「…でぇ、ウッソはいつも、オデロさんの言いなりで、男子に都合のいいように当番表を作ってるんです。
それを知ってる筈のトーマシュ部長はその当番表、そのままファラ先生に提出しちゃうんですよ。酷いと思いません?」
「う~ん…それは少し問題かもしれませんね。お風呂を上がったらウッソに聞いてみないと」
「でしょ?そうなんです!どう考えても女子の…」
妹のマルチナと
ロラン君は相変わらず、園芸部の当番表について話している。
私はその話を聞こうと努力するけど、駄目だった。
どうしても風呂場から響いてくる声。そっちの方が気になって…
今、入浴しているのカミーユ君、ウッソ君、アル君に…
シーブック君だったわよね。
カミーユ=ビタンは中々カッコいいという噂があって、学校の女子の中でも評判が高い。
唯、少し切れ易い性格らしいから、私は少し苦手なタイプかも。
それでも女子には人気があって、交際相手も二股、三股が当たり前だって聞いことがある…。
要するにモテるタイプなのよね。
シーブック=アノーはカミーユ君に比べて、目立つ存在じゃないけど
ぐーたらな男子達の中では珍しく真面目だし、好感は持てる。
そうそう、工科の授業の時、設計図が上手く書けないで困っている私を
シーブック君は親切に教えてくれたっけ…
あの時、普段は女子に対してぶっきらぼうなのに、案外優しいんだ。って思った。
女子からの人気は兄弟のカミーユ君と比べたら全然だけど、私は…。
ま、そんな話、どうでもいいか。
私は目の前に居る妹とロラン君の会話には加わらずに、風呂場から響く声へと集中していた。
「シーブック兄さんの洗い方、優しいから好きですよ。僕」
「そうかい?」
「やだ、やだ。カーミユ兄ちゃんは乱暴なんだもん!」
「うるさいなぁ、観念して頭を出せよ。アル」
シーブック君がウッソ君の。カミーユ君がアル君の頭を洗っているようだ。
なんだろう?…ドキドキしてきた。声を聞いてるだけなのに。
157 名前:エリシャとお風呂と投稿日:03/10/19 02:14 ID:???
風呂場からの声がハッキリと聞こえてくる。
ウッソ君とアル君の頭は洗い終わったみたい。ってなに、チェックしてるんだろう…私は。
「カミーユ、俺の頭、洗ってくれないかな?」
「いいよ」
シーブック君がカミーユ君に頭を洗ってくれ、って…頼んでるの!?
駄目、駄目。そんなの……だ、大体そんな事を男同士でして…あんまり良くないわよ。
や、兄弟だとアリかな?…いやいや、駄目、駄目。余計に怪しいわよ!
「シーブックは意外に髪質柔らかいんだよな…」
「そうかな?」
「そうだよ。アルみたいな剛毛の癖っ毛はガシガシ洗わないと汚れが落ちないけどさ
シーブックのは優しく洗わないと。髪の毛、痛み易いもんな」
「アルの癖っ毛はアムロ兄さん譲りだもんな、俺らのとは違い過ぎるよ。アルの頭を洗うみたいに痛くしないでくれよ」
「ああ、任せとけって」
……ごくり
「痒いところとか、ない?」
「うなじを…そこ、もう少し強くてもイイかな」
「こうか?」
「うん…あ、もう少し強くてもいいよ」
「少し、ちから入れるぞ」
「うん、そんな感じで…うっ」
「あ、御免。痛かった?」
「あ、いや…目にシャンプーが少し…もう大丈夫だよ」
……わ、私は何を期待して、風呂場の会話を聞いているのだろう?
158 名前:エリシャとお風呂と投稿日:03/10/19 02:17 ID:???
「兄さん、僕達、先に出てます。アルも出るんだよ」
「うん」
これはウッソ君とアル君の声?…って事は、この二人がお風呂から出ると
今、お風呂場に居るのはカミーユ君とシーブック君の……二人っきりになるわね。
ふ、二人っきり!?…きょ、兄弟だし、別に不味くはない?…のかな。
でもでも、兄弟だからこそ、不味いって事とか無いの?…ああ、何がなんだか、段々分らなくなってきた。
「なぁ、シーブック?お前さ。なんか、逞しくなったよな?」
「そうか?」
「腕とか、少し筋肉ついたんじゃないか?」
「カロッゾさんの店でバイトしてるからね。パン屋ってさ、生地こねたり、重いモノ運んだり、これでも案外と力使うんだぜ」
「胸とか、肩とか、前よりも全体的に逞しくなってる気がするよ。ほら」
「触んなよぉ!くすぐったいなぁ」
「いいだろ?別に…ホレホレ」
「あっ…もう、カミーユッ!!止めろってぇ。放せよぉ!」
「シーブックはさ、昔っから…こことか、弱いよなぁ。っと!」
「あ!?止めろ…ま、マジでぇ…ハハハハッ!くすぐったいんだってぇばぁ!…ハハハハッ…止めろってぇ!」
風呂場からは水の跳ねる音と、カミーユ君の意地悪そうな声と
シーブック君の泣くような笑い声とが…聞こえてきて
私は身体全身がかぁ~っと、ノボせていくような、それに似た感覚を味わう…。
「あっ!エリシャさん、大変だぁ…」
「えっ?…ロラン君、何?」
ロラン君は
私を見て驚いている。何で?…あれ?ロラン君は慌てて私にテッシュ箱を差し出してる。
「さぁ、これで。抑えて」
訳が分からず呆然としていると…
「姉さん。鼻血、鼻血出てる!」
妹の指摘で気付いて、鼻の下を指で拭うと、掌に真っ赤な血がついている…。
ポタ、ポタ…と赤い血の雫が、私の鼻から畳へと垂れていくのが見える。
え、待ってよ。これ?
