Doll-Device Archive No.05 ジャイアントマン
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翌日。
クラン達はカナンとヴァニラと共に、とあるホテルを訪れていた。
カナンが口にした、会わせたいという人物。
ホテルということは、火星開発公社の人間ではないのか。
何者なのか知らされぬまま、クラン達はカナンとヴァニラについていくしかなかった。
「ミランダさん、大丈夫かしら……」
心配そうにクランが呟く。
「病気じゃないですし、疲れが残っちゃっただけですよ」
「まぁ、シオンとヘルガの相手してるって言ってたしよ」
ミランダのことを気にかけるクランに、モモとヴァイスが言葉をかけた。
クランは「そうね」と、少し暗い面持ちで笑みを浮かべる。
クラン達を地球圏連合軍の拘束から解いた人物に招待されたのは、調査隊の面々とシンシア。
ミランダは体調不良を理由に同行を辞退し、紫藤兄弟と共に保養施設に残っている。
何故、シンシアまで呼ばれたのか。
ドルダに乗っていたということは、報告書にも記入しなかったし事情聴取の時も話してはいない。
火星コロニー義勇軍と戦闘したことすら、言ってはいないのだ。
そのことに関して疑問を持つクランやギデオンは、カナンとヴァニラを完全には信用していなかった。
ギデオンは前を歩くカナンとヴァニラに、疑惑の眼差しを向けている。
カナンとヴァニラは受付を通り過ぎ、そのままホテルスタッフの利用するフロアに続くドアを開いた。
面会の相手は、ホテルの関係者か。
カナンとヴァニラは、エレベーターの前で立ち止まる。
ドアが開くと、そこは複数の座席がある個室のようになっていた。
「みんな、席についてくれ。ここからはエレベーターで移動となる」
カナンに言われるがまま、ギデオン達は座席についた。
座席には、シートベルトが付いている。
カナンとヴァニラがシートベルトを固定するのを見て、ギデオン達も同じようにする。
エレベーターのドアが閉まると、カナンは座席のコントロールパネルを操作して、エレベーターを発進させた。
動きだす、座席付きのエレベーター。
密室の箱。それは、どこへ向かうのだろうか。
それに乗った者達は、どこへ向かっていくのだろうか。
「低重力ポイント、抜けましたわ。ここから重力が軽くなりますからご注意を」
しばらくして、後ろの席にいるギデオン達に顔を向け、ヴァニラが言う。
浮遊感。髪や衣服が少しずつ重力に反していく。
「長いな。まだかかるのか」
「スマンね。あの人は変人でな」
カナンはククッと笑って、ギデオンに返した。
(変人……。公社や政府の者ではない? しかし、何故この男、ここまでフレンドリーなのだ)
自分達を地球圏連合軍の拘束から解放した人物。
そして、公社の役員を私的に動かせるとなると、かなりの大物と見ていいだろう。
ギデオンは、小さく呻いた。
解せないことが、多すぎる。
「到着しましたわ。シートベルトは外してもらって結構です」
ヴァニラに言われた通りにする一同。
ドアが、開いた。
カナンとヴァニラが先に部屋に入る。
「なっ……!?」
「えぇっ……!?」
それに続いたギデオンとクランは、思わず声を上げてしまった。
「なんだなんだ? って、うぉっ!?」
「どうかしたんですかぁ? って、ひゃあ!?」
立ち止まる二人の間から覗いてみたヴァイスとモモが同じように声を上げる。
(大物だとは思ったが……)
(なんて、巨大……)
呆然となるギデオンとクランをよそに、カナンとヴァニラは振り返り、
「紹介しよう」
「わたくし達のマスター。ジャイアントマンですわ」
カナンとヴァニラが横へ退く。
退く前から、ギデオン達はその存在に圧倒されていたが。
見上げなくてはならないのは、決してその人物が低重力下で浮いているからだけではない。
(ジャイアントマン? ファットマンの間違いだろ……)
(メタボリック将軍……いやいや、症候群です)
ヴァイスもモモも、開いた口が塞がらなかった。
「ん~、一人足りないみたいだけど~」
「ミランダ・ウォンは、体調不良で欠席ですわ」
「そ~か~。なら、5人だけでいいね~」
間延びした口調の男。
それはゆっくりと回転し、ギデオン達にその全貌を見せた。
その際に浮かんでいるクッションや菓子の袋にぶつかって、それが四方八方に飛んでいく。
常軌を逸した巨漢。人の想像を絶する、超肥満体。
部屋にいたのは、横はもちろん太く、縦も2メートルを越す長身の男だった。
「5人ていうのは~、後ろにいる小さなパイロットさんもだからね~」
ジャイアントマン。そう紹介された巨漢の言葉に、クラン達は騒然となる。
「こ、この子はパイロットでは!」
「庇わなくても平気だよ~、クラン・リザレクター・ナギサカ君。
別に僕は、その子を食べたりとかはしないからね~」
ジャイアントマンは、何とも言い得ぬ笑みでそう言った。
招待された5人が、横に並ぶ。
それでも、ジャイアントマンの幅には及ばなかった。
「ジャイアントマン……聞いたことがある」
何かに気付いたギデオンが、ゆっくりと口を開いた。
「地球圏連合政府発足の当時からその風格を現し、今も尚各界に影響を与えることのできる大富豪。
通称ジャイアントマン。彼の本名や容姿、その他の素性は誰も知らないと言われている人物だ……」
有り得ないモノを見たような顔をして、ギデオンはそう話す。
じんわりと汗をかき、驚きや、恐れを抱く感情すらあった。
(発足当時って、このデブいったいいくつだよ……)
