第四話 魔神、起動
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「ぐっ……ああああっ!!」
肉体にかかる負荷に叫ぶクラン。そして突如急停止する機体。
「くっ…!」
顔を歪めるクランに、少女が感情の籠らない声で言う。
「乗って」
「…え?」
「後ろ、乗って」
その機体…ガンダムドルダのコクピットには、二つの操縦席が存在していた。
「乗っているだけでいいから。このまま行ったら、多分危ない…」
クランは言われた通りにしようとするが、色々なことが起こりすぎて、少女の言うことに従うべきであるのか逡巡していた。
このMSは一体何なのか…そして自分はそれに乗ってしまった…
何処の機体なのかどういう目的で造られてどういう経緯で自分と出会うことになってしまったのだろうか…
少女は、黙っている。亡くした妹に似た少女。
彼女は、いや、彼女が何故ここに…
飲食はどうしていたのか、彼女をここに安置した存在の思惑とは…はたまた彼女は自らの意思でここに存在していたのか…
「お願いだから、ね?」
少し首を傾げて、今度はクランに笑いかける。その笑顔、傾げた首の角度…
何もかもが、似すぎている。いや、同じなのだ。
亡くなった(いや、そもそも本当に亡くなったのか?)年齢のままの妹と同じ少女。
自分だけに時の流れが干渉して。もう二度と、あの頃のように笑えないような気がして。
(違う、この娘は違う…)
必死に自らにそう言い聞かせることで、クランは目の前の現実を否定しようとしていた。
が、少女の次の一言によって、その努力は水泡と化す。
「お姉ちゃん」
「!!」
世界が、変わる。崩壊した世界の色が、戻る。
両親はいない。しかし、崩れかけていた、そして折り合いをつけ、無理矢理作り出していたクランの世界は、その色を取り戻しかけていたのだった。
錯乱するデイヴとアレスを中心に、戦場にはまるで時が止まったかのような静寂が訪れる。
この静けさの後、目覚めてはならない魔神が起動することになるとは、誰も想像していなかった。
茫然自失のアレスの元に、通信が入る。
「俺だ、どうした」
荒い息を少し落ち着けようと努力した後、アレスが応答する。
『ゲッゲッゲッ。わしじゃよ、アレス』
「ティモール…?」
声の主は、ガンダムマルスの開発者であるプロフェッサー・ティモールであった。
『そちらの様子はマルスのカメラから把握しておる…えらいことになるようじゃな、アレス』
「どういうことだ」
『目覚めるのさ、魔神が』
「ドルダ、が…?」
『ああ。お前さん、何故ムスペルヘイムで出撃せんかった?シンシアに会いたいという逸る気持ちはわからんでもないがな』
「!」
戸惑うアレスに、その独特の笑い声をこれでもかと響かせ続けるティモール。
『今ドルダと戦うてはならん』
急に真剣な表情と口調になる。
『お前さんが第一にやるべきは、その場に存在する敵MS群の殲滅じゃ。その後、速やかに離脱するのじゃ』
「出来ない。こうしている間にも、彼女は…」
断固として首を縦に振らないアレスの瞳には、再び強い意思が宿っていた。
『たわけが!ムスペルヘイムでないマルスがドルダに敵う筈がなかろうが!』
聞かん坊を咎めるような口調でティモールは怒鳴る。
その口からはたくさんの唾が飛ぶ。余程興奮しているのだろう。
「ティモール」
『なんじゃい!?』
「悪いが後にしてくれ。どんな罰でも受けるつもりだ」
そう言い、通信を切る。おい、おい!ティモールの叫び声が途切れ、再び静寂が訪れる。
「ガンダム、ドルダ…!」
歯ぎしりをしながら呟くアレス。その表情は強い憎しみの念に捉われていた。
「シンシアを、渡すものか…!」
マルスのツインアイが光を灯した…沈黙の火星の神が、再び起動する。
深い深いまどろみの底で、見た夢。
それは、決して開けてはならない、パンドラの箱…
肉体にかかる負荷に叫ぶクラン。そして突如急停止する機体。
「くっ…!」
顔を歪めるクランに、少女が感情の籠らない声で言う。
「乗って」
「…え?」
「後ろ、乗って」
その機体…ガンダムドルダのコクピットには、二つの操縦席が存在していた。
「乗っているだけでいいから。このまま行ったら、多分危ない…」
クランは言われた通りにしようとするが、色々なことが起こりすぎて、少女の言うことに従うべきであるのか逡巡していた。
