710 名前:メリークリスマス!1/14 :2011/12/25(日) 10:53:42.62 ID:???
投下します


‐‐‐‐‐


12月24日―――
師走……夕暮れ時の寒空の中、日登町商店街は大勢の人で賑わいを見せていた。

まず目につくのは辺り一面に彩られた光のイルミネーション。
青。緑。赤。黄色。色とりどりに飾られた光たちが、
街を普段と異なる表情に変えていた。

次に目を引くのは、その中を歩く人の多さ。
そしてその大半が、男女一組のカップル達なのであった。
今日は聖なる夜――クリスマス・イヴ。
誰が決めたのかは知らないが、恋人同士が仲を深め合う特別な日である。

街中がそんな甘い空気に満たされる中、カップルを避けつつ独り歩く男がいた。

コウ「この空間は……地獄だ」

コウ・ウラキ・G、19歳独身。ガンダム家の五男にしてラグビー部のエース。恋人は……
コウ「それ以上言うな!」

寒い――色んな意味で寒過ぎる。
世間一般はクリスマス。年頃の青年がその中を一人で歩くというのは
それなりに辛いものがある。

「ねーねー今の人見た?」
「見た見た!クリスマスなのに一人って可哀想だよなー」
カップルとすれ違うたび、そんな会話をされているような気さえする。

コウ「くっ……!今日がクリスマスだと気づいていればレポートは後日にしたのに……」
後悔先に立たず。シナプス教授へのレポート提出を思い出したコウは、
外出後に街の異変に気がついた。

コウ「あぁ……寒いなあ……」
独り言をつぶやくコウの背中には、19歳とは思えない哀愁が漂っていた……

711 名前:メリークリスマス!2/14 :2011/12/25(日) 10:56:04.21 ID:???
同時刻、とある会堂にて。

平和に対しての講話を終えた後、少女が少年の姿を探していた。

リリーナ「ヒイロ、どこに行ったのかしら……」

リリーナ・ドーリアン。
平和を唱え世界をまわる外務次官は、仕事が終われば一人の少女へと戻る。
彼女が探しているのはいつも無愛想かつ無口な少年だった。

ドロシー「ヒイロ・ユイは外務次官護衛として来ているはずですわ」
リリーナ「先程の講話中、会堂2階の通路に姿があったのだけれど……」
ドロシー「まったく……リリーナ様を無事にご自宅まで護衛するのがプリベンターの
仕事ですのに」
リリーナ「仕方ありません。ドロシー、自宅までよろしくお願いします」
ドロシー「はい。どうぞお乗りあそばせ」

名残惜しそうに辺りを見回すと、リリーナは秘書の車へと乗り込む。
会堂前の通りは綺麗にライトアップされ、家族連れやカップルで賑わっていた。
せっかくのクリスマスなのに……リリーナの瞳は少し寂しげであった。

ドロシー「ヒイロ・ユイと共に過ごしたかったのでしょう?」
リリーナ「あ……いえ、そんなことは……」
ドロシー「私の目は誤魔化せませんわ。リリーナ様のお顔にそう書いてありますもの」
リリーナ「えっ……?」
ドロシー「クリスマス・イヴですもの。やはり聖夜は素敵な殿方と過ごしたいでしょう?」
リリーナ「わ、私とヒイロはそんな関係じゃ……やめてください」
ドロシー「うふふっ」

これ以上からかうのは控えておこう――秘書はそう思い頬を緩ませた。

窓の外では、雪が振り始めていた。

712 名前:メリークリスマス!3/14 :2011/12/25(日) 10:58:55.03 ID:???
帰路についてから数分、リリーナは運転席のドロシーに声をかけた。

リリーナ「あ……ちょっと停めてください」
ドロシー「どうかなされましたの?」
リリーナ「あれは……」

リリーナの目に映ったのは、ちらちら舞う雪の中一人歩く青年の姿だった。
見覚えある姿である。それはリリーナも良く知るヒイロ・ユイの兄だったから。
窓を開け、青年に声をかけた。

