283 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 1/13 :2011/05/01(日) 01:41:24.23 ID:???
【―― 奸計】
「どういうことだよ! あの光はサテライトキャノンだろ!?」
「向こうMSの中に
ガンダムDXが居たのは確認していたが、まさか撃ってくるとはな」
「DXだぁ!? ガロードがそんなことする筈がねえ!!」
「取り乱すのは止めろ。味方を失って私も動揺している」
詰め寄るガンダムパイロットの少年に対し、ジャックは悲痛な顔をしてみせた。
ガロードに説明したように、サテライトキャノンに呑まれた輸送船は空である。
だが、友軍であるギュネイやカラトにはその事は伝えていない。デュオも知る由もない。
今オーストラリアを席捲しているブグの部隊は、本来は宇宙に存在している事になっているのだ。
「クソッ……ガロードだってのか……ガロードだってんなら……っ!」
「お、おい!!」
「何かの間違いなんだ! 確かめてくる!!」
自分を止めようとするギュネイの声は、デュオには届いていない。
デュオはジャックが出発するとき、謎のカプセルを持っていた事を気にしていたが
彼が帰還した時、ブグの手にそれが無かった意味を考える余裕を失っていた。
そして、黒いガンダムは激突することになる。
【―― 戦場(2)】
オーストラリアに初めて足を踏み入れたとき、ゼロにはその乾いた赤土が血の色に見えた。
身体の中に滾る血ではなく、流れ出て焼けるように熱い血だ。
そんな嫌な感懐は暫く忘れていたというのに、大地を揺らすMSの駆動音を聞いていると思い出してしまった。
「オォォォオオォ!!」
組み付いたブグを振り払い、海中に蹴り落とす。
ビームサーベルを抜き、ミサイルを横薙ぎに払う。
ビームライフルの照準を合わせ、弾切れに気づいた。
「ちっ……」
ライフルのカードリッジと一緒に、ゼロは口の中に溜まった血を吐き捨てる。
ガンダムMk-II 試作0号機は人間の乗るMSではない。複雑な操作と、コクピットにかかるGはパイロットの神経と肉体を蝕む。
身体能力を強化した人間であるゼロだからこそ、扱える。
だがそれも、ゼロが十全の状態であることが前提だ。
「オマエ達なんかに、ニュータイプであるボクを倒せるものか!!」
哮りをあげ、ゼロは銃爪を弾いた。
彼を無視し、エネルギープラントに侵攻しようとするブグが爆散する。
「このボクを無視して、行こうというのかい! そんなこと、させるかよ!!」
ブッシやディザードザクしか残っておらず、ただ悪戯に撤退に時間を使う友軍に比べ
ゼロのMk-IIはただ一機で戦線を支えていた。
284 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 2/13 :2011/05/01(日) 01:42:16.96 ID:???
「なんだ?」
熱した鉄の糸を歩くような戦いを続けるゼロは、戦場の空気が一瞬変わるのを感じた。
僅かだが、セツルメント国家議会軍の動きが鈍ったのだ。
だがそれはゼロの奮戦によるものではない。それは当事者であるゼロが一番感じている。
「この無機質な殺気はなんだ!!?」
一瞬の停滞、その後にゼロを襲った感覚は巨大な敵の存在だった。
この停滞は戦況に対する反応ではない。戦闘方針の切り替わりによるものだ。
数多の戦場を知るゼロには、それが理解できた。いや、当然か。目の前に新手が現れれば、誰でもそう思う。
「最優先目標ヲ確認スル。機体名・ガンダムMk-II 試作0号機、パイロット・ゼロ=ムラサメ……」
NZ-000クィン・マンサ
最強のNT専用MSが、
強化人間の宿命を背負った少年の前に立ちはだかる。
【―― 激突】
「なんで撃った!!」
「こっちにだって事情があるんだよ!!」
「俺にも言えない事情かよ!!」
「言えるんなら言ってるってんだよ!!」
DXを援護しようとデスサイズHにライフルを向けるガルスJを、ガロードは制する。
しかし、デスサイズHの後ろにはギラドーガとノブッシが既に展開していた。
