Doll-Device Archive No.06 トークス
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第28コロニーの民間ポートに、1隻のシャトルが入港する。
休戦協定の呼びかけを受けた周辺のコロニーから、
代表としてドルダ追撃部隊の三名が出席することになった。
マイケル、ターニャ、ニコラスである。
そして、シャトルの操縦しているのはディランだった。
ディランは淡々と管制との受け答えをしつつ、誘導に従いシャトルを着船させた。
「じゃあ行ってくる。後を頼むよ。ディラン」
操縦席に顔を出したマイケルが、ウインクと共にそう言った。
ディランは無表情のまま、「了解した」と返す。
マイケルは少しだけ残念そうな顔をして、トボトボと先に降りたニコラス達を追った。
エプロンでは二人の男女が、マイケル達のことを待っていた。
「ようこそ第29コロニーへ。私は今回仲介役を務めます、クラン・R・ナギサカと」
「ギデオン・マクドガルです」
社交辞令の笑顔と共に差し出される手。
マイケルは快くそれに応じると、クラン達の顔をまじまじと見た。
「ナギサカ、マグドガルというと、もしや第一次火星調査隊の?」
「そうです。ご存知で?」
マイケルの言葉に、穏やかな口調で返すクラン。
そんなクランの顔を見ながら、マイケルは満面の笑みを向ける。
「勿論だよ。僕等は君達が火星から謎のモビルスーツと一緒に逃げてきてからずっと追っていたからね」
楽しげに、マイケルは言った。
途端、クランとギデオンの顔が強張る。
目の前にいるのは、何度も命を狙われた相手。
よく見れば、柄の悪そうな男は、敵意を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
「今回の休戦協定に向けた会談と、その件は関係がありません。混同されぬように」
念を押すように、三人を見ながらギデオンが告げる。
「あ、あの時は、私達も生き延びることに必死でした」
「あぁ、わかっているよ。スウィフト君も、事を荒立てないように」
ニコラスを見て、ギデオンが言う。
注意を受けたニコラスは、機嫌が悪そうに舌打ちをした。
マイケル達は一通りのボディチェックの後、仲介役の二人の案内で地球圏連合軍側の待つ一室へと向かう。
ギデオンはドアをノックし、皆と入室した。
室内には、軍服を着た屈強な男達。
そして、一人着席し、目を瞑って沈黙するメリリヴェイルがいた。
「では、火星コロニー義勇軍の方々も、席にお着きください」
クランがそう言うと、マイケル達は腰をかけた。
対峙するメリリヴェイルと、マイケル、ニコラス、ターニャ。
話し合いがこじれれば一触即発となるかもしれないと、クランは息が詰まりそうだった。
そんな心配を振り払い、クランはギデオンと目を合わせる。彼が頷くと、4人へ順々に書類を配っていった。
「今回の休戦協定に関する資料です。各項目をご確認ください」
クランは戻ると、ギデオンと共に腰を降ろした。
目を通す両軍の者達。
眼鏡のレンズ越しに見えるメリリヴェイルの瞳は、一見して落ち着いているように感じる。
しかし、傍観するギデオンは、彼女に違和感を持っていた。
(初回にして、合意に結びつけるとは思ってはいないが……)
彼女から伝わってくる空気は、自分達を拘束したあの時から変わっていないように思えて仕方ない。
政府の名を借りた公社からの、ごり押しの休戦協定。
納得できないこともあるだろう。
だが、それだけではない。
自分だけしか信じていない、頑なさが見えた。
「訂正箇所がいくつかある。言って構わないか?」
メリリヴェイルが顔を上げると、ギデオンと目が合う。
不意のことで、思わずギデオンは視線をそらす。
「構わないか?」
眉を顰め、強めの口調で再度訊く。
「す、すまない。仰ってくれ」
「指揮系統が分断され、各コロニーの連絡さえままならない今、
この“両軍の即時停戦”という項目は削除するべきではないか?」
鋭い視線がクランとギデオンを捉える。
二人の顔が曇った。
「この休戦協定、範囲を狭めるべきだと考えるが。地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍ではなく、
第29コロニーの地球圏連合軍と周辺コロニーの火星コロニー義勇軍という形ではどうだろうか」
「自分達だけ見逃してもらおうと?」
メリリヴェイルの提案に、つまらなさそうにマイケルが言う。
「駐留軍の総司令がおられるこのコロニーは、いずれは貴軍の攻略対象になるだろう。
それを後回しにしてもらえないだろうと、頭を下げて頼んでいるのだ。何か不服か?」
ハーフムーンを離脱して第29コロニーに逃げ込んだ一部艦隊に、追撃は驚くほど少なかった。
そして、第29コロニーも、コロニー一斉制圧以降火星コロニー義勇軍の攻撃はない。
今まで攻めてこなかったのだから、これからもそうするべきだ。
遠回しにそう言っている。
(この司令代理殿、悪びれもせずによく言うね)
思わず、口角が上がってしまう。
退屈していたマイケルの興味が、少しずつ引かれていった。
第29コロニーの駐留軍は、火星コロニー義勇軍によるコロニー制圧の侵攻の際に交戦し、辛くも勝利した。
ローズの多くは地球圏連合軍に接収され、義勇軍のパイロット達は軍施設内の収容所に送られている。
その後、ハーフムーンから逃げてきた艦隊を受け入れ、今に至るのだが。
(時間が欲しいのか……何か策があるのかな)
泉のように興味が湧き出す。
顔がにやけそうになるのを、堪えるのに必死だ。
目的、計画、メリリヴェイルが今どんなことを考えているのさえ気になってしまう。
表情を作る筋肉が、とうとう、緩んだ。
「あだッ!?」
しかし、脇腹に突かれる痛みに一瞬にして顔が歪む。
「ダーリン、そろそろこっちも、条件を提示した方がよろしいんじゃなくって?」
呆れ顔のターニャが、低い声で言った。
「そ、そうだね。こちらも、休戦協定を飲むにあたって、条件を出したいと思う」
堅い表情に戻り、マイケルは言った。
双方、一筋縄にはいかない。
クランの顔が、暗くなった。
「仰ってください。ルシェッタ司令代理、構いませんか?」
クランが訊くと、短く息を吐いて、メリリヴェイルは頷いた。
「このコロニーにいる我が軍の捕虜を解放してほしい」
マイケルの提示した条件に、否、マイケルの言ったある単語に、メリリヴェイルの眉が動いた。
「“捕虜”? 貴軍は正規軍ではない。コロニー独立を訴える者達が武装した、ただのテロリストだ。
貴軍がモビルスーツと称している機動兵器に乗っていたパイロット達は、犯罪者と相違ない。
この会談を設けたのも、犯罪者である貴官等に配慮して、こちらと対等であることを示すためだ」
だいぶ、気が立っているようだ。
メリリヴェイルが声を荒げる。
(本性が出たね。メリリヴェイル・ルシェッタ……)
隠すこともせずに、マイケルは笑う。
「このアマ! この期に及んで、自分達が強者とでも思ってんか? アァッ!?」
今まで黙っていたニコラスが、遂に大声を上げた。
「若造が、舐めた口を利くな……!!」
唸るように言いながら、メリリヴェイルはニコラスを睨みつける。
ぶつかり合う両陣営。
(やっぱり、駄目なの……?)
クランは、心の中で呟いた。
呟くことしか出来なかった。
マイケルが、腕にはめた時計を確認する。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「この交渉は決裂だね」
立ち上がるマイケル。ターニャもそれに続く。
ニコラスも、メリリヴェイルに向けたきつい視線をずらし、席を立った。
彼等の不可解な行動に、ギデオンは嫌な予感を走らせる。
(まさか……)
そう思った瞬間、室内を揺れが襲った。
ざわめきが広がる。
「さて、先刻言った通り、捕虜は解放させていただくよ」
「な、なんだと!?」
マイケルの言葉に、メリリヴェイルは動揺し声を上げた。
余裕綽々と胸ポケットにかけたサングラスをつけるマイケル。
ターニャとニコラスも同様だった。
「君達はちょっと油断しすぎかな。僕達のシャトルを民間の港に停めさせたのも、
僕達だけに注意を置いて、シャトルの操縦士には監視をつけなかったみたいだしね」
マイケルは足を曲げ、踵に手をやった。
(靴……閃光弾か!?)