リリーナ「コウさん?」
コウ「え?」

振り向いたのは間違いなくヒイロの兄、コウ・ウラキであった。
周りには人も多く、普段ならばその姿に気がつかなかっただろう。
だがリリーナがコウに気づいたのは、こんな日に一人歩く姿が異彩を放っていたからである。

リリーナ「お久しぶりです、リリーナ・ドーリアンです」
コウ「ああ、ヒイロの……あれ?今日はヒイロと一緒じゃないの?」
リリーナ「いいえ……途中までは私の護衛として、いたのですけれど」
コウ「そうか……」
リリーナ「お帰りですか?」
コウ「ああ、今大学の帰りさ」

リリーナは少し間を置いて言った。
リリーナ「それでしたら、一緒に乗って行かれます?」
コウ「え?いや、それは……」
リリーナ「今日は冷えますし、雪も舞ってきましたから。ドロシー、いいですか?」
ドロシー「ええ、ガンダム家ならば通り道ですわ。是非お乗りくださいまし」
コウ「じゃ……じゃあ、お言葉に甘えて……」

確かに独り歩くのは辛かった。いつもならば少し引いてしまう金色リムジンに乗ったのも、
今日が12月24日という日付だったからに違いない……

713 名前:メリークリスマス!4/14 :2011/12/25(日) 11:01:30.45 ID:???
リリーナ「……すごい人の数ですね」
コウ「ああ……」
リリーナ「やはり今日がクリスマス・イヴだからでしょうか」
コウ「駅前なんか、カップルだらけでまともに歩けなかったよ」
リリーナ「まあ!……ところでコウさんは、今日はお一人ですか?」

ピシッ!
無垢なリリーナの一言が、車の暖房で暖まりかけていたコウの身体を再び凍らせた。

コウ「あ……ああ……まあね」
リリーナ「やはりイヴの日と言うのは、恋人が共にあるべき日なのかしら……」
コウ「い、いや!必ずそう決まってる訳じゃないから!」
リリーナ「ですが……」
ドロシー「リリーナ様、元々クリスマスはイエス・キリストの降誕祭。
家族で過ごすのが普通で、恋人同士で過ごす習慣があるのはネオジャパン位ですわ」
コウ「そ、そうそう!だから一人だっておかしくないんだって!」

半ば自分に言い聞かせるようにコウは言った。

コウ「ほ……ほら!イルミネーションがキレイだなあ!」
リリーナ「まぁ……綺麗……」
コウ(ほっ……)

上手く(?)話題を逸らせたことにコウは内心安堵した。
リリーナは窓に張り付くようにして外の光景に見とれている。
そこは、町の光を一面に見渡せる丘だった。

ドロシー「リリーナ様、少し降りて見ていかれたらいかがでしょう?」
リリーナ「え?でも……コウさんが……」
コウ「あ……俺は構わないよ。ロランには遅くなるかもって言ってあるし」
リリーナ「では、少しだけ……」
ドロシー「コウさんもご一緒すればよろしくて?」
コウ「え……俺は待って……」
ドロシー「リリーナ様お一人では少々危険ですわ。よろしくお願い致します」

714 名前:メリークリスマス!5/14 :2011/12/25(日) 11:03:53.03 ID:???
ロアビィ「まいどありー」

花を一束購入したヒイロはリリーナの待つ会堂へと急いだ。
クリスマス・イヴ。普段外務次官として忙しいリリーナをねぎらうため、
サプライズとして花束を渡すつもりだった。

計画は完璧だった。リリーナ1600時、講話終了。1650時に自宅へ向かう。
現在1636時。会堂までの時間は3分。
ヒイロの計画では、帰宅までの間に花束をドロシーの送迎車後部座席に手紙とともに設置する
予定であった。

だが。

ヒイロ「リリーナ?どこだ……」

会堂からはリリーナの姿も、送迎車の姿も消えていた。
おかしい。予定ではあと10分は待機しているはずだ。
ヒイロが花屋へ行くために抜け出したのは1602時。プリベンターとして護衛を努めた後である。

会堂内はもうすでに誰もおらず整然としていた。
会堂管理人に話を聞けば、送迎車は1630時に出て行ったという。

ヒイロ(リリーナはスケジュールを必ず守る。多少のズレはあるかも知れないが……
しかし20分も早く帰宅するとは……何か緊急の任務でも入ったのか……?)

