現在も尚、地球では紛争が続いている。
しかし、宇宙開発は進み、宇宙コロニーが正式に居住地化するその年、
地球各国と月国家、そして各ラグランジュポイントのコロニー群による
地球圏連合によって、進宇宙暦(Advanced Space Development=ASD)が
新たな国際年号として発足された。
しかし、宇宙開発は進み、宇宙コロニーが正式に居住地化するその年、
地球各国と月国家、そして各ラグランジュポイントのコロニー群による
地球圏連合によって、進宇宙暦(Advanced Space Development=ASD)が
新たな国際年号として発足された。
進宇宙暦0102年(A.S.D.0102)。
人々が地球軌道や火星軌道コロニーに移り住むようになって102年が過ぎた。
地球圏連合加盟国は資金を募り、火星のテラフォーミングに力を注いできた。
そして、進宇宙暦が102年目を迎えるこの年、テラフォーミングが終了し地球化した火星に、
第一次調査隊が舞い降りた。
軌道エレベータにより地上に降りる一行。
ノーマルスーツを着用し、調査用機材と共に第一歩を踏み出す。
地表は、地球の大地と大差なかった。
「呼吸は、出来るのでしょう?」
第一次調査隊の副隊長である女性、クラン・R・ナギサカが言った。
その顔は嬉々として、希望に溢れている。
彼女には家族がいなかった。
遠い昔に、痛みと共に亡くした記憶だった。
「はい。可能です。大気正常。地球の成分とほとんど変わりません」
モニターと睨めっこを続けていた女性隊員の一人、ミランダ・ウォンが事務的にそう告げる。
眼鏡が印象的で、太陽光が反射してキツく光っていた。
そんなミランダに困ったように一瞬だけ苦笑を見せると、
クランは静かにその顔を覆い外気を遮断しているヘルメットを外した。
「…………これが、火星の空気」
肌に触れる微風。
匂いも、感触も、全てがコロニーとは違う。
「第一号を取られてしまったな」
「すみません。マクドガル隊長」
後ろから聞こえた声に、小さく肩を揺らし、クランは振り返る。
「いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな」
続くように、周りの者達もヘルメットを脱いでいく。
クランに声をかけた男性。調査隊の隊長、ギデオン・マクドガルだ。
「火星の大気も人工的に創られたものだというのにな」
「そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか」
見渡す限りの土色。
広がる地平線。
それらを見ながら、黄昏の時が過ぎていく。
「おーい、積み荷は全部降ろし終わったぞー」
火星の大地を眺めていた二人に、乾いた声をかけるのは、
調査隊の男性技師であるヴァイス・トロニクスである。
「医療器具もオッケーです! みなさん、じゃんじゃんケガしちゃってくださいね!」
機材の陰からひょこっと顔を出したのは、調査隊の医療担当、モモ・マレーンだ。
あっけらかんとしたその言動に、呆れる者、短く溜息をつく者、大きく溜息をつく者。
そして微笑ましく見詰めるのは、クランだった。
第一次調査隊は、この5人によって構成されている。
年齢も性格も様々だが、火星への第一歩を踏み出すために選ばれた者達なのだ。
クランはギデオンと顔を見合わせる。
ヴァイスに言われ、互いに考えは同じなのか、どちらからともなく頷く。
「では、隊長、準備が整い次第、作業を開始しましょう」
「そうだな。トロニクス君、グワライダーを起動させてくれ」
「へいへい。了解」
積み荷の一つであるコンテナのハッチを開くと、中からは10メール程だろうか、
少々丸みを帯び、背部からは作業用のアームが伸びている機械が姿を現した。
モビルワーカー(MW)。重機に代わり、地球や各コロニーで工事などに使用される機械である。
コックピット式になっており、精密な作業にも適しているのだ。
「掘るんスか? 隊長殿」
「軌道エレベータ建造時に、MWで少量の土は持って帰ったそうだが足りないらしいのだ」
「了解ッス」
ギデオンの言われ、ヴァイスがグワライダーに乗り込もうと昇降ワイヤーに掴まった。
ヴァイスの視線とクランの視線が、重なる。
「……何か、言うことはないのかよ」
「え? 貴方との仕事は一度や二度じゃないでしょう?」
「チッ」
あからさまに嫌そうな顔をして、ヴァイスはコックピットへ登っていった。
「私、何か悪いこと言ったかしら」
「どんかーん」
首を傾げるクランに、モモは肩を竦めてやれやれと呟いた。
人々が地球軌道や火星軌道コロニーに移り住むようになって102年が過ぎた。
地球圏連合加盟国は資金を募り、火星のテラフォーミングに力を注いできた。
そして、進宇宙暦が102年目を迎えるこの年、テラフォーミングが終了し地球化した火星に、
第一次調査隊が舞い降りた。
軌道エレベータにより地上に降りる一行。
ノーマルスーツを着用し、調査用機材と共に第一歩を踏み出す。
地表は、地球の大地と大差なかった。
「呼吸は、出来るのでしょう?」
第一次調査隊の副隊長である女性、クラン・R・ナギサカが言った。
その顔は嬉々として、希望に溢れている。
彼女には家族がいなかった。
遠い昔に、痛みと共に亡くした記憶だった。
「はい。可能です。大気正常。地球の成分とほとんど変わりません」