ギデオンが直感したのも束の間、
「それと、ボディチェックはもっと厳しくね」
マイケルはそう一言付け足して、手にした靴底らしき物体を床に投げつけた。
辺り一面に、一瞬にして眩しい光が放たれる。
混乱の最中、遠ざかる足音と、ドアの開く音。
騒ぎに掻き消されながら、どこかでメリリヴェイルの声がする。
恐らくマイケル達を追うように命令をしているのだろうが、
屈強な兵士達はその肉体を生かせず慌てふためくしかなかった。
騒然とした空気が収まったのは、閃光弾の効果がなくなった数分後のことだった。
部屋に兵士が入ってくる。
「通路でも閃光弾を使われ、振り切られました……」
情けない報告。
メリリヴェイルは悔しさに拳を震わせる。
「収容所の犯罪者共は!?」
「た、たった今、脱走されたと報告が……」
鬼のような形相のメリリヴェイルに気圧され、隣にいた部下は声を震わせる。
長い溜め息の後、メリリヴェイルは静かに立ち上がった。
「アレを使う。コントロールルームに伝えろ」
「ですがあのシステムはまだ完全では……」
「試運転を兼ねる。攻撃が可能ならそれでいい。操作は未熟で構わん」
メリリヴェイルの言葉に押し切られて、部下は了解する。
そのまま、メリリヴェイルはドアに向かって歩いていく。
そして、クランとギデオンを見た。
「もう二度と、こんなふざけた茶番は開かないことだな」
吐き捨てて、メリリヴェイルと部下達は退室していった。
直後、机を激しく殴る音が、室内に響く。
クランだった。
「ナギサカ君……」
クランの行動に、驚くギデオン。
(私のしようとしていることは、ただの夢物語なの……)
焦りと悔しさが滲む。
ギデオンの携帯端末が鳴った。
発信者はヴァイス。何事かと、ギデオンは通話に出る。
「どうかしたか? ……なんだと!?」
ギデオンの声に、クランは振り向いた。
「シンシア君が、撃たれた……!?」
「えっ……どういうことですか!?」
言葉を失うギデオンに、詰め寄るクラン。
状況を把握できず、二人は立ち尽くしたまま。
休戦協定の呼びかけを受けた周辺のコロニーから、
代表としてドルダ追撃部隊の三名が出席することになった。
マイケル、ターニャ、ニコラスである。
そして、シャトルの操縦しているのはディランだった。
ディランは淡々と管制との受け答えをしつつ、誘導に従いシャトルを着船させた。
「じゃあ行ってくる。後を頼むよ。ディラン」
操縦席に顔を出したマイケルが、ウインクと共にそう言った。
ディランは無表情のまま、「了解した」と返す。
マイケルは少しだけ残念そうな顔をして、トボトボと先に降りたニコラス達を追った。
エプロンでは二人の男女が、マイケル達のことを待っていた。
「ようこそ第29コロニーへ。私は今回仲介役を務めます、クラン・R・ナギサカと」
「ギデオン・マクドガルです」
社交辞令の笑顔と共に差し出される手。
マイケルは快くそれに応じると、クラン達の顔をまじまじと見た。
「ナギサカ、マグドガルというと、もしや第一次火星調査隊の?」
「そうです。ご存知で?」
マイケルの言葉に、穏やかな口調で返すクラン。
そんなクランの顔を見ながら、マイケルは満面の笑みを向ける。
「勿論だよ。僕等は君達が火星から謎のモビルスーツと一緒に逃げてきてからずっと追っていたからね」
楽しげに、マイケルは言った。
途端、クランとギデオンの顔が強張る。
目の前にいるのは、何度も命を狙われた相手。
よく見れば、柄の悪そうな男は、敵意を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
「今回の休戦協定に向けた会談と、その件は関係がありません。混同されぬように」
念を押すように、三人を見ながらギデオンが告げる。
「あ、あの時は、私達も生き延びることに必死でした」
「あぁ、わかっているよ。スウィフト君も、事を荒立てないように」
ニコラスを見て、ギデオンが言う。
注意を受けたニコラスは、機嫌が悪そうに舌打ちをした。
マイケル達は一通りのボディチェックの後、仲介役の二人の案内で地球圏連合軍側の待つ一室へと向かう。
ギデオンはドアをノックし、皆と入室した。
室内には、軍服を着た屈強な男達。
そして、一人着席し、目を瞑って沈黙するメリリヴェイルがいた。
「では、火星コロニー義勇軍の方々も、席にお着きください」
クランがそう言うと、マイケル達は腰をかけた。
対峙するメリリヴェイルと、マイケル、ニコラス、ターニャ。
話し合いがこじれれば一触即発となるかもしれないと、クランは息が詰まりそうだった。
そんな心配を振り払い、クランはギデオンと目を合わせる。彼が頷くと、4人へ順々に書類を配っていった。
「今回の休戦協定に関する資料です。各項目をご確認ください」
クランは戻ると、ギデオンと共に腰を降ろした。
目を通す両軍の者達。
眼鏡のレンズ越しに見えるメリリヴェイルの瞳は、一見して落ち着いているように感じる。
しかし、傍観するギデオンは、彼女に違和感を持っていた。
(初回にして、合意に結びつけるとは思ってはいないが……)
彼女から伝わってくる空気は、自分達を拘束したあの時から変わっていないように思えて仕方ない。
政府の名を借りた公社からの、ごり押しの休戦協定。
納得できないこともあるだろう。
だが、それだけではない。
自分だけしか信じていない、頑なさが見えた。
「訂正箇所がいくつかある。言って構わないか?」
メリリヴェイルが顔を上げると、ギデオンと目が合う。
不意のことで、思わずギデオンは視線をそらす。
「構わないか?」
眉を顰め、強めの口調で再度訊く。
「す、すまない。仰ってくれ」
「指揮系統が分断され、各コロニーの連絡さえままならない今、
この“両軍の即時停戦”という項目は削除するべきではないか?」
鋭い視線がクランとギデオンを捉える。
二人の顔が曇った。
「この休戦協定、範囲を狭めるべきだと考えるが。地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍ではなく、
第29コロニーの地球圏連合軍と周辺コロニーの火星コロニー義勇軍という形ではどうだろうか」
「自分達だけ見逃してもらおうと?」
メリリヴェイルの提案に、つまらなさそうにマイケルが言う。
「駐留軍の総司令がおられるこのコロニーは、いずれは貴軍の攻略対象になるだろう。
それを後回しにしてもらえないだろうと、頭を下げて頼んでいるのだ。何か不服か?」
ハーフムーンを離脱して第29コロニーに逃げ込んだ一部艦隊に、追撃は驚くほど少なかった。
そして、第29コロニーも、コロニー一斉制圧以降火星コロニー義勇軍の攻撃はない。
今まで攻めてこなかったのだから、これからもそうするべきだ。
遠回しにそう言っている。
(この司令代理殿、悪びれもせずによく言うね)
思わず、口角が上がってしまう。
退屈していたマイケルの興味が、少しずつ引かれていった。
第29コロニーの駐留軍は、火星コロニー義勇軍によるコロニー制圧の侵攻の際に交戦し、辛くも勝利した。
ローズの多くは地球圏連合軍に接収され、義勇軍のパイロット達は軍施設内の収容所に送られている。
その後、ハーフムーンから逃げてきた艦隊を受け入れ、今に至るのだが。
(時間が欲しいのか……何か策があるのかな)
泉のように興味が湧き出す。
顔がにやけそうになるのを、堪えるのに必死だ。
目的、計画、メリリヴェイルが今どんなことを考えているのさえ気になってしまう。
表情を作る筋肉が、とうとう、緩んだ。
「あだッ!?」
しかし、脇腹に突かれる痛みに一瞬にして顔が歪む。
「ダーリン、そろそろこっちも、条件を提示した方がよろしいんじゃなくって?」
呆れ顔のターニャが、低い声で言った。
「そ、そうだね。こちらも、休戦協定を飲むにあたって、条件を出したいと思う」
堅い表情に戻り、マイケルは言った。
双方、一筋縄にはいかない。
クランの顔が、暗くなった。
「仰ってください。ルシェッタ司令代理、構いませんか?」
クランが訊くと、短く息を吐いて、メリリヴェイルは頷いた。
「このコロニーにいる我が軍の捕虜を解放してほしい」
マイケルの提示した条件に、否、マイケルの言ったある単語に、メリリヴェイルの眉が動いた。
「“捕虜”? 貴軍は正規軍ではない。コロニー独立を訴える者達が武装した、ただのテロリストだ。
貴軍がモビルスーツと称している機動兵器に乗っていたパイロット達は、犯罪者と相違ない。
この会談を設けたのも、犯罪者である貴官等に配慮して、こちらと対等であることを示すためだ」
だいぶ、気が立っているようだ。
メリリヴェイルが声を荒げる。
(本性が出たね。メリリヴェイル・ルシェッタ……)
隠すこともせずに、マイケルは笑う。
「このアマ! この期に及んで、自分達が強者とでも思ってんか? アァッ!?」
今まで黙っていたニコラスが、遂に大声を上げた。
「若造が、舐めた口を利くな……!!」
唸るように言いながら、メリリヴェイルはニコラスを睨みつける。
ぶつかり合う両陣営。
(やっぱり、駄目なの……?)