ヒイロは知らなかった。本来の予定では1630時で間違いないことを。
そして、ヒイロに20分遅れで予定を伝え計画を歪めたのが、リリーナの父――
ドーリアン氏だと言うことを……

ドーリアン「今日はイヴだからな。まあ、娘に近づく悪い虫を追い払っただけだよ。ハハハ」
パーガン「少々やり過ぎでは……」

715 名前:メリークリスマス!6/14 :2011/12/25(日) 11:06:39.22 ID:???
町中に比べて、比較的に人通りの少ない場所に2つの影が。

レイン「ドモン!今日はクリスマス・イヴよ」
ドモン「俺には関係ない。年末ガンダムファイトに向けて修行しなくちゃならないんだ」
レイン「今日くらいいいじゃないの」
ドモン「まったく……クリスマスがなんだっていう……ん?」
レイン「?」

いつもの調子で歩くドモンの目についたのは、見慣れた弟の姿だった。

レイン「ドモンの弟よね?」
ドモン「コウだ……だが」
レイン「隣にいるのは誰かしら……女の子みたいね」
ドモン「ほう……?」
ドモンの口の端がニヤッと笑う。

ドモン「なるほど……そうか、コウもやっと……」
レイン「クリスマス・イヴに女の子と2人……」
ドモン「どーれ、少しからかってやるとするか」
レイン「ちょっと!邪魔しちゃ駄目よ!」

介入しようとするドモンをレインがたしなめる。

ドモン「ならば……後を着けよう」
レイン(あれ?修行は?)
イルミネーションを見ながら歩くコウとリリーナ。
それを気付かれないよう尾行するドモンとレイン。

知り合いに忍者がいると、自然と身につくのだろうか。
2人の身のこなしは完璧だった。
一定の距離を置きながら、完全に気を消してついていく。

「あれ?何してんの?」

コウ達に気を取られていた2人に、突然声がかけられた。

716 名前:メリークリスマス!7/14 :2011/12/25(日) 11:09:20.62 ID:???
ガロード「ドモン兄とレインさんじゃんか」
ティファ「こんばんは……」ペコリ
レイン「あら、こんばんは」
ドモン「なんだ、脅かすな」
ガロード「何してんのさ」
レイン「ちょっとね……」
ドモン「静かに!あれを見ろ」
ドモンが指さした先には、街の光の中で楽しそうに会話しつつ歩く男女。

ガロード「コウ兄じゃん。なんでコソコソしてんのさ?」
ティファ「……リリーナさん」
ガロード「なんだって!?」
ドモン「リリーナ・ドーリアンといえば外務次官だ」
ガロード「それにヒイロの……」
ドモン「ああ。そして今日はクリスマス・イヴだ。これが意味するものは――」
4人は顔を見合わせた。

ガロード「……コレ、ヒイロは知ってんのかな……」
ドモン「さあな。近くにヒイロの気配は感じない」
レイン「と言うことは、やっぱり……」
ティファ「……でも、2人ともそういう関係には見えません」

そして。

カミーユ「あれ?ドモン兄さんにガロード?なにやって……」
ドモン「カミーユまで!?静かにしろ!実はかくかくしかじかで――」
カミーユ「面白そうじゃないですか。俺も行きますよ」

さらに。

シーブック「ん?ドモン兄さn」
ドモン「静かにしろと言っている!実は――」

またまた。

シン「あ」
ジュドー「ドモn」
ドモン「どっから湧いてきた!?見つかるだろうが!」

コウとリリーナ追跡部隊は大所帯となった。

717 名前:メリークリスマス!8/14 :2011/12/25(日) 11:12:30.13 ID:???
リリーナ「綺麗ですね」
コウ「ああ、これもみんな頑張って飾り付けたんだろうなあ……」