顔を引きつらせながら、ヴァイスは思った。
ギデオンもクランもヴァイスもモモも、圧倒されっ放しでジャイアントマンを眺めている。
たがシンシアだけは、じいっとジャイアントマンを見詰めるだけ。
表情は変わらず、クラン達のような驚きは見受けられない。
そんな落ち着いた様子のシンシアを目にして、ギデオンも平静を保とうとする。
「その世界の黒幕が、我々にご用とは?」
なんとか口に出来たのは、一番に訊きたかったことだった。
この様子だと、シンシアに、火星で見つかったモノに興味があるようだが。
「ん~、ただ挨拶をしておきたかっただけ、かな~」
ジャイアントマンの言葉は相変わらず間延びしていて、だが意味深長な言い方だった。
「挨拶だけって、それだけでこんなとこに連れてきたのかよ!?」
「僕は出不精でね~。こんな体だからろくに外出もできないんだよ~」
ヴァイスの怒声にも動じず、ふわふわと浮きながらジャイアントマンは言う。
「ジャイアントマン、ふざけないで頂きたい」
「ジ~ム~。親しい人には、Giant Manの頭文字を取ってGM(ジム)って呼んでほしいな~」
「我々は貴方と、それほど親しくはない!」
普段冷静なギデオンが、声を荒げた。
既に苛立っているヴァイス、そして堪忍袋の緒が切れてしまったギデオン。
モモは柄にもなく萎縮し、クランはジャイアントマンに不信感を募らせている。
「ジム。さっさと言っちまったらどうなんだ? あんたのワガママに付き合ってほしいって」
歯切れの悪いジャイアントマンに呆れてか、カナンが助け舟を出した。
「ああ~、ダメだよカナン~。僕はみんなにこれからどうしたいかを訊いてからそれを言いたかったんだ~」
ジャイアントマンは言い付けを聞かない子供のように駄々をこねた。
「これから、どうしたいか……?」
疑惑の眼差しを向け、言ったことをクランが復唱する。
「そ~。進宇宙暦になって102年。世界は火星にまで生活の場を広げた~。でも見てごらん。
地球圏でも火星圏でも、やっていることは戦争、紛争、武力衝突……僕は飽きちゃったんだ~。
いくら僕がいろんなところに顔が利くといっても、民衆をどうにかすることなんてできない。
だから君達に託したいと思ったんだ~。僕が望む、新しい世界っていうものをね~」
巨体をくるくると回転させ、ジャイアントマンはそう語る。
しかし、そんなことを言われても、どうしようもない。
「そんな世界を変えれるような力。私達には……」
「あるさ~。君達が持ち帰った、ドルダだよ~」
クラン達、それにシンシアも、ジャイアントマンの言葉に再び騒然となった。
当てずっぽうで言ったようにも取れる発言であったが、ジャイアントマンは口調に反して至って真面目そうに見えた。
「クラン・R・ナギサカ君。君はこの火星圏を、どう思うかい~」
真っ直ぐ瞳が、クランを見る。
火星コロニーの民衆を力で押さえつける地球圏連合。
そして、圧政から解放されようと決起した火星コロニー義勇軍。
「君はどっちの支持をする~?」
「……支持はしません。私はどちらも、間違っていると思います」
暗い表情で、クランは言った。
「私は地球圏の生まれです。火星圏に来て、火星のコロニーが酷い状態なのは、一目でわかりました。
裕福なのは、地球圏出身の政府や軍の関係者だけ。火星コロニーの人達は、火星圏では力を生かせないで、
少しでも豊かな生活のために火星圏から離れたアステロイドベルトにまで出稼ぎに行かなくてはならない」
それが、クランが見てきた火星圏の住民の現実だった。
語るクランの表情は、まるで自分のことであるかのように、辛そうである。
「でも、だからといって、それで地球圏連合を武力で排斥していい理由にはなりません」
クランも、その真っ直ぐな瞳を、ジャイアントマンに向ける。
その瞳の映るのは、火星圏の未来への憂いだけではなかった。
クランの中にある過去。自分だけの力では、どうすることもできなかったあの日々。
それがクランの見てきた、必死に生きる者達の姿に重なる。
「もし、あなたが言うように、どうにかできるというのなら……私は、その全てを解決していきたい!」
言うだけしか出来ないが、クランは力強くそう言うのだった。
クラン達はカナンとヴァニラと共に、とあるホテルを訪れていた。
カナンが口にした、会わせたいという人物。
ホテルということは、火星開発公社の人間ではないのか。
何者なのか知らされぬまま、クラン達はカナンとヴァニラについていくしかなかった。
「ミランダさん、大丈夫かしら……」
心配そうにクランが呟く。
「病気じゃないですし、疲れが残っちゃっただけですよ」
「まぁ、シオンとヘルガの相手してるって言ってたしよ」
ミランダのことを気にかけるクランに、モモとヴァイスが言葉をかけた。
クランは「そうね」と、少し暗い面持ちで笑みを浮かべる。
クラン達を地球圏連合軍の拘束から解いた人物に招待されたのは、調査隊の面々とシンシア。
ミランダは体調不良を理由に同行を辞退し、紫藤兄弟と共に保養施設に残っている。
何故、シンシアまで呼ばれたのか。
ドルダに乗っていたということは、報告書にも記入しなかったし事情聴取の時も話してはいない。
火星コロニー義勇軍と戦闘したことすら、言ってはいないのだ。
そのことに関して疑問を持つクランやギデオンは、カナンとヴァニラを完全には信用していなかった。
ギデオンは前を歩くカナンとヴァニラに、疑惑の眼差しを向けている。
カナンとヴァニラは受付を通り過ぎ、そのままホテルスタッフの利用するフロアに続くドアを開いた。
