少女は、静かに深い闇からの覚醒を果たす。
視界に映るのは、白く広がる天井。
少しばかり視線をずらすと、自分を見守り続ける女性の顔が見えた。
「あなた、だれ?」
そう尋ねると、女性は困ったように笑った。
そして、優しい眼差しで少女を見る。
「クラン・リザレクター・ナギサカよ。さっきそう名乗ったでしょう?」
「さっき……?」
少女は、眉を顰めた。
クランの言っていることに、覚えがない。
そんな少女の反応に、クランの表情も変わる。
「まさか、何も覚えていないの? 火星の地下で貴女に会ったこと」
「火星、地下…………うぅっ!」
クランの言ったことを自分の中で思うと、頭痛が走った。
痛みに少女は呻き、額を押さえる。
「平気!? モモちゃん! モモちゃん!!」
少女を心配して近寄る。
体を支えると、少女は苦悶の顔で、こちらを縋るような目で見た。
「思い出そうとすると、頭が痛くなる……怖い」
ゆっくりと額から下ろされた手は、震えていた。
深刻な、自身に起こっている異変に、少女は震えている。
そんな少女に、クランは親心のような感情が、胸を締めつける。
親心。否、妹を思う姉の心。そう言った方が正しい。
ありし日の、まだ生きていた頃の妹と、少女を重ねて。
視界に映るのは、白く広がる天井。
少しばかり視線をずらすと、自分を見守り続ける女性の顔が見えた。
「あなた、だれ?」
そう尋ねると、女性は困ったように笑った。
そして、優しい眼差しで少女を見る。
「クラン・リザレクター・ナギサカよ。さっきそう名乗ったでしょう?」
「さっき……?」
少女は、眉を顰めた。
クランの言っていることに、覚えがない。
そんな少女の反応に、クランの表情も変わる。
「まさか、何も覚えていないの? 火星の地下で貴女に会ったこと」
「火星、地下…………うぅっ!」
クランの言ったことを自分の中で思うと、頭痛が走った。
痛みに少女は呻き、額を押さえる。
「平気!? モモちゃん! モモちゃん!!」
少女を心配して近寄る。
体を支えると、少女は苦悶の顔で、こちらを縋るような目で見た。
「思い出そうとすると、頭が痛くなる……怖い」
ゆっくりと額から下ろされた手は、震えていた。
深刻な、自身に起こっている異変に、少女は震えている。
そんな少女に、クランは親心のような感情が、胸を締めつける。
親心。否、妹を思う姉の心。そう言った方が正しい。
ありし日の、まだ生きていた頃の妹と、少女を重ねて。
しばらくして、少女は再び眠りについた。
クランは部屋を出た。
此処は、火星軌道エレベータのステーション。
少女が気絶したその後、クランはなんとか火星で発見した機体を操縦し、
ステーションに戻ったのだった。
クランは驚いた。MWなどの作業機械とは操縦系統が全く違うだろうとは思っていたが、
人型の機体であるにも関わらずその操縦が非常に簡略化していることに。
簡略化といっても単純というわけではないが、操縦方法を覚えるのは楽であった。
(やはり、独立派が開発した機体なのかしら)
頭に浮かぶ疑問。
あの機体の破壊力は凄まじいものだった。
腹部から放たれた光は、今までに見たこともない兵器で、クランは心の底から畏怖した。
一瞬にして数機のローズを消し去ったそれを開発したのが、火星コロニーの独立強硬派だとしたら。
だが、クランはその考えを拭う。
そうだとしたら、少女が同じ人型の機体を攻撃するはずがない。
そもそも、地下のあの施設をどうやって建造したというのだ。
工事により発生する熱源を、宇宙から観測されてしまうではないか。
クランは結論の出ない憶測を、続ける。
「クランさん!」
そんな中、後ろから声をかけられ、クランは振り返った。
「モモちゃん……」
「クランさんも、格納庫に? あの子はどうなんですか?」
「えぇ。一度目が覚めたんだけど、また眠ってしまって」
クランは、モモに先程の経緯を説明する。
クランと出会ったことも、火星を飛び出し宇宙で大暴れしたことも、何も覚えていない。
それに加え、思い出そうとすれば頭痛が起こるということを。
「うーむ……専門じゃないですから詳しくはわからないですけど、記憶障害の一種かな」
「記憶障害……」
「言葉は普通に喋れるなら、恐らく自分に関係していることだけとか」
何か思い出したくない記憶でもあるのか。
クランはまた、悩んだ。
少女は一人だった。一人で地下に眠っていた。
飲食はどうしたのだろう。そんな疑問も浮かんだ。
だがそれよりも、クランの頭の中を占めるのは、少女が独りだったことだ。
あの機体のパイロットとして、あそこにいたのか。
しかし、年端もいかない少女を、あんな場所に置くのは非道なことだと、クランは思った。
クランは部屋を出た。
此処は、火星軌道エレベータのステーション。
少女が気絶したその後、クランはなんとか火星で発見した機体を操縦し、
ステーションに戻ったのだった。
クランは驚いた。MWなどの作業機械とは操縦系統が全く違うだろうとは思っていたが、
人型の機体であるにも関わらずその操縦が非常に簡略化していることに。
簡略化といっても単純というわけではないが、操縦方法を覚えるのは楽であった。
(やはり、独立派が開発した機体なのかしら)
頭に浮かぶ疑問。
あの機体の破壊力は凄まじいものだった。
腹部から放たれた光は、今までに見たこともない兵器で、クランは心の底から畏怖した。
一瞬にして数機のローズを消し去ったそれを開発したのが、火星コロニーの独立強硬派だとしたら。
だが、クランはその考えを拭う。
そうだとしたら、少女が同じ人型の機体を攻撃するはずがない。
そもそも、地下のあの施設をどうやって建造したというのだ。
工事により発生する熱源を、宇宙から観測されてしまうではないか。
クランは結論の出ない憶測を、続ける。
「クランさん!」
そんな中、後ろから声をかけられ、クランは振り返った。
「モモちゃん……」
「クランさんも、格納庫に? あの子はどうなんですか?」
「えぇ。一度目が覚めたんだけど、また眠ってしまって」
クランは、モモに先程の経緯を説明する。
クランと出会ったことも、火星を飛び出し宇宙で大暴れしたことも、何も覚えていない。
それに加え、思い出そうとすれば頭痛が起こるということを。
「うーむ……専門じゃないですから詳しくはわからないですけど、記憶障害の一種かな」
「記憶障害……」
「言葉は普通に喋れるなら、恐らく自分に関係していることだけとか」
何か思い出したくない記憶でもあるのか。
クランはまた、悩んだ。
少女は一人だった。一人で地下に眠っていた。