モニターと睨めっこを続けていた女性隊員の一人、ミランダ・ウォンが事務的にそう告げる。
眼鏡が印象的で、太陽光が反射してキツく光っていた。
そんなミランダに困ったように一瞬だけ苦笑を見せると、
クランは静かにその顔を覆い外気を遮断しているヘルメットを外した。
「…………これが、火星の空気」
肌に触れる微風。
匂いも、感触も、全てがコロニーとは違う。
「第一号を取られてしまったな」
「すみません。マクドガル隊長」
後ろから聞こえた声に、小さく肩を揺らし、クランは振り返る。
「いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな」
続くように、周りの者達もヘルメットを脱いでいく。
クランに声をかけた男性。調査隊の隊長、ギデオン・マクドガルだ。
「火星の大気も人工的に創られたものだというのにな」
「そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか」
見渡す限りの土色。
広がる地平線。
それらを見ながら、黄昏の時が過ぎていく。
「おーい、積み荷は全部降ろし終わったぞー」
火星の大地を眺めていた二人に、乾いた声をかけるのは、
調査隊の男性技師であるヴァイス・トロニクスである。
「医療器具もオッケーです! みなさん、じゃんじゃんケガしちゃってくださいね!」
機材の陰からひょこっと顔を出したのは、調査隊の医療担当、モモ・マレーンだ。
あっけらかんとしたその言動に、呆れる者、短く溜息をつく者、大きく溜息をつく者。
そして微笑ましく見詰めるのは、クランだった。
第一次調査隊は、この5人によって構成されている。
年齢も性格も様々だが、火星への第一歩を踏み出すために選ばれた者達なのだ。
クランはギデオンと顔を見合わせる。
ヴァイスに言われ、互いに考えは同じなのか、どちらからともなく頷く。
「では、隊長、準備が整い次第、作業を開始しましょう」
「そうだな。トロニクス君、グワライダーを起動させてくれ」
「へいへい。了解」
積み荷の一つであるコンテナのハッチを開くと、中からは10メール程だろうか、
少々丸みを帯び、背部からは作業用のアームが伸びている機械が姿を現した。
モビルワーカー(MW)。重機に代わり、地球や各コロニーで工事などに使用される機械である。
コックピット式になっており、精密な作業にも適しているのだ。
「掘るんスか? 隊長殿」
「軌道エレベータ建造時に、MWで少量の土は持って帰ったそうだが足りないらしいのだ」
「了解ッス」
ギデオンの言われ、ヴァイスがグワライダーに乗り込もうと昇降ワイヤーに掴まった。
ヴァイスの視線とクランの視線が、重なる。
「……何か、言うことはないのかよ」
「え? 貴方との仕事は一度や二度じゃないでしょう?」
「チッ」
あからさまに嫌そうな顔をして、ヴァイスはコックピットへ登っていった。
「私、何か悪いこと言ったかしら」
「どんかーん」
首を傾げるクランに、モモは肩を竦めてやれやれと呟いた。
グワライダーが動き始めた。皆が下がり、それを見守る。
ただ一人ミランダだけは、未だにモニターを凝視していた。
怪訝そうに、眉が動く。
心なしか瞬きも多くなっている。
それは、モニターを睨み合いを続け疲れ目になっているわけでも、
彼女の視力が悪いからというわけでもない。
「計器の故障……ではないわ。そんなはずが」
ぶつぶつと、信じられなさそうに同じ言葉を繰り返す。
「どうかしたのか。ウォン君」
「いえ……地層の調査を行っていたところ、この先約1キロ程の地下に、熱源を……」
報告する自分自身が信じられないのか、語尾が弱々しい。
そんなミランダの言葉に、目を丸くするギデオンとクラン。
「熱源? なんのだ?」
「と、突然現れたので私も計器の故障だと思ったんですが、これは明らかに地下に建造物が」
「建造物……? まさか。ここは未開拓の土地なのよ」
ミランダの持っているモニターを覗き込む二人。
しかし、ミランダが言うとおり、モニターは地下に何かがあることを示していた。
「テラフォーミング以前にどこかの国が建造したのではないか?」
「そんな、考えられません。どこの国だと言うんです。月?」
答えのない議論。
持ち込んだ機材は、故障がすればアラームが鳴る。
そのアラームさえ故障しているというのだろうか。
「あのぉ、迷ってるなら、行ってみたらどうですか?」
問答しあっているギデオンとクランに、モモはそう告げるのだった。
ただ一人ミランダだけは、未だにモニターを凝視していた。
怪訝そうに、眉が動く。
心なしか瞬きも多くなっている。
それは、モニターを睨み合いを続け疲れ目になっているわけでも、
彼女の視力が悪いからというわけでもない。
「計器の故障……ではないわ。そんなはずが」
ぶつぶつと、信じられなさそうに同じ言葉を繰り返す。
「どうかしたのか。ウォン君」
「いえ……地層の調査を行っていたところ、この先約1キロ程の地下に、熱源を……」
報告する自分自身が信じられないのか、語尾が弱々しい。
そんなミランダの言葉に、目を丸くするギデオンとクラン。
「熱源? なんのだ?」
「と、突然現れたので私も計器の故障だと思ったんですが、これは明らかに地下に建造物が」
「建造物……? まさか。ここは未開拓の土地なのよ」
