379 名前:乙女たちの邂逅 1/5 :2008/12/11(木) 14:18:14 ID:???
これは、ほんの少しだけ前のお話。
ミケロ「銀色のあs」
ソーマ「遅いっ!」
ドスン!
ミケロ「ゲッフー!!」
強烈な一撃を受けたモヒカン頭の男は軽やかに宙を舞い、
ゴミ捨て場に積み上げられていた袋の山に頭から突っ込む。
ミケロ「
ガンダム・ファイターのこの俺が…小娘に…」
ソーマ「フン! ガンダム・ザ・ガンダムやシャッフル同盟ならいざ知らず、
名もないザコGFに、超兵の私が後れを取るものか」
ミケロ「ぐふっ!」ザコジャナイモン…
(主に精神的)ダメージにより気を失う元ネオイタリア代表。
ソーマはそれを確かめると構えを解き、背後を振り返った。
ソーマ「怪我はないか?」
ティファ「はい」
見た目は儚げな少女だったが、よほど芯の強い魂を持っているのだろう。
ワンピースの襟元を裂かれながら、連れの少女をかばって立つその姿は毅然としており、
ある種の畏怖すら感じさせる。
フェルト「ティファ…」
ティファ「大丈夫。 もう、大丈夫だから」
もう一人の少女は見たところ被害はなさそうだが、血の気はすっかり失われており、
こちらの方がよっぽど被害者らしく見える。
ティファと呼ばれた少女はしがみつく少女の手を握り、安心させるように微笑んで見せた。
ソーマ「どこかで一休みしたほうがいいな。
私が世話になっている家がすぐそこなのだが…よければ来るか?
服も貸してやれるが」
地味なモスグリーンのジャンパー―背中のエンブレム“わいるど・べあ”は妙に可愛らしいが―を
ティファの肩にかけ、八極拳の奥義を見せた少女が固い表情で問う。
ソーマ「私はピーリス。
ソーマ・ピーリスだ」
ティファ「
ティファ・アディールです」
フェルト「
フェルト・グレイス…」
それが、後に「
乙女同盟」と呼ばれる少女たちの出会いであったという。
380 名前:乙女たちの邂逅 2/5 :2008/12/11(木) 14:19:08 ID:???
“荒熊精肉店”
商店街の外れという立地であり、また店長以下従業員のほとんどが“こわもて”であることから
敬遠する客もいるが、誠実にして堅実な経営方針と、当の店長の真面目な人柄から
ご近所では評判になりつつある新規店である。
ソーマ「中佐、ただいま戻りました」カッ
セルゲイ「ご苦労。 だが、店では店長と呼びなさいといっているだろう。
それと、敬礼は止めなさい」ヤレヤレ
ソーマ「も、申し訳ありません!」カッ
ミン「また敬礼」ニヤニヤ
ソーマ「あ…」(////)
セルゲイ「お客さんかね?」
ソーマ「はっ。 商店街で狼藉者に絡まれていたため救助しました。
着衣に損傷と、精神的にショックを受けている模様でしたので、保護を」
ミン「ふむ… 最近よく聞きますね」
セルゲイ「警察の手が足りていないのかもしれんな…ともあれ、よくやったな少尉。
上でゆっくりして行ってもらいなさい」
ソーマ「はっ! 失礼します」カッ
セルゲイ「うむ」
ミン「“少尉”と、敬礼」
セルゲイ「む…」イカンイカン
ソーマ「あう…」(////)
フェルト「あの、軍人さんなんですか?」
ソーマ「予備役だ。 …すまんな、驚かせてしまったか?」
フェルト「い、いえ…」
店舗横の狭い階段を上がると、二階からは住居になっていた。
落ち着いた雰囲気のリビングを抜け、二人が案内されたのは私室の一つであったが…
フェルト「…ここ、ピーリスさんのお部屋なんですか?」
ソーマ「少々殺風景だとは、よく言われる」ゴソゴソ
床は板張り、家具と言えばベッドと机、そしてクローゼットが一つきりである。
モデルルームでももう少し生活感があるだろう。
テ&フ「「(………少々?)」」
ソーマ「この服に着替えなさい。 少し丈が大きいかもしれないが」
言ってティファに差し出したのは可愛らしいピンクのワンピースである。
ソーマ「いただきものなんだが、私が着るには、その、少しばかり可愛すぎるからな。
あなたなら似合うだろう」
ティファ「そんなことありません」
ソーマ「えっ?」
ティファ「ピーリスさんにも、きっと似合うと思います」
柔らかく言うティファの傍らでは、フェルトもコクコクとうなずいている。
ソーマ「そんなことはっ! …いや…そ、そうかな…」(////)
381 名前:乙女たちの邂逅 3/5 :2008/12/11(木) 14:20:05 ID:???
knock!knock!
