Doll-Device Archive No.08 ドリームズII
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第29コロニー付近戦闘宙域。
ディランの乗機を除くローズ9機を持つミッチェル隊と、
有人のイーグルクロウ10機と回収したローズ3機の地球圏連合軍。
やはり戦力の差は歴然なのか、前に出たイーグルクロウはことごとく撃墜されていく。
「ミサイル搭載機は後方より支援を続行。残りで殲滅に当たるよ」
マイケルの指示を皮切りに、6機は一気にイーグルクロウやローズに迫る。
「ガンダムはいねえのかァ!? ツマンネエなぁ!」
ニコラスは叫び上げながら、地球圏連合軍のローズに接近する。
背部に装着されたアームシールドのせいで機動力は落ちているものの、敵のローズの攻撃は当たらない。
「何故だ! 何故当たらない!?」
混乱する地球圏連合軍パイロット。
「射撃精度が低いんだよ! ボケェッ!!」
シールドからアームを展開する。
地球圏連合軍のパイロットは、まだモビルスーツの操縦に慣れていなかった。
白兵戦闘距離まで接近してきたニコラス機に対してレイピアを使用しようとするが、
レイピアを引き抜くのに手間取ってしまう。
その隙を突き、ニコラス機はアームを開き、ローズの腰部を捕らえた。
「押し潰されろやァァ!!」
まるで鉄環絞首刑。
ギリギリと痛め付けるように潰した後、一気に圧壊させた。
「うわああああ!!」
爆発するローズ。地球圏連合軍の貴重なモビルスーツの損失である。
イーグルクロウの殲滅に当たるダン機、そしてタオ機とマオ機。
「モビルアーマーの機動性が向上したと聞いていましたが、聞き間違いだったようですね」
残念そうにダンが呟く。
イーグルクロウの連装キャノンをものともせず、突き進んでいく。
イーグルクロウは後退しながらミサイルを発射した。
「逃げ腰でそんなことをしても、小賢しいだけですよ!」
ビームガンブレードを射撃モードにし、ミサイルを撃ち落とす。
尚も逃げようとするイーグルクロウに、ビームガンブレードの銃口が向く。
避けようとするイーグルクロウだったが、
「甘い!」
ビームガンブレード銃剣モード。
避けようとイーグルクロウが移動する方向へ剣を振る。
ビームの刃がイーグルクロウの胴体を捉えた。銃口のみでは届かないはずの距離。
そのまま、両断される。
「素直に負けを認めればこんな結果にはならないのに……」
悲しそうに呟き、イーグルクロウの爆発を見届けるダン。
そんなダンはタオとマオの戦闘を目撃する。
ビームガンブレードを連射し、イーグルクロウの回避ポイントを殺す戦法。
兄弟である二人でしかできない連携だった。
「よ、容赦ない…………」
ただただ唖然とするばかりのダン。
「タオとマオも頑張ってるみたいだねぇ」
『ダーリン! そっちに行ったわよ!』
「はいはい」
果敢にもマイケル機に向かってくるローズがいた。
「犯罪者がぁ!」
ビームライフルによる射撃は、やはり拙い。
「その度胸は認めよう」
こちらのローズはすんなりとレイピアを引き抜く。
先程のパイロットよりは操縦技術は上。
接近戦で勝機を見出すつもりか。
マイケル機はナインテールを構える。
「食らえぇぇぇッ!!」
レイピアを突き出すローズ。
「……やっぱり、駄目ダネ」
ナインテールに絡め取られるレイピア。
レイピアを取られ、なす術が無くなる。
次の瞬間には、奪ったレイピアを放り攻撃を仕掛けてくるマイケル機の姿があった。
「熔・断」
「ああああああぁぁ!!」
ナインテールによって斬られたその断面は鮮やかに熱を帯び、宇宙に色を添える。
直後、ローズは爆発した。
「面白い武器だね、コレ」
ナインテールの斬れ味に満足といった具合のマイケル。
そんなマイケル機の背後に回ったイーグルクロウの1機が、ミサイルを放った。
『感心してる場合じゃないだろ!? アホダーリン!』
ターニャ機がミサイルを撃破する。
『当たってたら、コックピットの真裏だったわよ?』
「いやぁ、気を抜いてた。サンキュ」
『うっふん♪』
ターニャはそう返すと、ミサイルを撃ったイーグルクロウを追った。
(守んなきゃね。ちょっと間抜けな新天地の創る男も、無口なガキンチョ達もさ!)