ミランダの持っているモニターを覗き込む二人。
しかし、ミランダが言うとおり、モニターは地下に何かがあることを示していた。
「テラフォーミング以前にどこかの国が建造したのではないか?」
「そんな、考えられません。どこの国だと言うんです。月?」
答えのない議論。
持ち込んだ機材は、故障がすればアラームが鳴る。
そのアラームさえ故障しているというのだろうか。
「あのぉ、迷ってるなら、行ってみたらどうですか?」
問答しあっているギデオンとクランに、モモはそう告げるのだった。
作業を中断し、熱源を確認した地点へ急ぐ。
有り得ないこと。誰がそうだと信じて疑わない。
しかし、計器はそこにあると示している。
「ったく。土いじりの次は宝探しか」
「ぼやかないでよ。でも、真実なら人類始まって以来の大発見だわ」
コックピットには、ヴァイスと共に、クランも搭乗していた。
牽引しているコンテナには、機材とギデオン達が乗っている。
「火星人かよ。発見したらエヴィデンスゼロワンとでも名付けるか?」
「もう……。貴方はいつもそうやって物事を茶化す。だから彼女が出来てもすぐに別れるのよ」
「……チッ」
また、あからさまに機嫌が悪くなった。
そんなヴァイスに、困って溜息をつく。
クランは子供が好きだったが、子供のような性格のヴァイスは苦手である。
決して嫌いではないが、会話が続かない。
ヴァイスは友好的ではないが、自分から話しかけてくることもある。
だから嫌われていないと、そう信じてはいるのだが。
『トロニクス君、一旦停止してくれ』
沈黙を、ギデオンの声が救ってくれた。
グワライダーがある地点で停止する。
「私は降りて様子を見てくるわ」
「…………」
返事は、なかった。
仕方がないと、返事を待たずに、クランはコックピットを降りた。
「どうです?」
「地下30メートル程ですね。やはり何があります」
「そうか。…………MWでは埒があかないな。爆薬を使おう」
ギデオンの決断に、クランは驚いた。
「わ、私は反対です! まだテラフォーミングが終わった直後の不安定な状態なんですよ!?」
「だが、この地下建造物をそのままにしておくこともできないだろう」
「地殻を刺激したらどうするんです!? それに、今回の調査内容からは逸脱しています!!」
必死になって止めようとするクラン。
しかし、ギデオンは首を縦に振ろうとはしない。
「君とは初めての仕事だったな。副隊長を務めた回数は?」
突き刺すようなギデオンの視線が、クランを襲う。
あれだけ騒いでいたクランが、凍ったように動かなくなった。
「………………これが、就任初の任務です」
「そうか。私は16回隊長職を務めたことがある」
自信と誇り。
悔しいが、クランは勝てる気がしなかった。
「あのL4第8コロニーテロ崩壊事件の時も、コロニー内の調査にあたった」
「経験の差、と。そう仰りたいのでしょうか」
これ以上反論すれば、自分が惨めになるだけだった。
クランはギデオンの返答を聞かず、一歩二歩と、俯いたまま退いていく。
そんなクランを横目に、ギデオンは無線をオンにする。
「トロニクス君、爆薬を使用する。君はそのまま待機していてくれたまえ」
『了解ッス』
無線を切ると、ギデオンはコンテナに向かう。
気まずい空気の中、クランを一瞬見てミランダがギデオンを追った。
クランは拳を握る。
拳はふるふると小さく震えていた。
「クランさん……」
「ごめんね。モモちゃん。私、まだまだね」
顔を上げるクランだが、その顔はどこか暗い。
「爆薬の使用を反対したのは、私的なことなのよ」
「え?」
「私ね。数年前、地球で家族と暮らしていた頃に、家族を失ってるの」
左腕を押さえながら、寂しそうにクランが言う。
「建物が崩れてね。……妹の15歳の誕生日だった」
モモは、かける言葉を見つからず、ただクランの顔を見ていることしかできなかった。
クランは泣いていなかったが、じんわりと瞳が滲んでいることがわかった。
クランの過去など余所に、爆薬の設置は刻々と進んでいく。
そして……
「皆、離れろ。耳を塞げ!」
ギデオンが注意を促す。
次の瞬間、爆破のスイッチが押された。
有り得ないこと。誰がそうだと信じて疑わない。
しかし、計器はそこにあると示している。
「ったく。土いじりの次は宝探しか」
「ぼやかないでよ。でも、真実なら人類始まって以来の大発見だわ」
コックピットには、ヴァイスと共に、クランも搭乗していた。
牽引しているコンテナには、機材とギデオン達が乗っている。
「火星人かよ。発見したらエヴィデンスゼロワンとでも名付けるか?」
「もう……。貴方はいつもそうやって物事を茶化す。だから彼女が出来てもすぐに別れるのよ」
「……チッ」
また、あからさまに機嫌が悪くなった。
そんなヴァイスに、困って溜息をつく。
クランは子供が好きだったが、子供のような性格のヴァイスは苦手である。
決して嫌いではないが、会話が続かない。
ヴァイスは友好的ではないが、自分から話しかけてくることもある。
だから嫌われていないと、そう信じてはいるのだが。
『トロニクス君、一旦停止してくれ』
沈黙を、ギデオンの声が救ってくれた。
グワライダーがある地点で停止する。
「私は降りて様子を見てくるわ」
「…………」
返事は、なかった。
仕方がないと、返事を待たずに、クランはコックピットを降りた。