面会の相手は、ホテルの関係者か。
カナンとヴァニラは、エレベーターの前で立ち止まる。
ドアが開くと、そこは複数の座席がある個室のようになっていた。
「みんな、席についてくれ。ここからはエレベーターで移動となる」
カナンに言われるがまま、ギデオン達は座席についた。
座席には、シートベルトが付いている。
カナンとヴァニラがシートベルトを固定するのを見て、ギデオン達も同じようにする。
エレベーターのドアが閉まると、カナンは座席のコントロールパネルを操作して、エレベーターを発進させた。
動きだす、座席付きのエレベーター。
密室の箱。それは、どこへ向かうのだろうか。
それに乗った者達は、どこへ向かっていくのだろうか。
「低重力ポイント、抜けましたわ。ここから重力が軽くなりますからご注意を」
しばらくして、後ろの席にいるギデオン達に顔を向け、ヴァニラが言う。
浮遊感。髪や衣服が少しずつ重力に反していく。
「長いな。まだかかるのか」
「スマンね。あの人は変人でな」
カナンはククッと笑って、ギデオンに返した。
(変人……。公社や政府の者ではない? しかし、何故この男、ここまでフレンドリーなのだ)
自分達を地球圏連合軍の拘束から解放した人物。
そして、公社の役員を私的に動かせるとなると、かなりの大物と見ていいだろう。
ギデオンは、小さく呻いた。
解せないことが、多すぎる。
「到着しましたわ。シートベルトは外してもらって結構です」
ヴァニラに言われた通りにする一同。
ドアが、開いた。
カナンとヴァニラが先に部屋に入る。
「なっ……!?」
「えぇっ……!?」
それに続いたギデオンとクランは、思わず声を上げてしまった。
「なんだなんだ? って、うぉっ!?」
「どうかしたんですかぁ? って、ひゃあ!?」
立ち止まる二人の間から覗いてみたヴァイスとモモが同じように声を上げる。
(大物だとは思ったが……)
(なんて、巨大……)
呆然となるギデオンとクランをよそに、カナンとヴァニラは振り返り、
「紹介しよう」
「わたくし達のマスター。ジャイアントマンですわ」
カナンとヴァニラが横へ退く。
退く前から、ギデオン達はその存在に圧倒されていたが。
見上げなくてはならないのは、決してその人物が低重力下で浮いているからだけではない。
(ジャイアントマン? ファットマンの間違いだろ……)
(メタボリック将軍……いやいや、症候群です)
ヴァイスもモモも、開いた口が塞がらなかった。
「ん~、一人足りないみたいだけど~」
「ミランダ・ウォンは、体調不良で欠席ですわ」
「そ~か~。なら、5人だけでいいね~」
間延びした口調の男。
それはゆっくりと回転し、ギデオン達にその全貌を見せた。
その際に浮かんでいるクッションや菓子の袋にぶつかって、それが四方八方に飛んでいく。
常軌を逸した巨漢。人の想像を絶する、超肥満体。
部屋にいたのは、横はもちろん太く、縦も2メートルを越す長身の男だった。
「5人ていうのは~、後ろにいる小さなパイロットさんもだからね~」
ジャイアントマン。そう紹介された巨漢の言葉に、クラン達は騒然となる。
「こ、この子はパイロットでは!」
「庇わなくても平気だよ~、クラン・リザレクター・ナギサカ君。
別に僕は、その子を食べたりとかはしないからね~」
ジャイアントマンは、何とも言い得ぬ笑みでそう言った。
招待された5人が、横に並ぶ。
それでも、ジャイアントマンの幅には及ばなかった。
「ジャイアントマン……聞いたことがある」
何かに気付いたギデオンが、ゆっくりと口を開いた。
「地球圏連合政府発足の当時からその風格を現し、今も尚各界に影響を与えることのできる大富豪。
通称ジャイアントマン。彼の本名や容姿、その他の素性は誰も知らないと言われている人物だ……」
有り得ないモノを見たような顔をして、ギデオンはそう話す。
じんわりと汗をかき、驚きや、恐れを抱く感情すらあった。
(発足当時って、このデブいったいいくつだよ……)
顔を引きつらせながら、ヴァイスは思った。
ギデオンもクランもヴァイスもモモも、圧倒されっ放しでジャイアントマンを眺めている。
たがシンシアだけは、じいっとジャイアントマンを見詰めるだけ。
表情は変わらず、クラン達のような驚きは見受けられない。
そんな落ち着いた様子のシンシアを目にして、ギデオンも平静を保とうとする。
「その世界の黒幕が、我々にご用とは?」
なんとか口に出来たのは、一番に訊きたかったことだった。
この様子だと、シンシアに、火星で見つかったモノに興味があるようだが。
「ん~、ただ挨拶をしておきたかっただけ、かな~」
ジャイアントマンの言葉は相変わらず間延びしていて、だが意味深長な言い方だった。
「挨拶だけって、それだけでこんなとこに連れてきたのかよ!?」
「僕は出不精でね~。こんな体だからろくに外出もできないんだよ~」
ヴァイスの怒声にも動じず、ふわふわと浮きながらジャイアントマンは言う。
「ジャイアントマン、ふざけないで頂きたい」
「ジ~ム~。親しい人には、Giant Manの頭文字を取ってGM(ジム)って呼んでほしいな~」
「我々は貴方と、それほど親しくはない!」
普段冷静なギデオンが、声を荒げた。
既に苛立っているヴァイス、そして堪忍袋の緒が切れてしまったギデオン。
モモは柄にもなく萎縮し、クランはジャイアントマンに不信感を募らせている。
「ジム。さっさと言っちまったらどうなんだ? あんたのワガママに付き合ってほしいって」
歯切れの悪いジャイアントマンに呆れてか、カナンが助け舟を出した。