機動性で負けるイーグルクロウにすぐに追い付くターニャ機。
ビームガンブレードを銃剣モードにして、イーグルクロウを切り裂いた。
次々と撃墜されていく地球圏連合軍勢。
残す機体はイーグルクロウが2機、ローズが1機。
勝負は、見えていた。
「ハッ! ツマラネェツマラネェ! 地球のクソに染まった薔薇なんざ、さっさと墜ちろやぁッ!!」
残ったローズに接近するニコラス機。
その時だった。
「みんな、気を付けな! 急速で近付いてくる大型の熱源反応!」
レーダーに注意を置いていたターニャが呼びかける。
「コロニー下方から……まさかガンダムですか!?」
遂に来たかと、ダンが声を荒くした。
「いや、違うようだね」
マイケルが否定する。
「大型の熱源はブースターか何かだ。熱源本来はローズのもの。それも、2機!」
マイケルの言ったことは、事実。
「私は支援機の手を止める。トロニクス君、そちらは頼む」
『やれるとこまでやりますよ! 死にたくねえっスけど!』
ギデオンの乗るグワッシュは、戦闘宙域の中心部に向けて、ヴァイスの乗るグワッシュを放り投げた。
ギデオン機はミサイルを放つ3機のローズに向かう。
「速度固定。ビームライフルセット、着弾予想ポイントを算出……避けてくれるなよッ!」
ギデオンはトリガーを3度、引いた。
3つの光の放物線が、3機のローズに向かっていく。
ビームは見事、ローズに命中した。
1機は肩部のミサイルポッドに当たりそれが誘爆。
1機は頭部に当たりメインカメラを破損。
1機には命中しなかったが、丁度ミサイルを放った直後だったため、
ギデオン機のビームがミサイルに当たり爆発に巻き込まれてしまった。
「ビギナーズラックと笑いたければ笑え!!」
ギデオン機はそのまま旋回し、ヴァイス機を追った。
「支援してたローズが全機撃たれた!? 無事か!」
珍しく焦りを見せるマイケル。
『すみません隊長!』
『2機中破、1機生体反応はありますが応答無しです……』
支援していたローズから通信が舞い込む。
胸を撫で下ろすが、安心してはいられない。
「動けるなら、その1機を回収して撤退しろ! 後は僕達でやる!」
『わ、わかりました!』
『ご武運を!』
通信が切れた。
マイケルは俯き、震えていた。
「規模は小さいが立派な急襲だ……賞賛に値するよ」
レーダーに移る高速機の熱源。
「楽しいな! これでこそ戦い甲斐のある!!」
マイケルは笑っていた。
それは紛れもない武者震い。戦意が掻き立てられていく。
「アレは僕が戦る! 手を出すなよ!!」
皆に通信を送るマイケル。
「じゃあもう1機は俺にくれ! このアームがまだ潰し足りねえってさァ!」
「スウィフト君、君も好き者だね。構わないよ!」
通信を切ると、マイケルはギデオン機に向かった。
ヴァイス機を任されたニコラス機も、近付くヴァイス機とすぐに対峙する。
『ミランダは、ミランダはどこだ!?』
ローズ各機に向けたいきなりの通信だった。
「アァッ!? なんだコイツ?」
意味がわからずニコラスが苛立つ。
「ミランダ……?」
入ってきた通信に、マイケルは何かが引っかかる。
『ミランダは、ミランダ・ウォンはどこだって訊いてんだよォッ!』
「知るかァ!」
構わずにアームで潰しにかかるニコラス。
ヴァイス機に、文字通りアームの魔の手が迫った。
「アームを持ってんのは、ソッチだけじゃねぇんだよォォォ!!」
ヴァイスは叫んだ。
GOユニットからアームが展開し、ニコラス機のアームを掴む。
「ナニィ!?」
驚愕するニコラス。
「教えろ! ミランダと一緒なんだろ!?」
「知らねェっつってんだろ!」
「このチンピラがァッ!」
「ドッチがだッ! クソヤロォ!!」
口汚い言い合いを繰り返すヴァイスとニコラス。
アームによる掴み合いをしている今、どちらかが別の攻撃に移れば勝機がある。
「馬鹿がッ! こっちのアームはひとつじゃねぇんだよ!」
先に出たのはニコラスだった。
もう一方のアームを展開し、掴みかかろうとする。
だが、
『止めるんだスウィフト君』
マイケルの声だった。
ハッとして、すぐさま掴み合っているアームを引き離し、ヴァイス機と距離を取る。
「どうした!?」
『この2機は地球圏連合軍じゃない』
「なに……?」
マイケルの言葉に、ニコラスは思わず疑問の声を発した。
マイケルは、至極落ち着き払っていた。
「そうだろう? 火星調査隊の諸君」
2機に通信を送る。
「そうだ。先刻ぶりだな。火星コロニー義勇軍の代表殿」
返ってくる冷静な声。
マイケルは確信した。間違いなく会談で仲介役を務めたギデオン・マクドガルである。
「マイケル・ミッチェルで構わないよ。でもなんだい? そんなもので戦場なんかに」
「我が隊の隊員を返してもらいに来た」
「ミランダ・ウォン。確かに君達の隊の一人だね。でも、彼女は僕達の仲間だ」
そう、ミランダはスパイだった。
マイケルの言葉が、それを物語る。
「馬鹿言うな! あんなに深刻そうな顔だったあいつが!」
激昂したヴァイスで割って入ってくる。
「落ち着きなよ。これは彼女の意思だ。それを否定するのは、君達の仲間の否定だよ」
「何ッ!?」
「長い潜入任務で情が移ったのかも知れないね。でも結果的にはこちらに戻ってきた。その意味がわかるだろ?」
マイケルにそう訊かれ、ヴァイスは黙ってしまった。
ミランダの意志。火星コロニー独立派、火星コロニー義勇軍だという意志。
やはり、全てが遅かったのか。
ヴァイスは唇を噛んだ。肉が切れ、口内に血の味が広がった。
「それに隊長さん、あんたもあんただ。民間人のあんた達が、そんなモビルスーツに乗って」
「我々にはある有力者からの許可があり、戦闘に介入し休戦ないし停戦を呼びかけることができる」
強い声だった。
ギデオンはヴァイスとは違い、ミランダの奪還に来ただけではないことが窺える。