「どうです?」
「地下30メートル程ですね。やはり何があります」
「そうか。…………MWでは埒があかないな。爆薬を使おう」
ギデオンの決断に、クランは驚いた。
「わ、私は反対です! まだテラフォーミングが終わった直後の不安定な状態なんですよ!?」
「だが、この地下建造物をそのままにしておくこともできないだろう」
「地殻を刺激したらどうするんです!? それに、今回の調査内容からは逸脱しています!!」
必死になって止めようとするクラン。
しかし、ギデオンは首を縦に振ろうとはしない。
「君とは初めての仕事だったな。副隊長を務めた回数は?」
突き刺すようなギデオンの視線が、クランを襲う。
あれだけ騒いでいたクランが、凍ったように動かなくなった。
「………………これが、就任初の任務です」
「そうか。私は16回隊長職を務めたことがある」
自信と誇り。
悔しいが、クランは勝てる気がしなかった。
「あのL4第8コロニーテロ崩壊事件の時も、コロニー内の調査にあたった」
「経験の差、と。そう仰りたいのでしょうか」
これ以上反論すれば、自分が惨めになるだけだった。
クランはギデオンの返答を聞かず、一歩二歩と、俯いたまま退いていく。
そんなクランを横目に、ギデオンは無線をオンにする。
「トロニクス君、爆薬を使用する。君はそのまま待機していてくれたまえ」
『了解ッス』
無線を切ると、ギデオンはコンテナに向かう。
気まずい空気の中、クランを一瞬見てミランダがギデオンを追った。
クランは拳を握る。
拳はふるふると小さく震えていた。
「クランさん……」
「ごめんね。モモちゃん。私、まだまだね」
顔を上げるクランだが、その顔はどこか暗い。
「爆薬の使用を反対したのは、私的なことなのよ」
「え?」
「私ね。数年前、地球で家族と暮らしていた頃に、家族を失ってるの」
左腕を押さえながら、寂しそうにクランが言う。
「建物が崩れてね。……妹の15歳の誕生日だった」
モモは、かける言葉を見つからず、ただクランの顔を見ていることしかできなかった。
クランは泣いていなかったが、じんわりと瞳が滲んでいることがわかった。
クランの過去など余所に、爆薬の設置は刻々と進んでいく。
そして……
「皆、離れろ。耳を塞げ!」
ギデオンが注意を促す。
次の瞬間、爆破のスイッチが押された。
爆音が辺りにこだまする。
粉塵が舞い、それが霧のようになっていた。
「ソウヤ君……まさか君が、ここまでする人間だったとは」
爆破されたドアの向こう側にいた男性が、震えながらも声を発した。
火星コロニー自治区代表、ブルックリン・ハミルトンである。
霧のような粉塵の中から、影だったものが姿を現す。
「これも全ては、火星コロニー独立のため!」
手にした日本刀が床を突き、鋭い音を響かせる。
現れたのは、火星コロニー群独立運動家、宗谷陽光(ソウヤヨウコウ)その人だった。
「我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球圏連合に対し独立を宣言する!」
鞘を抜き、刀身を掲げる。
「ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!」
刀を高く突き上げる陽光。
ハミルトンが静観する中、陽光の周りを囲む男達の雄叫びのような歓声が、一斉に巻き起こった……
粉塵が舞い、それが霧のようになっていた。
「ソウヤ君……まさか君が、ここまでする人間だったとは」
爆破されたドアの向こう側にいた男性が、震えながらも声を発した。
火星コロニー自治区代表、ブルックリン・ハミルトンである。
霧のような粉塵の中から、影だったものが姿を現す。
「これも全ては、火星コロニー独立のため!」
手にした日本刀が床を突き、鋭い音を響かせる。
現れたのは、火星コロニー群独立運動家、宗谷陽光(ソウヤヨウコウ)その人だった。
「我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球圏連合に対し独立を宣言する!」
鞘を抜き、刀身を掲げる。
「ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!」
刀を高く突き上げる陽光。
ハミルトンが静観する中、陽光の周りを囲む男達の雄叫びのような歓声が、一斉に巻き起こった……
(ここでCM。5人の調査隊のアイキャッチ。)
(CM終わり。アイキャッチは日本刀を構えた宗谷。)
宇宙を翔る十数機の戦闘機。
モビルアーマー(MA)。地球圏の各国の軍が運用しているロボット。
即ち、兵器である。
「なんだこれは!? こんなMA、見たことがないぞ!」
地球圏連合火星コロニー駐留軍所属のMA、イーグルクロウのパイロットの一人は目を疑った。
宙域に現れた機影は、 未確認の正体不明機。
「人型? 前例がないぞ。こんな機体!」
地球圏では、人型の機動兵器は存在していなかった。
バランス制御や材質の問題が生じ、地球圏では人型の機動兵器は開発されなかったのである。
人型の機動兵器はない。
その先入観があるためか、イーグルクロウのパイロットは驚きを隠せないのである。
接近してくる正体不明機のその手には、銃らしきものが握られている。
攻撃の意思があるという、明確な表れだった。