セルゲイ『しょ…ピーリス君』
ソーマ「あ、はい!」
フェルト「(また少尉って言いかけてたw)」
セルゲイ『お茶を入れたので、着替えが終わったらリビングに来てもらいなさい』
ソーマ「はっ! ありがとうございます!」
再び案内されたリビングには、ティーセットと、そして…
フェルト「コロッケ?」
テーブルに載せられた大皿には、こんがり狐色のコロッケが、山と積まれていた。
ソーマ「ちゅ、店長、これは?」
セルゲイ「店で売りに出そうかと思って作った試作品だ。
紅茶に合うかは、その、微妙だが…少し意見を聞かせてほしくてな」
ソーマ「肉屋で、惣菜ですか?」
セルゲイ「こちらでは、普通に扱っているそうだ」
ティファ「ラードで揚げたコロッケは、人気があります」
ソーマ「そうなのか…」
階下のミン『店長!
ラルさんがお見えです!』
セルゲイ「判った! すぐ行く!
すまないがピーリス君、お客さんのもてなしは頼むぞ」
ソーマ「はっ!」
セルゲイ「ゆっくりしていってくれたまえ」
ティファ「はい。 ありがとうございます」
セルゲイを見送った一同はソファーに座る。
フェルト「むぅ…」
ソーマ「中佐…がんばりすぎです…」
眼前の小山は、とても女性三人で片付けられる量ではない。
ソーマ「すまない。 軍人は基本的に大喰らいなものだから…
無理して食べる必要はないからな」
ティファ「はい。 でも、とっても美味しそう」
382 名前:乙女たちの邂逅 4/5 :2008/12/11(木) 14:21:46 ID:???
フェルト「(えっと、ソースは…)」
何気なく取り上げた陶製の瓶。
蓋を開けると、甘い香りが立ち上る。
フェルト「…ジャム?」
ソーマ「ミンちゅ…副店長の自家製だ。
その辺の市販品よりずっと旨いぞ」
フェルト「(ジャム…コロッケに、ジャム?!
…で、でも、トーストにジャムを塗るんだから、意外と合うの?)」
思わず凍りつくフェルト。
ソーマ「?」
その様子を見て何を考えているのか察したティファは、苦笑しつつ、手を伸ばす。
ティファ「先…いい?」
フェルト「え…えっ! でも、ジャムだよ?」
ソーマ「??」
会話の意味が飲み込めずに首をかしげるソーマ。
そしてティファは瓶を受け取ると、ティースプーンでルビー色のジャムをティーカップに落とす。
フェルト「ええっ!」
思いもよらなかった行動に目を丸くするフェルトと、その声に驚くソーマ。
ティファ「ロシアンティーって言うの。
こうやって飲むのは、本場の人には少ないそうだけど」ハイ
ソーマ「そうだな。 だいたい皆、そのまま食べて紅茶を飲むが…」アリガトウ
言いつつ、ソーマも受け取った瓶からジャムを紅茶に落とす。
ソーマ「こうすると香りが立つ。 副店長はあまり良い顔をしないがねw」
曰く、茶の香りが楽しめないとの事だという。
ソーマ「もっとも、ウチはそれほど良い葉を使ってるわけじゃないから…
お茶に五月蝿い中国人は嘆いてばかりだ」
フェルト「そんな飲み方、あるんだ…」
ソーマ「というか、こちらでは紅茶にジャムは入れないのか?」
ティファ「だいたい、砂糖と、ミルクかレモンですね。
大人の人はお酒を入れる人もいるそうですけど」
フェルト「スメラギさん、いつもお酒をいっぱい入れて、クリスに怒られてる…」
ソーマ「ああ! 中佐の知り合いにもそういう人はいるぞ。
今は自動車工をしているそうだが…一口飲むたびにフラスコの中身を継ぎ足すから、
お茶を飲んでいるのか、酒を飲んでいるのか判らなくなるんだ」
ようやく緊張が解けてきたのか、酒飲みを肴に盛り上がる二人。
383 名前:乙女たちの邂逅 5/5 :2008/12/11(木) 14:23:17 ID:???
ティファ「…よし」
打ち解けた様子に安心したティファは、ガラステーブルの中央に鎮座する小山に向き直る。
取り皿も、箸やフォークも無く、傍らに紙ナプキンが積んであると言うことは、
手づかみで食べろという事なのだろう。
コロッケとはそう言うものかも知れない。
ナプキンでコロッケを摘み上げたティファは、意を決して一口かじる。
サクッ!
フェルト「………」
ソーマ「……どう、かな?」
ティファ「…おいし♪」
ソーマ「そ、そうか。 それは、良かった…」
安心して微笑むソーマは、自らもコロッケ山に手を伸ばす。
こちらはナプキンも使わずに取り上げると、そのままかじりついた。
ソーマ「うん、旨い」
うむうむと頷くソーマに、フェルトも意を決して手を伸ばす。
フェルト「…おいしい」
ソーマ「売りものになる、かな?」
フェルト「大丈夫だと思う…」
ティファ「あ、でも、もう少し薄味の方が良いかも…
薄味が好みの人には、ちょっと味付けが濃いと思うから…
物足りない人はソースを使うでしょうし」
ソーマ「そうか…なるほど… 後で中佐に報告しておこう」
指に付いた油をぺろりと舐め取り、ソーマは二つめに手を伸ばす。
フェルト「きっと、人気商品になりますよ」
こちらは紙ナプキンで丁寧に指の油をぬぐう。
三者三様の食べ方に、ティファはくすくすと笑った。
おわり
最終更新:2013年09月27日 20:47