「まだ続ける気かい? あんな終わり方をした休戦協定の交渉を」
「そうだ。我々は火星コロニー義勇軍の味方でもなければ、地球圏連合軍の味方でもない」
問いを変えれば、ギデオンは迷いなく返してくる。
マイケルは参ってしまった。
戦意も、すっかり削がれてしまっている。
黙っているマイケルだが、ギデオンの言葉はまだ終わってはいなかった。
「我々は、“和平への道”を実現する者だ!」
「!!」
言い切られる。
マイケルは驚き、そしてもう一度聞き返しそうになった。
だがなんとかそれを抑え、マイケルは別の言葉を口にする。
「各機、戦闘を終了。直ちに戦闘宙域から離脱するよ」
マイケルは撤退指示を出す。
「ギデオン・マクドガル。今日はあんたの熱意に免じて、隊を退く」
彼にしては珍しい、真剣な声。
「だが、次はこうはいかない。これは火星コロニーの独立を賭けた戦争だ。
地球圏育ちの君達の声が届くほど甘い現実なんか待ってはいない」
「しかしここで諦めるより、やってみなくてはわからないこともある。
武装蜂起などを必要としない、潜入工作など必要としない、そんな道も」
諭すようにギデオンが言う。
そんな彼に、マイケルは笑った。
「僕も大概だけど、あんたサイコーに馬鹿だよ」
「マイケル・ミッチェル、貴方もそうじゃないのか? 本当は……」
「僕達の任務は、ガンダムの破壊だよ。それは絶対に、変わらない」
マイケルは通信を完全にオフにした。
ターニャ機、タオ機、マオ機、ダン機が宙域を離脱していく。
「ミランダ、返してもらうぞ。絶対に」
「だから知らねえって。聞き分けねぇな」
この問答にほとほと嫌気が差したのか、ニコラス機も飛び去っていった。
「ドッチがだ……クソヤロー…………」
コックピットに、ヴァイスの声が虚しく響いた。
ディランの乗機を除くローズ9機を持つミッチェル隊と、
有人のイーグルクロウ10機と回収したローズ3機の地球圏連合軍。
やはり戦力の差は歴然なのか、前に出たイーグルクロウはことごとく撃墜されていく。
「ミサイル搭載機は後方より支援を続行。残りで殲滅に当たるよ」
マイケルの指示を皮切りに、6機は一気にイーグルクロウやローズに迫る。
「ガンダムはいねえのかァ!? ツマンネエなぁ!」
ニコラスは叫び上げながら、地球圏連合軍のローズに接近する。
背部に装着されたアームシールドのせいで機動力は落ちているものの、敵のローズの攻撃は当たらない。
「何故だ! 何故当たらない!?」
混乱する地球圏連合軍パイロット。
「射撃精度が低いんだよ! ボケェッ!!」
シールドからアームを展開する。
地球圏連合軍のパイロットは、まだモビルスーツの操縦に慣れていなかった。
白兵戦闘距離まで接近してきたニコラス機に対してレイピアを使用しようとするが、
レイピアを引き抜くのに手間取ってしまう。
その隙を突き、ニコラス機はアームを開き、ローズの腰部を捕らえた。
「押し潰されろやァァ!!」
まるで鉄環絞首刑。
ギリギリと痛め付けるように潰した後、一気に圧壊させた。
「うわああああ!!」
爆発するローズ。地球圏連合軍の貴重なモビルスーツの損失である。
イーグルクロウの殲滅に当たるダン機、そしてタオ機とマオ機。
「モビルアーマーの機動性が向上したと聞いていましたが、聞き間違いだったようですね」
残念そうにダンが呟く。
イーグルクロウの連装キャノンをものともせず、突き進んでいく。
イーグルクロウは後退しながらミサイルを発射した。
「逃げ腰でそんなことをしても、小賢しいだけですよ!」
ビームガンブレードを射撃モードにし、ミサイルを撃ち落とす。
尚も逃げようとするイーグルクロウに、ビームガンブレードの銃口が向く。
避けようとするイーグルクロウだったが、
「甘い!」
ビームガンブレード銃剣モード。
避けようとイーグルクロウが移動する方向へ剣を振る。
ビームの刃がイーグルクロウの胴体を捉えた。銃口のみでは届かないはずの距離。
そのまま、両断される。
「素直に負けを認めればこんな結果にはならないのに……」
悲しそうに呟き、イーグルクロウの爆発を見届けるダン。
そんなダンはタオとマオの戦闘を目撃する。
ビームガンブレードを連射し、イーグルクロウの回避ポイントを殺す戦法。
兄弟である二人でしかできない連携だった。
「よ、容赦ない…………」
ただただ唖然とするばかりのダン。
「タオとマオも頑張ってるみたいだねぇ」
『ダーリン! そっちに行ったわよ!』
「はいはい」
果敢にもマイケル機に向かってくるローズがいた。
「犯罪者がぁ!」
ビームライフルによる射撃は、やはり拙い。
「その度胸は認めよう」
こちらのローズはすんなりとレイピアを引き抜く。
先程のパイロットよりは操縦技術は上。
接近戦で勝機を見出すつもりか。
マイケル機はナインテールを構える。
「食らえぇぇぇッ!!」
レイピアを突き出すローズ。
「……やっぱり、駄目ダネ」
ナインテールに絡め取られるレイピア。
レイピアを取られ、なす術が無くなる。
次の瞬間には、奪ったレイピアを放り攻撃を仕掛けてくるマイケル機の姿があった。
「熔・断」
「ああああああぁぁ!!」
ナインテールによって斬られたその断面は鮮やかに熱を帯び、宇宙に色を添える。
直後、ローズは爆発した。
「面白い武器だね、コレ」
ナインテールの斬れ味に満足といった具合のマイケル。
そんなマイケル機の背後に回ったイーグルクロウの1機が、ミサイルを放った。
『感心してる場合じゃないだろ!? アホダーリン!』
ターニャ機がミサイルを撃破する。
『当たってたら、コックピットの真裏だったわよ?』
「いやぁ、気を抜いてた。サンキュ」
『うっふん♪』
ターニャはそう返すと、ミサイルを撃ったイーグルクロウを追った。
(守んなきゃね。ちょっと間抜けな新天地の創る男も、無口なガキンチョ達もさ!)