ゼブラゾーンの住人達は、ガロードの制止を聞かなかった。やらねばやられる。
何より、ガロード自身がサテライトキャノンで火蓋を切ってしまった以上、制止に説得力がない。
「ガロード!!」
「頼む、引いてくれデュオ!! お前と戦いたくねえ!!」
「そりゃコッチの台詞だ!」
ビームライフルの軌跡が乱れる宇宙空間で、デスサイズHはアクティブクロークを広げていない。
それは防御を優先している現れだった。
「コロニーを……ゼブラゾーンのみんなを助ける為なんだ、信じてくれ!」
「ソイツらを助ける為に、アイツが……ゼロの夢が犠牲になっていい訳がねえだろうがよ!!」
ギラドーガのビームマシンガンをガロードが避ける。
ドライセンのトライブレードをデュオが切り捨てる。
戦場で、ただ二人だけが他を傷つけることを躊躇っていた。
「お前が俺の立場なら、信じられるのかよ! 自分達に喧嘩売ってきた俺を!!」
「信じるに決まってんだろ! ダチじゃねえかよ! お前は違うってのかよ、デュオ!!」
「違わねえよ! 今だって、お前のことを信じてらぁ!!」
ガロードは、近づいてきたギラドーガのビームアックスの柄を刈り取り、ブレストランチャーで頭部を破壊する。
デュオは、ガザCのナックルバスターをものともせず弾くと、バスターシールドで上半身と下半身の接続部を貫く。
「けどさ!」
「でもよ!」
「「ここは譲れねえんだぁぁぁぁ!!!!」」
285 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 3/13 :2011/05/01(日) 01:43:21.31 ID:???
【―― 戦場(3)】
背後に回ったクィンマンサのファンネルに、片腕を失ったMk-IIが反応する。
桃色の粒子が漏斗の真ん中を貫き、空中に鉄片を散らす。
だがその瞬間、別のファンネルがMk-IIの頭部を破壊した。
「このボクが……キサマのような雑魚に!!」
クィンマンサの胸部が発光する。メガ粒子砲だ。
ゼロは回避の為にバーニアを噴かした。
だが……
「燃料切れ!?」
ガンダムMk-II 試作0号機の欠点の一つに、稼動時間――継戦能力が低いという事があった。
燃費はいつだってMS開発を悩ませる要因だ。MS戦が行われるようになって戦艦の価値は相対的に低下した。
旧世紀の大戦で航空機に戦艦が為す術もなく敗れたように、MSにとって戦艦はただの的であった。
MSの戦闘区域に戦艦が近づくことは死を意味する。しかしMSの輸送、そして補給の為に戦艦は不可欠であった。
その為、MSの活動時間が長ければ長いほど、戦艦と主戦場との距離を離すことができる。
あるいは補給までの時間が長ければ長いほど、戦力の入れ替えというウィークポイントを減らすことができる。
試作機として予算を度外視して性能を追求したMk-II0号機は、この基本法則に反していた。
「死ぬのか…?」
自分に狙いを定める黄色の光をゼロは茫然と見つけた。
恐怖や無念は確かにある。引きつった情けない笑いが、コクピットの中で反響している。
その一方で不思議と「こんなものだ」とゼロは認められる気がした。
コロニー落としの原体験がそうさせるのかも知れない。
あの時も……人の命は一瞬で消えていったのだから。
『諦めるな!!』
脳に直接響いた男の声は、ゼロを諦観から引きずり上げた。
Mk-IIの脚部を自ら破壊しろ。その爆風でメガ粒子砲の射線から外れるんだ!――男の声が響く。
NT同士の共振……ゼロにも経験がないわけではない。
だがその男の意志は、彼が今まで触れてきた誰の意識よりも健やかで真っ直ぐだった。
「クロス…ボーン……?」
ゼロが視界に捉えたその男は、その男が駆るMSの額には海賊を示す骨十字が在った。
「所属不明機ヲ敵機ト認定。排除スル!」
招かざる客人へ、クィンマンサがファンネルのもてなしを行う。
だがマントを羽織った海賊は、レーザーの雨をモノともせず潜り抜けると、巨大な剣でファンネルの群を砕き薙いだ。
「シナプス、いやアンドル=パークウェスト!!