このMSは一体何なのか…そして自分はそれに乗ってしまった…
何処の機体なのかどういう目的で造られてどういう経緯で自分と出会うことになってしまったのだろうか…
少女は、黙っている。亡くした妹に似た少女。
彼女は、いや、彼女が何故ここに…
飲食はどうしていたのか、彼女をここに安置した存在の思惑とは…はたまた彼女は自らの意思でここに存在していたのか…
「お願いだから、ね?」
少し首を傾げて、今度はクランに笑いかける。その笑顔、傾げた首の角度…
何もかもが、似すぎている。いや、同じなのだ。
亡くなった(いや、そもそも本当に亡くなったのか?)年齢のままの妹と同じ少女。
自分だけに時の流れが干渉して。もう二度と、あの頃のように笑えないような気がして。
(違う、この娘は違う…)
必死に自らにそう言い聞かせることで、クランは目の前の現実を否定しようとしていた。
が、少女の次の一言によって、その努力は水泡と化す。
「お姉ちゃん」
「!!」
世界が、変わる。崩壊した世界の色が、戻る。
両親はいない。しかし、崩れかけていた、そして折り合いをつけ、無理矢理作り出していたクランの世界は、その色を取り戻しかけていたのだった。
錯乱するデイヴとアレスを中心に、戦場にはまるで時が止まったかのような静寂が訪れる。
この静けさの後、目覚めてはならない魔神が起動することになるとは、誰も想像していなかった。
茫然自失のアレスの元に、通信が入る。
「俺だ、どうした」
荒い息を少し落ち着けようと努力した後、アレスが応答する。
『ゲッゲッゲッ。わしじゃよ、アレス』
「ティモール…?」
声の主は、ガンダムマルスの開発者であるプロフェッサー・ティモールであった。
『そちらの様子はマルスのカメラから把握しておる…えらいことになるようじゃな、アレス』
「どういうことだ」
『目覚めるのさ、魔神が』
「ドルダ、が…?」
『ああ。お前さん、何故ムスペルヘイムで出撃せんかった?シンシアに会いたいという逸る気持ちはわからんでもないがな』
「!」
戸惑うアレスに、その独特の笑い声をこれでもかと響かせ続けるティモール。
『今ドルダと戦うてはならん』
急に真剣な表情と口調になる。
『お前さんが第一にやるべきは、その場に存在する敵MS群の殲滅じゃ。その後、速やかに離脱するのじゃ』
「出来ない。こうしている間にも、彼女は…」
断固として首を縦に振らないアレスの瞳には、再び強い意思が宿っていた。
『たわけが!ムスペルヘイムでないマルスがドルダに敵う筈がなかろうが!』
聞かん坊を咎めるような口調でティモールは怒鳴る。
その口からはたくさんの唾が飛ぶ。余程興奮しているのだろう。
「ティモール」
『なんじゃい!?』
「悪いが後にしてくれ。どんな罰でも受けるつもりだ」
そう言い、通信を切る。おい、おい!ティモールの叫び声が途切れ、再び静寂が訪れる。
「ガンダム、ドルダ…!」
歯ぎしりをしながら呟くアレス。その表情は強い憎しみの念に捉われていた。
「シンシアを、渡すものか…!」
マルスのツインアイが光を灯した…沈黙の火星の神が、再び起動する。
深い深いまどろみの底で、見た夢。
それは、決して開けてはならない、パンドラの箱…
一人の少女が、悠久の時を眠る。
初雪のように白い肌に咲き誇るは、薔薇のように美しい唇。
少女には恐らく感情というものはない。眠ってはいるのだが、目を覚ましたとて、美の権化がただ在るだけだという印象を与える。
あまりの美しさに、そっと触れようと手を伸ばす。
決して遠くはない距離にいる少女に触れるには、少しの時があれば十分だろう。
しかし、あまりにも遠い。あまりにも永い。
その時間さえ愛おしく思えるほどの美しさ…
そして、指先が少女の面を捉えた刹那…
初雪のように白い肌に咲き誇るは、薔薇のように美しい唇。
少女には恐らく感情というものはない。眠ってはいるのだが、目を覚ましたとて、美の権化がただ在るだけだという印象を与える。
あまりの美しさに、そっと触れようと手を伸ばす。
決して遠くはない距離にいる少女に触れるには、少しの時があれば十分だろう。
しかし、あまりにも遠い。あまりにも永い。
その時間さえ愛おしく思えるほどの美しさ…
そして、指先が少女の面を捉えた刹那…
「おい、聞こえてんのか!?応答しろ!デイヴィッド・リマァー!!」
はっ!デイヴは目を覚ます。あの夢を、何故、今…?