機動性で負けるイーグルクロウにすぐに追い付くターニャ機。
ビームガンブレードを銃剣モードにして、イーグルクロウを切り裂いた。
次々と撃墜されていく地球圏連合軍勢。
残す機体はイーグルクロウが2機、ローズが1機。
勝負は、見えていた。
「ハッ! ツマラネェツマラネェ! 地球のクソに染まった薔薇なんざ、さっさと墜ちろやぁッ!!」
残ったローズに接近するニコラス機。
その時だった。
「みんな、気を付けな! 急速で近付いてくる大型の熱源反応!」
レーダーに注意を置いていたターニャが呼びかける。
「コロニー下方から……まさかガンダムですか!?」
遂に来たかと、ダンが声を荒くした。
「いや、違うようだね」
マイケルが否定する。
「大型の熱源はブースターか何かだ。熱源本来はローズのもの。それも、2機!」
マイケルの言ったことは、事実。
「私は支援機の手を止める。トロニクス君、そちらは頼む」
『やれるとこまでやりますよ! 死にたくねえっスけど!』
ギデオンの乗るグワッシュは、戦闘宙域の中心部に向けて、ヴァイスの乗るグワッシュを放り投げた。
ギデオン機はミサイルを放つ3機のローズに向かう。
「速度固定。ビームライフルセット、着弾予想ポイントを算出……避けてくれるなよッ!」
ギデオンはトリガーを3度、引いた。
3つの光の放物線が、3機のローズに向かっていく。
ビームは見事、ローズに命中した。
1機は肩部のミサイルポッドに当たりそれが誘爆。
1機は頭部に当たりメインカメラを破損。
1機には命中しなかったが、丁度ミサイルを放った直後だったため、
ギデオン機のビームがミサイルに当たり爆発に巻き込まれてしまった。
「ビギナーズラックと笑いたければ笑え!!」
ギデオン機はそのまま旋回し、ヴァイス機を追った。
「支援してたローズが全機撃たれた!? 無事か!」
珍しく焦りを見せるマイケル。
『すみません隊長!』
『2機中破、1機生体反応はありますが応答無しです……』
支援していたローズから通信が舞い込む。
胸を撫で下ろすが、安心してはいられない。
「動けるなら、その1機を回収して撤退しろ! 後は僕達でやる!」
『わ、わかりました!』
『ご武運を!』
通信が切れた。
マイケルは俯き、震えていた。
「規模は小さいが立派な急襲だ……賞賛に値するよ」
レーダーに移る高速機の熱源。
「楽しいな! これでこそ戦い甲斐のある!!」
マイケルは笑っていた。
それは紛れもない武者震い。戦意が掻き立てられていく。
「アレは僕が戦る! 手を出すなよ!!」
皆に通信を送るマイケル。
「じゃあもう1機は俺にくれ! このアームがまだ潰し足りねえってさァ!」
「スウィフト君、君も好き者だね。構わないよ!」
通信を切ると、マイケルはギデオン機に向かった。
ヴァイス機を任されたニコラス機も、近付くヴァイス機とすぐに対峙する。
『ミランダは、ミランダはどこだ!?』
ローズ各機に向けたいきなりの通信だった。
「アァッ!? なんだコイツ?」
意味がわからずニコラスが苛立つ。
「ミランダ……?」
入ってきた通信に、マイケルは何かが引っかかる。
『ミランダは、ミランダ・ウォンはどこだって訊いてんだよォッ!』
「知るかァ!」
構わずにアームで潰しにかかるニコラス。
ヴァイス機に、文字通りアームの魔の手が迫った。
「アームを持ってんのは、ソッチだけじゃねぇんだよォォォ!!」
ヴァイスは叫んだ。
GOユニットからアームが展開し、ニコラス機のアームを掴む。
「ナニィ!?」
驚愕するニコラス。
「教えろ! ミランダと一緒なんだろ!?」
「知らねェっつってんだろ!」
「このチンピラがァッ!」
「ドッチがだッ! クソヤロォ!!」
口汚い言い合いを繰り返すヴァイスとニコラス。
アームによる掴み合いをしている今、どちらかが別の攻撃に移れば勝機がある。
「馬鹿がッ! こっちのアームはひとつじゃねぇんだよ!」
先に出たのはニコラスだった。
もう一方のアームを展開し、掴みかかろうとする。
だが、
『止めるんだスウィフト君』
マイケルの声だった。
ハッとして、すぐさま掴み合っているアームを引き離し、ヴァイス機と距離を取る。
「どうした!?」
『この2機は地球圏連合軍じゃない』
「なに……?」
マイケルの言葉に、ニコラスは思わず疑問の声を発した。
マイケルは、至極落ち着き払っていた。
「そうだろう? 火星調査隊の諸君」
2機に通信を送る。
「そうだ。先刻ぶりだな。火星コロニー義勇軍の代表殿」
返ってくる冷静な声。
マイケルは確信した。間違いなく会談で仲介役を務めたギデオン・マクドガルである。
「マイケル・ミッチェルで構わないよ。でもなんだい? そんなもので戦場なんかに」
「我が隊の隊員を返してもらいに来た」
「ミランダ・ウォン。確かに君達の隊の一人だね。でも、彼女は僕達の仲間だ」
そう、ミランダはスパイだった。
マイケルの言葉が、それを物語る。
「馬鹿言うな! あんなに深刻そうな顔だったあいつが!」
激昂したヴァイスで割って入ってくる。
「落ち着きなよ。これは彼女の意思だ。それを否定するのは、君達の仲間の否定だよ」
「何ッ!?」
「長い潜入任務で情が移ったのかも知れないね。でも結果的にはこちらに戻ってきた。その意味がわかるだろ?」
マイケルにそう訊かれ、ヴァイスは黙ってしまった。
ミランダの意志。火星コロニー独立派、火星コロニー義勇軍だという意志。
やはり、全てが遅かったのか。
ヴァイスは唇を噛んだ。肉が切れ、口内に血の味が広がった。
「それに隊長さん、あんたもあんただ。民間人のあんた達が、そんなモビルスーツに乗って」
「我々にはある有力者からの許可があり、戦闘に介入し休戦ないし停戦を呼びかけることができる」
強い声だった。
ギデオンはヴァイスとは違い、ミランダの奪還に来ただけではないことが窺える。
「まだ続ける気かい? あんな終わり方をした休戦協定の交渉を」
「そうだ。我々は火星コロニー義勇軍の味方でもなければ、地球圏連合軍の味方でもない」
問いを変えれば、ギデオンは迷いなく返してくる。
マイケルは参ってしまった。
戦意も、すっかり削がれてしまっている。
黙っているマイケルだが、ギデオンの言葉はまだ終わってはいなかった。
「我々は、“和平への道”を実現する者だ!」
