21 名前:Gジェネ社の脅威 1/7 :2008/08/12(火) 04:09:27 ID:???
居酒屋「
青い巨星」は年配が集まる渋好みの店かと思いきや、若者たちにも意外な人気がある。
ゲラート・シュマイザー氏が紹介した事で『闇夜のフェンリル隊』の面々がよく利用し、
今日も顔を赤くしながら爆走用のモビルスーツ談義に花を咲かせていた。
ニッキ「そこで俺のヅダが……」
シャルロッテ「だから私のザクがぁ~」
すっかり出来上がっている若者たちに「そこはグフだ、青年」と声をかけたくなるのを抑える店主
ランバ・ラル。
彼らとは世代が違うのだと心の中で自分に言い聞かせると、彼らの面倒を見ている友人の苦労や楽しさも
心に思い浮かんでくる。こんな子が欲しいのか、と言うには、大きくなりすぎた子供たちではあるが……
それでも、若い世代を眺めるのは某かの楽しみが生まれるものだ。
そんなことを何気なく考えていた時、店内に流していた深夜放送がモビルスーツのコマーシャルを始めた。
明るいBGMが流れ、黄色いスカーフを首に巻いた娘と、色黒の娘が新製品の説明を始めていく。
レイチェル『ジオンの傑作機と言ったら、やっぱりドム!分かりますよね~』
クレア『ジェット・ストリーム・アタック!とか、俺を踏み台にしたぁ!とか』
ソフィ「うんうん、そうよねぇ」
シャルロッテ「ザクよ!」
レンチェフ「ふん、グフの渋さが分からないかねぇ」
ニッキ「ヅダのスピード感とスリルがだねぇ」
シャルロッテ「あれはスリルじゃなくて実際壊れるじゃない!」
若者と言うには歳が入ったメンバーの一人がグフの名を出すと、自然にラルの顔も緩んでしまう。
さらにCMは続いた。
22 名前:Gジェネ社の脅威 2/7 :2008/08/12(火) 04:10:33 ID:???
クレア『どこのご家庭にも一機はあると思います、パーフェクト・ジオング作るために足がなくなったドム。
そのままホコリをかぶっていませんか~?』
レイチェル『足のホバーが壊れて動けなくなったら、そのままドムタンクとかにしちゃっていませんか?』
クレア『そんな時にこれ!Gジェネレーション社の新型、ドム・バインニヒツ』
レイチェル『足の代わりに大型ブースターを取り付けた大胆設計!これでもう片足だけ壊れただけで、
ほとんど動けなくなる心配はありません!』
サンドラ「へ~え、なかなか面白そうなの作るじゃない。思い切り加速付けて正拳突きやってみたら?」
ソフィ「迷うところね……足があった方が、拳を繰り出す時の安定性が……」
シャルロッテ「変な形してるけど、ヅダよりずっと良さそうね~」
ニッキ「だからぁ、あの
空中分解のスリルが~」
レンチェフ「まあ……子供の遊びにゃいいかもしれんがな」
そうだ、男は黙ってグフ。おかしな際物に手を出す必要はない。
ラルが同好の士に一杯出してやろうと思ったその時、
23 名前:Gジェネ社の脅威 3/7 :2008/08/12(火) 04:11:54 ID:???
クレア『そして、高機動型と来れば、今度は重装備型!』
レイチェル『ドムのバズーカは強力ですが、弾切れが心配…… そんな時にこれ、弾切れの心配はもうご無用!
ドム・グロウスバイルの大型ヒートサーベル!』
クレア『これで戦艦も一撃必殺!やっぱりこういうのが格好良くて燃えるよねっ!』
レンチェフ「……行ける!こいつはいい!」
ル・ローア「また恐ろしげな武器を」
レンチェフ「だからいいんじゃねえか、あの大型剣で叩っ斬ったらさぞや爽快だろうよ」
実は実体剣愛好家であって、グフ愛好家ではなかったらしい。
盛り上がる若者たちに背を向け、一人涙するラル。
レイチェル『機体まるごとは手が出ない方でも、こちらの改造用キットを自分で組み立てられれば
お値段はぐっとお安くなります』
クレア『お買い求めは今すぐ、ご覧の電話番号まで!』
レイチェル『ドム・バインニヒツとドム・グロウスバイル、Gジェネレーション社の改造シリーズでした!』
クレア『足なんて飾りです、なんてねっ♪』
ニッキ「この価格なら手が届くぞ!」
シャルロッテ「改造キットだけ買って、ミガキさんに作ってもらいましょうよ~」
酔いが回った二人が肩を組んで画面に見入っている間に、
ル・ローアが画面に表示される電話番号をめざとくメモ帳に書き残す。
Gジェネ社に注文の電話がかけられるのは翌日早朝のことだった。
24 名前:Gジェネ社の脅威 4/7 :2008/08/12(火) 04:13:47 ID:???