眠っていたのだろうか?ディックの通信により、意識を取り戻す。
ピッ、応答するデイヴ。何度も起こる不可解なデジャヴとジャメヴの渦から、逃れようとする為に。
「…あー、こちらデイヴィッド。落ちこぼれのオッサンは無事だぜ、中尉殿」
いつもの皮肉屋としての口調に戻るデイヴ。が、その瞳は依然として憔悴に揺れている。
「!…ぶ、無事ならサッサと応答しやがれ、このクソオヤジ!」
心配したじゃねえか…聞こえないようにうそぶくディックに、デイヴが答える。
「ひでえ言い草だな、まったく。クソオヤジはねえよ、こちとらまだ26だぜ」
「う、うるせえ!26にもなりゃ、十分立派なおっさんだ!もうじきビール腹の仲間入りだ!健康のためにスカッシュをやる老いぼれの一人になるんだよ!
そのうち、ミネラルウォーターを飲んでカロリーに詳しくなるんだ!あと4年で30なんてほとんどジジイじゃねえか! もし俺だったら、あんまりにも気が滅入って首を吊るね!」
若干涙目になりながらもまくし立てるディック。
「首吊りの足を引っ張るような御意見、ありがとさん」
気にもとめずにディックをあしらうデイヴ。
「とりあえず今はこのアンノウン共と、あのガンダムタイプにどんなお土産を渡して帰ってもらうかだな。ケンカの続きは後でやろうぜ」
「…ったく!黙って聞いてりゃ、どの口がそんなこと言えるってんだよ!」
気を取り直したのか、いつものように不遜な態度のディック。
「仕切るのはこの俺、ディック・オメコスキー様だ!…ああ、何度でも言うぜ!足引っ張るんじゃねえぞ、クソオヤジ!!」
「クソオヤジはやめろっての!」
先ほどまでの完璧な陣営を見事なまでに再現しつつ、流麗に舞うようにして、二機のMSはガンダムマルスへと向かっていく。
どれくらいの時間が経ったのだろう。 自分が死んでいないことを理解して、瞼を開く。
体を包むような若干の浮遊感。
「宇宙……!?」
クランが驚きの声を上げた。モニターに映る景色は、地上のものではない。
気がつくと、機体は宇宙にいた。
「接近する機体を確認。殲滅する」
モニターがこちらに向かってくる数機のMS、ローズを映し出す。
「何をするの……?」
嫌な予感がして、クランが少女に問う。
少女は、冷たく、まるで人形のような瞳で、それらを見ていた。
機体が持つ二丁のバスターライフルが、エネルギーを収束する。
そして次の瞬間、巨大な光の渦が、ローズに向けて放たれた。
「ああっ…………」
眼前の光景に、クランは自分の目を疑う。
光の渦は数機のローズを包み込み、そして跡形も残すことなく消し去ってしまった。
「私は……わたしは……くっ、うああああああ!!」
ローズを消し去った直後、突然、頭を押さえ少女は苦しみ始めた。そして面を上げ、再び呟く。
「来る…!」
今度は一体何が来るのか、そして一体何が起こるのか。
苦しみもがく少女を見ながら、クランはただ得体の知れない不安に、震え続けた。
はっ!デイヴは目を覚ます。あの夢を、何故、今…?
眠っていたのだろうか?ディックの通信により、意識を取り戻す。
ピッ、応答するデイヴ。何度も起こる不可解なデジャヴとジャメヴの渦から、逃れようとする為に。
「…あー、こちらデイヴィッド。落ちこぼれのオッサンは無事だぜ、中尉殿」
いつもの皮肉屋としての口調に戻るデイヴ。が、その瞳は依然として憔悴に揺れている。
「!…ぶ、無事ならサッサと応答しやがれ、このクソオヤジ!」
心配したじゃねえか…聞こえないようにうそぶくディックに、デイヴが答える。
「ひでえ言い草だな、まったく。クソオヤジはねえよ、こちとらまだ26だぜ」
「う、うるせえ!26にもなりゃ、十分立派なおっさんだ!もうじきビール腹の仲間入りだ!健康のためにスカッシュをやる老いぼれの一人になるんだよ!