「各機、警戒を行うな。目標は……」
言い終える間もなく、コックピットは爆炎に包まれた。
正体不明機から放たれた、一条の光。
それによって、次々とイーグルクロウは撃墜されていく。
「ヒャハハハハハ! こりゃあ爽快だぜェ!」
正体不明機。その1機を駆るパイロットが、意気高らかに声を上げる。
かつての火星の地のような深紅の、まるで薔薇のような色彩の機体。
MAS-06ローズ。火星コロニー群の独立を訴える者達によって結成された火星コロニー義勇軍の機動兵器。
モビルアーマーではなくモビルスーツ(MS)と分類を持つ、機体だった。
イーグルクロウを全滅させ、ローズはまた移動を始める。
『スウィフトさん。ソウヤ殿がつい先程宣言を!』
「ククッ。そうか。とうとう始まるか」
口角が上がり、ニヤリと怪しそうに笑みを浮かべる。
ニコラス・スウィフト。この男もまた、地球に反旗を翻した者の一人だった。
モビルアーマー(MA)。地球圏の各国の軍が運用しているロボット。
即ち、兵器である。
「なんだこれは!? こんなMA、見たことがないぞ!」
地球圏連合火星コロニー駐留軍所属のMA、イーグルクロウのパイロットの一人は目を疑った。
宙域に現れた機影は、 未確認の正体不明機。
「人型? 前例がないぞ。こんな機体!」
地球圏では、人型の機動兵器は存在していなかった。
バランス制御や材質の問題が生じ、地球圏では人型の機動兵器は開発されなかったのである。
人型の機動兵器はない。
その先入観があるためか、イーグルクロウのパイロットは驚きを隠せないのである。
接近してくる正体不明機のその手には、銃らしきものが握られている。
攻撃の意思があるという、明確な表れだった。
「各機、警戒を行うな。目標は……」
言い終える間もなく、コックピットは爆炎に包まれた。
正体不明機から放たれた、一条の光。
それによって、次々とイーグルクロウは撃墜されていく。
「ヒャハハハハハ! こりゃあ爽快だぜェ!」
正体不明機。その1機を駆るパイロットが、意気高らかに声を上げる。
かつての火星の地のような深紅の、まるで薔薇のような色彩の機体。
MAS-06ローズ。火星コロニー群の独立を訴える者達によって結成された火星コロニー義勇軍の機動兵器。
モビルアーマーではなくモビルスーツ(MS)と分類を持つ、機体だった。
イーグルクロウを全滅させ、ローズはまた移動を始める。
『スウィフトさん。ソウヤ殿がつい先程宣言を!』
「ククッ。そうか。とうとう始まるか」
口角が上がり、ニヤリと怪しそうに笑みを浮かべる。
ニコラス・スウィフト。この男もまた、地球に反旗を翻した者の一人だった。
グワライダーと人力によって、一時間程で瓦礫の撤去は終了した。
眼下には、人工物だと一目でわかる外壁が姿を見せている。
爆発は、その外壁の一部にまで到達しており、内部への進入が可能となっていた。
そうなれば、ギデオンはこのまま内部の探索まで行うだろう。
制止は無理だと、クランは諦めていた。
しかし、ただで諦めるつもりは、彼女にはなかった。
「隊長、建造物の中を調査するというのでしたら、私一人でいかせてください」
「なんだと?」
「この件は、今回の調査任務の対象外と考えます。隊長である貴方が、任務外のことを?」
考えを曲げるつもりはない真直ぐすぎる視線。
そして、クランの意見も、間違いではなく正しいのである。
「隊長、計器の扱いに長けているミランダさん、技師であるヴァイス、医療担当のモモちゃん」
「君が行くのが、妥当というのか」
「各々の役割を適切に分担した結果です」
興味がないと言えば嘘になる。
だが、便宜上任務の一部としなければ、職務放棄に変わりないのだ。
「わかった。許可しよう。私より、細身の君の方が活動範囲は広そうだ」
頑なだった者同士、どちらが折れなければ決着はつかない。
建造物を発見した際のいざこざが、教訓として刻まれていた。
決着がついたその時を見計らったのか、クランの前にロープが投げられる。
投げたのは、開いたコックピットから顔を出したヴァイスであった。
「やるんならさっさとやれ。俺はそろそろ昼飯が食いたい」
「了解」
ヴァイスのぶっきらぼうだが、優しさを含んだ言い方に、クランは笑った。
ロープを装着すると、足場を確認しながら、徐々に下へ降りていく。
ヴァイス、モモ、ミランダ、そしてギデオンが、クランを見守る。
ロープを軽く引き、張りを保ちながら、クランは一歩一歩確実に、外壁に空いた穴へと急ぐ。
(やはりこれは、人が作ったもの……)
間近で見る外壁は、自分達が普段目にする建物の素材と、何ら変わらないように思える。
クランは上にいるグワライダーを見た。
グワライダーから伸びるロープは、まだ余裕がある。
グワライダーから自分を見ているであろうヴァイスに合図を送り、クランは穴の中へ降りた。
「ロープを。ゆっくりと降ろしてください」
無線を使って、ヴァイスに指示を送る。
返事はなかったが、ロープに繋がった自分が静かに下に向かうので、安心する。
建造物の中は、空いた穴から入る光だけしかなく、内部がどれ程の広さなのかも把握できない。
クランは落ちた瓦礫の上に着地する。
瓦礫の下の床は頑丈なのか、落ちてきた瓦礫でも大した損傷はない。
クランは空いた穴を見る。
(天井だけが壊れた? 天井の壁は、床とは違う材質?)