こんな戦いは終わらせなくちゃならない! じゃないとお前は、彼女の所へ戻れなくなるぞ!!」
286 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 4/13 :2011/05/01(日) 01:44:39.01 ID:???
【―― 兄弟(3)】
ムサカの艦橋で不機嫌に座る上司に、部下は訊ねた。
「出撃しないのですか?」
ギュネイはその自身よりも一回りは年上の男を軽蔑するように見返した。
デップリと太った体型からして、この男は一度もMSに乗った事などないのだろう。
「ミノフスキー粒子が散布された状況で、サテライトキャノンの狙いがついた
それがどういう意味なのか分からないのかよ!?」
「は?」
「ガイドレーザー代わりのMS、あるいは戦闘機が接近していたと考えるべきだろうが!
そいつを叩かない限り、第二射、第三射の可能性があるんだ!
俺がアイザックを出撃させたのを見て分からなかったのか!」
頭ごなしに年下の男に無知を指摘され、部下の男は顔を引きつらせた。
実際、ギュネイの着眼点は悪くない。事実はジャックがガロードに座標を教えたからであるが
断片的な状況から出した答えとすれば及第点であろう。しかし、人の上に立つ者としては落第であった。
シャアやナナイが、ギュネイを抜擢しながらも部署の長としてではなく手元に置くのは
こういう部分を自分たちの近くで矯正させる為であったのだが、ギュネイ本人はそれに気づいてない。
「レーダーに反応!」
「やはり居たな! 照準合わせろ、撃ち落としてやる」
「待って下さい! これはウェイブライダー……MSZ-006Ζガンダムです!?」
「何……? いや、DXがいるならΖガンダムが居てもおかしくない!」
「ですが、信号は中立です。ホワイトフラッグも……通信を要請しています」
ギュネイは暫し考え、通信を許可した。
ムサカのモニターに、Ζガンダムのパイロット・カミーユと黒髪の少女の姿が映る。
黒髪といってもカミーユの幼馴染みであるファ=ユイリィではない。
その少女は、先日ソーラーパネルを盗み出したゼブラゾーンの少女だった。
「戦いをやめろ、ギュネイ=ガス!」
「弟から先に説得したらどうだ?」
頭ごなしに停戦を要求され、ギュネイは苛立つ。
元より、彼はカミーユが好きではない。カミーユが天然のNTであるという事もあるし、
シャアが彼を評価しているということに(本人は認めないだろうが)嫉妬を覚えている。
ただ……カミーユの頬に真っ赤な手形がついてることに触れてやらないのはギュネイの優しさだろう。
「それは仕組まれていた事なんだぞ!」
「仕組まれていた?」
「お前は、人間は宇宙空間に投げ捨てるような人でなしの口車に乗せられて戦っているんだ!
それはいけないことなんだ!! 大尉がお前にそんな事を期待したのかよ!!」
287 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 5/13 :2011/05/01(日) 01:46:44.17 ID:???