そのうち、ミネラルウォーターを飲んでカロリーに詳しくなるんだ!あと4年で30なんてほとんどジジイじゃねえか! もし俺だったら、あんまりにも気が滅入って首を吊るね!」
若干涙目になりながらもまくし立てるディック。
「首吊りの足を引っ張るような御意見、ありがとさん」
気にもとめずにディックをあしらうデイヴ。
「とりあえず今はこのアンノウン共と、あのガンダムタイプにどんなお土産を渡して帰ってもらうかだな。ケンカの続きは後でやろうぜ」
「…ったく!黙って聞いてりゃ、どの口がそんなこと言えるってんだよ!」
気を取り直したのか、いつものように不遜な態度のディック。
「仕切るのはこの俺、ディック・オメコスキー様だ!…ああ、何度でも言うぜ!足引っ張るんじゃねえぞ、クソオヤジ!!」
「クソオヤジはやめろっての!」
先ほどまでの完璧な陣営を見事なまでに再現しつつ、流麗に舞うようにして、二機のMSはガンダムマルスへと向かっていく。
どれくらいの時間が経ったのだろう。 自分が死んでいないことを理解して、瞼を開く。
体を包むような若干の浮遊感。
「宇宙……!?」
クランが驚きの声を上げた。モニターに映る景色は、地上のものではない。
気がつくと、機体は宇宙にいた。
「接近する機体を確認。殲滅する」
モニターがこちらに向かってくる数機のMS、ローズを映し出す。
「何をするの……?」
嫌な予感がして、クランが少女に問う。
少女は、冷たく、まるで人形のような瞳で、それらを見ていた。
機体が持つ二丁のバスターライフルが、エネルギーを収束する。
そして次の瞬間、巨大な光の渦が、ローズに向けて放たれた。
「ああっ…………」
眼前の光景に、クランは自分の目を疑う。
光の渦は数機のローズを包み込み、そして跡形も残すことなく消し去ってしまった。
「私は……わたしは……くっ、うああああああ!!」
ローズを消し去った直後、突然、頭を押さえ少女は苦しみ始めた。そして面を上げ、再び呟く。
「来る…!」
今度は一体何が来るのか、そして一体何が起こるのか。
苦しみもがく少女を見ながら、クランはただ得体の知れない不安に、震え続けた。
「!」
自らの機体に迫りくる二機のMS。アレスはガンダムマルスのビームガンブレードのトリガーを引く。
「邪魔だ!」
放たれるビームライフルの雨を、かいくぐり避け続けるディック。
一方のデイヴは、自らの回避能力がお世辞にも良いとは言えないとわかっているので、ディックの駆るムウシコスに張り付くように身を隠し、共に回避する。
「この俺が!そんな単純な軌道のビーム、食らうかっての!」
全てのビームライフルを紙一重で避け、ムウシコスはビームサーベルを抜く。
ムウシコスとマルスの距離は、接近戦にちょうど良い間合いとなっていた。
(こいつ、出来るな…!そしてあのグワッシュ…!)
目を細めるアレス。そしてフッ、と薄く笑い言う。
「これで終わりと、思ったのか…?」
「何!?」
思い切りサーベルを振りかぶったムウシコスに、マルスのカメラファンネルが襲いかかる。
「なんだ、この武器は!?」
「!?」
見たこともないような武装に明らかな戸惑いを隠せないデイヴとディック。
襲い来る光の矢が、縦横無尽に宇宙を駆け巡る。
(ビームライフル…?いや、違う!これは一体…?)
得心のいかぬまま、しかし目の前の現実、死を誘うファンネルからの猛攻を避けなければならない。
「ぐあっ!」
サーベルを振りかぶった体勢のムウシコスは隙が大きい。ファンネルの一つが左足に被弾する。
(あいつの回避能力をして避けられねえのかよ!?)
冷や汗をかくデイヴ。しかしMSの操作を中断するわけにはいかない。
この状況で、少しでも休憩することは油断に他ならない。油断は隙を生む。隙は命を奪う。
デイヴは冷静な判断で、ムウシコスのカバーに回る。
残り七基のファンネルが一斉に、隙の出来たムウシコスに突き刺さるべく襲い来る。
(今の俺に出来ることは…!)