飲食はどうしたのだろう。そんな疑問も浮かんだ。
だがそれよりも、クランの頭の中を占めるのは、少女が独りだったことだ。
あの機体のパイロットとして、あそこにいたのか。
しかし、年端もいかない少女を、あんな場所に置くのは非道なことだと、クランは思った。
やがて、格納庫に到着する。
格納庫には、残りのメンバーがいた。
「この機体、どうです?」
操縦が出来たといっても、完璧というわけではなく。
なんとも情けない格好で鎮座しているそれを見ながら、クランが訊く。
「なんとも言えん。戦闘機から発展したものをMAと呼ぶが、これはそれとも違う」
ギデオンが複雑な面持ちでそれに答える。
胸部付近で何やら作業していたヴァイスも、諦めた表情で降りてきた。
「レーザーカッターを使ってみたが駄目だな。傷はつけられたが……」
肩を竦めて、技師としての自信を喪失してしまっている。
クランは、機体に近付いた。
ヴァイスがつけたという傷を見付けると、そこで起こっている光景に驚く。
「これは……なに?」
傷の周りを、小さな光の粒が呼応している。
「ナノマシンなんじゃねぇかとは思うんだ」
「ナノマシン? ナノマシンが今まで不治とされていた病気を治療したってニュースは知ってるけど」
「機械の修復ができるナノマシンが実用化されたなんて聞いたことがない」
「オーバーテクノロジーの塊ですね」
クランとヴァイスが会話の中に、ミランダが入ってきた。
携帯用のモニターを片手に、彼女も機体の調査をしていたのだ。
「機体はそのナノマシンによって、ブラックボックス化しているようですね」
パタンと音を立てて、モニターが閉じられる。
ミランダも、お手上げ状態だった。
「解析は不可能です。トロニクスさん、ナノマシンを採取することはできませんか?」
「いや、やってみたがな。気化するみたいに消えるんだ」
「じゃあ、私達の周りもナノマシンが充満していると?」
「そうかも知れん。だがこうやって普通に息してるんだ。人体に害はないさ」
「そうですね。あの、この修復の過程についてなんですけど……」
話題についていけなくなり、クランはそそくさとその場を後にする。
そして、未だに機体を眺めていたギデオンの近くに寄った。
ギデオンの表情は先程と変わらず、心境も複雑そうだった。
「あんなに地下に興味を持っていたのに、どうかされたんですか?」
「何もかも初めて尽くしでね」
「16回、隊長職を務められたんじゃ?」
「事実は経験より奇なり、さ。おかしな事態だよ」
あまり大袈裟なことは口にするのではないと、ギデオンは思わず自嘲した。
クランはクランで、根に持っていたことの仕返しができて、少々嬉しそうである。
クランの顔を見られなくなったギデオンは、話題を変えるためか、
ずっと黙っていたモモに顔を向けた。
「マレーン君、スタッフを呼んできてくれと頼んだのだか」
そう訊けば、モモは困った顔をして、口を開く。
「おかしいのはこのロボットだけじゃないんですよぉ」
泣きそうな顔をして、情けない声が口からでる。
「スタッフの人、どこにもいなくて……」
「いない? どういうことだ?」
「わかりませーん!!」
再度訊かれ、モモは怒ったようにそう返す。
そう、本当にわからないのだ。
「機体を運ぶ時、通信できないことがわかってライトを点滅させて誘導してくれたのに」
「我々がここに上がってくる時もアナウンスがあったよ。だが、顔を見たわけではない」
「どういうことでしょう? 私達が火星に降りる時は、確かにいましたよね……」
まるで幽霊か幻にでも遭ったかのように、自信のなさそうな口調でクランが言う。
ステーションといっても、まだ一般に向けて公開されていない施設。
今いるはずの関係者は自分達と、施設管理を火星開発公社から任された火星コロニー民のはず。
火星コロニー民。そう考えた時、クランとギデオンに、嫌な予感が走った。
「皆、集まってくれ。どうやらステーションも不穏な雰囲気だ」
「考えたくはないけれど、ステーションのスタッフにも独立派がいるかもしれない」
疑心暗鬼だといい。
クランはそう願う。
しかし、その願いは叶わなかった。
「その通りだ。公社の火星調査隊の諸君!」
格納庫に響く、若い男性の声。
ドアが開くと、銃を持った十数人の男達が流れ込んでくる。
そして、銃口が一斉に、クラン達へ向けられた。
格納庫には、残りのメンバーがいた。
「この機体、どうです?」
操縦が出来たといっても、完璧というわけではなく。
なんとも情けない格好で鎮座しているそれを見ながら、クランが訊く。
「なんとも言えん。戦闘機から発展したものをMAと呼ぶが、これはそれとも違う」
ギデオンが複雑な面持ちでそれに答える。
胸部付近で何やら作業していたヴァイスも、諦めた表情で降りてきた。
「レーザーカッターを使ってみたが駄目だな。傷はつけられたが……」
肩を竦めて、技師としての自信を喪失してしまっている。
クランは、機体に近付いた。
ヴァイスがつけたという傷を見付けると、そこで起こっている光景に驚く。
「これは……なに?」
傷の周りを、小さな光の粒が呼応している。
「ナノマシンなんじゃねぇかとは思うんだ」
「ナノマシン? ナノマシンが今まで不治とされていた病気を治療したってニュースは知ってるけど」
「機械の修復ができるナノマシンが実用化されたなんて聞いたことがない」
「オーバーテクノロジーの塊ですね」
クランとヴァイスが会話の中に、ミランダが入ってきた。
携帯用のモニターを片手に、彼女も機体の調査をしていたのだ。
「機体はそのナノマシンによって、ブラックボックス化しているようですね」
パタンと音を立てて、モニターが閉じられる。
ミランダも、お手上げ状態だった。
「解析は不可能です。トロニクスさん、ナノマシンを採取することはできませんか?」
「いや、やってみたがな。気化するみたいに消えるんだ」
「じゃあ、私達の周りもナノマシンが充満していると?」
「そうかも知れん。だがこうやって普通に息してるんだ。人体に害はないさ」
「そうですね。あの、この修復の過程についてなんですけど……」
話題についていけなくなり、クランはそそくさとその場を後にする。
そして、未だに機体を眺めていたギデオンの近くに寄った。
ギデオンの表情は先程と変わらず、心境も複雑そうだった。
「あんなに地下に興味を持っていたのに、どうかされたんですか?」
「何もかも初めて尽くしでね」
「16回、隊長職を務められたんじゃ?」
「事実は経験より奇なり、さ。おかしな事態だよ」