老朽化して脆かった、というわけではないように感じる。
「扉……ハッチ」
想像でしかないが、どこかで確信している。
クランは、ライトを点けた。
目の前に飛び込む、情景。
「これは……!!」
片膝をつき、王の前で一礼をする騎士のように。
巨大な人型の機械が、そこにはいた。
ロープを外し、クランは恐る恐るそれに近付いていく。
地球人類が住むこの世界のどこにも、人の形をした巨大な機械は存在しないはずなのに。
「貴方は誰? 何処から来たの?」
幼い子供に問いかけるように、クランは呟いた。
そして、あるものを見付ける。
胸部らしき場所に、アルファベットの羅列。所々掠れており、全てを読み解くことはできない。
「これは、地球の、ものなの?」
本当に、月かどこかの国が、この建造物を造ったというのだろうか。
アルファベットを、目で追う。
「ドール、ディーエー……ドルダ?」
綴られたその言葉を呟く。
機械に触れようと手を伸ばす。
しかし次の瞬間、天井に亀裂が入った。
天井が崩れる。
そう思ったクランの中に、記憶がフラッシュバックする。
『お姉ちゃん!!』
『シンシアぁッ!!』
叫ぶその声は、崩れ落ちる壁に掻き消される。
記憶と重なるように、建造物の天井も、落下してくる。
クランは、意識を手放した。
眼下には、人工物だと一目でわかる外壁が姿を見せている。
爆発は、その外壁の一部にまで到達しており、内部への進入が可能となっていた。
そうなれば、ギデオンはこのまま内部の探索まで行うだろう。
制止は無理だと、クランは諦めていた。
しかし、ただで諦めるつもりは、彼女にはなかった。
「隊長、建造物の中を調査するというのでしたら、私一人でいかせてください」
「なんだと?」
「この件は、今回の調査任務の対象外と考えます。隊長である貴方が、任務外のことを?」
考えを曲げるつもりはない真直ぐすぎる視線。
そして、クランの意見も、間違いではなく正しいのである。
「隊長、計器の扱いに長けているミランダさん、技師であるヴァイス、医療担当のモモちゃん」
「君が行くのが、妥当というのか」
「各々の役割を適切に分担した結果です」
興味がないと言えば嘘になる。
だが、便宜上任務の一部としなければ、職務放棄に変わりないのだ。
「わかった。許可しよう。私より、細身の君の方が活動範囲は広そうだ」
頑なだった者同士、どちらが折れなければ決着はつかない。
建造物を発見した際のいざこざが、教訓として刻まれていた。
決着がついたその時を見計らったのか、クランの前にロープが投げられる。
投げたのは、開いたコックピットから顔を出したヴァイスであった。
「やるんならさっさとやれ。俺はそろそろ昼飯が食いたい」
「了解」
ヴァイスのぶっきらぼうだが、優しさを含んだ言い方に、クランは笑った。
ロープを装着すると、足場を確認しながら、徐々に下へ降りていく。
ヴァイス、モモ、ミランダ、そしてギデオンが、クランを見守る。
ロープを軽く引き、張りを保ちながら、クランは一歩一歩確実に、外壁に空いた穴へと急ぐ。
(やはりこれは、人が作ったもの……)
間近で見る外壁は、自分達が普段目にする建物の素材と、何ら変わらないように思える。
クランは上にいるグワライダーを見た。
グワライダーから伸びるロープは、まだ余裕がある。
グワライダーから自分を見ているであろうヴァイスに合図を送り、クランは穴の中へ降りた。
「ロープを。ゆっくりと降ろしてください」
無線を使って、ヴァイスに指示を送る。
返事はなかったが、ロープに繋がった自分が静かに下に向かうので、安心する。
建造物の中は、空いた穴から入る光だけしかなく、内部がどれ程の広さなのかも把握できない。
クランは落ちた瓦礫の上に着地する。
瓦礫の下の床は頑丈なのか、落ちてきた瓦礫でも大した損傷はない。
クランは空いた穴を見る。
(天井だけが壊れた? 天井の壁は、床とは違う材質?)
