583 名前:咆哮哀歌 8-1/4 :2010/05/21(金) 10:03:42 ID:???
573の続き
ハロ長官「怪盗キンケドゥだって?」
ジュリ「ホバートラック08から映像、来ます!」
リリ「あのヒラヒラは、間違いありませんわね」
ハロ長官「ウムム…こんな所で…」
ジュリ「何が目的なんでしょうか…」
リリ「普通に考えれば、市民による善意の協力、と言ったところかと思いますけど」
ジュリ「指名手配中の怪盗が、ですか?」
リリ「…無理がありますかしら?」
ハロ長官「(いや…以前にもキンケドゥは警察に手を貸すような所があった…)
いずれにせよ、今、あの犬型MSを止められるのは、
彼しかいない、と言うことです。
後詰の09小隊はどうなっている!」
オペレーター「騒ぎを嗅ぎ付けたマスコミの地上車両と接触!
現着までしばらくかかりそうです!」
ハロ長官「ええい、だから市街地の幹線道路は避けろと…
やむをえん、こうなったら私が出る!」
ジュリ「長官!」
リリ「あなた、ガンペリーの用意をお願いいたしますわ」
オペレーター「あっ、はい!」
ハロ長官「リリ署長、後はお願いします。 行くぞ、ジュリ君!」
ジュリ「はいっ!」
リリ「お気をつけて~」ノシ~
シロー「キンケドゥ…お前が何故ここに! まさかそいつは!」
キンケドゥ『私たちの仲間か?…と言いたいなら、答えはNOだ。
このMSにはちょっとした借りがあってね。
自分の手で返そうとあわてて飛び出してきたんだが…
どうやら杞憂だったかな?』
シロー「ぐっ…」
ボコーダーによる変調ボイスだったが、言外に含んだ笑みは伝わる。
グラハム「(だが…近接戦に特化した彼の
ガンダムならば、確かに奴に対抗できる…)」
シーブック「何とか間に合ったか…」
通信機を切り、クロスボーンガンダムX1のコクピットでシーブックは安堵のため息を漏らす。
練度はともかく、ほとんどが旧型MSばかりの警察では目の前の“四本足”には対抗しきれない。
怪盗キンケドゥとして、彼らをよく知るが故のシーブックの結論であった。
シーブック「さて、どこのどなたかは知らないが…バーニィの(ザクの)仇はとらせてもらう!」
ヴゥゥン…
大型のビームサーベル、ビームザンバーを引き抜く。
海からの強風が、X1のABCマントを煽る。
584 名前:咆哮哀歌 8-2/4 :2010/05/21(金) 10:05:40 ID:???
ビームシールドの完成により、ビーム兵器は対MS戦での切り札ではなくなってしまった。
以後、各MSメーカーは新しい戦術の開拓と、それに対応する機能の開発を余儀なくされる。
サナリィのその解答の一つが、ビームシールドをも貫く強力な火器、ヴェスバーを搭載したF-91。
そしてもう一つが、MSの推進力と防御力を強化することで近接戦闘に特化した、F-97であった。
特に盗賊団「クロスボーン・バンガード」が使用しているガンダムは、
メインスラスターをさらに大型のものに換装し、
運動性能において現行のMSではほぼ最高峰の性能を発揮している。
―――正確には、クロスボーンガンダムをダウングレードした簡易量産機が
F-97フリントとして製品化されている機体ではあるのだが。
ちなみに、キンケドゥに倣った海賊デザインに改造することがやんちゃな層では流行っており、
警察の追跡調査を混乱させる一助になっているとかいないとか。
ドウッ!
最初の攻撃はクロスボーン・ガンダムX1からだった。
シロー「うわぁ…」
ビームザンバーを見せ付けておきながら、マントの下でビームピストル・バスターガンを抜き、
いきなり射撃を加えたのである。
グラハム「むう…なかなか素敵な卑怯技だが…」
シロー「あれを、かわすのか!」
“四本足”は、まるでX1の狙いが判っていたかのようにその射撃を軽やかにかわしてゆく。
頭部のバルカン、肩部のビームガンまで動員して射撃を加えるも…
シーブック「やっぱりこいつ、“先読み”してるのか!」
彼の長兄、アムロ・レイを始め、トップクラスのMS乗りは、
時折未来が判っているかのような行動を取る時がある。
NT能力、などと呼ばれているが、その詳細なメカニズムは未だ解明されていない。
シーブック「なんとぉーーーー!」
射撃兵装を持たないのか、“四本足”は一方的な射撃をかわすばかりであるが、
裏を返せば、数多の警察MSを退けてきた「怪盗キンケドゥ」の実力を以てしても
捕らえきれないということである。
グラハム「いかん!」
シロー「カレン!」
シーブック「やべっ!」
サイドへと回り込むように走る“四本足”は、そのまま擱座したカレンのRX-79を盾にする。
シーブック「ちっ!」
とっさにトリガーを外すシーブック。
グラハム「むっ…巡査部長を庇った? やはり、キンケドゥ…
犯罪者ではあっても、悪党では無いと言うことか…」
585 名前:咆哮哀歌 8-3/4 :2010/05/21(金) 10:07:44 ID:???