クランは、心の中で呟いた。
呟くことしか出来なかった。
マイケルが、腕にはめた時計を確認する。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「この交渉は決裂だね」
立ち上がるマイケル。ターニャもそれに続く。
ニコラスも、メリリヴェイルに向けたきつい視線をずらし、席を立った。
彼等の不可解な行動に、ギデオンは嫌な予感を走らせる。
(まさか……)
そう思った瞬間、室内を揺れが襲った。
ざわめきが広がる。
「さて、先刻言った通り、捕虜は解放させていただくよ」
「な、なんだと!?」
マイケルの言葉に、メリリヴェイルは動揺し声を上げた。
余裕綽々と胸ポケットにかけたサングラスをつけるマイケル。
ターニャとニコラスも同様だった。
「君達はちょっと油断しすぎかな。僕達のシャトルを民間の港に停めさせたのも、
僕達だけに注意を置いて、シャトルの操縦士には監視をつけなかったみたいだしね」
マイケルは足を曲げ、踵に手をやった。
(靴……閃光弾か!?)
ギデオンが直感したのも束の間、
「それと、ボディチェックはもっと厳しくね」
マイケルはそう一言付け足して、手にした靴底らしき物体を床に投げつけた。
辺り一面に、一瞬にして眩しい光が放たれる。
混乱の最中、遠ざかる足音と、ドアの開く音。
騒ぎに掻き消されながら、どこかでメリリヴェイルの声がする。
恐らくマイケル達を追うように命令をしているのだろうが、
屈強な兵士達はその肉体を生かせず慌てふためくしかなかった。
騒然とした空気が収まったのは、閃光弾の効果がなくなった数分後のことだった。
部屋に兵士が入ってくる。
「通路でも閃光弾を使われ、振り切られました……」
情けない報告。
メリリヴェイルは悔しさに拳を震わせる。
「収容所の犯罪者共は!?」
「た、たった今、脱走されたと報告が……」
鬼のような形相のメリリヴェイルに気圧され、隣にいた部下は声を震わせる。
長い溜め息の後、メリリヴェイルは静かに立ち上がった。
「アレを使う。コントロールルームに伝えろ」
「ですがあのシステムはまだ完全では……」
「試運転を兼ねる。攻撃が可能ならそれでいい。操作は未熟で構わん」
メリリヴェイルの言葉に押し切られて、部下は了解する。
そのまま、メリリヴェイルはドアに向かって歩いていく。
そして、クランとギデオンを見た。
「もう二度と、こんなふざけた茶番は開かないことだな」
吐き捨てて、メリリヴェイルと部下達は退室していった。
直後、机を激しく殴る音が、室内に響く。
クランだった。
「ナギサカ君……」
クランの行動に、驚くギデオン。
(私のしようとしていることは、ただの夢物語なの……)
焦りと悔しさが滲む。
ギデオンの携帯端末が鳴った。
発信者はヴァイス。何事かと、ギデオンは通話に出る。
「どうかしたか? ……なんだと!?」
ギデオンの声に、クランは振り向いた。
「シンシア君が、撃たれた……!?」
「えっ……どういうことですか!?」
言葉を失うギデオンに、詰め寄るクラン。
状況を把握できず、二人は立ち尽くしたまま。
第29コロニー内の、とあるモビルワーカー整備用ドック。
公社の所有する施設の一つだ。
そこに、ドルダはあった。
「ヴァイスさん、コーヒーを持ってきました」
見上げながら、ミランダが声をかける。
ドルダの他に、3機のモビルスーツ。
ローズの原形があるが、ところどころ別のパーツに換えられている。
その作業をしていたのがヴァイスだ。
「サンキュ。ちょうど休憩しようと思ってたところだ」
ヴァイスが降りて、コーヒーの入ったコップを受け取った。
「いえ、そんな……」
照れながらミランダが言う。
チラッと、ヴァイスを見ると、彼は自身が改造を施していたモビルスーツを眺めていた。
ミランダも、彼と同じものを見る。
「モビルスーツ。最初はサッパリだったが、段々と掴めてきた」
「楽しそうですね。兵器なのに」
「使わなきゃでっかい機械の塊さ。いじり甲斐のあるな」
ミランダは、あぁこの人は機械が好きなんだと、表情から理解した。
自分が得意としている分野とは違うが、自分も機械は好きだった。
彼の考えに共感できる。
だから、訊きたいことがあった。
「ヴァイスさんは、この紛争、どう思います?」
「紛争、か。俺にはよくわかんねぇ」
頭を掻きながら、ヴァイスは言った。
「ただ、スゲェ嫌なんだ。みんなが仲良くできねえのが」
「仲良く?」
ヴァイスの言葉に疑問が湧く。
「地球圏連合が火星コロニーに圧政を強いてるのはわかってる。
だがよ、火星コロニー独立派のやり方に賛成なんかはできやしねえ」
「クランさんみたいなこと、言うんですね……」
クランは、そのどちらも間違っていると思ったから、
地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍の間に立って、
今、休戦協定を取り付けようとしている。
クランが休戦協定の仲介役になったと聞いた時、ミランダはクランのしようとしていることが理解できなかった。
火星コロニー民としては中流の生まれのミランダだが、
それでも火星コロニーの生活レベルの低さは知っている。
そのせいで両親は働き詰めで、喧嘩も多かった。
自分のこともろくに構ってもらえず、食卓で交わされる政府に対する愚痴も嫌というほど聞いた。
だから、地球圏連合というものに、ミランダは疑念がある。
(そんな私が、政府の管理下にある公社の第一次火星調査隊に参加したのは……)
縋るような目をして、ミランダはヴァイスを見る。
「俺はクランみたいに立派な考えはねえさ。俺はただ、ジャンク屋としての流儀を通したいだけだ」
モビルスーツを見ているままのヴァイスは、ミランダの視線に気付かない。
「ジャンク屋ってのは、宇宙開発の進むこの時代、ジャンクのある場所ならどこにでもいてさ」
そう語るヴァイスの表情は、先程のモビルスーツのことを話す時と一緒だった。
「俺はそんな奴等に命を救われた」
「命を……?」
「馬鹿やって、宇宙を漂流したことがあった。酸素も食料も尽きかけて、
俺は、あぁこのまま死ぬんだ、何もない空間で独り腐っていくんだって。
そんな俺を拾ってくれたのは、偶然通りかかったジャンク屋の船だったんだ」
当時を思い出すと、その時の感覚が蘇ってくる。
孤独。恐怖。絶望。人間のあらゆる負の感情が現れる。
そしてそれすらも無くなって、最後には漠然とした死の予感だけが残った。
「でも、俺は生きてた。缶詰に入った味の薄い離乳食みたいなペーストを貪ってた」
ミランダは心配するが、過去を語るヴァイスは思いの外明るくて。