【―― 機械】
「なんとぉぉーーー!!」
クロスボーンガンダムの大型スラスターは、木星の高重力化での機動力を確保する為に設計されたものだ。
当然、木星よりも低い重力である地球上でも、その推進力を大いに発揮することができる。
四基のスラスターを自在に使い、常識外の軌道でクィンマンサの巨躯を飛び越えながら、その肩をシーブックは斬りつける。
「反応ガ上ガッタ?! データ修正、攻撃ヲ再開……」
「機械のすることではぁぁーー!!」
メガ粒子砲を潜り抜け、クロスボーンガンダムのビームザンバーがクィンマンサの動力部に袈裟懸けに食い込む。
「マタ反応速度が上昇!? 理解不能! 理解不能!」
「簡単な事だよ。初めは本気じゃなかった。俺の80%をお前は100%だと勘違いした。
そして、90%、100%、120%と力を出す俺に対応することができなかったのさ!!」
「120%ダト!?」
「忘れたのか? 人間ってのは、100%以上の力を出せるんだぜ?」
「何故ダ……?」
「そりゃぁ……」
クロスボーンガンダムのバーニアが青白い光を吹き上げる。
ビームザンバーがクィンマンサの装甲を押し溶かし、その巨大な身体を二つに分けた。
「夢とか誇りとか友情とか……愛とかが、そうさせるんだ」
「愛……?」
「だから、人間は機械なんかに負けはしないのさ」
ヒビ割れた大地に機械の巨人が砂煙を巻き上げ、唸りをあげて沈む。
しかしそれは戦いの終わりを告げる陣太鼓ではなかった。
「何……!?」
赤茶けた崖の上を埋め尽くす無数の褐色の機体。
昆虫から進化したような、異星人を思わせるグロテスクなソレは
しかし何も感じず、何も与えない無機質な二つの目で、シーブックを見下ろしていた。
「戦闘プロ…グラム"シナプス"ノ…インストール…ガ終了シタヨ…ウダ……」
「シナプス? シナプスはお前自身のことじゃないのか!?」
「"シナプス"ハ、"MWレイ"ノ戦…闘プログラムノ、ノ、ノ……」
「クソッ、この機械壊れやがった……ッ!」
MWレイと呼ばれたその機体は、次々を崖を降りシーブック達に迫ってくる。
無機質な機械とはいえ、その行動目的――敵意は明確であった。
「ゼロ、君は下がっているんだ」
「人間は、機械なんかに負けないんだろ? キンケドゥ。
Mk-Ⅱはこんな状態だけど、砲台ぐらいならできる。
感謝しろよ、海賊。このボクが援護してやるんだからな!!」
ゼロの説得を諦めたシーブックは、ビームザンバーを構えた。
シーブックは目の前の大軍と戦う以外の選択肢を考えていない。
自分が受けた依頼は「婚約者を捜して欲しい」なのだ。
シナプスはレイチェルの捜しているアンドルではないのだから。
彼が元に戻る為の方法、それはこのモビルウェポンの先にある――シーブックの海賊としての勘が、そう告げていた。
「いくぞ! 海賊らしく……頂いていく!!」
288 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 6/13 :2011/05/01(日) 01:50:28.56 ID:???
【―― 強敵】
DXのビームライフルが、デスサイズHのアクティブクロークに弾かれる。
四枚の外套を器用に一枚だけ動かして本体への傷を防ぐ。だが、それが一瞬の死角を生み出すことをガロードは熟知している。
スロットルを全開にして、加速Gに耐えながらデスサイズHの懐へと飛び込むガロード。
デュオも自機の特性はガロード以上に理解している。バルカンの牽制を交えながら、DXのビームサーベルを受ける覚悟を決める。
覚悟を決めれば、その衝撃に備えることができる。衝撃に対する動揺を抑えれば、それだけ次の一手が早く打てる。
「肉を切らせてぇ、骨を断つってやつだぁ!!」
接近すればするほど、長柄のツインビームサイズは取り回しが悪く不利になる。
しかしデスサイズHにはバスターシールドというもう一つの刃があった。
シールドからビームを発生させながら拳を叩き上げ、デュオはDXの腰を抉り斬った。
「骨を切らせて内臓殺しぃ!!」
破損により機体バランスを崩したDXだったが、ガロードはそれすら利用して鉄拳をデスサイズHのコクピットにめり込ませる。
予測してない衝撃に、デスサイズHの中のデュオは脳を揺さぶらせられる。
僅かな間、視界がブラックアウトする。その時間が致命的だとデュオは知りすぎる程知っていた。
ビームサーベルを握ったまま、ガロードはデスサイズHの頭部を殴打した。
DXのビームサーベルはナックルガードが付いている為に、邪道ではあるが打撃武器としての使い道がある。
「やってくれるじゃねえか、ガロード!!」
デュオは上部に展開しているアクティブクロークを稼働させ、DXの肩を打擲した。
これも本来の用途とは異なる、想定外の使い方だ。現にアクティブクロークは衝撃に耐えきれずひしゃげている。
しかし、だからこそ奇襲になりえる。
「うぉおらぁぁぁぁあ!!」
「くっ!!」
289 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 7/13 :2011/05/01(日) 02:04:05.95 ID:???