デイヴはグワッシュの持つリニアライフルを投擲、一基のファンネルを阻む。
続けてプラズマソードを投擲、これもなんとか一基のファンネルを防ぐことが出来たようだ。
残りの五基をどう阻むか。加えてガンダムマルスがビームサーベルとビームガンブレードの二刀流で、デイヴのグワッシュへと向かっていた。
デイヴのグワッシュに、もう投擲してファンネルを阻めるような武装はない。加えて、左腕が損傷している。
向かってくるマルスに対抗し、これを打ち払うことなど絶対に不可であった。
(クソ、どうにもできやしねえ!俺はまた、助けられないのか…!?)
デイヴは死を覚悟した。しかしそれ以上に、一人の人間を助けられないという己の無力さを再び噛締めていた。
三基のファンネルが、それぞれムウシコスの頭部、背部スラスター、右腕を破壊する。
(野郎、確実に息の根を止めるつもりか!)
だったら!
デイヴはスラスターをフル稼働させ、ムウシコスの前面に出る。
「ぐっ!ああああ!」
マルスの斬撃を紙一重で避け、ムウシコスを襲う二基のファンネルから身を挺して庇ったのだった。
「!」
驚きを隠せない表情のアレス。
この状況で自らの斬撃を避けたデイヴに驚いたというのもあるが、彼にとって信じられなかったのは、デイヴがディックを庇うという行動に出たことだった。
ファンネルの一つが、コクピット部分に被弾し、グワッシュの装甲が剥げる。
グワッシュからはデイヴの顔が見える状況となっていた。
ヘルメットにひびが入る。出血もしているな…!デイヴは苦しみの中そう思った。
「バカ野郎!俺を庇ったのかよ!何でそんなことをした!」
叫ぶディック。
「…知るかよ!体が、勝手に動いちまった、んだよ…!クソガキは黙っておうちでママのおっぱい吸ってろってな…これでわかったか?」
身を走る痛みに気を失いそうになりながらも、デイヴは言う。
「お前…!このままじゃどっちにしろ、二人ともアイツにやられるぞ!何で自分だけでも逃げようとしなかった!?」
いつしか人を信じる、ということを忘れかけていたディック。
今までの彼がデイヴと同じ立場だったなら、彼は迷わず仲間を切り捨てていただろう。
そしてその仲間のことを笑うのだ。アイツは馬鹿だと。
腕が立たないから、運が悪いから、などという理由で、胸に湧き上がる何かを無理矢理押さえつけて。
「ヘッ!旅は道連れ、世は情けってよく言ったモンだよ。クソガキ、てめえもこのクソオヤジの三途の川への旅立ち、付き合ってくれや」
要するに、お前ひとりを死なせはしないってことなのだが、この一言はアレスにも多大な影響を与える。
一見して性格は違えど、アレスもまた、デイヴの立場だったならディックと同じ行動を取ったであろう。
「さあ、ガンダムパイロットさんよ、さっさと殺せよ。出来る限り楽に頼むぜ」
これ以上生きていても楽しいことなど何もない…そう言わんばかりのデイヴ。
対して、顔を俯かせたアレスは思う。
(この男、死に急いでいるのか…?)
同時に、デイヴの行動に確かな敬意を払い、彼の宗教「コンパニヤ」式の挨拶、胸の前で静かに十字を切る。
「これもケジメだ。お前達の善戦を讃え、今その御魂を神の元へと返してやろう」
面を上げ、ビームサーベルとビームガンブレードを構える。
しかし、アレスの動きは再びそこで止まることとなったのであった。
(あの男…!)
グワッシュから覗くデイヴの顔を見て、その表情に驚きが走る。
ドン!
静寂という静寂が心ゆくまで静寂した後、マルスに向けて放たれた一閃のビームキャノン。
「!」
間一髪でそれを避け、振り返るとそこには、目覚めてはならない魔神・ガンダムドルダがいた。
自らの機体に迫りくる二機のMS。アレスはガンダムマルスのビームガンブレードのトリガーを引く。
「邪魔だ!」
放たれるビームライフルの雨を、かいくぐり避け続けるディック。
一方のデイヴは、自らの回避能力がお世辞にも良いとは言えないとわかっているので、ディックの駆るムウシコスに張り付くように身を隠し、共に回避する。
「この俺が!そんな単純な軌道のビーム、食らうかっての!」
全てのビームライフルを紙一重で避け、ムウシコスはビームサーベルを抜く。
ムウシコスとマルスの距離は、接近戦にちょうど良い間合いとなっていた。
(こいつ、出来るな…!そしてあのグワッシュ…!)