あまり大袈裟なことは口にするのではないと、ギデオンは思わず自嘲した。
クランはクランで、根に持っていたことの仕返しができて、少々嬉しそうである。
クランの顔を見られなくなったギデオンは、話題を変えるためか、
ずっと黙っていたモモに顔を向けた。
「マレーン君、スタッフを呼んできてくれと頼んだのだか」
そう訊けば、モモは困った顔をして、口を開く。
「おかしいのはこのロボットだけじゃないんですよぉ」
泣きそうな顔をして、情けない声が口からでる。
「スタッフの人、どこにもいなくて……」
「いない? どういうことだ?」
「わかりませーん!!」
再度訊かれ、モモは怒ったようにそう返す。
そう、本当にわからないのだ。
「機体を運ぶ時、通信できないことがわかってライトを点滅させて誘導してくれたのに」
「我々がここに上がってくる時もアナウンスがあったよ。だが、顔を見たわけではない」
「どういうことでしょう? 私達が火星に降りる時は、確かにいましたよね……」
まるで幽霊か幻にでも遭ったかのように、自信のなさそうな口調でクランが言う。
ステーションといっても、まだ一般に向けて公開されていない施設。
今いるはずの関係者は自分達と、施設管理を火星開発公社から任された火星コロニー民のはず。
火星コロニー民。そう考えた時、クランとギデオンに、嫌な予感が走った。
「皆、集まってくれ。どうやらステーションも不穏な雰囲気だ」
「考えたくはないけれど、ステーションのスタッフにも独立派がいるかもしれない」
疑心暗鬼だといい。
クランはそう願う。
しかし、その願いは叶わなかった。
「その通りだ。公社の火星調査隊の諸君!」
格納庫に響く、若い男性の声。
ドアが開くと、銃を持った十数人の男達が流れ込んでくる。
そして、銃口が一斉に、クラン達へ向けられた。
第1火星コロニー。
そこは、火星コロニー独立を訴える運動家達、
今は火星コロニー義勇軍と化した者達に占拠されていた。
代表官邸の執務室では、陽光と数人の部下が言葉を交わす。
「蜂起は成功。各コロニーに駐留していた軍は次々と降伏しています」
「そうか。でなければ話にならない」
幸先の良い報告を聞いても、陽光の顔は険しいままだった。
それは、これだけで全てを満足したわけではないということの表れだろう。
「我々の火星移民は希望に溢れているはずだった。しかし、蓋を開ければ食料自給の制限」
日本刀の鞘の先が、また大きな音を立て床を突く。
「全ては火星にある! 我々が独立すれば、火星の占有権を主張すると地球圏連合は恐れたのだ!!」
陽光が声を荒げる。
「そのせいで我々は100年もの間、貧困にあえいできた。
しかし! 今、そこから脱出しなければならない!!」
また鞘が床を突く。
部下達は一斉に、陽光に向き直る。
「全ては火星コロニー民のため!! 全ては火星コロニー独立のため!!」
「支配者達から自由を奪い取れ!! 自分達で物を生み出すのだ!!」
部下達はその言葉の復唱を続ける。
声が枯れるまで。息が出来なくなるまで。
そんな時、一本の通信が、陽光の元に入った。
『ゲェッゲッゲッゲ。何やら派手にやっとるようじゃの』
執務室の大型スクリーンに映し出されたのは、老人だった。
「プロフェッサー・ティモール。何か用か」
『儂が開発したMSはどうかと思っての。ゲゲッ』
「至って順調だ。駐留軍の部隊を圧倒していると続々報告が入ってきている」
『当たり前じゃッ!!』
老人、プロフェッサー・ティモールの怒号が、執務室に轟いた。
音が割れる程のそれに、部下達は思わず耳を塞いだ。
『全ては儂の頭脳とダイモスの遺跡にあったロストテクノロジーの賜物!
儂の人型機動兵器構想は正しかった。それなのに地球の馬鹿共は……』
「地球の学会を離れ、火星圏で研究を続けていた貴殿の昂ぶる熱意は、私も買っている」
ただ一人陽光だけは、ティモールの言動に表情一つ変えないでいた。
「それで、地球圏侵攻のための艦隊はどうなっている」
決して強気の姿勢を崩さない陽光。
それは、大型スクリーンに映る老人に対しても同じだった。
『ゲッゲッゲ。各コロニーからジャンク屋を集めて現在鋭意建造中じゃ』
「了解した。ジャンク屋達も火星コロニー民。くれぐれも酷使はしないよう頼む」
『ゲェッゲッ! ヨウコウ、鬼のようなお前でもコロニーの民にはその涙を見せるか……』
ティモールは、いやらしく笑った。
『安心せい。丁重に扱っておる。ではこれで通信を終了するぞ』
一方的に、通信は切れた。
嵐が過ぎ去った後のように、胸を撫で下ろす部下達。
陽光は、深く息を吐いた。
「食えん爺だ……」
しかし、利用できるのものは骨の髄まで吸わなければ、勝つことはできない。
真に討つべき敵は、火星圏にはいないのだから。
そこは、火星コロニー独立を訴える運動家達、
今は火星コロニー義勇軍と化した者達に占拠されていた。
代表官邸の執務室では、陽光と数人の部下が言葉を交わす。
「蜂起は成功。各コロニーに駐留していた軍は次々と降伏しています」
「そうか。でなければ話にならない」
幸先の良い報告を聞いても、陽光の顔は険しいままだった。
それは、これだけで全てを満足したわけではないということの表れだろう。
「我々の火星移民は希望に溢れているはずだった。しかし、蓋を開ければ食料自給の制限」
日本刀の鞘の先が、また大きな音を立て床を突く。
「全ては火星にある! 我々が独立すれば、火星の占有権を主張すると地球圏連合は恐れたのだ!!」
陽光が声を荒げる。
「そのせいで我々は100年もの間、貧困にあえいできた。
しかし! 今、そこから脱出しなければならない!!」
また鞘が床を突く。
部下達は一斉に、陽光に向き直る。
「全ては火星コロニー民のため!! 全ては火星コロニー独立のため!!」
「支配者達から自由を奪い取れ!! 自分達で物を生み出すのだ!!」
部下達はその言葉の復唱を続ける。
声が枯れるまで。息が出来なくなるまで。
そんな時、一本の通信が、陽光の元に入った。
『ゲェッゲッゲッゲ。何やら派手にやっとるようじゃの』
執務室の大型スクリーンに映し出されたのは、老人だった。
「プロフェッサー・ティモール。何か用か」
『儂が開発したMSはどうかと思っての。ゲゲッ』
「至って順調だ。駐留軍の部隊を圧倒していると続々報告が入ってきている」
『当たり前じゃッ!!』
老人、プロフェッサー・ティモールの怒号が、執務室に轟いた。
音が割れる程のそれに、部下達は思わず耳を塞いだ。
『全ては儂の頭脳とダイモスの遺跡にあったロストテクノロジーの賜物!