「そのまま俺は、ジャンク屋の世話になって、メカいじりの技術を学んだ。
アイツ等は施しを受けない。でも、困ってる奴は助ける。たまに喧嘩はするけどな」
ジャンク屋だって、決して豊かな生活をしているわけではないのに。
そう言って、ヴァイスは笑った。
「だから俺は、助け合えない、どっちかが正しいなんてやり方は、賛成できねえ」
「そう……ですか」
ヴァイスの意志は強い。
クランと似ているようで、違う考え方。
聞けただけで良かったと、ミランダは思った。
「あのっ、ヴァイスさん。もし、私が……」
言いかけたその瞬間、ドアが開く。
「シンシアじゃねえか。どした?」
「お姉ちゃんがいないから、寂しくて」
「ドルダを見に来たってわけか」
恥ずかしそうに頷いて、シンシアが駆け寄ってくる。
ジャンク屋の精神が刻まれるヴァイスには、もうシンシアにもドルダにも不信感はない。
そこにいるもの、あるものを、受け入れてしまっている。
「そういやミランダ、さっき何か言おうとしてたよな?」
「何でもありません。もう……いいんです」
一度伏せた目を上げ、笑う。
その笑顔は、どこか悲しげで、ヴァイスはかける言葉に困ってしまった。
そんな時、
「いやああああああ!!」
ドアの向こうから、絶叫が木霊する。
それは少女の声。ヘルガの悲鳴だった。
直後、ドアが開き、何者かがドッグ内に入ってくる。
見知らぬ少年が銃を構え、自分達に向かって一直線に突き進んでくる姿が見えた。
危険だと認識するその前に、少年が手にした銃から、弾丸が放たれる。
「危ないッ!」
シンシアが叫び、ミランダの前に飛び出した。
ヴァイスが、ミランダが、その光景の一部始終を目撃する。
シンシアが、凶弾に倒れた。
公社の所有する施設の一つだ。
そこに、ドルダはあった。
「ヴァイスさん、コーヒーを持ってきました」
見上げながら、ミランダが声をかける。
ドルダの他に、3機のモビルスーツ。
ローズの原形があるが、ところどころ別のパーツに換えられている。
その作業をしていたのがヴァイスだ。
「サンキュ。ちょうど休憩しようと思ってたところだ」
ヴァイスが降りて、コーヒーの入ったコップを受け取った。
「いえ、そんな……」
照れながらミランダが言う。
チラッと、ヴァイスを見ると、彼は自身が改造を施していたモビルスーツを眺めていた。
ミランダも、彼と同じものを見る。
「モビルスーツ。最初はサッパリだったが、段々と掴めてきた」
「楽しそうですね。兵器なのに」
「使わなきゃでっかい機械の塊さ。いじり甲斐のあるな」
ミランダは、あぁこの人は機械が好きなんだと、表情から理解した。
自分が得意としている分野とは違うが、自分も機械は好きだった。
彼の考えに共感できる。
だから、訊きたいことがあった。
「ヴァイスさんは、この紛争、どう思います?」
「紛争、か。俺にはよくわかんねぇ」
頭を掻きながら、ヴァイスは言った。
「ただ、スゲェ嫌なんだ。みんなが仲良くできねえのが」
「仲良く?」
ヴァイスの言葉に疑問が湧く。
「地球圏連合が火星コロニーに圧政を強いてるのはわかってる。
だがよ、火星コロニー独立派のやり方に賛成なんかはできやしねえ」
「クランさんみたいなこと、言うんですね……」
クランは、そのどちらも間違っていると思ったから、
地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍の間に立って、
今、休戦協定を取り付けようとしている。
クランが休戦協定の仲介役になったと聞いた時、ミランダはクランのしようとしていることが理解できなかった。
火星コロニー民としては中流の生まれのミランダだが、
それでも火星コロニーの生活レベルの低さは知っている。
そのせいで両親は働き詰めで、喧嘩も多かった。
自分のこともろくに構ってもらえず、食卓で交わされる政府に対する愚痴も嫌というほど聞いた。
だから、地球圏連合というものに、ミランダは疑念がある。
(そんな私が、政府の管理下にある公社の第一次火星調査隊に参加したのは……)
縋るような目をして、ミランダはヴァイスを見る。
「俺はクランみたいに立派な考えはねえさ。俺はただ、ジャンク屋としての流儀を通したいだけだ」
モビルスーツを見ているままのヴァイスは、ミランダの視線に気付かない。
「ジャンク屋ってのは、宇宙開発の進むこの時代、ジャンクのある場所ならどこにでもいてさ」
そう語るヴァイスの表情は、先程のモビルスーツのことを話す時と一緒だった。
「俺はそんな奴等に命を救われた」
「命を……?」
「馬鹿やって、宇宙を漂流したことがあった。酸素も食料も尽きかけて、
俺は、あぁこのまま死ぬんだ、何もない空間で独り腐っていくんだって。
そんな俺を拾ってくれたのは、偶然通りかかったジャンク屋の船だったんだ」
当時を思い出すと、その時の感覚が蘇ってくる。
孤独。恐怖。絶望。人間のあらゆる負の感情が現れる。
そしてそれすらも無くなって、最後には漠然とした死の予感だけが残った。
「でも、俺は生きてた。缶詰に入った味の薄い離乳食みたいなペーストを貪ってた」
ミランダは心配するが、過去を語るヴァイスは思いの外明るくて。
「そのまま俺は、ジャンク屋の世話になって、メカいじりの技術を学んだ。
アイツ等は施しを受けない。でも、困ってる奴は助ける。たまに喧嘩はするけどな」
ジャンク屋だって、決して豊かな生活をしているわけではないのに。
そう言って、ヴァイスは笑った。
「だから俺は、助け合えない、どっちかが正しいなんてやり方は、賛成できねえ」
「そう……ですか」
ヴァイスの意志は強い。
クランと似ているようで、違う考え方。
聞けただけで良かったと、ミランダは思った。
「あのっ、ヴァイスさん。もし、私が……」
言いかけたその瞬間、ドアが開く。
「シンシアじゃねえか。どした?」
「お姉ちゃんがいないから、寂しくて」
「ドルダを見に来たってわけか」
恥ずかしそうに頷いて、シンシアが駆け寄ってくる。
ジャンク屋の精神が刻まれるヴァイスには、もうシンシアにもドルダにも不信感はない。
そこにいるもの、あるものを、受け入れてしまっている。
「そういやミランダ、さっき何か言おうとしてたよな?」
「何でもありません。もう……いいんです」
一度伏せた目を上げ、笑う。
その笑顔は、どこか悲しげで、ヴァイスはかける言葉に困ってしまった。
そんな時、
「いやああああああ!!」
ドアの向こうから、絶叫が木霊する。
それは少女の声。ヘルガの悲鳴だった。
直後、ドアが開き、何者かがドッグ内に入ってくる。
見知らぬ少年が銃を構え、自分達に向かって一直線に突き進んでくる姿が見えた。
危険だと認識するその前に、少年が手にした銃から、弾丸が放たれる。