目を細めるアレス。そしてフッ、と薄く笑い言う。
「これで終わりと、思ったのか…?」
「何!?」
思い切りサーベルを振りかぶったムウシコスに、マルスのカメラファンネルが襲いかかる。
「なんだ、この武器は!?」
「!?」
見たこともないような武装に明らかな戸惑いを隠せないデイヴとディック。
襲い来る光の矢が、縦横無尽に宇宙を駆け巡る。
(ビームライフル…?いや、違う!これは一体…?)
得心のいかぬまま、しかし目の前の現実、死を誘うファンネルからの猛攻を避けなければならない。
「ぐあっ!」
サーベルを振りかぶった体勢のムウシコスは隙が大きい。ファンネルの一つが左足に被弾する。
(あいつの回避能力をして避けられねえのかよ!?)
冷や汗をかくデイヴ。しかしMSの操作を中断するわけにはいかない。
この状況で、少しでも休憩することは油断に他ならない。油断は隙を生む。隙は命を奪う。
デイヴは冷静な判断で、ムウシコスのカバーに回る。
残り七基のファンネルが一斉に、隙の出来たムウシコスに突き刺さるべく襲い来る。
(今の俺に出来ることは…!)
デイヴはグワッシュの持つリニアライフルを投擲、一基のファンネルを阻む。
続けてプラズマソードを投擲、これもなんとか一基のファンネルを防ぐことが出来たようだ。
残りの五基をどう阻むか。加えてガンダムマルスがビームサーベルとビームガンブレードの二刀流で、デイヴのグワッシュへと向かっていた。
デイヴのグワッシュに、もう投擲してファンネルを阻めるような武装はない。加えて、左腕が損傷している。
向かってくるマルスに対抗し、これを打ち払うことなど絶対に不可であった。
(クソ、どうにもできやしねえ!俺はまた、助けられないのか…!?)
デイヴは死を覚悟した。しかしそれ以上に、一人の人間を助けられないという己の無力さを再び噛締めていた。
三基のファンネルが、それぞれムウシコスの頭部、背部スラスター、右腕を破壊する。
(野郎、確実に息の根を止めるつもりか!)
だったら!
デイヴはスラスターをフル稼働させ、ムウシコスの前面に出る。
「ぐっ!ああああ!」
マルスの斬撃を紙一重で避け、ムウシコスを襲う二基のファンネルから身を挺して庇ったのだった。
「!」
驚きを隠せない表情のアレス。
この状況で自らの斬撃を避けたデイヴに驚いたというのもあるが、彼にとって信じられなかったのは、デイヴがディックを庇うという行動に出たことだった。
ファンネルの一つが、コクピット部分に被弾し、グワッシュの装甲が剥げる。
グワッシュからはデイヴの顔が見える状況となっていた。
ヘルメットにひびが入る。出血もしているな…!デイヴは苦しみの中そう思った。
「バカ野郎!俺を庇ったのかよ!何でそんなことをした!」
叫ぶディック。
「…知るかよ!体が、勝手に動いちまった、んだよ…!クソガキは黙っておうちでママのおっぱい吸ってろってな…これでわかったか?」
身を走る痛みに気を失いそうになりながらも、デイヴは言う。
「お前…!このままじゃどっちにしろ、二人ともアイツにやられるぞ!何で自分だけでも逃げようとしなかった!?」
いつしか人を信じる、ということを忘れかけていたディック。
今までの彼がデイヴと同じ立場だったなら、彼は迷わず仲間を切り捨てていただろう。
そしてその仲間のことを笑うのだ。アイツは馬鹿だと。
腕が立たないから、運が悪いから、などという理由で、胸に湧き上がる何かを無理矢理押さえつけて。
「ヘッ!旅は道連れ、世は情けってよく言ったモンだよ。クソガキ、てめえもこのクソオヤジの三途の川への旅立ち、付き合ってくれや」
要するに、お前ひとりを死なせはしないってことなのだが、この一言はアレスにも多大な影響を与える。
一見して性格は違えど、アレスもまた、デイヴの立場だったならディックと同じ行動を取ったであろう。
「さあ、ガンダムパイロットさんよ、さっさと殺せよ。出来る限り楽に頼むぜ」
これ以上生きていても楽しいことなど何もない…そう言わんばかりのデイヴ。
対して、顔を俯かせたアレスは思う。
(この男、死に急いでいるのか…?)