「ああ~、ダメだよカナン~。僕はみんなにこれからどうしたいかを訊いてからそれを言いたかったんだ~」
ジャイアントマンは言い付けを聞かない子供のように駄々をこねた。
「これから、どうしたいか……?」
疑惑の眼差しを向け、言ったことをクランが復唱する。
「そ~。進宇宙暦になって102年。世界は火星にまで生活の場を広げた~。でも見てごらん。
地球圏でも火星圏でも、やっていることは戦争、紛争、武力衝突……僕は飽きちゃったんだ~。
いくら僕がいろんなところに顔が利くといっても、民衆をどうにかすることなんてできない。
だから君達に託したいと思ったんだ~。僕が望む、新しい世界っていうものをね~」
巨体をくるくると回転させ、ジャイアントマンはそう語る。
しかし、そんなことを言われても、どうしようもない。
「そんな世界を変えれるような力。私達には……」
「あるさ~。君達が持ち帰った、ドルダだよ~」
クラン達、それにシンシアも、ジャイアントマンの言葉に再び騒然となった。
当てずっぽうで言ったようにも取れる発言であったが、ジャイアントマンは口調に反して至って真面目そうに見えた。
「クラン・R・ナギサカ君。君はこの火星圏を、どう思うかい~」
真っ直ぐ瞳が、クランを見る。
火星コロニーの民衆を力で押さえつける地球圏連合。
そして、圧政から解放されようと決起した火星コロニー義勇軍。
「君はどっちの支持をする~?」
「……支持はしません。私はどちらも、間違っていると思います」
暗い表情で、クランは言った。
「私は地球圏の生まれです。火星圏に来て、火星のコロニーが酷い状態なのは、一目でわかりました。
裕福なのは、地球圏出身の政府や軍の関係者だけ。火星コロニーの人達は、火星圏では力を生かせないで、
少しでも豊かな生活のために火星圏から離れたアステロイドベルトにまで出稼ぎに行かなくてはならない」
それが、クランが見てきた火星圏の住民の現実だった。
語るクランの表情は、まるで自分のことであるかのように、辛そうである。
「でも、だからといって、それで地球圏連合を武力で排斥していい理由にはなりません」
クランも、その真っ直ぐな瞳を、ジャイアントマンに向ける。
その瞳の映るのは、火星圏の未来への憂いだけではなかった。
クランの中にある過去。自分だけの力では、どうすることもできなかったあの日々。
それがクランの見てきた、必死に生きる者達の姿に重なる。
「もし、あなたが言うように、どうにかできるというのなら……私は、その全てを解決していきたい!」
言うだけしか出来ないが、クランは力強くそう言うのだった。
(ここでCM。アイキャッチは全面に巨体を張り出したジャイアントマンさんと、両脇にカナンとヴァニラ。)
(CM終わり。アイキャッチはクランとジャイアントマンの対峙。)
ジャイアントマンは、「う~~~~~~ん」と長い間唸っていた。
そして、その重そうな瞼を開いて、クランを見た。
「わかったよ~。なら君に、機会をあげよう~」
自分が一番優位であるかのような、横柄な態度。
否、彼は優位なのだ。
ジャイアントマン。この男がどれほどの力を持っているか。
漠然としかわからないクラン達でも、彼からプレッシャーのようなものを感じ取っていた。
「機会……とは?」
「君が言う、全てを解決できるかもしれない機会さ~」
ジャイアントマンの言葉に、クランは眉間にしわを寄せる。
「このコロニーには、駐留軍の司令部、宇宙要塞ハーフムーンから逃げてきた部隊がいる。
君達が会ったルシェッタ大佐のことだね~。今は司令代理なんて名乗ってるけども~」
ギデオンがハッとする。
「まさか陥とされたのか!? ハーフムーンが……」
宇宙要塞ハーフムーン。
月を割った、半月のようなボウル型の小惑星。
火星圏における地球圏連合軍火星方面駐留軍の最重要拠点である。
いくらローズの戦闘力が強大といっても、イーグルクロウや戦闘艦の配備数では決して劣っていないはずだ。
それが破られたと知って、ギデオンは愕然となる。
「主だった高官達は戦死。ハーフムーンの司令だったアーロン・キム少将が重傷を負った。
ルシェッタ大佐は艦隊司令で、ハーフムーンを放棄してこのコロニーに逃げてくる際に、
キム司令から駐留軍の司令代理を務めるようにと略式だが任命されたという経緯らしい」
事情を知るカナンが説明を加える。
駐留軍の司令官と少数だが艦隊が生存しているのは、不幸中の幸いといえる。
だが、火星コロニー義勇軍のその戦力と手際の良さには、感服せざるを得ない。ギデオンはそう思った。
「火星コロニー義勇軍は、司令やハーフムーンの艦がここにいるのは知っているはずだ。
だが未だに再攻撃の類がないというのは、そこまで重要視してはいないということだろう」
「目的は宇宙要塞そのものだと?」
「さあ? 民間人の俺にはわからんよ」
はぐらかすようにカナンは笑った。
ギデオンも、これ以上の質問は意味はないと、口を閉じた。
「それで、私に何が出来るというんです。そんなことを教えてまで」
睨むような疑いの眼差しで、クランはジャイアントマンを見る。
「仲介役になるのさ~、君が。休戦協定のね~」
「休戦協定……!?」
鋭かったクランの瞳が一転、驚きに見開く。
とんでもないことを言う。
クラン達はジャイアントに驚かされっ放しであった。
「けど、これはすげえことだぜ。そんなことが出来るならさ!」
まだ了承もしていないのに、躍起になってヴァイスが言う。
「そ、そうですよ! もし成功したら、誰も怪我したり、死んだりしません!」