「危ないッ!」
シンシアが叫び、ミランダの前に飛び出した。
ヴァイスが、ミランダが、その光景の一部始終を目撃する。
シンシアが、凶弾に倒れた。
(ここでCM。アイキャッチは倒れるシンシア)
(CM終わり。アイキャッチは銃を構えた少年ことディラン)
施設に侵入するのは簡単だった。
ディランに与えられた任務は2つ。
収容所にいる火星コロニー義勇軍のパイロット達の救出と、ガンダムの破壊。
休戦協定の会談は好機だった。
会談で地球圏連合軍の注意をそらし、定刻後一斉に行動を開始する。
ディランはパイロット達の救出ルートを確保すると、ガンダム破壊のため公社の所有するドッグに向かった。
潜入工作は、昔取った杵柄というのだろうか、体に染み込んでいた。
(民間施設だけあって、警備は手薄だな……)
天井の通気口が外れて、通路にディランが降り立つ。
物静かな通路。人の気配を感じない。
誰もいないのは好都合だが、逆にこのドッグが存在する意図も気になってくる。
(データによれば、もうすぐのはずだが)
頭の中には、このドッグの見取り図が全て記憶してある。
これもまた、彼の経験で得た特技だった。
人の気配がして、ディランは立ち止まる。
壁に背をつけ、角から通路の先を見た。
「迷っちゃった……」
きょろきょろと辺りを見回している少女。
「探検するとか言ってお兄ちゃんはどっかに行っちゃうし。もうっ……」
どうしたものかと、溜め息をつく。
ディランは疑問に思った。どうしてこんな場所に少女がいるのだろうかと。
(ガンダムのパイロットは、確か10代ほどの少女……)
情報通りなら、今そこにいる少女の可能性もある。
ディランは、ゆっくりと銃を抜いた。
ガンダムのあるドッグは、この先。
いずれにしろ、鉢合わせするのは必至。
なら。
(苦しませず、一撃で)
ディランが、駆け出す。
足音に気付いた少女が振り返る。
その目は驚愕し、一気に見開く。
「い、いや……」
恐怖に歪む少女の顔。
トリガーを引くディランの指が、止まる。
ディランに与えられた任務は2つ。
収容所にいる火星コロニー義勇軍のパイロット達の救出と、ガンダムの破壊。
休戦協定の会談は好機だった。
会談で地球圏連合軍の注意をそらし、定刻後一斉に行動を開始する。
ディランはパイロット達の救出ルートを確保すると、ガンダム破壊のため公社の所有するドッグに向かった。
潜入工作は、昔取った杵柄というのだろうか、体に染み込んでいた。
(民間施設だけあって、警備は手薄だな……)
天井の通気口が外れて、通路にディランが降り立つ。
物静かな通路。人の気配を感じない。
誰もいないのは好都合だが、逆にこのドッグが存在する意図も気になってくる。
(データによれば、もうすぐのはずだが)
頭の中には、このドッグの見取り図が全て記憶してある。
これもまた、彼の経験で得た特技だった。
人の気配がして、ディランは立ち止まる。
壁に背をつけ、角から通路の先を見た。
「迷っちゃった……」
きょろきょろと辺りを見回している少女。
「探検するとか言ってお兄ちゃんはどっかに行っちゃうし。もうっ……」
どうしたものかと、溜め息をつく。
ディランは疑問に思った。どうしてこんな場所に少女がいるのだろうかと。
(ガンダムのパイロットは、確か10代ほどの少女……)
情報通りなら、今そこにいる少女の可能性もある。
ディランは、ゆっくりと銃を抜いた。
ガンダムのあるドッグは、この先。
いずれにしろ、鉢合わせするのは必至。
なら。
(苦しませず、一撃で)
ディランが、駆け出す。
足音に気付いた少女が振り返る。
その目は驚愕し、一気に見開く。
「い、いや……」
恐怖に歪む少女の顔。
トリガーを引くディランの指が、止まる。
薄暗い室内。
血と硝煙の臭いが充満する。
『隣の家で物音がした』
数人の男達の中に、場違いな少年が一人。
手には彼等と同じ銃が握られていた。
『なんだと。見られたか?』
『耳がいいお前を連れてきといて正解だったな。行くぞ』
男達は、隣家へ向かう。
それに続く少年。
『シュテフィとヘルガは奥に隠れていなさい。私は警察に連絡を』
『あなた……』
『大丈夫だ』
父親らしき男は優しく笑って、母親と娘らしき二人を置いて、部屋を出て行った。
母親は娘を抱き締める。強く強く、娘が痛いと感じるほどに。
『な、なんだお前達は……!』
部屋の外から、父親の声が聞こえた。
その直後に、銃声。
恐怖に震える母親と娘。
信じられない、信じたくはない現実。
勢い良くドアが開かれた。
『ひぃっ』
母親の声が、耳元で聞こえた。
自分を抱き締める母親の腕の力が、緩む。
『お、母さ、ん?』
母親が、床に倒れた。
顔を向ける娘の顔が、驚きと絶望に揺れた。
そして、ドアの方へと顔を向ける。
そこには、自分と年も背丈も変わらない少年がいた。
少年の手には、煙を立たせた銃が。
娘は何が起こっているかもわからず、目の前の銃からは再び弾が、発射された。
血と硝煙の臭いが充満する。
『隣の家で物音がした』
数人の男達の中に、場違いな少年が一人。
手には彼等と同じ銃が握られていた。
『なんだと。見られたか?』
『耳がいいお前を連れてきといて正解だったな。行くぞ』
男達は、隣家へ向かう。
それに続く少年。
『シュテフィとヘルガは奥に隠れていなさい。私は警察に連絡を』
『あなた……』
『大丈夫だ』
父親らしき男は優しく笑って、母親と娘らしき二人を置いて、部屋を出て行った。
母親は娘を抱き締める。強く強く、娘が痛いと感じるほどに。
『な、なんだお前達は……!』
部屋の外から、父親の声が聞こえた。
その直後に、銃声。
恐怖に震える母親と娘。
信じられない、信じたくはない現実。
勢い良くドアが開かれた。
『ひぃっ』
母親の声が、耳元で聞こえた。
自分を抱き締める母親の腕の力が、緩む。
『お、母さ、ん?』
母親が、床に倒れた。
顔を向ける娘の顔が、驚きと絶望に揺れた。
そして、ドアの方へと顔を向ける。
そこには、自分と年も背丈も変わらない少年がいた。
少年の手には、煙を立たせた銃が。
娘は何が起こっているかもわからず、目の前の銃からは再び弾が、発射された。
「い、いや、いやぁぁ」
力が抜け、床に崩れる少女。
ディランは蘇る自分の記憶に、混惑する。
(この少女は、あの時の少女だ……)
だが、何故。
どうしてこの場所にいるのか。
少女は地球に、ドイツにいたはずなのに。
そもそもあの時、この手で殺したはずである。
ディランは、考えを振り払う。
何年も前のことだ。運良く助かり、火星に移住したということもあるだろう。
あの少女は、助かったのだ。
(助かったことが、俺は嬉しいのか……?)