「!!」
言い切られる。
マイケルは驚き、そしてもう一度聞き返しそうになった。
だがなんとかそれを抑え、マイケルは別の言葉を口にする。
「各機、戦闘を終了。直ちに戦闘宙域から離脱するよ」
マイケルは撤退指示を出す。
「ギデオン・マクドガル。今日はあんたの熱意に免じて、隊を退く」
彼にしては珍しい、真剣な声。
「だが、次はこうはいかない。これは火星コロニーの独立を賭けた戦争だ。
地球圏育ちの君達の声が届くほど甘い現実なんか待ってはいない」
「しかしここで諦めるより、やってみなくてはわからないこともある。
武装蜂起などを必要としない、潜入工作など必要としない、そんな道も」
諭すようにギデオンが言う。
そんな彼に、マイケルは笑った。
「僕も大概だけど、あんたサイコーに馬鹿だよ」
「マイケル・ミッチェル、貴方もそうじゃないのか? 本当は……」
「僕達の任務は、ガンダムの破壊だよ。それは絶対に、変わらない」
マイケルは通信を完全にオフにした。
ターニャ機、タオ機、マオ機、ダン機が宙域を離脱していく。
「ミランダ、返してもらうぞ。絶対に」
「だから知らねえって。聞き分けねぇな」
この問答にほとほと嫌気が差したのか、ニコラス機も飛び去っていった。
「ドッチがだ……クソヤロー…………」
コックピットに、ヴァイスの声が虚しく響いた。
(ここでCM。アイキャッチは戦場に残されたグワッシュと離脱していくローズ)
数日後、調査隊は拠点を公社所有のドックからC.B.F.B.社の工場へと移した。
グワッシュのカーボン複合装甲とGOユニットを開発した工場である。
タイプAとタイプBのユニットの予備。そして新たなユニットの製造も進められている。
「クッ……また撃墜されてしまった」
グワッシュとGOユニットと並行して、モビルスーツ用のシミュレーターも開発された。
シミュレーターはローズのコックピットを模しており、操縦、戦闘の訓練を行える。
今、それにはある人物が乗っている。
「なぁなぁクランさん、早く代わってくれよ~」
シミュレーターの横で、シオンが急かした。
騒がしさに気付いたのか、ハッチが開いてクランが顔を出す。
「シオンくん?」
「やっと出てきた! 俺にもシミュレーターやらせてくれよ!」
「えぇ!? そんな、あなたがどうして……?」
不安そうな顔をしてクランが尋ねた。
シオンは明るく、強い面持ちで、クランを見る。
「クランさんが言ったみたいに、ヘルガを守りたいからさ」
「だからって、あなたがモビルスーツに乗る必要はないのよ?」
「ヴァイスだって戦闘に出たんだろ? それに、クランさんだって人のこと言えないじゃん」
「それは……」
困ったように目を泳がせるクラン。
迷っているわけではなかった。
ただ、言ってしまえば、シオンにも同じ枷を背負わせかねない。
(でも、言うべきよね。私も覚悟を決めたんだもの)
クランは再び、シオンを見る。
そして、優しく笑った。
「シンシアの隣にいたいと思ったの」
「シンシア……の?」
「そう。いずれまた、あの子も戦場に出る。その時、あの子の隣にいられたらなって、思ったの」
“和平への道”を進むために、調査隊は戦場へ向かう。
そうなれば、攻撃的な人格のシンシアが現れるだろう。
止めたいと思った。苦しみを分かち合いたいと思った。
自分は化け物だと、人間ではないと嘆くシンシアを見て、クランは決めたのだ。
「それに、あの子にも見せてあげたいから。戦いのない、火星圏を」
戦場に乱入することで戦闘を止められるのだろうか。
今でもクランは疑問に感じている。
だが、ギデオンは真剣だった。成すべき事のために邁進しようと意気込んでいた。
なら、それについていこう。
きっとその先にあるのだろう。
自分達は、戦いを望んでいるのではないのだから。
タイプAとタイプBのユニットの予備。そして新たなユニットの製造も進められている。
「クッ……また撃墜されてしまった」
グワッシュとGOユニットと並行して、モビルスーツ用のシミュレーターも開発された。
シミュレーターはローズのコックピットを模しており、操縦、戦闘の訓練を行える。
今、それにはある人物が乗っている。
「なぁなぁクランさん、早く代わってくれよ~」
シミュレーターの横で、シオンが急かした。
騒がしさに気付いたのか、ハッチが開いてクランが顔を出す。
「シオンくん?」
「やっと出てきた! 俺にもシミュレーターやらせてくれよ!」
「えぇ!? そんな、あなたがどうして……?」
不安そうな顔をしてクランが尋ねた。
シオンは明るく、強い面持ちで、クランを見る。
「クランさんが言ったみたいに、ヘルガを守りたいからさ」
「だからって、あなたがモビルスーツに乗る必要はないのよ?」
「ヴァイスだって戦闘に出たんだろ? それに、クランさんだって人のこと言えないじゃん」
「それは……」
困ったように目を泳がせるクラン。
迷っているわけではなかった。
ただ、言ってしまえば、シオンにも同じ枷を背負わせかねない。
(でも、言うべきよね。私も覚悟を決めたんだもの)
クランは再び、シオンを見る。
そして、優しく笑った。
「シンシアの隣にいたいと思ったの」
「シンシア……の?」
「そう。いずれまた、あの子も戦場に出る。その時、あの子の隣にいられたらなって、思ったの」
“和平への道”を進むために、調査隊は戦場へ向かう。
そうなれば、攻撃的な人格のシンシアが現れるだろう。
止めたいと思った。苦しみを分かち合いたいと思った。
自分は化け物だと、人間ではないと嘆くシンシアを見て、クランは決めたのだ。
「それに、あの子にも見せてあげたいから。戦いのない、火星圏を」
戦場に乱入することで戦闘を止められるのだろうか。
今でもクランは疑問に感じている。
だが、ギデオンは真剣だった。成すべき事のために邁進しようと意気込んでいた。
なら、それについていこう。
きっとその先にあるのだろう。
自分達は、戦いを望んでいるのではないのだから。
「決心はついたようだな、ナギサカ君」
ギデオンの声に、クランとシオンは振り返る。
ギデオンだけではない。そこには、ヴァイスとモモと、シンシアとヘルガもいた。
火星から、ステーションから、今まで一緒に逃げてきた仲間。
改めて考えると感慨深いものがある。クランは心強い気持ちになった。