好奇心のままに光を見てまわるリリーナの後を、ある程度離れてコウがついていく。

コウ「このイルミネーション、電球がないな……どういう仕組みなんだろう?」
物そのものより中身に考えが行ってしまうのはコウの癖である。
そうして街中を歩き回るうち、あっという間に30分の時間が過ぎていた。

コウ「えっと、時間……大丈夫?」
コウが時計を見ながらたずねる。

リリーナ「あら!もうこんな時間……」
コウ「そろそろ戻ろうか?」
リリーナ「そうですね。もう少し……」

リリーナは周りを見渡して、
リリーナ「そこの公園で、休憩していきませんか?」
コウ「そうだね、ちょっと歩き疲れたかな」

2人が公園に入る。リリーナがベンチに座るとコウは、
コウ「座ってて。俺、ちょっとそこの自販機に行ってくるから」
リリーナ「はい」

‐‐‐‐‐

ドモン「公園に入ったぞ」
カミーユ「まさか、セッ」ファ「………」(冷ややかな視線)

カミーユ「………」
シーブック「なんとぉ!?(俺は10年かかるのに!)」
セシリー「流石ガンダム家の男性……」
シン「まさか!たぶん休憩だろう」
ジュドー「でも、こんなとこヒイロ兄に見られたら……」
ガロード「ヤバいぞ!自爆どころじゃなく街が吹っ飛びかねない……」

718 名前:メリークリスマス!9/14 :2011/12/25(日) 11:14:43.09 ID:???
ヒイロは街中を探しまわっていた。
ゼクスに聞けば、妹は未だに帰っていないという。

ゼクス「リリーナを見失うとは……ヒイロ、一体何をしていた!」
ヒイロ「すまない。これは俺のミスだ」
ゼクス「リリーナの身に何か起きれば……」
ヒイロ「分かっている」

同時に、折角クリスマスパーティーの準備をしていたのにという愚痴も聞かされたが……

リリーナの予定は把握していた。
講話後は自宅へ帰り、家族でささやかな晩餐をするはずだった。
だからこそヒイロは、花束を用意し渡すことのみにしたのである。

だが、時間もすれ違い家にも帰っていないとなれば、不安にもなってくる。

ヒイロ「教えてくれ五飛、リリーナは一体どこにいる?ゼロは俺に何も言ってはくれない……」
五飛「知らん。この店には来ていないぞ」
サイ・サイシー「もし見かけたらすぐに連絡するよ」

‐‐‐‐‐

トビア「……そういえば配達の途中で、それらしい人を見たなあ」
ヒイロ「場所は?」
トビア「少し行った所にちょっとした丘があるでしょ?そこだよ」
ヒイロ「分かった。感謝する」

聞き込みの成果もあり、リリーナのいる場所が大体判明してきた。
気になるのは、彼女は誰か他の人間と一緒に行動しているという情報だ。
話を聞く限り、秘書のドロシーではないようである。

情報にあった位置に向かおうとした、その時――

「……アンタはヒイロ・ユイだね?」

ヒイロに声をかける者がいた。

719 名前:メリークリスマス!10/14 :2011/12/25(日) 11:17:18.55 ID:???
ヒイロ「……シーマ・ガラハウか」
シーマ「おや、私の名前を覚えてくれてたのかい」

振り返ると、一人のバb……女性が凛として立っていた。

ヒイロ「何の用だ。俺は今急いでいる」
シーマ「まあそう言わずに、ちょっと話を聞いとくれよ」
ヒイロ「………」
シーマ「たぶん、アンタが探してるものの居所を知ってるのさ」
ヒイロ「!!」
シーマ「そして聞きたいことがある
ヒイロ「なんだ?」
シーマ「まあとりあえず、私についといで」