そしてそれは“四本足”には絶好の好機だった。
体勢を立て直し、高々と宙に舞う。
シーブック「!」
それを読んでいたシーブックではあったが、傾きかけた太陽が、“四本足”を覆い隠す。
シーブック「しまっ…」
X1背部のスラスター・アームが跳ね上がり、強引に機体を後退させる。
ザンッ!
辛うじて直撃を免れるが、ABCマントの胸元には三条の爪痕が刻まれた。
シーブック「このっ!」
とっさにビームザンバーを振るうが、体を沈めるだけであっさりとかわされる。
Ez-8同様、サーベルを引き戻す動きにあわせて懐に飛び込もうとする“四本足”だったが、
その鼻先を狙ってブランド・マーカーを打ち下ろすX1。
とっさに身を引いた“四本足”に鋭い前蹴りを放ち、直撃こそ叶わなかったが、
大きく間合いを取らせることに成功する。
グラハム「さすが、だな…」
旧世代機のような重いシールドを持たないクロスボーンガンダムは、
近接戦闘において四肢を自由に振り回せる。
一方の“四本足”も、その特殊な形状ゆえに通常のMSにはあり得ない機動を見せるが、
回転の速い攻撃――しかも、ビームザンバー、ブランド・マーカー、通常型のビームサーベルと、
間合いの異なる武器を使いこなされては距離を詰めきることができない。
“四本足”の爪がさらにABCマントを引き裂き、X1のビームが装甲を焼くが、
尚も両者共に致命傷には至らず。
グラハム「うむ…これは、僅かな隙が勝負を決めるぞ…」
シロー『警視正』
グラハム「警部補、動けるか?」
シロー『何とか最低限の機能は回復しました』
グラハム「好し、だが、まだ動くな」
シロー『そんな!』
グラハム「迷いが有っては、どちらも捕らえられんぞ」
シロー『う…』
特殊車両機動部隊の彼らにとって、今この場で優先するべきは凶悪犯の“四本足”を確保することである。
だが、シローには、何度も取り逃がしてきたキンケドゥに対する強いこだわりがあった。
結果としてそのキンケドゥに救われる形になっている現状が、平静さをかき乱す。
グラハム『今は待て。 好機は必ず訪れる』
シロー「…了解しました」
586 名前:咆哮哀歌 8-4/4 :2010/05/21(金) 10:09:51 ID:???
どれくらいの時が過ぎただろうか。
その攻防はずっと続いていたようでもあり、また、一瞬のようでもあった。
どちらも必倒の一撃を繰り出しながら、それを紙一重でかわし続ける。
その様は、まるで舞踊を思わせ、ある種の美すら感じられた。
ガン!
だが、その均衡はついに破られた。
キンケドゥ『ぐっ!』
“四本足”の一撃により、X1の腰部左フロントアーマー、
股関節部分を守る可動式の装甲部分が外れて脱落したのである。
可動部分だけに脆弱で、実戦ともなれば破損、脱落は珍しくない部分ではあるが、
お互いクリーンヒットを許さなかった攻防の中での、初めての有効打である。
グラハム「これまでか」
それは、僅かなバランスで支えられていた天秤が、大きく傾いた事を意味する。
シロー『…ええ、そうです。 あのペテン野郎!』
だが、シローの声には歓喜の響きがあった。
グラハム「?」
スラスターを吹かし、後退するX1。
それを追う“四本足”。
足を止めるためか、ビームザンバーを投げつけるX1だったが、それは明らかに苦し紛れである。
軽々とそれを飛び越えてやり過ごす“四本足”であった。
が。
キンケドゥ『もらった!』
X1の左腕が、腰部アーマー基部から伸びるチェーンを振るう。
がきっ!
それは、トラバサミのように、“四本足”の後ろ足をX1のシザーアンカーが捕らえた音だった。
グラハム『なんと!』
アーマーは脱落したのではなく、外したのである。
X1の腰部フロントアーマーは、先端に強力なハサミを備えたアンカーでもあったのだ。
キンケドゥ『これなら!』
チェーンを巻き上げながら、バスターガンを構えるX1。
三連射のビームが、“四本足”を貫く。
シロー『やった!』
グラハム『お見事!』
最終更新:2014年08月07日 19:07