衝撃で互いに弾け飛んだことで二機の間に距離が生まれる。それはツインビームサイズの距離だ。
デスサイズHの二刃の鎌がDXを狙う。
それを防ごうと向けたDXディフェンスプレートは、あえなく両断された。
だが、DX本体がデスサイズHの間合いから逃げ出す時間稼ぎはしてくれたようだ。
漆黒の宇宙を駆け上がるDXを見上げ、デュオは不敵な笑みを浮かべた。
それは強者への尊敬と、それと戦うことに対する高揚の現れだった。
「地球育ちとは思えねえぜ、ガロード!」
無重力空間でのバランス感覚、それは訓練でも中々養うことができない天性のモノだ。
デュオは同じガンダムパイロット達の中で最も宇宙空間での戦闘に優れている。
天賦の才を持ち、さらにその人生の大半を宇宙で過ごしてきたという経歴が、彼にバランス感覚という武器を与えた。
そのデュオにガロードは食らいついている。
ガロードもまた、天に才能を与えられた者であったとしても、デュオとの経験差を埋めたもう一つの要因が必要だ。
それはおそらく、直感力だろう。
生身でMSを相手にするような綱渡りの生き方をしてきた結果かも知れない。同じく、物心ついた時には戦場にいた
トロワがガンダムパイロットの中で最も直感力に優れているように。あるいは、NTの兄弟の中で育った影響かも知れない。
兎に角、ガロードはその類い希な直感力で、デスサイズHのハイパージャマーによる計器の誤差すら埋めてくるのだ。
「へっ……」
ステルス機であるデスサイズHが、メインモニターを破壊されては世話ない。
それもここ二日で二回もだ。厄年なんじゃないかと、デュオは牧師らしく非科学的な事を考えてみたりする。
基本的に口に出そうと出すまいと諧謔に溢れているデュオの性格は、戦場という空間に於いては心に余裕を与える。
これもまた、デュオの才能の一つだろう。
腰部にダメージを受け動きが鈍いDXを、不鮮明なサブカメラの画像で追いながらデュオは操縦桿を握った。
「そういや、ガチで喧嘩したことってなかったよな!!」
291 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 8/13 :2011/05/01(日) 02:06:01.61 ID:???
【―― 介入】
ビームダガーをMWレイの頭部に沈める。
シーブックが撃破したレイの数はこれで17機になる。
しかしそれでもレイの総数から言えば一毫にも満たない。
既に何十機ものレイがシーブックとゼロの防衛ラインを超え(というより無視し)、エネルギープラントへ向かっていた。
ゼロの家族達や、
ネオジオン社やネオジャパンの技術者達はもう既に海へ脱出しただろうか……
シーブックは歯を食いしばりながら考えた。その間にも敵は自分に群がってくる。
既にABCマントはその意味を成さず千切れ消え、クロスボーンガンダムの身体には無数の傷がついている。
「こんのぉぉぉぉ!!!」
やけくそ気味にビームザンバーを振り回す。
レイを2、3機巻き込んだ代償に、無防備になったクロスボーンガンダムは敵の突撃を受け、地を転がった。
「ッ!?」
追撃を仕掛けようとしたレイが、ビームの攻撃を受けて爆散する。
そのビームは、友軍であるゼロがいる方角とは別の方向から発射された。
「無様じゃないかぁぁキンケドゥゥーーーー!!!」
「X2? ザビーネか!?」
「キンケドゥさん、一度撤退して補給を受けて下さい!」
「トビアか!!」
二機の海賊が、地平線を埋め尽くすMWの大群に穴を穿つ。
その穴を広げるように、ビームの雨が戦場に降り注いだ。
「なっ……」
銀色のガンダムの一団が弧を描きながら、クロスボーンガンダムと連携し、レイを破壊していく。
彼らはクロスボーンバンガードの仲間ではない。キンケドゥであるシーブックがその存在を知らないからだ。
彼らの名は――
「僕達はイルミナーティ。平和の番人、影ながら戦いに介入し、闘争の火種を消す者さ」
白鷺を思わせるような細身と鋭角のシルエットのガンダムは、Iセイバー――別名、イリュージョンと呼ばれる機体だ。
そのイリュージョン部隊のリーダー、クロスボーンガンダムのモニターの向こうでサムズアップをしている男
――フィリッペ=サン==シモンこそ、トビア達の依頼人であった。
「モビル・ウェポン計画は続いていた。それは阻止しなければならない。
だが、"どこで"続いているか……それを掴むまでに随分と時間がかかってしまった」
292 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 9/13 :2011/05/01(日) 02:07:16.58 ID:???