同時に、デイヴの行動に確かな敬意を払い、彼の宗教「コンパニヤ」式の挨拶、胸の前で静かに十字を切る。
「これもケジメだ。お前達の善戦を讃え、今その御魂を神の元へと返してやろう」
面を上げ、ビームサーベルとビームガンブレードを構える。
しかし、アレスの動きは再びそこで止まることとなったのであった。
(あの男…!)
グワッシュから覗くデイヴの顔を見て、その表情に驚きが走る。
ドン!
静寂という静寂が心ゆくまで静寂した後、マルスに向けて放たれた一閃のビームキャノン。
「!」
間一髪でそれを避け、振り返るとそこには、目覚めてはならない魔神・ガンダムドルダがいた。
「何だ、あの機体は!?」
ローズ四機と交戦中の第七次調査団所属、シヴォーフ・ラーグが言う。
同じくネルネ・ルネールネ、ゲイリー・ターレルもドルダの方を向く。
ローズパイロット達も戸惑いを隠せないのか、ドルダとマルスが静かに対峙するのを固唾を飲んで見守っていた。
戦場が戸惑いに飲まれ、誰もが動きを止めた。
ただ一人、ドルダに搭乗しているクランだけが、その身をかすかに震えさせていたのだった…
しかし、一人の男の愚行により、その静寂は引き裂かれ、その場にいた人物は皆、抗うことのできない圧倒的な暴力の存在を知ることとなる。
「アレが、俺らの目的か!おい!サッサと滷獲すんぞ!」
四機のローズがこぞってドルダに向けてビームライフルを撃つ。
が、ドルダは微動だにしない。ドルダを操る謎の少女も無表情のままである。
「貰ったァ!」
ビームサーベルを抜く四機のローズ。
「止せ!」
アレスの制止。しかし彼らの耳には届かない。
不意に、少女が言う。時間さえも支配するような声で、しかし静かに…
「Doll-daシステム、起動。ビームジェネレーター、展開」
キイィィィンン…静かにその身に輝きを灯すガンダムドルダ。
身にまとうみの虫のような大型フルシールドが一斉にパージする。
「!」
その場の誰もが、目を疑った。装甲をパージ…!?
ただ一人、クランだけはその事実を知らなかったのだが。
展開したシールドの中には、これまでの滑稽で無骨で無機質なガンダムドルダの姿はそこには無かった。
両肩のビームジェネレーターから天まで届くと思うほどのビームシールドが発生・収束し、その身を包む。
ビームシールドはローズの放ったビームライフルを弾き、そしてビームサーベルの斬撃をも受け止めてみせたのだった。
「な、何!?」
戸惑うローズパイロット。しかし次の瞬間、彼らは気体と化していた。
ドルダの放った二丁のバスターライフルの閃光が、音もなく彼らの命を奪っていたのだった。
再び訪れるは、静寂…否、空白。
その命、その存在を始めから無かったもののように扱う魔神。
クランが、デイヴが、アレスが、ディックが、シヴォーフが言葉を失う。
目の前に存在する絶対的な恐怖。圧倒的な存在。
クランは、どうしていいかわからなかった。
デイヴは、死を覚悟した。
ディックは、言葉が出なかった。
シヴォーフは、今すぐにでも逃げだしてしまいたかった。
ただ一人、アレスのみが恐怖に打ち克ち、鋭い瞳で魔神を睨みつけていた。
(ドルダ…!目覚めたということは、シンシアは…?)
二刀流の構えをとり、脚部のビームブレイドを発生させるマルス。
絶対的王者としてのドルダが、マルスごときの不敬な動きを見逃す筈もなく。
アレスは言う。己を鼓舞するため、恐怖に打ち克つため。
「ドルダ」
皆が一斉にマルスに注目する。
「そこを退け。俺は今からお前のいた遺跡に向かい、ある人物に会わなければならない」
ますます混乱する一同。
今度は、クランだけがその答えを見出すことが出来た。
(ある人物って、まさか…?)