そして、夜。
即日届けられた改造キットを夕方までに組み終え、暴走タイムには二機の新型が加わった
『闇夜のフェンリル隊』のモビルスーツが揃っていた。
サンドラ「さて、新型の調子はどんなもんかね」
レンチェフ「早いとこジムの2、3機もぶったぎりたいもんだな」
ソフィ「駆動部分の強化だけでも、正拳突きの威力が高まりそうですわね」
シャルロッテ「あ~あ、なんで新型はあっちに行ってるのよ……」
ニッキ「普段ザク、ザクってうるさいからじゃないか」
シャルロッテ「うるさいわね!あなたはヅダ買ってもらったじゃない」
ル・ローア「一番良く壊すから安いのを回されているんだ、そこの二人」
ニッキ「う……」
シャルロッテ「ご、ごめんなさい……」
ル・ローア「では、『闇夜のフェンリル隊』、出撃する!」
サンドラ「行っくよぉ!」
レンチェフ「ふふっ……さて、獲物が現れると嬉しいがね!」
25 名前:Gジェネ社の脅威 5/7 :2008/08/12(火) 04:16:00 ID:???
エイガー「そこまでだフェンリル隊!今日という今日は観念してお縄についてもらうぞ!」
今日も今日とて、立ちはだかるのはマドロック。
ガンダムの運動性とガンキャノンの火力と防御力を合わせた機体であるが
『闇夜のフェンリル隊』の前では苦杯を舐めさせられ続けている間柄だった。
当然、エイガーが登場しても、フェンリル隊がひるむわけではない。
サンドラ「ふふん、いいところに。新型のお披露目に付き合ってもらうよ!」
レンチェフ「ガンダムを真っ二つにできるか、試してやるぜ!」
もともと高機動型の機体であるドムをさらにチューンナップした二機がマドロックに襲いかかる。
サンドラのバインニヒツはマドロックからの砲撃を軽々とかわして横を駆け抜け、
続いてレンチェフのグロウスバイルが斬りかかる。
ニッキ「行け行けー!」
シャルロッテ「やっちゃえー!」
エイガー「Gジェネ社の改造機……そちらもなのか!?」
レンチェフ「そちらも、だと?」
エイガー「シロー、構う事はない!やってしまえ!」
警察隊のモビルスーツ……陸ガンが作っていた防御陣の一部が移動し、後方から一機のモビルスーツが現れる。
それが抱えていた大砲はモビルスーツが装備するようなサイズではなかった。
マドロックが両肩に付けているものと比べれば、異常な大きさが一目で分かる。
戦艦並の威力のビーム砲、という言い方はよくされるが、本気で戦艦の主砲をモビルスーツが抱えているのだ。
その大砲にもまた、Gジェネ社のロゴが付けられていた。
シャルロッテ「ま、待って、なによそれー!?」
ニッキ「非常識だぞ!?たかが暴走族相手にそんなの持ち出すかよ!?」
エイガー「やかましい!貴様らいっぺん
ミンチになれ!!」
悲鳴を上げる『闇夜のフェンリル隊』に向けて、Ez8HACが両脇に抱えた二門の大砲……
宇宙戦艦サラミスの主砲が向けられた。それはまさに、戦車砲で歩兵を狙うようなものだった。
26 名前:Gジェネ社の脅威 6/7 :2008/08/12(火) 04:36:56 ID:???
シロー(当てろよ……絶対に、外すんじゃないぞ……!)
前線ではエイガーが怒鳴り散らしているが、トリガーを握るシローは体から噴き出す汗が止まらなかった。
戦艦の主砲を街中で発射するなど、相手も言うように正気の沙汰ではない。
ヒイロやキラは平気でやっているが彼らの方が例外だ。
シロー(こいつがもし外れたら……街の被害はどうなるんだ?当たってもあいつらは確実に死ぬぞ?)
シロー(それは……警察がやっていいことなのか……!?)
迷っている時間はなかった。前線ではマドロックが押されている。
マドロックの機動性は重装備のぶんだけガンダムよりも劣る。ドム・グロウスバイルの大型ヒートサーベルは
マドロックのビームサーベルよりもパワーがあり、斬り合いでは明らかに不利を強いられていた。
エレドア「隊長、このままじゃエイガーさんやられちまうぜ!」
その言葉で、シローは迷う照準を固定した。
シロー(高速で飛び回る新型に確実に当てるのは無理だ…… 接近戦の最中に撃ち込むわけにもいかない……)
シロー(だとすれば…… 止まって応援している…… あのザクとヅダか……)
シローはサラミス砲の引き金を引いた。
あっけないほど簡単に、ニッキとシャルロッテの機体は木っ端微塵に粉砕されていった。
27 名前:Gジェネ社の脅威 7/7 :2008/08/12(火) 04:38:00 ID:???
エイガー「よおし!」
マット「………………!!」
ル・ローア「撤退する!今すぐにだ!別々に街中に逃げ込めば、誤爆を恐れてあの大砲は使えん!」
レンチェフ「その前に……こっちの大砲は、始末しとかなきゃな!」
レンチェフの振るう大型ヒートサーベルが、サラミス砲の威力に気を取られて隙を見せたマドロックに直撃する。
肩口の大砲を両断し、そのままの勢いで一気にマドロックの上半身を削ぎ落とす。
エイガー「うわああああっ!?」
レンチェフ「チッ…… 意外に、いい斬り応えじゃねえな……!」
ニッキとシャルロッテの仇を討つと、フェンリル隊は背を向けて逃走する。
それを呆然と見つめるシローに、エイガーから何度も砲撃の要請が届くが、
シローは答えることなく震えていた。
(続く)
最終更新:2013年09月19日 20:36