【―― 真相】
コロニー落としによって忘れられた大地と化したオーストラリア――…
考えてみれば、これほど秘密実験に適した場所はなかった。
セツルメント国家議会軍は、ここで新型MS・レイの開発と
そのレイに搭載する戦闘プログラムの開発を行っていた。
戦闘プログラムのモデルに選ばれたのは歴戦の軍人であるアンドル=パークウェスト。
しかし、MWは人が操縦しない事を前提とした兵器である。
人に可能な事を機械が行っても、それは既存の兵器を超える事にはならない。
そこでMW計画の責任者であるジャック=ヘイル中佐は、さる凍結されたプロジェクトに目を付けた。
シナプス計画……その目的は機械兵士を完成させること。
人から感情を切り捨て、合理的な判断を下す脳を
人から限界を切り捨て、壊れることのない肉体を
そうして人の枠を超えた兵士は、MWの戦闘プログラムとするのに相応しい存在だった。
一人の軍人を犠牲にし、シナプス―MW計画は狂気をパートナーにステップを踏んでいく。
× × × × ×
計画も佳境に差し掛かった頃、何度目かの模擬戦闘実験での事だ。
「シ、シナプス機、ロストしました!」
「何!?」
プロジェクトの要であるシナプスを見失った彼らは、何度か捜索隊を出した。
シナプスの相手に用意した無人機は破壊されて見つかったが、シナプスとレイの姿はどこにもなかった。
それでも広大なオーストラリアの地を、MS一機で脱出するのは不可能だとジャックは高をくくっていた。
ゼロがオーストラリアにエネルギープラントを作る計画を打ち立てるまでは。
公にできない秘密裏のプロジェクトを理由に、ゼロの計画を妨害することはできない。
結果として、既に量産されプログラムを搭載する段階であったMWレイの工場は隠蔽、封印することにし
エネルギープラント開発にセツルメント国家議会も参加することで、工場の監視とシナプスの探索を続ける事になった。
293 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 10/13 :2011/05/01(日) 02:10:30.47 ID:???
しかし、セツルメント国家議会に割り当てられた区画を幾ら捜してもシナプスの姿を見つけることができなかった。
とすれば、他の区画に存在している可能性が高い。シナプスの乗るレイが発見されたという報告は聞かないが
もし見つかれば世論はセツルメント国家議会を許さないだろう。
ジャックはゼロやネオジオン社、ネオジャパンを排除して、セツルメント国家議会がエネルギープラント開発計画を担う、
あるいは計画自体が頓挫し、彼らがオーストラリアから撤退する……そういう状況を作り出し
オーストラリア全域にMSを動員しても懐疑を受けない状態を作ろうと、シーバルチャーや傭兵を利用してきたが、それも上手く進まなかった。
元より、タカ派のこの男はまどろっこしい事が苦手であり、軍事力でオーストラリアを制圧し、シナプスを確保するべきという考えを持っていた。
シナプスを確保してしまえば、彼のデータを工場で待機しているMWレイにインストールし、その戦力で世論を黙らせることもできる。
それを行わなかったのは、単純に現地の戦力ではネオジオン社とネオジャパンの戦力に敵わないからであった。
× × × × ×
「彼女をジャック=ヘイルは利用したんだ。オーストラリアの守りを薄くする為に!」
「確かにフィルターを盗んだことは悪かったよ! でも他の事は濡れ衣だ! 私達はやってない!」
Ζガンダムのコクピットから告げられた真実に、ギュネイは無言で頷いた。
カミーユの通信と前後して、地上に残った部隊からセツルメント国家議会軍の攻撃を受けたという連絡が入っていた。
ムサカにΖガンダムから送られてきた資料が届く。シナプス―MW計画の全容だ。
それはキラが探り出したものを、カミーユが奪ってきたものだった。
偶然とは恐ろしいものだ。NTの修羅場から逃げ、隠れる為に偶々キラの部屋に転がり込んだカミーユは
そこで弟が妙な事件に首を突っ込んでいるのを目撃した。
シンと並んで兄弟一沸点が低い兄・カミーユに問い糾されて、キラはあっさりとガロードを売った。
「弟には俺からキツく言っておく。だから今は……」
「ふん! お前の弟やそこの女の事なんて構っていられるか! 勝手にしろ」
今から地球に戻っても遅い。だが幸いにして、シナプス-MW計画の頭であるジャックは宇宙にいる。
ギュネイは愛機ヤクトドーガのコクピットへとその身を走らせた。
294 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 11/13 :2011/05/01(日) 02:13:04.93 ID:???