「なんでそんな嬉しそうな顔してんだよ」
暗い表情のヴァイスが言う。
「ヴァイスこそ、目の下にクマ、出来てるわよ?」
「うっ、うっせーよ!」
「あのミランダって人が出て行っちゃってから落ち込んでるよなー」
クランの後ろから、ニヤニヤと笑うシオンが顔を出す。
「ヴァイス、やっぱりミランダさんのこと、好きだったのね……」
「ちがッ。お、俺が好きなのはッ……」
「いいの、何も言わないで。辛いわね……だからあんなに取り乱して」
クランは心配そうな視線をヴァイスに向ける。
ヴァイスは何か言いたげにしているが、結局何も言えず、言葉を詰まらせた。
それを不満気な顔で見るモモ。隣にはヘルガもいた。
「……どんかんどんかんどんかん」
「はぁ……お兄ちゃんのせいよ」
「俺のせいかよ!?」
わかっていないシオンに、ヘルガは諦め気味に溜息をつく。
「うぉっほん」
わかりやすく、ギデオンが咳払いをした。
彼の隣には、シンシアがちょこんと立っている。
「君は普通の子ではないが、だからといって彼等の輪の中に入れないわけではないのだぞ」
「え?」
「行きたまえ。調査隊にいる内は、君もあの子等も、私の子だ」
年頃の娘の親になるにはまだ経験も年齢も不足しているだろうが。
そう付け足して、ギデオンは少しだけ顔を赤くして、黙り込んでしまった。
「ありがとう……ギデオンさん」
シンシアは小さく笑うと、クランの元へ走っていった。
その小さな笑みは、どこかクランに似ていると、ギデオンは思う。
「お姉ちゃんも、あのグワッシュっていうのに乗って戦うの?」
駆け寄ってきたシンシアが、何の気なしに訊いてきた。
クランは膝を曲げ、シンシアと目線の高さを同じにすると、優しく微笑んで首を振った。
「戦いに行くんじゃないわ。戦いを止めに行くのよ」
「止めに?」
「そう。一方的な主張と、それを否定しかできない戦いは、止めなくちゃ」
武力蜂起以外の、火星コロニーの独立の道。
クラン達の本来の仕事は、そこだろう。
ギデオンの声に、クランとシオンは振り返る。
ギデオンだけではない。そこには、ヴァイスとモモと、シンシアとヘルガもいた。
火星から、ステーションから、今まで一緒に逃げてきた仲間。
改めて考えると感慨深いものがある。クランは心強い気持ちになった。
「なんでそんな嬉しそうな顔してんだよ」
暗い表情のヴァイスが言う。
「ヴァイスこそ、目の下にクマ、出来てるわよ?」
「うっ、うっせーよ!」
「あのミランダって人が出て行っちゃってから落ち込んでるよなー」
クランの後ろから、ニヤニヤと笑うシオンが顔を出す。
「ヴァイス、やっぱりミランダさんのこと、好きだったのね……」
「ちがッ。お、俺が好きなのはッ……」
「いいの、何も言わないで。辛いわね……だからあんなに取り乱して」
クランは心配そうな視線をヴァイスに向ける。
ヴァイスは何か言いたげにしているが、結局何も言えず、言葉を詰まらせた。
それを不満気な顔で見るモモ。隣にはヘルガもいた。
「……どんかんどんかんどんかん」
「はぁ……お兄ちゃんのせいよ」
「俺のせいかよ!?」
わかっていないシオンに、ヘルガは諦め気味に溜息をつく。
「うぉっほん」
わかりやすく、ギデオンが咳払いをした。
彼の隣には、シンシアがちょこんと立っている。
「君は普通の子ではないが、だからといって彼等の輪の中に入れないわけではないのだぞ」
「え?」
「行きたまえ。調査隊にいる内は、君もあの子等も、私の子だ」
年頃の娘の親になるにはまだ経験も年齢も不足しているだろうが。
そう付け足して、ギデオンは少しだけ顔を赤くして、黙り込んでしまった。
「ありがとう……ギデオンさん」
シンシアは小さく笑うと、クランの元へ走っていった。
その小さな笑みは、どこかクランに似ていると、ギデオンは思う。
「お姉ちゃんも、あのグワッシュっていうのに乗って戦うの?」
駆け寄ってきたシンシアが、何の気なしに訊いてきた。
クランは膝を曲げ、シンシアと目線の高さを同じにすると、優しく微笑んで首を振った。
「戦いに行くんじゃないわ。戦いを止めに行くのよ」
「止めに?」
「そう。一方的な主張と、それを否定しかできない戦いは、止めなくちゃ」
武力蜂起以外の、火星コロニーの独立の道。
クラン達の本来の仕事は、そこだろう。
火星の移住権は、火星開発に投資した地球圏連合加盟各国に与えられる。
しかし、軌道エレベータの建設や火星の調査には、火星コロニー民も多くが協力してきた。
調査隊の一員だったミランダのように。
(そうね。争う以外の火星コロニーの独立ためにも、あの子を……ミランダ達を説得しなくちゃ)
ミランダの顔が浮かぶ。
シンシアを殺すと、ミランダは言った。
確かにドルダの力は強大である。
幾度もの戦闘で、ミランダからすれば志を同じする者を、ドルダによって討たれてきた。
(けれど、憎むだけでは何もならないわ……)
火星コロニー群の独立。火星コロニー民の自由。
それを武力以外で勝ち取ることができるのか。
それは、夢なのだろうか。
(だから、私達がいる。貴女の、貴女達の未来を、夢にはさせない!)
クランはそう、強く、決心する。
「お姉ちゃん」
そんなクランを見つめていたシンシア。
「わたしも、頑張るね」
シンシアは言う。
そして、俯いた。
「だから……………ワタシを止めて」
微かに聞こえたシンシアの一言に、クランはハッとする。
クランはシンシアを抱き締めた。
「わかった……わかったわ」
変わろうとしている。
シンシアが。世界が。
しかし、軌道エレベータの建設や火星の調査には、火星コロニー民も多くが協力してきた。
調査隊の一員だったミランダのように。
(そうね。争う以外の火星コロニーの独立ためにも、あの子を……ミランダ達を説得しなくちゃ)
ミランダの顔が浮かぶ。
シンシアを殺すと、ミランダは言った。
確かにドルダの力は強大である。
幾度もの戦闘で、ミランダからすれば志を同じする者を、ドルダによって討たれてきた。
(けれど、憎むだけでは何もならないわ……)
火星コロニー群の独立。火星コロニー民の自由。
それを武力以外で勝ち取ることができるのか。
それは、夢なのだろうか。
(だから、私達がいる。貴女の、貴女達の未来を、夢にはさせない!)