トリガーを引かない自分。
無関心だった自分に芽生える、人間的な感情に戸惑う。
「いやああああああ!!」
ディランが躊躇する中、少女が叫び声が通路に反響する。
そして、少女は事切れたように気を失ってしまった。
「くっ!」
ディランは少女を横目に、ドックに向けて走りだした。
今は目的を果たすだけ。
ガンダムを破壊すれば、もしあの少女がパイロットだったとしても、戦闘で殺さずに済む。
ディランはドックのドアを開けた。
走りながら、4機のモビルスーツを確認し、一気に迫った。
目の前には3人の男女。
もう迷ってはいられない。
ディランは、トリガーを引いた。
「危ないッ!」
一人の少女が飛び出してくる。
発射された弾丸は、その少女に命中し、少女は床に倒れた。
構わず突進してくるディラン。
そんなディランに、青年が咄嗟に床に置いてあった工具を投げ付けた。
「ぐぅっ!」
それが、ディランの手首に上手く当たり、持っていた銃が転がり落ちる。
(タイムアウト……!!)
脳内で刻んでいた時間が、超過を告げた。
銃を拾うこともせず、ディランは踵を返して、デッキを出る。
通路には、未だ気絶し床に横たわっている少女がいた。
気になったが、ディランは自分の意思を振り払い、その場から走り去る。
「こちらディラン・クロス。ガンダムの破壊に失敗」
携帯端末を取り出し、マイケルに連絡を取る。
『ご苦労様! 仲間の救出ルートを作ってくれただけで及第点だ。
僕達も今シャトルに向かってるから、さっさと合流しちゃおう』
「了解」
今まで心に浮かぶことのなかった感情。
これが一体何を意味するのか、彼はまだ知らない。
力が抜け、床に崩れる少女。
ディランは蘇る自分の記憶に、混惑する。
(この少女は、あの時の少女だ……)
だが、何故。
どうしてこの場所にいるのか。
少女は地球に、ドイツにいたはずなのに。
そもそもあの時、この手で殺したはずである。
ディランは、考えを振り払う。
何年も前のことだ。運良く助かり、火星に移住したということもあるだろう。
あの少女は、助かったのだ。
(助かったことが、俺は嬉しいのか……?)
トリガーを引かない自分。
無関心だった自分に芽生える、人間的な感情に戸惑う。
「いやああああああ!!」
ディランが躊躇する中、少女が叫び声が通路に反響する。
そして、少女は事切れたように気を失ってしまった。
「くっ!」
ディランは少女を横目に、ドックに向けて走りだした。
今は目的を果たすだけ。
ガンダムを破壊すれば、もしあの少女がパイロットだったとしても、戦闘で殺さずに済む。
ディランはドックのドアを開けた。
走りながら、4機のモビルスーツを確認し、一気に迫った。
目の前には3人の男女。
もう迷ってはいられない。
ディランは、トリガーを引いた。
「危ないッ!」
一人の少女が飛び出してくる。
発射された弾丸は、その少女に命中し、少女は床に倒れた。
構わず突進してくるディラン。
そんなディランに、青年が咄嗟に床に置いてあった工具を投げ付けた。
「ぐぅっ!」
それが、ディランの手首に上手く当たり、持っていた銃が転がり落ちる。
(タイムアウト……!!)
脳内で刻んでいた時間が、超過を告げた。
銃を拾うこともせず、ディランは踵を返して、デッキを出る。
通路には、未だ気絶し床に横たわっている少女がいた。
気になったが、ディランは自分の意思を振り払い、その場から走り去る。
「こちらディラン・クロス。ガンダムの破壊に失敗」
携帯端末を取り出し、マイケルに連絡を取る。
『ご苦労様! 仲間の救出ルートを作ってくれただけで及第点だ。
僕達も今シャトルに向かってるから、さっさと合流しちゃおう』
「了解」
今まで心に浮かぶことのなかった感情。
これが一体何を意味するのか、彼はまだ知らない。
嵐のように過ぎ去った出来事。
謎の少年、そしてその少年の発砲。
少年は逃げていったが、事態はまだ終わってはいない。
ディランは携帯端末を取り出し、ギデオンと連絡を取る。
「俺です! ドックに侵入者、シンシアが……撃たれました」
スピーカーの向こうで、驚きの声が聞こえる。
「はい、はい。交渉は決裂っスか……」
近くで、シンシアの様子をしきりに尋ねるクランの声が聞こえる。
「クランには気にすんなって伝えてください。この会談、どっちも成功させる気がなかったと思うっス」
「ヴァ、ヴァイスさん!」
助けを求めるような震えた声で、ミランダがヴァイスを呼んだ。
「じゃあ、こっちは俺達が」
クランのことも気になるが、手早く通話を終わらせる。
「ミランダ! どうかしたのか!?」
駆け寄りヴァイスが訊く。
「あの、それが……」
シンシアを抱き上げたミランダは、複雑な顔をしてヴァイスを見た。
上着は脱がされ、傷口が見えるようにされている。
服にも血が広がっている。しかし、少し様子が違った。
「なんだ……これ……」
傷口は、細かな光に覆われていた。
その光の現象に、ヴァイスとミランダは同時に、あることを思い出す。
「ドルダの……」
「ナノマシンによる修復……」
それと同じことが、シンシアにも起こっているのか。
医療分野において、ナノマシンは実績を上げてきた。
今まで不治の病とされてきたいくつもの難病を治療、完治させている。
だが、これはそれとは一線を引いた、異常な光景だった。
モモを呼ぶ間もなく、二人がただ呆然としている内に、傷口は塞がってしまった。
そして、シンシアがパチリと目を覚ます。
「敵が来る……」
目覚めて最初に発したのは、いつもの明るいシンシアとは思えない、冷静すぎる一言。
ミランダの手から離れて、起き上がるシンシア。
それと連動するように、ドルダのコックピットが開く。
ドルダに向かって、シンシアは歩き出した。
ミランダはシンシアの体を支えていた態勢のまま、震えている。
(火星の地下に眠っていたモビルスーツと、それに乗っていた謎の少女……)
それは、恐怖する感情。
(………………不気味だわ)
謎の少年、そしてその少年の発砲。
少年は逃げていったが、事態はまだ終わってはいない。
ディランは携帯端末を取り出し、ギデオンと連絡を取る。
「俺です! ドックに侵入者、シンシアが……撃たれました」
スピーカーの向こうで、驚きの声が聞こえる。
「はい、はい。交渉は決裂っスか……」
近くで、シンシアの様子をしきりに尋ねるクランの声が聞こえる。
「クランには気にすんなって伝えてください。この会談、どっちも成功させる気がなかったと思うっス」
「ヴァ、ヴァイスさん!」
助けを求めるような震えた声で、ミランダがヴァイスを呼んだ。
「じゃあ、こっちは俺達が」
クランのことも気になるが、手早く通話を終わらせる。
「ミランダ! どうかしたのか!?」
駆け寄りヴァイスが訊く。
「あの、それが……」
シンシアを抱き上げたミランダは、複雑な顔をしてヴァイスを見た。
上着は脱がされ、傷口が見えるようにされている。
服にも血が広がっている。しかし、少し様子が違った。
「なんだ……これ……」
傷口は、細かな光に覆われていた。
その光の現象に、ヴァイスとミランダは同時に、あることを思い出す。
「ドルダの……」
「ナノマシンによる修復……」
それと同じことが、シンシアにも起こっているのか。
医療分野において、ナノマシンは実績を上げてきた。
今まで不治の病とされてきたいくつもの難病を治療、完治させている。
だが、これはそれとは一線を引いた、異常な光景だった。
モモを呼ぶ間もなく、二人がただ呆然としている内に、傷口は塞がってしまった。
そして、シンシアがパチリと目を覚ます。
「敵が来る……」
目覚めて最初に発したのは、いつもの明るいシンシアとは思えない、冷静すぎる一言。
ミランダの手から離れて、起き上がるシンシア。
それと連動するように、ドルダのコックピットが開く。