老朽化して脆かった、というわけではないように感じる。
「扉……ハッチ」
想像でしかないが、どこかで確信している。
クランは、ライトを点けた。
目の前に飛び込む、情景。
「これは……!!」
片膝をつき、王の前で一礼をする騎士のように。
巨大な人型の機械が、そこにはいた。
ロープを外し、クランは恐る恐るそれに近付いていく。
地球人類が住むこの世界のどこにも、人の形をした巨大な機械は存在しないはずなのに。
「貴方は誰? 何処から来たの?」
幼い子供に問いかけるように、クランは呟いた。
そして、あるものを見付ける。
胸部らしき場所に、アルファベットの羅列。所々掠れており、全てを読み解くことはできない。
「これは、地球の、ものなの?」
本当に、月かどこかの国が、この建造物を造ったというのだろうか。
アルファベットを、目で追う。
「ドール、ディーエー……ドルダ?」
綴られたその言葉を呟く。
機械に触れようと手を伸ばす。
しかし次の瞬間、天井に亀裂が入った。
天井が崩れる。
そう思ったクランの中に、記憶がフラッシュバックする。
『お姉ちゃん!!』
『シンシアぁッ!!』
叫ぶその声は、崩れ落ちる壁に掻き消される。
記憶と重なるように、建造物の天井も、落下してくる。
クランは、意識を手放した。
ハッと覚醒した時には、自分は運良く人型の機械の間に倒れていて。
助かったことを感謝しながらも、落ちた天井と衝突したはずなのに、
横に倒れただけでほぼ無傷に近いそれを心底不思議に思い眺めている。
クランは先程とそれが、一つだけ違っていることに気付く。
胸部が、開いているのだ。
「コックピット……? モビルアーマーなの?」
人が乗っているのだろうか。
クランはゆっくりと、コックピットらしきそこへ近付いていく。
もしも敵意がある者が乗っているなら、気絶している時に殺されていたはずだ。
そう考え、クランは中を覗いた。
「えっ……!?」
中には、少女がいた。
年齢は、15か16。亡くした妹に近い気がした。
自分と同じように気絶しているのか、或いはもう死んでいるのか。
「うっ……」
「生きてる。貴女、大丈夫!?」
生きていることがわかり、思わずクランは近寄っていた。
外傷がないことを確認し、体を揺する。
すると、少女は静かに、瞼を開いた。
「…………あなた、だれ?」
虚ろな表情で、そう問われる。
クランは少女が無事なことに安堵し、口を開いた。
「私はクラン。クラン・リザレクター・ナギサカ」
柔らかい口調で、そう名乗る。
『ナギサカ君、聞こえるか!?』
今度はこちらから訊き返そうとしたが、ギデオンの声が飛び込んできた。
「は、はい! 聞こえます」
『無事なようだな。良かった。上で大変なことが起こった』
「地上で何かあったんですか?」
『いや、もっと上だ。火星コロニーの独立強硬派が武装蜂起した』
ギデオンの言葉を聞き、クランに緊張が走る。
以前から火星コロニーでは民衆が独立を訴えていた。
火星のコロニーは決して豊かとはいえず、移民を開始して100年以上経過した今も、
管理、統括を行っている地球圏連合の食料自給の制限によって貧困にあえいでいる。
過激な運動家がいるのは知っていたが、まさか武装蜂起にまで発展するとはと、
クランの表情が暗くなった。
「わかりました。……ロープは大丈夫みたいですね。至急戻ります」
外を見て、まだロープが垂れ下がっているのを確認して、クランはそう返した。
『頼む。強硬派の機動兵器、人型らしい。
それが軌道エレベータのステーションにも向かっているらしいのだ』
「人型……? 了解しました」
人型と聞いて、すぐにこの機体が浮かんだ。
この施設は、火星コロニーの独立派が建造したものなのか。
ならこれは、火星の兵器なのか。
「……来る」
「え?」
「近付いてる」
少女が、言った。
ギデオンの話を聞いていたのだ。
強硬派がステーションに向かってるということ言っているのだろう。クランはそう思った。
しかし、それは少し、違っていた。
開いていたコックピットハッチが閉まっていく。
「な、何を!?」
次々と点灯していくモニター。
「起動システム正常……うぅっ」
「どうしたの? 大丈夫!?」
呻く少女に、クランが声をかける。
しかし少女は、クランの声が聞こえないのか、無視をするのだった。
機体が大きく揺れ、クランは少女が座るシート脇にやむを得ず滑り込む。
しがみつき、揺れに耐えるしかない。
「駄目……思い出しては駄目……駄目……」
クランは呪文のように、そう繰り返す。
暗く狭い空間に閉じ込められた悪夢のような記憶。
それが彼女を恐怖させていた。
機体が立ち上がり、両翼のように展開していたシールドが、体を包むように前部に展開する。
そして、一気に飛び立った。
「ぐっ……ああああっ!!」
肉体にかかる負荷に、クランが叫ぶ。
機体はそのまま上空まで飛翔を続け、火星を離脱することを示していた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
自分が死んでいないことを理解して、瞼を開く。
体を包むような若干の浮遊感。
「宇宙……!?」
クランが驚きの声を上げた。
モニターに映る景色は、地上のものではない。
機体は、宇宙にいた。
「接近する機体を確認。殲滅する」
モニターがこちらに向かってくる数機のMS、ローズを映し出す。