今まで黙っていたモモも、必死そうに声を張り上げた。
「二人共! これはそんな簡単な問題じゃないのよ! もし交渉が決裂して、戦闘にでもなったらどうするの!?」
「……そうしたら、守るよ」
クランの言葉に、端でじっとしていたシンシアが、声を発した。
シンシアのその表情は、堅い意志を見せ、そして最初に出会った時のようなどこか冷たい影があった。
しかし、その冷たい影も、ゆっくりと消えていく。
顔を向け、しっかりとクランを見るシンシアには、姉を想う妹の瞳があった。
「もう逃げられんよ。ナギサカ君」
諦めたような苦笑をして、ギデオンもクランを見る。
クランは、迷った。
だが皆の後押しに、不安が残る中、静かに首を縦に振る。
「ありがとう~。じゃあ僕達は準備に進めるよ~。しばらく待機してもらうことになるけど、よろしくね~」
満足したのか、ジャイアントマンはにこやかにそう言った。
「じゃあ、俺がみんなを送ってく」
カナンが先導し、調査隊とシンシアはエレベーターに再び乗った。
笑顔で、それを見送るジャイアントマンとヴァニラ。
完全にドアが閉まり、エレベーターは発進していく。
「……欠席した子。出身はどこだっけ~」
「ミランダ・ウォン。生まれも育ちも、純粋な火星圏民ですわ」
笑顔を消したジャイアントマンが訊き、またこちらも無表情になったシンシアが返答する。
「世界は、このちっぽけな火星圏は、どうなるかな~」
「ジムったら。最低な道楽ですわね。ふふっ」
そして、その重そうな瞼を開いて、クランを見た。
「わかったよ~。なら君に、機会をあげよう~」
自分が一番優位であるかのような、横柄な態度。
否、彼は優位なのだ。
ジャイアントマン。この男がどれほどの力を持っているか。
漠然としかわからないクラン達でも、彼からプレッシャーのようなものを感じ取っていた。
「機会……とは?」
「君が言う、全てを解決できるかもしれない機会さ~」
ジャイアントマンの言葉に、クランは眉間にしわを寄せる。
「このコロニーには、駐留軍の司令部、宇宙要塞ハーフムーンから逃げてきた部隊がいる。
君達が会ったルシェッタ大佐のことだね~。今は司令代理なんて名乗ってるけども~」
ギデオンがハッとする。
「まさか陥とされたのか!? ハーフムーンが……」
宇宙要塞ハーフムーン。
月を割った、半月のようなボウル型の小惑星。
火星圏における地球圏連合軍火星方面駐留軍の最重要拠点である。
いくらローズの戦闘力が強大といっても、イーグルクロウや戦闘艦の配備数では決して劣っていないはずだ。
それが破られたと知って、ギデオンは愕然となる。
「主だった高官達は戦死。ハーフムーンの司令だったアーロン・キム少将が重傷を負った。
ルシェッタ大佐は艦隊司令で、ハーフムーンを放棄してこのコロニーに逃げてくる際に、
キム司令から駐留軍の司令代理を務めるようにと略式だが任命されたという経緯らしい」
事情を知るカナンが説明を加える。
駐留軍の司令官と少数だが艦隊が生存しているのは、不幸中の幸いといえる。
だが、火星コロニー義勇軍のその戦力と手際の良さには、感服せざるを得ない。ギデオンはそう思った。
「火星コロニー義勇軍は、司令やハーフムーンの艦がここにいるのは知っているはずだ。
だが未だに再攻撃の類がないというのは、そこまで重要視してはいないということだろう」
「目的は宇宙要塞そのものだと?」
「さあ? 民間人の俺にはわからんよ」
はぐらかすようにカナンは笑った。
ギデオンも、これ以上の質問は意味はないと、口を閉じた。
「それで、私に何が出来るというんです。そんなことを教えてまで」
睨むような疑いの眼差しで、クランはジャイアントマンを見る。
「仲介役になるのさ~、君が。休戦協定のね~」
「休戦協定……!?」
鋭かったクランの瞳が一転、驚きに見開く。
とんでもないことを言う。
クラン達はジャイアントに驚かされっ放しであった。
「けど、これはすげえことだぜ。そんなことが出来るならさ!」
まだ了承もしていないのに、躍起になってヴァイスが言う。
「そ、そうですよ! もし成功したら、誰も怪我したり、死んだりしません!」
今まで黙っていたモモも、必死そうに声を張り上げた。
「二人共! これはそんな簡単な問題じゃないのよ! もし交渉が決裂して、戦闘にでもなったらどうするの!?」
「……そうしたら、守るよ」
クランの言葉に、端でじっとしていたシンシアが、声を発した。
シンシアのその表情は、堅い意志を見せ、そして最初に出会った時のようなどこか冷たい影があった。
しかし、その冷たい影も、ゆっくりと消えていく。
顔を向け、しっかりとクランを見るシンシアには、姉を想う妹の瞳があった。
「もう逃げられんよ。ナギサカ君」
諦めたような苦笑をして、ギデオンもクランを見る。
クランは、迷った。
だが皆の後押しに、不安が残る中、静かに首を縦に振る。
「ありがとう~。じゃあ僕達は準備に進めるよ~。しばらく待機してもらうことになるけど、よろしくね~」
満足したのか、ジャイアントマンはにこやかにそう言った。
「じゃあ、俺がみんなを送ってく」
カナンが先導し、調査隊とシンシアはエレベーターに再び乗った。
笑顔で、それを見送るジャイアントマンとヴァニラ。
完全にドアが閉まり、エレベーターは発進していく。
「……欠席した子。出身はどこだっけ~」
「ミランダ・ウォン。生まれも育ちも、純粋な火星圏民ですわ」
笑顔を消したジャイアントマンが訊き、またこちらも無表情になったシンシアが返答する。
「世界は、このちっぽけな火星圏は、どうなるかな~」