ドルダに向かって、シンシアは歩き出した。
ミランダはシンシアの体を支えていた態勢のまま、震えている。
(火星の地下に眠っていたモビルスーツと、それに乗っていた謎の少女……)
それは、恐怖する感情。
(………………不気味だわ)
火星コロニー義勇軍のシャトルが停まる民間ポート。
マイケル、ターニャ、ニコラス。そして、収容所から逃げてきたパイロット達が集まる。
パイロット達をシャトルに乗せ、三人も中でディランを待った。
ディランが先か。地球圏連合軍の追っ手が先か。
「賭けるかな」
「じゃあアタシはディランが来るに5000」
「じゃあ俺もそっちに2000」
「おいおい、それじゃ賭けにならないじゃないの」
そんな談笑をしていると、エプロンに人影が見えた。
三人は、賭けにならない賭けに、勝ったのだ。
「すまない。4分16秒の遅れだ」
「誤差範囲内だよ。さぁ、さっさと操縦席についた」
乗り込んできたディランを迎入れ、背中を押す。
顔の端しか見えないが、ディランがふっと笑った気がした。
ディランは操縦席につき、発進準備を進める。
しばらくして、シャトルは第29コロニーを飛び立った。
『後は我々に!』
10機のローズがシャトルと擦れ違うように第29コロニーに向かっていく。
「頼む。シャトルは宙域の離脱に専念する」
通信を送り、ディランはより強く操縦桿を握った。
ディランは思う。昔の自分と今の自分の違いを。
昔の自分にも仲間がいた。しかし、仲間という存在をどう認識していたかは、よく覚えていない。
自分のしていること、人を殺すことに、疑問など感じたことはなかった。
身を置いている組織に、ただ戦うためだけの存在として利用されていた。
テロリズム・イヤー。その年が終わり、騒乱が終息に向かっていく。
ディランは、格安を謳う旅行会社の惑星間航行用宇宙船に乗って、火星圏に向かっていた。
元いた組織から、マイケルに引き取られたからだ。
戦う必要のなくなった自分は、新たなる地へ旅立った。
そして、その地で、戦うことになる。
(今は、昔とは違う。俺は、俺の意思で、戦っている)
ディランは、変わっていく。
人間らしい感情が、少しずつ芽生えていく。
まだ少年といえど、人としては、あまりにも遅いのかもしれない。
しかしディランは、今そこにあるものを、掴もうとしていた。
それが、彼に迷いという感情を生じさせるとしても。
マイケル、ターニャ、ニコラス。そして、収容所から逃げてきたパイロット達が集まる。
パイロット達をシャトルに乗せ、三人も中でディランを待った。
ディランが先か。地球圏連合軍の追っ手が先か。
「賭けるかな」
「じゃあアタシはディランが来るに5000」
「じゃあ俺もそっちに2000」
「おいおい、それじゃ賭けにならないじゃないの」
そんな談笑をしていると、エプロンに人影が見えた。
三人は、賭けにならない賭けに、勝ったのだ。
「すまない。4分16秒の遅れだ」
「誤差範囲内だよ。さぁ、さっさと操縦席についた」
乗り込んできたディランを迎入れ、背中を押す。
顔の端しか見えないが、ディランがふっと笑った気がした。
ディランは操縦席につき、発進準備を進める。
しばらくして、シャトルは第29コロニーを飛び立った。
『後は我々に!』
10機のローズがシャトルと擦れ違うように第29コロニーに向かっていく。
「頼む。シャトルは宙域の離脱に専念する」
通信を送り、ディランはより強く操縦桿を握った。
ディランは思う。昔の自分と今の自分の違いを。
昔の自分にも仲間がいた。しかし、仲間という存在をどう認識していたかは、よく覚えていない。
自分のしていること、人を殺すことに、疑問など感じたことはなかった。
身を置いている組織に、ただ戦うためだけの存在として利用されていた。
テロリズム・イヤー。その年が終わり、騒乱が終息に向かっていく。
ディランは、格安を謳う旅行会社の惑星間航行用宇宙船に乗って、火星圏に向かっていた。
元いた組織から、マイケルに引き取られたからだ。
戦う必要のなくなった自分は、新たなる地へ旅立った。
そして、その地で、戦うことになる。
(今は、昔とは違う。俺は、俺の意思で、戦っている)
ディランは、変わっていく。
人間らしい感情が、少しずつ芽生えていく。
まだ少年といえど、人としては、あまりにも遅いのかもしれない。
しかしディランは、今そこにあるものを、掴もうとしていた。
それが、彼に迷いという感情を生じさせるとしても。
第29コロニーの3番から5番までの軍事ドックには、
ハーフムーンより退避してきた艦隊が収容されている。
旗艦のドードー級レユニオンが1隻、そして僚艦であるドードー級ロドリゲスが5隻。
そのレユニオンには、あるシステムを操作するコントロールルームが設置されている。
「イーグルクロウ、全機射出」
第29コロニーの付近宙域に、5機のイーグルクロウが配置される。
パイロットは搭乗していない、無人状態での出撃である。
「ビットシステム起動。戦術データリンク、正常に受信中」
ビット(Battle-target Identification Total-control=B.I.T.)システム。
メリリヴェイル・ルシェッタによって考案、開発されたものであり、
無人機を遠隔制御することによって半自動化させて戦闘を行う。
「経過はどうか」
ドアが開き、メリリヴェイルとその部下達が入ってきた。
「ハッ。正常に作動中であります。ですが……」
敬礼もそこそこに、コントロールルームに詰める士官の一人が心配そうに言った。
「気負うな。初陣だが、撃墜されても貴官等が死ぬわけではない」
強い口調でメリリヴェイルが返す。
そんな言葉が後押しになり、堅い表情で士官は作業に戻った。
(だが、よもや人型機動兵器……モビルスーツに対して使用することになろうとはな)
兵士は命令に絶対であるが、人間であるパイロットがそれに従う可能性は、決して100%ではない。
例え命令に従ったとしても、指揮官の指示を完全には把握できない場合もある。
メリリヴェイルは他人を信用せず、自身の考えを貫く性格故か、部下にも厳しい。
一部の部下からは“鉄の女”と陰口を叩かれることもあった。
そんなメリリヴェイルが行き着いた先は、無人機による戦闘だった。
命令に忠実で、決して裏切ることのない兵器。
(そうだ。それがあれば)
ビットシステムを搭載したイーグルクロウならば、ローズの機動性にも対抗できる。
無人機ならパイロットの肉体の限界を考慮しなくとも済み、
それ以上の性能を発揮させることも可能になるのだ。
(司令代理の地位も悪くはないがな。だが私はこのシステムと戦果をもって、地球圏に舞い戻る)
これは好機なのだと、メリリヴェイルは思った。
「索敵範囲内に敵機進入。ローズ、数10」
「小隊クラスが2、か。シャトルの離脱支援が目的だな。各機、臨戦態勢」
「了解! ビットシステム、戦闘モードに移行します」
現在はコントロールルームからの遠隔制御を必要とするが、
戦闘データが蓄積されていけばいずれは完全に自動の無人戦闘機となる。
そんな無人イーグルクロウの群が、レーダーに入った標的に向けて移動を開始する。
ローズの部隊も気付いたのだろう。
ビームライフルを構え、イーグルクロウに接近していく。
「虫けらがぁー!」
発射されるビーム。
通常ならば当たるはずのそれが、躱される。
「何ッ!?」
『隊長、敵の動きが!』
イーグルクロウが散開した。
今までのイーグルクロウとは思えない速度で、部隊を翻弄する。
「包囲。攻撃を回避しつつ、火力を集中」
メリリヴェイルが指示を出す。
3機のイーグルクロウは補足した1機を取り囲むように展開した。
放たれる2連装キャノン。ローズの装甲にはかすり傷程度にしかならない。
3機が引き、その後方にいた2機が畳みかけるミサイルを発射する。