クランはそう、強く、決心する。
「お姉ちゃん」
そんなクランを見つめていたシンシア。
「わたしも、頑張るね」
シンシアは言う。
そして、俯いた。
「だから……………ワタシを止めて」
微かに聞こえたシンシアの一言に、クランはハッとする。
クランはシンシアを抱き締めた。
「わかった……わかったわ」
変わろうとしている。
シンシアが。世界が。
「失礼する!」
そんなところにやってきた、聞いたことのある声。
「メリリヴェイル・ルシェッタ……」
ギデオンがその名を呟いた。
「この工場を探し出すのに数日の無駄な時間を要した。こんな民間会社を隠れ蓑にするとはな」
カツカツと靴音を鳴らして、メリリヴェイルが近付いてくる。
すぐ後ろには部下であろう屈強な士官が二人。
明らかな威圧的な態度に、ヘルガは怖がりシオンに擦り寄った。
子供達を庇うように、ギデオンはメリリヴェイルの前に出る。
「御用は何か、司令代理殿」
「フン。先日の、貴様等が起こした戦闘介入の件に決まっているだろう」
「その件に関しての許可は、司令代理殿もご存知だと思いますが」
「ジャイアントマン。私もその名を知らぬわけではない」
ジャイアントマン。正体は知れずとも、軍の上層部に名は知れ渡っている。
彼の言葉は政府からの命令に取って代わることがある。軍にも影響を及ぼすのだ。
それが、メリリヴェイルの癪に障る。
(キム司令も、奴に媚びを売っていたようだった。この火星圏で甘い蜜を吸うために)
アーロン・キム少将。
地球圏連合軍火星圏駐留軍の最重要拠点である宇宙要塞ハーフムーンの司令。
そんなところにやってきた、聞いたことのある声。
「メリリヴェイル・ルシェッタ……」
ギデオンがその名を呟いた。
「この工場を探し出すのに数日の無駄な時間を要した。こんな民間会社を隠れ蓑にするとはな」
カツカツと靴音を鳴らして、メリリヴェイルが近付いてくる。
すぐ後ろには部下であろう屈強な士官が二人。
明らかな威圧的な態度に、ヘルガは怖がりシオンに擦り寄った。
子供達を庇うように、ギデオンはメリリヴェイルの前に出る。
「御用は何か、司令代理殿」
「フン。先日の、貴様等が起こした戦闘介入の件に決まっているだろう」
「その件に関しての許可は、司令代理殿もご存知だと思いますが」
「ジャイアントマン。私もその名を知らぬわけではない」
ジャイアントマン。正体は知れずとも、軍の上層部に名は知れ渡っている。
彼の言葉は政府からの命令に取って代わることがある。軍にも影響を及ぼすのだ。
それが、メリリヴェイルの癪に障る。
(キム司令も、奴に媚びを売っていたようだった。この火星圏で甘い蜜を吸うために)
アーロン・キム少将。
地球圏連合軍火星圏駐留軍の最重要拠点である宇宙要塞ハーフムーンの司令。
そして、駐留軍の総司令も兼ねるこの男。
火星コロニー群に対する政策にも一枚噛んでおり、
輸入される食料にかかる税金の一部は、キムに流れていた。
ハーフムーンに配属された佐官クラスの将校なら、誰もが耳にしたことのある話だ。
キムはジャイアントマンと接触し、私利私欲を貪れるような位置に居られるよう働きかけた。
ジャイアントマンはそれを容認したということだろう。
「私は気に入らない。得体の知れない者のせいで、この火星圏がどうにかなるのがな」
メリリヴェイルの態度に、ギデオンはデジャヴを感じた。
誰も信じることはない冷たい瞳。
初めて会った時と変わらない。
「確かに、ジャイアントマンの真意がわからぬ以上、貴殿の言うことは間違いではない」
ギデオンの言葉に、メリリヴェイルは眉を顰めた。
「我々は彼の犬ではない。我々も、彼には注意を置いているのだ」
そう言っても、メリリヴェイルの表情は変わらなかった。
言葉だけでは、何も伝わらないのか。
だが、諦める気など毛頭なかった。
「これだけはわかってもらいたい。我々は、この火星圏の平和を願っている」
そして、現状では願っても、何も変わらないということも。
「そうです!」
ギデオンに続くように、クランも声を上げる。
「私の和平交渉の希望も、まだ終わってはいません」
命の重みを誰よりも知っているクラン。
「クラン・R・ナギサカ……それが夢物語だと、何故気付かない!」
「夢物語なんかじゃねえッ!」
ヴァイスが叫ぶ。
「手を取り合うことなんて、本当は簡単なことだろ?
あんた等も火星独立派も、なんで仲良くできねぇんだ!」
共に火星に降り立った友と、再び会うために。
ジャンク屋の性故か、人種や暮らす場所に関係なく誰とでも分け隔てなく接することのできるヴァイス。
ギデオン、クラン、ヴァイス……
三人を順に見ていくメリリヴェイル。
彼等は、火星コロニー民ではない。
(なのに何故、これほどまでに強い意志を……)
自分も彼等と同じだ。生まれも育ちも、火星圏ではない。
彼等と自分の違い。彼等にあって、自分にないもの。
(高官共の長年に渡る汚職。腐敗と堕落の温床……)
その被害者は、常に火星コロニー民達だ。
自分は何のために軍人になった。
『これ以上人命を軽視できないわ。こんなことを続けていれば、
いずれ世界中の人々の感情は爆発して、暴動やテロが起きてしまう』
蘇る記憶。
若かった頃のあの志。
嘘や裏切りによって、捨ててしまったはずだった。
(私は……)
今一度、彼等を見る。
ギデオンやクラン、ヴァイスだけではない。
まだ幼い子供達もまた、同じ面持ちだった。
「クッ……戻るぞ!」
メリリヴェイルは踵を返す。
慌てて追いかける部下達も目もくれず、メリリヴェイルは歩調を速めていった。
(大丈夫だろう、彼女なら……)
それを見送るギデオンは、心の中でそう呟いた。
火星コロニー群に対する政策にも一枚噛んでおり、
輸入される食料にかかる税金の一部は、キムに流れていた。
ハーフムーンに配属された佐官クラスの将校なら、誰もが耳にしたことのある話だ。
キムはジャイアントマンと接触し、私利私欲を貪れるような位置に居られるよう働きかけた。
ジャイアントマンはそれを容認したということだろう。
「私は気に入らない。得体の知れない者のせいで、この火星圏がどうにかなるのがな」
メリリヴェイルの態度に、ギデオンはデジャヴを感じた。
誰も信じることはない冷たい瞳。
初めて会った時と変わらない。
「確かに、ジャイアントマンの真意がわからぬ以上、貴殿の言うことは間違いではない」
ギデオンの言葉に、メリリヴェイルは眉を顰めた。
「我々は彼の犬ではない。我々も、彼には注意を置いているのだ」
そう言っても、メリリヴェイルの表情は変わらなかった。
言葉だけでは、何も伝わらないのか。
だが、諦める気など毛頭なかった。
「これだけはわかってもらいたい。我々は、この火星圏の平和を願っている」
そして、現状では願っても、何も変わらないということも。
「そうです!」
ギデオンに続くように、クランも声を上げる。
「私の和平交渉の希望も、まだ終わってはいません」
命の重みを誰よりも知っているクラン。
「クラン・R・ナギサカ……それが夢物語だと、何故気付かない!」
「夢物語なんかじゃねえッ!」
ヴァイスが叫ぶ。
「手を取り合うことなんて、本当は簡単なことだろ?