そう言い放ってシーマは歩きだす。警戒しながらも後を追うヒイロ。

そして数分歩くと、広めの公園が見えてきた。

シーマ「ここだよ。あれを見な」

その指をさした先には、ベンチに座って会話をしている一組のカップルがいた。

ヒイロ「!!!」
人一倍視力の良いヒイロだが、この時ばかりは自分の目を疑った。
リリーナを発見し安心したと同時に、隣に座る人物を見て驚愕する。

ヒイロ「……一体どういうことだ?」
シーマ「それはこっちのセリフさね」
ヒイロ「何故コウ兄さんが……」
シーマ「リリーナ・ドーリアン……アンタの彼女だろ?なんでコウと一緒にいるのさ」
ヒイロ「………」
シーマ「折角のクリスマス・イヴだ。コウに飯の一つでもおごってやろうとしたらどうだい?
やっと見つけたと思ったらこのザマだよ。アンタ何か知ってるんだろう?」
ヒイロ「……分からない」
シーマ「分からないって、今日は何の日か分かっているのかい?
こんな日に男女で出歩くなんて理由は決まってるんだよ」

720 名前:メリークリスマス!11/14 :2011/12/25(日) 11:19:52.32 ID:???
ドモン「おいお前ら押すな!」
ジュドー「んなこと言っても」
シン「隠れる場所が……」
カミーユ「茂みの中じゃ」
シーブック「狭い……」

コウとリリーナが座るベンチの後ろで、ガサゴソ鳴る茂み。

レイン「なんか、いい雰囲気になってるわねぇ」
ティファ「そうでしょうか……」
セシリー「なんだか、ドラマチックね」
ファ「いいなぁ……」
マユ「もしかして、キスとかしちゃうのかなあ」
ステラ「チュウ!ステラもシンとチュウするの!」
シン「ちょ!ステラ近いから!」
ガロード「シッ!誰か来たぞ……」
ドモン「あれは……ヒイロだ!」

『!!!』

‐‐‐‐‐

リリーナ「コーヒー、ごちそうさまでした」
コウ「ああ、車で送ってもらうんだし、お礼じゃないけど」
リリーナ「そろそろ行きましょうか」
コウ「そうだね……ん?」
リリーナ「どうかなされましたか?」

2人に近づく少年がいた。
辺りが暗くてよく見えないが、その小柄なシルエットは間違いない。

リリーナ「……ヒイロ!」
コウ「ヒイロ、どうしたんだ?」
ヒイロ「……リリーナ、コウ兄さん。一体こんな所で何をしている」
コウ「何をって……俺たちは……」

物静かな声。
落ち着いているように見えるが、その中に何かの感情を含んでいることにコウは気付く。

コウ「ヒイロ、何か怒ってないか?」
ヒイロ「怒ってなどいない。何をしていたのか聞いただけだ」
リリーナ「ヒイロこそ、どこに行っていたの?私探したのに……」

721 名前:メリークリスマス!12/14 :2011/12/25(日) 11:21:14.69 ID:???
ヒイロ「リリーナ、何故早く会堂を出た?帰宅は1650時だったはずだ」
リリーナ「えっ……?予定では16時30分だったはずだけど……」
ヒイロ「なに!?」
リリーナ「ヒイロこそ、何故会堂にいなかったの?」
ヒイロ「それは……」

会堂を抜け出して花を買いに言ったとは素直に言えず、ヒイロは言葉に詰まった。

コウ「俺はただ、大学から一人で歩いてたところで声をかけられたんだよ」
リリーナ「一人では寒いでしょうから、送って差し上げるつもりだったの」
ヒイロ「……だが、車はどこだ」
コウ「それなら……くっ!?」

コウの背筋に悪寒が走る。何か嫌な予感が……

シーマ「コオォォウ!」
コウ「ひぃっ!」

いきなり目の前に現れた者に腰を抜かすコウ。

コウ「しししシーマさん!なんでここにッ!?」
シーマ「私というものがありながら、デートだなんていい度胸じゃあないか」
コウ「ちっ違います!たまたま会っただけでっ」

その時。
「わっ押すな!」「ちょ!」「うわぁ!」「きゃあ!」
ドドドドドド……

『!!?』

近くの茂みから、悲鳴とともに人が溢れだす。
コウとリリーナを追跡していた御一行様である。

コウ「みんな!?どうしてここに!?」
ジュドー「ちょ、ちょっとね」
ガロード「へへへ……」
ドモン「街をたまたま歩いてたら、たまたまみんなに会ったんだ」
シーブック「コウ兄さん!抜けがけなんて!」
セシリー「シーブック、落ち着いて」