【―― 親友】
ジャック=ヘイルはガンダムが嫌いだ。
それは、彼のかつての部下・マーク=カランがガンダム乗りであるという、そんな子供じみた理由だった。
マークは有能なパイロットだった。大人しく自分の命令を従う駒であったのであれば
自分は今頃もっと上の地位に居ただろうし、マークは自分の片腕として十分な名誉と富を得ていただろう。
それをマークは事あるごとに自分とぶつかった。自分が欲する者をマークは欲しなかった。
だというのに、マークは誰からも愛された。
ジャックはそれが理解できない。正しくは許せないと言うべきだが、その自覚はジャックに無い。
だからジャックは自分の言うことを聞くマーク=カランを欲した。
彼が見るマーク=カランとは、ただのMSの操縦に優れたパイロットであり、それは機械で代用できる筈であった。
今、ジャックの目の前でガンダム同士が戦っている。
マークと同じ、人よりも優れた力を擁しながらも、その力の使い方を知らない愚か者だ。
愚かだから、こうして自分の手の平で転がされ、戦いあっている……ジャックは哄笑した。
「これからはモビルウェポンの時代なんだよ! ガンダムなどは滅びればいい!」
死神と呼ばれたガンダムがツインビームサイズを逆手に構え、加速する。
15年目の亡霊と呼ばれたガンダムがビームサーベルを振りかぶり、突進する。
両者の装甲に剥げていない所などどこにもない。
両者の戦いに手加減など一度もない。
音を介さない真空の宇宙空間であるのに、その二機がぶつかり合う瞬間だけは
二人の少年の咆哮が聞こえた気がした。
「うぉおおぉーーーーーー!!!」
「でやぁぁあぁあぁーーーー!!」
× × × × ×
ガンダム同士の戦いは終わりを迎えた。
ノズルが焼き溶けんばかりに噴かしていたバーニアは停止し、敗者は無重力の海にその身を任せる。
「………はっ」
「………へっ」
ビームの出力を切ったサイズを振り抜いたデスサイズHの姿が、ガロードの前にある。
ビームの出力を切ったサーベルを振り下ろしたDXの姿が、デュオの前にある。
「はっ、ははは……」
「へっ、へへへ……」
最後の瞬間、二人は共に自分が敗者になることを望んだ。
そうして黒いガンダムの戦いは、二人の敗者を生むことで決着したのだった。
「ったくよ、人の善意を無駄にしてくれやがって」
「お前の善意なんて気持ち悪くて受け取れるかっての!」
「その言葉、熨斗つけて返すぜ」
決して自分の役割が間違っているとは思わない。ドブ臭い役をやるために相棒と戦い続けてきた。
それでも、ガロードにならその相棒を壊されてもいいと思った。
決して自分の道が間違っているとは思わない。我が道をただひたすら走ることに疑問はない。
それでも、デュオになら殴られてもいいと思った。
「「お前はそういう奴だからな」」
スッキリとした顔で、悪ガキ二人は笑い合った。
295 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 12/13 :2011/05/01(日) 02:21:16.54 ID:???