儂の人型機動兵器構想は正しかった。それなのに地球の馬鹿共は……』
「地球の学会を離れ、火星圏で研究を続けていた貴殿の昂ぶる熱意は、私も買っている」
ただ一人陽光だけは、ティモールの言動に表情一つ変えないでいた。
「それで、地球圏侵攻のための艦隊はどうなっている」
決して強気の姿勢を崩さない陽光。
それは、大型スクリーンに映る老人に対しても同じだった。
『ゲッゲッゲ。各コロニーからジャンク屋を集めて現在鋭意建造中じゃ』
「了解した。ジャンク屋達も火星コロニー民。くれぐれも酷使はしないよう頼む」
『ゲェッゲッ! ヨウコウ、鬼のようなお前でもコロニーの民にはその涙を見せるか……』
ティモールは、いやらしく笑った。
『安心せい。丁重に扱っておる。ではこれで通信を終了するぞ』
一方的に、通信は切れた。
嵐が過ぎ去った後のように、胸を撫で下ろす部下達。
陽光は、深く息を吐いた。
「食えん爺だ……」
しかし、利用できるのものは骨の髄まで吸わなければ、勝つことはできない。
真に討つべき敵は、火星圏にはいないのだから。
(ここでCM。アイキャッチはピンチのクランと険しい表情の宗谷。)
銃を構える者達、独立派の一団。そして、対峙する調査隊。
一触即発。ただ、触れて暴発するのは、片方のみ。
クラン達は丸腰で、じりじりと近付いてくる者達に、ただ苦い顔をするしかなかった。
火星に降りる前は、随分と丁寧な対応をしてくれたことを、調査隊の皆が思い出す。
やはり独立を前には、地球側の人間には容赦はないのか。
「クラン……?」
緊迫する中、どこからか聞こえた、幼い声。
名を呼ばれたクランは、ゆっくりとドアの方に顔を向ける。
そこには、あの少女がいた。
「来ちゃ駄目! 逃げてッ!!」
クランが叫ぶ。
その時、銃を構えた一人の男が、引き金を引こうとしていた。
少女が、それに気付く。
「クラァァンッ!!」
危険を察したのか、顔を強張らせて声を上げる。
その時、それは起こった。
鳴り響く銃声を掻き消すように、床が激しく音を鳴らす。
クランの目の前を、何かが覆った。
「…………手?」
薄目を開いて見ると、そこには巨大な手があった。
あの人型の機体の手だ。
「助けたの? 私を……」
少女が声を上げたから、反応したのか。
少女が、クランを守ろうとしたのか。
クランは少女との距離をはかる。
独立派の者達は、突然のことに混乱している。
今ならいける。クランは確信した。
「シンシア、来なさい!」
クランの声に、少女はびくんと反応する。
少女は、すぐさま走り出した。
それに気付き、独立派の者達が一生に少女に向く。
しかし間一髪、少女はクランの胸に飛び込んだ。
「クラぁン……」
「よく頑張ったわ。シンシア」
少女を強く抱き締め、クランは言う。
怯えた表情をして、少女は顔を上げる。
「シンシアって、わたしの名前?」
「そう。貴女はシンシア……私の妹よ」
言うべきではなかったのかもしれない。
それは記憶が戻った時、彼女を傷付ける可能性もある。
否、それはただの都合のいい言い訳だと、クランは自嘲した。
(ただのエゴね。自分の妹を、この子に重ねて)
寂しそうに、少女を見つめるクラン。
そんなクランに向くて、少女は微笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん」
「!!」
クランの目尻に、じわっと涙が滲む。
黙ったまま、クランは再び、少女を、シンシアを抱き締めた。
しかし、ずっと抱き合っているわけにはいかない。
クランはシンシアを離すと、迷いを振り払って、向き合う。
「シンシア、貴女はこれを、ドルダを動かせる?」
「ド、ル、ダ?」
「そう。この人の形をした、機械を」
先刻、シンシアに呼応するように自分を守ったこの機体。
記憶がないままでも、シンシアの意思があれば動くのではないか。
チラッと、先程の騒動で後方のグワライダーの陰に避難したギデオン達を見た。
クランに何か策があるのか察したのか、目があうとギデオンはしっかりと頷く。
クランは、決意を固める。
この状況を打破するには、これしかなかった。
「ステーションのスタッフだった方達に告げます!」
クランは声を上げる。
「今から私達はこの機体、ドルダを使ってエアロックを破壊します!!」
とんでもない発言に、独立派の者達は騒然となった。
それを確認し、クランは更に続ける。
「我々はこの機体と後方のMWを使って脱出します! 投げ出されたくないなら待避しなさい!」
怒鳴るようにそう言えば、独立派の者達は一目散に格納庫を出ていく。
格納庫のドアが閉まり、ロックがかかった。
これでしばらくは独立派の者達は入ってこない。
クランは大きく息を吐いて、胸を撫で下ろした。
「はったりがきいて良かった……」
「だが、そのはったりを真実にしなければ、我々は助からんぞ」
クランとシンシアの元に近寄ってきたギデオンが言った。
他の三人も一緒である。
「このグワライダーじゃ宇宙には出られねぇぞ」
気まずそうに、ヴァイスがそう告げる。
「ドルダに全員を乗せるのは……無理よね」
残念そうにクランは肩を落とした。
「ナギサカ君、そのドルダというのは?」
「この機体の通称です。いつまでも名無しのままでは呼び難いでしょう?」
ドルダという言葉の響きに違和感があるのか、ギデオンは首を傾げている。
「ほら。胸部にところどころ掠れている文字がありますよね。
掠れていない部分を繋げて読むと、ドルダになるんですよ」
クランは当たり前のことのように、そう説明した。
だがギデオンは、依然として納得のいかない表情のままま。
見解の相違か。また二人の意見が衝突してしまうのか。
「ネーミングセンスは別として、呼び名があることには賛成です」
助け舟を出したのは、ミランダだった。