コウ「もしかして……俺たちをずっとつけてたのか?」
リリーナ「まあ!」


722 名前:メリークリスマス!13/14 :2011/12/25(日) 11:23:18.36 ID:???
その時だった。

「リリーナ様~!」

公園の外の停められた金色の車から、一人の女性が駆けつける。

リリーナ「ドロシー!」
ドロシー「リリーナ様、お待たせ致しましたわ」
リリーナ「いいえ、こちらこそ……」
コウ「どこか行ってたんですか?」
ドロシー「ええ。少しお買い物に」

よく見れば、車のトランクから買い物袋が溢れんばかりに顔を出している。

コウ(まさか、買い物行きたいが為に俺たちを降ろしたのか!?)
ドロシー「イルミネーションは楽しめましたかしら?」
リリーナ「ええ。とっても綺麗でした」
ドロシー「それは良かったですわね。コウさんも、リリーナ様の護衛に感謝致します」
コウ「いや、俺は何もしてないけど……」
ドロシー「さ、リリーナ様。お父様がお待ちかねですわ」
リリーナ「分かりました。参りましょう……コウさんは?」
コウ「あ、俺は大丈夫だよ。家はもうすぐだし、雪もやんだから」
リリーナ「そうですか。……今日は私の勝手に付き合わせてしまってごめんなさい」
コウ「ハハ、いいんだ。どうせ暇だったからね」

ジュドー「……なんだ、デートじゃなかったのね」
ガロード「なんか拍子抜けしちゃったよ」
シン「まあコウ兄さん、そういうキャラじゃないしなあ」
コウ「……おまえら、聞こえてるぞ」

リリーナ「ヒイロも……」

リリーナは名を呼ぼうとして振り返る。

しかし、少年は既にその場から消えていたのであった。

コウ「あれ?ヒイロどこ行ったんだ?」
リリーナ「ふふっ」

723 名前:メリークリスマス!14/14 :2011/12/25(日) 11:24:46.53 ID:???
リリーナ「では皆さん、ごきげんよう」

一同に会釈すると、リリーナは車に乗り込んだ。

ドロシー「では、ご自宅に向かいますわ」
リリーナ「はい。よろしくお願いします……あら?」

リリーナの座る後部座席の脇に、一つの花束が置いてあった。

リリーナ「これも、ドロシーが買ってきたのですか?」
ドロシー「え?いいえ、私は存じあげませんが……」

リボンで束ねられた色とりどりの花は、先程まで見ていた光のページェントを彷彿とさせる。
そしてその隣に、一枚のカードが控え目に添えてあった。

リリーナはカードを手に取り、眺める。

『 Merry X'mas 』

リリーナ「………」
リリーナはそっと静かに、カードをポケットへと入れた――


‐‐‐‐‐

場所は戻って。

コウ「ふう……ま、こんなクリスマスもアリかな……」

公園のベンチ。リア充どもも散り散りになり、コウは再び一人になった。

しかし、何か忘れている気がする……

シーマ「私だよ!」
コウ「うわっ忘れてた!……てかどっから出てきたんですか!?」
シーマ「さあてコウ。今日はクリスマス・イヴ、夜は始まったばかりさね」
コウ「あー……えっと……今日は用事が……」
シーマ「何を言ってんだい?帰ってもマスかく位しかないんだろう?
今夜はたっぷりと、大人の女ってやつを見せてやるよ……」
コウ「ちょ」
シーマ「さあ行くよ!こんなとこでグダグダしてる暇はない!」

シーマはコウの襟元を掴むと、闇の中へと引きずってゆく。

シーマ「今夜は寝かせないからね……覚悟しな!」
コウ「シーマさん待っtうわああぁぁぁぁ……」


コウの叫び声が、闇へと消えていくのであった――

合掌。






おしまい

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最終更新:2015年05月12日 21:50