「ジムったら。最低な道楽ですわね。ふふっ」
第29コロニーから近く、火星コロニー義勇軍の中継地点となったコロニーがあった。
第33コロニー。
このコロニーもまた、独立派の武装蜂起後すぐに制圧されている。
調査隊の乗った輸送船を第29コロニーに逃がしてから数日。
このコロニーには、マイケル・ミッチェル隊が追撃部隊の補充要員と追加装備が運ばれてくるのを待っていた。
「ニコラス・スフィフトだ」
「ダン・デボンであります!」
そんな第33コロニーに、遂に補充要員がやってきた。
ニコラス、ダン。ドルダの圧倒的な力に敗れた、二人。
「他3名、着任した」
格納庫。
輸送船から降りてきたニコラスとダンは、出迎えにきたマイケル・ミッチェル隊の面々と挨拶を交わす。
「ようこそ。凱旋かな、ニコラス君」
「茶化すな、狸」
睨むニコラス。
マイケルはやれやれと笑う。
「ローズ5機、並びに追加と新型の装備を持ってきた」
「うん。確かに、受領したよ」
乱暴に、ニコラスは書類代わりの情報端末をマイケルに渡す。
受け取ったマイケルは、顎に手をやってその情報を確認していく。
(他の3人は素人か。実戦経験は、駐留軍の配備が少なかったコロニーを制圧した1回のみ……使えないな)
小さく息を吐く。
「他の3人は、どうしたの?」
「長旅に疲れたらしい。船ん中でおネンネしてるよ」
「なんだそれ。はあ~……ヨウコウ様は何を考えてるんだが」
本格的に戦力にならないと、マイケルは頭を抱える。
それに関してはニコラスも同意しているようで、ばつが悪そうに視線を泳がせた。
「ですがミッチェル隊長。お言葉ですが、そちらの隊こそ……」
言い辛そうにダンがターニャ達を見る。
目が合ったターニャは、軽く笑い、ダンに近付いた。
「なんだい? 言ってごらんよ」
「いえ……女性や子供が戦場に出るのは、相応しくないと思いまして」
その瞬間、平手が飛んだ。
気持ちいいほどの破裂音が辺りに響く。
ダンはしばらく、理解が出来なかった。
その光景を目撃したニコラスも、唖然とする。
ダンの頬は真っ赤に腫れ、ターニャは自身の右手に息を吹きかけていた。
「アタシはさ、火星圏の外れで賊とドンパチやってたこともあんのさ」
「は、はひ……」
「あんたがお優しいのはわかるよ。けどねぇ、戦場に出る相応しい資格ってのはなんだい?」
「ひへ、貴女は相応ひいと思いまふ……」
ジンジンと痛む頬に、ダンは涙した。
ニコラスが咳払いをする。
「連れが要らんこと言ったようだな。詫びるぜ」
「わかってくれりゃいいのさ。アタシ達は生きるために戦ってる。それはあんた達だって変わらないだろ?」
ターニャに言われて、ニコラスは素直に頷いてしまった。
ニコラスは戦うことが好きだった。
スラム街でストリートファイトに明け暮れたあの日。
生きるために闘う。賭け金をコイン一枚でも多く稼ぐために。
固いパンと薄味のスープですら、口に出来るかもわからない日々だった。
(そんな時、俺はあの男に、ヨウコウ・ソウヤに出会ったんだ)
スラム街に現れた、腰に日本刀を差した時代錯誤で小綺麗な男。
荒んだ目をしたスラム街の住民達に臆されもせず、ニコラスだけを目指して歩いてきた。
“君の力を借りたい”
そう言って、その真っ直ぐで熱い瞳を向けてきた。
(変わらねえのか。どいつもこいつも)
ニコラスはマイケルを見る。
飄々として、掴みどころのない。
実力はあったが、組織内でも評判は悪かった。
(ガキ共も同じだ。あの頃の俺と)
ストリートファイトが、モビルスーツでの戦闘になっただけのこと。
賭け金が、火星コロニー民の自由に変わっただけのこと。
少年兵を戦場に置くのは、決してこのマイケル・ミッチェルという人物が非情だからではない。
そう考えを改めた。
「ダン! てめえも他人の心配なんざしてねえで自分の心配をしろ!」
そう強くダンの背中を叩く。
「ス、スウィフトさんもひぼいですよぉ!」
ダンは頬と背中の痛みにまた泣いた。
そんなニコラスとダンのやりとりを眺め、マイケルは笑みを浮かべる。
「それにしても、追加装備はともかく、新型装備か。僕達に試験運用させるってねぇ……」
呆れたようにマイケルが言う。
「アウノウンMS……ガンダムなんてのが現れたからな。出たとこなんだろ」
輸送船から運び出されたコンテナが、ゆっくりと開いていく。
「ガンダム。アレのコードネームか。ふざけた名前だ……けど、気に入ったよ」
コンテナには、ニコラス達が言うローズの新たな武装が搭載されていた。
「銃と剣、両方の特性を併せ持つビームガンブレードが5。白兵戦用の特殊装備、ナインテールが2。
そして大型の盾であるアームシールドが1。それと追加装備で通常の盾と連装ミサイルを持ってきました」
頬の痛みもだいぶ収まり、ダンが報告する。
「ビームガンブレード。小型ではあるがこっちでもビームを固定できるようになったとはね」
「だがガンダムにはビームは効かねえ。雑魚用の武器さ」
「出力は上がってるんだろ? これは僕とターニャ、タオマオが使おう。それとダン君、君も使いたまえ」
ダンは「ハッ」っと敬礼する。
ターニャも了解し、タオとマオも小さく頷いた。
「ナインテール。9枚の刃を連ね、熱したその刃で機体を溶断する変則的な軌道が特徴の武器、か」
どうしたものかと、腕を組む。
「扱いが難しいね。君が使うかい? ニコラス君」
「いや、俺にはあのデカいシールドをくれ」
「わかった。じゃあ僕とディランとで使おう。ディラン、やれるかな?」
マイケルはディランに顔を向ける。