「呼び名をどうするかは後回しにして、今はここを脱出することを考えませんか?」
的確な指摘に、クランとギデオンはしゅんとして黙る。
「隣の格納庫に輸送船があります。私なら、ゲートのロックを解除できます」
ミランダのその言葉には、自信が表れていた。
何かあるのだろうと、状況を理解していないシンシア以外の皆がミランダを注目する。
これで、ドルダもグワライダーも運べるだろう。
「ミランダちゃん、すごい!」
「マレーンさん、一応私の方が年上なんですが……」
「あははっ! でもこうなったら怖いものなしですよ!」
まるで自分の手柄のようにモモは強気だ。
高揚しているのか、モモはシンシアの手を握る。
「私モモ・マレーン。シンシアちゃん、よろしくね!」
「え。う、うん」
「モモちゃん、なんでシンシアの名前を?」
「だってさっきクランさんが大きな声で呼んでたじゃないですかぁ」
モモが、張り詰めていた空気を壊す。
呆れるギデオン達と、きょとんとするシンシア。
そして、暖かな眼差しを送るクラン。
調査隊として組まれたこの5人で任務をしたのは、これが初だ。
クランと面識があるのはヴァイス一人ぐらいで、
他の者とは、一回打ち合わせをしたきりだった。
時にはギデオンとクランのように考えが違うこともあるが、
それは互いに正しいと思った衝突であり、最終的には理解し合える。
ヴァイスの技師としての意見も、ミランダの分析も、頼りになる。
勿論、モモのムードメーカーと存在も欠かせない。
この隊で良かったと、クランは思った。
「他の人は後で紹介するわね。みんな、この子は私の妹のシンシアです」
クランは、そうギデオン達に目配せする。
4人は小さく頷き、理解を示した。
「ウォン、隣の格納庫へのゲートを早く開けてくれ。輸送機の操縦は俺がやる」
「ファーストネームで呼んで頂いて構いませんよ。ヴァイスさん」
ミランダはキツく見える表情を、優しく微笑ませる。
(この二人、良い雰囲気ね……)
ヴァイスの心を知ってか知らずか、クランはそんなことを思っていた。
そんなクランの服の袖を、シンシアが引っ張った。
気付いたクランが、顔を向ける。
「シンシア? どうかしたの?」
「頭、痛いの。何かが、近付いてきてる気がする……」
「なんですって……まさか」
クランは、シンシアが名もわからない少女だった時のことを思い出した。
人形のような冷たい目をして、遠く離れたローズの存在を感じ取った。
記憶を失っても、それは変わらないというのか。
「わたし、ドルダに乗らなきゃいけない気がする……」
「シンシア、でも貴女は、記憶を」
「何も覚えてないけど、でも体が反応するの」
あれに乗れ、と。
冷たい目になりかけている。
このままではまた、人形のような少女に戻ってしまう。
クランは、少女を抱き締めた。
「お願い。絶対に無理はしないで」
「クラン……?」
「貴女に何かあったら、私が絶対に助けに行く。例え生身で宇宙に出ることになっても」
もう二度と、“妹”を亡くしたくはなかった。
それが、正体もわからない、見ず知らずの少女でも。
エゴでも構わなかった。彼女の中では、それほどシンシアに愛おしさを感じていた。
「うんっ!」
シンシアは明るい声で、クランを元気付ける。
クランから離れると、シンシアはドルダの元へ走っていく。
「ドルダ……」
乗りたいと念じれば、コックピットハッチが開く。
ドルダに乗り込むシンシアを、クランは見つめ続けていた。
「ゲートが開いた。ナギサカ君、急ごう」
「……はい」
調査隊のメンバーは、足早に隣の格納へと向かう。
一触即発。ただ、触れて暴発するのは、片方のみ。
クラン達は丸腰で、じりじりと近付いてくる者達に、ただ苦い顔をするしかなかった。
火星に降りる前は、随分と丁寧な対応をしてくれたことを、調査隊の皆が思い出す。
やはり独立を前には、地球側の人間には容赦はないのか。
「クラン……?」
緊迫する中、どこからか聞こえた、幼い声。
名を呼ばれたクランは、ゆっくりとドアの方に顔を向ける。
そこには、あの少女がいた。
「来ちゃ駄目! 逃げてッ!!」
クランが叫ぶ。
その時、銃を構えた一人の男が、引き金を引こうとしていた。
少女が、それに気付く。
「クラァァンッ!!」
危険を察したのか、顔を強張らせて声を上げる。
その時、それは起こった。
鳴り響く銃声を掻き消すように、床が激しく音を鳴らす。
クランの目の前を、何かが覆った。
「…………手?」
薄目を開いて見ると、そこには巨大な手があった。
あの人型の機体の手だ。
「助けたの? 私を……」
少女が声を上げたから、反応したのか。
少女が、クランを守ろうとしたのか。
クランは少女との距離をはかる。
独立派の者達は、突然のことに混乱している。
今ならいける。クランは確信した。
「シンシア、来なさい!」
クランの声に、少女はびくんと反応する。
少女は、すぐさま走り出した。
それに気付き、独立派の者達が一生に少女に向く。
しかし間一髪、少女はクランの胸に飛び込んだ。
「クラぁン……」
「よく頑張ったわ。シンシア」
少女を強く抱き締め、クランは言う。
怯えた表情をして、少女は顔を上げる。
「シンシアって、わたしの名前?」
「そう。貴女はシンシア……私の妹よ」
言うべきではなかったのかもしれない。
それは記憶が戻った時、彼女を傷付ける可能性もある。
否、それはただの都合のいい言い訳だと、クランは自嘲した。
(ただのエゴね。自分の妹を、この子に重ねて)
寂しそうに、少女を見つめるクラン。
そんなクランに向くて、少女は微笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん」
「!!」
クランの目尻に、じわっと涙が滲む。
黙ったまま、クランは再び、少女を、シンシアを抱き締めた。
しかし、ずっと抱き合っているわけにはいかない。
