
ミランダは、気密扉のロックを解除する。
「ミランダさん! [[ミランダ・ウォン]]!!」
クランの叫びは届かない。
(さよなら、調査隊として過ごした日々。さよなら……ヴァイスさん)
ミランダは、開いた扉の先に、消えていった。
145 :本家ドルダの人:2008/12/27(土) 03:29:35
(ここでCM。アイキャッチは寂しげなミランダ。そして彼女の想い人の後ろ姿)
サブタイはXのOPではありません。
一週間ぶりくらいでしょうか。
一週間のうちに投下がたくさんでビックリ。
新説、外伝、これからwikiで読ませてもらいます!
ではまた後日。年明けでしょうか。
146 :コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/27(土) 16:48:54
ミランダさーーーーーん!!!!
本家ドルダ、投下乙です。
クランとシンシアにしろミランダにしろ今回の話は急展開が多かったですね。
それを違和感無くつなげている辺りがすごい。
GJです!!
147 :通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 22:13:42
保守
148 :本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:31:18
(CM終わり。アイキャッチはヴァイスと、ノーマルスーツを着た誰かの後ろ姿)
内側の気密扉が閉まり、気密の調整が終わると、外側の気密扉が開く。
目の前には、広大な火星圏の宇宙が広がっていた。
ヘルメットに搭載された通信機が鳴る。
『ミランダ・ウォンか』
「回収お疲れ様です」
ギデオンの言っていた、コロニー下方に向かっていたローズ。
乗っているのは、ディランだ。
コックピットが開き、差し出されたディランの手を取り、ミランダが乗り移る。
「あんたは……」
「あの時のことは気にしないでください。貴方は貴方の任務を全うしただけ」
ヘルメット越しに映る顔でも、誰だかは覚えている。
記憶力がいいのは、お互い様だった。
「ドルダ……いえ、コードネームガンダムの破壊任務は、まだ継続中でしょうか」
「いや。だが、可能ならばこの場で破壊を優先したい」
淡々とした会話だった。
一分一秒が短く過ぎていくような。
「では、頼み事があります。アレの破壊は、私に任せてください」
淡々とした口調の中に、少しだけ感情が加わる。
すぐにその変化に気付いたディランは、多少の間を置いて口を開いた。
「それは上が決めることだ。だが今は、あんたの回収を優先させよう」
「感謝します。必ず、アレを討ちます」
ミランダは決意に、燃える。
149 :本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:36:41
ドルダの破壊は、ディランだけの任務ではない。
追撃部隊だったマイケル・ミッチェル隊もその任に就いている。
だが、ミランダの意志はそれをも押しのけてしまいそうな、執着にも近かった。
「俺からも一つ、訊いていいか」
「なんでしょうか」
「[[ガンダム]]のパイロットが誰なのか、知りたい」
何故そんなことを訊くのだろう。
ミランダは疑問に思う。
シートの脇に移動したミランダの位置からでは、ディランの顔色を窺い知ることはできない。
別に隠すこともないと、ミランダは素直に答えた。
「火星の地下で、あの機体は発見されました」
言葉だけで思い出してしまいそうになる自分を、心の中で叱る。
「その時に乗っていたのは正体不明の謎の少女で、今もそれは変わりません」
「……そうか」
抑揚なく、ディランは言う。
ミランダは心なしか、その声が安心しているようにも聞こえた。
ディランとミランダが乗るローズは、コロニーを離れ飛び去っていく。
コロニー中間部付近の宙域では、未だにマイケル・ミッチェル隊が
ローズを回収した地球圏連合軍の部隊と交戦中だった。
マイケル・ミッチェル隊。
隊の一員であるターニャ・ソブロフもまた、この物語の中で、誰かと家族になろうとした一人だった。
それは数時間前に遡る。
150 :本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:42:29
第33コロニーの軍事ドックは、作業に追われたていた。
先日届いた武装の取り付けが、急ピッチで進められている。
そんなドックで、タオとマオは、じーっと自分達のローズを眺めていた。
二人が搭乗する2機の装備が、ビームライフルからビームガンブレードに交換されていく。
左肩部にはシールドが取り付けられた。
レイピアは、対ガンダム戦のためにそのままにされている。
「あんた達、ここにいたのか!」
聞き慣れた小気味よい女の声に、二人は振り返った。
「ミッチェル隊のパイロットは全員ミーティングだってさ」
ニッと笑って、ターニャは出口に向かって歩き出す。
それを追うタオとマオ。
「それにしてもあのオッサンはアホだね。帰ってきて早々出撃って」
オッサンとはもちろんマイケルのことである。
「鷲がすばしっこくなったことへの牽制と、新型装備の慣らしだってさ」
一方的にターニャは喋る。
彼等は声を出すことができない。返事がないことは、百も承知だ。
しかし、ターニャはどこがで期待していた。
いつか二人が一言でもいい。言葉を発してくれるのではないかと。
彼等は幼少時のトラウマで声を出すことができなくなったという。
つまり声帯や喉には異常はないのだ。
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