「何をするの……?」
嫌な予感がして、クランが少女に問う。
少女は、冷たく、まるで人形ような瞳で、それらを見ていた。
機体の腹部が、エネルギーを収束を始める。
そして次の瞬間、巨大な光の渦が、ローズに向けて放たれた。
「ああっ…………」
眼前の光景に、クランは自分の目を疑う。
光の渦は数機のローズを包み込み、そして消し去ってしまった。
「私は……わたしは……くっ、うああああああ!!」
ローズを消し去った直後、突然、頭を押さえ少女は苦しみ始めた。
何が起こったのか。
何が始まるのか。
苦しみもがく少女を見ながら、クランはただ得体の知れない不安に、震えた。
助かったことを感謝しながらも、落ちた天井と衝突したはずなのに、
横に倒れただけでほぼ無傷に近いそれを心底不思議に思い眺めている。
クランは先程とそれが、一つだけ違っていることに気付く。
胸部が、開いているのだ。
「コックピット……? モビルアーマーなの?」
人が乗っているのだろうか。
クランはゆっくりと、コックピットらしきそこへ近付いていく。
もしも敵意がある者が乗っているなら、気絶している時に殺されていたはずだ。
そう考え、クランは中を覗いた。
「えっ……!?」
中には、少女がいた。
年齢は、15か16。亡くした妹に近い気がした。
自分と同じように気絶しているのか、或いはもう死んでいるのか。
「うっ……」
「生きてる。貴女、大丈夫!?」
生きていることがわかり、思わずクランは近寄っていた。
外傷がないことを確認し、体を揺する。
すると、少女は静かに、瞼を開いた。
「…………あなた、だれ?」
虚ろな表情で、そう問われる。
クランは少女が無事なことに安堵し、口を開いた。
「私はクラン。クラン・リザレクター・ナギサカ」
柔らかい口調で、そう名乗る。
『ナギサカ君、聞こえるか!?』
今度はこちらから訊き返そうとしたが、ギデオンの声が飛び込んできた。
「は、はい! 聞こえます」
『無事なようだな。良かった。上で大変なことが起こった』
「地上で何かあったんですか?」
『いや、もっと上だ。火星コロニーの独立強硬派が武装蜂起した』
ギデオンの言葉を聞き、クランに緊張が走る。
以前から火星コロニーでは民衆が独立を訴えていた。
火星のコロニーは決して豊かとはいえず、移民を開始して100年以上経過した今も、
管理、統括を行っている地球圏連合の食料自給の制限によって貧困にあえいでいる。
過激な運動家がいるのは知っていたが、まさか武装蜂起にまで発展するとはと、
クランの表情が暗くなった。
「わかりました。……ロープは大丈夫みたいですね。至急戻ります」
外を見て、まだロープが垂れ下がっているのを確認して、クランはそう返した。
『頼む。強硬派の機動兵器、人型らしい。
それが軌道エレベータのステーションにも向かっているらしいのだ』
「人型……? 了解しました」
人型と聞いて、すぐにこの機体が浮かんだ。
この施設は、火星コロニーの独立派が建造したものなのか。
ならこれは、火星の兵器なのか。
「……来る」
「え?」
「近付いてる」
少女が、言った。
ギデオンの話を聞いていたのだ。
強硬派がステーションに向かってるということ言っているのだろう。クランはそう思った。
しかし、それは少し、違っていた。
開いていたコックピットハッチが閉まっていく。
「な、何を!?」
次々と点灯していくモニター。
「起動システム正常……うぅっ」
「どうしたの? 大丈夫!?」
呻く少女に、クランが声をかける。
しかし少女は、クランの声が聞こえないのか、無視をするのだった。
機体が大きく揺れ、クランは少女が座るシート脇にやむを得ず滑り込む。
しがみつき、揺れに耐えるしかない。
「駄目……思い出しては駄目……駄目……」
クランは呪文のように、そう繰り返す。
暗く狭い空間に閉じ込められた悪夢のような記憶。
それが彼女を恐怖させていた。
機体が立ち上がり、両翼のように展開していたシールドが、体を包むように前部に展開する。
そして、一気に飛び立った。
「ぐっ……ああああっ!!」
肉体にかかる負荷に、クランが叫ぶ。
機体はそのまま上空まで飛翔を続け、火星を離脱することを示していた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
自分が死んでいないことを理解して、瞼を開く。
体を包むような若干の浮遊感。
「宇宙……!?」
クランが驚きの声を上げた。
モニターに映る景色は、地上のものではない。
機体は、宇宙にいた。
「接近する機体を確認。殲滅する」
モニターがこちらに向かってくる数機のMS、ローズを映し出す。
「何をするの……?」
嫌な予感がして、クランが少女に問う。
少女は、冷たく、まるで人形ような瞳で、それらを見ていた。
機体の腹部が、エネルギーを収束を始める。
そして次の瞬間、巨大な光の渦が、ローズに向けて放たれた。
「ああっ…………」
眼前の光景に、クランは自分の目を疑う。
光の渦は数機のローズを包み込み、そして消し去ってしまった。
「私は……わたしは……くっ、うああああああ!!」
ローズを消し去った直後、突然、頭を押さえ少女は苦しみ始めた。
何が起こったのか。
何が始まるのか。
苦しみもがく少女を見ながら、クランはただ得体の知れない不安に、震えた。
To Be Continued...