クランはシンシアを離すと、迷いを振り払って、向き合う。
「シンシア、貴女はこれを、ドルダを動かせる?」
「ド、ル、ダ?」
「そう。この人の形をした、機械を」
先刻、シンシアに呼応するように自分を守ったこの機体。
記憶がないままでも、シンシアの意思があれば動くのではないか。
チラッと、先程の騒動で後方のグワライダーの陰に避難したギデオン達を見た。
クランに何か策があるのか察したのか、目があうとギデオンはしっかりと頷く。
クランは、決意を固める。
この状況を打破するには、これしかなかった。
「ステーションのスタッフだった方達に告げます!」
クランは声を上げる。
「今から私達はこの機体、ドルダを使ってエアロックを破壊します!!」
とんでもない発言に、独立派の者達は騒然となった。
それを確認し、クランは更に続ける。
「我々はこの機体と後方のMWを使って脱出します! 投げ出されたくないなら待避しなさい!」
怒鳴るようにそう言えば、独立派の者達は一目散に格納庫を出ていく。
格納庫のドアが閉まり、ロックがかかった。
これでしばらくは独立派の者達は入ってこない。
クランは大きく息を吐いて、胸を撫で下ろした。
「はったりがきいて良かった……」
「だが、そのはったりを真実にしなければ、我々は助からんぞ」
クランとシンシアの元に近寄ってきたギデオンが言った。
他の三人も一緒である。
「このグワライダーじゃ宇宙には出られねぇぞ」
気まずそうに、ヴァイスがそう告げる。
「ドルダに全員を乗せるのは……無理よね」
残念そうにクランは肩を落とした。
「ナギサカ君、そのドルダというのは?」
「この機体の通称です。いつまでも名無しのままでは呼び難いでしょう?」
ドルダという言葉の響きに違和感があるのか、ギデオンは首を傾げている。
「ほら。胸部にところどころ掠れている文字がありますよね。
掠れていない部分を繋げて読むと、ドルダになるんですよ」
クランは当たり前のことのように、そう説明した。
だがギデオンは、依然として納得のいかない表情のままま。
見解の相違か。また二人の意見が衝突してしまうのか。
「ネーミングセンスは別として、呼び名があることには賛成です」
助け舟を出したのは、ミランダだった。
「呼び名をどうするかは後回しにして、今はここを脱出することを考えませんか?」
的確な指摘に、クランとギデオンはしゅんとして黙る。
「隣の格納庫に輸送船があります。私なら、ゲートのロックを解除できます」
ミランダのその言葉には、自信が表れていた。
何かあるのだろうと、状況を理解していないシンシア以外の皆がミランダを注目する。
これで、ドルダもグワライダーも運べるだろう。
「ミランダちゃん、すごい!」
「マレーンさん、一応私の方が年上なんですが……」
「あははっ! でもこうなったら怖いものなしですよ!」
まるで自分の手柄のようにモモは強気だ。
高揚しているのか、モモはシンシアの手を握る。
「私モモ・マレーン。シンシアちゃん、よろしくね!」
「え。う、うん」
「モモちゃん、なんでシンシアの名前を?」
「だってさっきクランさんが大きな声で呼んでたじゃないですかぁ」
モモが、張り詰めていた空気を壊す。
呆れるギデオン達と、きょとんとするシンシア。
そして、暖かな眼差しを送るクラン。
調査隊として組まれたこの5人で任務をしたのは、これが初だ。
クランと面識があるのはヴァイス一人ぐらいで、
他の者とは、一回打ち合わせをしたきりだった。
時にはギデオンとクランのように考えが違うこともあるが、
それは互いに正しいと思った衝突であり、最終的には理解し合える。
ヴァイスの技師としての意見も、ミランダの分析も、頼りになる。
勿論、モモのムードメーカーと存在も欠かせない。
この隊で良かったと、クランは思った。
「他の人は後で紹介するわね。みんな、この子は私の妹のシンシアです」
クランは、そうギデオン達に目配せする。
4人は小さく頷き、理解を示した。
「ウォン、隣の格納庫へのゲートを早く開けてくれ。輸送機の操縦は俺がやる」
「ファーストネームで呼んで頂いて構いませんよ。ヴァイスさん」
ミランダはキツく見える表情を、優しく微笑ませる。
(この二人、良い雰囲気ね……)
ヴァイスの心を知ってか知らずか、クランはそんなことを思っていた。
そんなクランの服の袖を、シンシアが引っ張った。
気付いたクランが、顔を向ける。
「シンシア? どうかしたの?」
「頭、痛いの。何かが、近付いてきてる気がする……」
「なんですって……まさか」
クランは、シンシアが名もわからない少女だった時のことを思い出した。
人形のような冷たい目をして、遠く離れたローズの存在を感じ取った。
記憶を失っても、それは変わらないというのか。
「わたし、ドルダに乗らなきゃいけない気がする……」
「シンシア、でも貴女は、記憶を」
「何も覚えてないけど、でも体が反応するの」
あれに乗れ、と。
冷たい目になりかけている。
このままではまた、人形のような少女に戻ってしまう。
クランは、少女を抱き締めた。
「お願い。絶対に無理はしないで」
「クラン……?」
「貴女に何かあったら、私が絶対に助けに行く。例え生身で宇宙に出ることになっても」
もう二度と、“妹”を亡くしたくはなかった。
それが、正体もわからない、見ず知らずの少女でも。
エゴでも構わなかった。彼女の中では、それほどシンシアに愛おしさを感じていた。
「うんっ!」
シンシアは明るい声で、クランを元気付ける。
クランから離れると、シンシアはドルダの元へ走っていく。
「ドルダ……」
乗りたいと念じれば、コックピットハッチが開く。
ドルダに乗り込むシンシアを、クランは見つめ続けていた。
「ゲートが開いた。ナギサカ君、急ごう」
「……はい」
調査隊のメンバーは、足早に隣の格納へと向かう。