ディランはその鋭い表情を崩さずに、ディランを視線を返した。
「了解した。どんな武器でも使いこなしてみせる」
「頼もしいよ」
迷いなく答えるディランを、マイケルは信用しているようだった。
無口でほとんど表情がないタオとマオという兄弟もそうだが、少年にしては些からしさというものがない。
(ソウヤの野郎にあぁ言った反面、こいつ等を死なせるわけにはいかねぇか)
じっと、ニコラスはディランを見る。
「なんだ」
ニコラスの視線に即座に反応するディラン。
それには少々、ニコラスも驚いたようだ。
「いや、俺も、俺だけじゃねぇ。補充された兵全員、お前に背中を任せても大丈夫か?」
「俺が少年兵だから危惧しているのか。安心していい。同じ仲間なら銃を向けたりはしない」
淡々とディランが答える。
「その代わり、あんた達にも俺の背中を預ける」
表情は変わらなかったが、そう言うディランに、マイケルは少しだけ彼の見方が変わった。
ニッと笑うと、ディランに近付いていく。
「あったり前だろォがよッ!」
思い切り力の入った張り手が、ディランの背中を叩いた。
これにはディランも、目を見開いた。
「スウィフトさんの感情表現はアグレッシブすぎです。あのディランという少年に同情します……」
震えながら、ダンが呟いた。
和やかなムードの中、ターニャが持っていた携帯端末に連絡が入る。
直ぐ様応答するターニャ。
「みんな、向こうが先に動いたようだね。オープンチャンネルで呼びかけを行ってるらしいわ」
ターニャが言うと、マイケルやニコラス達は一斉に気を張り詰めさせた。
第33コロニー。
このコロニーもまた、独立派の武装蜂起後すぐに制圧されている。
調査隊の乗った輸送船を第29コロニーに逃がしてから数日。
このコロニーには、マイケル・ミッチェル隊が追撃部隊の補充要員と追加装備が運ばれてくるのを待っていた。
「ニコラス・スフィフトだ」
「ダン・デボンであります!」
そんな第33コロニーに、遂に補充要員がやってきた。
ニコラス、ダン。ドルダの圧倒的な力に敗れた、二人。
「他3名、着任した」
格納庫。
輸送船から降りてきたニコラスとダンは、出迎えにきたマイケル・ミッチェル隊の面々と挨拶を交わす。
「ようこそ。凱旋かな、ニコラス君」
「茶化すな、狸」
睨むニコラス。
マイケルはやれやれと笑う。
「ローズ5機、並びに追加と新型の装備を持ってきた」
「うん。確かに、受領したよ」
乱暴に、ニコラスは書類代わりの情報端末をマイケルに渡す。
受け取ったマイケルは、顎に手をやってその情報を確認していく。
(他の3人は素人か。実戦経験は、駐留軍の配備が少なかったコロニーを制圧した1回のみ……使えないな)
小さく息を吐く。
「他の3人は、どうしたの?」
「長旅に疲れたらしい。船ん中でおネンネしてるよ」
「なんだそれ。はあ~……ヨウコウ様は何を考えてるんだが」
本格的に戦力にならないと、マイケルは頭を抱える。
それに関してはニコラスも同意しているようで、ばつが悪そうに視線を泳がせた。
「ですがミッチェル隊長。お言葉ですが、そちらの隊こそ……」
言い辛そうにダンがターニャ達を見る。
目が合ったターニャは、軽く笑い、ダンに近付いた。
「なんだい? 言ってごらんよ」
「いえ……女性や子供が戦場に出るのは、相応しくないと思いまして」
その瞬間、平手が飛んだ。
気持ちいいほどの破裂音が辺りに響く。
ダンはしばらく、理解が出来なかった。
その光景を目撃したニコラスも、唖然とする。
ダンの頬は真っ赤に腫れ、ターニャは自身の右手に息を吹きかけていた。
「アタシはさ、火星圏の外れで賊とドンパチやってたこともあんのさ」
「は、はひ……」
「あんたがお優しいのはわかるよ。けどねぇ、戦場に出る相応しい資格ってのはなんだい?」
「ひへ、貴女は相応ひいと思いまふ……」
ジンジンと痛む頬に、ダンは涙した。
ニコラスが咳払いをする。
「連れが要らんこと言ったようだな。詫びるぜ」
「わかってくれりゃいいのさ。アタシ達は生きるために戦ってる。それはあんた達だって変わらないだろ?」
ターニャに言われて、ニコラスは素直に頷いてしまった。
ニコラスは戦うことが好きだった。
スラム街でストリートファイトに明け暮れたあの日。
生きるために闘う。賭け金をコイン一枚でも多く稼ぐために。
固いパンと薄味のスープですら、口に出来るかもわからない日々だった。
(そんな時、俺はあの男に、ヨウコウ・ソウヤに出会ったんだ)
スラム街に現れた、腰に日本刀を差した時代錯誤で小綺麗な男。
荒んだ目をしたスラム街の住民達に臆されもせず、ニコラスだけを目指して歩いてきた。
“君の力を借りたい”
そう言って、その真っ直ぐで熱い瞳を向けてきた。
(変わらねえのか。どいつもこいつも)
ニコラスはマイケルを見る。
飄々として、掴みどころのない。
実力はあったが、組織内でも評判は悪かった。
(ガキ共も同じだ。あの頃の俺と)
ストリートファイトが、モビルスーツでの戦闘になっただけのこと。
賭け金が、火星コロニー民の自由に変わっただけのこと。
少年兵を戦場に置くのは、決してこのマイケル・ミッチェルという人物が非情だからではない。
そう考えを改めた。
「ダン! てめえも他人の心配なんざしてねえで自分の心配をしろ!」
そう強くダンの背中を叩く。
「ス、スウィフトさんもひぼいですよぉ!」
ダンは頬と背中の痛みにまた泣いた。
そんなニコラスとダンのやりとりを眺め、マイケルは笑みを浮かべる。
「それにしても、追加装備はともかく、新型装備か。僕達に試験運用させるってねぇ……」