私、鼻血を?………嘘、嫌だぁ!! ど、どど…どうしよう。
159 名前:エリシャとお風呂と投稿日:03/10/19 02:18 ID:???
私は鼻血を止める為に慌ただしく鼻にテッシュを詰め、手や服についた血を拭いた。
今の私は恥ずかしさと動揺が凄い速度で身体全身を駆け巡っている。
最初、ウッソ君の声が聞こえて…それからアル君とカミーユ君とシーブック君の声も聞こえてきて
兄弟一緒にお風呂に入ってるのが分って、シーブック君とカミーユ君、二人っきりの…その…
その様子を聞いている私が鼻血を流した!?
それって……最低。もう駄目だ。帰ろう。そうだ、帰らないと。もうここには居られない。
「マルチナ!か、帰るわよ!」
「え、姉さん?…私、未だウッソに話が…」
「いいから、来なさい!ほら、早く…。ロラン君、お邪魔しました」
「あの…エリシャさん。暫くは動かない方が…」
「あ、大丈夫。平気ですから…。いくわよ!マルチナ」
グズる妹の腕を引っ張り、私達は居間から廊下へと出た。
すると、廊下を駆け抜けてきたウッソ君とアル君にぶつかってしまう。
「こら!アル!!身体拭かないと風邪引くんだぞぉ!寒くなってきたんだから!!」
「平気だよぉ~」
ウッソ君とアル君。二人とも全裸だ…
「あ、御免なさい!…って、あれ?エリシャさんに、マルチナさん!?」
風呂上りで全裸のウッソ君は弟のアル君を追うのを止めて、立ち止まると
廊下でぶつかった私達に、咄嗟に謝った訳だけど…。逆に私と妹が自分の家に居ることに驚いていた。
「いやだぁ!ウッソのオチンチン………プッ」
マルチナは目を反らしながらも見るモノはハッキリと見ているようだ。
「そんなぁ…そんなのってぇ……僕のを見て、笑うなんて…そんなのおかしいですよぉ!!」
ウッソ君は両手でで下半身を隠すと、泣きながら階段を登り、二階へと消えていった。
160 名前:エリシャとお風呂と投稿日:03/10/19 02:24 ID:???
私は妹の腕を引っ張ると廊下を、玄関を目指し…あれ?…こっちは玄関の方じゃない…
目の前の床を見ると無造作に投げられた衣服、数人分の下着やらなにやらが積み重なっている。これ、洗濯物?
もしかして……私は風呂場の前に立っている?
私は自分でも何処に向かって進んでいるか分らないまま、風呂場の前まで廊下を歩いていた事になる。
「ウッソ、五月蝿いぞ。静かにしろ」
「何の騒ぎだよ。全く…」
風呂場のドアが開いて、私の目の前にシーブック君が姿を表した……
「……ん!?」
「あ……」
私は風呂上りの……全身に水が滴り落ちている、その…ぜ、全裸の…シーブック君と目が合ってしまった。
時間にすると三秒ほど、いや…二秒だろうか?もっと長く感じたけど…
互いに睨めっこ続けた後、私は自分の鼻に詰めていたテッシュを吹き飛ばすような勢いで…鼻血を噴射させた。
「姉さん?」
「エリシャさん!!」
「おい!?しっかりしろよ…」
目の前が真っ暗になり、私は深く暗闇の中へと深く落ちていく……。
それからどれぐらいの時間が経っただろう?冷たい、なにかが肌に触れている。
微かだけど、誰か…女の人の声が聞こえてきた。
「大丈夫、ただの貧血みたいね。他は問題はないわ」
「すいません、セイラさん。お休みのところ、呼んじゃって…」
「アムロ、これで貸し一つね」
「今度、食事を奢りますよ」
「フフッ…冗談よ。アムロには兄さんのことで、色々と迷惑をかけているから…これ位は、ね。なんでもないわ。
もう大丈夫みたいだから私は帰りますけど…。この子をゆっくりと休ませてあげてね」
その会話のやりとりを聞いたあと、私は又、眠りに落ちる……。
目が覚めると私は布団を敷いて寝ていた。未だ視界がぼやけている。ここは…何処だろう?
周りを見回してみると、私の寝ている布団の横には妹とロラン君の姿が見えた。
「……マルチナ?…ロラン…君?」
「あ、姉さん!やっと起きた。もぅ、心配したんだから…」
「キラ、エリシャさんが起きたって、アムロ兄さんに伝えて下さい」
「うん。分かったよ」
私は風呂場の前の廊下で、裸の…シーブック君と鉢合わせると
鼻血を吹き、貧血をおこして倒れてしまったんだとか……。
その晩遅く、私と妹は『
ガンダム兄弟』長男のアムロ=レイさんが手配してくれたタクシーに乗って帰宅した。
今日のことは記憶から消したい。今までの人生の中でも最悪な夜になってしまった。
(続く)
最終更新:2018年12月03日 11:54