起動するドルダ。
「うぅっ……」
頭痛が走る。
痛みに耐えながら、シンシアはドルダを立ち上がらせた。
「ドルダ、クランと話がしたいの」
そう願えば、通信が開く。
「クラン……聞こえる?」
『この声、シンシアなの?』
「うん。これ、クラン達が乗ってる船の中でしょ? 話したいって願ったら、通じたの」
スピーカーから聴こえるクランの声に、シンシアは嬉しそうに笑った。
クラン達は輸送船に乗り込み、出発の準備を進めていた。
ミランダがゲートの時のように、エアロックにアクセスし、ハッチを開いた。
気圧が変わり、空気が宇宙に向けて吹き上げる。
ドルダも、宇宙へ飛び出した。
頭痛は治まりつつある。これなら操縦に問題はない。
(何も覚えてないはずなのに……なんでわかるの)
問題があるのは、機体ではなくシンシア自身なのか。
頭痛に代わり頭の中に浮かぶモヤモヤを振り払って、シンシアは前を向く。
シンシアの感じた気配は、すでにドルダも感知していた。
ステーションに接近する5機のモビルスーツ。
ニコラスの隊だった。
『スウィフトさん、ステーションから緊急通信です』
「こっちも受信した。未確認のMSか。まさか地球側も有してたとはな」
『ですが、MSの開発技術はまだ地球側にはないはず……』
「あのジジイ教授とは別の技術者かも知れねぇだろ。1機しかいねぇとこを見るとな」
だが気になるのは、それが駐留軍ではなく火星開発公社の火星調査隊、
つまり民間の者達がそのような機体を有しているということだった。
別のローズ部隊を一瞬にして消し去ったというビーム兵器。
疑問は深まる。
(だが、完全に破壊すれば、そんな疑問は些細なことだ)
例え威力が圧倒的だとしても、自分達の操縦技術が上回れば。
火星コロニー義勇軍が結成された際、MSパイロットには優れた操縦技術を持つ者が選ばれた。
先の駐留軍との戦闘でもそれは証明されている。
「各機、細心の注意を払えよ。敵の一挙一動を見逃すな」
それが、攻撃の合図だった。
それぞれが別方向に移動を開始する。
「散らばった?」
シンシアが呟く。
操縦の仕方は体が理解した。だが、戦うことに関してはどうなのだろう。
(わからない……!!)
思い出そうとしても、何も浮かばない。
そうこうしている間に、ローズとの距離は刻々と縮まっている。
射程圏内に到達し、ローズがライフルを発射した。
5つの方向からビームが襲い来る。
逃げ場所は、なかった。
「…………ヴェールよ、守れぇ!!」
咄嗟に、シンシアが叫ぶ。
そうすれば、肩部に発光が起こり、両翼のシールドが前部に展開した。
機体全体の表面に光を纏うドルダ。
5つのビームは、纏う光に打ち消される。
「なんだ、ビームを弾いた……!?」
ニコラスが驚きの声を上げる。
「ダン、どうなってる!?」
『機体表面に、こちらのビームと同等のエネルギーを展開。無効化されました!』
「無効化……? 駐留軍のカトンボを一撃で爆砕するビームを!?」
火星コロニー義勇軍にとって、ビーム兵器は絶対的な攻撃方法である。
MAはいとも簡単に墜とせても、目の前の存在には効かない。
自信が、打ち砕かれる。
「各機、レイピアを使え!」
装備されている剣が抜かれた。
ローズレイピアは、切断することも可能ではあるが、基本的に刺突する剣である。
主武装であるビームが効かないとなれば、ビームでない武器で戦うしかない。
ビームを防ぐメカニズムがわかっていれば、容易い。
「まさか剣まで防ぐわけじゃねぇよなァ!?」
叫び上げながら、ニコラスはレイピアを構えた。
「1機、凄い動く!」
それに反応するシンシア。
躱すにしても、5つの方向から来る攻撃に、対処しきれない。
ニコラスのローズが、前部に展開したままのシールドを突いた。
しかし、貫くことはできず、剣先が零れる。
「硬いな……ならァ!!」
「速いッ!」
即座に背後に回り込み、ローズが左腕を突く。
左腕が貫かれ、剣が抜かれた。
損傷箇所から電光が迸る。
「一時使用不能!? チィッ!」
対応できない苛立ちを露わにするシンシア。
『我々も突撃します!』
『3機でなら!』
『このシールドをも!』
3機のローズが、一斉にドルダに近付いた。
「馬鹿が! まとまるな!!」
ニコラスが声を荒げる。
3機のローズがレイピアを引く。
それと同時、ドルダもシールドを開いた。
「こォォォのォォェォ!!」
シンシアがありったけの声を、コックピットに撒き散らした。
腹部の発射口内で、光が収束する。
そして、放たれた。
眩しいばかりの光景。
静まれば、そこに3機のローズの姿はない。
「これが……クソがッ!!」
ドルダを睨む。
ニコラスのローズは再び、レイピアを構えた。
「2回も、やらせない!」
ガタガタと鈍く動く左腕。
マニピュレーターや関節は使用不能ではあるが、棒のように直立した腕がローズを薙ぐ。
「ぐうううう!!」
左腕の直撃を受け、ニコラスのローズが吹き飛ばされた。
『スウィフトさん!!』
「ダン、寄るな! 奴は!!」
忠告は、遅かった。
ドルダの右手が発光し、光の線が伸びた。
それが、ローズの両脚を分断する。
「ビームを固定した!? ダァンッ!!」
『だ、大丈夫です!』
「動けるか!?」
『脚部機能停止。制御系に不具合が……』
「救いようのねぇ馬鹿が……連れて帰る!」
ニコラスのローズはライフルを放ち、ドルダを牽制する。
そのまま損傷したドルダを抱えると、一気に宙域を離脱した。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
荒く呼吸を繰り返す。
滲む汗。
シンシアは、頭痛の痛みに、頭を押さえた。
「わたしは……こんなことをしていたの?」
こんなに苦しくなることを。
自分はなんなのか。
苦痛の中で、浮かぶのはそれだけだった。