「くぅっ!」
ローズはビームで応戦する。
しかし、全基撃破することはできず、ローズにミサイルが命中した。
腹部下方から脚部にかけて爆発が起こるローズ。撃墜には至らなかったが、大破し、行動不能に陥った。
「や、やりました!」
「我々のイーグルクロウが、奴等を……」
歓声に包まれるコントロールルーム。
「気を抜くな!! 戦闘はまだ継続中だ、馬鹿者!」
メリリヴェイルが喝を入れる。
慌ててモニターに向き直った士官達。
(やはり、戦争としての感覚が薄くなるか……)
遠隔での制御を必要とする内は、その制御を担当する士官に対して危惧することも多い。
まだ残す課題は多いかと、メリリヴェイルは懸念する。
「クッ! なんだこのモビルアーマーは!」
隊長格であるローズパイロットが焦りを滲ませる。
1機は大破させられ、回収のために2機を向かわせた。
イーグルクロウの2連装キャノンは脅威ではない。ミサイルも同様だ。
だがこうまでローズの攻撃が当たらないとなると、パイロットとしての資質を問われかねない。
「マイケル・ミッチェルとニコラス・スウィフトに笑われてたまるかぁぁぁ!」
ミサイルを撃ち落とし、接近する。
レイピアを抜き、一気に至近距離まで。
「これなら避けられまい!!」
串刺しになるイーグルクロウ。
レイピアを引き抜きローズが下がる。
やっとのことで、イーグルクロウを倒すことができた。
残りの4機。それに目を向ける。
攻撃を開始しようとしたその瞬間、アラートが鳴った。
「高出力ビーム……奴か!」
コロニー下方から一筋の光芒が、ローズとイーグルクロウの群を襲う。
「あれが、例のドルダか……!」
メリリヴェイルが息を呑んだ。
「イーグルクロウ、広範囲ビームにより全機壊滅!」
「ですがローズも4機の撃墜を確認!」
「奴は公社の機体だ。味方の識別信号を送れ」
イーグルクロウが壊滅した今、それも無駄なことではあるが。
(それともドルダ、見境無しか……)
休戦協定が無になったといって、武力で両軍に戦闘停止を訴えるわけでもあるまい。
メリリヴェイルはそう考えるが、果たして。
「私は、倒す…………敵を、危険を及ぼす者を……」
ドルダの中で、シンシアは低く呟いた。
ハーフムーンより退避してきた艦隊が収容されている。
旗艦のドードー級レユニオンが1隻、そして僚艦であるドードー級ロドリゲスが5隻。
そのレユニオンには、あるシステムを操作するコントロールルームが設置されている。
「イーグルクロウ、全機射出」
第29コロニーの付近宙域に、5機のイーグルクロウが配置される。
パイロットは搭乗していない、無人状態での出撃である。
「ビットシステム起動。戦術データリンク、正常に受信中」
ビット(Battle-target Identification Total-control=B.I.T.)システム。
メリリヴェイル・ルシェッタによって考案、開発されたものであり、
無人機を遠隔制御することによって半自動化させて戦闘を行う。
「経過はどうか」
ドアが開き、メリリヴェイルとその部下達が入ってきた。
「ハッ。正常に作動中であります。ですが……」
敬礼もそこそこに、コントロールルームに詰める士官の一人が心配そうに言った。
「気負うな。初陣だが、撃墜されても貴官等が死ぬわけではない」
強い口調でメリリヴェイルが返す。
そんな言葉が後押しになり、堅い表情で士官は作業に戻った。
(だが、よもや人型機動兵器……モビルスーツに対して使用することになろうとはな)
兵士は命令に絶対であるが、人間であるパイロットがそれに従う可能性は、決して100%ではない。
例え命令に従ったとしても、指揮官の指示を完全には把握できない場合もある。
メリリヴェイルは他人を信用せず、自身の考えを貫く性格故か、部下にも厳しい。
一部の部下からは“鉄の女”と陰口を叩かれることもあった。
そんなメリリヴェイルが行き着いた先は、無人機による戦闘だった。
命令に忠実で、決して裏切ることのない兵器。
(そうだ。それがあれば)
ビットシステムを搭載したイーグルクロウならば、ローズの機動性にも対抗できる。
無人機ならパイロットの肉体の限界を考慮しなくとも済み、
それ以上の性能を発揮させることも可能になるのだ。
(司令代理の地位も悪くはないがな。だが私はこのシステムと戦果をもって、地球圏に舞い戻る)
これは好機なのだと、メリリヴェイルは思った。
「索敵範囲内に敵機進入。ローズ、数10」
「小隊クラスが2、か。シャトルの離脱支援が目的だな。各機、臨戦態勢」
「了解! ビットシステム、戦闘モードに移行します」
現在はコントロールルームからの遠隔制御を必要とするが、
戦闘データが蓄積されていけばいずれは完全に自動の無人戦闘機となる。
そんな無人イーグルクロウの群が、レーダーに入った標的に向けて移動を開始する。
ローズの部隊も気付いたのだろう。
ビームライフルを構え、イーグルクロウに接近していく。
「虫けらがぁー!」
発射されるビーム。
通常ならば当たるはずのそれが、躱される。
「何ッ!?」
『隊長、敵の動きが!』
イーグルクロウが散開した。
今までのイーグルクロウとは思えない速度で、部隊を翻弄する。
「包囲。攻撃を回避しつつ、火力を集中」
メリリヴェイルが指示を出す。
3機のイーグルクロウは補足した1機を取り囲むように展開した。
放たれる2連装キャノン。ローズの装甲にはかすり傷程度にしかならない。
3機が引き、その後方にいた2機が畳みかけるミサイルを発射する。
「くぅっ!」
ローズはビームで応戦する。
しかし、全基撃破することはできず、ローズにミサイルが命中した。
腹部下方から脚部にかけて爆発が起こるローズ。撃墜には至らなかったが、大破し、行動不能に陥った。
「や、やりました!」
「我々のイーグルクロウが、奴等を……」
歓声に包まれるコントロールルーム。
「気を抜くな!! 戦闘はまだ継続中だ、馬鹿者!」
メリリヴェイルが喝を入れる。
慌ててモニターに向き直った士官達。
(やはり、戦争としての感覚が薄くなるか……)
遠隔での制御を必要とする内は、その制御を担当する士官に対して危惧することも多い。
まだ残す課題は多いかと、メリリヴェイルは懸念する。
「クッ! なんだこのモビルアーマーは!」
隊長格であるローズパイロットが焦りを滲ませる。
1機は大破させられ、回収のために2機を向かわせた。
イーグルクロウの2連装キャノンは脅威ではない。ミサイルも同様だ。
だがこうまでローズの攻撃が当たらないとなると、パイロットとしての資質を問われかねない。
「マイケル・ミッチェルとニコラス・スウィフトに笑われてたまるかぁぁぁ!」
ミサイルを撃ち落とし、接近する。
レイピアを抜き、一気に至近距離まで。
「これなら避けられまい!!」
串刺しになるイーグルクロウ。
レイピアを引き抜きローズが下がる。
やっとのことで、イーグルクロウを倒すことができた。
残りの4機。それに目を向ける。
攻撃を開始しようとしたその瞬間、アラートが鳴った。
「高出力ビーム……奴か!」
コロニー下方から一筋の光芒が、ローズとイーグルクロウの群を襲う。
「あれが、例のドルダか……!」
メリリヴェイルが息を呑んだ。
「イーグルクロウ、広範囲ビームにより全機壊滅!」
「ですがローズも4機の撃墜を確認!」
「奴は公社の機体だ。味方の識別信号を送れ」
イーグルクロウが壊滅した今、それも無駄なことではあるが。
(それともドルダ、見境無しか……)
休戦協定が無になったといって、武力で両軍に戦闘停止を訴えるわけでもあるまい。
メリリヴェイルはそう考えるが、果たして。
「私は、倒す…………敵を、危険を及ぼす者を……」
ドルダの中で、シンシアは低く呟いた。
To Be Continued...