【―― 王手】
「なんだ、それはぁ!!」
ブグがDX目がけてサーベルを振るう。
だが、デスサイズHのビームサイズに阻まれる。
「おいおい、不意打ちは卑怯だぜ、ジャックのおっさん」
「悪役は何してもいいんだよ!!」
「デュオ!!」
蹴り飛ばされたデスサイズHを受けとめるDXの姿に、ジャックは唾を吐く。
「敵同士で馴れ合ってるんじゃぁない! どうしてガンダム乗りは俺の言うことを聞かないんだ、ガンダァァアム!!」
「どんなMSに乗ってようと、人質を獲る奴の言うことなんて聞くもんかよ!」
「人質?!」
「あ、ヤバっ……」
口止めされていた事を思いだし、ガロードは慌てて口を押さえる。
ちなみに、昔ガロードもティファを人質にしてたよね?というツッコミは無しだ。無しったら無しである。
「ゼブラゾーンのガキなら、もうとっくに捨ててしまってるんだよ! ハッハッハ!!」
「なっ……テ、テメエ!!」
「犯罪者に人権なんてあるわけないだろう!!」
「お前が決めることかよ!!」
「決めるんだよ! 世界の法は、セツルメント国家議会が決める!」
「それがお前の野心か、ジャック=ヘイル!!」
296 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.03) 13/13 :2011/05/01(日) 02:22:16.01 ID:???
「カ、カミーユ兄?!」
ヤクトドーガを乗せたウェイブライダー、そこから聞こえる声は間違いなく兄の声だった。
それだけでガロードは未来を予知した。修正されると。
カミーユが「宇宙を乱す物の怪め!」だとか「お前の存在そのものが鬱陶しいんだよ!」だとか
言葉の暴力を連打する間、ガロードはこの後どうやってトンズラするかをひたすら考えていた。
「ガンダム兄弟だけにいい格好させるかよ!」
説教タイムに痺れをきらしたギュネイが、なにか死亡フラグっぽいセリフと共にファンネルを飛ばす。
不規則な軌道を描き、ヤクトドーガのファンネルはブグの死角を取るように動き回った。
「ぐっ!」
ジャックは回避を試みるが、三発目を避けたところで被弾、そのまま体勢を立て直せずに嬲られた。
コクピットにビームサーベルを突き付けられ、ジャックは自身の敗北を認めざるをえなくなる。
「これでお終いだな、ジャック中佐。言いたいことがあるなら法廷で話すといい」
「エンディングだと? すでにモビルウェポンは動き出しているんだ!
停止権限は私にある。だが、オーストラリアの基地で直接私が停止命令を行わなければ停止しない仕掛けだ。
指紋、網膜、声紋の三重の照合で私本人だとメインコンピューターが判別してなぁ!!」
地球にジャックを連れてトンボ帰りをしなくてはならない。
しかしゼブラゾーンは地球からは遠すぎた。それに
大気圏突入可能の戦艦、MSを用意する必要がある。
ジャックを押さえれば戦いは終わると踏んでいたギュネイやカミーユは、誤算に頭を抱えた。
「ハッハッハ! 私を捕虜にするならもう少し丁重に扱って貰おうか! いずれガーノー総督が私の身柄を要求するはずだ。
いや、その頃にはガーノー国家議長かな? ふふふ……セツルメント国家議会が地球圏の覇権を握るんだ! わかるか?」
勝ち誇るジャックに、ギュネイはビームサーベルをコクピットにそのまま突き刺したくなる衝動を堪えた。
ここでジャックを殺しても、なんの解決にもならない。
そんなギュネイの様子にジャックは一層気を良くし、スピーカーが通信を拒絶したくなるような気持ちの悪い笑いを続けた。
「オートマチックの戦争をするってことはなぁぁ人の本能を眠らせるってことだろぉがぁ!
そんな考えで、地球圏の覇権なんざ握れるわきゃぁねぇぇだろぉぉぉぁぁぁぁ!!!」
そんなジャックの馬k…高笑いを遮り、突如現れた翡翠色のMSから絶好調な子安ボイスが放たれた。果てしなくウザい。だがそれがいい。
「なっ…」
「ギンガナムのおっさん?!」
「それに……エンジェルハイロゥ!?」
最終更新:2015年02月21日 21:17