「うぅっ……」
頭痛が走る。
痛みに耐えながら、シンシアはドルダを立ち上がらせた。
「ドルダ、クランと話がしたいの」
そう願えば、通信が開く。
「クラン……聞こえる?」
『この声、シンシアなの?』
「うん。これ、クラン達が乗ってる船の中でしょ? 話したいって願ったら、通じたの」
スピーカーから聴こえるクランの声に、シンシアは嬉しそうに笑った。
クラン達は輸送船に乗り込み、出発の準備を進めていた。
ミランダがゲートの時のように、エアロックにアクセスし、ハッチを開いた。
気圧が変わり、空気が宇宙に向けて吹き上げる。
ドルダも、宇宙へ飛び出した。
頭痛は治まりつつある。これなら操縦に問題はない。
(何も覚えてないはずなのに……なんでわかるの)
問題があるのは、機体ではなくシンシア自身なのか。
頭痛に代わり頭の中に浮かぶモヤモヤを振り払って、シンシアは前を向く。
シンシアの感じた気配は、すでにドルダも感知していた。
ステーションに接近する5機のモビルスーツ。
ニコラスの隊だった。
『スウィフトさん、ステーションから緊急通信です』
「こっちも受信した。未確認のMSか。まさか地球側も有してたとはな」
『ですが、MSの開発技術はまだ地球側にはないはず……』
「あのジジイ教授とは別の技術者かも知れねぇだろ。1機しかいねぇとこを見るとな」
だが気になるのは、それが駐留軍ではなく火星開発公社の火星調査隊、
つまり民間の者達がそのような機体を有しているということだった。
別のローズ部隊を一瞬にして消し去ったというビーム兵器。
疑問は深まる。
(だが、完全に破壊すれば、そんな疑問は些細なことだ)
例え威力が圧倒的だとしても、自分達の操縦技術が上回れば。
火星コロニー義勇軍が結成された際、MSパイロットには優れた操縦技術を持つ者が選ばれた。
先の駐留軍との戦闘でもそれは証明されている。
「各機、細心の注意を払えよ。敵の一挙一動を見逃すな」
それが、攻撃の合図だった。
それぞれが別方向に移動を開始する。
「散らばった?」
シンシアが呟く。
操縦の仕方は体が理解した。だが、戦うことに関してはどうなのだろう。
(わからない……!!)
思い出そうとしても、何も浮かばない。
そうこうしている間に、ローズとの距離は刻々と縮まっている。
射程圏内に到達し、ローズがライフルを発射した。
5つの方向からビームが襲い来る。
逃げ場所は、なかった。
「…………ヴェールよ、守れぇ!!」
咄嗟に、シンシアが叫ぶ。
そうすれば、肩部に発光が起こり、両翼のシールドが前部に展開した。
機体全体の表面に光を纏うドルダ。
5つのビームは、纏う光に打ち消される。
「なんだ、ビームを弾いた……!?」
ニコラスが驚きの声を上げる。
「ダン、どうなってる!?」
『機体表面に、こちらのビームと同等のエネルギーを展開。無効化されました!』
「無効化……? 駐留軍のカトンボを一撃で爆砕するビームを!?」
火星コロニー義勇軍にとって、ビーム兵器は絶対的な攻撃方法である。
MAはいとも簡単に墜とせても、目の前の存在には効かない。
自信が、打ち砕かれる。
「各機、レイピアを使え!」
装備されている剣が抜かれた。
ローズレイピアは、切断することも可能ではあるが、基本的に刺突する剣である。
主武装であるビームが効かないとなれば、ビームでない武器で戦うしかない。
ビームを防ぐメカニズムがわかっていれば、容易い。
「まさか剣まで防ぐわけじゃねぇよなァ!?」
叫び上げながら、ニコラスはレイピアを構えた。
「1機、凄い動く!」
それに反応するシンシア。
躱すにしても、5つの方向から来る攻撃に、対処しきれない。
ニコラスのローズが、前部に展開したままのシールドを突いた。
しかし、貫くことはできず、剣先が零れる。
「硬いな……ならァ!!」
「速いッ!」
即座に背後に回り込み、ローズが左腕を突く。
左腕が貫かれ、剣が抜かれた。
損傷箇所から電光が迸る。
「一時使用不能!? チィッ!」
対応できない苛立ちを露わにするシンシア。
『我々も突撃します!』
『3機でなら!』
『このシールドをも!』
3機のローズが、一斉にドルダに近付いた。
「馬鹿が! まとまるな!!」
ニコラスが声を荒げる。
3機のローズがレイピアを引く。
それと同時、ドルダもシールドを開いた。
「こォォォのォォェォ!!」
シンシアがありったけの声を、コックピットに撒き散らした。
腹部の発射口内で、光が収束する。
そして、放たれた。
眩しいばかりの光景。
静まれば、そこに3機のローズの姿はない。
「これが……クソがッ!!」
ドルダを睨む。
ニコラスのローズは再び、レイピアを構えた。
「2回も、やらせない!」
ガタガタと鈍く動く左腕。
マニピュレーターや関節は使用不能ではあるが、棒のように直立した腕がローズを薙ぐ。
「ぐうううう!!」
左腕の直撃を受け、ニコラスのローズが吹き飛ばされた。
『スウィフトさん!!』
「ダン、寄るな! 奴は!!」
忠告は、遅かった。
ドルダの右手が発光し、光の線が伸びた。
それが、ローズの両脚を分断する。
「ビームを固定した!? ダァンッ!!」
『だ、大丈夫です!』
「動けるか!?」
『脚部機能停止。制御系に不具合が……』
「救いようのねぇ馬鹿が……連れて帰る!」
ニコラスのローズはライフルを放ち、ドルダを牽制する。
そのまま損傷したドルダを抱えると、一気に宙域を離脱した。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
荒く呼吸を繰り返す。
滲む汗。
シンシアは、頭痛の痛みに、頭を押さえた。
「わたしは……こんなことをしていたの?」
こんなに苦しくなることを。
自分はなんなのか。
苦痛の中で、浮かぶのはそれだけだった。
To Be Continued...