呆れたようにマイケルが言う。
「アウノウンMS……ガンダムなんてのが現れたからな。出たとこなんだろ」
輸送船から運び出されたコンテナが、ゆっくりと開いていく。
「ガンダム。アレのコードネームか。ふざけた名前だ……けど、気に入ったよ」
コンテナには、ニコラス達が言うローズの新たな武装が搭載されていた。
「銃と剣、両方の特性を併せ持つビームガンブレードが5。白兵戦用の特殊装備、ナインテールが2。
そして大型の盾であるアームシールドが1。それと追加装備で通常の盾と連装ミサイルを持ってきました」
頬の痛みもだいぶ収まり、ダンが報告する。
「ビームガンブレード。小型ではあるがこっちでもビームを固定できるようになったとはね」
「だがガンダムにはビームは効かねえ。雑魚用の武器さ」
「出力は上がってるんだろ? これは僕とターニャ、タオマオが使おう。それとダン君、君も使いたまえ」
ダンは「ハッ」っと敬礼する。
ターニャも了解し、タオとマオも小さく頷いた。
「ナインテール。9枚の刃を連ね、熱したその刃で機体を溶断する変則的な軌道が特徴の武器、か」
どうしたものかと、腕を組む。
「扱いが難しいね。君が使うかい? ニコラス君」
「いや、俺にはあのデカいシールドをくれ」
「わかった。じゃあ僕とディランとで使おう。ディラン、やれるかな?」
マイケルはディランに顔を向ける。
ディランはその鋭い表情を崩さずに、ディランを視線を返した。
「了解した。どんな武器でも使いこなしてみせる」
「頼もしいよ」
迷いなく答えるディランを、マイケルは信用しているようだった。
無口でほとんど表情がないタオとマオという兄弟もそうだが、少年にしては些からしさというものがない。
(ソウヤの野郎にあぁ言った反面、こいつ等を死なせるわけにはいかねぇか)
じっと、ニコラスはディランを見る。
「なんだ」
ニコラスの視線に即座に反応するディラン。
それには少々、ニコラスも驚いたようだ。
「いや、俺も、俺だけじゃねぇ。補充された兵全員、お前に背中を任せても大丈夫か?」
「俺が少年兵だから危惧しているのか。安心していい。同じ仲間なら銃を向けたりはしない」
淡々とディランが答える。
「その代わり、あんた達にも俺の背中を預ける」
表情は変わらなかったが、そう言うディランに、マイケルは少しだけ彼の見方が変わった。
ニッと笑うと、ディランに近付いていく。
「あったり前だろォがよッ!」
思い切り力の入った張り手が、ディランの背中を叩いた。
これにはディランも、目を見開いた。
「スウィフトさんの感情表現はアグレッシブすぎです。あのディランという少年に同情します……」
震えながら、ダンが呟いた。
和やかなムードの中、ターニャが持っていた携帯端末に連絡が入る。
直ぐ様応答するターニャ。
「みんな、向こうが先に動いたようだね。オープンチャンネルで呼びかけを行ってるらしいわ」
ターニャが言うと、マイケルやニコラス達は一斉に気を張り詰めさせた。
そして、張り詰めているのは、マイケル達だけではなかった。
「休戦協定……そんなもの、飲めるわけがない」
自室で、メリリヴェイルは恨めしそうに唸った。
政府からの達しという、火星コロニー義勇軍との休戦協定の提案。
「そんなものを受け入れてしまえば、劣勢である我が軍は事実上敗北を認めたようなもの」
ギリリ、と食い縛った歯が音を立てる。
「抵抗を続ける他の部隊も、次々に降伏していると聞く」
司令代理としての重責。
政府から案に従うか、反撃に転じるか。
今、公社が代行して付近のコロニーにいる火星コロニー義勇軍に呼びかけているようだが。
公社といえば。メリリヴェイルの脳裏に、数日前の出来事が蘇る。
「奴等に、いいようにはさせん!」
カナンという男が口にした味方というのはこうことかと、怒りに机を叩く。
「ここ最近、地球圏との通信状態が著しく悪い。増援も期待できんとは……!」
メリリヴェイルは、悔しさに、呻くようにそう言った。
例え増援を呼べたとしても、到着するのに数ヶ月はかかる。
その間に敗北は目に見えている。
「あのシステムさえ……あのシステムさえ実戦に導入できれば」
だが、彼女はまだ、諦めてはいない。
メリリヴェイル・ルシェッタ。
その瞳は、野望に燃えていた。
「休戦協定……そんなもの、飲めるわけがない」
自室で、メリリヴェイルは恨めしそうに唸った。
政府からの達しという、火星コロニー義勇軍との休戦協定の提案。
「そんなものを受け入れてしまえば、劣勢である我が軍は事実上敗北を認めたようなもの」
ギリリ、と食い縛った歯が音を立てる。
「抵抗を続ける他の部隊も、次々に降伏していると聞く」
司令代理としての重責。
政府から案に従うか、反撃に転じるか。
今、公社が代行して付近のコロニーにいる火星コロニー義勇軍に呼びかけているようだが。
公社といえば。メリリヴェイルの脳裏に、数日前の出来事が蘇る。
「奴等に、いいようにはさせん!」
カナンという男が口にした味方というのはこうことかと、怒りに机を叩く。
「ここ最近、地球圏との通信状態が著しく悪い。増援も期待できんとは……!」
メリリヴェイルは、悔しさに、呻くようにそう言った。
例え増援を呼べたとしても、到着するのに数ヶ月はかかる。
その間に敗北は目に見えている。
「あのシステムさえ……あのシステムさえ実戦に導入できれば」
だが、彼女はまだ、諦めてはいない。
メリリヴェイル・ルシェッタ。
その瞳は、野望に燃えていた。
To Be Continued...