あんた等も火星独立派も、なんで仲良くできねぇんだ!」
共に火星に降り立った友と、再び会うために。
ジャンク屋の性故か、人種や暮らす場所に関係なく誰とでも分け隔てなく接することのできるヴァイス。
ギデオン、クラン、ヴァイス……
三人を順に見ていくメリリヴェイル。
彼等は、火星コロニー民ではない。
(なのに何故、これほどまでに強い意志を……)
自分も彼等と同じだ。生まれも育ちも、火星圏ではない。
彼等と自分の違い。彼等にあって、自分にないもの。
(高官共の長年に渡る汚職。腐敗と堕落の温床……)
その被害者は、常に火星コロニー民達だ。
自分は何のために軍人になった。
『これ以上人命を軽視できないわ。こんなことを続けていれば、
いずれ世界中の人々の感情は爆発して、暴動やテロが起きてしまう』
蘇る記憶。
若かった頃のあの志。
嘘や裏切りによって、捨ててしまったはずだった。
(私は……)
今一度、彼等を見る。
ギデオンやクラン、ヴァイスだけではない。
まだ幼い子供達もまた、同じ面持ちだった。
「クッ……戻るぞ!」
メリリヴェイルは踵を返す。
慌てて追いかける部下達も目もくれず、メリリヴェイルは歩調を速めていった。
(大丈夫だろう、彼女なら……)
それを見送るギデオンは、心の中でそう呟いた。
第33コロニー。
格納庫に輸送機が入った。
輸送機から降りる人影。ミランダだ。
「案外、お早いお着きだったね」
「新型を26コロニーから受領して、トンボ返りでこちらに来ましたので」
待っていたマイケルは、苦笑してミランダを見る。
「本日付けでマイケル・ミッチェル隊に配属されました。ミランダ・ウォンです。改めてよろしくお願いします」
ミランダは険しい表情を崩すことなく、小さく頭を下げた。
顔を上げる際、灯りに反射して、眼鏡が鋭く光る。
「まさか君がパイロットとして来るなんてね。実戦経験もない、シミュレーション回数も乏しい君がさ」
「操縦技術に関しては問題ありません。上の判断でもあります」
「断言するねえ……」
「決意がありますから。それに自機であるブラッシュ・ローズは長距離狙撃用モビルスーツです。
前線に出ない限り、ご迷惑をおかけすることはありません。それに、私はこれで戦果を上げます」
表情一つ変えることなく、ミランダは言った。
そんな彼女に、マイケルは不安を感じる。
(まるでパンパンの風船だね。ちょっとの刺激で割れてしまう)
それほどまでに気を張って、ミランダを突き動かすものとは。
ドルダは確かに脅威だ。
だが、機体は地球圏連合軍にはないとわかった。
「ガンダム。向こうでの名前はドルダだったね。あれは駐留軍には渡らず、君がいた調査隊が所有している」
「知っています。あの人達がこの戦いを止めようとしていることも」
(内緒にしておこうと思ったけど、この様子だと報告もしちゃってるなぁ……)
火星コロニー義勇軍にとっては、和平を目指す者達もただの障害か。
新型機を寄越してまで、ドルダの破壊を優先させるその意図とは。
火星コロニー義勇軍、独立派……
自由を勝ち取るために、決起した者達。
その頂点に立つ宗谷陽光。
(自らの望む手段や結果以外は認めない……ということか)
彼の信念と、今目の前にいるミランダの考えは似ているような気がする。
目的に向かって突き進む。それは構わない。
格納庫に輸送機が入った。
輸送機から降りる人影。ミランダだ。
「案外、お早いお着きだったね」
「新型を26コロニーから受領して、トンボ返りでこちらに来ましたので」
待っていたマイケルは、苦笑してミランダを見る。
「本日付けでマイケル・ミッチェル隊に配属されました。ミランダ・ウォンです。改めてよろしくお願いします」
ミランダは険しい表情を崩すことなく、小さく頭を下げた。
顔を上げる際、灯りに反射して、眼鏡が鋭く光る。
「まさか君がパイロットとして来るなんてね。実戦経験もない、シミュレーション回数も乏しい君がさ」
「操縦技術に関しては問題ありません。上の判断でもあります」
「断言するねえ……」
「決意がありますから。それに自機であるブラッシュ・ローズは長距離狙撃用モビルスーツです。
前線に出ない限り、ご迷惑をおかけすることはありません。それに、私はこれで戦果を上げます」
表情一つ変えることなく、ミランダは言った。
そんな彼女に、マイケルは不安を感じる。
(まるでパンパンの風船だね。ちょっとの刺激で割れてしまう)
それほどまでに気を張って、ミランダを突き動かすものとは。
ドルダは確かに脅威だ。
だが、機体は地球圏連合軍にはないとわかった。
「ガンダム。向こうでの名前はドルダだったね。あれは駐留軍には渡らず、君がいた調査隊が所有している」
「知っています。あの人達がこの戦いを止めようとしていることも」
(内緒にしておこうと思ったけど、この様子だと報告もしちゃってるなぁ……)
火星コロニー義勇軍にとっては、和平を目指す者達もただの障害か。
新型機を寄越してまで、ドルダの破壊を優先させるその意図とは。
火星コロニー義勇軍、独立派……
自由を勝ち取るために、決起した者達。
その頂点に立つ宗谷陽光。
(自らの望む手段や結果以外は認めない……ということか)
彼の信念と、今目の前にいるミランダの考えは似ているような気がする。
目的に向かって突き進む。それは構わない。
(けど、度を越した暴走は、身を滅ぼすよ……)
To Be Continued...