クランは、ドルダを操縦している少女を見る。
(彼女、シンシア…?)
だとしたら、目の前の真紅の機体を駆る人物は。
幼き日に、自らの無力を悔いた少年なのだろうか…
(そんな、まさか…アレス、あなたなの…?)
その澄んだ瞳が、悲しみに塞がれる。
「ガンダムマルス、アレス・ルナーク!これよりガンダムドルダを駆逐する!」
紅き戦神と、蒼き恐怖が、その運命を交叉させる。
ローズ四機と交戦中の第七次調査団所属、シヴォーフ・ラーグが言う。
同じくネルネ・ルネールネ、ゲイリー・ターレルもドルダの方を向く。
ローズパイロット達も戸惑いを隠せないのか、ドルダとマルスが静かに対峙するのを固唾を飲んで見守っていた。
戦場が戸惑いに飲まれ、誰もが動きを止めた。
ただ一人、ドルダに搭乗しているクランだけが、その身をかすかに震えさせていたのだった…
しかし、一人の男の愚行により、その静寂は引き裂かれ、その場にいた人物は皆、抗うことのできない圧倒的な暴力の存在を知ることとなる。
「アレが、俺らの目的か!おい!サッサと滷獲すんぞ!」
四機のローズがこぞってドルダに向けてビームライフルを撃つ。
が、ドルダは微動だにしない。ドルダを操る謎の少女も無表情のままである。
「貰ったァ!」
ビームサーベルを抜く四機のローズ。
「止せ!」
アレスの制止。しかし彼らの耳には届かない。
不意に、少女が言う。時間さえも支配するような声で、しかし静かに…
「Doll-daシステム、起動。ビームジェネレーター、展開」
キイィィィンン…静かにその身に輝きを灯すガンダムドルダ。
身にまとうみの虫のような大型フルシールドが一斉にパージする。
「!」
その場の誰もが、目を疑った。装甲をパージ…!?
ただ一人、クランだけはその事実を知らなかったのだが。
展開したシールドの中には、これまでの滑稽で無骨で無機質なガンダムドルダの姿はそこには無かった。
両肩のビームジェネレーターから天まで届くと思うほどのビームシールドが発生・収束し、その身を包む。
ビームシールドはローズの放ったビームライフルを弾き、そしてビームサーベルの斬撃をも受け止めてみせたのだった。
「な、何!?」
戸惑うローズパイロット。しかし次の瞬間、彼らは気体と化していた。
ドルダの放った二丁のバスターライフルの閃光が、音もなく彼らの命を奪っていたのだった。
再び訪れるは、静寂…否、空白。
その命、その存在を始めから無かったもののように扱う魔神。
クランが、デイヴが、アレスが、ディックが、シヴォーフが言葉を失う。
目の前に存在する絶対的な恐怖。圧倒的な存在。
クランは、どうしていいかわからなかった。
デイヴは、死を覚悟した。
ディックは、言葉が出なかった。
シヴォーフは、今すぐにでも逃げだしてしまいたかった。
ただ一人、アレスのみが恐怖に打ち克ち、鋭い瞳で魔神を睨みつけていた。
(ドルダ…!目覚めたということは、シンシアは…?)
二刀流の構えをとり、脚部のビームブレイドを発生させるマルス。
絶対的王者としてのドルダが、マルスごときの不敬な動きを見逃す筈もなく。
アレスは言う。己を鼓舞するため、恐怖に打ち克つため。
「ドルダ」
皆が一斉にマルスに注目する。
「そこを退け。俺は今からお前のいた遺跡に向かい、ある人物に会わなければならない」
ますます混乱する一同。
今度は、クランだけがその答えを見出すことが出来た。
(ある人物って、まさか…?)
クランは、ドルダを操縦している少女を見る。
(彼女、シンシア…?)
だとしたら、目の前の真紅の機体を駆る人物は。
幼き日に、自らの無力を悔いた少年なのだろうか…
(そんな、まさか…アレス、あなたなの…?)
その澄んだ瞳が、悲しみに塞がれる。
「ガンダムマルス、アレス・ルナーク!これよりガンダムドルダを駆逐する!」
紅き戦神と、蒼き恐怖が、その運命を交叉させる。
四話 終 五話に続く